Coolier - 新生・東方創想話

お姉ちゃんの部屋での幸せ会議

2010/08/12 00:11:36
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この話には盛り上がりどころもわくわくするようなところもありません。
なので肩の力を抜いてまったりと読んでください。

それでは以下より「お姉ちゃんの部屋での幸せ会議」、スタートです。
































この部屋は優しさに包まれている。

なんていうのは気取った言い方だ。ちょっとカッコよく言ってみたかっただけである。
そこにあるのは必要最低限の音だけ。
姉の部屋で姉妹が紅茶の乗ったテーブルをはさんで向かい合っているだけ
その二人がそれぞれ浮かべたい表情を浮かべているだけ。

ただそれだけ…





























「ねぇ、お姉ちゃん…」

そんな言葉で部屋の静寂を破ったのは私、古明地こいし。
その言葉で手に持っていたカップを置くのは私の姉、古明地さとり。

「なんでしょう?」

砂糖の入れすぎた紅茶みたいな甘い声が耳に入る。







「お姉ちゃんは今幸せ?」







…静寂が再び部屋に帰ってきた。
私はお姉ちゃんの顔を見ていた。
お姉ちゃんは驚いた顔で私を見ていた。

いきなりすぎたかなぁ、心の中でそんな反省をした。私は視線を下に向ける。


「ねぇ、こいし」
今度は砂糖少なめの紅茶のような甘い声が部屋の空気を震わす。
私は視線を再びお姉ちゃんに向けた。その表情はいつの間にか笑顔になっていた。


「物知りお姉ちゃんがいいことを教えてあげます。
…人々は幸せの時には笑顔になってしまう癖があるんですよ」


…どうやら静寂はこの部屋が気に入ってしまったらしい。その証拠にそれはまた部屋を訪れた。
お姉ちゃんは笑顔で私は見ていた。
私はただお姉ちゃんを見ていた。

「…お姉ちゃんは私をおちょくっているの?」
「もちろん違いますよ?」

不機嫌な声で質問してみたが、相手は笑顔なまま返答をしてきた。
私は一つため息を吐く。

「まぁ、いろいろとつっこみたいところだけど一つ言うならば、それは癖とは言わないと思うよ?」
「あら、そうなんですか?…じゃあ、何と言えば?」

その質問で私は固まってしまった。
それが正しいか正しくないかはすぐに言うことができた。しかしそれ以上を追及されてしまうと返事に困ってしまう。
自分の頭をフル回転させても答えは出てきてくれそうになかった。

「そ、それの名前は知らないよ!で、でも私は正しいもん!」
「ふふ……こいし、それは暴論というものじゃないですか?」
「うっ……」

別に勝負をしていたわけではない。でもなんだか負けた気分になった。
目の前の笑っているお姉ちゃんを見ているととても悔しくなる。
だから静かなこの部屋にまた自分の声を響かす。

「と、とにかく話は戻るけど…お姉ちゃんは今幸せ?」
「幸せです」

即答と辞書で引いたら今の返答が出てくるに違いない。そのぐらいのスピードだった。
この質問で悩みもせず、肯定の返事ができる自分の姉に驚いた。

そしてうらやましかった。自分が幸福者であると認められるお姉ちゃんが。

私は紅茶をすすり、返答の準備を整えた。

「なんでそう言えるの?」

「簡単なことです。私には古明地こいしという名の、火焔猫燐という名の、霊烏路空という名の大切な者がいるからです。…あ、もちろん他のペットたちも大切な者たちですよ?……それらみんながいてくれるから、私は幸せなんです。その証拠に私はいつも笑っているでしょう?」


目の前のカップを満たす紅茶のように、私の心をうれしさが満たした。こぼれてしまいそうなほどに。もちろん満たしてくれたのはお姉ちゃんの言葉である。
だけど紅茶に砂糖が入っているように、私のうれしさには羨望が入ってしまった。そのせいで私の感情の色は少し濁ってしまった。
しかしそれは悲しいけど必然なのだ。
なぜならお姉ちゃんは幸せであっても私は幸せではないからだ。そう、私は幸せにはなれないから…

「お姉ちゃんはいいなぁ、幸せで。日々の生活が幸せと思うことができて。
…私はお姉ちゃんみたいにはきっとなれないよ」

寂しさをたっぷり含んだ言葉が私の口から出てきた。
そのせいでお姉ちゃんの顔から笑顔は消えてしまった。
私は閉ざしてしまった第三の目を手でなでながら、寂しさが包まれた言葉を吐きだした。

「私たちはさとり妖怪。人の心を読むことができる。だから私たちはいろんな人に嫌われてしまう。…私はそんな自分の運命に嫌気がさして第三の目を閉ざしたんだ。いろんな人と仲良くなりたかったから。だけどその望みは結局叶わなかった。…気づいたんだ。みんなが怖がっていたのは心を読まれることじゃなくて、私たちの存在自体だったということに。私は自分の運命を受け入れることのできたお姉ちゃんのようにはなれない。さとり妖怪である限り私は自分を呪ってしまう。だから私は今の自分が幸せ者とは思えないんだ」

「こいし……」

お姉ちゃんが悲しそうな表情を浮かべている。私が言葉に包んだものをすべて見たからだろう。
なのに私の心は少し軽くなっていた。言わずに保管していた気持ちを外に出すことができたから。
だからもういい気がした。すっきりしたからもうこれ以上はこの部屋にいなくてもいい気がした。










だけど笑顔を浮かべた。私ではない。浮かべたのはお姉ちゃん。優しい笑顔を浮かべていた。
鼓動が速くなる。

「ねぇ、こいし?物知りお姉ちゃんがあなたにいことを教えてあげます」
優しい声が部屋に充満した。











「あなたは自分が思っている以上に幸せ者ですよ?」











お姉ちゃんの言葉が私に一つの感情をもたらした。
喜びじゃない。悲しみじゃない。そんなものじゃない。

怒りだった。
その場しのぎの慰めを唱えたお姉ちゃんへの憤り。
マグマのように熱く、ドロドロとしている気持ちが湧きあがってきた。
そしていつの間にか私はその気持ちを言葉にしていた。


「嘘だらけの慰めはやめてよ!お姉ちゃんは優しいからそんな言葉を言ったのかもしれないけど、今はそんなの聞きたくないよ!」


久しぶりに大声を出したから私は息を切らしていた。
いすから立ち上がり、目の前のお姉ちゃんを睨みつけていた。
それでも消えない。自分の中に湧き上がる気持ちは増える一方である。

それなのにお姉ちゃんはほほ笑んでいた。私の怒声にも睨みにも動じず、ただ優しい笑顔で私を見つめ返している。それが余計に腹立たしいかった。

「さっきも言ったとおり、人は幸せだと自然に笑顔になるんです。だから笑顔は幸福者の証明なんです」
「わかったよ!そのことはお姉ちゃんを見たから信じるよ。でも、私がいつ笑顔になったっていうの?今日、お姉ちゃんの部屋に来てから私は一度も笑顔なんて浮かべていないよ?なのになんで私が幸せ者と言えるのさ!?」

私はテーブルに両手をつき、前に乗り出していた。
近くなったお姉ちゃんの顔は驚きの表情を浮かべていた。
別に勝負をしていたわけではない。でもなんだか勝った気分だった。
それなのにうれしい気持ちは湧いてこない。驚き顔のお姉ちゃんを見ていると悲しみだけを感じた。
私は別れの言葉を告げようと口を開いた。





「こいし、気が付かなかったのですか?











あなたは自分の気持ちを吐露するまで、ずっと笑顔だったんですよ?」











別れの言葉は声になることなく、自分の中で自然消滅した。
お姉ちゃんの言葉がいろんな気持ちを隆起させる。
だからその中から一つだけ感情をくみ取ることができなかった。
鼓動が再び速くなる。口の中がとても渇く。お姉ちゃんの言葉の処理が追いつかない。
『どういうことだ?』、自分の中で自問自答がずうっと繰り返される。
足に力が入らなくなってきて、私はいすに静かに座った。


「こいし、あなたは今日だけでもありません。お燐やお空といるときもあなたはずっと笑っていました。ペットたちといるときもです。あなたが地霊殿にいるときはずっとずっと笑顔だったんです」

お姉ちゃんは優しくそう言った。
私の頭で言葉の処理が終わった。しかしまだはっきりとしない。
自分の手を自分の顔まで持っていく。そして両手でゆっくりと頬をなでた。
脳に浮かんだ疑問はすぐに声となった。

「どうして…?わ、私はずうっと気が付かなかったよ?」

「…私がなぜ笑顔になるのを癖といったかわかりますか?それほど無意識なものなんです。なかなか気づけないものなんです。それにあなたは自分を呪い続けた。自分と幸せを隔離してしまった。たとえあなたが無意識を操れたとしても、そんな状況下ではまず気が付くことはできないと思います」

手に力が入らなくなり、それはテーブルの上へと落ちた。
おかしい。理由も原因も分からない。
だけど感じた。自分の胸が温かくなっているのを確かに感じたのだ。

お姉ちゃんの右手が私の左のほおをなでた。私は唇をかんだ。

「鈍感な妹に変わってお姉ちゃんが宣言します…」
かむ力が強くなる。鼓動が速くなる。涙腺が緩くなる。












「古明地こいしはまぎれもなく、幸せ者です」












その言葉で私を縛っていた、見えないひもが切れた。
苦しめていたものはきれいになくなってしまった。
同時に目からはとうとう涙があふれ出す。止めることのできないほど大量の。
なのに胸はずっと温かい。今まで感じたことのない温かさがあった。


「私は…ずっと…笑えていたんだね…」
「ええ、あなたはずっと笑えていました」
「私はずっと……ちゃんと幸せだったんだね…」
「ええ、あなたはちゃんと幸せになれていました」

笑顔のお姉ちゃんを見ていたら、自分の顔も笑顔になったのがわかった。自分の幸せな瞬間にとうとう気づくことができのだ。

自分を呪うのに忙しくて気付けなかった。不幸ばかりを詰め込んで目を向けなかった。
だけど私はなんてことのない毎日を愛していたんだ。
みんなを愛していたんだ。
笑顔になれていたんだ。








私の泣き声で満たされているこの部屋に、自分の意思を響かした。

「お姉ちゃん?」

「なんでしょう?」

「もう少し泣きたいから、その間ずうっと私のほおをなでもらっていい…?」

「…かまいませんよ。なんなら一生なでていましょうか?」

お姉ちゃんが冗談交じりで応えた。私はそれがおかしくてもっと笑った。

だから私も冗談交じりで一番言いたいことを言うのだ。

「あと、お姉ちゃん…物知りこいしがいいことを教えてあげる」

「なんですか?」




















「私は幸せだよ」
























この部屋は優しさに包まれている。

なんていうのは気取った言い方だ。ちょっとカッコよく言ってみたかっただけである。
そこにあるのは必要最低限の音だけ。
姉の部屋で姉妹が紅茶の乗ったテーブルをはさんで向かい合っているだけ
その二人がそれぞれ浮かべたい表情を浮かべているだけ。

ただそれだけ…
皆様どうもです。シンフーです。
シリーズものが完結していないというのに、まったく関係ないものを書いてしまいすいませんでした。
最近ものすごくさとりとこいしの作品を書きたくなって、ついついこちらを書いてしまいました。


さて本作はこいしが自分の幸せに気が付いた、という話でした。
皆様はどうでしょう?
自分は幸せ者と思えますか?
もしよかったら今日から、小さな幸せ探しをしてみたらどうでしょう。きっとあなたの人生は今よりもっといいものになると思います。

…なんて作品に関係ないことを偉そうに言ってしまい、これまたすいません。
では今回もここまでお付き合いしていただき、ありがとうございました。

皆様が小さな幸せに気が付けますように…
シンフー
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コメント



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9.80コチドリ削除
今回は物知りお姉ちゃんが気付かせてくれたけど、万が一また忘れてしまったら
今度は自分自身の力で幸せに気付けるといいね、こいしちゃん。

それと優しい笑顔のさとり様にはこれっぽっちも異論はないんだけど、
偶にはむっすりした表情を見せてくれると俺は小さな幸せを感じられるんだぜ。
ダメな人間でごめんよ……
16.100名前が無い程度の能力削除
地霊殿組のほのぼのしている話は好みです。穏やかな雰囲気の古明地姉妹がすごくいい。
物知りお姉ちゃんが……っていう言い回しが気に入りました。さとりんかわいいなぁ。
25.90名前が無い程度の能力削除
二人の幸せがこれからもずっと続きますように
31.100名前が無い程度の能力削除
暖かくていいお話でした。二人がずっと、幸せを感じられる日常が続いていきますように…