Coolier - 新生・東方創想話

真夜中の少女たち

2010/08/26 01:49:26
最終更新
サイズ
7.87KB
ページ数
1
閲覧数
454
評価数
5/30
POINT
1670
Rate
10.94

分類タグ

※このお話は創想話95の短編「流星観測会」の続編に近いお話となっておりますが、読まなくても多分問題ありません。多分。あと短い。すいません。




甘い匂いがした。
くうらり、と頭が回ってしまいそうな艶っぽさと少女のひだまりのような健やかさを孕んだ匂いだった。
シーツの上で私に背を向けて丸まっている、その散らばった髪の毛を掬い上げて指に絡ませる。
私のものより深く濃い金色は、すばらしくしなやかだった。
手元を照らすランプだけがぼんやり光る、薄暗い部屋。ベッドの上のふたつのかたまり。
私が為す意味の無い動きだけが僅かな音を響かせていた。
掬い上げては、地に落とす。ぱさり、ぱさり、と枕の上で弾ける。
なんだか流星みたいだった。線を描いてしゅるりと地に堕ちた、ちっぽけな流れ星。
もしかしたら―――もしかしたら、だけれど。私は彼女をそんなふうに考えていたのかもしれない。
昔彼女は流星になりたかったと呟いたことがあったけれど、私はその時思ったのだ。
既に彼女は――霧雨魔理沙は、流星では無いのかと。恐らく心のどこかで長い間そんなふうに考えていた。
ただの人間の魔法使い。森にひとり住むおかしな少女。
けれど、ずっと、心の隅っこで漠然と思っていた。空から落っこちてきた星の子供みたい、と。
または、そうであればいいのにと思っていたのだ。
時々見る夢がある。私のすぐ横を表情をころころ変えながら箒で通り過ぎていく魔法使い。
速過ぎて追いつけなくて、私は急いで点々と散らばるカラフルな星を目印に後を追う。
すると、深い夜のずっと向こうで捨てられた仔猫のような目をした人間の少女を見つけるのだった。
耳を打つ規則的な呼吸音。
今目の前で安らかに眠る顔とも、いつも不敵に笑う顔とも違う泣きそうな顔をして。
「星に届かない」と、それだけ言うのだ。ただの、か弱い人間の子供みたいに。

夢の終わりに、私はいつも眩しさに目を開けていられなくなる。
私の目の奥を灼いた、ありふれた、馬鹿みたいに綺麗な輝き。
そう、どこにでもある一瞬空をよぎるだけの光――それが魔理沙だった。


/

(……やっと寝たか)

髪を掬い上げては落とす。また掬い上げては、落とす。
意味の無い手遊びが止まったのを背後に感じつつ、私は息をついた。狸寝入りもどうやら上達したらしい。
隣で眠るアリスを起こさぬようゆるやかに身を起こすと、案の定すやすやと眠っていた。
オレンジ色のライトが照らすその寝顔は、あまりにも綺麗すぎて人形のようだ。
乱れて目蓋にかかっていた私のものより淡くやわらかい金の髪を指でそっと退けてやる。

「…う、ん……」

くすぐったかったのか、イヤイヤをするように枕に顔を擦り付ける。
そしてそのまま動きを止めて、また健やかな寝息が聞こえてきた。微妙に苦しそうな体制ではある。
こりゃ朝は首が痛いだろうな、と苦笑いしつつずれた布団を直してやった。


私がアリスの家に泊まるのは珍しいことじゃない。だけど、アリスが私の家に泊まるのはあまり無いことだった。
まあ、そうだろう。散らかっているし。
元々はただ昼にアリスが本を返してもらいに来ただけだったのだが、如何せん本が見つからなかった。
私が本の山をひっくり返していると、

「もういいわ、私が探すっ」

とアリスはずんずんと扉をくぐった。
威勢はよかったのだが、日の暮れに漸く本が見つかった頃にはぐったりと床に寝転がっていた。
途中からもはや大掃除に変わってしまっていたようだ。アリスによって『ガラクタ』と判断されたものが部屋の隅に積みあがっている。
時折ぐらりと揺れるその塔を人形たちが支える。いずれは倒れるだろう。
倒れたら結局元通りだな、と心に思いつつ額に汗の浮いたアリスを見下ろしていた。
埃っぽい服と髪の毛をそのままに彼女を家に帰すのも気がひけたので、場の流れで泊まっていくか、と聞いたらそうさせてもらうわ、と存外素直な返事が返ってきた。
そうして互いに風呂に入り談笑でもして、現在ベッドで眠りについているわけである。
我が家にベッドはひとつしか無い。私はソファーで寝ると言ったのだが、生憎ソファーは使用中だった。
使用しているのは主にパチュリーの魔道書だ。自業自得なのだが、どうもそれはふてぶてしくクッションに寄り添っているように見えた。
そうやって考えると、我が霧雨亭は相当ホームステイ住民に圧迫されているのかもしれない。

静かな息遣いだけが聞こえる。
閉めたカーテンの隙間から漏れる月明かりが一筋の帯をつくって揺れている。
妙に気を張っていたせいか、私はすっかり目が覚めてしまっていた。
ベッドのやわらかさに身をゆだねて、とろりと意識が溶けてきていた頃、引っ張られているような違和感を感じた。
どうやら背中側にいる客人が何かをやっているようで、思わず息を潜めた。
髪を梳くような手の動き。持ち上げては離す、手持ち無沙汰の子供みたいな遊び。
寝ぼけているのか、なんて思った。見えない分しなやかな指の動きがリアルに感じられて顔が熱くなる。
今更振り返るのもおかしいし、かといって脳は一気に醒めてしまってきていた。
そこで私は、狸寝入りというありふれた手段をとったのだった。
多分アリスも夢と現実の狭間にいたのだろう。いつもの彼女が気付かないわけがない。
あるいは、気付いていながら知らぬふりでもしていたのか。
彼女の顔からそのまま視線を落として、

「ぶっ……」

思わず噴出しそうになった口を慌てて手で押さえる。うん、アリスは起きていない。
見つけたのは、いつもすらりと伸びて針を操る白い手が幼子のように丸まっている光景。
私の髪をひと房握ったまま実に気持ちよさそうに眠っている。
私は出来るだけ音を立てぬように、枕に顔を突っ込んでひっ、ひっ、と引き攣ったように笑った。
普段の彼女がアレな分、子供みたいな仕草がどうもツボに入ってしまうのだ。
枕で音を殺しながら、私はひとしきり笑った。
自分が笑われていることを夢にでも見たのだろうか、アリスがううん、と寝返りを打つ。
手はしっかりと握って離さぬまま――それを見て再び噴出しそうになる。もう勘弁してくれ。
少し涙目になりながら私は握ったままのアリスの手に触れた。
力の抜けた指は、ほんの少しの力でも簡単に開けてしまう。
何もないようにその手を引き剥がそうとして、急になんだか惜しくなってしまった。
私が望めば簡単に離れていってしまう。
小さなランプだけ灯して、暗い闇の中でこうしてベッドに丸まって―――やめよう、と誰かが言い出さない限りずっとこうしていられるような気がしていた。
少しだけ刺激的な、変わらない日々。そんな馬鹿みたいなことを、考えた。
私は人間であることが好きだ。きっと、それは何年経っても変わらないんだろう。
触れたままでいた細い指を開いて、髪を退けた。

「おやすみ、アリス」

魔法を解除してランプを消す。今度はアリスの方を向いて目を閉じた。
らしくなく澱んだ気持ちごと意識を闇に沈めていく。
暖かなランプの光が目蓋の裏にぼんやりと残って、チカチカと残像を見せた。
ランプのような安心できる光も悪くはないけれど、私はやっぱり流星の方がいいと思うな。
一瞬だけでも、誰かの心を奪えるだろう?



/


がさがさ、と木々の鳴る音で私は目が覚めた。
うーん、と背を伸ばすとバキバキと音が鳴った。魔理沙の家のベッドはうちのものよりちょっと固い。
窓の外からケタケタ、と小さな笑い声が聞こえてきた。どうやら妖精がいるようだ。
どうせ飛んでいた鳥でも撃ち落として遊んでいるのだろう。
朝から迷惑なやつらだ。爽やかな鳥の囀りで起こされない辺り、さすが魔法の森とでも言うべきか。
とりあえず体を起こして、隣でゆるみきった寝顔を晒している家主を起こすことにする。

「魔理沙、朝よ。朝ごはんどっちがつく――」

そこまで言って、私は右手に妙な感覚を覚えた。
ちらりと見てみると、魔理沙が私の手を握ったまま寝ていた。逆に今まで気付かなかったのが不思議な位だ。
な、な、と慌てる私を知ってか知らずか魔理沙はんう、と唸って布団を引き寄せた。
金の髪が布団からはみ出してあっちにこっちに散らばっている。
そういえば昨日はあの髪をいじくってた気もする。いつ寝たんだっけ。あんまり覚えていない。
頭をがしがしと掻いて、ついでに手櫛でさっと髪を整える。
さて、この手をどうしようか。
少し冷たい私の体温と、ぽかぽかと温かい魔理沙の体温が手のひらを通じて循環する。
時計を見ると、起きるにはまだ少し早い時間だった。
手の込んだ朝食を作るには丁度いい時間だけれど、そもそもこの手を離さないと朝食は作れない。
私は深く息を吐いた。

「仕方ないなぁ、まったく子供なんだから…」

普段子供扱いすると魔理沙は怒るから、こういう時だけ。
ため息をついた割には笑顔で、私は再びもぞもぞと布団にもぐりこんだ。
重なりあうように結んでいた手を布団の中で動かして指を絡める。私より少し小さな手。
カーテンも開けぬまま、怠惰な一日の始まりを決行した。不思議にしあわせな気分のままふわふわと眠気が襲ってくる。
なんでもない日。変わらぬ日々。
朝の光が目蓋の裏でチカチカと踊る。けれど、全然眩しく感じなかった。
いつの日か魔理沙と見た流星群が頭の中を駆け巡る。
しゃらり、しゅるりと堕ちて音も立てずに消えていく。
けれどその光は確かにひとすじ、私の瞳に墜落したのだった。
きっと魔理沙がいる限り、私がいる限り、あの光を私は忘れないのだろう。
私の目を灼いた、ありふれた、馬鹿みたいに綺麗な輝き。
どこにでもある透き通った光を、見つけた、と私が指差したその瞬間から多分それは決まっていたのだ。
その後魔理沙も起きましたが昨日解いたはずの手がなぜか恋人繋ぎに発展していて離せなかったので結局二人で昼まで寝ました

…………
マリアリはいい。が、自分でやると失敗するうおおおお
コトリ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1170簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
ああ…癒される…
10.100名前が無い程度の能力削除
うぉおぉおおおぉぉおぉぉおおおお
12.100名前が無い程度の能力削除
どこが失敗だこらあ
もっと見せろやおらあ
14.100名前が無い程度の能力削除
あんまあああい
20.100タカハウス削除
前作も拝見させていただきましたが・・・イイ!
魔理沙は自分では流星にはなれないといっていましたが、きっとアリスの中では彼女だけの流星になれたのかも・・・勝手な妄想失礼しました。
そして甘アマ。