Coolier - 新生・東方創想話

小傘日和

2010/09/22 01:18:52
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 霧雨魔理沙は困惑していた。

 昼と呼ぶにはまだ浅く、朝と呼ぶには少し深い、太陽がまだ空の斜に見上げる高さにある時刻。未だに蝉が忙しなく鳴いている季節時分を考慮すると、朝方を過ぎた、といったところだろうか。例年に比べて、ちょっぴり長引いている夏の今日の空は、いささか過ごしづらい程度の陽光を相も変わらず降り注いでいた。
 自他共に認める行動派(ただし主に迷惑な方向に)の魔理沙でさえ、近頃は中々去らない夏の暑さに外出が億劫になっていたのだが、今日はそういう訳にもいかなかった。なんと言っても本日は久しぶりに宴会が開かれるのである。
 夏の初めの頃こそ、皆で博麗神社に昼夜問わず集まっては冷たいものを食べたり、怪談話をしたり(モノホンの妖怪や幽霊が語るのだから、さぞかし震え上がるような話が飛び出ると思いきや、やけに人間臭い体験談や、挙句半分幽霊の癖に怖くて泣き出してしまう者が出るわで、結局笑い話しになってしまう。まあ、毎年の事なのだが)と、『暑さ』すら酒の肴にしていたのだが、ひと月も経てば人妖共々流石に堪えるらしく、魔理沙が最後に博麗霊夢の生存確認をしたのも両手で数える程には昔の事となっている。

 そこで今朝の話。

 お世辞にも淑やかとは呼べないノックの音に目を覚ました魔理沙は、早朝の無粋な客人、射命丸文から、「残暑を乗り切るには宴会しかないざんしょ! プッ、アハハハッ」と朝からイラッとさせられつつも、今日の夕刻から博麗神社で宴会が開かれるのを知ったのだった。
 今度の主催は誰だろうか。食料に困った霊夢? 宴会好きの萃香? 理由も無く紫か?
 だが果たしてそんな事はどうでもよかった。どうせ誰も気にしない。けれども今回ばかりは、久しく顔見ない友人のもとへ足を運ぶ理由を作ってくれた事に、魔理沙は感謝したのだった。結局、それすらも酒が進めば忘れてしまうのだが。



 ここまで前置き。



 宴会に持っていく食料の調達の為、人里へと来た魔理沙。その人里の入り口は既に目の前である。にも関わらず、魔理沙はそこから足を動かせずにいた。

 霧雨魔理沙は困惑していた。

 彼女は現在、目の前の光景を受け入れられずにいる。

(……いやまぁ、私も何度か異変に首を突っ込んだりして、大抵の事では驚かない自身はあったんだが、こいつは驚かされたな。まだこんな事を考えるやつがいるとは……つくづく、幻想郷ってのも恐ろしい所だぜ)

 一度、その体躯に不釣合に大きな帽子をかぶり直し、気を落ち着かせる。出来るなら避けて通りたいものだが、『それ』が道のど真ん中にあるものだからそれも難しいだろう。意を決して―――『それ』を操っているであろう姿無き主に声をかける。

「おい」

 ピクリ、いやビクリと、大げさなまでに『それ』が揺れる。つまりは、姿無き主の同様をダイレクトに表している!
 先手を取られたのが予想外だったのか、じっとその場に留まっていた『それ』が、動きを見せる。一瞬の躊躇いの後、真っ直ぐこちらへと向かってきたのだ。狙いは勿論、魔理沙だ。
 避けられない程の速さではない。いや、むしろ双方の距離と『それ』の速度を併せて考えれば、普通の魔法使いの彼女でも十分な余裕を持っていくらでも対応の出来る時間はあった。
 だが魔理沙は動かない。避けるどころか身を守る素振りもせず、迫り来る『それ』をただ待ち受ける―――!



 ぺちり、と。なんだか気の抜けた、間の抜けた、そんな音がした。

 魔理沙は顔に張り付いた『それ』を手に取ると、それはそれは冷たい、冷めた目で見下ろす。

 コンニャクだった。

 顔に張り付いた時の感触でわかったのだが、この陽射しの中野外に置いておけば当然だろう、中途半端に水分を失っていてそれが余計に不愉快だった。

 そう、コンニャクである。

 軽く握ってみる。以前はあったであろう瑞々しさと弾力は無く、萎みかけすらしていたその姿は痛痛しかった。これではもう、美味しく食べるのは難しいだろう。

 そんな、コンニャクである。

 目を凝らすまでもなく、コンニャクには糸が巻きつけてあり、その糸は竿から吊るされており、竿は道の脇の草むらから生え、何者かが潜んでいるであろう草むらはガサガサと揺れている。

「おい、いい加減出てこいよ」

 露骨に不機嫌な魔理沙の声色に向こうも観念したのだろう、怖ず怖ずと草むらから姿を現した。
 右手に自身の半身である茄子のような配色の化け傘を、左手にコンニャクを吊るした竿を持ち、裸足に下駄、虹彩異色の目を持つ唐傘妖怪多々良小傘は、今日も元気に人間を驚かそうとしていたのである。

「あの、驚いてもらえた?」










「お前さ、やっぱ才能無いんだって」

 しばらくして人里内。
 夏の暑さもどこ吹く風と、活気に溢れる人混みの中でも、霧雨魔理沙と多々良小傘の二人の姿は埋もれるどころか浮いてさえ見える。

「うーん、今回結構自身あったんだけどなぁ」
「人類なめんな」

 あの人里の前での邂逅の後、魔理沙は道端に朽ちて捨てられたボロ傘でも見るかのような目一杯の蔑んだ視線を小傘に送り、それ以上は言葉すら交わさずに早足で人里へ入り、忌々しい出会いの記憶を速やかに抹消しようとしていたのだが、どういうわけか聖輦船の一件以来懐かれてしまった小傘が後を追ってきたのである。鬱陶しい事この上なかった。

「まったく、よくあんな恐ろしい事を考えつくもんだぜ。私にゃ絶対真似できんね」
「でしょ!? わちきもこれを思いついたときは『はっ……天才……?』って思ったのよね!」
「まあ一種の才能ではある」
「待ち伏せして初めて来たのが魔理沙だったから緊張しちゃったけど、驚いてくれてたみたいで良かったわ。わちき、ちょっと自信出てきた」
「確かに驚きはしたが。主にアイデアとか、発想とか」
「うふふ。嬉しいなあ。嬉しいなあ。うふふ、うふふ」
「おいやめろ馬鹿。お前はいつの間に他人のトラウマを引き起こせるようになったんだ」
「ふえ?」
「いや、お前にゃ関係ない話だったか。前に地底に潜った時にちょっと、な」
「んー、そういえばぬえちゃんも地底から来たって言ってたっけ? 魔理沙は地底に何しに行ったの?」
「何だ、知らないのか? 地霊異変は温泉が湧いたりで結構有名になったとばかり思ってたが、私の武勇伝もまだまだってわけか」
「ん……と、ゴメン、よく知らないや」
「じゃあ、紅霧異変は知ってるか? 紅い霧を撒き散らしてた吸血鬼をマスタースパークでガツンとやっつけたんだ」
「知らない」
「春雪異変はどうだ? 春になっても終わらない冬を終わらせる為に、冥界にまで乗り込んで亡霊の姫様をマスタースパークで」
「知らない」
「え、永夜異変ってのもあってな。終わらない夜に偽物の月を操る不老不死の蓬莱人を」
「知らない」
「花映異変もまだ記憶に新しいな、うん。幻想郷中に咲き乱れる花、花、華。挙句彼岸から閻魔まで乗り込んで来て」
「不知火」
「風神異変! ある日突然妖怪の山に現れた謎の一団洩矢神社! 不穏な気配を感じた私と霊夢は果敢に妖怪の山へと」
「獅子舞」
「宝船異変はもはや説明不要なまでに説明不要だから説明は不要だな!」
「お終い」
「上手く締めやがった!?」
「わあ、魔理沙面白ーい」
「私は別にそんなつもりは無いし面白い事を言おうとしてたのはお前だし、お前が宝船異変の事を知らないのはおかしいし」
「わちき宝船なんて知らないよ? 小傘、嘘ツカナイ」
「ん……? あれ? そういやお前はたまたま通りかかっただけだった……んだっけか?」
「空飛ぶ船なら知ってるけど」
「さてはお前頭の受け骨が何本か折れてるんだな? そうなんだな?」
「あ、今のってもしかして『頭の螺子が緩んでる』と、私が傘の妖怪なのとを掛けてるんだね? わあ、魔理沙すごーい!」
「やめろぉっ! お前洒落を解説されるのがどれだけ恥ずかしいと思ってんだ!」
「えっ……今、もしかしてわちきに驚いた?」
「いやそれは違う」
「えっ」
「えっ」

 何それ怖い。
 何故か湧いてきたそんな言葉をどうにか飲み込んだ魔理沙と小傘であった。

「ところで魔理沙は今日は何をしに来たの?」
「ああ、今日霊夢んとこで宴会をやるからそれの食料調達ってとこだな」
「あ、そうなんだ。じゃあわちきも適当に参加しちゃおうかな。かなっ」
「酒かツマミさえ持ってくりゃ咎める奴はいないさ。どうせならパーッと皆を驚かせてくれよ」
「うん、わかった! よぉし、ちょっと練習してくる! またね魔理沙!」
「おう、頑張ってこい」

 並んで歩いていた二人の足。
 一つの足並みはそのままに、一つの足が地を蹴り宙に浮く。

「……やれやれ。驚かせろなんて、余計だったな。どうせ言われなくてもそうしただろうし。なんせ、驚かせるのが生き甲斐の愉快なやつなんだもんな」










 ナズーリンは呆れていた。

 鼠の仕掛けた鼠捕り、とは我ながら皮肉の、いや洒落の利いた仕掛けだと命蓮寺の周囲に仕掛けた侵入者用の罠に対しそのような評価をつけていたのも昨日の話。よもやその翌日に作動するとは彼女にも予測できなかったようだ。
 元はと言えばそこかしこで耳にする白黒の魔法使いの悪評に用心しての物だったのだが、果たして仕掛けに掛かっていたのは茄子色の傘を抱えた妖怪の少女だった。

「あー……確か君は、多々良小傘君だったかな。私はナズーリンだ。何度か寺で顔を合わせた事があった筈だが、覚えてもらえていただろうか」
「確か小さい生き物をたくさん使役してたよね。あれは……そう、まるで長年傘差しに放置された傘に住み着く」
「それ以上は勘弁してもらおうか。おそらく君が今思い描いているのは私とは程遠い昆虫だ」
「あの〜、それよりわちき今、とっても困ってるんだけど」
「存じあげているが」

 小傘が喋る度にその体躯がぶらり、ぶらりと、右に左に揺れる。唐傘妖怪多々良小傘は、何ともお間抜けに逆さ向けに木から吊り下げられていた。小柄なナズーリンでも、充分に小傘の顔を見下ろす事ができる。

「さて、君が今いるのは命蓮寺の敷地内で比較的身を潜めるのが容易な場所であり、身を潜める理由以外には中々足を踏み入れないような場所で、身を潜めなければならないような不埒な輩に万が一にも身を潜められないように私が罠を仕掛けていたのだが、その罠に君が掛かっている。さて、これは一体どういう事なのだろうか」
「驚いた!?」
「わかった、一度黙ってくれ」



「よし、ではもう一度聞こう。今度は君にも分かりやすく無駄な言い回しは無しだ。どういう目的があって命蓮寺に潜り込んだ?」
「驚かせようと思って!」

 さっきのは逆さ吊りになっていて頭に血が登っていたのが原因による妄言だったのでは、というナズーリンの一縷の望みはこうして絶たれた。いや、どうせそんな事なんだろうなあと思っていはいたのだが。その望みの薄い賭けによって今や小傘は自由の身である。
 まったく、もう飯時前だというのに面倒な者の相手をしてしまったものだ。適当に相手をしてさっさとお引き取り願おうと腹具合と相談しながらナズーリンは思った。

「まったく、もうすぐお昼ごはんだというのに面倒な妖怪に捕まってしまったものだわさ。適当に相手をしてさっさとお引き取り願いましょう」
「待て、君がその発言をするのは色々とおかしい。主に面と向かって相手に言っている所とか」
「えっ……今、もしかしてわちきに驚いた?」
「五月蝿い黙れ。ええい、飯前に無駄な体力を使わせるんじゃない」
「じゃ、今から人間を驚かせる系の仕事があるのでわちきはこれで」
「ああもう、待て待て。わかったわかった。じゃあさっさと驚かせてそれで帰ってくれ。ただし私も同伴する。君に他意や悪意が無いのはわかるが、部外者だから体裁上な」
「何だっていい、人間を驚かせるチャンスだ! ありがとうナズーリン!」
「どうにも君の台詞には引っかかる言い回しが多いな……」



「お、誰か来たな。ふむ、よりによってご主人か。ではなるべく手短にお願いするよ」
「合点!」
「そんな張り切らなくていいから」

 命蓮寺内の一室に潜んだ二人。これでようやく開放されるとナズーリンは一人胸をなで下ろす。

(ま、これも監査の一つという事で、勘弁してくれよご主人)

 空腹なのもあって、後は小傘が動くのをただ眺めているだけだった。足音が部屋の前に来た所で勢い良くふすまを開け放ち「うらめしやあ!」と叫ぶだけ。古典的すぎて時代遅れで何の捻りもなくてぶっちゃけ見ているほうが痛々しいくらいだがご主人はきっと乙女のような可愛らしい悲鳴をあげて驚くんだろうなぁ、とぼんやり考えていた。案の定廊下から「きゃああ!」と可愛らしい悲鳴が聞こえてくる。それと同時に、床に何かをぶち撒けるような音も。

「っておい、最後の音は何だ?」

 ひょいと廊下へ顔を出すと、床に座り込むご主人、寅丸星の後ろ姿と、満足気な小傘と、昼食だったのであろう料理が見るも無残に床に落っこちていた。

「うわぁ! そうか今日はご主人が料理当番だった!」
「あ、ナズーリン。この人すっごく驚いてくれたよ! あの、じゃあわちきこれで帰るね。なんだかナズーリン迷惑そうだったし。ごめんね。付き合ってくれてありがとう。じゃあね!」
「ああっ、待て、こら、帰るな! なんか空気を読んだような発言をするな! どうせなら出会った時点で気を働かせたまえ! ああ、そうじゃなくてこの後始末をだな……!」
「な、ナズーリン。これは一体どういう事ですか……」
「げぇっ! ご主人様! いや、これはだな」
「後ろからいきなり驚かすなんて酷いですよナズーリン! 私がそういうの駄目だってよく知ってるでしょう!?」
「あれーっ、ちょっと待てご主人様! いやいや違うだろ! 驚かせたのは私じゃない!」
「ナズーリン……それに星、これは一体どういう事ですか?」
「げぇっ! 聖!」

 現れたのは尼君、聖白蓮。簡単に説明するとあまり怒らせてはならない方である。

「聖! ナズーリンが私を虐めるんです!」
「いや、だから、あの、違っ」
「ナズーリン、私と少しお話をしましょう。こちらへいらっしゃい。さあ。さあ早く」
「くっ……くそおおおおおおおおっ!」

 その後、幻想郷中の傘という傘が鼠に喰われるという異変があったとかなかったとか。










 森近霖之助は短く溜息を付いた。

 木々のざわめきや小川のせせらぎにすら負けてしまいそうなそれは、しかして驚く程鮮明に自らの耳に届いた。
 香霖堂。幻想の道具となった物の行き着く最果て。閑古鳥が住むとしたらまさにこんな場所だろう、道具屋と謳ってはいるが、開店休業となんら変わりない。というか店主である霖之助が商売する気が無い。読書に勤しむため、とその状態をむしろ気に入っているというのだから尚更質が悪かった。
 そんな彼が久しぶりの来客に気がついたのは、読書が一区切り付き、伸びをしようと本を閉じて一息付いた時だった。
 ざくざくとこちらに近づいて来る足音。果たして魔理沙か霊夢か、それとも紅魔館のメイドさんか。いずれも長引く夏のせいで久しく見ていない顔であったし、茶でも淹れて世間話でもしようかと、普段の彼を知る者からすれば異変だなんだと騒ぎ出しそうな事を考えて、霖之助は今の自分は気分が良いのだなと気づいて笑みを浮かべた。

「うらめしやあー!」
「出口は今跨いだ敷居の向こうだ」

 何だかまた厄介な奴が現れたぞ、と肩を落とす彼の気分は最高にブルーだった。



 兎にも角にも、まず相手がどのような目的でここを訪ねてきたのを知る必要があるな、と霖之助は考えた。すなわち、客であるか、否かだ。客であるならばそれ相応の対応をすれば良いし、そうでないなら無駄な時間を過ごしたと悔やんだ後読書に戻れば良い。

「失礼だが、君は客かな? それとも、それ以外の何かなのだろうか」
「妖怪よ!」

 それ以外の何からしかった。

「そうか。もし君が森に迷った末ここにたどり着いたのならば幸いだ。ここを出て右手に向かって歩いていけばすぐに森を抜けられる。もし君が僕を襲うつもりで引き戸を引いたのならお帰り願いたいな。僕は人間と妖怪のハーフだ。美味しくないと思うよ。もし君が視界に映ったこの建物を興味本意でのぞいただけならば少し話を聞いていくと良い。ここは香霖堂、道具屋だ」
「わちきは多々良小傘。傘の妖怪です」

 話が通じないようだった。
 いや、もしかして話が長すぎて途中から聞き流していたのかもしれない。見れば子供のような瞳をしている。こう言っては失礼だがもしかすると少々頭の弱い部類の妖怪なのかもしれない。ならば今度はそれらしく聞いてみよう、と霖之助は再び尋ねた。

「ええと、君は何をしにここに来たのかな。もしかすると、それは買い物だったりしないだろうか」
「はい、人を驚かせようと思って」

 無駄な時間を過ごしたな、と悔やんだ霖之助は本を開くと文章の世界へと戻った。



「あのー……」
「………………」
「………………」

 ぺちんぺちん。

「……わかった、わかったから乾ききったコンニャクで人の頬を叩くのはやめてくれないか」
「ごめんなさい。何度呼びかけても反応が無かったから、コンニャクならもしや、と思って……」
「何故そこでコンニャクに期待したのかがわからないんだが……」
「あの、わちき今日の宴会で皆を驚かせようと思って、それで何か役に立つ物が無いかと思って訪ねたんだけど……、ここって香霖堂屋さんで良かったかしら?」
「その言い方だとまるで香霖堂という商品を売っている店のように聞こえるが……、そうだ、ここは香霖堂だよ。なんだ、お客様だったのかい。そうならそうと早く言ってくれれば……」
「え、ちゃんと言ったと思うけど……」
「いや言ってないよ……」
「だって、買い物に来たんじゃないかって聞かれて、そうです、人を驚かせられるような物を探してるんですって答えて……」
「………………」

 ええっと、確か……。



「ええと、君は何をしにここに来たのかな。もしかすると、それは買い物だったりしないだろうか」
「はい、人を驚かせようと思って」



 ……。
 …………。
 ………………。

「つまり叙述トリックだったと」
「ごめんなさい、ちょっと何を言ってるか意味わかんない……」
「君にだけは言われたくない……」
「あの、それで何か人を驚かせられるような道具って無いですか?」
「ううむ、難しい注文だね……。取り敢えず思いつくのは人魂灯くらいのものだが……それに、道具が人を驚かせるんじゃない。道具をどのように使って人を驚かせるかだよ。つまり、これは君自身の器量の問題なんだ。君の持っているそのコンニャクの釣竿も、君の努力次第で大いに人を驚かせる道具になるかもしれない」
「このコンニャク釣竿はもう立派に人を驚かせられるんだけど……」
「えっ」
「えっ」










「よう、香霖。もう日暮れだ。灯りぐらいつけたらどうだ」

 本日二人目の来客により、今日だけで先週の香霖堂の平均来客数を超えてしまったのは太陽が半分程地平線に身を埋めた頃だった。

「ああ、もうそんな時間か。集中していて気がつかなかったな」
「それ以上目悪くしたらどうすんだよ。そうなったら、眼鏡を二重にかけると良いかもな」
「魔理沙、眼鏡のレンズの構造上眼鏡を二重にかけても物が良く見えるようにはならないよ」
「だぁーっ、洒落だっつーの。真面目に解説すんなよな、傘妖怪みたいによ」
「ん、その傘妖怪というのはもしかして多々良小傘の事か?」
「何だ、知ってるのか」
「昼過ぎに訪ねてきてね。今日の宴会で皆を驚かす為に良い道具が無いか探しに来たんだ。そういえば魔理沙、君は宴会に行かないのかい?」
「馬鹿、お前を誘いに来たんだよ。なー、たまには来いよな。人知れずポックリ死ぬとかは嫌だぜ?」
「生憎僕は人一倍長生きなんでね。……そうだな、よし、今日は僕も参加させてもらおうか」
「お、おおっ? 本当か!? で、でもあれだな。誘っといて悪いがどういう風の吹き回しだ?」
「なに、ひょっとすると珍しい物が食べられるかもと思ってね」
「ど、どういう事なんだぜ?」
「店の前に置いてあった屋台が無くなっているのには気づいたか?」
「そういや無くなってたな。お前があれを無縁塚から拾ってきた時には驚いたもんだ。捨てたのか?」
「あれも商品さ。そしてそれを小傘が買っていったんだ」
「屋台でどうやって驚かすつもりなんだあいつは……」
「うらめしや」
「あ?」
「これは僕の推論なんだがね。小傘の話によると霊夢や早苗を驚かそうとしてはいつも『はいはい表は蕎麦屋』とあしらわれてしまうそうなんだ」
「……何だか、猛烈に嫌な予感がしてきたぜ」
「僕が思うに、おそらく小傘がやろうとしているのは―――」










「じゃ、かんぱーい」

 陽が落ちたのを合図に、一ヶ月ぶりになる宴会は始まった。どこもかしこも話題は夏がいつ終わるのかの心配ばかり。

「魔理沙ったら遅いわね。何してるのかしら」
「あらあら霊夢、酌の相手が私じゃ不満かしら?」
「別に。ちょっと気になっただけよ。それより紫、なんか、こう……食欲をそそるような、いい匂いがしない?」
「あら、そうね。何かしら?」
「うらめしやー!」

 唐突に、後ろからそんな声。霊夢と紫はやれやれと肩を竦め、声のした方を振り返る。

「はいはい、表は蕎麦屋―――」

 そこにあったのは―――美味しそうな匂いの煙を吹き上げる屋台から、満面の笑みでいっぱいの丼を差し出す小傘の姿だった。



「残念っ! らあめん屋さんでした!」





 その日の宴会は実に盛り上がったという。小傘は遂に人を驚かせる事は出来なかったが、代わりに人を笑顔にする事ができたのだった。





おしまい
初投稿です。壷tubo壷と申します。
以前イベントで頒布したSSであり、人生初の他人に見せる事を意識して書いた文章であります。

こうして創る側に立ってみて初めてわかったのですが、モノを創るというのは本当に大変な事でした。
この東方創想話ならびに全ての作家、作者様に対し改めて尊敬の意を。

色々と稚拙で背伸びをしたのがバレバレな文ではありますが、小傘ちゃんの可愛らしさが少しでも伝われば幸いです。
ここまで目を通していただいてありがとうございました。
壷tubo壷
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コメント



0.1200簡易評価
13.90名前が無い程度の能力削除
小傘の可愛さ、確かに受け取った
14.80とーなす削除
初投稿の方だったのか。稚拙どころか書きなれている印象すら受けました。
キャラの掛け合いが楽しかったです。特に霖之助との会話。和んだ。
16.100名前が無い程度の能力削除
まさかラーメンとはw
小傘ちゃんの元気さがGood
19.100名前が無い程度の能力削除
天丼ネタが心地いい
23.80名前が無い程度の能力削除
会話の流れがすらすらしてて素敵。これで初投稿か、次も期待してます
34.無評価ロドルフ削除
小傘の素直さに、ただただ笑うのみ