Coolier - 新生・東方創想話

ぽてちをあなたに

2010/08/27 04:25:26
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「へえ。ぽてち……だっけ? けっこう美味しいじゃない。これ」
「でしょう? 良かった。霊夢さんにも気に入ってもらえて」

 パリパリ。

「すごく薄くて軽いし、これならたくさん食べられそうね。あんたがお皿に山盛りにしたときは、一体どれだけ食わせるつもりなのかと思ったけど」
「そうそう。これくらい、あっという間に無くなっちゃいますよ」
「こんなにかさばる物を今までずっと取っといたなんて、あんたも物持ちがいいわねえ」
「あはは。自分でも未練がましいとは思ったんですけどね。幻想郷へ来る前につい買い込んじゃって、ちょっとずつ大事に食べてたんです」

 パリパリパリ。

「その希少品を、こんなに持ってきて大盤振る舞いしちゃっていいわけ?」
「いいんです。こういうお菓子は一人で黙々と食べててもアレですし。それにいくら結界で維持してるとはいえ、いいかげんに賞味期限もゲフンゲフン」
「?」
「……いえ、こちらの話で。とにかく、この味とはもうじきお別れですね。名残惜しくはありますけど」
「なんで?」
「えっ? なんでって、消耗品なんだから食べちゃったらおしまいじゃないですか」
「作ればいいじゃない」
「……へっ?」

 パリ。

「だってこれ、お芋を薄切りにして揚げただけのものなんでしょ? 材料は幻想郷にだってありふれてるんだから、その気になれば手作りくらい簡単でしょうに」
「…………」
「ちょっと、早苗? 聞いてる? なに呆けた顔して――」
「そ の 発 想 は な か っ た ッ!!」
「わっ」
「そうです! 無いなら作ればいいんですよ! 私、今の今までぽてちを自作するなんて考えた事もありませんでした!」
「いや考えなさいよそれくらい。あんた料理できるでしょうが」

 パリパリ。

「うーん。なんていうか、『ぽてちは買って食べるもの』っていう固定観念があったんですよね。強力な固定観念が。おそらく、これは現代人にとってのグローバルな認識です」
「はぁ」
「しかし今、霊夢さんのお陰でその呪縛も解けました! 備蓄が切れたら迷わず作りますよ私は!」
「そう。良かったわね。だから落ち着け」
「今度作ったときには霊夢さんにも御馳走しますね。きっと手作りの方が美味しいですよ」
「……ん。まあ、その点については期待しとく」
「ふふっ、楽しみにしていてください」

 パリパリパリ。










「ふふん。ご機嫌いかがかしら? 霊夢。今日は咲夜特製のザッハトルテを持ってきてあげたわよ。さあ、二人っきりで優雅な午後の――」
「ぽてちがあるからいい。そこ置いといて」
「あ、こんにちはレミリアさん。ぽてちいかがですか?」
「PIGYAAAAAAAAAAA!!」


 ◆ ◆ ◆


 バリバリバリバリ。

「なによ、なによなによあの巫女モドキ! 新参者のくせに、こんな安っぽい菓子で私の霊夢をたぶらかそうだなんて!」
「レミィ。食べかす散らさないで」

 大図書館の読書机にて。
 菓子袋の中身を猛然とむさぼる親友を横目で睨みながら、パチュリー・ノーレッジは傍らに積んであった本を静かに安全圏へと押しやった。
 いつものように一人で静かな読書に勤しんでいたら、いきなり鼻息を荒らげたレミリアが押し掛けてきてこれである。日頃から無軌道な振舞いが多いお嬢様の事なので別にどうとも思わないが、本や机を汚されるのは勘弁して欲しいと思う。

「霊夢も霊夢よ! ちょっと珍しいものを食べさせられたくらいであんな小娘に気を許して、あ、あまつさえ私に刃を向けるなんて……!」
「妬いて暴れて、巫女の怒りを買ったのね」

 親の仇のように芋の薄片を噛み砕くレミリアの頭部には、針やら御札やらがごてごてと突き刺さっていた。
 ふんっ、とレミリアが怒気を込めた呼吸を放つと、それらは一斉にスポンと抜けて霧散する。

「……で、これがその、ぽてち?」
「そうよ。奪ってきてやったのよ」
「お土産に貰ったのね」

 食欲はないが、多少の興味はある。
 パチュリーは読んでいた本を置き、銀色に光る袋の中から小さめの一枚をつまみ上げて、口にしてみた。軽く歯を立てるとそれは容易くサクリと割れて砕け、香ばしい芋と塩の風味が油っ気に乗って口の中に広がってゆく。
 ふむ。
 軽妙な食感は悪くないが、パチュリーにはいささか塩がきつすぎる。おまけに一枚食べただけで指先が油でべとべとになるから、防護魔法のかかっていない本は手に取ることもできなくなってしまうだろう。なるほど、色んな意味で幻想郷には類を見ない菓子ではあるが、ちょっと自分の好みには合わないかもしれない――。
 つれない評価を早々に下し、パチュリーはなおも騒がしく袋をまさぐる友人を見た。

「レミィは気に入ったみたいね。そのお菓子」
「なっ」

 ぎくりとレミリアの手が止まる。

「だ、誰がこんな下劣な食べ物! 見ろ、手が汚れてしまった!」
「はいはい。あちこち触らない」
「ん」

 取り出したハンカチをレミリアの口元に押し当てると、ひとまず静かになった。
 しばらくそうして口や手を拭ってやっているうちに、レミリアも多少の落ち着きを取り戻したようだった。緩やかな所作でパチュリーのティーカップを持ち上げ、残っていた紅茶を勝手に飲み干すと、小さな溜め息をついてパチュリーに向き直った。

「あの青いの、今度は手作りのぽてちを霊夢に食べさせるって言ってたわ。まったく、盗人猛々しい……」
「ふぅん」

 パチュリーは再び本へと目を落としながら、適当な相槌を打つ。
 そろそろ読書の続きに戻りたいのだ。

「愚痴はそれでお終いかしら」
「ああ、そうね。そろそろ始めなきゃ」
「なにを?」
「もちろん、ぽてち作りを」
「……は?」

 がたん、と椅子が動く音。
 パチュリーは顔を上げる。
 颯爽と椅子を降りたレミリアが、むしろ低くなった目線で悠然とこちらを見返していた。

「レミィ、今ぽてち作るって言った?」
「言った」
「誰が作るの?」
「私が」
「なんで?」
「決まってるでしょ。あの小娘よりも先に手作りのぽてちを霊夢に食べさせて、私の偉大さとありがたみを思い知らせてやるためよ」

 決まってるのか。

「レミィ、ぽてち作れるの? というか、料理できるの?」
「はっ。私にできない事があると思うか?」

 日の下に出られず、雨の中を歩けず、服を汚さずに食事ができず、パチュリーの名前の綴りをいまだに間違える親友は自信満々に胸を張った。

「そういうわけだから、ここのキッチン借りるよ」
「あ。はぁ。どうぞ。ご自由に」

 この大図書館の片隅には、小さなキッチンが備えられている。
 むろん紅魔館本館には及ばないものの、簡単な軽食やお茶を用意するには十分な設備だった。

「でも、なんでわざわざこっちで」
「咲夜に見つかるから」
「見つかってなにか不都合でもあるの? 手伝わせればいいじゃない」
「アレに相談したら一秒で完成品が出てきちゃうでしょ。私が手ずから作ることに意味があるのよ」

 レミリアはそう言って、屋敷の何処かからくすねてきたと思しき純白のエプロンをもたもたと纏いはじめる。
 わざわざ手作りとは、普段は無軌道なくせに妙なところで律儀なものだ。
 それでもまあ、わがままを通すのに他人を巻き込まないだけ、いつもよりはましなケース、ともパチュリーは思うのだった。

「パチェー、エプロン結んでー」
「……」

 この際、自分がすでに十二分に巻き込まれているという事実は置いておくとして、だ。


 ◆ ◆ ◆


「ぱ―――ちぇ――――――っ!!」

 ぽてち完成の知らせとも思えぬ、いいかげん音を上げた末に漏れたようなレミリアの呼び声に、パチュリーはやれやれと顔を上げた。
 一時間。
 勇ましい足取りでキッチンに向かうレミリアの背中を見送り、パチュリーが再び読書に没頭しだしてから、およそ一時間後のことであった。
 それなりに頑張った方か、と思う。

「――パチェ! ぽてちの作り方教えて!」
「そこからなのね」

 駆け込んできて机にしがみつくなりレミリアが発したのは、予想未満のプリミティブな要請であった。

「山の巫女に訊けば良かったのに」
「訊けるわけないでしょ常識的に考えて!」
「レシピも知らずに、今まで台所でなにやってたの?」
「勘で作ってた」

 そういうやり方は、それこそ巫女に任せておけばいいと思う。

「で、失敗したと」
「近いものは出来たのよ? でも、やっぱり正確なレシピがないと難しくてね」
「私だって知らないわよ。ぽてちのレシピなんて」
「えー。でもここなら作り方を書いた本くらいあるでしょ?」
「探すのが面倒」

 魔術や精霊に関する知識ならともかく、料理などパチュリーにとっては完全に埒外の分野である。その手の本がおおよそどのあたりに置いてあるかは把握していても、その中から特定の――それも今どきの外界のお菓子に関する記述を探し出すなどというのは大層な難事だ。
 普段であれば、パチュリーよりもそういった分野に明るそうな者がいるのだが……。

「いつもの司書はどうしたのよ」
「小悪魔は奥の方の書庫整理にやってるわ。戻ってくるのは三日後くらいかしらね……運が良くて」

 メイド長の次にうまい紅茶を淹れてくれる貴重な人員は、生憎と不在であった。
 大図書館の最深部ともなると、蔵書の見回りもサバイバルなのである。

「しょうがないなあ。じゃあ、はい」

 それでも、ちっとも諦める様子のないレミリア。
 次善の策とばかり、やおらパチュリーの前に差し出されたのは、先刻レミリア自身が平らげたぽてちの空き袋だった。

「はい、って言われても」
「裏に書いてあるから。材料とか色々」
「書いてあるみたいだけど。それで?」
「それ見ながら、適当にアドバイスしてくれればいいわ。あとは私が手を動かすから」
「無茶言うわね。袋一つでアドバイスって……」
「まあまあ。気分転換だと思って」
「わっ、ちょっとレミ、」

 パチュリーの体が、椅子もろともにふわりと持ち上がった。
 レミリアが椅子の背もたれを掴んで羽ばたいたのである。

「持ってかないでー」

 ぱたぱた。
 新たな戦力を得たレミリアが意気揚々と飛ぶ。
 読みかけの本と菓子袋を抱えたまま、さながら天使に吊られた空中ブランコの如く、パチュリーは厨房へと持ってかれるのだった。


 ◆ ◆ ◆


「……」

 厨房に連行されたパチュリーが最初に見たのは、圧倒的な量のゴミの山だった。
 芋の欠片やら謎の肉塊やら酒の空き瓶やらUFOやらグングニルやら、よくもまあ一時間でここまで出したものだと感心したくなる程の廃棄物が、一般家庭よりもよほど広いはずの台所を半分近く占拠していた。

「ここが私の管轄じゃなくてよかったわ……」
「後で大喰らいの悪魔でも喚んで、食べさせちゃってよ」
「悪魔への対価はレミィの寿命でいいかしら」

 嘆息して山を見上げると、なにやらそこかしこで蠢くものが目につく。
 よくよく見れば、淡い黄金色で半透明、握りこぶし大でゲル状の物体が多数、山の各所をぷよぷよ徘徊していた。

「なにあれ」
「試作品」

 なんのだ。
 レシピが不明とはいえ、芋菓子を作るつもりであんな外道スライムが出来てしまうあたり、レミリアの腕前も大概である。
 さて、ひとまず過去の産物についてはどうでもいい。パチュリーはゴミとスライムの山に背を向け、先程レミリアに押し付けられたぽてちの袋をあらためる。

「一つ、確かな事は」

 袋の裏側、『原材料』と書かれた欄に素早く目を走らせながら、パチュリーは思うところを述べる。
 その欄には、馬鈴薯や食塩といった馴染みの食材のほか、甘味料、デキストリン、酸化防止剤、昆布エキスパウダー、野沢菜パウダーなど、夥しい数の意味不明な名詞が列挙されていた。

「さっき食べた時は、まるで薄切りの芋を揚げただけのお菓子みたいに思えたけれど、これほど多くの未知の材料が使われている以上、そんな単純なものではありえないという事よ」
「うん。それは私も思った」

 パチュリーの推論に、レミリアも納得顔で頷く。

「幸い、部分的には意味がわかる名前も多いから、似たような材料は用意できると思うわ。まずはそこを基点に、手持ちの知識と想像で補いながら作ってみましょう」
「わかった。やっぱりパチェは頼りになるね」

 信頼の言葉を寄せて、レミリアが屈託なく笑う。
 悪い気はしなかった。
 とりあえずゾンビパウダーって何処に置いてあったかしら――と記憶を探りながら、パチュリーはぽてち作りの独自の手順を頭の中で構築し始めていた。


 ◆ ◆ ◆


「まず、芋の皮を剥きます」
「はい」

 芋が一つ、マッシュポテトになった。

「レミィ、潰すんじゃなくて剥くのよ」
「そんなこと言われても」
「言われても、って言われても」
「力の加減が難しいんだもの。こんなまだるっこしい作業」
「あなた、獲物を傷つけずに衣服だけ切り裂くのは得意でしょう? その感覚でやればいいのよ」
「その発想はなかった」
「はい。やってみて」
「じゃあ、このお芋をパチェだと思って……」
「やめて」
「霊夢だと思って……」
「いいわ」

 レミリアは二つめの芋に向かって瞑目し、頭を押さえながらレイムレイムと唱え始めた。いちいち手間のかかる皮剥きである。
 暇になったパチュリーは、なんとなくゴミ山を振り返って見た。
 先程のスライム達は、遅々とした動きで山肌を這いずり回り、廃棄物の中から目ぼしい物を見つけては捕食している模様だった。さすがは吸血鬼の産物というべきか、偶然に生まれた命とはいえ、それなりの知能を持ち合わせているらしい。
 見ると、乱雑な起伏のせいで移動に苦労している様子のスライムがいた。
 パチュリーはそこらに刺さっていた棒切れを拾い上げ、山肌を適当になぞって簡単な道を作ってやった。
 スライムは天を仰いで嬉しそうに体を揺らすと、出来立ての道を意気揚々と進み始める。

「パチェー、霊夢むけたー」
「あら、早いわね。じゃあ次は……ん?」
「どうしたの?」
「レミィ、一つ見落としてた材料があったわ。ほら、袋のここ見て」
「なになに。えっと……『妖怪カード入り』だって?」
「うん」
「妖怪カード……つまりスペルカードのことね!」
「たぶんね」
「お菓子の材料に術符を使うなんて、外の世界はやることが違うわね。それじゃ不夜城レッドでも刻んでおくわ」
「私のロイヤルダイアモンドリングもあげる。使えないから」

 ちなみに、本物の妖怪カードはレミリアの胃袋の中である。

 また暇ができて、パチュリーは山を見た。
 スライムは各所でその数を増やしつつあり、特に先程パチュリーが道を作ってやったあたりは賑わいが顕著だった。
 せっかくなので山全体に道を拡張してみると、スライム達は滑らかな動きで縦横に行き交うようになり、彼らの営みはさらに加速してゆく。なにやら原始的な住居を構えようとする個体まで出現し始め、これまた雑多な障害物に悩まされている様子だったので、パチュリーは魔法で小さな雷を発生させ、邪魔なオブジェクトを破壊してやることにした。
 スライム達はいきなりの閃光と爆発にぶったまげながらも、やがて障害物の消えた更地に群がり、ひたむきに家を建ててゆくのだった。

「パチェー、次はー?」
「んー。インド人を右に……」
「右ね」

 指示がかなり適当になってきた。
 もっぱら山の方に興味を移しつつあるパチュリーが見守る中、スライム達はめきめきと文明レベルを上げ、建築される住居も美しく堅固なものに進化してきた。こうなれば旧式の家は壊して作り直した方が良かろうと思い、パチュリーは次々と雷を落として古い建物を粉砕してゆく。
 スライム達もキャーキャーと駆けずり回って大喜びだ。

「うー。芋切ろうとしたら包丁が溶けちゃった……」
「がんばれー」

 レミリアが放り捨てた芋の切れ端をスライム達はせっせと集め、なにやら開けた場所に集まりだす。祭でも始まるのだろうか。
 それにしても――と、スライム達の観察を続けながらパチュリーは考える。
 彼らを突き動かしているものは一体なんなのだろうか?
 魔法生物であることを考慮してもなお、彼らの成長と進化のスピードは異常だった。その総体としての振る舞いは、ただの「生存本能」で片付けてしまうにはあまりにも統制的で、進化に貪欲で、何事にも一途だった。なにか強烈な目的意識の存在が、そこには見え隠れしている。
 天命。さだめ。レゾンデートル。呼び方はなんでもいいが、彼らが生まれながらに持つそういったモノがこの進化の根底にあるのだとしたら、それは――、

「!」

 気付くのが遅れた。
 思案に耽るパチュリーの眼前で、いつしかスライム達がとっていた行動。
 その意味するところに、パチュリーは目を見開いた。









 ――願いを込めて、神は私たちをお創りになりました。

 でも、私たちは出来損ないでした。
 神の望みは叶いませんでした。

 だから。
 私たちは。
 この存在の全てを賭けて、神の悲願を作り上げる――!









「レミィ! 見て!」
「……えっ?」

 パチュリーの鋭い呼びかけに、レミリアが振り向く。
 二人の視線が注がれる先で、スライム達が作り上げたもの。
 それは、スライムと同じ淡い黄金色に仕上がった、見事なぽてちだった。

「これ、ぽてちじゃない! こいつらがどうして……」
「このぽてち、私たちにくれる……みたいよ?」

 揚げたてのぽてちが山盛りになった大皿を囲み、スライム一同は静粛に二人の方を見上げている。
 レミリアはそっと手を伸ばしてぽてちの一枚を摘み、パチュリーもそれに倣った。
 パリ。パリ。
 二人は無言で、そのぽてちに歯を立てた。

「……」
「……」

 歯触り。
 香ばしさ。
 塩加減。芋の甘み。油のキレ。
 それは、どれ一つ取っても、先に賞味した出来合いのぽてちを遙かに凌駕する――最高の味だった。

「これは……。お前達は、私のためにこれを……」

 ぽてちを飲み下し、俯くレミリアの瞳から、一筋の雫が落ちる。
 スライム達もまた感極まったように体を震わせると、一斉に飛び跳ねて空中でひとかたまりになり、おぼろげながら人の形を成してレミリアに歩み寄る。
 レミリアは雫の光る目を細めて微笑み、両手を広げてスライムを抱きとめた。

「ありがとう。ありがとうお前達……」

 粘体生物と抱き合う親友を見て、パチュリーは静かに興奮していた。


  ◆ ◆ ◆


 数日後、なんか放置してたらスライムが少女の姿になっていた。
 いつの間にか進化が極まっていたらしい。
 全裸で徘徊されても困るので、パチュリーは彼女にメイドの服を着せた。

「レミィ。この子、もっと貴女のために働きたいって」
「んぁ?」

 レミリアの前に引っ張り出され、じろじろと遠慮のない視線が注がれる中、少女は表情を引き締めてピンと背筋を反らす。
 緊張しているのか、髪や指の先端がときおりスライムに戻ってうにょうにょするのは御愛嬌だった。

「ふむ、いいだろう。――励めよ、千夜」

 ちよ。
 その鶴の一声に名前とメイドの役を与えられ、少女の顔が揚げたてのぽてちのように輝いた。
 これより後、少女には速攻で『ぽてちよ』の渾名が付けられ、比類なき腕を誇るぽてち係として紅魔館に尽くすことになるのだった。


  ◆ ◆ ◆


 さらに数日後。
 レミリアは神社を訪れていた。

「ごきげんよう霊夢。ちょっと確認しておきたい事があるのだけど」
「なによ。いきなり来たと思ったら藪から棒に」
「弾幕ごっこで、私のサーヴァントフライヤーが弾を撃って、それが霊夢に当たった場合、やっぱり私の勝ちになるわよね?」
「そうね。あんたが撃ったのと同じ事になるわね。それがどうかしたの?」
「――ううん、それならいいの。はい霊夢、これあげる」

 隠し持っていた紙袋を、レミリアは差し出した。

「んっ……? あら、ぽてちじゃない。どうしたのこれ?」

 霊夢に問われ、レミリアはよくぞ訊いてくれたとばかりにニンマリ笑って、こう言った。

「私が作ったの!」

~おわり~
極上のぽてちに霊夢はたいそう喜び、レミリアも撫でられて幸せでしたとさ。

実はこの話、構想自体は風神録をあらかた遊び終わった頃に思いついたものです。
書くのが遅れまくったせいで、レイサナには二年物のポテチを食わせる羽目になりました。
すまん。

2010/08/29
誤記を修正。ご指摘に感謝します。
資料と称してポテチなんぞ買ってる暇があったらWiki見るべきだった……。
監督
http://sichirin.blog45.fc2.com/
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コメント



0.8090簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
何なんだよ……。スライム何なんだよ……。
万物創世記を見ている気分でした。新たな世界が出来ちゃったよ、ぽてちのために。
おそらく、これからぽてちを見る度にスライムを思い出す羽目になりそうです。
2.100Ninja削除
スライム? えっ? スライム?w
ってかお嬢様ったらカード食べちゃったのかよw
3.100名前が無い程度の能力削除
かの星新一氏は「SSの極意は異質なモノを混ぜることだ」と書いていましたが
その星新一の一千を超える数の作品でも、これに匹敵するのは20作品も無いのでは
感動したとか素晴らしいではなくて、もはや読んで途方に暮れました。なんて完成度だ
5.100名前が無い程度の能力削除
あれ?なんで俺泣いてるんだろう…
題名からしてこんな感動する予定なかったのに
6.100紳士的ロリコン削除
ぽてち食べたくなりました
8.100名前が無い程度の能力削除
ぽてちよ可愛いすぎだろ。何だこのいい話は!  
話の組み立ても巧い・・・
9.100名前が無い程度の能力削除
アクトレイザー吹いた
10.100名前が無い程度の能力削除
こうして完成したのがこちらのぽてちになります。
11.100ぺ・四潤削除
「私が作る」で紅魔館炎上フラグしか思いつかなかったのに……何だこれは……何だ!
スライムがただの小ネタだと思ってたのにまさかメインだったとは!
お嬢様は遂に神となった!! ぽてちよマジ可愛いです。喋るのかな?

「だ、誰がこんな下劣な食べ物! 見ろ、手が汚れてしまった!」雄山先生ww
12.100名前が無い程度の能力削除
ぽてち作ろうとしたら悪魔のくせに神になっちゃうお嬢様……すげぇ。
なんか、もう、面白かったです。
はぁ、ぽてちよ、食べたい。
14.100タカハウス削除
おかしいなぁ。
ものすごく可愛いレミィと呑気なパチェのお話を見ていたのにいつの間にかスライムにもっていかれた・・・。
でもすごく面白かったです。
謎のぽてちよに惜しみない拍手を。

そして最後に一言、パチェ、ゾンビパウダーはねぇよw
15.100名前が無い程度の能力削除
ゾンビパウダーで限界だった
16.100名前が無い程度の能力削除
なんという超展開w
今度はぽてちよの身柄をめぐって霊夢や早苗が暗躍しそうな悪寒w
19.100名前が無い程度の能力削除
この作品を半分まで読んだとき、私はぽてちが食べたくなりました
我慢できず、近くのファミリーマートまで行き、堅あげポテトを買ってきました
ぽてちを頬張りながら、このこの作品を読み終わった今、私はスライムが欲しくなりました
我慢できないので、ぽてちを作ることにします
いつか、千夜が私の前に姿を現してくれると願って……
21.100v削除
ステーキの盛り合わせにあったポテト。「分厚すぎる!」と客に言われて逆ギレしたコックが、「これなら文句ねぇだろ!」と超薄切れにして揚げたポテトを持ってきた。これがぽてちの始まりである。(とか何とか。
そして今、ぽてちは新たな生命と神話を生み出すに至ったのであるーーー
23.100名前が無い程度の能力削除
緩いギャグテイストのまま進んでいくと思ってたのに!思ってたのに!
裏切られましたよ見事に!
27.100名前が無い程度の能力削除
スライムの進化極まった奴ください
28.80名前が無い程度の能力削除
どうしてこうなったwww
32.100名前が無い程度の能力削除
すらいむ×幼女か……
パッチェさんのダメな性癖が見え隠れしているところに親近感を感じました。
33.100名前が無い程度の能力削除
序盤のレミリアの悲鳴でフイタ。
久々にSSで笑った気がする。
35.100名前が無い程度の能力削除
もしかして凄い作品に出会ってしまったのではなかろうか・・・
36.100名前が無い程度の能力削除
妖怪カード食べちゃったくだりでもう駄目だった

それにしても、発想の根幹からぶっ飛んでいるのにこんなに読みやすいのは凄いと思った。
37.90名前が無い程度の能力削除
スライムすげえ!
38.100名前が無い程度の能力削除
ポテチ作ろうとして新たな生命を生み出すとは……
吸血鬼まじぱねえ
40.80名前が無い程度の能力削除
いやロイヤルダイヤモンドリング使えないけどさあw
42.100名前が無い程度の能力削除
こういうのを「予想外」って言うのだと思う。
43.100名前が無い程度の能力削除
小ネタかと思ってたスライムが……どうゆうことなの……
久々になんかがすごいSSを読んだ気がする
45.80名前が無い程度の能力削除
ポピュラスと思い出した
しかし、真の元ネタはぽてまよだったというオチにワクワクしちまったぜ

二次創作では仕方ないことなのだが
レミリアの動機の部分が、自分の中のイメージと食い違って素直に楽しめない部分もあったけど
当SSの根底にある東方っぽさ、つまり適当な理由でなんかすごいことをやっちゃうけど、結局大したことなく日常へ回帰する的な部分に、もの凄く惹かれるものがありました
いやあ、やっぱこういうSS世みたいよね
47.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
49.100名前が無い程度の能力削除
展開が予想外すぐるwどうしてこうなったww
51.100名前が無い程度の能力削除
良い話でした
52.100山の賢者削除
インド人ネタ入ってくるかw
53.100名前が無い程度の能力削除
地味にパッチェさんがダメだwwww
56.100コチドリ削除
お話の設定自体は馬鹿な方向に一直線のはずなのに、文章からは格調の高さすら感じられる……

アクセルペダルはレミリア、ギアとハンドル操作はパチュリーが担当、ブレーキは元から無いし、
ナビやウインカーもイカレている。でも何故か無事故で帰ってきました、みたいな感じでしょうか。

我ながら訳のわからない感想ですが、それだけ不思議で強烈な印象を受ける作品でした。
57.70名前が無い程度の能力削除
パッチェさんはやはりこうでなくては。
たしかにゲーメストとっくに幻想入りだよな
チップスター赤が最強だろJK
59.100名前が無い程度の能力削除
小ネタのラッシュにも何とか耐えてたけど、アクトレイザーで全て持ってかれたわ
60.無評価名前が無い程度の能力削除
レミリアかわいい。あとぽてち食いたい。
61.100名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れました・・・。
63.100名前が無い程度の能力削除
予想外の展開にびっくり。そして回りくどい前提を延べるレミリアが可愛いw
65.90名前が無い程度の能力削除
パチュリー……。なんで指に防護魔法掛けないのん?
69.100名前が無い程度の能力削除
心からこう叫ぼう

イイハナシダナー(;∀; )
インド人ヲ右ニー(;∀; )
70.100名前が無い程度の能力削除
天才を見た
71.100名前が無い程度の能力削除
監督さん復活!監督さん復活ッ!!
また書いてくれて本当に嬉しい……。
72.100名前が無い程度の能力削除
ぽてち食べたい。
買いに逝こう。
80.100名前が無い程度の能力削除
途中からなんだこれw状態だったがスライムの描写にワクワクしたのでこの点で。
87.100名前が無い程度の能力削除
「見ろ、手が汚れてしまった!」
なんつう海原先生的ツンデレ反応w

スライム生きてるのかよwレミリアすげえw → 徐々に社会を形成しつつあるしw → なん……だと……!?
91.100名前が無い程度の能力削除
これはヤバイww
久しぶりにSSで腹が痛くなるほど笑いましたwww
93.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
94.90可南削除
節々にあるスパイスに魅了されてしまいました。
非常に面白かったです。ありがとうございました。
96.100名前が無い程度の能力削除
スライムの健気さに感激!なお話でした。

ギャグかと思えば、あったかくてよかったです。
100.70即奏削除
面白かったです。
102.100名前が無い程度の能力削除
てっきり普通に芋を揚げると思ったら、まさかのスライム創世記。
そのうえ序盤から終盤まで描写が丁寧で、とても楽しく読めました。
104.100名前が無い程度の能力削除
戯れるパッチェとスライムを想像して幸せな気分になった
108.100名前が無い程度の能力削除
見事。
111.100名前が無い程度の能力削除
最後に放ったレミリアの喩えに惚れた。

ぽてち。
113.100名前が無い程度の能力削除
何がどうなったらぽてちからスライムの話になるんだよwwww
その発想にやられました。
114.無評価名前が無い程度の能力削除
ほのぼのした(´∀`*)
115.100名前が無い程度の能力削除
どうしてこうなった…しかし上手くまとめる作者に畏敬の念を禁じ得ない
116.100名前が無い程度の能力削除
>>115 点忘れてた
117.無評価名前が無い程度の能力削除
今気付いたけど、フライヤーって揚げ物する機械ですよね。
サーバントフライヤー、ぴったりだ。
121.90沙月削除
インド人と聞いて。
122.100名前が無い程度の能力削除
どうしてこうなった。でも、ぽてちよちゃんは半端じゃなく可愛いからいいや。
でも、ぽてちよちゃんとレミリアが絡む姿は誰だって興奮する。俺だって興奮する。
123.80名前が無い程度の能力削除
霊夢 ぽてちは任せろー!パリパリ
レミリア ぽてち触った手でなでるのやめてー!
126.100名前が無い程度の能力削除
スライム美少女がお嬢様とハグ
なるほど、ぽてちよはいい仕事してますね。
135.100名前が無い程度の能力削除
なら最初から咲夜に作らせてれば・・・www
てかスライムたちはいつ出現したんだ!?
カオスww
137.100名前が無い程度の能力削除
インド人とはなんぞww
138.100名前が無い程度の能力削除
一文一文の破壊力がすげえっ どこを切り抜いてもネタしかねえっ
ならば、よろしい……次はかっぱえびせんだ!
141.100名前が無い程度の能力削除
スライムください!
レミリアすげえw
パチェが地味にダメな性癖だなwww
144.100名前が無い程度の能力削除
慎ましやかなギャグクオリティの高さですねw
どうしてこうなった。
149.100名前が無い程度の能力削除
久々に凄いSSを見た気がするw
GJでしたw
150.90名前が無い程度の能力削除
もうスライムが主人公でいいよ!
151.100MTB削除
読み返した後に間違えてコメント消してしまったので再度……。
朝から何しているんだ自分は。

そして再読でもやっぱり面白かったです!(最高の笑顔)
152.100MR削除
我々は、この短い物語の中で一つの生命体の進化を目撃したのであった……

展開が予想の斜め上を光速で過ぎていくのが素晴しい、感動した。
153.100名前が無い程度の能力削除
おかしいな。下らない話の筈なのになぜか清涼感がw
154.100名前が無い程度の能力削除
久しぶりに監督さん来たと思ったらどうしてこうなったw
155.100名前が無い程度の能力削除
スライムすげえw
156.100名前が無い程度の能力削除
これはサクサク食べれる美味しいモノ。パッチェさん良い仕事してますね~。
おかげでレミリアが影薄い、というか途中で主役がスライムに代わってるw
最後の「私が作ったの!」と言った時のレミリアのいい笑顔が見えました。

しかしコレ、無性にぽてち食べたくなるな。
こんなことなら今日スーパーで九州しょうゆ味買っとけばよかった……。
159.100名前が無い程度の能力削除
うっかり感動しそうになったがやっぱり全力全開のコントだった。
短いお話なのに笑えるポイントが盛り沢山ですごかったです。
160.100名前が無い程度の能力削除
サーヴァントはフライヤー
162.100名前が無い程度の能力削除
斜め後方に全力で投げた展開が隙間に入って真正面から出てきた感じ。
とにかくすげぇ。
164.100名前が無い程度の能力削除
ぽてちおいしいd……あれ?……あるぇー??……
165.90名前が無い程度の能力削除
ぽてち要らないのでスライムください
169.100名前が無い程度の能力削除
アクトレイザーなスライムに萌えたww
173.100名前が無い程度の能力削除
いや~、これは面白かったですよ。レスしないではいられない程に。
出だしから、軽いが妙に味わいのある、まさにポテチックな文章にやられました。
気付けばガツガツと読ませられ、ごちそうさまと思いきや袋の中にはオチがもう一切れ残されている……。
ぶっちゃけ作者様の文章センスに憧れます。妬ましいくらいに。
いつか、こんな作品を書いてみたいなぁ。
176.80名前が無い程度の能力削除
パチュリー興奮するなwww
177.100名前が無い程度の能力削除
ぽてちよが生まれるのは運命だったわけか...

こんな発想力は妬ましい
183.100名前が無い程度の能力削除
どこからツッコめばいいのかわかんないwww
スライムのちーちゃん可愛いなぁ
185.100名前が無い程度の能力削除
ちなみに、本物の妖怪カードはレミリアの胃袋の中である。

なんだそれwww
189.100名前が無い程度の能力削除
世辞じゃなく本気で面白かった。もう大満足ですよ!加えて、スライムの可愛さが異常w
192.90とーなす削除
テンポの良いコメディタッチで、ストーリーもしっかりしていて面白かったです。
小ネタもセンスいい。「霊夢むけたー」じゃねえよww むけるんかよww
193.90名前が無い程度の能力削除
ネタの一部と思っていたスライムが気づけば主役に成り代わっていた・・・
この展開は完全に予想の内になかったわw
195.100euclid削除
スライム可愛すぎですわ、常識的に考えて。
しかしこの異常な進化速度、この作品の最後の段階で止まる、または緩やかになってくれていればいいのですけれども。
それはともかくとして、パチュリーさんの指示通りにぽてちができなくて良かった。本当に良かった。 >ゾンビパウダー
198.90名前が無い程度の能力削除
シュールといえばいいのかハートフルといえばいいのかww
とにかくすげえ面白い
203.100名前が無い程度の能力削除
おはようございます。きさま。
216.100名前が無い程度の能力削除
マッシュポテト霊夢。
227.100名前が無い程度の能力削除
唐突に話が斜め上にズレてってワロいました
そしてそれはとても面白かった

そしてスライム可愛い…!
233.100名前が無い程度の能力削除
何気なく見はじめたのが運の尽きだった・・・
こんなことならアルフォートじゃなくチップスターを選択すべきだったw
それにしても一家に1人、ぽてちよちゃんが欲しいッ!!
239.100名前が無い程度の能力削除
どうやったらポテトチップスとスライムが繋がるんだw
242.100名前が無い程度の能力削除
間接的過ぎるぜ…
246.100名前が無い程度の能力削除
少女ぽてちよが揚げた絶品黄金ぽてちが全幻想郷を席巻し、そうそうたる有力少女達がその魅力に開眼、各勢力の従者達によるぽてち開発競争、アドバンテージを有する守矢の台頭、その上をいく紅魔館のナチュラルボーンフライヤー、狙われるぽてちよ、飛び交う弾幕、やがて気になるBMI指数、飛び交う悲鳴、問われるぽてちよのレゾンデートル、やがて少女は葛藤の果てに何を見るのか。
ここまで妄想余裕でした。

霊夢むけたー、でワロタ。
248.100名前が無い程度の能力削除
この作品の点のうち2000点くらいはスライム達が稼いでると思う
ポテチ!
255.100名前が無い程度の能力削除
ちよちゃん可愛い
257.100名前が無い程度の能力削除
夜中に読んでこいつぁとんだ飯テロだって…
お嬢様かわいすぎてパッチェさん通常影響すぎて もう最高です
258.90名前が無い程度の能力削除
まさかのスライム
263.無評価名前が無い程度の能力削除
スライムに
かーみーさーまー
って言って欲しかった
264.100名前が無い程度の能力削除
スライム娘の謎の可愛さ
273.100名前が無い程度の能力削除
Servant fryerの発想が流石としか言いようがないです。最後のレミリアの台詞がかわいい。ぽてちよもいいぞ。
274.100サク_ウマ削除
すごかった以外の感想が見当たらないぞこれ・・・