Coolier - 新生・東方創想話

橋姫騒動

2010/10/03 20:12:12
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幻想郷の地下に広がる、地底世界。
入り口からある程度進んだ場所に、地上と地下を繋ぐ橋が存在している。
その橋には嫉妬を操る妖怪、水橋パルスィが番人として住んでいた。
「最近、地上に行く奴が増えたわね…」
少し前までは、渡る者の途絶えた橋と呼ばれるほど渡る者は少なかったこの橋だが、
地底での異変があってから、渡る者が増えていた。
今までは地底から出なかった妖怪達が、地上に出るようになったからだ。
「自分達から地底に住む事を決めたくせに…」
そんな光景を眺めて、パルスィは、ここしばらくずっと一人悪態をつく日々が続いている。
それには渡る者が増えた事よりも、もっと大きな理由があった。
「大体、地上なんかのどこが……」
「いよっ、パルスィ!今日もお勤め、ご苦労さん」
相変わらず愚痴を呟いていると、突然後ろから声を掛けられる。
無駄に元気一杯の明るい声で、パルスィには誰なのかがすぐに分かった。
「…あぁ、勇儀。また地上に行くのね」
振り返りながら、少し不機嫌そうに返事をする。
勇儀と呼ばれた女性は、長身と額に生えた赤い一本角、長い金色の髪が特徴的だった。
彼女も妖怪であり、幻想郷でも最強と謳われた鬼の一人である。
「萃香の奴に誘われてねぇ。パルスィも一緒に来るかい?」
パルスィの様子に気付いているのかいないのか、普段と変わらない調子で誘ってくる。
彼女はいつも、パルスィが頷かないのを分かっていながら、それでも誘おうとするのだ。
わざわざ自分を地上へ連れ出そうとする勇儀の考えが、パルスィには理解できなかった。
「行く訳ないでしょ、地上なんて…大体、私は呼ばれていないのよ」
そう、いつもの様に断るとパルスィはそのまま立ち去ろうとする。
「それくらい、気にする奴らじゃない…が、そう言うんなら仕方ないか。無理につき合わせる訳にも行かないしね」
予想通りの答えを聞いて、勇儀は一瞬だけ寂しげな表情を見せた。
だが、パルスィはすぐに顔を逸らしたため、その時の勇儀の表情に気づいてはいない。
「分かったらさっさと行きなさいよ。こんな所で私と話してたって、仕方ないでしょ」
そういうと、これ以上話す気はないといった様子でパルスィは去っていく。
声を掛ける事が出来ず、勇儀はその後姿をただ見送るだけしか出来なかった。
「…やっぱり難しいね、パルスィは…」
少しだけ落ち込んでいた勇儀だったが、すぐに気持ちを切り替えて、
「けど、次こそは…!」
と、新たな闘志を燃やすのだった。

勇儀と別れて家に帰ってきたパルスィは、そのまま横になって最近の事を振り返る。
思い浮かぶのは、勇儀の事ばかりだった。
「…勇儀のバカ……」
本当は、あんな態度を取って勇儀に嫌われてしまうのが、何よりも恐ろしかった。
出来る事なら、以前のように普通に会話して、仲良くしたいと思っていた。
しかし、パルスィの心にある不安や不満、そして嫉妬がそれを許さないのだ。
「どうして、どうして地上なんかに行ったりするのよ…どうして…」
布団を被って、ずっとそんな事を呟き続ける。
気付くと、いつの間にか涙が溢れていた。
「それもこれも、全部あいつらの所為よ…私の大切な人を奪った奴らが妬ましい…!」
勇儀に対して、そして地上にいる者達に対して、ひたすら咒詛を込めて怨み言を言い続ける。
次第にその感情は、悲しみや不安から怒りへと変わっていく。
そしていつしか、パルスィの心に小さな狂気が住み着いた。
「こうなったら、どうなったって構うもんか…宴会なんか、私が滅茶苦茶にしてやる…!」
布団から這い出て、ゆらり、と立ち上がる。
こうしている間にも、勇儀は地上の者達と仲良くなっている、そう思うと居ても立ってもいられなかった。
何としてでも自分の大切な人を、勇儀を取り返さなくてはならない。
そう決意した時、彼女自身も信じられないくらいに、自身に妖気と殺気が入り混じり凄まじい威圧感を放っていた。
そしてパルスィは、地上へ向けて歩き出したのだった。

橋から地上までの道中にいた、釣瓶落としのキスメが何かの気配を感じ、脅えて桶の中に隠れた。
その様子に、一緒にいた黒谷ヤマメがいち早く気付いて問いかける。
「ん?どうしたんだい、キスメ?」
「凄く…危険な感じ……怖い……」
桶に隠れたまま問いに答えると、そのまま天井の方へと上がっていく。
ヤマメも彼女との付き合いは長いため、それだけで大体の事は分かっていた。
しかし、この地底にそこまで危険を感じる相手など、ヤマメには見当もつかない。
仮に居たとしても、地上に向かう事は先ずないだろう。
「ん、あれはパルスィ…?珍しいねぇ、こっちに来るなんて」
遠くの方に、見知った友人の姿を見つけて声を掛けようとする。
この辺りにキスメが危険を感じる相手がいるのなら、それを伝えてやった方が良いと判断したからだ。
「まぁいいか、それよりも危険が潜んでるなら教えてあげないと……うわっ!?」
声を掛けに行こうとした瞬間、天井に上がっていたキスメが降りてきて、ヤマメを抱えて天井まで連れて行った。
普段の様子とは違うキスメに、戸惑いを隠せなかった。
「ど、どうしたんだい、キスメ?パルスィにも伝えてやらないと…」
そう言って振り解こうとするが、離さない様にしっかり抱えられていて抜け出す事は出来なかった。
「違うの……危険な感じ…パルスィから、する……」
完全に脅えきっていながら、なんとかそれだけを伝えるとキスメはヤマメにしがみつくように抱きついた。
キスメの小さな身体が、恐怖でガタガタと震えている。
「パルスィから…?どういう事……っ!?」
下を見ると、丁度通り過ぎようとしていたパルスィの姿が見えた。
それを見た瞬間、キスメの言っていた意味を理解する。
明らかに普段と様子が違い、ヤマメも恐怖で動けなくなるほどだった。
やがて通り過ぎると、パルスィが向かった先を不安そうに見つめる。
「一体、何があったって言うんだい…?」
友人のあまりの変貌ぶりを目の当たりにし、ヤマメは戸惑うばかりで、
キスメは何も言えず、桶の中でガタガタと震えているだけだった。

パルスィが地上に向かっている頃、博麗神社では既に宴会の真っ只中だった。
当然その中には勇儀もいて、萃香達と呑んでいる。
しかしパルスィの事をまだ引きずっていたのか、心の底から宴会を楽しめてはいなかった。
「ぷはぁ~っ…ん~?どうしたんだい勇儀ぃ、今日はあんまり呑んでなくないかい?」
一升瓶を一気飲みした萃香が、勇儀の様子がおかしい事にいち早く気づき、何があったのかと問いただす。
一緒に呑んでいた神奈子や霊夢も、そういえば、と勇儀の方を見る。
珍しい事に、勇儀の酒を呑んでいる量は普段より圧倒的に少なかった。
「あんたにしては珍しいわね、いつもならバカみたいに呑んでるのに」
「まったくだ、らしくないねぇ」
三人に問いただされ、隠す訳にも行かず勇儀が口を開く。
元々、嘘が嫌いで苦手な性質上、隠し通す事など出来るはずもなかった。
「あ、あー、いやその…実は、友人の事でちょっとね……」
「うわーっ!?アリスとパチュリーが暴れだしたっ!?」
そう言い掛けた途端、別の場所で飲んでいた魔理沙の悲鳴が聞こえてくる。
どうせ酔っ払って騒いでいるだけだろう、と思いつつ霊夢達が魔理沙の方を見た。
魔理沙がアリスとパチュリーに追いかけられている、見慣れた光景だったが、霊夢・勇儀・萃香の三人は違和感を感じていた。
「はっはっは、まったくいつも賑やかだねぇ、あの三人は」
気付いていない神奈子や他の参加者達は、気にする事もなく宴会を再開する。
「れ、鈴仙が、鈴仙が壊れたーっ!?」
すると今度は永遠亭の面々が呑んでいた場所から、悲鳴が聞こえてきた。
しかし、以前酔っ払った時の鈴仙を知っている者ばかりだった為、誰も気に止めなかった。
「さ、咲夜、落ち着きなさいっ!」
更に続いて、紅魔館の面々が呑んでいる場所でも悲鳴が聞こえる。
声の主がレミリアで、更におかしくなったのが咲夜だと聞いて、他の者達もこれは只事ではないと思い始めた。
「今日の宴会、どうにも様子が変ね…それに、私の勘が妖怪の仕業だって言ってるわ」
「あぁ、宴会を荒らすとは許せないねぇ…犯人をとっ捕まえて、しっかり反省させようじゃないか」
そう言うと気合を入れて、霊夢と萃香が立ち上がる。
この二人が同時に動くとなれば、いかなる妖怪の仕業であってもすぐに片がつくだろう。
「これは、間違いなく……けど、何でだ…?」
その様子を見て、勇儀は焦りを感じる。
最初にアリスとパチュリーが暴れだした時から、勇儀には犯人の予想がついていた。
しかしそれは、勇儀からすれば信じられない人物であり、そんな事をする理由も思いつかない。
「…いや…もしかしたら…!」
勇儀にとって思い当たる事はなくても、知らぬ間に何かしていたかも知れない、と思いなおす。
いくら腕っ節の強さに自信がある勇儀でも、それが及ばない事ではあまりに無力だったからだ。
犯人が霊夢と萃香に見つかったら、きっとただでは済まないだろう。そう思った勇儀は、二人が動き出すより先に行動を起こしていた。
「うわっ!?」
「勇儀、どうしたんだい!?」
二人とも勇儀が動くとは思っていなかったため、戸惑ってしまう。
しかしそれを気にする事なく、勇儀はその力の出所に向かっていく。
「二人より先に私が見つけて、止めさせないと…!」
それよりかなり遅れて、二人も揃って勇儀の駆けていった後を追いかけていた。

神社の周りに広がる林の中に、パルスィは潜んでいた。
宴会を行っている神社からは距離があるが、彼女の能力は問題なく機能しているようだった。
「ふふ…このまま、何もかも滅茶苦茶になっちゃえば良いのよ…!」
もっと荒らしてやろうと、更に力を強くして嫉妬を操り増幅させていく。
強い力を使うという事は力の出所が分かりやすくなり、発見される可能性も高まる。
妖力にも限界はあるため、このまま無理に行使し続けたら、しばらくは力も使えなくなってしまうだろう。
しかし怒りと狂気に駆られたパルスィは、そんな事を気にする事もなく力を使い続けた。
「ダメねぇ、貴女。おイタが過ぎるわ」
突然聞こえてきた声に驚き、パルスィは能力の使用を中断して辺りを見回す。
しかしどれだけ気配を探ろうと、何者かがいるようには感じられなかった。
「だ、誰!?姿を見せなさい!」
そう呼びかけると、不意に何もない空間から腕が生えてきてパルスィを捕まえる。
パルスィよりも圧倒的に妖力が強い妖怪の姿を感じて、身動きが取れなくなってしまう。
「呼ばれて飛び出て…ふふふ。貴女が犯人ね、嫉妬狂いの橋姫さん」
その声と共に、パルスィの正面の何もない空間から、口元に扇子を当てた女性が現れた。
俗にスキマ妖怪と呼ばれる、八雲紫だ。
「くっ、は、離しなさいっ…!」
なんとか抜け出そうとするが、力の差は歴然であり抜け出す事ができない。
それどころか、力を使いすぎていたパルスィは意識を保つのがやっとの状態だ。
必死で抵抗しようとするパルスィの姿を嘲笑うように、紫はその様子を眺めていた。
「ちょっとくらいなら見逃すつもりでしたが…貴方はやり過ぎた。大人しく、仕置きを…」
「パルスィーっ!」
力の出所を辿っていた勇儀が、パルスィに呼びかける声が聞こえてきた。
その声から、勇儀がどれだけ必死にパルスィを探しているかが分かる。
「む…邪魔が入ったわね。わざわざアレと争うのも面倒だし…後は霊夢達に任せるとしましょう」
そう言うと、紫はスキマを開いてその中へと消えていった。
それから程なくして、勇儀がパルスィの元にやってくる。
「パルスィ!よかった、まだ二人には見つかっていないようだね」
林の木々を掻き分けて来た勇儀は、パルスィの姿を見てほっと胸を撫で下ろした。
「ゆ…勇…儀…」
か細い声でそう言うと、その場に崩れ落ちてしまう。
「大丈夫か、パルスィ?色々と聞きたい事はあるが…それはお前さんが元気になってからだね」
そういって抱きかかえると、そのまま地底の入り口に向かおうとする。
早く休ませてやりたかったし、何よりこんなに痛々しい姿を見ているのが辛かったからだ。
しかしそこに、追いついてきた萃香と霊夢が現れた。
「ようやく追いついた…ん、そいつは…」
「あぁ、地底の異変でも遭遇した橋姫だぁね。やっぱりこいつが犯人だったようだ」
そう言って萃香が勇儀に抱えられているパルスィを見る。
肝心のパルスィは限界だった事と、勇儀に会えて安心したからか、既に気を失っていた。
「よく捕まえたね、勇儀。連れて帰って、たっぷりお仕置きしてあげなきゃいけないもんねぇ」
当然、勇儀もこちら側だろうと思っている萃香が、パルスィを引き渡すように言った。
しかしそれに反して、勇儀は木の根元にパルスィを寝かせると、二人と対峙する。
「二人にゃ悪いが…そういう訳にも行かないんだ」
勇儀は二人を見据えたまま構えを取り、力付くでも阻止するという意思を示す。
「どういう事だい、勇儀?そんな妖怪の肩を持つのかい?」
「あぁ、私の大事な奴なんでね。悪いがこればっかりは、引き下がる訳には行かない…力づくでも、通らせてもらう!」
そういって睨み合う二人は、正に一触即発といった感じで周りの空気が張り詰める。
しかしそれはほんの少しの間で、あっさりと破られた。
「えぇいっ、やめんかっ、アンタ達は!」
今まで蚊帳の外になっていた霊夢が二人の間に割って入り、怒鳴りつけたからだ。
「どいてよ霊夢、そこに犯人がいるんだよ?」
「うっさい。見りゃ分かるでしょ、それどころじゃない事くらい」
萃香の発言を一蹴して、霊夢がパルスィを指す。
未だに気を失ったままで、目を覚ます気配はなかった。
「それに、ここでアンタ達が暴れたら周りにまで被害が出て、宴会どころじゃなくなるわよ?」
「うぐ…わ、分かったよぅ」
そう言われて、萃香は渋々といった様子で霊夢に従う。
幻想郷最強の鬼であっても、霊夢には敵わないようだった。
それを見て勇儀も同様に構えをとくと、再びパルスィを抱きかかえる。
「よろしい。さて、じゃあどうするかだけど…」
霊夢はパルスィと勇儀の様子を見ながら、軽く思案する。
理由を聞くにしても、当事者は気絶していて話を聞く事は出来そうに無いのは明らかだった。
「悪いのはこっちなんだ、パルスィを引き渡す以外ならなんだってしよう」
とっくに覚悟を決めている様で、勇儀が霊夢をしっかりと見据えて言った。
それに対して霊夢は、
「とりあえず、後で事情を説明してくれりゃそれで良いわ。それとちゃんと謝る事…ついでにお酒か何かでも持ってきなさいな」
と、それだけの条件を出したのだった。
萃香は少し不満そうであったが、特に口出しする事はなかった。
「分かった、約束しよう」
「よし、んじゃさっさと休ませてあげなさい。後の事は上手くやっとくわ」
勇儀の返事を聞いて満足そうに、霊夢は踵を返してその場を立ち去った。
「あっ、待ってよ霊夢っ!」
一度だけ振り返って勇儀の様子を見た後、去っていく霊夢を追って萃香もその場を立ち去っていく。
「…借りが出来ちまったね。ありがとう、霊夢…」
二人が去った後にそう呟くと、勇儀はパルスィを抱えて急いで地底へと向かった。

気絶してから数日が過ぎて、ようやくパルスィが目を覚ます。
相当長い間眠っていたらしく、その間ずっと見ていた夢を思い出そうとする。
それは優しくて暖かい、懐かしい気持ちを感じられるものだったが、どんな夢だったのかは思い出せなかった。
思い出すのを止めてよろよろと起き上がって周りを見渡すと、どうやら自分の家の寝室にいるらしい事が分かる。
既に夜の時間帯だったようで、部屋全体が薄暗く視界が悪い。
「うぅ、ん…そうだ、私はあの時気を失って……つっ!?」
自分が気を失う前に何をしていたのかを思いだそうとしていると、足の辺りに何かが刺さってチクッとした痛みを感じる。
何か尖ったものがあるらしく、暗闇に慣れてきた目を凝らして確認する。
それはどうやら角のようで、パルスィにとって見慣れたものでもあった。
「勇儀…?」
「うぅ……ん…?」
小さく名前を呼ぶと、その声に気付いて眠っていたらしい勇儀が起き上がる。
少し寝惚けているのか、しばらく目の前の状況を確認していた。
そしてようやく、パルスィが起きている事に気づくと、思いっきりパルスィを抱きしめた。
「パルスィ、気がついたんだな!よかった、もう起きないんじゃないかと私は心配で心配で…」
そういって抱きしめている勇儀は、本人が加減はしていても結構な力がかかっている。
更に体格の差もあって、パルスィの顔が丁度勇儀の胸に押し付けられる状態となっていた。
「んむっ、んーっ、く、くるひいっ、いたいいたいっ…!」
その状況を楽しむ余裕もなく、とにかく苦しいため必死で勇儀を押し返そうとするなどして、それを知らせる。
どうやら伝わったようで、パルスィを開放すると頭をかきながら申し訳なさそうに言った。
「あぁっと、ごめんごめん…嬉しくてついね、いや申し訳ない…」
その言葉に少し赤くなりながら、パルスィが尋ねる。
「ま、まったく…い、いや、それより、もしかしてずっと……?」
「あぁ、気絶してから起きるまでずっと、パルスィの傍にいたよ。一人で寝かせておくなんて、できないだろ?」
小さなランプに火を灯しながら、勇儀が答える。
光が広がって辺りが見えるようになると、看病に使ったのであろう物が周りに落ちているのが分かった。
慣れないながらも、必死に看病しようとしていたのだろう。
「そ、そうなの…ありがとう、勇儀……」
それが何よりも嬉しく、笑顔で礼を言った。こんな風に自然に笑ったのは、久しぶりだと感じた。
勇儀はその姿に安堵していたが、暫くすると真面目な口調で、パルスィに尋ねてきた。
「…それで、パルスィ。……どうして、あんな事をしたんだい?」
ようやく目が覚めたパルスィに、すぐに聞くのは酷かもしれないとは思ったが、先延ばしにする訳にもいかない。
それが分かっていたから、少し落ち着いてきたところで尋ねる事にしたのだ。
「そ、それは……その…」
叱られる事に脅える子供の様になったパルスィを、じっと見据えて言葉を待つ。
暫く迷っていたが、観念したのか、躊躇いがちに話し始めた。
勇儀が頻繁に地上へ行くようになり、数日帰ってこなかった事。
自分以外の誰かと、地上で楽しそうに過ごしている事。
勇儀が嬉しそうに、地上での出来事を語る事。
他にも色々な事が積み重なり、パルスィは不安と妬ましさで押し潰されそうになっていた事。
「それに……勇儀が、このまま地底から出て行って…地上に住む様になるんじゃないかって思ったら……」
言うと同時に、その事を想像してしまって泣き出しそうな表情になる。
それまで黙って聞いていた勇儀が、再びパルスィを抱きしめた。
「…ごめんな、パルスィ……そんな風に思ってる事に、気付いてやれなくて…ごめんな…」
何度も謝りながら、優しくパルスィを撫でてやる。
その目には、少し涙か浮かんでいるようにも見えた。
「けどな…私は絶対、お前の事を置いて地上に住んだりはしない。絶対に…ね」
子どもをあやすような優しい声で、勇儀が言った。
「…本当に…?」
不安そうに勇儀を見つめて、尋ねる。
それでも勇儀は、しっかりパルスィの目を見て、
「あぁ、本当だ。私が嘘をつくわけないだろう?だから、安心してくれ、パルスィ」
と、力強い声で勇儀が答える。
その言葉を聞いて安心したのか、パルスィは嬉しそうに微笑んで勇儀に抱きつく。
鬼は嘘を嫌い、その中でも勇儀は特に嫌っている方だった。
だからこそ、勇儀は嘘を付く事はないし、約束した事は必ず守る。
それを知っているからこそ、その言葉を聞いて安心できるのだ。
「よしよし…明日になったら、霊夢達に謝りに行くぞ。いいね、パルスィ?」
「ん…わ、分かったわ…」
地上に行くのは不安だったが、謝りにいく必要があるので、仕方なく頷く。
しかしそれでも、勇儀が一緒なら大丈夫、パルスィはそう思うのだった。

そして翌日、二人は博麗神社に来ていた。
宴会での一件について、一通り説明を終えると霊夢はパルスィへの罰を考える。
別にそんな事も必要ない気はしていたが、それでは萃香がうるさいだろうと思ったからだ。
「…ま、理由は大体分かったわ。んで、どうするかだけど…」
そこで霊夢は言葉を切り、パルスィの様子を見る。
頭を下げたままで、表情は伺えなかったが反省している様子は見て取れた。
「…そうね。罰として、今日の宴会の準備と、後片付けを手伝いなさい」
「そんな事で良いのかい?」
想像以上に軽い罰だったため、思わず勇儀が聞き返す。
「別にあれで宴会が中止になった訳でもないし。それとも何、もっと厳しくしろって?」
そう霊夢にいわれて、慌てて勇儀は首を振って否定する。
パルスィが酷い目に遭うのも嫌だったし、それくらいで済むのなら安いものだった。
「あ、もちろん二人とも宴会は強制参加ね」
と、霊夢が付け足す。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、私も出るの!?」
ついさっきまで黙って聞いていたパルスィが、慌てて尋ね返した。
「後片付けもするんだから、当然でしょ?参加しなきゃ、終わったかどうか分からないじゃない」
至極最もな事を言われ、パルスィも反論は出来なかった。
お酒が飲めない訳ではないが、人が多く集まる場所をパルスィは苦手としている。
人が多ければその分妬みの種も増える事になり、気分が良くないからだ。
「仕方ないな、罰なんだし…大丈夫だって、私もいるんだ」
勇儀は嬉しそうな様子で、パルスィの頭を撫でていた。
少なくとも宴会に集まる連中なら、パルスィの事を嫌ったりはしないだろうと思っているからだ。
そう思ったからこそ、何度もパルスィに一緒に宴会に行かないかと誘っていたのだった。
「な、なんでアンタはそんなに嬉しそうなのよ…あぁもう、分かったわよ、出れば良いんでしょ!」
ほとんどヤケになりながらも、宴会に参加する事を了承する。
勇儀は、これがパルスィに良い影響を与えてくれる事を祈った。
「それじゃ、早速準備を始めるわよ」
霊夢が立ち上がり、早速二人に指示を出すと準備を開始する。
二人も指示された通りに、準備を開始するのだった。

普段より人手が多かったため、思ったより早く宴会の準備は整っていた。
まだ宴会が始まるまで時間はあるはずだが、既に少しずつ参加者がやって来ている。
「んー、相変わらず宴会の時はよく集まるねぇ」
「こんなに参加者が多くて、慕われている巫女が妬ましいわ…」
感心する勇儀と違い、パルスィは相変わらず妬んでいるようだった。
「ほら、そんな事言って無いで私らも行こうじゃないか」
その様子に勇儀は少し困りながらも、パルスィの手を引いて宴会場に行こうとする。
しかしパルスィは、まだ踏ん切りがつかないのか動こうとはしなかった。
「ま、待ってよ、勇儀…やっぱり私は、ここで大人しくしとくわ」
いざ参加するとなると、さすがに躊躇ってしまうようだった。
こういう事は慣れていないし、何より自分の能力を知れば嫌われると考えているからだ。
「そう言わずにほら、行くよ?大丈夫だって、私がついてる。…それとも、私は頼りないかい?」
「そ、そんな事はないけど…私の能力はこんなのだし…」
勇儀の言葉を否定するが、それでもまだ弱気なパルスィは決心がつかなかった。
そんなパルスィを見て、諭すように勇儀が言う。
「いいかい、パルスィ。確かに妬みってのは、あんま良い顔されないかもしれない。
でもね、相手の事を妬ましく思うって事は、それが相手の長所、良い所だからだろう?
だったらさ、その能力は、初めて会った相手の良い所を見つけられる、良い能力じゃないか」
そして勇儀がパルスィの頭を少し乱暴に撫でると、思わずパルスィは吹き出してしまった。
「何、それ…ふふっ…無茶苦茶言うわね…」
「わ、笑う事はないだろ、私だってこれでも考えて…」
さすがの勇儀も恥ずかしいのか、真っ赤になりながら顔を逸らす。
それは普段の勇儀と違って、少し可愛く見えた。
「ご、ごめんごめん…でも、そうね…少し気が楽になったわ、ありがと」
まだ少し笑いながらも、パルスィが謝罪と励ましてくれた礼を言う。
すっかり余計な力も抜けているようで、もう大丈夫に思えた。
「そ、それより、さっさと行かないと始まっちまうよ。ほらっ、行くよ!」
照れ隠しもあるのだろうが、パルスィの手を取って促してくる。
今度はパルスィも、嫌がったりする事はなかった。
「ん…まぁ、こういうのもたまには悪くないわね…」
そう呟くと、勇儀に手を引かれて宴会場へと向かうのだった。
という訳で、久々に書いてみました。
勇儀とパルスィの組み合わせは個人的に好きです。
ちょっと後ろ向きなパルスィを前向きな勇儀が引っ張っていくような感じが。
自分のSSではあまり表現できてませんが、まぁそれはそれという事で…
秋朱音
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コメント



0.790簡易評価
12.100名前が無い程度の能力削除
パルスィかわいいよ。