Coolier - 新生・東方創想話

鬼の宴

2010/08/27 02:38:38
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満月の光を受け、小さな翼と小さな角は、その姿を夜に雄々しく輝かせていた。
誰もいない、誰も知らない、誰も見ていない…はずの、とある山の頂上。
永遠に幼い紅い月と、小さな百鬼夜行だけが夜に立っていた。

「神槍!スピア・ザ・グングニル!」

キン、と耳をつんざく音と共に具現した緋の槍が、光を纏い夜を駆ける。

「甘い!」


槍が目標を刺し貫くことはなく、眼前の鬼は容易く槍を握り潰す。
鬼の前に、ただの武具など玩具でしかないようだ。

「へぇ。流石力は大したものね。」
「…」


発端は非常に単純だった。
たまたま神社に同席した吸血鬼と鬼。
初めはただ互いに鬼の名を冠する者として、暇潰し程度の力自慢を行っていたのだが、
時間を忘れて夢中になれる物でもなく、飽きを感じて鬼が発した言葉。

「しかし退屈だねぇ。スペルカードもいいんだけどさぁ。
 なんかこう、たまには全力で何かにぶつかりたいもんだねぇ。」

その一言がそこに生まれた時、鬼の思いは一致した。
騒がしい祭り事の好きな鬼
好奇心の塊の様な幼い吸血鬼
そんな二人が思ったのならば、決めた先は話が早い。
明日、晩、目の前にあるあの山で。
鬼の宴を開こう、と。
人も妖怪も連れも酒も遠慮もない
原始的な力の限りの饗宴を
一晩だけ、お互いに鬼になろう、と。


そしてその日の次の晩の山の上。、二人は約束通り宴の真っ最中だった。
はずだった。
だのに双方宴の顔とは程遠い。
やはり、宴には酒が必要だったのか。

「…あのさぁ、吸血鬼。」
「なに?」
「あんたさ、平和ボケしたのかい?」

退屈そうに頭をボリボリとかきながら、酔った声でダラリと鬼が言葉を投げる。
いつもの調子の鬼の声だが、それを受けた吸血鬼はぴくりと両の眉を寄せる。
例え軽く投げたボールでも、打ち所さえ悪ければ威力はある。

「どういう意味?」

吸血鬼は、その不快感を全身で明らかにする。
少しだけ、月が紅く揺らぐ。

「どうもこうもないよぉ。あのさ、私との昨日の約束、覚えてるだろ?」
「当たり前でしょ。ここにいるでしょ?あんたみたいな酔っ払いとは違うよ。
 折角の素敵な月夜に、こんな岩肌だけの山頂くんだりまで散歩はしないわ。」
「じゃぁ、なんでさっきから「技」なんて使うのさ。」
「…?」

鬼の少女の小さな指が吸血鬼の持っているカードを指し示す。

「あのさ、私はね、スペルカードルールは今はやりたくないんだよ。
 いや、嫌いじゃないよ。
 いつでもどこでも誰とでも、実力や種族に関係なく、等しく皆が宴会をできるん、本当愉快なルールだよ。
 でもね、そうじゃない。今日の宴は違うよ。
 私はね、鬼の戦いをしたいんだよ。
 思い切り全力で。
 決められた形の技なんか忘れて、無様で不格好で、何よりも強い力を萃めて相手にぶつける。
 ただそれだけをやりたいんだよ。」
「…」


-God spear-
SPEAR THE GUNGNIR


手の中のカードの、細く綺麗な英字が、月の光を反射する。
それをせがんで書かせた瀟洒な従者。彼女の顔を思い出すのに一瞬時間を使った。

「いいんだよ別に。平和ボケするのはさ。
 平和だからお酒が飲める。平和だからスペルカードを-楽しめる-。
 平和だから眠れるし、……平和だから、鬼退治も出来る。
 皆の調和が萃まって、萃まり過ぎて拡散してるから何も無いんだ。
 それに毒気を抜かれることを、私は臆病者だなんて思わないよ。
 むしろ幸せなことだと思うよ。
 でもね、今晩だけは、私は鬼になりたいんだよ。…これもさ、平和だからできるんだ。
 多分ねー、明日になれば、私あいつに怒られると思うんだー。
 でもさ、お前は昨日私と約束してくれただろ。
 ならさ、思いっきりやろうじゃないのさ。
 私とさ、ちょっとでいいから鬼になってくれよ。」

この鬼がこんなに長々と話す姿を、吸血鬼は久しぶりに見た。
話過ぎて口が乾いたらしい。
鬼は急ぐようにひょうたんに口を付ける。
ぷはっ、と。
秋も近付く月の夜に、酒気を帯びた白い息を吐き、最後に鬼は不敵に笑い

「あ、怖いなら、やめていいよ。」

一言付け足した。

吸血鬼の耳に、かつては聞き飽きていた人の叫びが蘇る。
吸血鬼だ
逃げろ
助けてくれ
今となっては聞くことはなく、記憶を辿るにも久しい恐怖の音。
人が夜を恐れなくなったのはいつからか。
人が闇を空気にしたのはいつからか。
自分たちが、鬼が忘れられたのはいつからか。
もう一度、手の中に槍を作ってみる。
その赤は、かつて見飽きた赤よりも、少しだけ暖かな色に見えた。

「そう。」

持ってきた全てのカードを、山に預ける。
…つもりだったが、一人の人間の顔を思い出し…何故かその人間を投げる様な気がして気が引けた。
帽子を脱ぎ、その中にカードを入れ、今度こそ、山にカードを預ける。
小さな帽子を、ぱさと音を立てて山に持たせる。


ごめんね咲夜。
一晩だけ、貴女を見ずに出かけるわ。
でも少しだけよ。
少し経ったら、貴女の運命は、また私が預かるわ。


「カビの生えた太古の鬼が。平和ボケはどちらかしらね。
 吸血鬼の恐ろしさを忘れるなんて。」

妹にも従者にも友人にも門番にも
巫女にも魔女にも冥界の主にも妖怪の賢者にも
月の頭脳にも永遠の姫にも地上の神にも…
こっちに来てからは誰にも見せていない吸血鬼の笑顔で、吸血鬼は鬼に改めて杯を向ける。

「いいねぇ。やっぱ宴会はする者全員が乗り気じゃないとねぇ。」

乾杯をしたなら、後は宴の酒を楽しむのみ。
鬼はもう一度、ごくりとひょうたんを傾ける。
月は輝きを増し、待ちわびていたかのように、やっと始まった宴を、その光全てを以て照らし上げた。

「今日のお酒は、とびきり強いけどね。」
「酔っぱらって寝たら、酒代だけじゃ済まないわよ?」
「鬼が寝るときゃ、勝利の後の高枕さ。」
「宴会場で横になる時点で、マナーも何もないわね。」
「無礼講は宴の肴だ。それさえ楽しめないなんて下手だねぇ。」
「強い者にお酌も出来ないと、宴の後で後悔するわ。」
「お山のてっぺん気取っていると、酒の本音に足元すくわれるよ。」


少女の翼が周囲の色を紅に変え
少女の一つの足踏みが、周囲の大地をえぐらせる

「鬼の豪力に怯え震えろ、紅い月!」
「鬼の恐怖に頭を垂れろ、百鬼夜行!」

一夜の宴が、幕を上げた。



その身を映すことを許さぬ影と
耐えることなど禁じた力

鬼の爪が岩を裂き
鬼の拳が地を砕く

紅い力は自身意外の色を否定し
萃まる力は周囲の全てをその身に含む

笑いも涙も怒りもなく、ただの一つの声もしない。
開宴を待ち望んでいだ夜の静寂は、その宴に見入っている。
一対の翼が空を切る音と、一握りの拳が空を押しやる音ばかりが響く。
宴とは言え、流石に時間が更け過ぎていたせいか。
愛も憎もない、純粋な力だけの夜想曲。
だがしかし。
たった二人の鬼が開いた宴だが
たった二つの喜びだけは、大いに宴に酔っていた。

振り下ろされた小さな手が、下にあれと山を削る
前に突き出した小さな拳が、道を開けろと空気を分ける
疾走する小さな影は、自分以外の存在を許そうとしない
そこにあってもそこにはいない影は、影さえも自らの下には映さない
影が一つ増えた時、小さな鬼の姿は満月を我が物顔で夜空に背負う。
感じるや否や、我こそが夜の王と、鬼の更に上へと一瞬で飛び昇る

振い振われ、かわしかわされ、打ちて打たれて、防ぎ防がれて

二つの 鬼 が、夜の終までただただ宴を行った


「お嬢様!一体どちらに行っていたのですか?!
 もう日が昇るのにどこにもいないから、心配したんですよ!?」
「ごめんね咲夜。余りにもいい夜だったから、散歩に夢中になってたんだよ。」

紅い月は、その身を泥で汚しに汚して己の居城に帰りついた。
汚れに汚れた服を見て、流石の従者も呆れ混じりの怒りを覚える。
同時に、何故か綺麗な帽子に疑問も感じ、
加えて心の奥底で、山への散歩はどうでもいい服を着て行こうと固く誓った。

「山って…あの酔いどれの鬼じゃないんですから。散歩にしてももっと綺麗なところに行きましょうよ。」
「あら、私も鬼だよ?大丈夫。咲夜を置いてなんかいかないよ。」
「そんなわかっていることは聞いていませんわ。」
「…咲夜、体中が泥だらけ。お風呂に入りたいわ。」
「もう沸いていますわ。」
「それでこそ、私の咲夜だわ。」

間髪をいれず答える瀟洒な従者に、館の主はこの日二度目のこの上ない満足を得た。

「~♪~♪~~~~♪」

かわいらしい鼻歌と、小さな靴音。
日も昇ると言うのに、吸血鬼の姉妹はまだ眠りの中にはいなかった。

「あらフラン。」
「あらお姉様。…なぁにその姿。」

余りにも汚らしい姉の姿に、悪魔の妹は眉をひそめる。
今は狂気をまとわぬその顔が、少し歪む。
姉譲りの優雅さは、山の泥は好まないようだ
…が、その瞳に映る色は、汚れへの嫌悪とは少し違うか。

「山に散歩に行ったのよ。こんなにいい夜はいつぶりかしら。
 …えぇ。いつか、貴女も行けると願っているわ。
 咲夜、着替えとタオルを用意しておいて。」
「更衣室にございますわ。」
「…本当にいい夜ね。
 …あー、今日は背中は流さなくていいわ。何かあったら私から呼ぶから。」

従者の答えも聞かず、土の汚れを残しながら、館の主は廊下の先へと立ち去った。

「…」
「あの、フラン様。お嬢様はあのようにおっしゃってましたが、もし外に出たいならお申し付けください。
 いつでもお供しますか……フラン様?」

いつもと変わらぬ主の、妹への冷めた態度を少しでも忘れさせようと、従者は妹に声をかける。
勿論、あの態度が気持ちそのままなのではないのを従者はわかっている。
が、吸血鬼の妹にはそれは伝わるまいと思っての従者なりの行動だった。
案の定、悪魔の妹は小さな体で不快感を露わにしていた。

「…あいつばっかり、ずるい。」
「…フラン様、今日のことは、私も存じませんでしたから。今度、フラン様もご一緒にお散歩しましょう?」

癇癪を起されると危ない。
面倒どころではなく、危ない。
なんとか機嫌を直してもらおうと、声をかけるが…

「…あんなこと言って、私には絶対そんなことさせないくせに…」
「いえ、最近はこうしてお館も歩いておられますし、お嬢様をそれを咎めません。
 フラン様も…今でしたら、御一緒に外に出ることぐらいお嬢様も」
「いいの。私があんなことしたら、全部壊れちゃうことぐらいわかっているから。
 いつかあいつに付き合わせるからそれでいいわ。」

早朝から面倒事になるかと思ったが…
何やら、理解は出来ないが、吸血鬼の妹はまた鼻歌と靴音を響かせ元来た方へと立ち去ってしまった。
従者は急ぎ、ここまで自分が口にした言葉を繰り返す。
…数秒。

お嬢様もそれを咎めません

やはり、悪魔と言えど、姉妹の絆と、それに向ける好意・認められる喜び。
肝心な部分は、人間とそう変わらないのかしら。
と。
人なりの答えを導き出し、従者は納得した。
不器用な主人と、少しずつ成長しているその妹に、
今日の昼に、なんでも屋で手に入れたお湯を入れるだけで飲める紅茶でも差し出そうか、等と思案に耽ったが…
その前に、廊下をなんとかするのが先か、と。
一人溜息をつく従者の姿は、一瞬で廊下から無くなった。


ぐび、ぐび、ぐび
ぷはっ

神社の縁側。
持ち主はまだ夢の中。
静まり返ったそこに、一人の鬼が座っている。
泥だらけの服を脱ぎ、タンスから勝手に浴衣を拝借し、湯も頂いて夢心地。
しかし食料庫から肴は取らず、
そこにはない何かを味わうように、ただただのんびりとひょうたんに口を付ける。
一人の鬼が、そこにいた。


ぐび、ぐび、ぐび…
ぷはっ…


夜の静寂に、喜びの声が静かに音を生む

「お互い傷はなし、かぁ。
 あいつ、やっぱやりゃぁすごいねぇ…」

ぐび、ぐび、ぐび、ぐび、
ぷ…はぁ…

「…うん。ま、いっか。」

楽しかったー
そんな声が聞こえた気がするが
縁側には、一瞬霧の様なものが舞っただけで明けようとしている夜以外は何もいなかった。



今度の宴会、いつもの連中に宴会の数でも聞いてみるかなぁ。
あいつだけ、一つ多く答えてくれると嬉しいねぇ。
あいつはどうかな。このぐらいは知らんぷりしてくれるといいんだけど。
おっと、月…ねぇ…。



鬼はなんとなく
今やもはや殆ど沈んでいる月を砕いて
またすぐ戻した。

これでよし、と。




満月の夜に捧げるは、ただ力だけの鬼神楽。
誰も知らない、夜の宴の話であった。
以前に書いてあった物ですが、余りにも月が綺麗ないい夜だったので、思いつきで手を加えて投稿しました。

と、この場を借りて。
本作以前の二作、読んで下さった方、コメントを下さった方、誤字の報告を下さった方、とにかく全ての読んで下さった方、本当にありがとうございました。
優れた作品ばかりの中で、新参者の拙い作品に時間を使って頂けて、本当にありがたいです。
多くの人を満足させられる様な学も才もありませんが、たった一人でもいいので、自分の作品を読んで満足していただけたり、読後に少し妄想に耽って頂けていたり、たった一人でも少しでも楽しんで頂けていればそれで十分満足です。
頂いたコメントも、本当は一つずつ返事をしたい(するべきなのかもしれない)のですが、なんとなくコメント欄は読んだ方の反応だけにしておきたくて…そんな自分勝手な思いで私は手を触れずにおります。なんかごめんなさい…
頂いたコメントは、本当に何度も読んで読んで悦に入ってしまうぐらいに読ませて頂いてます。本当にありがとうございます!

と、拙い作品に加えて「聞いてねぇよ」な長文、失礼しました。
少しでも楽しんで頂けていれば幸いです。
なめレス
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コメント



0.460簡易評価
5.90コチドリ削除
鬼二人の本気の闘い、というよりも粋な前口上。
楽しませて頂きました。
闘い終わった二人の描写も、これまた粋ですねぇ。

でもあまり何度もやりすぎるともう一人鬼が増えちゃうかもですね。
鬼の形相を浮かべた紅白の巫女様が。
7.80タカハウス削除
何となく、レミィ&フラン VS 萃香&勇儀 という構図が浮かんでしまいました(え
それはともかく、萃香のセリフにぐっときました。
そして祭りの後の2人がまたいいですね。