Coolier - 新生・東方創想話

にゃんこあいしてる

2010/09/10 17:53:44
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夢を見ていた。

どこかの神社で宴会をしている。騒がしくも心地良いその交わりを私は遠巻きに眺めていた。手を伸ばせば届きそうなその喧騒をただ黙って見ていた。

私の居場所はどこにあるのだろう。

喧騒から背を向けて立ち去ろうとする私の前に金髪の女性が現れた。表情は伺えなかったが、微笑んだ気がした。

彼女は歌うように私に囁く。


「あなたに魔法をかけましょう」


彼女は私の頬を優しく撫でる。その手は今まで感じたことがないほどに暖かく、ぼうっとしてしまう。


「それでは。よい現を」


そう言って突然現れた彼女は、現れた時のように何処かへと消え去った。





「……んぐ」

カーテンから漏れる日差しから逃れるように布団を被る。朝の布団というものはどんな場所よりも心地がいいものだ。もう少し寝ていたいが、そろそろ使用人が起こしに来るだろう。
そう思った矢先、ドアがノックされる。


「天子様、入りますよ」
「んー、ふぁいっていいわよ……」


失礼します、とまだ若さを感じさせる声が返ってきた。ドアが開く音とともにベッドに足音が近づいてくる。使用人は布団にくるまった私を見ると溜息をついた。


「朝ですよ。起きてください」
「あと五日……」
「寝ぼけたこと言ってないで、起きてください」


彼女は呆れたように言うと、一気に布団を剥ぎ取られる。朝の冷たい空気に身を包まれた私は体を震わせる。


「さむ……」
「ほら、顔をあら……って……」


? どうかしたのか。彼女は驚いたように目を丸くする。服装が乱れているのかと思って確かめるが、別になんともない。まじまじと私を見つめる彼女に訊ねる。


「寝ぐせ、付いてる?」
「あ、いえ! 付いてるというか何と言うか……」
「……?」
「し、失礼します!」


そう言うと彼女は慌てて部屋をでる。慌てすぎて鼻をドアにぶつけていた。鼻を抑えながら走り去る彼女の後ろ姿をぼんやりと眺め、二度寝をしようかと私は考えた。





結局二度寝はせずに起きることにした。私はまだ重たい瞼をさすりつつ洗面所へと向かう。自然と欠伸が出た。

ふらつく足取りで洗面所にたどり着くと見知った顔がいた。


「総領娘様。おは……よう……」
「いく?」


どうして衣玖がいるのだろう。半分眠った頭で考え思い出す。ああ、そうだ。勉強を教えるためにお父様が泊まらせていたのだ。それにしても、なんでそんな驚いた顔をするのだろうか。まるで珍獣でも見たような。


「あの……それは一体?」
「にゃんのこと?」
「にゃ……!」


む、眠気のせいか舌がもつれてしまった。というか、衣玖。その目は何? 今にも獲物に飛びかかろうとする肉食獣の目なんだけど。


「天子様」
「にゃ、にゃに」


衣玖の異様な雰囲気に思わず一歩下がる。笑顔ではあるが目は笑っていない。それどころか欲望でギラギラしている。


「頭撫でさせて下さい」
「は?」


なにを言って……。面食らった私を無視して衣玖はSNF(サタデーナイトフィーバー)のポーズで接近し、有無をいわさず抱きしめる。


「ああもう、天子様可愛すぎますよ。誘ってるんですか? 誘ってるんですねわかります」
「わかるか! いいからはなしにゃさい!」
「だが断ります」


ぐいぐいと私を抱きしめる衣玖を引き離そうとするが、羽衣まで使って拘束しているせいで腕が使えずそれは叶わない。それに顔を押さえつける二つの桃のせいで息が苦しい。……悔しくなんかない。


「というか衣玖。あなたおかしいわよ。一体どうしたの?」
「天子様が可愛いからいけないんです。そんな物まで生やして」
「生やす? にゃにを?」
「見ればわかりますよ」


衣玖は拘束を解くと鏡を指差す。私は言われたとおりに鏡を覗く。映っているものは控えめにいってもミケランジェロの彫刻のように美しい私。空のように透き通る髪に、雪の様に白い肌。ひょこひょこ動く猫耳で可愛さもばっちりだ。

……猫耳? なにそれこわい。


「えっ! ちょ、えっ! にゃにこれ!?」


何度鏡を見ても猫耳は確かに存在した。触って確かめてみても付け耳ではなく、根元からしっかりと生えている。引っ張ってみると鈍い痛みが走った。なにこれ、どうなってるの? 誰か説明して。

混乱する私を余所に衣玖は鼻息荒く私に詰め寄る。


「天子様。あなたの気持ちはわかりました。さあ、べっd」


血迷ったことを言う衣玖に、要石という名の引導を渡す。血を流して動かなくなったが大丈夫だろう。多分。


「まったく、どうしてこんにゃことに……」


溜息と共に吐き出した疑問に応えるものは生憎いなかった。







「どうしようこれ……」


部屋に戻った私はベッドに倒れるように横になり、猫耳に触れ溜息をつく。本当にどうすればいいのか。放っておけば消えるのか、何か道具や手順が必要なのか。何もわからない。

いや、わかっていることはあった。これを実行した奴だ。こんなことをするのは十中八九


「御機嫌よう、っと危ないわね」
「うるさい! あんたでしょうこれ!」


怒声と共に振り向きざまに放った要石はスキマの向こうに消える。肩で荒く息をする私に八雲紫はいつものように胡散臭い笑顔を見せた。


「決め付けるのは良くないわ。まあ、私なんだけど」
「なら、とっとと治しなさい!」
「そうはいかないわ」


胡散臭い笑顔を引っ込め、一転して真面目な顔をみせる紫。その表情に私は思わず息を飲む。ふざけた態度をしていても幻想郷最強格の一人。私を見据える視線は鋭く、凛々しい。

僅かに、ほんの少しだけ、見惚れてしまった。純粋に綺麗だと、不覚にも思ってしまった。


「何故なら」


紫はゆっくりと言葉をつなぐ。気の緩んだ体を覚醒させ、私は次の言葉を待つ。猫耳を生やすという行為には何か重要な裏があるのだろうか。

紫は真剣な表情で私を見つめる。


「可愛がるから」


一転して表情を胡散臭い笑顔に崩す紫。意味を理解する前に私は抱きしめられる。状況もわからず私は目を白黒させることしかできない。


「こ、こら! 離れにゃさい!」
「やーだ。よしよしよし」


紫は耳の輪郭をなぞるようにそっと指を這わせる。くすぐったくも心地良い刺激に私は体を震わせるが、それを認めたくなかった。


「はなせー!」


頭を撫でられるたびに顔が熱くなる。思考なんてぐちゃぐちゃでまとまることはなく、ただ叫ぶことしか出来ない。なんでこいつはいつもいつも私を乱すのか……!


「暴れちゃ駄目よ」
「ふぁっ……」


喉元を撫でられただけでゾクッとするような快感が走った。堪らず膝から崩れる私を紫は優しく抱きとめる。


「お楽しみはまだまだこれからよ」
「ふにゃ……」


耳元で誘惑するように囁く紫の声は、とろけた脳にたやすく滲み込む。鼓動は速く、思考も完全に停止。私は熱にうなされた体を紫に委ね目を閉じた。





騒がしい。目を閉じた世界ではざわざわと激しい喧騒が聞こえる。聞いたことのある声もあれば覚えのない声も混じっている。共通しているのは誰もが楽しそうに、笑顔であることだろうか。見えないはずなのに何故かそう思った。

それは私が欲しかったもの。だけど、私にはまぶしすぎて、手に入れるとその輝きは無くなってしまうのでは無いかと不安で、手を伸ばせなかった。

いや、それは嘘だ。ただの言い訳、本当はそうじゃない。私は怖かった。私を受け入れてくれる者も場所も存在しないと証明してしまうのが怖かった。

だから、興味のないふりをして自分をごまかした。そうすれば不安も寂しさも味わう必要がないと思っていた。


「……天子」


誰かが私の名前を呼んだ。聞いたことがある声だが、はっきりしない脳では理解が追いつかない。


「…い…てんこ」


誰がてんこだ。私は天子だと言っただろうが。言い返してやろうと思ったがそれ以上に眠たかった。今回は勘弁してやろう。


「起きなさいったら、この不良天人」
「痛っ!?」


頭を叩かれ、強制的に覚醒する。一体何処のどいつだこの私を叩くなんて。


「にゃにすんのよ!……霊夢?」
「あら、本当に猫なのね」


感心したように言うと霊夢は私に盃を差し出す。わけも分からないままそれを受け取る。


「え、にゃに、どこここ?」
「ここは博麗神社で今は宴会よ。紫が連れてきたんだけど、覚えてないの?」
「紫が? ってきゃ!」
「てんこ~」


いきなり魔理沙が後ろから抱きついてきた。顔は朱に染まり目もとろんしている。すっかり出来上がっているようだ。というか顔が近い、酒臭い息をかけるな。


「可愛いやつめ。うりうり」
「こ、こら! 耳に触るな!」
「あら、可愛らしい猫ですね」


吸血鬼の従者はいつもの鉄仮面を外して、穏やかな表情で私の頬をなでる。他の連中も囃し立てるように騒ぎ、恥ずかしさを誤魔化すために私も騒ぐ。


「う、うるさい! あんたなんて犬じゃない!」
「犬もいいですね」
「あーもうッ!」





天子たちの騒ぎを遠巻きに紫は眺めていた。その表情は柔らかく、胡散臭さを感じさせない優しい微笑みだった。


「感謝いたします」


一人盃を傾けていると、背後から声をかけられる。振り向いた紫はその人物を見て酒を吹き出しそうになった。


「え、ええ。どうも」


が、なんとか冷静さを取り繕い、頭から血を流し続ける衣玖に紫は間の抜けた返事を返す。衣玖はそのまま紫の隣に座るとしばらく黙ったまま喧騒を眺める。


「ありがとうございます。天子様のために手を焼いていただいて」


二人の間に流れた沈黙を断ち切るように衣玖は喋り始める。紫は血を流し続ける衣玖から若干距離をとりつつ応える。


「別にいいわよ。私がしたいからしただけだもの」
「それでもです。あの方は意地っ張りですから、自分から宴会に行くなんて出来なかったでしょう」
「そのくせ寂しがり屋。本当に面倒な子」


近づけば離れ、離れれば近づいてくる。まるで猫ね。紫は呟く。

それを聞いて衣玖はくすりと笑う。血を流したままだったのでかなりシュールというかホラーだったが。


「なら、放っておけばいいのではないですか?」
「あなたも意地悪ね。わかってるくせに」
「ですね」


喧騒の中心にいる天子の表情は晴れやかで、心の底から今を楽しんでいた。意地っ張りで寂しがり屋の猫は、自分を受け入れてくれる者と場所を見つけたのだ。

いや、ただ彼女は気付いていなかっただけで、初めから存在した。気まぐれでお節介な妖怪がそれを気がつかせた。


「手のかかる子ほど可愛いものね」
「はい」


穏やかに微笑む紫に衣玖は同意する。彼女を見守る紫の笑顔は子供に見せる母親のそれにように、暖かく慈愛に満ちていた。
「ところで、目の前が霞んできました」
「医者はそこよ」
すねいく
https://twitter.com/kitakatasyurain
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コメント



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2.100名前が無い程度の能力削除
にゃんこ愛してる。保護者ゆかりんは心があったまりますね。
193は、まあ、うん。
3.90名前が無い程度の能力削除
にゃんこあいしてる。
193はもう仕方ないね。淑女への階段を登りきってしまった見たいだし。
9.100tukai削除
ヒャッハー ゆかてんだー
ゆかりんの手で気持ちよくなっちゃうてんこちゃんかわいい
13.90名前が無い程度の能力削除
てんこかわいいよてんこ。
衣玖さんが面白すぎます。
18.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです
25.100名前が無い程度の能力削除
にゃんこあいしてる
29.100名前が無い程度の能力削除
おばあちゃんの膝で丸くなる猫を幻視した(スキマ
38.100絶望を司る程度の能力削除
衣久さん、あんたって奴は・・・
41.100名前が無い程度の能力削除
ゆかてんいいね
42.100名前が無い程度の能力削除
これが本当のにゃんこか...