Coolier - 新生・東方創想話

紅魔の館に棲む者は

2010/09/18 06:57:14
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 ―――降りしきる雨の中、少女は冷たさを少しでも凌ごうとマントを被った。
先程戦った傷が痛む。悪魔族なので治癒速度は早いものの、痛みだけはどうにもならないのだ。

「……痛っ!」

 自ら手当をするも、痛みに表情を歪めてしまう。簡単に手当を終え、戦闘の疲れから眠気を覚え、
少女はそのまま寝入ってしまった。時は今より昔、妖怪や人間同士の争いが絶えることがない時代である。
悪魔の少女は夜明けと共に目覚め、周囲に敵がいないのを確認してから、食事を摂ることにした。
食事といっても、パン一つ。悪魔族は最低限空腹を満たせばよいので、いつも食事のメニューは変わらない。
少女は無表情のまま、パンをちぎり口にした。

 少女の名前はリトル。悪魔の親を持つ…らしい。「らしい」というのは、リトルに親に関する記憶が無いためである。
物覚えがついた頃には、既に今と同じ生活をしていた。悪魔というだけで忌み嫌われ、攻撃される。人間だけならともかく、
かつては仲間であった妖怪の者達からも。

 ただ、リトルにも唯一の味方と呼べる者がいる。吸血鬼ハンターと呼ばれる女性、咲夜である。
彼女は人間にも関わらず、時を止める術と、自ら会得したナイフを扱った戦闘方法で、
リトルと同じように毎日を過ごしていた。彼女もまた、その能力から「化け物」などと言われ、
忌み嫌われていたのだ。リトルが戦闘を覚えたきっかけは、咲夜だった。リトルが右も左もわからない頃に、一人でさ迷っていたのを、
咲夜に保護された。そして身を守る術を咲夜から教わり、自ら鍛練を積み重ね、今のリトルになったのだ。

 リトルと咲夜は常に行動を供にしているわけではない。一緒に居ればその分狙われやすく、包囲されやすいからだ。
たまにお互い顔を合わせても、お互いの無事を確認出来ると、話すこともなく他人の振りをする。
下手に仲間の振りをすると、かえって狙われやすくなる。ここはそういう場所だった。

 咲夜は紅い館に棲むと言われる「永遠に紅き幼い月」と呼ばれる吸血鬼を追って旅をしていた。
吸血鬼を根絶させる、それが咲夜の目的であり生きる理由であった。
咲夜にとっては、悪魔も魔法使いも妖精も、皆同じ妖怪であった。
どうして能力を奪おうと争うのか、理解出来なかった。人間と妖怪の共存、
今の世界では考えられないことだったが、 後に人間と妖怪が平和に共存出来る世界が造られるようになる。
それはまた別のお話…。

 すっかり雨もあがり、温かい陽射しを受けてリトルは歩き出した。リトルは咲夜への恩返しのつもりで、
吸血鬼ハンターを手伝っている。もちろん最終目的は「永遠に紅き幼い月」であった。
咲夜とは別々な道を進んでいるが、お互い確実に紅い館に近付いていた。
雨上がりから数日経ち、リトルは咲夜と再び出会った。二人の視線の先には紅い館…。

「リトル、解ってるわね?」
「はい、咲夜さん」
「ここからが正念場よ、気を抜かないように」
「ええ解ってます、もうすぐ終わる…」

 咲夜の目的は、ただ吸血鬼を倒すだけではなかった。今の世界を統率しているであろう
「永遠に紅き幼い月」を倒せば、平和への道が開けるのではと狙っているのだ。
吸血鬼が眠っているであろう日中に、二人は紅い館へと足を運んだ。
紅い館は、西洋風の少し古ぼけた建物だった。しかし綺麗に手入れされている庭、
それは庭園とも呼べる美しさであった。そんなのには目もくれず、
彼女らは大きな門を開いた。すると危険を察知したかのように、
メイドの姿をした妖精が武器を持って次々と館の中から出てきた。

「くっ、貴様ら吸血鬼の使いか!」
「ここから先は通しませんよ・・・」
「フン、私と咲夜さんにかかれば・・・!」

 リトルの周りに炎が生まれる。

「火符、アグニシャイン!」

 妖精メイドたちが炎に包まれる。そこに咲夜が追撃を入れる。

「幻世、ザ・ワールド・・・!」

 一瞬時が止まり、刹那メイド妖精たちの周りに多数のナイフが設置されていた。

「あううっ!!」

 メイド妖精たちにナイフが一気に突き刺さる。

「リトル、ひとまず前衛は突破だ、このまま行くぞ!」
「はい、咲夜さん!」

 最初に出てきたメイド妖精たちを倒した彼女たちは、身軽い動作で館の中へ進入した。
館のエントランスホールと見られるそこは、とても広く、綺麗だった。
そしてわらわらと妖精メイドたちが現れる。先程の倍以上の数である。

「咲夜さん・・・この数では・・・」
「ええ・・・」

 さすがに厳しい量であったが、もう後には退けない。やるしかなかった。

「リトル、行くしかないわ・・・!」
「は、はい!」

 とりあえずやってみるしかなかった。まずは左からだ。

「水符、プリンセスウンディネ!」

 メイド妖精たちを濡らし、移動速度を遅くさせる。

「幻在、クロックコープス!」

 ナイフが散らばり、メイドたちに刺さってゆく。
と、そこに一際大きな気配がした。

「貴様たち、この館に何の用だ」

 妖精メイドたちは一気に引き下がり、一回り程大きな女性の姿をしたヴァンパイアが現れた。
そう、彼女こそが咲夜が追い続けていた永遠に紅き幼い月である。

「我が名は咲夜、吸血鬼ハンターの名の下にお前を討伐する!」
「フッ、たかが小娘に何が出来ると言うのだ。・・・いいだろう、貴様らの力量見せてもらおうか」

 そう言い放つと、吸血鬼は紅い光の槍を彼女らに向けて投げつけてきた。

「神槍、スピア・ザ・グングニル!」

 その槍の破壊力は、まさにケタ違いだった。咲夜は時を止め、何とか避けることに成功したが、
リトルは避け切れなかった。

「くぁっ・・・!!」
「リトルっ!!」

 槍そのものと、その衝撃に吹き飛ばされ、リトルは大怪我を負ってしまった。
その吸血鬼の力は、咲夜が想像していたよりかなり常識外れな力であった。
もう一発やられると、リトルを庇う事を考えると到底耐えられるものではなかった。

「くっ・・・ここまでか・・・!」
「何だ、もう終わりなのか、なら終わらせて・・・ん、これは・・・」
[newpage]
 吸血鬼は彼女らを見ながら、不思議そうな顔をした後、不意に笑い出した。

「クックック、それは面白い・・・お前ら、私の配下となるがいい」
「何だと!」
「見えるのだ、お前らの運命がな」

 吸血鬼いわく、彼女には咲夜たちの運命が見えるという。それによると、彼女に仕えること、
それが咲夜たちの運命だという。咲夜は後にも退けない状況だったため、その命に従わざるを得なかった。
しかし、咲夜は懇願した。

「わかった、だがこれだけは聞いて欲しい・・・人間と妖怪同士の争いを無くして欲しい、これだけが私の願いだ」
「フン、くだらない・・・が、貴様が言うのなら望みくらい叶えてやろう」

 聞くとこの吸血鬼、運命が見えるだけでなく、運命を操ることも出来ると言うのだ。
その能力で、今の争いに満ちた世界を変えてくれると言う。

「ちょうど専属のメイドが欲しかったところだ、お前、名前は?」
「咲夜だ」
「そうか・・・今宵は十六夜だったな、今日からお前は十六夜咲夜、私のメイドとして尽くしてもらおう・・・それからそっちの悪魔は」
「私は、リトル・・・」
「リトル・・・お前は悪魔族か・・・よし、お前の名前は小悪魔だ、今日から司書として働くといい。
 私の名はレミリア・スカーレット、この館、紅魔館の主だ」

 咲夜とリトル、もとい小悪魔はにわかには信じることが出来なかったが、
後に今までのような争いが無くなった事を知ることになり、レミリアの能力が
本物であると信じることになる。

 ―――「と、まあこんなところですわ」
 咲夜はおかわりの紅茶を淹れながら霊夢に話した。

「へぇ、あんたたちって結局は運命で操られてたのね」
「いや、それがですね、お嬢様ったら・・・むぐぐ」
「咲夜、余計なことは言わないの!」

 レミリアは顔を赤くしながら咲夜の口を塞いだ。

「別にいいじゃないですか、今更なお話ですし」
「色々と恥ずかしいのよ、黒歴史ってやつだわ」
「それはちょっと意味が違うような気もしますが・・・」

 平和な幻想郷。この平和が普通になったのは、レミリアが咲夜たちと出会ってから
数年先であった。今の幻想郷(せかい)では、人間も妖怪も吸血鬼も平和に暮らしている。
お互いを尊重しながら、毎日楽しく過ごしているそうな。

「これも運命かしらね、咲夜」
「そうですわね、お嬢様」
「何のこと?」
「いえ、独り言よ、フフフ」 
小悪魔と咲夜さんのお話です。実は戦友だったっていうのも面白いかなと思って書きましたが、当初の目的は小悪魔書きたかっただけですw
こんな話があってもいいかな、という程度で読んでみてください。
ぱっちぇ
http://tool-7.net/?Patchouli
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