Coolier - 新生・東方創想話

快傑!ナズーリン!

2010/10/02 19:41:29
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ナズ寅改め、ナズ星ベースです。やや甘口、脱線コメディです。
拙の前作の設定を引いておりますが、まぁ、さほどのものではありません。
手前勝手な設定があり、一部不快な表現もあります。ご了承いただけたらどうぞ。





「おまえをこの館に招いた覚えはないんだけれど?」

私、レミリア・スカーレットが魔眼で睨みつけても霧雨魔理沙は怯む様子もない。

「困ったときにはお互い様だろ?力になってやるぜ」

態度のデカさは相変わらずだ。
本来のゲストであるアリス・マーガトロイドは逆に小さくなっている。

「ごめんなさいね。出掛け際に会っちゃって、どこへ行くのかとしつこかったから、
結局、全部しゃべっちゃった。そしたら一緒に行くってきかなくて。
本当にごめんなさい」

えらく恐縮しているけど、まぁ彼女の【オマケ】は予想の範囲内だし。
それでも少しは釘を刺しておかないと。

「おまえに構っている暇はないが、大人しくしているなら見逃してやる」

「おうさ、私は大人だからな」

そう言って、へへへと笑う。
この【オマケ】はまったく。

「なんにせよ、よく来てくれたわねアリス、じきにもう一人の客人も来るでしょう。
話はまとめてするわ。暫らく寛いでいてちょうだい。咲夜、お茶を」

言い終わった直後には良い香りの紅茶が人数分現れた。

なんだ、暇はあるじゃないか、そう言った魔理沙をアリスが小声で窘めている。

私、咲夜、アリス、魔理沙の四人。

ここは紅魔館の、数ある応接間のうちの一つ。
大きな窓があるのはこの部屋だけだったと思う。
何せ広いのだ、この館は。
私たちは日の光を取り込むための【窓】にはあまり興味はないが、
一般の客をもてなすには一番良い部屋だと思っている。
それに今宵は満月、今はこの窓から昇り始めた豊月がよく見えている。

軽いノック。

「お嬢様、お客様をお通しいたします」

あらかじめ美鈴やメイドたちには、今回の客人は即座に通すよう、言ってある。

開いた扉から入ってきたのは、やけにデカい女だった。

ウチの門番といい勝負だ。
袖も裾も長い、ゆったりとした東洋風の衣装、黄色と黒の斑の髪、柔和な目元だが、
容易くは屈しないだろう強い意志を秘めた金色の瞳。十分に整った顔立ちと、
歩く姿には品があり、単なる【美人】では括りきれない何かを持っている。

「皆様、お初にお目もじつかまつります。私、寅丸星と申します」

そう言って、深々と頭を下げた。張りのあるアルト、良い声だ。
頭に咲いている花が気にはなったが。

しかし、招いたのは彼女ではない。
私の不審気な表情を見ても寅丸星は怯まなかった。

「招かれざる客であることは承知の上です。しかしながらっ」

妙なタイミングで台詞を断ち、我々の背後に目線を移した。

「あっ!あれは何だ!」

芝居がかった仕草で皆の背後にある窓を指さす。
私を含めた全員が振り返る。

【バンッ!】 窓が開いた。

月光をバックにしたシルエットは小柄な人影。


『天が呼ぶ!地が呼ぶ!ヒトが呼ぶ!妖(あやかし)にだって呼ばれちゃう!

大事なものをなくしたら、どんなコだって悲しいもん!

困った時には呼んでごらん!?

愛と正義のミラクルダウザー!!

快傑っ!ナズーーリン!!

キュウトに、けっんっざーーん!!』

折れ曲がった棒を振り回しながら、なにやらキンキン声で叫んでいる。

『とうっ!』

窓辺から跳ね上がり、一回転してほとんど音も無くフロアに降り立った。
そこで、ニッコリ笑い、右手で折れ曲がった棒を突き出しながら、

『さあっ!あなたの探し物はなあに!? 言ってごらーん?』

そしてウインク一発。


「キャーッ!ナズーリーン!ステキーッ!カッコイイー!!!」

寅丸星ひとりが手を打ってはしゃいでいた。






なるほど、これが【ドン引き】と言う状況なのね。
話には聞いていたが、これほどイタイとは。

当のナズーリンとやらは、部屋の隅で寅丸星に抱かれてぐしぐし泣いている。

【だから嫌だっていったのに】とか【こんな恥ずかしい思いは生まれて初めて】
とか【やるんじゃなかった】とか、小声で繰り返している。

一方、寅丸は【貴方は悪くない】とか【ほんとうに素敵でした】とか
【いつか時代が】には【そんな時代絶対こない】と突っ込みが入ったりとかしていたが、
【今夜は一緒にお風呂】とか【明日は一日中手をつないで】とかのあたりから
ナズーリンの嗚咽がおさまった。


「レンズを忘れてきてしまったよ。ご主人、一っ飛び、取ってきてもらえないか?
私の文机の上にあるはずだ」

「レンズ?虫メガネのことですね?おやすいご用ですよ」

「ご主人に遣いをさせてしまうとは、無様な従者だが、その間に状況を確認して
おくからよろしく頼む」

「いいんですよ。頑張ってくださいね」

抱擁の解き際に頬にキスをする寅丸。
なんだかイラッときた。

「そのようなわけですので、一旦、失礼させていただきますね。皆さん、
ナズーリンをよろしくお願いします」

ニコニコ顔で頭を下げて退出していった。

残されたナズーリンは、我々に背を向けたままだ。
尻尾が力なく揺れている。
手拭いで顔をこすっているようだ。
深呼吸を三つほど。

こちらに向き直る。

「色々と騒ぎだてして申し訳ない。改めて名乗らせていただく。私がナズーリンだ」

口調も改まり、なかなか凛々しい表情だ。
先ほどの痴態、べそっかきを、無理矢理振り出しに戻そうとしている。 
目と鼻が真っ赤なので、少し残念ね。

「そちらにおられる咲夜どのを通じてのお召しにより、まかりこした。
探しものがおありと聞いている。状況は如何に?」

先ほどとは別人のようだ。
己の能力への自信と、実績を十分に感じさせる。
こちらが本来の彼女の姿なのだろう。

【レンズ】とやらも、あの寅丸を退出させる方便だろうか。

「貴方も大変ね。あんな主に仕えなければならないのだから」

「待ってくれ。レミリアどの、今の発言は訂正していただきたい」

意外なほど強い口調で窘められた。

「我が主、寅丸星は些か思い込みが激しく、うっかりミスも多いが、それでも
生涯をかけて仕えるに足る人物だ。
私、ナズーリンの生は彼女を中心に回っている。
私の基本行動は【寅丸星】ありき、なのだ。
彼女を愚弄するなら相応の報いを受けてもらうことになるよ」

迷いの無い、断固たる言葉。
このちっぽけなネズミ妖怪が、この私に対し、なんと大それたことを言うのだろう。
それなのに、この迫力はなんだ、命をも懸けようとする覚悟がビンビンと伝わってくる。
それほどにあの主人が大事なのか。
ウチの咲夜の【本気】に並ぶほどの勢いだ。

ここはその忠誠心に敬意を表してやろうか。

「分かったわ。今の発言は取り消させていただく、すまなかったわね」

私の言葉に魔法使い二人が目を丸くしている。
まぁ、私が謝るなんて、滅多に無いことだし。

私の謝罪に対し、ナズーリンは、軽く会釈を返しただけで何も言わなかった。

これほど克己した彼女が、なぜあのような痴態をさらす羽目になったのか。
なにやら深い理由がありそうで興味をそそられるが、今はもっと大切なことがある。

「それでは説明をお願いしたい」

「そうだぜ、レミリア、早く話してみろよ。せっかく【快傑ナズーリン】さんが
来てくれたんだからさ」

その呼び方が、癇に障ったのだろう、魔理沙を睨みつけるナズーリン。
それはそうだ、忘れて欲しいはずだ。
魔理沙のことだ、わざと言ったに違いない、ニヤニヤしているし。

「その呼び方はやめてもらいたいのだがね」

ふふん、と流したお転婆娘、後で泣いても知らないわよ。

面子が揃ったのだから説明を始めるのは私の役目だ。

「では聞いてもらいましょう。私の妹、フランドールのことなの。
昨日、フランに会ったときに気づいたの。あのコの羽根の飾りが欠けていることに」

「フランの羽根の飾りって、宝石みたいなのがたくさんついているアレか?」

少し神妙な顔になった魔理沙の指摘に頷く。
この娘はフランがすすんで会話をする数少ない知人の一人だった。

「どうしたのかと問うてみても、【あら、本当。気がつかなかった】と言うばかり」

「うーん、そもそもアレってどうやってくっついているんだ?
直接生えているにしちゃ、付け根のところが曖昧だよな?」

「曖昧って?」

魔理沙の隣に座っているアリスが、覗き込むようにして尋ねる。

「ああ、果物が生っているところを想像しろよ。羽根の【フレーム】が枝で、
【宝石】が実だとしたら、繋がっている部分はハッキリしているはずだろ?
フランのその【部分】はガッチリくっついてはいないんだ。
少し離れているんだよ。その隙間に【力】の存在は感じるが、性質は全く分からない」

私は魔理沙の観察力に内心驚いていた。
魔法使いとは、かくも良く【観ている】ものなのか。

「私は良く【観た】ことはないから分からないけど、宙に浮いているように見えるなら、
何らかの魔力で接合しているってことよね」

アリスの指摘も正しいと思う。
期待以上に考察が進みそうね。
ならば情報を小出しにすることに利は一つも無い、急いで追加しよう。

「フランの羽根は一族の歴史をひもといても、他に例が無いの。
これまでに石の羽根や青銅の羽根を持っていたモノの記録はあったわ、あとガラス製も。
近いと言えば近そうなのだけれど、そのモノたちは当時も隔離されていたようで
詳しいことはほとんど分かっていないわ」

【当時も隔離されていた】と他人に言うのはキツかった。
異形の羽根が心に影響を与えるのか、心が羽根を歪ませるのか。
でもフランは違う。
羽根も心も美しいのだ。
それに気付かなかった、気付こうとしなかったのは私の罪だ。

「パチュリーは今、一族の系図や、伝聞、関連する文献を調べてくれているけど、
いかんせん一人では探す範囲が広すぎるのよ。
今回のように広範囲を系統立てて、整理しながら調べるには、アリスの協力が
是非とも必要だと言われたの」

「オイ!なんで私じゃないんだよ!」

「今も言ったでしょ?【系統立てて整理しながら】と、おまえに整理整頓を頼むモノが
幻想郷にいるのかしら?」

「む、いない訳じゃないと思う、多分、いるかも知れない」

憮然として言い返してくるが、苦しすぎる。
しかし、今更彼女を追い出そうとは思わない。
偶然にせよ、居てもらって良かったような気がするから。

「今まで取れたことはないの?羽根の生えかわりなんじゃないの?」

話の流れを修正しようとするアリスの質問。このコは苦労性よね。
それに併せて魔理沙も、

「全部取れちゃったのか? それに、見つけたとしても、くっつくものなのか?」

それぞれ予想された疑問だ。

「そうね、さっきも言ったとおり分からないことが多いの。
今の段階でのパチュリーの調査結果と、考察を説明するわね」

紅茶に口をつけながら、パチェの報告を頭の中でおさらいする。
一族の秘密に関わることは不出とし、私自身の記憶、推測もまとめながら、
ここで言うべき内容を組み立てる。

「一つ、今回取れていたのは二つか三つ。
全体のバランスから見ての話よ?

一つ、フランを含めた【鉱物質】の羽根は生えかわらないらしい。
まぁ私の羽根もそうだけど。

一つ、簡単には取れないらしい。
彼女の【宝石羽根】が取れているのは初めて見たわ。

一つ、取れたとしても消滅はしないでそのまま残るらしい。
過去に、忌まわしいモノだとして、力尽くで、もぎ取った例があって、
その【石の羽根】はこの館の宝物庫のどこかにあるみたい。

一つ、鉱物としての硬度はあるが、いわゆる宝石ではないらしい。
硬質のガラス細工に近いかも。パチュリーは、材質を調べたがっていたけれど、
手に入れるにはリスクが大き過ぎると言っていたわ。
削り出せば綺麗な細工物ができそうとも、まぁこれは半分冗談でしょうけど。

一つ、取れたものが再び付くのか、これは全く分からないわ。

そしてもう一つ、【再生】するということ。
私たち吸血鬼の再生能力は強いわ。かなりひどい傷でも一晩も経てば完全に復元する。
でも【鉱物質】の羽根は材質のせいか、再生に時間がかかるらしいの。数少ない事例では、
短いときで三日、長いときは一月ほどかかっている。
フランの場合、再生にどのくらい時間がかかるのか、全く分からない」

少し間を取り、三人の反応を窺う。
魔法使い二人は、難しい顔、探脈者は特に変わったことはないが、私の目線を受けると
微かに頷き、続きを促した。

「今までのことは【宝石羽根】についてのこと。
次は、なぜ取れたのか、誰が取ったのか。

そもそも簡単に取れるとは思えないし。
フランが自身の手でもぎ取ったのか、自分の意思ではずせるのか、あるいは取った犯人
をかばっているのか、それも分からない。かばう相手の見当もつかない。
いずれにせよ、フランは取れた理由と、取った相手を知っている、と私は確信しているわ。
【気づかなかった】は絶対嘘。何かを隠している」

フランに気づかれずに【宝石羽根】を持ち去るのは不可能だと思う。
衝動的に自分でもぎ取ったとも考えにくい。
破壊衝動はあったが、自傷癖はなかったから。

こうしている間にも【再生】しているかも知れないけれど、無くならないとしたら、
どこかにあるはず。
おかしな輩の手に渡っていたら、と思うと我慢ができない。
だってフランの【一部】なのだから。

「貴方の【能力】はなんと言っているの?」

アリスの質問は、もっともだ。
だが、私の【運命を操る程度の能力】は、この件にはなにも干渉してこない。
私にとっても大きな岐路のようだが、その行く末は全く見えないのだ。

だから首を横に振るしかない。

「分からない。でも、心がざわめくの、締め付けられるの。なにか大きな転機の
ようなのだけれど分からないわ」

本当に分からない。でも、じっとしていられないくらい心が揺さぶられている。

「取れてしまった羽根がどこにあるのか、私はとても気になるの。
再生すると分かっていても、フランの一部が行方知れずでは寝覚めが悪いわ」

他人にはこう言うしかない。
黙って聞いていたトレジャーハンターに向き直る。

「ナズーリン、貴方に来てもらったのは、こういう訳。
失われた【宝石羽根】を探し出して欲しいの」

「なるほど。それで【快傑ナズーリン】が【キュウトに見参】したわけだな」

邪気まみれの嘲笑。
真面目に聞いていたと思ったらこれだ。
アリスが小声でドヤしつけながら魔理沙の腿をぱしぱし叩いている。

「それはやめてくれ、と言ったはずだがな。少しお灸を据えねばならんか」

ふう、とため息一つついたナズーリンが魔理沙に向き直る。

「三日前、川で魚をとっていたね?河童娘と一緒に。じきに水かけ遊びになり、
はしゃいでいるうちに重なりあって倒れてしまったよね?キミが上だったか?
そのまましばらく動かないままだったが、冷たくなかったのかな?
見たところ、風邪も引いていないようで、重畳なことだが」

魔理沙は目を剥いて、口をパクパクさせている。
アリスはほんの少しだけ魔理沙に目線をくれてから、スーッと無表情になった。

「そして一昨日は巫女と遊んでいたようだが、服を脱がすのは些かやりすぎ
ではないかな?」

「ち、ちがう!霊夢のヤツが私のお煎餅を服の中に隠したからだ!
つか、オマエ、ストーカーかよ!」

「私の仕事は探索だ。日々幻想郷中をかけ巡っているのだよ。
キミはどこにいても目立つからね。目を止めてしまうことも多い、ということさ」

「ど、どこまで見ていたんだよ!」

「さてね。私はそれほど暇ではないのでね」

「アリス!誤解だ!誤解なんだ!」

アリスに向かって両手を振り回し、叫んでいる。

「誤解もなにも、私はなにも言っていないわよ?私になんて言って欲しいのかしら?
関係ないと思うけど?」

「なんでそんなに冷たいんだよ!怖いんだよ!」

抑揚のほとんど無いアリスの台詞にうろたえる黒白。

ナズーリンの攻撃はまだ止まない。

「そして昨日は『やめろぉ!やめてくれぇ!私が悪かった!』

「私もさきほど【やめてくれ】と言ったが、想いは同じと考えて良いのかな?
霧雨魔理沙どの?」

「うう、そ、そうだ、同じだぜ、くそっ!」

簡単に立場が逆転したわね。
情報は侮れない。
この目と耳の利くネズミと事を構えるにはこちらも覚悟が要りそうだ。

「ちなみに昨日は出掛けていないのだがね」

しれっと言い放った台詞に呆然となったお転婆娘。

「オマエ!ハメやがったな!」

「【昨日は寺で子ネズミたちと遊んでいた】と言おうとしたんだがね」

片眉をつりあげるナズーリンと、低く唸りながら睨みつける魔理沙。
なんとも瀟洒なチェイサーね。


「それで昨日は何があったのかしら?」

アリスが氷塊を叩きつけた。
私も少し寒気がした。

「へっ!? あはっ!? いや、あの、その」

魔理沙は、きょろきょろしながら縋れそうな藁を探している。

仕方ない。
魔理沙を助けたいわけではないが、私もこんなことで時間を無駄にしたくはない。

「もういいでしょう。本題に戻らせていただくわよ?」

アリスが軽く座り直した。矛を収めてくれるようだ。

「ナズーリン、理解していただけて?」

ナズーリンが私を見つめている。真剣に。
力がみなぎるわけでも、気負った感じでも、過度に張りつめた風でもない。
自然体なのに真剣。
プロフェッショナルが【仕事を始める】ときの雰囲気とはこれなのか。

「いくつか質問がある。差し支えのない範囲でお答えいただこうか」

この言い回しに少なからず緊張した。

ナズーリンは私たち一族の、決して外に漏らしてはならない秘密までも知っている
のだろうか?だから【差し支えのない範囲】といったのだろうか?

私の沈黙を了承と判断したのか、ナズーリンが切り出す。

「まず、【宝石羽根】のことだ。レミリアどのが気づいたのはどこでかな?」

「フランの部屋に焼き菓子を持っていった時よ。一週間ほど部屋から出て来なかった
から様子見を兼ねて訪れたの」

そのときのフランの慌て様が、なにか隠している様に見えたのだけれど。

「それは、一週間、部屋から出ないことが不自然だ、ということだね?」

これまで何年も部屋に閉じこもっていた、いや、閉じこめていたのだから、
たかだか一週間出て来ないことは不自然でもなんでもないはず。そう、そのはず。
でも、今は違うの。

「【紅い霧】以降、フランは部屋から出るようになったの。最近は私と一緒に食事を
するようになったし、会話も増えたわ。あのコは変わった。いえ、変わったのは私かしら?」

あの異変を経て、なにか吹っ切れたようなフラン。
咲夜から【お姉さまと、お話がしたい、とのことです】と聞かされたときは耳を疑ったわ。
初めはぎこちなかった食事会も、今は私自身が楽しみにしている。

「それは良いことじゃないか」

邪気のない笑顔で魔理沙が言った。息を飲むほど愛らしい。
綺麗だ。このコは成長とともに間違いなく桁外れの美人になる。
いつもそうやって笑っていればいいのに。
彼女なりにフランのことを心配してくれているのだろうか

「妹君と一番最近会ったのは、一週間前ということだね?その時は【在った】と」

「そうね。それまではほぼ毎日一緒に食事をしていたのに、ここ数日は
【気分がすぐれない】【とても眠いから】と顔を見せてくれなかったの」

一週間前の食事会で何があったのかしら。
実のところ、【宝石羽根】よりも、フランが顔を見せてくれない理由のほうが気に
なっている。

「ふむ、気にはなるが、まずは【宝石羽根】のことだ。
大きさや質感を私自身がある程度知っていないと探しようがない。
私は妹君とは面識がない。書物にある姿絵ぐらいでしか知らないのだ」

「姿絵?フランの姿が描いてある本があるの?」

「お嬢様、こちらでございます」

咲夜が差し出した本は【幻想郷縁起】と書いてあった。
役に立つ従者だこと。

しおりが挟んであり、そこを開くと、まさしくフランの姿絵があった。

そのページに描かれていたフランはなかなか可愛らしかった。

「妹君と面会はできるのかな?」

「できるけれど、【宝石羽根】を探していると、気取られたくないわ」

羽根を無くしていることを私たちに知られたくなくて部屋から出ないのだと思う。

「それもそうか。しかし、彼女自身に接触できないにしても、紛失を認めた居室
から探索開始するのが定石なのだが」

「そういうことなら後で案内させるわ」

「【快傑ナズーリン】さん、私がご案内いたします」

「さっ、咲夜どのまでっ!ヒドイよ!それっかっ勘弁してもらえないか!?」

少しビックリしているナズーリン。
魔理沙が【プッ】と噴いた。
怪訝そうにしている天然メイド長。

「ご一同、今後、その【なんとか】ナズーリンはやめていただきたい。よろしいな?」

私たちを見廻しながら、決して大きくはないが、力のこもった声で宣告。
まぁ、皆、肯くしかないわね。

軽いノック。

「お嬢様、寅丸星様です」

入ってきた寅丸は顔を上気させ、息遣いも荒かった。
随分と急いできたのだろう。

「お待たせいたしました。ナズーリン、レンズを持ってきましたよ」

「ご主人、早かったね。無理をしたんじゃないかい?」

「いえ、このくらいなんと言うことはありません。【快傑ナズーリン】のためですもの」

室内が凍り付いた。

「ご、ご主人、その呼び名は【無し】になったのだよ」

顔をひきつらせ、絞り出すようにナズーリンが言う。

「えー?なんでですか?どうしたんですか?【快傑ナズーリン】、
かっこいいじゃないですか?」

魔理沙は下を向いたまま肩が震えっぱなしだ。
笑いをこらえるのに必死のようだ。
かく言う私もツボに入りそうでやばい。
寅丸星、天性の【何か】を持っているのね。 

「理由は必要ない、とにかく無しだ、ダメだ、却下だ、許可できん!」

ナズーリンが強い口調で叱りつける。

「うー、では、第二候補の【ミラクルナズーリン】でいきましょう」

は? 第二候補?

「だっ!かっ!らっ!そのテは全部無しなの!!」

どうやら登場時の痴態にはこの寅丸星が、がっちり絡んでいるようだ。


まだブツブツ言っている主を怖い顔で威嚇しているナズーリン。
寅丸の再登場で思わず脱線してしまったけど、この辺りで少し息抜きも
必要だったということか。

「少し休憩にしましょう。咲夜、皆に紅茶のおかわりを」

返事をした咲夜は、時を操らずに洗練された手つきで順序よく紅茶をついでいく。
この動作を見せることも【休憩】のうち、と分かっている。
こんなメイド、ちょっといないでしょ?

咲夜の作った焼き菓子をかじりながら四人を見渡す。
アリスが来てくれたのは分かる。このコはなんだかんだでホントは情に厚い
優しい娘だから。
魔理沙は、まぁ、【オマケ】だしね。
ナズーリン、こいつが分からない。私の倍以上生きていて、ずば抜けた知恵者で
あることは間違いなさそうだけど、寅丸星が絡むと、どうにも色々と脆い。
なぜこの愉快な賢者は私の招請に応じてくれたのかしら。
それなりの礼はする、と咲夜には申し付けておいたけれども。

それをナズーリンに問うてみたら、答えたのは寅丸だった。

「私は、こちらに伺うことを後から聞いたのですが、
ナズーリンは昔から困っている人がいたら見過ごせないのですよ。
なにはともあれ助けに行くんです。私は少なくとも、五万回は助けてもらっています」

満面の笑みで言われた。
我がことのように誇らしげだ。

しかし、五万回って、千年にわたるつきあいと聞いているけど、
週に一回はなんかやらかしてきたってことよね?

能天気を絵に描いたような寅丸の笑顔を見ながら、この従者の長年の苦労に
思いを馳せていると、

「要求された報酬が妥当だと思われましたから【契約】を成立させました」

咲夜が真面目くさって言った。

「報酬?」

【ガタッ】と席を立ったのはナズーリン。

「あの、咲夜どの『十秒間だけ私の体のどこでも好きに触らせる、というものです』

「さっ!咲夜!おまえ、なんて、はしたないことを!」

私は叫んでいた。
なんということだ。

「しかし、服は脱がなくても良い、とのことでしたので、報酬としては【安い】
と思いました」

「ちょっ!ちょっと待ってくれ!咲夜どの!あれは冗談だと言ったはずだ!冗談だと、
少なくとも二回は言ったはずだよ!?」

「そうだったんですか?では、どうしましょう?契約内容に不備がでてしまいました」

咲夜は困り顔だが、おまえの頭の中が困りモノだよ、まったく。
それにこのネズミも存外、うかつモノなのかしら。

そのナズーリンの隣から、なにか良くないものがムクムクと湧きだしている。 

「ナズーリン。どういうことなのでしょうか?
貴方が咲夜さんを認めているのは知っていますが、ずっと私だけを、この私だけを
想っていたと言ってくれましたよね?
あれは偽りだったのですか?」

寅丸からあふれだした怒気が部屋をあっと言う間に満たした。
そして怒気はずんずんと濃く、重くなっていく。

すごい妖力だ。私たち大妖に匹敵する質と量だ。
魔理沙とアリスも青い顔をして周囲を警戒している。
暴発したら、紅魔館が吹き飛んでしまいそうだ。

止めなければ。
私が腰を浮かしたとき、

「ご主人!あれは挨拶代わりのジョークだよ!瀟洒と噂に高い咲夜どのが、なんと
切り返してくるか試しただけだよ!本当だ!嘘ではない! 星!誓って言うから!!」

大慌てのナズーリン、必死の決死の既死の説得。

もちろん冗談のつもりだったのだろう。
しかし【瀟洒で完璧な従者】と世間では言われているこの咲夜は、実はかなりの
天然気質だ。しかもデンジャラスにしてトホホ系だ。
稀に飛び出すとんでもない言動には結構振り回される。
まぁ、それが可愛いのだけれど。

「冗談でもそんなことを言ってはイヤです。
思ってもイヤです。
ホントに、ホントにイヤですよぅ」

ポロポロと涙をこぼす寅丸。
怒気が急速に薄らいでいく。

すかさずナズーリンが側により、両肩に手をおいて、

「すまない。私の不徳のいたすところだ。私の胸を切り裂けば、【寅丸星への想い】
が湖一杯分は噴き出すのにね」

なにそれ?

「でも咲夜さんは【星五つ】ですし」

「あ、あの、ご主人、その星の件はもう無かったことにするはずだったでしょ?」

星五つ?なんだか気になるわね。

座ったままの寅丸を胸にかき抱くナズーリン。
先刻とは逆の構図だ。

【ナズが悪いんです】とか【不安にさせてしまったね】とか【いやらしい】とか
【ごめんよ】とか【バカ、バカァ】とか【私の心に住んでいるのは星だけ】とか
【お風呂で詫びる】とか【ご主人が触らせてくれるのなら】には【それとこれとは別】
とか、どーでもいい話になってきた。

それにしても騒がしい連中だ。
どうしたものかと思っていたら咲夜が進み出て、言った。

「ナズーリンさん、もう少し長い時間でも私は構いませんが?」

「咲夜っ!オマエはちょっと黙っていなさい!」

こーんのぉ、空気読まない天然メイドが!
わざとか?分かっていて言っているのか?
バカなのか?バカなのね!?スッゲーバカなのね!?

話が進みそうで進まないじゃない。
いや、全然進んでいない。
寅丸星の再登場は混乱に拍車をかけただけなのか。

この混乱を横目にアリスが【せめてあのくらい言えないのかしら】とか
【はっきり言ってくれたら私だって】とか、ブツブツ言っている。
コイツはコイツでマイペースね。


ナズーリンは寅丸を抱きながら小声で何か言っている。
私とフランの名や宝石羽根のことが漏れ聞こえる。
状況を説明しながら気を逸らそうとしているのかしら。

一段落したらしく、こちらを向いた。

「私たちのことは気遣い無用だ。進めよう。質問を再開したい」

毅然と言い放ったナズーリン。
しかし、気遣い無用って言われてもねぇ。
寅丸を胸に抱いたままなので、どうにも緊張感が伝わってこないし。

魔理沙は【星?星五つって?】と呟きながら、ぼんやりとお菓子を食べているし、
アリスは魔理沙がこぼす菓子の欠けらを気にしているようだし、
咲夜は、まぁ、いつも通りか。

「先ほども気にはなっていた。一週間前の食事会でなにがあったのか、なにを
話したのか、覚えている限りでかまわない、レミリアどの、話してくれるかな?」

寅丸から身を離し、席に付く。

「食事自体はいつも通りだったわ。会話も特に変わったことは、あ、【好きなもの】
の話をしたわね」

フランから振ってきた話だ。
【お姉さまの好きな食べ物は何?】【好きな服は?】【好きな花は?】【好きな動物は?】

「印象に残っているのは【花】の話かしら」

「ほう?レミリアどのの好きな花とは?」

そんなことまで話さなくてはならないのかな?
でも、聞いて欲しい自分もいる。

「バラの花よ。嫌いだけれど、本当は好き、そんな話をしたわ。
知っているでしょう?私たち吸血鬼が触れると、バラは枯れてしまうの。
だから嫌いなんだけれど、でも本当は好きなの」

怪訝顔の魔法使い二人。【探し屋】の表情は変わらない。

「その豪華な花弁、その色、棘をまとった姿。真紅のバラを初めて見たとき、
これは【私の花】だと確信したの」

あ、ちょっと恥ずかしいかも。

「真紅のバラ、なるほど貴方にこそふさわしい花かも知れんね。
その姿に自身を映せども、触れることの叶わないもどかしさ、なんとも歪で清雅な縁だな」

う、なに、この台詞。気障ったらしいはずなのに、胸が絞り上げられた。
それに、この涼やかで優しい表情、タイミング良すぎ、いえ、悪すぎ。
計算づくのはずなのに、こんちくしょう、もっと言って!

「良い話だが、次、行こうか」

ぐぉ、流しやがったぞ、この変態ネズミ!

うー、まぁ仕方ないわね。

「妹君が【好きなものは?】と聞いて、レミリアどのが答える。
そのやり取りの中で一番長かったのは?」

「それはさっきも言った【花】の話よ」

「その話の中で妹君が【止まった】のは、話のどこでだ?」

止まった?なんのこと?
私が意味を掴みかねて首をかしげていると、

「【バラの花は私たち吸血鬼が触れると枯れてしまう】【真紅のバラは私の花】の
二箇所です」

咲夜が答えた。

「この二回、フランドール様は、お嬢様のお答えを聞いて【少し】考えておいででした」

時間を操れる咲夜でしか気づけなかったのだろうか。

咲夜に向かって薄っすらと笑い、軽く頷くナズーリン。
一瞬、片眉を上げてから会釈を返す咲夜。
なに、この【分かっている同士】っぽいやりとり、面白くないわね。
ほら、寅丸だって口がへの字じゃない。

「ご家族の仲のことで恐縮だが、レミリアどのと妹君の関係は以前とは、随分と違って
きているように見受ける。
これも差し支えの無い範囲で話していただけると手掛かりになりそうだ。いかがかな?」

私も今回の事件と、最近のフランとの関係が局外とは思っていない。
全部話してみよう。ここにいるものたちは真摯に聞いてくれるはずだ。

「穏やかになってきたの。いえ、元々優しい娘なの。
もう大丈夫、万が一、なにかあっても私が必ず何とかするわ。
私はフランともっと一緒にいたい、話をしたい、もっと喜びを分かち合いたい。

だから私の居室の隣にフランの部屋を用意しているの。
少しずつ内装を整え、家具を運び込んでいるの。
一月以上前から少しずつ準備をしているのよ。
私自身の手だけでやっているから、時間がかかってしまうけど、これは私がしたい
ことだから。
驚かせようと思っているから、あのコには内緒なんだけどね」

「素敵」

アリスだった

「素敵な贈り物よ。レミリア、きっとびっくりするでしょうね」

魔理沙もうんうんと頷いている。

私が心底やりたいことだったから、他人の評価はどうでも良かったけれど、
この贈り物は結構良さそうってことよね?フランの驚く顔が目に浮かぶわ。

「フランドール様はご存知でいらっしゃいます」

咲夜の砲丸が飛んできた

「えっなぜ!?どうして知っているのよ!?」

私は自分でも驚くほどの大声だった。

「私が話したからです」

「咲夜、【フランには内緒】と言ったはずよ。あなた自分がしたことが分かっているの?
理由をおっしゃい」

これはいくら咲夜でもシャレにならない。

「説明させていただきます。フランドール様は、お食事の後、お嬢様のお部屋に
招かれるのを、ことのほか喜んでいらっしゃいます。
お姉さまがこうおっしゃったとか、お姉さまがこんなことを教えてくれたとか、
後日、この私に嬉しそうに話してくださいました。

それが、お嬢様が隣のお部屋の支度を始められてから、隣室に違和感を覚えて
いらっしゃいました。
そのことを私にお尋ねになられたとき、とても不安そうでございました。
【お姉さまは隣のお部屋で何か楽しそうなことをなさっている。
でも私には言ってくれない】と」

そんな、そんなことでフランを不安にさせていただなんて。

「フランはとても鋭いんだぜ。レミリアが二人で居るときに隣の部屋に向けた
嬉しそうな【気】を感じとったんだ、きっと」

魔理沙が真剣な表情で告げた。
おそらく正解だろう。

「今の妹様にはキチンと説明するべきだと思ったからです。誤解が生じ、
手遅れになる前にお話すべきだと。
きっとご理解いただけると信じてすべてを申し上げました」

咲夜は私たちにとって良かれと思ったことは、越権してでも実行する。
そしてその判断は誤ったことが無い。

「お嬢様からフランドール様への贈り物です、と申し上げました。
フランドール様を驚かせようと内緒で準備なさっていること、
お嬢様がお一人でなさっていることも申し上げました」

「ファインプレーね」

アリスの賞賛の言葉に私も心で首肯する。
本当に、へたに誤解されていたら取り返しの無いことになっていたかもしれない。

「フランドール様はそれを受け、自分も何かお姉さまに贈り物をしたい、
と言っておられました」

「それはいつの話かね?」

ナズーリンがすかさず問う。

「一週間前のお食事会より二日前です。その前日、お嬢様のお部屋に招待された
ことを話していただいているときです」

「そして【好きなもの】の話か。ふむ、おおよそ情報は出揃ったかな」

腕組みして一息、寅丸に顔を向け、軽いウインク。
それを見た寅丸は、パァーっと顔をほころばせる。
なに、このむかつくサイン。

「最終確認だ。レミリアどの、欠けていたのは何色の羽根だった?」

は?今更なにを?
それでも私が思い出そうとしていると、

「貴方たちの種族は特にそうだろうが、色覚を持つモノたちの一番注意を引く色は?」

「そりゃ赤だろう」

答えたのは魔理沙だった。
そうだ、なぜ欠けているのにすぐ気づいたのか。
一番印象的な【赤】が無かったからだ。

【好きな花】【でも手に出来ない】【無くなっていた赤い宝石羽根】【贈り物】【細工物】、
これまで出てきた単語が一瞬で繋がり、形になる。
まさか、そんな、なんてことを!


「枯れない真紅のバラですね!」

寅丸星が立ち上がって言い放った。
ナズーリンは薄く笑っている。
教師が、正解を導き出した愛弟子に対し浮かべるような、優しい微笑だった。

「妹さんは、贈り物を作ってらっしゃるんですね!?
きっとお姉さんを驚かせようとなさっているのでしょう。
お部屋のプレゼントに併せようとなさっているんですね。素敵です!」

「でも、そんなことがあるわけがないわ、そんなことしちゃダメよ」

私は分からなくなっていた。
フラン、あのコったら。
そんなことしなくていいのに。
私なんかのために、自分の身を削るなんて、そんなのダメよ、ダメなのよ。

フランの【能力】を微細に制御すれば、あの【宝石羽根】は精緻な細工物になる
かもしれない。でもそれはきっと、とても繊細で、至難の作業なはずだ。
それに、本当にそこまでしているのだろうか。
私たちの思い過ごしではないのか?

「でも、本当にそんなことをしようとしているのか?」

魔理沙の問いは私の疑問そのものだ。
それに対して咲夜が告げた。

「【好きなもの】のお話の翌日、この世に一本だけの特別な
【レミリア・スカーレットのバラ】を用意するとおっしゃっていました。
申し訳ございません、そのときはなんのことか分かりませんでしたので」

早く言えよ、結構大事なことなのに。でもこれで間違いないだろう。

ナズーリンがニッコリしながら、
「あと何日かかるか分からんが、妹君は【宝石羽根】が再生するまでは出て
こないだろう。
それに、細工の目途がつくまでは」

「待ってあげなさいよ。これも素敵な贈り物ですもの」

アリスが優しく微笑んだ。
分かっているわよ、どいつもこいつも、言われるまでもないのに、もう。

「レミリアさんも気づかない振りをしてあげましょうね。お部屋の仕度を済ませて、待ってあげましょう。
その日はきっと素敵なプレゼント交換になりますよ」

どうしてこの色々と抜けている大女は赤の他人のことなのにこんなに嬉しそうに
できるのだろう。
うっすらと涙さえ浮かべている。


「ちょっと考えれば分かったことだったのね。大騒ぎして情けないわ」

赤の他人を巻き込んでしまった不甲斐なさ。
フランの想いに気づかなかった不甲斐なさ。
泣けてくるわ。

「待ちたまえレミリアどの。
貴方は妹君の羽根が欠けたことに気づき、憂いた。
たった一人の妹の体に異常を認め、心配して慌て、恥も外聞も気にせず他者に
助けを求める姉。情けないことなどなにもない。
貴方は大切な妹のために出来得ることをやったのだ、家族として、姉として、
まっこと正しいと思う。
そして姉の情愛に応えたいと、自分もなにかしたいと、思案の末、我が身を削るに
いたった妹君、愛おしかろう。
レミリアどの、フランドールどの、お二人姉妹の絆、しかと、見せていただいた。
眼福ならぬ心福を頂戴した。
これもなにかの縁、お二人が危急の際は、このナズーリン、
微力ながら支援させていただく所存だ」

席を立ち、深々と頭を垂れる小さな賢将。

なによ、なによ、このネズミ。偉そうに、分かった風に。
歯を食いしばっていないと涙がこぼれそう。

寅丸が嬉しそうに、
「お姉さん想いの素敵な妹さんですね。そして妹想いのお姉さんも素敵。
これから二人は、うんと幸せになっちゃいますね!」

あっ、もうダメ。


どのくらい俯いていたのだろう、咲夜が肩を抱いていてくれていたようだけど。
顔を上げると、魔理沙とアリスが優しい笑顔を向けていた。
私としたことが、とんだ失態だわ。こんな弱いところを晒してしまうなんて。
まぁ、でも、なんと心の晴れることか。

一息ついて、あの凸凹主従に目をやると、
「ご主人、嬉しそうだね。どうしたんだ?」

「それは嬉しいですよ。ナズーリンがとてもかっこよかったんですもの」

「ん?そうなのかい?私はなにもしていないけどね」

「いーえ、素敵でした、やっぱり【快傑ナズーリン】でしたね」

「その呼び方は勘弁願いたいんだが」

そう言いながらも、口元は緩んでいる、先ほどまでとはえらい違いだ。

「それより、お風呂の件は?」

「はい、分かっていますよ。一緒に入りましょうね」

「でもご主人、前回、一緒に入ったときは洗うのも湯船も別々だったじゃないか。
色々と保養はさせてもらったが、今夜もそうなの?」

「今夜は私が洗ってあげますよ」

「え、ホント?でも、それなら私がご主人を洗ってあげるよ!」

「いーえ、今日の功労は貴方のものです。私がささやかながら労ってあげます」

「でも、でも、労いなら私がご主人を洗う方が適っているんだけど?」

「意味が分かりませんね。私が貴方を洗います。決定ですよ?」

「うー、だったら、湯船には一緒に入っていいよね?」

「二人で入ったらとても狭いですよ?それでもいいんですか?」

「いい!いいよ!それこそいいよ!」

「ふふ、へんなナズーリン」

【バンッ!】

思わずテーブルを叩いていた。

「ナズーリン!寅丸星!」

私の怒声に背筋を伸ばす二人。
我慢して口調を抑え、

「この度のことには大変に感謝している。本当にありがとう。
後日、改めて礼をさせていただくわ、紅魔館の当主として必ず」

ここで一息入れ、力を貯める、思いっきり。

「だが、だがっ!イチャイチャするなら余所でやれーー!!!
とっとと帰れ!! この痴れモノどもーーーー!!!!!」

扉を指さす。
二人は弾かれたように席を立ち、虎丸はあたふたと、ナズーリンはヒョイヒョイと
出ていった。

ああ、なにやら面白くない。
折角、心が晴れたと思ったのに、あの二人を見ていると、どうにも我慢がならなかった。

長い吐息をつきながら頭を巡らす。咲夜と目が合った。
お茶をもらおう。

「咲『お嬢様、ご入浴はいかがいたしましょうか?』

は?いきなりなんだ?

「入浴って、いつも通りでいいでしょ?何を今さら聞くの?」

「ではいつも通り、お体を洗わせていただきますね」

なっ!? このメイドは、なにを言い出すのか!?
アリスも魔理沙もビックリしてるじゃない!

「おまっ!おまえっ!なにを言っているのっ!
一緒に入ったことなんかないじゃないの!?」

咲夜は眉を上げ、客人二人をチラッと見た。

「まだお客様がおいででしたね。気が急いてしまいました、申し訳ありません」

深々とお辞儀。
いや、そうじゃなくて。
なんなの?なんであの二人へ対抗しようとするの?
それとも、私をからかっているの?

私が少しの間、襖脳していると、視界の端に、残っていた二人が見えた。

アリスが赤い顔でなにやら囁いて、それに魔理沙がニヤニヤしながら頷いている。

【バンッ!】

再びテーブルを叩き叫ぶ。

「オマエらも出ていけーーー!!!」

この二人もバタバタと出ていった。

再び長い吐息。
そして咲夜を睨みつける。

「咲夜、どういうつもり?」

「主従が一緒にお風呂、【あり】なのだと学びました」

しれっと言いやがったよ、コイツ。
この娘の、計算なんだか天然なんだかよく分からない言動。
いつまでたっても慣れない。目眩してきた。

こめかみを押さえて下を向いていたら、咲夜がそばまで寄ってきていた。

「妹様のこと、良かったですわね」

「そうね。【快傑ナズーリン】に感謝しなくちゃ、かしら?」

嬉しそうにしている咲夜に私も顔が緩む。

「もう一杯紅茶をもらうわ。咲夜、貴方もおかけなさい。一緒にお茶にしましょう」

「はい、喜んでご相伴させていただきます」

とても愛くるしい笑顔の咲夜。

今夜は一緒にフランの話をたくさんしましょうか。



二作目の投稿です。初投稿が望外の反響をいただけましたので、調子こいて書きました。
此度はレミリア視点です。エロは目一杯背伸びして妄想しないと、届かないほど薄いです。
レミリアとフランドールはきっと仲良くなります。レミフラにはならないまでも、分かり合えると信じています。咲夜はお嬢様第一ですが、いつも掴みどころが無いんじゃないかと。
快傑ナズーリンの登場シーン、【脱衣&変身】させたかったのですが、それは本人の極めて強い拒否で見送りになりました。
マリアリは【正道】だと思うんですが、魔理沙の浮気というよりも、他者のアプローチを無碍にできない魔理沙がトラブルを背負い、アリスが歯軋り、そんな構図が続きそうです。

お目通しいただき、ありがとうございました。
ご感想、ご指摘などをいただけましたら、幸いです。
紅川寅丸
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コメント



0.3410簡易評価
9.100名前が無い程度の能力削除
ああ、愛くるしいなぁもう!!
ありとあらゆる作中人物達に優るとも劣らない、可愛いキャラクターが揃い踏みでした。

が、ナズーリンの登場が哀れすぎた。
14.100名前が無い程度の能力削除
ナズーリンェ…
18.100名前が無い程度の能力削除
前回に続いて読みやすく、長さを気にしないでスラスラ読めました。
こんな主従関係大好きw全キャラ素敵でした。
26.100名前が無い程度の能力削除
何というかナズーリンというか星というかに限らず視界全てがシロップで満たされているような
ごちそうさまです
27.100名前が無い程度の能力削除
読みやすくて、なかなか面白かったです!
魔理沙の日常もkwsk(*^^)b
28.無評価紅川寅丸削除
9番様
 ありがとうございます。この度は登場シーンと、ベコ凹むナズーリンが始めにありきでした。

14番様
 そんなに哀れでしたでしょうか、カッコよさを目一杯表現したつもりですが。アニメで見たいのは私だけでしょうね。

18番様
 前作からのご評価、痛み入ります。読みやすさとテンポを気にしておりますので、嬉しいです。ありがとうございます。

26番様
 登場人物が皆、愛おしいんです。甘めになるのは見逃してやってください。ありがとうございます。

27番様
 魔理沙はいずれ、じっくりナズーリンと絡ませてみたいと思っています。ありがとうございます。
 
 
30.90名前が無い程度の能力削除
「星五つ」で思い出した。あなたかw
いやこれは素晴らしい星ナズ。
31.100名前が無い程度の能力削除
星五つってロシア…
あなたでしたか

あなたの書く変態ナズーリンと変人寅丸星のナズ星にはまりました。
うひょ(・ω・)
36.無評価紅川寅丸削除
30番様
 前作もお読みいただき、ありがとうございます。「星」にこだわりながら、色々やっていきますね。

31番様
 私はナズーリンも星も、いたって尋常だと思っているのですが……ありがとうございました。
37.100お嬢様・冥途蝶削除
私毎回この人の作品凄くスゴイと思うんだけど。この評価の低さは不思議。
シモネタでも楽しんで読めるしね!応援してる!!     お嬢様
キリのような突っ込みの鋭さがありますわ。私は「ネタ」的にもおーるOK
ですわ                         冥途蝶
38.無評価紅川寅丸削除
お嬢様・冥途蝶 様
 過分な評価を頂戴し、またしても恐縮です。
 応援してくださる方がいると、心底嬉しいです。ありがとうございます。
 シモネタも頑張りますね。
43.100愚迂多良童子削除
遅ればせながらいいお話でした。
お互い思いやりのある姉妹でよいことです。
そして魔理沙はどことフラグがたっているのやらw
45.100名前が無い程度の能力削除
ナズーリンかっこいい!
漫画で読んでみたいかも
47.無評価紅川寅丸削除
愚迂多良童子様:
 ありがとうございました。次回は魔理沙ネタに挑みます。

45番様:
 ありがとうございます。漫画化ですか……胸躍るお誘いですね。
60.100Admiral削除
良いお話ですね~。
互いを思い合う姉妹の気持ちが伝わってきます。
そして星ナズ、マリアリ、レミ咲もね!
ゴチでした。
61.無評価紅川寅丸削除
Admiral様:
 ありがとうございます。作者的には一番思い入れのある作品です。
 ナズーリンの痴態、スカーレット姉妹の関係、咲夜の立ち位置、魔理沙とアリス、ここがシリーズの起点となりました。
65.80名前が無い程度の能力削除
イイネ
66.100ぺ・四潤削除
咲夜さんの瀟洒っぷりと天然っぷりががいいな。それでこそ★5つ。
前回の変態ナズーリンかと思いきやあの流れで今度はバカップルに成り下がったナズーリン。
星ちゃんの言うことには嫌々ながらも逆らえないのですね。主従という関係なだけでなく。
でもその割にはやたらノリノリで「キュウトに見参☆ミ」したからきっと星ちゃんにひたすらおだてられながら事前に練習したんだろうなwwナズーリンも洗脳気味にいい気分になっちゃってww
マジ泣きナズーリンも可愛い。
それから星ちゃんの間の悪さは芸術的だな。それでこそ星ちゃん。
ところで第二弾【ミラクルナズーリン】の登場はあるんだろうか……
67.無評価紅川寅丸削除
65番様:
 ありがとうございます。がんばります。

ぺ・四潤様:
 咲夜はナズーリンの天敵(?)になっていきますが、咲夜自身はナズが気に入っているって展開にしていく予定です。
 ナズーリンは星の懇願に抗えたためしはないのです(ってことにしております。だって大好きだから)。
 そして意外に乗せられやすいんです。そうだと良いなとおもっています。
 ありがとうございます。
79.100名前が無い程度の能力削除
あなたの作品が気に入って一気に読み通したけど、この作品が一番好きです。
84.無評価紅川寅丸削除
79番さま
 ありがとうございます、私もこれ、気に入ってます。
 レミフラと絡むナズの話は多分年明けの豆まきの頃になりそうですが用意しています。
 お待ち頂けるのなら幸いです。
85.100名前はないです削除
二人は弾かれたように席を立ち野と事の寅丸が虎丸になっていました。
あなたの作品はいつも面白いですね何度読んでも飽きません。
86.無評価名前はないです削除
そういう私が誤字をしましたね二人は弾かれたように席を立ちの所の寅丸が です
87.100諏訪子の嫁削除
伏線が自然すぎて気づかなかったw
ナズ寅いいですね。このSSみてほんとに気に入りました!

……かなすわ出してくれたらいいな…なんてw
88.無評価諏訪子の嫁削除
少し訂正します

かなすわもっと出してほしいなでした。

二人が出ていたのは知っていたんですが、『もっと』がないだけで出てないみたいにきこえますねw

新作出たらすぐみますんでこれからも頑張ってください!!

最後に!
長文本当にすみません(__)
94.90ナルスフ削除
なるほど、これが怪傑ナズーリン・・・
星ちゃんも星ちゃんで大概残念主人だw
咲夜さんはおちゃめだなぁ(白目)
95.無評価紅川寅丸削除
名前はないです様:
 コメント返信遅くなっちゃいました。
 何度読んでもって最高のお言葉です。 ありがとうございます。

諏訪子の嫁様:
 ご丁寧にありがとうございます。 
 私が書く諏訪子はちょっと風変わりかも、でも「かなすわ」頑張りますね。

ナルスフ様:
 ありがとうございます。これからも咲夜の大活躍(?)にご期待下さい。