Coolier - 新生・東方創想話

おばあちゃん?

2010/09/20 23:04:10
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「藍さまー!」


 少し遅い朝食を終え、さあて寝るかな、と蒲団に入ったところで玄関の方から橙の声が聞こえてきた。続く足音から察するに、藍を探して台所へと駆けて行ったようだ。


「橙、今日は早いな。どうしたんだ?」
「さっき霊夢さんが私の家に来て、藍さまに会わせて欲しい、って頼まれまして……」
「私に? それで、霊夢はどこに?」
「玄関で待っていてもらってます」
「そうか。ご苦労だったな」


 えへへー、と嬉しそうな声がする。藍に頭を撫でてもらったのだろう。
 珍しく霊夢が来ているようなので、玄関の天井にほんの少しだけスキマを開いて覗いてみる。
 玄関の扉は開いていて、霊夢は一歩だけ入った所できょろきょろと辺りを物珍しげに見回している。霊夢が家に来るのは初めてではないけれど、いつもは私がスキマで連れて来ていたから、玄関から入るのは初めてかもしれない。
 開いた扉の外からは、少し蒸し暑い空気が流れ込んでくる。

「待たせたな。私に用事があるようだが、どうしたんだい?」
「ちょっと、相談があってね……」


 さっきまで着ていたエプロンを脱いだ藍が、霊夢の前に現れる。藍の問いかけに、霊夢は軽く額を拭ってから躊躇うように口を開いた。


「相談? 紫様に、ではなくて?」


 どこか気恥ずかしそうに頷く霊夢を見て、藍は腕を組み、少し考えるように上を向いた。……私がスキマを閉じるよりも早く。
 当然、ばっちりと視線が合う。
 乾いた沈黙に気がついたのか、霊夢も釣られてこちらを見る。この時間でも外は暑かったのだろう、見上げる霊夢の額には汗が滲んでいる。それとは別の理由で、私の額も湿り気を帯びる。
 どうやって誤魔化そうか。とりあえず……。


「てへっ」


 お茶目な少女を表現してみた。


「あー、霊夢。相談なら外で聞こう」
「そうね。……紫、邪魔するんじゃないわよ」


 ぴしゃり、と冷たい扉の音が私の心に木霊する。
 これで心も体も涼しくなったわね。めでたし、めでたし。

 ……鬱だ……寝よう。





○○○○○





「ねえ、藍。霊夢は何の相談だったの?」


 のんびりとした昼食を終え、さあて寝よう、と蒲団に入ろうと思ったら……蒲団が無かった。全く以て仕事の早い式だ。我が愛しの蒲団は、きっと夕方には帰ってくるだろう。ほかほかになって。
 仕方が無いから藍の部屋に行くと、藍が押し入れをあさっていた。私は目的の藍の蒲団にもぐり込みつつ、ついでに今朝の事を聞いてみた。


「すみません。私以外には内緒にしておく約束ですので、お教えできません」
「そう。それは残念ね」


 意識は押し入れの中に向けたまま、尻尾が返事をした。まあ、予想通りの答えだ。満足はしないが追及もしない。プライベートは尊重されて然るべきだから。 
 ……いざとなれば、覗けば良い。

 藍のため息を受け流し、蒲団の中で深く意識を沈めた。





○○○○○





 昼食な朝食を終え、さあて寝よう、と蒲団へ向かおうとしたら台所の方で橙の声がした。
 最近、なぜだかあの子は私を避けているような節がある。ゆかりん、ちょっと寂しい。


「藍さま! ついに、例のものが完成しました」
「そうか。意外と早かったな」
「はい! 昨日も寝なかったんですよ」


 例のもの、なんて勿体ぶった言い方にも釣られて台所へと向かう。


「何が完成したのかしら?」
「ゆ、紫さま! な……なんでもないですよ?」


 どうやら『例のもの』とやらは持って来てはいないようだ。
 橙は焦っている風を装ったような表情で誤魔化した。なんだか中途半端な様子で、あやしい。少しつついてみようか。
 

「貴方達、この間から私に何か隠してない? とくに、橙?」
「か、か、隠し事なんて、するわけ、にゃいじゃないですか。ねえ、藍さま?」


 今度は本当に焦った様子で、藍に助けを求めている。


「藍、本当に?」
「ええ、していますよ」

 
 しれっと真顔で答えた。


「ほら……って、藍さま? 紫さまには内緒だって、霊夢さんが……」
「霊夢も絡んでいるの? ……この間の相談の件とも関係あるのかしら?」
「橙、そこは内緒にしなくては……」
「ご、ごめんなさい」


 藍は橙の頭に手をのせて軽く注意すると、橙の尻尾が申し訳なさそうにしおれた。
 そういえば、主に橙の態度に違和感を覚え始めたのは、一週間ほど前に霊夢が来てからだったような気もする。


「それで、何を隠しているのかしら。私に言えない事なの?」
「ええ。何と言いましょうか……どっきり、と言うやつですよ。こっそりと準備中でしてね」
「それって、私に言ってしまってもいいの」
「この程度ならば問題ありません。それに、何も言わないと全部調べてしまうでしょう。紫様のことですから」


 涼しい顔のまま、意味ありげな視線を私に寄越した。
 ……分かってるわよ。これ以上は首を突っ込むな、ってことね。 
 

「そういうことです。何も知らない事にしておいて下さいね。すぐに分かりますから」
「はいはい。りょーかいしました」

「と言う事で、一件落着だ。橙、気をつけておくれよ」
「は、はい!」


 藍はもう一度橙の頭を撫でた後、そうだ、と付け足す。


「一つだけ妙な結界があったので、紫様の判断を仰ぎたいのですが……」
「どの結界かしら?」
「第9群の1094番です。状態が負の28になっていまして……」
「9の1094……電磁気に関する隔離補助結界……ならば本来は負の31よね。変換の不具合かしら。……永遠亭のすぐ近くだったわね。ちょっと確認して来るわ」


 竹林の上空にスキマをつなげると、温い空気が押し出されて来た。先週よりも若干涼しくはなっただろうか。
 さあて、ちゃっちゃと確認して寝よう。


 宙に溶けるように、音もなくスキマが消え去った。
 

――藍さま、これでよかったんですか?

――ああ、上出来だ





○○○○○





 ちらほらと黄色が混ざり始めた木々を眼下におさめながら、のんびりと目的地を目指す。頭上に高く広がる大空は、少しずつ紅に染まり始めている。そっと髪を揺らす風は、夏の終わりを宣言していた。
 霊夢に呼ばれて博麗神社に向かう。スキマをつかうな、との指示に従って飛んできた。
 道中で秋神姉妹から押し付けられた手土産を携えて鳥居を越え……ずに下をくぐる。賽銭箱の前に立ち、ちょっと思案。そっと蓋を持ちあげてみた。


「見事ね」


 底に敷き詰められたどんぐりの海にそっと手を差し込んでみると、手首まで埋まってしまった。
 
 じゃらり、じゃらり。
 両手を使い、すくって、落として、を繰り返してみる。

 じゃらり、じゃらり。
 なんだか楽しくなってきた。

 じゃらり、じゃらり。
 何故か出てきた宝塔を懐にしまい、代わりに手土産を埋めておく。
 謎の満足感を得て、静かに蓋を閉める。賽銭箱の中でどんぐりに包まれて眠っている栗と薩摩芋、それを発見して喜ぶ霊夢。そんな未来に思いを馳せつつ、神社の裏手にまわった。





○○○○○





「なんだかなぁ……」


 なんとなく予想はしていた。していたけど……
 天井には開いたくす玉がぶら下がり、『祝 敬老の日 紫おばあちゃん』の文字が揺れている。
 
 今日の面子は、霊夢、魔理沙、アリス、紅魔館と白玉楼の主従、そして藍と橙。私が到着した時には既に集まっていて、料理も用意してあった。
 私が部屋に入ってすぐに霊夢がくす玉を割った後、みんなから感謝の言葉をもらった。ふざけた様子もなく、ごく真面目に。
 え? ……ネタじゃないの?
  

「ねぇ、霊夢。なんでおばあちゃんなのかしら?」
「今の幻想郷があるのは、藍のおかげでしょ? だから、紫は幻想郷の祖母。おばあちゃん」


 霊夢は当たり前の事のように言い切った。


「私のおかげ、ではないの?」
「だって、あんた何もしてないじゃない。仕事は全部藍がやってるんでしょ? でも紫がいなかったら、今の藍もいないから」
「でも、幻想郷の生みの親は私よ?」
「発案は紫だけど実際の作業は殆ど藍がやったって聞いたわよ」
「誰に?」


 向きを変えた霊夢の視線の先では、うちの式が見えない虫を払っている。……後でおしおきね。
 視線で藍に圧力をかけていると、霊夢が躊躇うように口を開いた。
 

「紫は心は若いけど、感謝を表すには良い機会だったから……」

――でも、不愉快だったのかな
 

 そう言って霊夢は不安そうな眼差しを向ける。
 色々と突っ込みたいという思いと、霊夢の不安げな表情に挟まれて心の中に葛藤が生じる。


「その、ね……嫌とか、そういう事じゃなくて――」
「……ごめんなさい」


 後悔の混じったその一言に、心の天秤が傾いた。慌てて喜びを示そうと口を開いたとき……。


「……ぷっ!!」


 魔理沙が吹いた。それにつられて周りも笑いだす。
 わけも分からず周りを見渡すと、きょとんとしている橙と目が合った。ちょこんと首を傾げている。
 また霊夢に視線を戻すと、腹を抱えて笑っていた。
 

「……謀ったわね」
「あははははっ!! ゆ、ゆかりったら……おろおろしちゃって……くっ、ぷぷっ」
「そ、そんなに笑う事ではないでしょう?」
「紫が慌てる姿なんて、めったに見られないものね」
「べ、別に気にしてなんかないんだから。勘違いしないでよねっ」


 幽々子に冗談を返したら、霊夢の笑いが途切れた。
 急な沈黙が痛い。


「え? なんでみんな黙っちゃうの」
「ま、まあ。日頃の行いって奴だ。それより、橙が何かあるみたいだぜ」


 露骨な話題転換。
 まあいいか。気にしない、気にしない。


「それで、何かしら?」 
「あの……いつも、お世話になっています! これ、私が一生懸命編みました。よかったら、使ってください」
「あら、ありがとう。これは、毛糸の靴下ね」


 茶色の紙袋の中には、紫色の靴下が一足。藍色と橙色の模様が入っている。


「はい! 藍さまに教わりながら作りました」
「橙、ありがとう。嬉しいわ」
「えへへ」


 和むわね。さっきまでの空気は一瞬で消えてくれた。こんないい子を藍の式にしておくのは勿体ないわね。


「では紫様、私はこれを」


 続いて問題の式神から、何食わぬ顔で花瓶を差し出された。手の親指くらいの直径で、ひょろりと細長い。色は、全体がむらのある薄い青色に塗られている。


「あなたと違って、ずいぶんとかわいい花瓶ね」
「殴るなり、食べるなり、お好きなようにお使いください」
「……あなたが私をどういう風に見ているか、よく分かったわ」


 この子も昔は可愛かったのに、いつの間にかふてぶてしくなっちゃって……。
 嘆いている間に魔理沙が出てきた。何かしら?


「私からはこれを贈るぜ」
「貴方も用意してくれたの?」
「ああ。からかうだけじゃあ悪いからな。まあ、大した物でもないんだが」


 魔理沙から袋に入った茸の山を受け取った。一つ一つは小さめの椎茸くらいで、茎はくすんだ黄色、同じく黄色の笠には黒い斑点が浮かんでいる。


「これはフロバタクアンダケと言ってな、名前の通り沢庵の味がするんだ」
「フロバの方はどういう意味なの」
「ああ、それは主に風呂場で採れるからだ」


 霊夢の問いかけに、魔理沙は即答した。
 貴方、よくそんなものを食べようと思ったわね。……あとで藍にでも食べさせてみよう。生で。


「霊夢も何か用意したのか? 芋羊羹とか」
「するわけないじゃない。私はこの宴会がプレゼントよ。今回はほとんど私が準備したんだから。大変だったのよ」


 そう言って、霊夢は大仰に腕を広げて室内を見渡した。といっても、特別なものはくす玉くらいしかないが……。
 どこから引っ張り出してきたのか、大きめの机の上に並んだ料理もなかなかに気合が入っているようで、美味しそうだ。
 確かに準備の手間はかかっただろう。これで十分だ。


「さてと、次は私の番かしら。ちょっと待ってて。今、召喚するから……」


 続いて出てきたアリスは、人差し指で宙に何かを描き始めた。指先の動きを辿るように、淡く青い光が生まれて留まる。


「お、アリス……まるで魔法使いみたいだな」
「ありがと。あんたもね」
「よせよ、照れるぜ」


 円とそれに内接する六芒星。軽口をたたきながら、更に何かを書き足している。


「使い魔的なものなら、間に合っているんだけど」

 
 私がちらりと藍と橙の方を見ると、アリスも二人を一瞥してから言いきった。


「使い魔? そんなものより断然いいものよ」


 そんなもの呼ばわりされて軽く落ち込んだ橙を、藍が慰めている。……でも藍、今の言い方だとあなたも含まれているのよ?
 
 そうこうしている間に魔法陣が完成していた。
 アリスが何かを呟くと、一瞬だけ魔法陣から青い光が溢れ出し、やがて明滅しながら空中に溶けて消えていった。
 不思議と目は眩まず、召喚されたものをすぐに確認できた。人型をしていて、十代半ばの人間くらいの大きさで……。


「はい、お待たせ。等身大魔理沙人形。この間夢中になってたら、少し作りすぎちゃったのよね。捨てるのも勿体ないし、特別に分けてあげる」


 きっと、自宅から取り寄せる為の術式だったのだろう。
 人形は、一見すると本物そっくりだった。本人と見比べてみると、さすがに人形である事は分かるが、見事なまでに再現されている。


「……うへぇ」


 魔理沙が自身の人形の頬をつつき、眉間にしわを寄せてうめき声をあげた。
 私もつついてみる。人形をつつき、魔理沙をつつき……。
 なるほど。手触りは布だが、弾力は完全に人間のものだ。


「どう? すごいでしょ。弾力は完全に再現したのよ。それに服は下着まで完璧に同じものになってるわ。随分と研究したんだから」
「……ふむ、これは見事ね。今度フランの人形も作ってもらえないかしら?」
「でしたら、私は美鈴をお願いします」
「私は橙を――」
「わたしは芋羊羹」
「幽々子様、それでは食べられませんよ?」


 今の今までずっと静かだった吸血鬼とメイドが、やたらと食いついて来た。ちなみに幽々子は半霊に食いついている。
 ……狐? そこで静かに寝てるわよ? 多分息はしてるんじゃないかしら。


「魔理沙、友達は選びなさい。こんなのが部屋中に溢れているのよ、きっと」


 霊夢が呆れたように忠告する。


「こんなのとは失礼ね。よく出来てるじゃない。それに魔理沙人形はきちんと倉庫に保管してるわよ。部屋に置いておいて見つかったらまずいじゃない」
「いや、良く出来てるから問題なんだよ。それと、あとで他の私の人形を処分しに行くぜ」


 もみもみ。
 確かに、本当によく出来てるわね。

 もみもみ。


「私よりも少し小さいですね」
「お、お前ら……変な事をするな!」


 妖夢と二人でいじっていたら、本人に取り上げられてしまった。


「紫様、いつもお世話になっています。これは日頃の感謝の証です。どうぞ受け取ってください」


 今度は妖夢から、ぺこりと一礼してから、小さな紙袋を渡された。袋の中に入っていたのは、鈍く光る黒い石。両掌からはみ出す程度の長方体で、ずっしりとした重みがある。


「ざらざらしてるわね。砥石、でいいのかしら?」
「それは師匠が私に残してくれた、大切な砥石なんです。でもやたらと大量にあるので、処分に困っていまして……。暇な時に包丁でも研いでみて下さい」
「妖夢、流石にちょっと……失礼じゃないかしら?」


 もう少し気のきいた言い方は無かったのだろうか。幽々子も同じ思いだったのか、ちょっと顔をしかめつつ妖夢に問いかけた。 
 幽々子の言葉に妖夢は不思議そうな顔をするが、理由に気がついたのか、あたふたと慌て始める。


「ああっ! 申し訳ありません。紫様は包丁をお使いになれませんでしたよね」
「それもあるけどね、妖夢……それって漬物石にしていたものでしょう?」
「そうですけど……あっ、匂いが気になりますか? では代わりに何か……」


 ……これでいいわよ。藍にでもあげるから。


「じゃあ、妖夢。わたしからの贈り物を紫に渡してちょうだい」
「……何のことですか?」


 幽々子は自信満々に指示を出したが、妖夢はきょとんとした顔を返した。


「あら? 今朝言わなかったかしら。何か適当に用意しておいてって……」
「いえ、聞いていませんよ」
「もしかして……言い忘れちゃったみたいね。てへっ」


 可愛く言って誤魔化すな。……それは私の専売特許だ。


「どうするんですか? 藍さんから何か用意するように言われていたのに」
「何とかして頂戴。妖夢、腕の見せ所よ。期待してるわ」
「そんな、無茶を言わないでくださいよ。私だって、もう何も持って……」


 二人でこそこそと話し合っていたが、妖夢は唐突に自らの懐へ意識を向けた。


「紫様。これは、幽々子様からの贈り物です」


 何事もないような風を装って、妖夢が懐から長方形の透明な密封容器を取り出す。中に鎮座している、一口大に切られているそれは、一目見れば何であるかはすぐに分かった。しかし、一応尋ねておく。一体どういうつもりで差し出したのか、と。


「これは最近人里で話題になっている、とある老舗の――」
「昨日のお夕飯の残りの沢庵ね。本当に、妖夢も作るの上手になったわー。妖忌もなかなか――」


 幽々子の口角がきらりと光る。どうせ昨日の夕食でも思い出しているのだろう。
 とろけそうな顔をしている幽々子の耳に口を寄せて、妖夢があまり小さくもない声で囁いた。


「幽々子様! 余計な事を言わないでくださいよー。せっかく誤魔化せそうだったのに……」


 なんか、もう……いいや。いつものことだけれど、この二人と話していると気力を奪われていくようだ。礼儀として、一応感謝の言葉を返しておく。
 さあて、次は……。


「ほら。流れを読んで私もこれをあげるわよ」


 偉そうに胸を張りながら吸血鬼が放って寄越したのは、一升瓶ほどの大きさの透明な瓶。中に満たされた真っ赤な液体は、トマトジュースか血液か。


「敵に塩を送るってやつね。鉄分もたっぷりだけど」
「……ありがたく頂いておくわ」


 後者だったようだ。これを、私にどうしろと言うのだ……。ちなみに、「当然B型」らしい。心底どうでもいいけれど。


「私からはこれを差し上げます」
「ナイフ?」


 レミリアの後ろから、するりとメイドが出て来る。渡された白い木箱を開けてみると、敷き詰められた綿の上には鋭い刃を持つナイフが一本。きらりと瀟洒に光る銀色の刃は、かなり切れ味が良さそうだ。 


「これは銀を特殊な方法で鍛えたもので、沢庵と吸血鬼と芋羊羹に対しては特に優れた効果を発揮するものです」


 それは随分と美味しそうな吸血鬼だ。そしてここでも出てきたか、沢庵よ。


「こら」
「あたっ。何をなさるんですか、お嬢様」
「敵にそんな危険のものを渡してどうするのよ」
「お嬢様、ご心配には及びません。もしも彼女がお嬢様に危害を加えようとすれば、この私が命を賭してでもお守りいたします」
「……ばか。そんなこと、当然でしょ」


 咲夜はレミリアの後ろにまわり、そっと背中から抱きしめた。


「はいはい。そんなことにはならないから、安心して頂戴。ありがとう」


 人の家で何をやっているんだか。もう放っておこう。

 
「ねぇ、早く始めましょう。お腹すいたわぁ」


 みんなからプレゼントをもらい終えると、やっと終わった、とばかりに幽々子が促してきた。熱い視線は皿の上の料理に釘付けだ。もう一人も空腹だったのか、橙も待ちきれない様子でいる。


「良く分からないものもあったけど、ありがとう。嬉しいわ」
「もういいの? じゃあ、適当に始めましょう」


 霊夢の宣言と同時に、どこからか萃香がやって来た。


――よっし! 存分に飲むぜ!

――おー!!

――萃香、あんたいつ来たのよ

――んー? 今だよ、今。そうだ、おばあちゃん。これあげる

――あら、ありがとう

――隙間殺し? お酒なの?

――いい酒だよ。今度霊夢にも持ってくるよ





○○○○○





――26番、霧雨魔理沙。また歌うぜ!

――咲夜、貴方も一緒に歌いなさい
 

「藍、貴方が言っていたドッキリって、この事だったの? 宴会だけではなかったのね」


 全員にだいぶ酒が入ってきた頃、藍に尋ねた。
 向こうでは、魔理沙と咲夜の熱唱にアリスが魔理沙人形を躍らせている。


「ええ、そうですよ。驚きませんでしたか? こんなに贈り物をもらう事は、珍しいのではないでしょうか」
「……そうね。使い道に困るものも貰ったけどね」


 むしろ、使い道に困るものばかり貰った気がする。


「大切なものは、気持ちですから。みんな紫様には感謝している、ということです」
「ふふっ、ありがとう」


――ねえ、ゆかりー。魔理沙のプレゼントを食べましょう

――半分だけね。残りは藍が食べるから

――ええっ! 私もですか?

――はい

――ん、美味しいわぁ

――い、いただきます……ごふっ





○○○○○





 開け放たれた障子の向こうでは、木々が月明かりに照らされて、ざわめいているようだ。時折通り過ぎる風に、庭の落ち葉が身を揺らす。部屋に流れ込む空気から、寒い冬への準備が始まりつつあることを肌で感じる。
 障子を閉めて、室内に目を向ける。宴も終わり、紅魔館と白玉楼の主従は帰ってしまった。残っているメンバーは、みんな畳の上で寝ている。


「紫、ちょっと手伝ってくれない?」


 霊夢が寝室から毛布を引っ張り出してきた。この時期、この時間帯は結構冷える。普段はあまり表に出さないけれど、霊夢はしかっりと気のきく良い子なのだ。
 受け取った毛布を、一緒に寝ている藍と橙に掛けておく。霊夢は魔理沙とアリス毛布をかぶせて、また寝室の方へ行ってしまった。私も、なんとなくついて行ってみる。


「霊夢、今日はありがとう」


 寝室で、押し入れの戸に手をかけている霊夢の背中に感謝の言葉を掛ける。今日は嬉しかった。敬老の日というのが今一つ釈然としないが、それでもこうやってもてなしてもらえると嬉しいものだ。
 短い沈黙の後、霊夢は何も言わずにゆっくりとこちらに振り向いた。その手には、桃色の花が一本。


「紫、これ……私からの、プレゼント」


 霊夢は恥ずかしそうに顔を伏せて、花を差し出している。私は、そっと両手でそれを受け取った。細い茎の先に、大きな桃色の花が一つ。茎の部分には紫色のリボンが結んである。
 

「……カーネーション? でもこれは、母の日――」
「紫はさ……私にとって……」


 私の言葉を遮るように声を発した霊夢は、しかし続く言葉を飲み込んで、ぷいと横を向いてしまった。頬が真っ赤に染まっていて、この上なく愛らしい。
 途切れた言葉の先が、お母さんでも、おばあちゃんでも、関係ない。この胸に満ちる温かさは、とめどなく湧き出る愛しさは、二人だけの宝物。
 
 何も言わないでいると、霊夢がちょっと不安そうな目で見つめてきた。赤い頬に、揺れる瞳、身体は少しもじもじと。私の心臓が、ぴくりと跳ねる。
 藍の言っていた、ドッキリの意味が、今はっきりと分かった。そして、花瓶をくれた意図も。我が優秀な式神は、今頃毛布の下でにやりと笑っている事だろう。
 
 スキマを使って、藍からもらった花瓶を空中に固定してカーネーションを挿しておく。
 小首を傾げて私を不思議そうに見る霊夢に、少し歩み寄る。そのまま、思い切り抱きしめた。私の胸の中で霊夢が苦しそうにしているが、知らんぷり。こんな気持ちにさせた、霊夢のせいだ。
 
 霊夢を十分に堪能した後、ちょっとだけ腕の力を緩める。ぷはっ、と霊夢が顔を出した。腕の中から私を見上げる顔は、不満そうで、満足そうで、でもとにかく恥ずかしい、そんな表情。
 私は二、三回霊夢の髪を優しく梳いてから、耳元でそっと囁いた。


「……霊夢……大好きよ」
今日は敬老の日ですが、母の日も混ぜてみました。


カーネーションって、色によって花言葉が違うんですね。
他の花も色によって花言葉が変わるのでしょうか。
ピンクのカーネーションは、「感謝」や「温かい心」だそうです。
今更? でも知らんかった。


感想や批評、アドバイスなどありましたら是非よろしくお願い致します。
読んで頂きありがとうございました。

追記:2010/09/24

・3 様
 5 様
霊夢は、博麗の巫女としては自立していて、紫を単に幻想郷維持の為の協力者と見ている。
しかし一人の少女としては、まだ人間的に完成しておらず不安定で、紫に対しては心の奥底に無条件の信頼と甘えを持っている。
私の脳内ではそんな感じです。

・4 様
 15 様
ありがとうございます。楽しんで頂けたなら幸いです。

・11 様
貴重なご意見ありがとうございます。
紫には、前半から中盤ではみんなから少しぞんざいな扱いを受け、その反動もあって最後の霊夢のプレゼントでより大きく心が揺さぶられる、という流れを想定していました。
霊夢一人を強調したかったのですが、今度は他のキャラがうざいだけの存在になってしまったのでしょうか。
ハートフルだけれどそれだけでなく、他にもどこかに笑いも盛り込みたいと思っていたのですが、欲張りすぎたか、そもそも笑いのつぼを押さえられていなかったようですね。
本作では場面ごとの描写を意識しすぎて、逆に全体としてのまとまりが無くなってしまったのかもしれません。

批評を頂くことにより、自分だけでは気付かなかった問題点が見えてきました。
今回の反省点を踏まえて、今後の創作活動に生かしていきたいと思います。

・20 様
そうやって安心していられるのも今のうちです。
ついつい掃除をさぼっていると……ほら、あなたの家にも……。

・26 様
沢庵美味しいです。

追記②:2010/10/05

・40 様
そう言って頂けると、私も幸せです。
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コメント



0.1630簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
藍さまはここまで計算していたか…

やっぱり霊夢にとって紫はそういう存在に近いんだろうかね。
うん、いいお話でした
4.80名無し削除
ニヤニヤ
5.100名前が無い程度の能力削除
やはりこの金色の大妖怪は博麗の巫女にっとっての全てか…
霊夢さんは親子愛とか友愛とか恋愛とか区別しないでただ純粋に好きなだけなんだぜ、きっと
ソースは俺の脳内に
11.20名前が無い程度の能力削除
うーん、全てにおいて中途半端かも。
ハートフルにしてはうざいキャラが多すぎで、ギャグにしては破壊力がない。
落ちも弱いし、微妙な感じでした。
15.100名前が無い程度の能力削除
ゆかれいむペロペロ
20.100名前が無い程度の能力削除
カオティックなプレゼントが…
フロバタクアンダケでぐぐってみた
存在しなかった
なぜか凄く安心した
26.100名前が無い程度の能力削除
沢庵すぎるw
40.100名前が無い程度の能力削除
ギャグかと思いきや、最後で幸せな気持ちになれました
45.100名前が無い程度の能力削除
妖夢が天然で黒いのが何とも言えねえ
(沢庵を)倍プッシュだ…!