Coolier - 新生・東方創想話

家族っていいよね

2010/08/28 01:18:41
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 ギシギシと音を立てながら、その女は目的の部屋へと向かっていた。そして女の隣には幾分か小柄な少女がぴったりとついていた。
 二人は会話をすることもなく、ただ無心に一つの部屋を目指して薄暗い廊下を歩いていた。正確には、そこにいる一人の少女に会うために。
 その少女は、同じく薄暗い部屋の中にいた。
 ボロボロになった服に荒れるに任せたボサボサの髪。体は窶れ果て、目に光は無かった。
 そんな少女がいたのは、箪笥とテーブルだけが置かれた質素な部屋。まともに掃除をしていない室内は埃にまみれ、色あせたテーブルの上にはカップ麺の空き容器が散乱していた。少女は、その部屋の隅で膝を抱えてうずくまり、ただ漫然と時間が経つのを待っていた。
 かつては親身になって支えていた彼女の父と母も、彼女の力を恐れて今ではもう寄り付かなくなっている。彼女の同級生たちは、彼女を見つけると狂ったように罵声を浴びせ始める。
 妖怪。化物。疫病神。
 涙は出ない。もう泣き疲れた。何もかもが面倒臭い。
 ドアが音もなく開き、大小二つの人影が姿を現す。そして何も言わずに部屋の中に入って掃除を始める。
 ふと、その中の一人と少女の視線が交わる。少女は、ありったけの憎悪を孕ませた目でそいつを睨みつける。

「何しに来たのよ」
「掃除だよ」
「ウザいんだよ。あたしに構わないで」
「早苗……」
「お前らなんか」

 早苗と呼ばれた少女は、感情を言葉に載せてぶちまけた。

「お前らなんか、見えなきゃよかったのに!」




 春のうららかな日差しの下、守矢神社正面にある縁側で惰眠を貪っていた八坂神奈子は、覚醒するなり顔を不快そうに歪めた。

「まったく、今更な夢だね」

 そう呟いてから億劫そうに腰を上げる。出来ることなら爽やかに目覚めたかったが、あんなものを見た後では到底叶うものではなかった。
 縁に腰掛け、ぼうっと目の前に広がる石畳を眺める。あれからどれくらい経つのだろう、とアンニュイな気分に浸っていると、社の奥から溌剌とした声が聞こえてきた。

「神奈子様―、お昼ご飯出来ましたよー?」
「おう早苗か。今行くから――」

 言いきる前に背後の障子が派手な音を立てて開き、中から笑顔を湛えた東風谷早苗が仁王立ちで現れた。

「ひゃいっ!?」
「こっちから来ちゃいました」
「……いきなり開けるんじゃないよ、びっくりするじゃないか」
「何言ってるんですか。神奈子様ともあろう御方が、この程度で心を乱していては……ぷぷっ」
「な、何いきなり笑ってるんだい?」
「い、いや、さっき『ひゃいっ!?』って……神奈子様が、『ひゃいっ!?』……くくっ」
「そ、そこに直れ早苗ェ!」

 顔を真っ赤にしながら神奈子がどこからか取り出した御柱を振り回そうとした時、奥から今度は間延びした声が聞こえてきた。

「止めなって神奈子。神社潰れちゃうよー?」
「え?ああ、流石にこれはやりすぎたか」

 神奈子が御柱を見やる。こんなものを振り回したら、神社が倒壊するどころでは済まないだろう。

「やるんなら外でやってよね。それと早くご飯にしようよー。お腹空いちゃったよー」
「す、すいません諏訪子様!いますぐ準備します!」

 そう言いながら早苗があたふたと中へ入っていく。若干頭が冷えた神奈子も早苗に続いて中に入り、ちゃぶ台の前に座ろうとして――目の前の光景を見て固まる。

「早苗、諏訪子――そいつは誰だい?」
「誰って、お客様ですよ。随分前からいらっしゃいますけど」
「まあ、神奈子は寝てたから気付かなかったかもね」
「どうでもいいけどさあ早く食べようよ!あたしもうお腹減って死にそうなんだけど!」

 当たり前のように座り込んでいた比那名居天子は、そう言って手足をばたつかせた。




 幻想郷より遥か高みにある天人たちの住まう地、その中にごまんとある豪奢な屋敷の一つにて、永江衣玖は苛立っていた。
 埃一つない床を蹴りつけるように歩き、爪を噛みながら汚れ一つない部屋の中をグルグルと往復していた。
 天子が幻想郷に向かったのは既に知っている。むしろこれは最近ではよくあることだ。衣玖が憤っているのには別の理由があった。
 天子の父親のことである。
 天子が幻想郷に向かったことを知っても「そうなのか」で済ませてしまい、表情一つ崩さない。前に天子が緋想の剣を持ち出して幻想郷に飛び出した時も、彼女の父親は天子ではなく、剣のことにばかり注意を向けていた。当然他の天人たちも大した問題ではないと思っていた。
 本来衣玖は天子の目付け役であり、天子の家族の事までいちいち気にする必要はない。だがこの親子の情景を見るたびに、胸に何かつかえるような歯がゆい感覚を味わうのだった。
 それが何なのか、衣玖は既に分かっていた。わかっていたが自分から言い出せるはずもなく、ただ己の胸の中にしまっておくのみであった。

「……考えてても仕方ない。早く総領娘様を見つけないと」
 
 思考と行動を打ち切り、顔を引き締めて天子の捜索に向かう。あれでも天人の一人、面倒なことになる前に何とかしなければ。

「とりあえず、まずは守矢神社辺りから探してみましょうか」




「で、ここに来た理由はなんだい?」

 あらかた昼飯を食べ終え、食後の茶を飲みながら神奈子が天子に問いかけてくる。当の天子は爪楊枝を加えながら両足をだらりと伸ばし、天井をじっと見つめていた。

「なによ、こっちにくるのに理由とかいる?」
「あんた仮にも天人だろ。こんなところで油売ってていいのかってことさ」
「いいのよ。向こうに戻っても宴会ばっかで死ぬほど暇だから」
「でも、幻想郷に行くことをご両親にはちゃんと連絡したんですか?」
「そっちも別にいいの。どうせあたしのことなんか気にしてないと思うし」
「随分投げやりだなー。ケンカでもしたの?」

 いつの間にか早苗と諏訪子が神奈子の両隣りに座り、茶をすすりながら話の輪に加わってくる。どこか威圧感を感じながらも、腰をひねって楊枝を背後のゴミ箱に放り投げた天子がぶっきらぼうに答えた。

「そんなんじゃないわよ。そんなこと、したこともないし……」
「……ふうん」

 そこで湯呑を置いて神奈子が立ち上がり、天子の目の前に腰をおろしてその顔をまじまじと見つめる。

「ど、どうしたってのよ」
「いや、何か困ってそうだったからさ。あたしでよければ相談に乗るよ?」

 神奈子の言い分に不愉快な表情を隠すことなく天子が言い放つ。
「別にいいわよ。大体なんで地上人なんかにあたしの悩みを話さなきゃならないのよ。あと頬をつっつくのやめて」
「強情な事だね。悩み事を話すのに天人も地上人も無いと思うんだけど」
「気安く話しかけないで下郎。いつまでつっついてるつもりなのよ」

 そう突っぱねる天子を見て、だが指をひっこめた加奈子は苛立つどころか愉快そうに笑みを浮かべる。それには流石の天子も若干引いた。

「何で笑ってるのよ」
「なに、ちょっとね」

 バカじゃないの、と天子が弱弱しく呟いた時、外から天子を呼ぶ声が聞こえてきた。




 守矢神社の境内から天子が顔を出した時、衣玖は余りのラッキーに我ながら驚いていた。まさか一発目で見つかるとは。
 ゆっくりと地面に降り、天子の元へと駆け寄る。当の天子は、嬉しいような困ったような、複雑な表情を見せながらため息をついた。

「総領娘様!こちらにいらしたのですね!」
「あら衣玖じゃない。何しに来たの?」
「もちろん貴女を探すためです。総領娘様が誰かに迷惑かけているんじゃないかともう心配で心配で」
「本当に衣玖ってば心配性なんだから。あたしだってもう子供じゃないんだから、誰にも迷惑かけないし一人で帰れるって」

 しっしっ、と衣玖を手で追い払おうとする天子の頭を右手で鷲掴みにしながら神奈子がたしなめる。

「こらこら、せっかく人が気にしてくれてるんだ。もう少し素直になったらどうだい」
「やーめーろー!はーなーせー!」

 手足をジタバタしながらの天子の非難を無視しながら、神奈子が今度は衣玖の方に向き直る。

「あんたもどうだい、茶でも飲んでいかないかい?」
「いえ、総領娘様がお世話になったというのに私まで厄介になるのは」
「気にしない気にしない。それにいくつか聞きたいこともあるしね。おーい早苗、茶ぁ用意して!」

 開いた左手を宙でひらひらさせながらそう告げる神奈子。その様子を見て、奥にいた諏訪子と早苗は互いの顔を見やりながら「やれやれ」と苦笑しながら肩をすくめた。




 結局衣玖は神奈子の強引な誘いに折れ、天子の隣に座って茶を飲むことになった。
「――まあ美味しい」
「本当ですか!失敗していつもより渋めに淹れちゃったから大丈夫かなって思ったんですけど、気に入っていただけて嬉しいです!」

 そう言って満面の笑みを浮かべる早苗を見て、衣玖も思わず表情が綻ぶ。

「はい。私はこのくらい渋い方が好みですので」
「苦すぎよ。飲めたもんじゃないわ」
「わがままだねえこの子は」
「律義に全部飲んでるくせにね」
「う、うっさいわね!」

 天子の反応を見て諏訪子と一緒にケラケラ笑った後、茶を一息に飲み干して神奈子が表情を一変させる。

「さて、聞きたいことがあるんだが、いいかい?」
「またその話?いい加減うんざりするんだけど」
「神奈子様、でしたっけ?総領娘様にどのようなことをお聞きになりたいのですか?」
「神奈子でいいよ。なに、ちょっとそいつの家族のことでね」

 それを聞いた途端、天子を取り巻く空気が変わった。それを読んだ衣玖が神奈子に告げる

「申し訳ありませんが神奈子様、それはあくまでも比那名居の問題。あなた方が気になさる道理は――」
「悪いが私はお節介を焼くのが好きでね。どうしてもそいつのことが気になって仕方ないのさ。それに私らは全く赤の他人って訳でもない」
「なぜでしょうか?」
「たった今一緒に茶を飲んだ」
「……まったくあなたには敵いませんね」

 衣玖が一拍置いて口を開いた。

「わかりました。では私の方から話させていただきます」
「ちょ、ちょっと衣玖!?」

 衣玖の予想外の行動に天子が動転するが、衣玖は動じることなく天子に向き直る。

「総領娘様、私も今までは黙っておりましたが、もう我慢なりません」
「それどういうことよ。あんたなんかに心配されるいわれは無いんだから……!」
「総領娘様はこのままでいいのですか?あなただって本当は」
「もういい!もううるさいのよどいつもこいつも!」

 泣き顔でそう叫びながら立ち上がり、障子をぶち破って天子が外へと飛び出す。

「わたし探して来ます!」
「待ってよ早苗、あたしも行くから!」

 それを見た早苗と諏訪子が飛び跳ねるように外へと出ていく。二人が出て行ってから神奈子がしみじみと呟いた。

「悪い子には見えないんだけどねえ」
「ええ、本当はとても素直で、いい子なんです」

 まあ早苗たちが一緒なら大丈夫だろう、と言ってから改めて衣玖の方を向く。

「さて、話してくれないかい?」




 早苗たちが天子を見つけるのに大して時間はかからなかった。天子は妖怪の森の中腹で、膝を抱えて座り込んでいたからだ。

「ああいた!天子さーん!」

 早苗が手を振り、大声で天子の名前を呼びながら駆けつけてくる。そして早苗の後から諏訪子が遅れて蛙飛びでやってきた。

「ひい、ひい……もうちょっとゆっくり走ってよ早苗」
「何言ってるんです、その間に天子さんが食べられたらどうするんですか!ていうか何で蛙飛び?」
「仕様だよ」
「仕様ですか」

 肩で息をする諏訪子にハンカチを渡してから、早苗は天子の方を向いて手を差し伸べる。

「さ、帰りましょう」
「……どこによ?」
「神社の方にです。天狗に見つかったら面倒ですし、衣玖さんも心配しています」
「どうして?」

 そのままの姿勢で天子が早苗を睨みつける。だが早苗は動じることなく、その目を見つめ返す。

「あんたと言いあの神と言い、どうしてそこまであたしのこと気にかけるのよ。あたしのことなんかほっときゃいいのに」
「それは、あなたのことが気になるからです」
「それがわかんないのよ。あたしが何かしたって言うの?どうなのよ?」

 一瞬の沈黙。その後意を決したように早苗が切り出す。

「似てるんです。昔の私に」
「どういう意味?」
「……誰かに構って欲しいんだけど誰も構ってくれない。構ってくれる人がいたらいたで素直になれなくて辛く当たってしまう。今のあなたはあの時の私にそっくりなんです」
「早苗!」

 諏訪子が苦い顔を浮かべながら早苗の袖を引っ張る。

「大丈夫なの?無理に思い出す必要は――」
「大丈夫です。……もう私は一人じゃありませんから」

 そう言って笑顔を見せる早苗。昔を思い出したからなのか、その笑顔は寂しげで、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
 思わず息を飲む天子に、早苗が目をこすってから力強い口調で語りかける。

「衣玖さんもあなたのご両親も、きっとあなたのことを心配しています。大丈夫、あなたを思ってくれている人は必ずいます」
「……」
「でも、待ってるだけじゃダメ」
「ダメ?」
「そう言うことは自分から言うんです。『ありがとう』とか『私と話そう』とか」
「いや、そういうのは……」

 あからさまに狼狽する天子に早苗が畳みかける。

「ダメ!自分から言わなきゃ絶対ダメ!いいですか?絶対ですよ!」

 天子はただ頷くしかなかった。




 早苗たちが天子を発見したのと同じ時刻、神奈子たちは天界にいた。なぜこうなったのか。その発端は数十分前に遡る。
 早苗と諏訪子が天子を探しに行ってから、衣玖は神奈子に対して自分の抱いていたものを包み隠さず話した。相槌を打つこともなく、神奈子はただ黙って衣玖の話に耳を傾けた。

「なるほどね」

 衣玖がひとしきり話し終えた後、神奈子がそう呟いてからおもむろに立ち上がる。何をするのか衣玖が尋ねるとただ一言、

「天子の屋敷に行く」
「直接会うおつもりですか!?」

 そう言うなり外に出た神奈子を衣玖が慌てて追いかけ、そして今に至る。衣玖は神奈子の行動力にただ驚いていた。天人が怖くないのか?
 今神奈子たちの居る所には白い花が一面に咲き誇り、周囲を見渡せば、雲海から突き出した山の頂上がいくつも屹立していた。その光景は正に桃源郷を絵にかいたようなものだった。

「いい所だね。こんな場所で酒が飲めるとは最高じゃないか。それで天子の家はどっちだい?」
「ここから総領娘様の御屋敷までは徒歩で十二、三分と言ったところですが、お急ぎになりますか?」
「いや、せっかくだから歩いて行こう。この景色をもうちょっと見たいしね」
「わかりました。では私の後についてきて下さい」

 そうしてゆっくりとしたペースで歩き始める中、神奈子は物珍しそうにキョロキョロと顔を動かしている。そしてその道中、衣玖がおもむろに口を開いた。

「一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」
「何だい?」
「なぜこうも総領娘様のことを気にかけてくれるのですか?」
「あー、そいつはね……」

 神奈子がひとつため息をついてから、どこか物憂げな顔で言った。

「雰囲気というかなんというか、何かそっくりだったからかな。昔の早苗に」
「早苗様と総領娘様が?どこが?」
「どこがって、昔の早苗も大体あんな感じだったのさ。そりゃあもう手に負えない子でね」

 そう言って神奈子は余り思い出したくない過去に思いをはせる。
 誰からも、親からも愛してもらえない。手を差し伸べようとする人がいても、どう接していいのか分からない。早苗はいつも一人だった。

「私らにも最初は出てけだの何だの、酷く当たり散らしてきてね。私なんか、途中でプッツン来て早苗を殴り飛ばしたことが何度もあったから」
「……え?」
「その後早苗がキレて私に飛びかかってきて、乱闘になることもあった。諏訪子がいなかったら今頃どうなってたことか」
「ええ?」

 何かとんでもない物を聞いてしまったかのように衣玖がたじろいでいると、神奈子が快活そうに笑いかける。

「でもまあ、今じゃ私らのことをとても慕ってくれてるから、それを考えればその時の痛みも大したことは無かったって思えるんだよね」
「苦労なさったんですね」
「だから大したじゃことないって。親ってのは子供のことを第一に考えるもんだろ?あんたと同じでさ」

 神奈子の不意打ちともとれる発言に、衣玖が素で慌てふためく。

「そんな、私はただ、総領娘様の身の安全を第一に考えてるだけであって、総領娘様の母親などという大それたことは」
「ただの目付け役なら見ず知らずの神様にこんなことを相談したりはしないさ」
「それは……」

 そうするうちに、二人は立派な一つの屋敷の前に辿りついた。幻想郷では見た事のない巨大なもので、門から玄関口までの間には石畳で出来た道とその周りに砂利の敷き詰められた庭のようなものが見え、その広さたるや守矢神社がすっぽり入ってしまうかに見えた。

「ここがゴールか」
「あの、神奈子様」
「だから神奈子でいいって。で、何だい?」
「お会いになってどうするおつもりですか?まさか張り倒すんじゃ」
「するわけないだろ。親同士、ちょっと腹を割った話をしようと考えてるだけさ」
「そうですか。ではもう一つ」
「だから何だい?」

 若干イラつく神奈子に衣玖が尋ねた。

「どうやって屋敷に入るおつもりで?」
「こっから行くつもりだけど」
「いや、相手は仮にも天人で、失礼ながらあなたは地上人」
「邪魔するよ」

 神奈子は正門から堂々と入って行った。




 それから神奈子たちが帰って来た時には、既に日も暮れて早苗たちも神社に戻っていた。
 神奈子たちの姿を確認すると、早苗が天子の手を引きながら勢いよく飛び出していく。

「神奈子様おかえりなさい!」
「おう、ただいま」
「ご飯出来てますけど、どうします?」
「流石早苗、準備いいなあ!」

 そう言って早苗の頭をなでる神奈子。早苗も目を細めて小動物のように嬉しそうに頬を赤らめる。それを見た衣玖は苦笑し、天子は素で引いた。
 暫くして漸く天子のことを思い出した早苗が天子を衣玖の前に引き合わせる。

「ほら天子さん、しゃきっと!」
「ううう……その、衣玖?」
「な、何でしょう?」

 恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、渾身の力を振り絞って天子が叫ぶ。

「いっ、いつもっ…いつもありがと!」
「……」
「ちょ、ちょっと衣玖?……反応しなさいよ、ねえ」
「……ガハッ」
「悶え死んだ!」

 神奈子が叫び、すっかり混乱しきった天子と早苗が辺りを右往左往する。
 そこに神奈子が一人で早苗の頭を撫でたことに激昂した諏訪子が乱入し、神社一帯が悲鳴と怒号の入り混じる収集不可能な戦場と化した中で、衣玖はただ一人幸せそうな笑みを浮かべていた。




 それから数日後、散歩に行きたいと言う天子に付き添った衣玖は、天子の顔を見て不思議に思った。

「総領娘様、随分と――嬉しそうですね」
「え?えへへ、わかる?」
「ええ、まあ、そうまで満面の笑顔を見せられては。どうしたのですか?」
「えっとね、その、昨日私からお父様に『頭撫でて』って言ったら、本当に撫でてもらったんだ」
「そうですか。それは、とても良かったですね」
「そりゃもう!」

 そう言って笑う天子を見て、衣玖はとても幸せな気分になった。ああ、あの方々に相談したのは正解だったかもしれない。衣玖は心からそう思った。
 すると、天子がだしぬけに衣玖に言った。

「今日は守矢神社に行くわよ」
「守矢神社ですか?」
「ええ。いつぞやの借りを返さなきゃ、あたしの気が収まらないのよ」
「もう少し素直になってもいいのに……」
「なんか言った?」

 強がる天子に笑いかけながら衣玖が言う。

「いいえ何も。さ、参りましょう」




「だから何度言ったらわかるんだ!あの時私は本当に無意識でやっただけであって、別にお前に見せつけるとかそういうことは考えて――」
「そんな言い訳であたしが納得するとでも思ってるのか!?大体神奈子はいつもそうだ!いつもいつもおいしいとこだけかっさらっちゃってさ、たまにはあたしにおいしい所残してくれたってバチは当たらないでしょ!?」

 数分後、天子と衣玖は岩石と御柱の飛び交う戦場の前に立っていた。戦争を引き起こしている二神の眼にはクマが出来ている。神奈子と諏訪子はあれから夜通し戦っていたのだった。

「帰りましょう」
「そうね」

 そう言ってそそくさと立ち去ろうとすると、それまで神奈子と諏訪子の間に入り仲裁を試みていた早苗が二人を目ざとく見つけ、最悪の言葉を投げかけてきた。

「あ、天子さんに衣玖さん!すいません助けて下さい私だけじゃ止められないんです!」

 そう言ったきり早苗の姿が土煙りにかき消える。頬をひきつらせながら二人が顔を見合わせる。

「……衣玖、付き合ってくれる?」
「……貴女となら、私はどこまでも行けます」




 ……例え地獄の果てまでも。
二作目となりますが、書き終わって気づく。



同じ家族ものじゃねえかあああああああ!



まあ、それは置いといて。私の天子の父親のイメージですが、どう子供と接したらわからない、不器用な親という感じに考えております。いや、本当どうでもいいことなんですけれども。

なんか長ったらしくなってしまいましたが、最後まで読んでいただけると幸いです。
重曹
suibotsugyaaaa@yahoo.co.jp
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コメント



0.690簡易評価
10.80コチドリ削除
イイお話なんですけどちょっと綺麗にまとめすぎかな? というのが個人的な感想です。

荒んだ早苗に対して神奈子と諏訪子はどう接し、現在の関係を築いたのか?
神奈子と天子の父はどのような対話をしたのか? 衣玖がその場に居たのならどう行動したのか?

自分的にはこの物語の肝にあたると思われるそれらのシーンが流されてしまっているので、
比那名居親子が和解出来て衣玖さん良かったね。守矢一家もいい仕事したなぁ、とは思うのですが
イマイチそこに発生する感動が薄くなるといえばいいのでしょうか。

もっと登場人物達の剥き出しの感情のぶつかり合いが見てみたかった。これが私の正直な思いです。
長い上に勝手な意見、まことに申し訳ありません。
11.90名前が無い程度の能力削除
↓まあ焦るな
きっと次回作でバッチリ決めてくれるさ