Coolier - 新生・東方創想話

訪れる 涼風を待つ 九月の日

2010/09/14 04:08:40
最終更新
サイズ
15.84KB
ページ数
1
閲覧数
1804
評価数
7/32
POINT
1850
Rate
11.36

分類タグ


折句(おりく)―――――――――――――
一つの文章、句の中に、特定の言葉を織り込んだもの。織り込む場所としては、概ね頭文字が多い。
性質としては『あいうえお作文』と近いが、字数制限がある点が異なっている。
『からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ』(それぞれ、頭文字を取ると「かきつばた」となる)などの作品が有名。



立秋を過ぎ、暦の上では既に秋を迎えた幻想郷。

夏休みも終わり、寺子屋では、級友たちと楽しそうに会話を弾ませる子供たちの姿が見渡せる。
彼らを教える慧音もまた、ほぼ一月ぶりとなる久しぶりの授業に、季節の移り変わりを感じていた。
里で働く人々も、秋の収穫に向けてそろそろ準備を始める頃合である。
長かった夏も、もう間もなく終わりなのだ。

だというのに、以前と変わらぬ素振りで燦々と輝く日差しは、和らぐ気配をまるで見せようとはしない。
里では未だに暑気負けで倒れる者がいたし、永遠亭の面々も、そんな患者たちの為に東奔西走する日々だ。
暑さはまったくといっていい程に収まらず、それどころか、体感的にはますます暑くなっているのではないかとさえ感じられる。

もはや幻想郷の風物詩となった、人妖による氷精の取り合いは尚も続く。今日もまた、最高気温は30度を優に越えようとしていた。



「暑い……」
一人呟いたのは、スキマの大妖こと八雲紫。
彼女は手に持った扇子でパタパタと己の身を扇いでいたが、熱風が吹くばかりでちっとも役に立たたず、めげている所であった。
丁度時刻は午後の2時を回る頃合である。気温としては一日でも一番暑いときなのだから、扇子を使う程度では、涼めなくても仕方のない話だろう。
やがて紫は諦めたかのようにそれを閉じると、スキマから取り出したハンカチで、自らの額に浮かぶ汗を拭う。

「こう暑いと、流石にまいるわね」
心底疲れたような声を出すと、紫は座っているのも嫌になったのか、ごろりと横になる。
連日の30度越えという気温は、いかなる大妖怪といえども辛いものだ。
おまけに今は、紫の健康を気にした藍がエアコン禁止令を下していたため、彼女は文明の利器に頼る事もままならなかった。

「とりあえず、何か飲みましょうか……藍!悪いんだけど、麦茶を一杯もらえない?」

居間から紫が声をかけると、庭掃除をしていたらしい藍の「はーい、ただいまー!」という返事が聞こえてきた。
多少離れた場所にはいたものの、どうやら用件はきちんと伝わったようだと紫は安堵する。

冷たいものでも飲めば、また気分が変わるに違いない。
半ば無理やり自分に言い聞かせると、紫は再び扇子を開き、気休め程度に涼を取るのだった。



「何でこんな暑い日に、こんなあっついものを出してくるのよ……」
「冷たいものの取りすぎは、身体に毒ですから。暑いときこそ熱いもの、です」

呆然と目の前に置かれた湯飲みを眺める紫と、さも当然かの様にそう答える藍。
嘘でしょ、何故こんなことを、と紫は絶望したような目で、藍を見やる。

『麦茶』というオーダーに藍が出してきたもの。それは、冷蔵庫に入れて冷やしてあった麦茶を、やかんで煮ることにより、一手間加えた代物だった。
当然、湯飲みの中身はホカホカのアツアツである。早い話、紫の飲みたかった『冷たいもの』とはまるで真逆のものを、藍は出してきた訳だ。

予測も出来なかったあまりの事態に、紫はガクリと項垂れる。

(明らかに、その一手間はいらないでしょ……)
温かな湯気を出しているそれは、彼女をげんなりさせるのには充分すぎた。
味そのものは決して悪くないし、藍の言っている事は完全に正論だ。たしかに、つまらないことでお腹を壊してしまっては敵わない。
だが、どう考えてもそこまでする必要はないだろう。
というか、そもそも紫は冷たいものが飲みたいから、わざわざ『お茶』ではなく『麦茶』をくれと言ったというのに。

この式、ちょっと真面目すぎやしないかと、思わず机に突っ伏す紫。
その横では、藍が涼しい顔をして、お茶請けの煎餅を頬ばっていた。ばりばり。

「やっぱり、エアコンつけましょうよ」
「ダメです。昨日も一昨日もそう言って、エアコンに頼りきりだったじゃないですか。身体に良くないですよ」
「このとんでもなく暑い部屋にこもってるのと、どっちが健康に悪いと思うのよ」
「部屋から出ればいいじゃないですか」
「外も暑いし、第一ここが暑すぎて、出る気力もないのよ」

気だるげに言いながら、紫は再びクテッと横になる。
その姿からは、普段の余裕たっぷりといった姿は殆ど見えない。
このあまりの暑さには、彼女もそれだけ追い詰められているのだ。

主の情けない姿に、藍は「ああ言えばこう言う」とでも言いた気な、呆れた表情を浮かべる。
外が暑いのはたしかだが、風がある分ここよりはマシだろう。それに、あちこち動いていた方が、気分も紛れるのではないか。
というか、掃除ができないから出て行ってほしい。割と切実に。

そんな藍の冷たい視線を痛いほど感じた紫。しかし、彼女は特に意に介した様子もなく、いきなりガバリと思い切りよく立ち上がる。
そして、閉めっ放しになっている、縁側へと繋がる障子に向かって手をかけた。

「まあ、とりあえずは外の風でも取り込みましょうか。たいして涼しくなるとも思えないけど」
言いつつ、紫は障子をがらりと開く。
すると途端に、日光が部屋一杯に差し込んだ。その想像以上の眩しさに、思わず二人は目を瞑って眩しさを堪える。
部屋に多少の風は入って来たものの、それ以上に強い日差しも照りつけ、結果としては決して良好とは言えなかった。

「少しはマシかなと思ったけど、日差しもかなり入ってきて……」
「却って、暑く感じるかもしれませんね……」

ジリジリと照りつける太陽。それに加え、未だに鳴き続けているセミの声もまた、暑さを増幅させる。

これには、流石の藍もまいってしまったようだ。
黙って障子を閉じる紫と、そんな主に黙ってエアコンのスイッチを差し出す藍。
『ピッ』という音のあとに冷風が部屋全体を包み込み、二人はほっとしたように息をついた。

「それにしても、今年の暑さは異常ですね」
すっかり涼しくなった部屋で麦茶を啜りつつ、藍が呟く。
彼女の言う通り、この夏の暑さは異常だった。
気温が30度以上もあるような日が連日続き、おまけにそれは、9月に入っても尚収まる気配を見せない。
『秋姉妹「出番はまだか」と暴動を起こす!』というのが本日の文々。新聞の一面であったが、それも頷ける話だ。
既に、夏バテで二人とも倒れて騒ぎは終わったらしいが。

先程までと打って変わり、美味しそうに温かな麦茶を飲んでいる主を一瞥すると、藍は続ける。
「たしかにこう暑いと、紫様が外に出る気がしないというのも分かります」
「でしょう?こんな日は、冷房の効いた部屋にこもっているのが一番なのよ」

『ふふん』と何故か胸を張って言う紫。
そして、彼女はそれをキッカケに『暑い日に、何もせずエアコンの前にいる素晴らしさ』について、とうとうと語り出した。
曰く「人間だろうが妖怪だろうが暑いのは嫌なんだから、そんな中で無理して動くことないじゃない」
そう、やたら活き活きと話す主の姿に、藍は思わず一つため息をつく。

と、紫はふいに何かを思いついたような表情を浮かべ、愉快そうに微笑んだ。
彼女は縁側に向かって立ち上がると、障子を少しだけ開き、相も変らず照り続ける太陽を見つめる。
その様子を見て怪訝そうな表情になる式は無視し、紫はそのままの姿勢で、独り言のように呟いた。

「でも、本当に、外の熱気はすごいわね」
「ええ。まあ、そうですね」
「ふふ。『焼き尽くす 狂おしいほど 燃える火よ』なんて。そんな大袈裟なものでもないけれど」
「? それって、有名な川柳か何かですか?」
「さあて、ね」
不思議そうな顔を浮かべる藍に、紫は思わせぶりな目配せをして答える。

「じゃあ、こんなのはどう?『歴とした 異変解決 無類の名人』」
「それは、霊夢の事でしょうか?でも、紫様が作られたにしては、どこか句に違和感があるような……ああ」
何か思い浮かんだのか、思案顔から明るい表情になって、藍は言う。
「ようやく分かりました。折句ですか」
「ご名答。貴女にしては、時間がかかったわね」
「いきなり言われても、ピンと来ませんって」

ニヤニヤとしながら言う紫に対し、困ったように笑いながらそう答える藍。
彼女の言う通り、先程の二つの句はいずれも折句になっており、句の頭文字を並べると、それぞれ『八雲』と『霊夢』という言葉が現れるようになっている。
違和感があるのは、句の頭文字が固定されている故のものだ。本来使いたい語が固定の文字から始まるものでなければ、それを使うことは諦めざるを得ない。
もっとも、この遊びは、その『固定された頭文字から、いかに自然な句を読むか』というのが醍醐味なのだが。

「面白いですね。まだあるんですか?」
「結構あるわよ。暇を潰すのにいいから」
「頭も使いますしね」
「そうね」
「ボケの防止にもなりますし」
「藍?」
「ヒィッ」

本気の睨みでもって藍を黙らせる紫。
それに対し本気でビビる藍に満足したのか、彼女は元の表情に戻ると、スキマから、ぷりてぃーなウサギの絵が描かれた一冊のノートを取り出す。

「ええと、それにまとめられているんですか」
「そうよ。外の世界で見つけたんだけど、うさちゃん可愛くって♪」
「年甲斐もない」
「藍?」
「ヒィッ」

懲りない二人である。

藍はペコペコと頭を下げて主のご機嫌を伺うと、渡されたノートの中身を開く。
そこには、紫が先程言っていた通り、様々なものや人物の名前を織り込んだ、折句の作品が記されていた。
パラパラとページを捲りながら、藍はどんな作品が載っているかをチェックしていく。

「ふむ……紫様、『礼儀無し 意地汚くて 無節操』って、これ霊夢が聞いたら怒りますよ」

藍が見つけたのは、霊夢の名前を織り込んだ、あんまりにあんまりな折句だった。
他が一文字一文字丁寧に書かれている中、これだけが殴り書きのような字で書かれていたため、目に留まったのだ。
こんなものを霊夢本人が知った日には、おそらく激怒ではすまないだろう。想像するだけでも恐ろしい。

だが、紫は藍の言葉に、心外だとでも言いたそうな表情を浮かべる。

「だって、このときの霊夢ったらひどかったんだもの。スキマを使って入っていくなり、殴るわ蹴るわの暴行で」
「それは、紫様が霊夢の着替えている最中に、敢えて入って行ったからでしょう。自業自得ですよ」

ああ冷たい式ねえ、よよよ、と嘆く主は華麗にスルーし、藍はさらにページを捲くっていく。

「『宴会に 行き辛いです 嫌われて』……映姫様ですね。あの方も、酒の席ですら平気で説教する悪い癖がなければ、こんなことにはならないと思うんですが」

藍が言うと、紫も同意するように「そうなのよねえ」と頷く。
宴会の度、誰かしらが映姫に説教を食らうのは、もはやお約束だ。
当然、藍も紫も、1度や2度ではきかないほどに宴会での説教を経験している。
ただ、叱る方も叱られる方もお互いに酔っているため、その光景は傍から見ればかなりグダグダではあるのだが。

「彼女の説教を真面目に聞いてる者は少ないけどね。宴会では特に。それに、実際彼女はこんなこと気にしていないと思うけれど」
「でしたら、こういう句を作るのは、余計なお世話じゃないですか?」
「あら。どうせ私は一介の妖怪で、名高い閻魔様に余計なお世話をするなんて言語道断。そう言いたいのかしら、藍?」

ニコリと微笑み、紫は藍に問いかける。
敵わないなあと、藍は再びページを捲り、作品を見るふりをして誤魔化した。

「ちなみにこれ、本人にも見せたんだけど」
「見せたんですか!?」
「『貴女には人を慮る気持ちというものが足りない!』って怒られそうになったから逃げてきたわ」
「その時点で、既に充分怒られてるじゃないですか……おっと」

そこまで言った所で、気になるページを発見したのか、藍は手を止めた。

「これは、山の神様たちの折句ですか?」
「当たり。藍、冴えてるわねえ」
「いやいや、流石にこれは、誰でも分かりますよ」
内容に目を通さずとも藍が一発で分かったのは、このページだけ、可愛い挿絵がついていたからだ。
逆に言えば、そんな挿絵まで付けたくなるほどに、紫はこのページの作品に自信があるということだろう。
蛇や蛙の絵と共に書かれた折句を、彼女は読み上げていく。

「『蛙連れ なりふり構わず 越してきた』『住めば都 私は暮らすよ この場所で』『さよなら故郷 涙は見せず 笑顔でね』」
「いいでしょう?この3つは結構、私のお気に入りなのよ♪」
「たしかに……」

紫の言葉に、思わず藍は一つ頷く。

諏訪子を引き連れ、半ば強引に幻想郷へと引っ越してきた神奈子。
一時は消えるのも止むなしと覚悟していたが、新天地にて再びその生を得て、毎日を活き活きと楽しんでいる諏訪子。
そして、おそらくはそんな二人のことを思い、もう帰れないと知りつつも、涙の一粒も流さずにこちらの世界へとやって来たであろう早苗。

三者三様、生き方も考え方も様々。だからこそ、描き出すのは難しい。
だが、紫の言う通り、藍には、この三つの折句がそれぞれの人物を、たった一言で的確に描写できているように感じられた。

「……何だか、本当に面白いですね」
文字にしてみれば、ほんの20字足らず。
なのに、そこにはドラマがある。生き様というものが、くっきりと現れる。これは、すごい事だ。
そんな事を感じながら、藍がしみじみとした声で言うと、紫はにこりと藍に笑いかけながら「そうでしょう?」と返し、続ける。

「折句というのは、単なる言葉遊びとは少し違うの。時にはその人がそれまで歩んできた人生ですら、たった一つの折句に集約できたりするわ」
「というと、他にもそういったものがあるのですか?」
「もちろん。例えば、私だってそう。『揺ぎ無き 覚悟で守る 理想郷』なんて、私の生き方そのものじゃない?」
「そっすね」
「軽く流さないでよ!?」

ぎゃあぎゃあと喚く紫を見て、クスッと藍は微笑む。
普段主が頑張っているのは良く知っているが、どうも素直に褒められないのは、藍が昔から持つ悪い癖だ。
直さなければいけないと思いつつ、これを直してしまうとどうにも主との距離感が変わってしまいそうで、藍は中々踏ん切りがつけられずにいる。

相変わらず喚き続ける紫をそのままに、藍は再び障子へと手をかける。
そこには先程までの眩しい光は感じられず、その代わり、オレンジに輝く夕日が、世界を優しく照らし出していた。
どうやら、話している間に大分時間が経っていたようだ。

(そろそろ買い出しに出なくては。さて、今晩は何を作ろうか)
そう考えて、藍は紫に問いかける。

「紫様。晩御飯の買い物に出ようかと思うのですが、何か食べたいものはありますか?」
「松茸尽くし。ちょっと早いかもしれないけど、そろそろ出回っているでしょう」

藍の問いかけに、間髪入れずそう答える紫。
その途端に、藍は白い目になって紫を見る。
当然だ。何しろ、予算オーバーもいいところなのだから。

「もう。子供じゃないんですから、無茶言わないで下さいよ」
「割と本気よ?」
「はいはい」

つきあってられないとばかりに「では、今晩は秋刀魚にでもしますね」と言って居間を出ようとする藍。
すると、その藍の後ろ姿に、紫ののんびりとした声が届く。

「まあ、本当は貴女の愛情が篭った手料理だったら何だっていいんだけどね」
「……紫様」
「ただ、今日は貴女の愛情が篭った松茸の網焼きと土瓶蒸しが出されたら、ゆかりん泣いて喜んじゃうような気分なんだけど」
「……」

(はあ)と心中盛大なため息を発しながら、藍は空を見やる。
心なしか、空模様は先程までよりも若干暗くなっていた。早く買い物に出ねば、いつもの夕飯の時間にはもう間に合わない。

(松茸、買ってくるかあ)と、藍は仕方なしに決意した。
痛い出費だが、何、2~3日主に絶食してもらえば、食費も大丈夫だろう。
そんなことを考えつつ、藍は愛用の買い物籠を手にし、財布にお金を多めに入れる。
そして「じゃあ、行って来ます」と一言言うと、人里へと向けて飛び立っていった。



(まったく、あの方にも本当困ったものだ)
すっかり日の沈みかけた空を、藍は飛ぶ。
今日の買い物は、少し時間がかかってしまった。
まだ松茸自体を置いていない店があったり、置いていたとしても目の玉が飛び出るような価格をしていて、思わず二の足を踏んでしまったりしたからだ。

普通のものを普通に食べたいと言ってくれればいいのに。
そう思うが、何しろ相手は一筋縄ではいかない大妖怪である。
今までだって、紫が「カブトガニって実は食べられると聞いたから食べたい」などと、藍に無茶なリクエストをした回数は、数え切れないほどだ。
その度に、大変な思いをして食材を集めなければならないわけだから、彼女の苦労は並大抵ではない。

(ただ、毎日毎日食べたいものをきちんと言ってくれるのは、助かるなあ。今日みたいなのはともかく)
もしこれが、本当に毎日「貴女の料理なら何でもいい」と言われるようになれば、藍は一ヶ月も経たないうちに参ってしまうだろう。
毎日、色々なリクエストがあるからこそ、藍は料理が上達したし、様々な種類の料理を覚えてこられたのだ。
それでも、今日の様に予算をはるか上回るオーダーが入ったりすることもあり、別の意味で藍が苦悩することも少なくなかったが。

(ま、お夕飯のリクエストも、毎日楽で嬉しかったり大変で悲しかったり……)

そこまで考えていたところで突然、藍の頭には、先程紫と共に見ていたノートが浮かんだ。

「一句できた。『夕飯に 悲し嬉しや リクエスト』……何てね」

クスクスと笑いながら、一人藍は呟く。次いで「我ながら、セコいなあ」とその表情を微苦笑に変える。
同じ『ゆかり』という名前を織り込んだ折句でも、『揺ぎ無き 覚悟で守る 理想郷』という作品に比べれば、何とも庶民的な作品になったものだ。
でも、自分にはこの位の作品を作る方があっているのかもしれないなあ、と藍は思う。

紫が山の神様たちを題にして作ったように、人生を一言で端的に表せるような折句も、たしかに魅力的だ。
だが、身の回りのちょっとしたことを言葉に織り込む事もまた楽しい。
そう、楽しいのだ。制約があるからこそ、そこには、作り手によって多種多様な作品が生まれる。
例え同じお題を用いたとしても、格好良くも作れれば、少し抜けた感じにもできる。匙加減は、全て自分次第。

(うーん、『ユートピア 隠れて暮らす 理系美女』……紫様に言ったら喜ぶんだろうけど、やっぱり何か違うなあ)
やっぱり、自分には無理に格好良い折句を作るのは難しいなあ、と藍は思う。

これが例えば、紫以外の人物の名前だったら、どんなものが飛び出すだろうか。
大笑いしてしまったり、少ししんみりしてしまったり。時には、思わず「何それ!?」とつっこみたくなるものにも出会うかもしれない。
何しろ、言葉の数だけ可能性があるのだ。
考えただけでも、藍はワクワクする気持ちが抑えられずにいた。

(これはいいことを知ったものだ。今度、橙にも教えてみよう)

そんな事を思いつつ、まだ見ぬ松茸を今か今かと待ち構えているであろう主を想像して、藍は速度を上げると、家路を急ぐのだった。
おまけの1

「藍様!この前教えて頂いた折句を、私の名前で作ってみました!」
「おお、すごいじゃないか!是非聞かせてくれ!」
「はい!『遅刻だよ! SL乗ってる ンガベさん!』」
「何それ!?」

おまけの2

「『新聞が やっぱり読まれず めげるけど いじけず書くもん ⑨のため』」
「文、何ぶつぶつ言ってんの?」
「自分で言っててヘコむなあ……って、あややー!?な、何故チルノさんがこんなところに!?」
「んー、文が紫の家に飛んでいく所が見えたから、ついてきちゃった」
「そ、そうでしたか」
「それで、今日はいいすくーぷ拾えたの?」
「ええ。スクープとはちょっと違いますが、面白い遊びについて知れました。これを新聞で紹介すれば、今度こそヒット間違いなし!」
「おおー!」
「そしたら、チルノさんにも一杯お菓子買ってあげますからね!」
「わーい!約束だよ!」
「もちろんです!(……うん。この笑顔をもう一度見るためにも、がんばろ、私)」

―――――――――――――

『ワクワクを 連日連夜 物語る 忠愛を持ち 異界覗いて』
そんな作家に私はなりたい。

上手いこと言おうとしても、ちっともまとまりゃしない。
後半の『ちゅう』と『い』が鬼門なのでした。意外と上手い言い回しがないものね。

あと、ンガベさんは、PNS氏の『もしもし、私メリーさん』という作品から、名前だけお借りしました。
こちら名編です。是非。

ワレモノ中尉でした。

※9月14日 追記
指摘のあった誤字を訂正しました。ありがとうございます。
ワレモノ中尉
[email protected]
http://yonnkoma.blog50.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1220簡易評価
4.70名前が無い程度の能力削除
彼女は文明の機器に頼る事も → 彼女は文明の利器に頼る事も
ではないでしょうか?
10.80mthy削除
以前のもそうですが、ワレモノさんの言葉遊び大好きです。
楽しませていただきました。
11.100名前が無い程度の能力削除
『おっぱいや NOと言わずに 掴ませて 困る貴女の 乳や愛しき』
…ダメだこりゃ。

相変わらず、言葉遊びの小気味良い小粋な作品!
よくもこれだけ思いつくものです…パルパル。
13.100山の賢者削除
こういう言葉遊びっていいなあ。
冒頭の杜若の句は授業で初めて知ったとき感動した。
頭固いからこういうのは苦手なのよねぇ。
14.100拡散ポンプ削除
あとがきの
八雲に負けぬ
稚児の笑み
鏤金の如し
伸びやかにあれ
20.80名前が無い程度の能力削除
言葉遊び大好き
24.100PNS(ペンを取り ンガベを書くぞ さぁガンバ)削除
今になって気付きましたよ全く!w
しかし東方キャラで折句という試みがまず面白いし、この八雲家の会話と空気、私のツボです。「ヒィッ」とか「そっすね」とかw
あとがきだけじゃなく、主成分である本編の方も、とても楽しく読ませていただきました。折句のタイトルもお見事。
よいSSをありがとうございます。

……で、いつかSLに乗ったンガベさんが遅刻するSSを書け、と解釈してよろしいんですよね? がんばります( ・∀・)
31.無評価名前が無い程度の能力削除
なかなかこれはいいな
とおもってたら
ンガベさんに全部持ってかれたwwwww