Coolier - 新生・東方創想話

「I love you」→?

2010/07/31 05:07:18
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「今宵は月が綺麗ですね、と言ったそうなんだ」

魔理沙は、右手で私の左の手をそっと包み込んで言った。小さく、暖かい手だった。
彼女の頬は月明かりを受けて、その光源にも負けず劣らず優しく輝いていた。
私の目の奥をまるで何かを期待するかのように見つめるその瞳を、私はそっと見つめ返して言った。

「何が?」

反応が見たくて、わざとそっけない返事をした。今日の魔理沙の少し甘い態度、いつもと違う照れたような雰囲気。
そして、「ちょっと外に出て話をしよう」と言ったときの魔理沙の、少し震える手。
そんな諸々の、言ってしまえば不自然さともいえる挙動の積み重ねで、私は魔理沙が何を言わんとしているか既に大方の見当は付いていた。

「I love you」

魔理沙は、私の素っ気無い態度に怯むことなく少し舌足らずな英語で切り出した。

「愛してる、ってたったこれだけの事を、昔の偉い人は『月が綺麗ですね』っと言ったんだ」

魔理沙は、自らの台詞に興奮しているのだろう。私の手を握る力が少しずつ強くなり、頬も上気しつつあった。

「だから、私もその名前も知らぬ偉い人に倣ってこう言わせて貰う。アリス、『今宵は月が綺麗ですね』」

魔理沙が、その決めの一言を口にした瞬間、世界に魔理沙と私の二人だけしか居ないような、あるいはこの世界の中で私と魔理沙しか動いていないような、そんな錯覚を覚えた。
魔理沙の上気した頬の温度、口から吐く息の白さ、高まる心臓の鼓動、緊張に震える足。その全てが私という存在を欲さんとしていた。
そして、そのあまりにも生き生きとした魔理沙とは対象的に、他の全ては死んだように停止していた。
そよ風すらも吹いておらず、草木は黙って私の返事を待っているかのように静寂であったし、降り注ぐ月の光さえも凍っているかのように静かだった。

私は、ごくりと唾を一つ飲み込んで思考と理性を全力で回転させる。
魔理沙の思いは嬉しい、とても嬉しい。誰かに愛されるというのはとても嬉しい。今も喜びで魔理沙の右手を握り返す手が少し震えている。
しかし、だ。現実問題として私は魔法使いで、魔理沙は人間だ。魔法を使えるといっても、ただの人間だ。
寿命だって違う。生活はあまり変わりが無いと言え、やはり細部は違う。ここで安易に頬を赤らめつつ「……はい」と了承の返事をして良いものか。
流石にそれは幾らなんでも無責任では無いだろうか。例え、恋愛に種族の壁など関係無いと言っても……。

「……考えさせて」

散々逡巡した挙句、私の喉が搾り出した答えはそれだった。どっちつかずの保留の返事に、少しだけ魔理沙の手の力が緩んだ。
魔理沙の意識が少しだけ揺らいだその瞬間、世界に時間が戻った。私は、止めていた息を大きく吐き出した。自分が息を止めていたことにすら気付かなかった。
魔理沙は、私から顔を逸らし月を見上げると、ほんの一瞬悲しそうな様子を目の色に表したが、すぐにいつも通りの笑顔になって言った。

「わかった、いつまでも待つぜ」

いつまでも、って貴方が死ぬまで待っててもいいの? と聞きそうになった自分の臆病さを飲み込んで、魔理沙の手をゆっくりと離した。
そして、後ろ髪を引かれる思いで自分の家の方角へと足を動かした。まるで、本当に後ろ髪を引かれてるかのように私の足取りは重かった。引力が倍になったように感じられた。

家に帰りついた私は、肩に背負った罪悪感と怠惰さから少しでも楽になろうと思い、着替えもそこそこにベッドへと転がった。
私の瞳は天井をぼうっと眺めながら、頭の中ではさっきまでの魔理沙の告白のシーンがぐるぐると回っていた。
眠気に弄ばれながらもまるで壊れたビデオのように、胸中を拙い言葉で告げる魔理沙の姿を何度も何度も頭の中に再生し続けた。
眠い頭の中で、とりあえず明日色んな人に相談してみよう、とそれだけを決意して眠りへと身を投げ出した。



翌朝、私は昨日よりは少しは軽くなった足で博麗神社へと向かった。
小春日和の神社の境内に座ってお茶を飲んでいた霊夢の隣に、挨拶もそこそこに腰を下ろして、昨日のことを全て霊夢へと話した。
霊夢は、うんうんと頷きながら私の話を聞き、全ての話を終えると、ふーっと一つ大きなため息をついた。

「なるほど、それはおめでたいわね」

博麗霊夢は、私の言葉をどれぐらい本気に受け取ったかはわからないが、うんうんと大きく頷いた。
私は、そのあまりにも投げやりなリアクションに霊夢に相談したことを早速後悔しはじめていた。

「それで、どうすればいいと思う?」
「あんたはどうしたいと思ってるのよ。私も魔理沙が好き、って顔に書いてあるわよ?」
「そんな茶化さないでよ。魔理沙は人間で、私は魔法使い。これはどうやっても覆せないわ」
「別に良いじゃない。人間と結婚する妖怪なんて今時珍しく無いわよ。この前も結婚式の神父役をしたときに言ってあげたわ。
『新郎は永久の愛を誓いますか?』ってね、その新郎は妖怪で新婦は人間だったから、絶対に永久なんて誓えないと思うけどね。
でも、恋愛とか恋なんてそういうものじゃない? 一度、決まってしまえばそこで互いの時間が止まる。二人だけの世界って奴ね」

霊夢の使った『時間が止まる』という表現に、昨晩の魔理沙の告白シーンを鮮明に思い出した。
二人だけの世界、止まった時間。どれも、私が昨日身を持って体感したことだ。
それゆえに、霊夢の語る恋愛論は今の私にとっては凄く甘美な解決への道筋のように思われた。
しかし、私の中の臆病な理性がそれを否定する。首をふるふると横に振りながら私は言った。

「駄目よ。友人が異種族の人と付き合うのを私は黙って肯定できないわ。例え、相手が自分自身だったとしてもね。人間は人間と契りを結び、子孫を残していく義務があると思う」
「義務、ってそもそもあんたらは女同士じゃないの」
「ぐっ」

霊夢のあまりにも最もといえる突っ込みに私の喉は、潰れたカエルのような声を出した。
霊夢は、もう一度大きなため息を吐いた。

「いざとなったら、身寄りの無い子供を引き取って育てるという選択肢があるけどね。でも、子供なんて居ないほうが幸せじゃないかしら、まだあんたらは若いんだしね。
そもそも、死ぬまで二人が添い遂げると決まったわけでも無い。途中でやっぱり反りが合わなくて、別れて、魔理沙は人間の男と幸せな生活を送るかもしれない」
「つまり、二人の恋愛のテスト期間と言うか、お互いの経験のために付き合ってみてもいいんじゃないかと」
「ま、そこまで生臭い話まで持っていくつもりは無いけどね」

霊夢はひょいと立ち上がると、腰に手を当てて言った。

「さて、充分にアドバイスはしたからこの先は多分あんた自身が決めることよ。
まかり間違っても、テンパって選択肢を間違えるのは駄目だからね。それじゃ、掃除したいから帰った帰った」

私は、靈夢の言葉に追い立てられるようにして立ち上がり、一言「ありがと」と礼を言って神社を出た。


そこでまっすぐ魔理沙の家に向かえば格好良いのだが、迷った挙句紅魔館まで来てしまっていた。
引き留めようとする門番に挨拶をそこそこにして、館の中に入る。目的地は図書館だ。
まるで夜半のように暗い(多分主の趣味なのだろう)ロビーを抜けて、一つ階段を下り、図書館の大きな扉を開けた。
古い大きな扉でありながら、多分魔法がかかっているのだろう、音も無くすっと開いた。埃臭いながらも、どこか厳かな匂いのする空気が肺の中を満たす。

「いらっしゃい、何の用事かしら」

声の主は、図書館の主パチュリー・ノーレッジだった。ちょうど入り口すぐ近くの6人用のテーブルに、本を大量に積んで座っていた。
私は、パチュリーの隣に腰掛けると、霊夢に話したようにパチュリーに向かって、昨日から今日の朝までの出来事を話した。
パチュリーは、時折億劫そうに頷きつつも、割と真剣な様子で私の話を聞いていた。
5分ほど掛けて、霊夢と話したところまで話し終えると、パチュリーは読んでいた本をぱたりと閉じて言った。

「で、貴方は本当はどうしたいの? このまま色んな人に相談を続けても解決はしないと思うわよ」
「まあね、それには私も薄々気付き始めてたのだけど」
「それなら、何で私のところに相談しに来たのよ」

パチュリーが、じっとりとした目線を私を睨む。

「ん、まあ話して楽になりたいなーという乙女心よ」
「何が乙女心よ。どちらかというと年老いた母親みたいだわ」
「失礼ね。とにかく、なんか解決策があったら教えてくれないかしら」
「解決策ねえ……」

パチュリーは、俯いてしばらく考え込むと、そのままの姿勢でぼそりと呟いた。

「貴方が、人間の男をそそのかして魔理沙を奪ってもらえば良いじゃないかしら」
「なるほど……、確かにそれが一番角が立たない方法な気がするわね」
「誰かをそそのかして行動させるのは魔法使いの十八番でしょう?」

パチュリーは、そう言うと意味ありげにウインクをした。
私は、自分でも驚くほど勢いよく立ち上がった。

「ありがとうパチュリー、そのアイデア使わせてもらうわ!」

そうと決めれば実行は早いほうが良い、私は、パチュリーに軽くお礼を言うと急いで紅魔館を出た。
そして、その足で人里へと「協力者」を探しに向かった。


幸いにも、適役と言える男はすぐに見つかった。
いかにも真面目そうな風体で、顔もどちらかいえば美青年に属する、恋人役にはぴったりとも言える男が見つかった。
その青年にさりげなく声を掛けて、一緒に茶屋へと入った。そこで、お茶を奢りつつ話を聞いたところ、商人の跡取り息子らしい。
商人の家系であるとも言える魔理沙が、どれだけ彼を受け入れてくれるかはわからなかったが、少なくともなんのも関連も無い職よりかはましに思えた。
よし、この人なら問題は無いだろう。そう判断した私は、茶代を払いその茶屋を出て、青年を人目に付かない裏路地へと引っ張り込んだ。
青年に自分が魔法使いであることと、私の友人である霧雨魔理沙と言う少女に気に入られて欲しいと言うことを丁寧に説明した。
正直、動機が動機であるため詳しく話せなかったため、青年は最初は怪訝な表情をしていたが、
私の目的が悪意から来るものではなく、さらに自分の利益にならないことも無いということを理解し、快く了解の返事をしてくれた。

私の立てた作戦はこうだった。
まず、私が魔理沙を呼び出す。そして、呼び出された場所で待っていると青年がやってくる。
青年が自分も恋人に待ちぼうけを喰らったみたいですね、と話しかけお互いに盛り上がる。そして、そのままゴールイン。
シンプルといえばシンプルだが、その分辺に奇をてらって無いとも言える作戦だった。
そして、既に第一段階である魔理沙への手紙を上海人形に乗せて送り、あとは魔理沙の到着を待つばかりだった。
半刻ほど待つと、夜の帳の中に不意に魔理沙の影が現れた。月明かりの中を脇目も振らずに歩く魔理沙の姿は、力強くありながらも同時に一種の儚さを漂わせていた。
魔理沙は、私との約束の場所に着くと、多分私が来ていないかを確認するためだろう、辺りをきょろきょろと見回した。
そして、私が一向に来る気配の無いであろうことを確認すると、途方にくれたように切り株の上へと座り込んだ。
頃合を見計らって、私は数十メートル先に延ばしたワイヤーへと魔力を送り込んだ。それによって、青年の傍にいる人形が合図を伝える算段となっている。
青年は私が事前に指導していた通り堂々とした歩き方で魔理沙の元へと歩いていった。

「誰だ!?」

魔理沙は、勢いよく立ち上がって八卦炉を構えた。青年は観念したように両手を挙げてその場の立ち止まった。

「そ、そんなに怖い顔をしないでください。私はたまたまここを通りかかった人間です」
「それはすまなかった。あんた、こんな夜中に一体何をしてるんだ? 見たところ狩人と言うわけでは無さそうだが」
「お恥ずかしながら、恋人に嫌われてしまったらしくてね。一週間に一度はここで会おうと約束をしていたのだが、どうやらついに顔を見せてくれなくなったようだ」
「それは、お気の毒だな」

魔理沙は、少し苦々しい表情をした。青年は肩を竦めながらも続ける。

「でも、私は完全に運に見放されたわけでは無いようだ。こんな可愛らしいお嬢さんと出会えたのだから。お嬢さん、名を聞かせてもらえませんか?」

青年の見事とも言える演技と彼本来の柔らかな物腰のお陰で、魔理沙は彼への警戒を解いて話し出したようだった。

「私は霧雨魔理沙。私も、実を言えばあんたと同じような感じなのだよ」
「ほう、あなたも恋人から捨てられてしまったのですか?」
「捨てられた、か。あまり信じたくは無いんだけどな。いや、あるいは最初から無理だったのかも」

魔理沙は、そう言って頭を振った。

「そもそも、向こうは私の事なんて意にも介していなかったのかもしれない。それもそうだ。
私はただの人間で、向こうは気高き魔法使いなんだ」

青年は、どうやら私の指示を忘れて魔理沙の話に聞き入ってるようであった。
立っていた二人は、先ほどの切り株の上へと座り込み、互いに地面を見つめたまま話を続けた。

「多分、私の『好き』なんてそもそも恋愛と呼べるよう純粋なものですら無かったのかも。
憧れとか、劣等感とかそんなものが正の方向に化けてしまった。偽りの『好き』だったのかもしれない」

魔理沙は、顔を上げて潤んだ瞳を青年へと向け、懐から一通の手紙を取り出して青年へと渡した。

「これ、アリスに渡しておいてくれよ」
「何故それを……」
「女の勘って言えれば格好良いんだけどな。神社で隠れて話を聞いてて、先回りして図書館でも話を聞いてた、それだけ。
まったく、なんて私は臆病なんだろうか。アリスに一度でも顔を向けて『私の気持ちに間違いは無い』って言えれば、それだけ、でも」

魔理沙の目から涙が零れ落ちる。不謹慎ながらも、私は月明かりを反射して輝くその一滴一滴がとても美しい宝石のように見えた。

「でも、言えなかった。私は本当の気持ちを知るのが怖くて、情けなくて、臆病だから……」

青年は、予想外とも言える展開にどうすれば良いか戸惑っているようだった。
魔理沙は、不意に笑顔になって青年を見据えた。

「あんたなら、アリスにぴったりかもしれない。じゃあな!」

そう言うと、まるで逃げ出すかのようにその場から歩いて立ち去って言った。
私は、暫く呆然としていたが、慌てて青年の元へと駆け寄って彼の手から手紙をひったくった。
封筒を開けると、中には一枚だけ手紙が入っていた。
表には、可愛らしい文字で「I love you」と書いてあった。私は、ゆっくりとその手紙を裏返した。
裏には、震える文字で「さようなら」と書いてあった。
その手紙の意味を理解した瞬間、私は居ても立っても居られず魔理沙の歩いていった方向へと走り出していた。

「愛してる、ってたったこれだけの事を、昔の偉い人は『月が綺麗ですね』っと言ったんだ」

たったそれだけのことを「さようなら」なんて言って、それで泣きながら苦しんで。
私は、そんな魔理沙の心にも気付かずに、一人だけ苦しいふりをして!
走りながら、まとまらない思考で自分の今日の行動を懺悔し始めた。
自分を罰するつもりで、自分の心臓へと鞭打ちを掛けた。
今なら、今ならまだやり直せるから、速く!速く!

まるで、心臓が壊れてしまうのではないかと思うほどの勢いで走り続けると、すぐに魔理沙へと追いついた。
魔理沙は、私の気配に気が付くと真っ赤に腫れた目を丸くしてこちらを振り向いた。
私は、息も絶え絶えに魔理沙へと言った。

「今宵は、月が綺麗ね。魔理沙」

魔理沙は、一瞬股泣き出しそうな顔になったが、すぐにいつもの人を食ったような笑顔になった。

「それは、嘘だなアリス。今のお前じゃ、涙でぼやけて綺麗な月なんて見えないはずだ」

魔理沙にそう指摘されて始めて、自分が涙を流していたことに気付いた。
私は、大きく深呼吸をして、魔理沙の瞳をまっすぐに見つめて言った。

「明日、から。明日から二人で、ずっとずっと綺麗な月を見ていましょう。毎晩、ね」

私が、そう言った瞬間、周囲の時間が少しずつ凍り付いていくのを感じた。これは、そうだ。昨晩魔理沙が私に告白した時と寸分違わぬ感覚だった。
私は、凍った世界の中を一歩一歩歩いて、魔理沙の正面へと立った。そして、そっと目を閉じて魔理沙の唇に自らの唇を重ねた。
二人の体温が溶け合った瞬間、まるで冬が一瞬にして春になるかのように、ぱちんと音がして世界の全てが溶け出していった。

――過ちでも良い、勘違いでも良い。今は、この二人だけの世界をずっと楽しんでいようと思った。
「I love you」を夏目漱石は「今宵は月が綺麗ですね」と訳し、
二葉亭四迷は「死んでもいい」と訳しました。貴方ならなんと訳しますか?

書き始めた一日後に某スレでこの話題が出てて死ぬかと思った。
特に証明する手段も無いので、今は反省している。
らすねーる
http://twitter.com/Lacenaire_ssw
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コメント



0.720簡易評価
1.80桜田ぴよこ削除
私は「抱きしめてもいいですか」だね
8.100奇声を発する程度の能力削除
>私は、靈夢の言葉に
霊夢

私はそのままストレートに愛してる
9.80名前が無い程度の能力削除
僕は、君を、こする!

嘘ですごめんなさい
11.100山の賢者削除
俺の人生のコ・ドライバーになってくれ。

分かり辛すぎて(というかマニアックすぎて)ボツだな。

>>9
日本人のLoveはrabに聞こえるっていう例のあれ?
12.80名前が無い程度の能力削除
あ、あんたの事なんて、別になんとも思ってないんだからね!・・・かな?
16.80名前が無い程度の能力削除
「お前も蝋人形にしてやろうか!」かな。
19.90名前が無い程度の能力削除
感動した