Coolier - 新生・東方創想話

星の昔話

2010/08/25 16:09:10
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「そういえば毘沙門天様ってどんな人なの?」

ある日の昼間、特にやる事もなかった雲居一輪は他愛ない世間話としてそれを切り出した。縁側で丸くなっていた寅丸星は欠伸交じりの顔を一輪に向けて答える。

「人じゃありませんよ。神様です」
「いやそれは知ってるけどそうじゃなくて見た目とか性格とか、そういう事よ」
「あぁそういえば聖とナズーリン以外は毘沙門天様には直接会った事がないんでしたね」

星は目尻にたまった涙を袖で拭うと、一輪に向かい合うように卓袱台の前に座る。そして一輪が入れておいたお茶(一人分)を手に取り、どこか遠いところを見るような目をした。

「そうですね。お寺の客も全然来ませんし、ちょっと昔の話をするのもいいでしょう」
「そんな哀しい前置きをしないでよ……」

そして星は手に持った湯呑みに入れられたお茶を啜り、熱っつと叫び、湯飲みを手放してひとしきり畳の上で転げまわった後で語り始めた。






遠い昔。聖によって毘沙門天の弟子として推挙されて間もない頃。
今よりもだいぶ背丈の低く、幼い顔立ちをした寅丸星が物欲しそうな顔でそれを見上げていた。見上げるそれは、それ自体にはさしたる価値などない、ただ少し綺麗なだけのモノだったが、それでも星にとってはどんな財宝よりも価値のある宝物に見えた。

『……』

きょろきょろと、辺りを見渡し、周りに誰もいない事を確認する。そして星は、頬を紅潮させ、落ち着かない様子でそれにそっと両手を添え、興奮に手を震わせながら少しずつ持ち上げる。そして、それを頭上まで持ち上げ、頭の真上にそれを置いた。頭にそれの微かな重さを感じ……ない。それどころか、何かに触れている感じすらしない。
と、その時背後に何者かの気配を感じた。星が慌てて振り返ると同時に、星が頭に載せようとした花を取り上げた背後の人物は、厳しい顔で星を見下ろしながら口を開いた。

『半熟に花はまだ早いと言ったはずだぞ星太郎』
『おやっさん』
「待って」







突如として言葉を遮られ、星は首を捻った。

「どうしたんです?」
「『星太郎』って何?」

予想だにしない意味不明なその展開に、一輪は思わず問いただした。星はやや恥ずかしそうに顔を赤くし、片手で頭をわしゃわしゃと掻き回しながら答える。

「あの時はまだ半人前でしたから」
「どうして半人前だと太郎がつくのよ」
「半人前なので当時はまだ半ズボンでした」
「どうして半人前だと半ズボンなのよ」

星は一輪の質問を聞き流し、少し冷めてきたお茶にそっと口をつけ、熱ぅと叫び激しく咳き込んでから続きを語り始めた。







『まぁいい。仕事だ。付いて来い』
『また人を集めて説法ですか?』

軽く小突かれた頭頂部を両手で覆い、薄らと涙の滲んだ瞳を毘沙門天に向けながら尋ねる。毘沙門天は背中を向けたまま首を左右に揺らした。

『いや、ある場所に囚われている少女を助け出して欲しいと依頼が来た』
『女の子?』
『あぁ』

神仏として人前に出る時だけしか使わない、星から取り上げたその花を頭に載せた。

『地球の全ての鼠なんて重い物を背負いこんじまった少女だ』




そうして乗り込んだ先、なんかまぁ色々あり(星がヘマをしたり、星がドジをしたり、星がうっかりしたせいである)、自ら囮を買って出た毘沙門天は、通路のはしっこに星を隠し、そこを絶対に動くなと言いつけて敵の前に躍り出た。
見る見るうちに大勢の敵の鼠人間(……というよりは、鼠種怪人と表現するべき奇妙な生物)に囲まれる毘沙門天。毘沙門天はそれらを見渡し、やれやれと言った顔で、背から『それら』を取り出した。

『説法以外にメモリは使わない主義なんだが……』

両手で取り出したそれのうちの片方を自らの腰に押し当てる。何かの差込口のようなものが1つついたそれから伸びたものが、毘沙門天の腰をぐるりと囲み反対側のそれに繋がれ、毘沙門天の腰に固定される。
そしてもう片方の手で取り出したそれを顔の前に掲げ、突起を指で押した。

『ビシャモンテン!』

長方形の黒い何かがそんな声を上げる。そして毘沙門天はそれを腰に付けた物の差込口に差し込みながら、空いた手で頭上の花を取り外し、ぼそりと呟くような小さい、しかしその場にいる全ての物に聞こえるような、強く通る声をあげた。

『変身』

その黒い物を差し込むと同時に、腰につけた物の差込口を横にずらす。その瞬間に毘沙門天を中心に小型の黒い竜巻が巻き起こり、毘沙門天の姿を覆い隠す。その竜巻の中、毘沙門天が頭から取り外していた花を頭上に戻す。そして風が収まり、銀色と黒色の鈍い輝きを放つ体に変貌した毘沙門天が、怖気づいた周囲の鼠達を指差し、告げた。

『さぁ、お前の罪を数えろ』






「どういうことよ!」
「うわぁびっくりした!」

突如卓袱台に両手を叩きつけて叫んだ一輪の行為に驚き、星はごろんと後ろのけぞると同時に、衝撃で倒れた湯飲みの中身で膝を濡らし、熱ぢゃああと叫びながら必死に服を脱ぎ、一輪から取り乱した事に対する謝罪を受けた後で、また続きを話し始めた。









変貌した毘沙門天が鼠種怪人たちを千切っては投げ、投げては千切りの大立ち回りを演じている。星は通路の隅からこっそりと頭を出してそれを覗き見てわかりやすく狼狽していた。

『あわわ……まさかおやっさんがあんなみょうちきりんな格好に変身するなんて……ん?』

と、その時星の視界の端に人影が映った。人影といっても、今毘沙門天がサバ折りを欠けている鼠種怪人ではなく、もっと人間染みた、いうなればネズミっ娘と表記するべきものだ。

『やれやれ、チーズなんて赤色の薄いもの食べられないよ。ムシャムシャ』

その星よりもさらに小柄な少女は、文句を言いながらチーズを齧り、すたすたと通路をまっすぐ歩いていった。

『あれはどうみてもネズミ……そうか、あれが今回のターゲットですね』

考えている間にもネズミっ娘は歩みを止めずすたすたとそのまま進んで行く。星は慌てて足を踏み出そうとして、しかしその場に踏みとどまった。

『そうだ、ここから動いちゃいけないんだった。危ない危ない』

額を伝う冷や汗を袖で拭う。毘沙門天の言う事は絶対なのだ。毘沙門天はいつも正しい。毘沙門天の指示に従いなさい。
星は自分にしっかりとそう言い聞かせ、肺いっぱいに空気を吸い込んだ。

『おーい! そこのネズミの子ー! ちょっとこっちまできて一緒にここに隠れてくださーい!』

それはとても、とても、大きな大きな声だった。
どのくらい大きな声かと言うと、離れた所で毘沙門天とドンパチやっている鼠種怪人達が驚き、一声に星の隠れている場所に振り向き、毘沙門天が思わず頭を抱えてしまう程度には大きな声であった。
星のいる通路側の近くにいる鼠種怪人が口を開く。

『……なんか今物陰からでっかい声が聞こえたぞ』
『ちょっと見てこようぜ』
『うわぁ! しまった見つかった!』

星は混乱し、叫びながらその場を飛び出してチーズを貪るネズミっ娘を抱きかかえ、どたどたとけたたましい足音を立てながら一目散に走り出した。

『あ、やっぱりいやがった!』
『気のせいかと思ったけど!』
『追えー!』
『たーすけてぇぇぇー!』

大声で助けを求めながら走る星。その叫び声を頼りに敵が追跡してくるという事を、星はその声が枯れるまで終ぞ気付くことはなかった。






『ふぅ、ここまでくればなんとか・・(ダミ声)』
『いきなり人を抱きかかえて走り出すなんて一体どういうつもりだい?』

星がいたのは、その家屋の最上階近く。極めてバランスの悪い、やたらと細く、左右に柵もない通路だった。恐らくは、人型にもなれない低級鼠用の通路なのだろうそれに、恐怖心でぷるぷる震える足で立っていた。
何度撒いてもこちらの居場所を見つける(理由は前述)凄腕の追跡者からは逃げ切ったものの、これからどうすればいいのかさっぱり思いつかず、星はただひたすら下だけは見ないように心がけながら考えていた。
ぐぎゅるるるるるるるる。
そこで、星の腹部から低い音が鳴り響いた。星は自分の顔が少しばかり紅潮するのを感じながら、ちらっと腕の中の少女を見下ろす。彼女は星に呆れるような、小馬鹿にするような薄ら笑いを向けている。

『なんだ、お腹が減ったのかい』
『バッ、ち、違います! これはただあの、私の唸り声です! がるるるるー!』

言い訳に無理がある事は星自身にもわかっていた。しかし、つまらない言い訳をしたことでさらに自分が惨めな気持ちになり、更なる羞恥心が湧き上がってくる事は、言ってしまってから始めて気付いた。
毅然としていようと努めながらも瞳を薄ら涙で濡らしてしまっている星に、少女はゴソゴソとそれを取り出しながら告げた。

『なんだ違うのか。チーズでよければあげようと思ったのだけれど』

取り出されたのはなんとも乳臭いチーズだった。満月の明かりを受けたその黄色い三角形は、まるで月から産み落とされた赤子のように思えた。言うなればルナチャイルド。△。
星は瞳をぱあっと輝かせる。

『本当ですか?!』
『やっぱやーめた。んーなわけないでしょー。さっさと仕事を続けなよ。ムシャムシャ』

少女は拳大のそれを口に放り込むと僅か3秒ほどで咀嚼、嚥下という行程を終了してしまった。
星は激怒した。

『この悪魔野郎!』

考えるより先に放たれた星の平手が少女の頬を打ち、ぺちんという可愛らしい音を立てて少女は星の手の中でバランスを崩し、そのまま星の手を離れて落ちて行った。

『あ』

改めて言うが、ここは高所に細い木の板が一本張ってあるだけの、柵も何もない通路である。
少女は叫び声もあげずに落ちていき、夜闇に紛れて見えなくなった。









『馬鹿野郎が。俺の指示を守るとか破るとか、お前はそれ以前の問題だ』

合流した毘沙門天(既に変身はとけていた)が星の頬を引っぱたきながらそう言った。星は何も言えなかった。
そして毘沙門天は、ネズミの少女を何とか見つけ出したが、連れ出そうとするその最中、凶弾がその大きな背中に迫っていき――、









「おやっさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「やかましい」
「あうっ」

突如後頭部に衝撃を受け、卓袱台に打ち付けた鼻をさすりながら星は振り向く。

「あ、ナズーリン」

そこにいたのは、先の話の中で出てきたネズミっ娘、ナズーリンであった。涙目の星を見下ろすその顔は、『やれやれ』といったような、あるいは『まったく、しょうがないんだから』とでも言いたそうななんとも気だるげな表情だ。

「こっそり聞いていれば何を適当な事を並べているんだ。玄関に客が来てるようだからはやく行って来たまえ」
「あぁ、やっぱり嘘っぱちだったんだ、良かった」

とてとてと星が玄関に向かうのを見送りながら、今聞いた一大スペクタクルがでっちあげだったことにほっと胸を撫で下ろす。

「それで、本当はどうだったの?」

そして先ほどまで星がいた場所に座り、星が使っていた湯呑みに口をつけるナズーリンに改めて尋ねた。ナズーリンは、なぜか少し微妙そうな顔をして、なんとも気が進まなそうに口を開く。

「毘沙門天様は……迫り来る敵を千切っては投げ千切っては投げ、まさに法界無双といった有様で。最後にはポン刀一本持って敵陣に特攻し、必殺剣を叩き込んで敵をその根城ごと跡形もなく木っ端微塵にして自分は無傷で帰ってきたんだ」

一息にそう言ったナズーリンは、手元のお茶をずずっと啜り、熱く長く溜息を漏らした。

「うそよね……ていうか途中までは合ってたの?」
「本当だよ。私の髪が灰色なのもその必殺剣を見た時のの恐怖で脱色したせいさ」
「うそよね……」
「御主人なんて髪が所々抜け落ちてしまって、無理矢理黒い髪を植毛したもんだからあんな変な頭になってしまったのさ」
「うそよね……」

受け入れられないといった様子で卓袱台に突っ伏す一輪。そこへ玄関に向かった星が戻ってきて、一輪の様子に首をかしげてからナズーリンに声を掛けた。

「ナズーリン、あなたの客でしたよ」
「久しぶりだなナズーリン」

星の背後にいた人物が前に出る。それは上下ともに赤い光沢を放つ革の服を来た険しい顔つきの若い男だった。

「……誰?」

一輪は思わず声を上げる。

「照井竜」
「誰?」

珍しい奴を見た、といった風に声を上げるナズーリンに対し、一輪はやはり疑問符の付属した声で続く。
と、そこへどこからか村沙水蜜が現れた。

「竜くん!」

そして村沙は照井竜とやらを見かけると、死人とは思えないほど活き活きとした笑顔を浮かべてその胸に飛びついた。照井竜は胸元の村沙の頭を不器用ながらも優しげな手つきで撫でながら言う。

「船長。君は美しい。最高の女性だ」
「え、ちょっと何抱きついて……一体どういうご関係?」

一人展開に取り残される一輪は、おずおずとその照井竜とやら本人に尋ねた。照井竜は首だけを回し、冷たい眼で一輪を見据えながら呟く。

「俺に質問をするな」
「なんだこいつ」
「それで要件は何だい照井竜」

ナズーリンが尋ねると(それも質問のはずだが何も言わなかった)、照井竜は村沙から離れ、一枚の写真を取り出しながら口を開いた。

「とある古物商を探している。検索を頼みたい」
「ほう、久々に私のダウジングの出番か。ゾクゾクするねぇ」
「ナズーリン貴女どうしちゃったの……」

心配そうに呟く一輪に、ナズーリンからの返答はなかった。照井竜は懐から幾つかの書類を取り出し、恐らくはそこに書かれているのだろう、いくつかの単語を口にする。

「キーワードは『半妖』、『魔法の森』、そして……『毘沙門天の宝塔』」
「え、なんか今最後にとんでもないワードが飛び出したような気が……」
「き、気のせいですよ! 紛失した宝塔を古物商に拾われて買い取ろうとしたら非常識な値段を吹っ掛けられるなんてあるはずないですし!」
「まさか寅丸さん貴女宝塔を……」
「わー! わーー!」
「検索を終了した」

と、一輪と星がじゃれあいをナズーリンの声が遮った。ナズーリンは手元のダウジングロッドをくいくいと動かしながら続ける。

「森近 霖之助、魔法の森で香霖堂という古物商を嗜んでいる。主に外界から流れ込んだ物品を収拾して販売しているが、商品にきちんと代金を支払ってくれる客はほとんどいないらしい。店の場所は……大雑把に描くとこの辺だ」

手元にあった適当な紙に、ここから魔法の森までの道と、森の入り口付近に×の印が描かれる。極めてシンプルな解説図だったが、その図をちらっと見る限り、絵心が余りない事は明らかだった。
照井竜はその紙を受け取ると、ナズーリンに短く謝辞を告げ、再び村沙の頭を撫でてから寺を後にした。
一輪は、いくら考えても一体全体どうなってしまっているのかわからないので……ただひたすらに星に対して宝塔の事を追求し続けていた。




後日、魔法の森のとある商店にて、照井はその店の商品であるらしい、極めて貴重な品である宝塔を手に取りながら店主に向かって声を掛ける。

「店主。これはどこで手に入れた」
「あぁ、それは知り合いの娘が拾って来てね。あんまり価値がわからないようだから、適当なつまらないものと交換してあげたんだよ」
「その娘はどこにいる?」
「さぁね。彼女は忙しなくどこかを飛びまわってるから。見た目は金髪で……あぁそうだ、最近はこういう珍妙なデザインのエプロンをつけてるよ。彼女に何か用でも?」
「あぁ。だがそれは後だ」

照井は背後から取り出したそれを、その『珍妙なデザイン』とやらを描いた紙をつまんでこちらに渡してくる店主の手首にかけた。
手錠であった。唖然とする店主に、照井は短く簡潔に告げる。

「ネコババは立派な窃盗だ。盗品の流通、これも立派な犯罪だ。逮捕する」

手錠のもう片方を自分の手首にかけ、照井は店主の腕を引く。

「な、何をするんだ! 君は一体何の権限があって僕を捕らえようとする!」

そうなってようやく事態が飲み込めた店主が慌てて反抗を始めた。が、照井は掴んだその手をけして離さず、ぎりぎりと骨の軋む音がするほどより強く握って、叫んだ。

「俺に質問をするなぁ!」









さらに後日、命蓮寺にて。

「あれ、ナズーリンどうしたんですかそのでっかくて赤っぽいチーズ」
「昔とある古物商から寺の経費で買い取ったものが実は盗品だった事が判明してね。しかもそれが元々うちの遺失物だったっていうんでその分の代金が返還されたんでちょっと買ってきたんだ」
「そうですか……え、経費の分が戻ったのにチーズを?」
「あーやっぱりチーズは赤色の濃いレッドチェダーに限るなあ」
終わる前にやっておきたかった
今では反省している
あとパロディというよりクロスオーバーと言った方が正しいかもしれないのも反省している
ホールディングス
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