Coolier - 新生・東方創想話

赤髪の彼女たち

2010/07/28 00:41:31
最終更新
サイズ
37.39KB
ページ数
1
閲覧数
1786
評価数
5/42
POINT
1990
Rate
9.37

分類タグ


私ミスティア・ローレライには嫌いな奴がいる。
勘違いしてもらうと困るのだが、別に嫌ってる特定の人物がいるわけではない。
ではどういうことなのか、というと


私は「酒に酔った者」が嫌いなのだ。


これにもう少し補足すると、「酔っぱらってテンションが舞いあがり自分の世界に入ってしまった者」が嫌いなのだ。
経営している屋台ではお酒を扱っているので、こんなお客をたくさん見てきた。

いきなり大声を出し鬱憤を晴らそうとした氷精の友達であり緑髪の彼女や、自分の部下の兎の愚痴(すべて同じ内容である)を十三回、自分の姫の愚痴(すべて同じ内容)を十七回、自分の年齢の愚痴(すべて同じ)等を延々と話す銀髪の医者などたくさんの者を見てきた。(愚痴の回数を合わせると三十。奇しくもこれを人間年齢に直すとババァと呼ばれる年である。銀髪のお医者様と何か関係性を感じますね。)

しかし、いろいろな悪酔いをしてきた者たちを客としてきたが、いまだにあまり慣れないのだ。


…おっと失礼。
別にこんな話を聞いてほしかったわけではないのだ。

まぁ、結局何が言いたいのかというと…














「どんどんお酒くださ~~い。今日は飲み明かしますよ~~」

「美鈴ちゃん、いいね!賛成! ミスティアちゃん、ウナギも足りてないよ! ジャンジャン焼いちゃって~~」





だれかこの二人を追い返してください。

















赤髪の彼女たち

















* * *

~二時間前~

時刻はまだ昼の二時ぐらいであった。季節は夏。遠くからミンミン蝉の声が聞こえていた。
私、ミスティア・ローレライは森の中に屋台を止め、その中でウナギの下準備を行っていたのだ。
しかし、時期が時期である。
私の額からは、滝のような汗が吹き出していた。時折自分の袖で額をぬぐい、また作業に取り組む、こんなことを繰り返すのであった。
当たり前だが私たち妖怪でも、人並みに暑さを感じるのだからしょうがないことである。

そのため、いろんな妖怪が対暑さ対策を取り始める。
毎年堂々の一位をキープしている暑さ対策は「チルノにくっつく」ことである。
なので、この時期のこの時間帯には紅魔館前の湖にたくさんの者が集まってくる。
まあ、最近はチルノも学習し、どこかに隠れるようになったらしい。

一回集まりすぎてその熱で体が溶け、チルノが頭だけになってしまったことがある。
それでもみな容赦なしで狂ったようにその頭を奪い合い、頭自体は
「暑い!暑い! 大ちゃん、暑いよ! 助けて! 大ちゃーん!」
と涙ながらに叫んでいた。
幻想郷の残酷さを痛感した。

目をそむけるために首を横に向けると、大妖精が湖を見ていた。
「なにあれ、気持ち悪…」
と嫌悪感たっぷりに呟き、彼女はそそくさと去って行ってしまった。
私の目から汗が流れた瞬間である。





…さて話は戻る。

残念ながら今の私にできる暑さ対策はなにもなく、ただただ汗を流すだけである。

それにこの暑さではウナギが傷んでしまう。
早く今やってるウナギの下準備を終わらせ、冷やさないといけない。

そんな焦りを感じながら、額の汗をぬぐいつつ下準備に取り組んでいたのだった。







「こんにちは…」

挨拶の声が聞こえ、誰だと思い前を向いてみると、そこには紅魔館の門番が立っていた。
そう、紅美鈴である。

「あ、こんにちは」
私はほほ笑みながら挨拶を返した。


その時気が付いたのである。
相手の異様な雰囲気に。


顔からは生気を感じられず、一瞥しただけで落ち込んでいる…いや、絶望していることが分かった。
そして背筋はいつものように張られておらず、猫背になっていた。
立っているのがやっとのようなその姿は、昔外の本で読んだ「ゾンビ」を思わせた。
そう、まさしく生きる屍、という感じである。

「ここ、いいですか……?」
そう言って、屋台の四席のうちの右端の席を指差した。
私は驚きで声が出ない代わりにうなずいてみせる。
すると、美鈴ゾンビは静かに椅子にすわり、崩れるようにカウンターの上に上半身を乗せた。
私は、目を白黒していたがしばらくして我に返り、口を開いた。

「どうし…」  「ひっく……ひっく…」
そんな声に私の言葉は遮られてしまった。美鈴ゾンビの体が小刻みに震えていた。
その時私は気が付いたのだ。

彼女は泣いている。

いつもニコニコしている美鈴が泣いている、そう思うと再び私の全身を驚きが駆け巡った。
何か言ったほうがいい、そんな思いがあったが私の口は半開きのままで何も声が出なかった。かける言葉が見つからなかったのだ。結果、私はうつぶせで泣いている彼女を見つめているだけしかできなかった。
今できることは祈ることだけだった。だれかこの状況を打破してくれる人物が現れることを。
どの神様に祈ればいいのかわからなかったので、とりあえず最寄りの妖怪の山の神社に住んでいる神様二柱に祈ることにした。ピンチの時は神を信仰する、これは妖怪の中でも基本なのである。
まあ、あの二柱が働いているところは見たことないが、今ばかりは頑張ってもらおうと思った。







「やあ…」

私の思いが通じたのか、視界の外から挨拶が聞こえた。どうやらあの二人が珍しく頑張ってくれたらしい。
ありがとう、神様。今度お賽銭入れに行きますね。


私は声がした方向に笑顔を向けた。

「こんにち………は…」

私の表情が笑顔から硬いものになっていくのを感じた。元気なあいさつもその勢いが失速してしまった。
視線の先には、三途の川の船頭がいた。
そう、小野塚小町である。

彼女はたまに来店してくれる。
そのたびに今日運んだ幽霊の話や、同僚の死神の話などをして楽しましてくれるのだ。
だからそこにいたのがいつもの彼女だったら、きっとこの状況を打破してくれただろう。私の顔も笑顔のままであったににちがいない。
そう、いつもの彼女だったら…

私の目の前にいた彼女の顔は絶望一色で、猫背で……さっきの美鈴と同じ雰囲気を漂わせていた。

先ほどの表現をもう一度利用するなら、そこにいたのは「小町ゾンビ」であった。
私の硬まった顔の額から、暑さ以外の理由の汗が垂れた。

「ここ、失礼するよ…」
すると小町ゾンビは左端の席に座り、カウンターに倒れてしまった。
雰囲気も行動も先ほどの彼女といっしょである。
ということは、もしかして…

もう悪い予感しかしなかった。










「ひっぐ……」






やっぱりあなたも泣くんですか…











よおし、私、いやがらせで山の神社のお賽銭箱にウナギの死体山ほど入れちゃうぞ☆


…真剣にそう思った。








~二十分経過~

「スパッ、スパッ」
「ひっく…ひっく…」
「ひっぐ……うぐ…」
「ミーンミーンミンミン」


カウンターに倒れたまま、ずっと泣いている門番と死神。
それに目もくれずひたすら、ウナギをさばく夜雀。
そんな三人にエールを送るように泣くミンミン蝉の声。

うん、なかなかシュールな絵だと思う。


二人が泣きだした後、やっぱり話しかける勇気がわいてこなかったので、現実逃避の意味も込めて再び下準備に取り組んだのだ。
その間二十分間、ずうっとバックミュージックにミンミン蝉の鳴き声と彼女たちの泣き声を聞いていた。



「スパッ…」
最後のウナギがさばき終わり、私は氷の入ったクーラーボックスにしまった。


…とうとうやることがなくなってしまったのだ。
私はタンクに入った水で手を洗いながら、この後のことを考えていた。

話しかけたほうがいいのだろうか…
しかし、泣いているということはそっとしといたほうがいいのだろうか…

暑さと闘いながらしばらく考えた結果、話しかけるのは中止し、そのかわり歌を歌うことにした。
これなら、泣いている理由は分からないがもしかすると泣きやんでくれるかもしれない。

この前、山の風祝から教えてもらった外の世界の曲を歌うことにした。
なんでも「国歌」という物らしいんだが意味はよくわからなかった。とりあえず、その言葉の響きがかっこいいという理由だけで気に入っている。



「き…」   「ミスティアさん…」

再びさえぎられてしまった。
驚きながらカウンターを見ると、美鈴がうるんだ瞳でこちらを見ていた。

「ど、どうしたの?」

まさか相手から話すとは思っておらず、少し動揺しながら返答した。

「いきなり席をお借りしてしまい、申し訳ありませんでした…
もしよかったらもう一つわがままを聞いてくれないでしょうか?」
「…かまわないよ」

私は再び笑顔を彼女に送ったが、内心は好奇心でいっぱいであった。

「誰かに今日あったことを聞いてほしくて…」
「いいよ。それと、もしかしてそれは泣いていたことと関係があるの?」

そんな質問をすると、ゆっくりうなずいた。

そして、美鈴は少しうつむきながら静かに語りだした。

私はもう、暑さのことなんか忘れていた。





* * *

「ふぁ~~」

大きなあくびをして、目をこすった。

私、紅美鈴は暑さから逃れるため、門の日影のあるところで柱によっかかっていた。
ここは夏でも涼しく、お気に入りのところでこの季節はいつもここにいる。

今は昼食後で、いい感じに腹がふくれており、場所は場所で心地よさを提供してくれて、私に強烈な睡魔が襲っていた。
しかし、もとより睡魔と闘う気もないので本能のままにまぶたを閉ざした。
そうして私はいつものように眠りに落ちたのだった…









「美鈴!!」

そんな怒号で私は夢の世界から帰ってきた。
あわてて目の前を見るとそこには紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が立っていた。
手にバスケットを持っているところをみると、差し入れを持ってきてくれたのだろう。

「あなたはいつも業務中に眠るのね!」
「す、すいません… で、でも午前中は寝ませんでした!」
「それは当り前のことよ! しかも、それは弁解になってないわよ!」

よくよく考えてみれば、言い訳にもなっていないことに気が付いた。

「す…すいません…」
「はぁ…謝るなら最初からしなければいいでしょう?」
「すいません…」

気分は母親から説教を受ける子供のようであった。
咲夜さんはただあきれ顔を浮かべながら説教をして、私は謝罪の言葉を述べながらただ縮こまるだけであった。


「せっかくあなたとお茶をしようと思ったのに…」

そんな言葉が聞こえ、ちらっと咲夜さんの顔を見てみると、いつのまにかさびしげな表情を浮かべていた。
その瞬間、私の心がチクっとした。
しかし咲夜さんは私に背を向け、
「これをパチュリー様に渡してくるわ」
と言い、紅魔館のほうに歩き始めてしまった。


いつものことであった。
昼寝をして彼女を怒らせ、その日は会話をしてもらえず、でも次の日になれば何事もなかったように会話する。
これが毎日だった。
だから本来は紅魔館に返ろうとする彼女の背中に声をかけようなんて思わなかった。

しかし今日は違った。
さっきの表情を見てしまったから?彼女の本心を少し覗いてしまったからしまったから?
きっかけはあやふやだが私は彼女に機嫌を直してほしいと思った。彼女の背中に声をかけたいと思った。
もしかしたらただ罪滅ぼしがしたかったのかもしれない。
または違う理由があったのかもしれない。
とにかくこのままじゃ嫌だと思った。



「さ、咲夜さんはきれいですよね」
彼女の足が止まった。
私は咲夜さんの背中を見ながら言った。

人の機嫌をとろうと思ったことがあまりないので、何を言えばいいか迷ったあげく、ほめることにした。
常識的に考えればこれは無意味だろう。しかし私には切り札があった。

「…何を言ってるの?」
咲夜さんは背中を向けたままだった。

「いや~咲夜さんほどの美人さんならいろんな方に好かれるんでしょうね~」
実はこれは実話である。
妖精メイドはもちろん、門番隊の多数すら咲夜さんに恋している者がいるのだ。
本気で告白を試みている者の話を何度も聞いたことがある。

「きっと咲夜さんから告白されたら皆が皆、OKしちゃいますね。…きっと私でもしちゃいますよ!」

そう言うと背中を向けていた咲夜さんがゆっくりこちらを振り向いた。
いつの間にか顔が赤くなっていた。

「ほ、本当…?」
「はい、もちろんですよ!だから…」

私は息を吸った。これでとどめである。彼女の顔の赤みが少し増したのがわかった。


「…だから、はやくお嬢様に告白しちゃいましょう!」
「…………えっ?」

そう、これが切り札である。

仕事だけならあそこまでお嬢様に尽くせない。
では、なぜあそこまでできるのか。
それは咲夜さんがお嬢様を愛しているから。
…そう推理したのだ。
だから臆病な彼女の恋を後押しして機嫌を直してもらおうと思ったのだ。

「…本気で言ってるの…?」
「もちろんですよ!咲夜さんにとっての幸せはお嬢様と結ばれることですからね」

笑顔で答えると、咲夜さんはくるりとまた紅魔館の方向に向きなおした。
私は雲行きが怪しくなったのを感じた。


「…あなたに幸せを指図されたくないわ…」
「えっ…」

その声は少し震えている。
目をぬぐったのがわかった。
どうして? 私は困惑でいっぱいだった。
…なぜ、咲夜さんは泣いているの?

また彼女が歩きだしたので、私はその後ろ姿に向かって走り出した。

「咲夜さ…」
「美鈴…」

いきなり止まったので私もつられて止まってしまった。
肩がかすかにふるえている。

「あなたはクビよ…」
「えっ…?」

呼吸が止まった。

今何と言った?

クビ……?

私が……?

どうして……?


「今…なんて…?」
するとすごい勢いで咲夜さんがこちらを振り向いた。顔は鬼の形相のようだった。しかし目には涙がたまっていた。
「クビと言ったの!私には紅魔館に働いている者をクビにできる権限があるの!
だから……だからもう、私の前に姿を現わせないで!あなたなんか大嫌い!!」

そう怒りの満ちた声で叫ぶと咲夜さんの姿は視界から消えていた。
どうやら時間を止めたらしい。


後に残ったのはいまだ動けないままの私とミンミン蝉の声だけだった。







* * *

「そしてしばらくの間固まったあと、ことの重大さに気が付き、虚無感に襲われながらさまよっていたら、ミスティアさんの屋台を見つけたので、座らせてもらい今に至ります…」
「なるほどね~」

美鈴はいまだにうつむいていた。私はそんな彼女を腕を組みながら見下ろすのであった。

「それで…?美鈴にはなんで咲夜がそんなことを言われて怒ったかわかったの?」
「実は…それがわからないんです…」

正直、驚いた。どうやら彼女はけっこう鈍感らしい。
話を聞いただけの私ですら分かったというのに。

「…もしかしてミスティアさんは分かったんですか?」
「まぁ、予想程度だけどね…」
「教えてください!」
「うわっ!」
美鈴がいすから立ち上がり、調理場にまで身を乗り出してきた。
ついついいきなりの行動に驚きの声をあげてしまった。
彼女の顔には必死さがあらわれていた。

「まあまあ落ち着いてよ
……別にいじわるするわけではないけどちょっとそれは教えられないかな…」
「ど、どうしてですか!?」
「これは…まあ私の意見なんだけど……美鈴自身が気づかなきゃいけないと思うんだ。どうして咲夜が怒ったのか…もう一度自分でよく考えて、原因を見つけ出すべきだと思うんだ……せっかく話してくれたのに、こんなことしか言えなくてごめん…」
「そ…そうですか…」

美鈴はさびしそうな表情を浮かべて再び自分のいすに座りなおした。
しばらくうつむいていたが突然顔を私のほうに向けた。
「そ、そうですよね!わがまま言ってしまいすいませんでした…何とか自分で原因を発見して咲夜さんに謝ります!」
顔にやる気が満ちているのがわかった。
きっと彼女の中で納得できたのだろう。
私はそんな彼女に「頑張ってね、応援してるよ」と笑顔で伝えるのであった。





「えっと……美鈴…でいいんだよな?」

再び視界の外から声が聞こえた。
美鈴が声の方向を向く。
私もその方向を向いてみると、うるんだ瞳で美鈴を見ている小野塚小町がいた。
「そ、そうです…えっと…あなたは…小町さんですよね…?」
「ああ。小野塚小町って言うんだ。よろしく」
そう言うと小町は笑って見せた。さっきまでの表情がうそのようである。
席を右に一つずれ、美鈴に近付いた。
ちらっと美鈴を見てみたが、いまだに驚きを隠せない様子であった。

「いきなり驚かせてしまってすまない。あんたの話を聞いてたらちょいと話しかけたくなってね。
…実はあたいも今日、上司を怒らしちまって仕事クビになったんだ…」
「ほ、本当ですか!?」
美鈴が興味を示したようで席を左に一つずれた。結果、二人は隣同士になっていた。

「あぁ…だからもしよかったらあたいの話も聞いてくれないかい?」
「こ、こんな私でよければいくらでも伺いますよ!」


…ふむ、どうやら私は蚊帳の外らしい。
目の前の二人は何か共鳴したらしく、手を握り合って見つめ合っている。ここだけ見ると告白の一部シーンのようだ。
二人だけの世界に入るのはいいが、いざ相手にされなくなるとさびしいのも事実。
とりあえず暇なので、右ひじを右手で触ろうと挑戦してみた。
右腕が痛くなった。

「あと、ミスティアにも聞いてもらっていいか?あんたなら原因を解明してくれそうだからな」
小町がこちらを向いていた。
話に混ぜてくれたことがうれしすぎて泣きそうになってしまった。私は痛めた右腕を抑えながら
「いいよ!」
と笑顔で答えた。




「あたいも昼寝してたらさ、それを上司の四季様に見つかっちまって…」
「原因発見、寝るな」

二人が驚いた顔でこちらを向いた。私はただ二人を見ながらため息を吐いた。

「なに平然と仕事中に寝てるんだよ!美鈴の話の時も思ったんだけど、二人とももっと真剣に仕事しなさい!そもそもあんたらが仕事中に寝たからこんなことになったんでしょ?」
二人はまだ驚きの顔を浮かべていた。その顔は道理を知らぬものを見ているようでもあった。

「…何言ってるんだ?仕事中に眠くなったら仮眠をとるのが普通だろう?なぁ、美鈴?」
「そうですよ?ミスティアさん、疲れてるんですか?」



…びっくりした。自分の時間が止まったように思えた。
百人中百人が非常識と答えるような部分を指摘したら、至極当たり前のように極上の挑発をかましてきやがった。
……えっ、今の私が悪いの?私の中の常識は単なる先入観だったの?というかなぜこの二人はいまだに驚きの表情を浮かべているの?なんなの?話をするのはフェイクで本当は私にケンカ売りたいだけなの?それとも殺されたいの?自殺志願者なの?…



かなり黒い思考が浮かんだが、何とか怒りで平常心を失った自分を落ち着かせることができた。
そうだ、私が大人になろう。私ミスティアは大人なのだ。だからけんかはしない。
ワタシツヨイ。ワタシオトナ。ダカラワタシ、オコラナイ。
…よし落ち着いた。再び彼女たちに笑顔を向ける。
小町が笑顔で口を開いた。


「まったく…ミスティア、しっかりしなよ」





…ワタシ、コマチコロス。






* * *

「まったく…あなたは何度言えばわかるんですか?」
「すいません…」
あたいは上司の四季様に昼寝が見つかり説教をされていた。

日課のようなものであった。寝ているのが見つかり、長い説教をされる。
こんなことが続けば他の閻魔の場合、あきらめてもう説教をしなくなるだろう。
しかしあたいの上司は違った。
律儀にも見つけたらその場で長々と説教をするのだ。それをもう何百年と続けている。
これは素直にすごいと思う。
しかしその反面、もう諦めてほしいとも思っている。
なんせ何百年とこんなことを繰り返している。そろそろあたいに説教が意味ないことを悟り、見過ごしてほしいものだ。
しかし本人はそんな願望を打ち砕くように、毎日あたいを説教するのだ。
そして今日も例外ではなかった。

「まったく…なぜあなたは勤務中に寝ない、といういたって簡単なことができないんですか?しかも私はこれを昔から言っていますよね?それを行動に移せないのはあなたに死神としての自覚が足りないんです。他の死神を見てみなさい。まじめに働いているではないですか。それに比べてあなたは……」
「………」

今日も今日とて四季様の説教が続いた。


普段は反省をするフリをして、他のことを考えて時間を潰している。
しかし、今あたいにはとんでもないアクシデントが起こっていた。
それは…

説教中なのに眠い、ということである。

原因は昨日同僚と夜遅くまで話をしていたことである。ついつい盛り上がってしまい、布団に入った時はもう夜がだいぶふけていた。

なんとかあたいは気合で目を開けようとしていたのだが、思った以上にまぶたが仲良しになっていた。
そのせいで努力もむなしくあたいは再び眠りに落ちてしまった。




「小町!!」
「きゃん!」
意識が戻った時はもう手遅れだった。
目の前の四季様の体は怒りで震えている。
やばい、私の直感がそう告げていた。
「説教中に寝るとはどういうことですか!!!」
そんな叫びにも似た怒声は私の鼓膜を大きく揺らした。
説教中睡眠は数えるほどしかやったことがないが、その全部が夕方まで続いた。
あたいはもう覚悟を決めるしかなかった。

「あなたのためにやっているのに、その間に眠るとは失礼でしょう!?だからあなたには自覚が足りないんです!!あなたは死神として……」
私はただうつむいていることしかできなかった。


「なぜですか!?なぜあなたはそんなにも眠るのですか!?」
唐突に質問が来てしまい、頭の中が混乱した。前を向くと四季様がこちらを睨んでいた。
え、えっと…なぜ…理由……説教が長かったから…?
混乱していたせいでついつい最初に頭に浮かんだことを言ってしまった。

「えっと…四季様の説教がなければ………あっ」

気が付いたときはもう遅かった。
言ってはいけない一言がもう声になっていた。
これでは火に油を注ぐどころかガソリンを注いでしまったようなものだ。
あたいは怖くなり下を向き、目をつぶった。
やばい。
きっと彼女は今までに聞いたことのないような大きな声で、怒りだすだろう。
それを想像しただけで恐怖心でいっぱいになった。
あたいは閉じているまぶたに思いっきり力を入れた。

……
………
…………あれ?
あたいの頭の中に疑問符が浮かんだ。

はて?
怒鳴られるとばかり思っていたが、肝心の怒声が聞こえてこない。
不審に思いながらもあたいは固く閉じられたまぶたを開け、ゆっくりと前を見た。


…頭の中の疑問符が増えた。
そしてその増えた疑問符が合体し、「困惑」という感情に変化した。
なぜだ?

そこにいたのは上司の四季映姫で間違いはなかった。
しかし、その表情は先ほどとは全然違うものだった。

目は大きく開いて、口は半開きのまま。一目でそこにはもう憤怒の気持ちが含まれていないことが分かった。
だが、その顔は……例えるなら、一日かけて作ったドミノ倒しを目の前で倒されたような脱力感にあふれていた。

「え…えっと……四季様?」
あたいは困惑の気持ちにまみれながらも話しかけてみた。

しかし返答はない。そのかわり小さい声で何か独り言を言っているのがわかった。
あたいはそのつぶやきに耳をかたむけてみた。

「小町にとって私の説教は…いらない…?小町にとって私は……邪魔な…存在…?」

…あたいは再び目を疑った。
なんと今度は四季様の目から大粒の涙が流れ始めてしまったのだ。その流れる様は滝のようである。
唇をかみしめ、泣く上司をただあたいは見ていることしかできなかった。

しばらく経ち、彼女は自分の袖で涙を拭きとった。
「小町!!!」
「は、はいっ!」
四季様は、泣いていたせいで真っ赤になった瞳でこちらを睨んだ。
あたいは威圧感でまた動けなくなってしまった。

「あなたはクビです!!即刻立ち去りなさい!!」


頭の中が真っ白になった。
処理が追いつかない。
あたいが……クビ?

「し、四季様…」
「うるさい!あなたなんか大嫌いです!!もう顔も見たくありません!!」
そう言うと四季様は振り返り、走って行ってしまった。

あたいはその後ろ姿を見ていることしかできなかった。





* * *

「後は美鈴と同じ経緯で今に至る…」
「大変でしたね…」
小町が話し終わると、美鈴はそんな言葉をかけた。
そして小町はこちらを向いた。

「それで、ミスティアはどうしてあんなにも四季様が怒ったか分かったのか?」
「まぁ…これまた予想程度だけどね」
「そ、そうか…」

小町はさびしそうな表情を浮かべ、うつむいてしまった。
「…やっぱりこれも自分で気が付かなきゃいけないのか…?」
「…申し訳ないが今回も教えられないな」
はぁ、と大きなため息を小町が吐いた。

…こいつも鈍感らしい。正直気が付いてほしいものだ。大ヒントを映姫が言っていたというのに。
横に目を向けてみると美鈴も深く考えていた。やっぱり彼女も分からなかったらしい。

「…じゃあ、あたいも何とか自分で見つけてみるよ!」
小町が先ほどの美鈴同様にやる気の満ちた顔をこちらを見ていた。
隣で美鈴が「お互い頑張りましょう」と言いながら、拍手をしている。
私も再び笑顔で小町に応援の言葉をかけた。





~十分経過~

「はいっ」

私は、時折二人で相談しながら必死に原因を探っている彼女たちの前に、お酒の入っているコップを置いた。
二人は驚きながらこちらを向いた。
「まだ営業時間じゃないけど、景気づけにサービス。今ウナギも焼くからちょっと待ってて」
私はほほ笑んだ。
二人の瞳はまたうるみだしていた。

「ミスティアさん…ありがとうございます…」
「ミスティア……お前意外と優しいんだな」
意外は余計である。まあとにかく喜んでもらえて何よりだ。
私はクーラーボックスからウナギをとりだした。













* * *

「どんどんお酒くださ~~い。今夜は飲み明かしますよ~~」
「美鈴ちゃん、いいね!賛成! ミスティアちゃん、ウナギも足りてないよ! ジャンジャン焼いちゃって~~」

そして現在に至る。

二人の上機嫌に反比例するように、私は不機嫌だった。
二人を睨んでは盛大なため息を吐く事を繰り返していた。


あの後彼女たちは私の出したお酒を飲んだ。どうやらこの二人はお酒にあまり強くないらしく、この時点で顔がほんのり赤くなっていた。
それから彼女たちは二杯目を懇願してきて、断りきれずしぶしぶ二杯目を注いだのだった。
そうこれがいけなかった。地獄が、後悔が始まった。

二杯目を飲み終わる頃には二人は酔ってしまい、原因発見会は愚痴こぼし大会へと変貌してしまった。
自分の上司の悪口や愚痴を二人して喚きだし、お酒とウナギをもっと要求しだした。それに対する私の拒否は彼女たちの耳に入らず、駄々をこねる子供のように、カウンターを叩くのだ。壊されるとたまらないからお酒を出してはそれにまた酔い愚痴を言う。こんなサイクルがかれこれ一時間以上続いていた。
太陽も傾きだし、ミンミン蝉の声はいつの間にかひぐらしの声に変わり、まだ営業時間でもないのにウナギを焼いている私の心は、悲しみと後悔で満ちていた。


「もっと上司は部下に対して優しく接するべきなんですよね!」
「その通り!!昼寝ぐらいで怒るのがおかしいんだよ!」
「そうです、そうです。上司の論理っていうのはおかしいんですよ」

おかしいのはお前らの論理だよ!!
…本来こんなつっこみを入れるのは私の役目だろう。
しかし、もう愚痴しか聞こえないこんな状況では、言葉を発するだけ無駄なのだ。長年酔っぱらいを客にしてくると学ぶものもある。愚痴に口を挟まない、これはその中で学んだ一訓である。

「あたいは明日からどうしたらいいんだろう…」
「私もです…もう明日からは咲夜さんに会えないんでしょうか…」
「あたいも……四季様にまた会いたいなぁ…」

ちらっと彼女たちのほうを目を向けてみると、悲しげな表情を浮かべてうつむいていた。
私の中に久しぶりの同情の念が浮かんだ。確かにこれは可哀想である。なんせ彼女たちは今日仕事をクビに……

……
………あれ?
さっき彼女たちは、何と言った?
私の手が止まった。
頭の中で巻き戻しが始まった。

二人はクビを嘆いていたか?
思い返してみよう…

「咲夜さんには会えないんでしょうか…」「四季様にまた会いたいなぁ…」


…どっからどう聞いても会えなくなることを嘆いている。
普通ならクビを悲しみ、明日からの仕事を心配するだろう。しかし彼女たちはそれより明日から自分の上司に会えないことを心配している。
ということは……


にやり、私はそんな効果音が付きそうな不適な笑みを笑みを浮かべた。気分は新しいいたずらを見つけた子供のようである。
そういうことか。
てっきり上司たちの片思いだと思っていたら、そうでもないらしい。
これはいろいろと聞く必要性がありそうだ。
私は彼女たちに不適な笑みを向けた。まだ二人は愚痴を言うのが忙しいようで、こちらの視線には気が付いていないようだ。
酔うと本音を言ってしまうことがある、これも長年屋台の店主を勤めて学んだ一訓である。

「二人とももしかして…」
「もう死んでしまいたいです…」
美鈴に言葉をさえぎられてしまった。今日はなんだか多い気がする。
まあ、そんなことはどうでもいい話だ。もう一度聞きなおせばいいんだから。

「二人とも…」
「あたいもだよ…」
今度は小町にさえぎられてしまった。こいつらは狙っているのだろうか。
いやそんなことはありえない。もう一度気を取り直して…

「二人…」
「もうだれか殺してください…」
……………

そろそろイライラしてきた。
さえぎられてしまっているのもそうだが、それ以上に不謹慎なことを連呼している二人に腹が立ってきた。
こいつらは意味がわかっているのだろうか。
確かにショックかもしれないがそんな言葉で形容しなくてもいいだろう。
しかし目の前の二人は延々と自殺願望の意思を口にしていた。
酔っても相手は客だ。もしいつもの私ならたとえどんなに相手が愚痴を言っても怒らなかっただろう。
でもこいつらは営業時間でもないのに売り物を注文してきた。これに対しての不満がとうとう私の堪忍袋の緒を切ってしまったのだ。



「そんなに死にたいなら死ねばいいでしょ!!力の強い幽香にでも頼めば!?」


最初に感じたのは後悔。次に感じたのは勝手に名前を使ってしまった幽香への申し訳なさ。
二人はただ目を大きく見開いてこちらを見ていた。
私は大いにあわてた。自分の中の後悔メーターはただただ上昇するのみだった。
とにかく私は謝ることにした。

「ご、ごめん。言いす…」
「そうか!幽香さんに頼めばいいんだ!」
「………へっ?」
美鈴がそんなこと言い、ついつい変な声を出してしまった。
そして遅れながらも小町も何かに気が付いたように、声をあげた。
それから二人はそうしよう、などと言い合いながらお金を置いてどっかに行ってしまった。
私はその間も何とか二人を落ち着かせようとしたが、私の声は二人には届いてはくれなかった。
結果、私は二人の背中を見送るだけしかできず、残ったのは嫌な予感しかしない私と何も知らないひぐらしの鳴き声だけだった。


















ふと片付けをしている時彼女たちが死にたい、と連呼していたことを思い出した。
酔うと表現を誇張させてしまうことは知っている。
だから彼女たちの気持ちも今だけだろう。
でもそのぐらいの表現を使いたくなるほど彼女たちは傷ついていたのだ。
そう思った瞬間、私は少し笑った。
そこまでの気持ちがあるのにあの二人は上司の気持ちには気が付いていないのだ。美鈴と小町の気持ちは「好意」と呼んでもいいだろう。なのに、自分たちの上司がその「好意」を同じく持っているのに彼女たちは気が付いていないのだ。
それがたまらなくおかしかった。

しかしそう考えると、ヒントぐらい出したほうがよかったかなぁ、という後悔も出てきた。
しばらく悩んでいると、唐突にいつも笑っている彼女たちが頭に浮かんだ。二人とも頭の中で屈託なく笑っている。
不思議なことが起こった。浮かんだ途端、今考えていることがすべて杞憂に思えたのだ。まるでそれはもとから問題でもない、というように。
彼女たちなら何とかなるだろう、そんな根拠はないのに自信だけがある考えが頭を埋めた。

それがおかしくて、私はまた笑ったのだった。











* * *

「こ、小町さんから言ってくださいよ…」
「美鈴が言ってくれよ…」
「で、では二人で言いましょう」
「そうしよう…」
「「せーの」」
「「私「あたい」たちを殺してください!!」」
「帰れ」




私、風見幽香はものすごく不愉快だった。
もう夕方なので最後のひまわりの世話をしていたらこの二人が私を訪ねてきて、何事かと聞いたらこう返答された。
もう一度言う。ものすごく不愉快だった。
しかもとうの本人たちは今、「キャー、言っちゃたー」などと顔を赤らめながら無駄に乙女チックにほざいている。
もう一度言わせてほしい。ものすご(以下略)


「どうして死にたいのよ?」
何から質問していいのか分からなかったので、とりあえずこんな質問をしてみた。

「じ、実は…」
いつの間にか二人とも暗い顔になっていた。感情表現が豊か、と言うより感情の起伏が激しい、といった感じである。
その重々しい雰囲気に圧倒され、私は唾を呑んだ。

「上司に嫌われてしまって…」
「あたいも…」


……えっ?
私の中のねじがゆるんだような錯覚を起こした。肩の力が一気に抜けた。
まさしく拍子抜け、という感じである。
死にたいと言うからには、てっきり仕事がクビにでもなったのかと思っていた。それがたかが怒らせた程度だったとは…
私は大きなため息をひとつはき、近くに生えていたひまわりをなでた。


「あっ……それと仕事もクビになりました…」
「あたいも…」

驚いてひまわりを折りそうになった。









* * *

「…てことなんだよ」
「ふ~~ん」
私はそう呟き、ひまわり茶をすすった。




二人が来た時から酔っていたのがわかっていたので、とりあえず迷いの竹林に住む医者からもらった「超強力酔い覚まし薬」という物をこの二人に飲ませた。それが思った以上に効き目があったらしく、二人の顔色もテンションも直ってくれた。ついでにそれはとても苦いらしく、二人とも吐きそうになっていた。
それからいろいろと聞きたいこともあったので、外のテーブルまで案内して二人の事情を伺っていたのだ。
そしてちょうど今、二人の事情の説明会が終わったところであった。
二人は話している間、ずうっと暗い顔をしていた。


「そういえばなんであなたたちは私を訪ねたの?」
これも疑問であった。いまいち理由がわからないのだ。
「じ、実は…」

申し訳なさそうに二人は語りだした。

…まあ簡潔に言うとあの夜雀に言われてここに来たらしい。
まったく、あいつも面倒くさいことを言ったものだ。今度文句を言いに行こう。
そんなことを思いながら私は再びため息を吐いた。

「それで?彼女たちがあなたたちの言葉でなんでそんなに怒ったかは分かってるんでしょう?なら…」
「実はそれがわからないんだ…」
「私も…」

とにかく驚いた。まさかここまで鈍感な奴がいたとは…
ただ目を丸くする私に対し、彼女たちはより暗い顔をするだけだった。

「……ミスティアにもこの話をしたの?」
「はい…」
「彼女はなんて?」
「自分で考えて気が付きなさい、と言ってました…」

彼女らしい考え方である。ミスティアは何か難しい問題があっても、まずは本人に考えさせるのだ。
今回もどうやらその方向性らしい。

「答えまでじゃなくてもいい!でもせめてあたいたちにヒントをくれないか!?このままじゃ答えを見つけられそうにないんだ…」
小町が身を乗り出して聞いてきた。
確かに手助けぐらいはしてやりたい。多少ミスティアの方針に逆らってしまうかもしれないが、このままも可哀想である。まぁ、ヒントぐらいなら…
少し考えた結果、質問をすることにした。

「ねぇ、質問してもいいかしら?」
「な、なんですか?」
美鈴が答える。
自分の顔を笑顔にした。



「あなたたちはクビを取り消してほしいの?それとも上司と仲直りをしたいの?」



二人が固まった。私はそんな二人をただ意地の悪い笑顔で見つめていた。

「そ、それは…」
美鈴が口を開くが最後まで言わずまた口を閉じてしまった。小町はただ斜め下を眺めているだけである。
そこで二人の顔が夕日以外の理由で赤いことに気が付いた。
そこでまた質問を続ける。

「あなたたちに死にたい理由を聞いた時の返答を覚えているかしら?
二人とも最初に上司に嫌われて、と言ったわ。その次におまけ程度にクビになったから、と言ったの。…不思議な話じゃない?普通なら最初にクビを言うのにあなたたちはそれを差し置いて嫌われたから、と言ったのよ?つまりあなたたちにとって嫌われたのはクビになった以上の問題だった、ということでしょ?つまり…」
私はわざとらしく二人を見渡し、間を空けた。



「あなたたちは自分の上司に何か特別の感情を抱いているんじゃない?」
「そ、そんなことは!」
今度は小町があわてて口をはさんだ。しかし美鈴同様、否定も肯定も言わずに口を閉ざしてしまった。

「どうやらあなたたちは相手の気持ちを考えるばかりで、自分の気持ちは考えていなかったみたいね」
私は意地悪な笑顔を崩さず、ひまわり茶をすすった。
二人の様子を見てみると、「そ、それは…」などと小さく呟きながら、自分の頭をせわしく掻いたり、目を泳がせたり、互いに顔を合わせたりと二人から落ち着きは消えていた。
その姿は恋をした乙女のようであった。



「特別な感情を抱いている相手に嫌われたらショックでしょ?…それはあなたたち上司も一緒じゃないかしら?」
そう言うと再び彼女たちの動きは止まった。まるで時間ごと止まっているように思えるほどに。
まだ言ったことの意図がわかっていないようだ。
しばらくして、小町の口だけ時間が動き出した。

「てことは……ゆ、幽香はあたいたちの上司があたいたちに、特別な感情を持っているって言うのか…?」
「その通りよ」
 ………………




意味を理解してからの二人はすごかった。
興奮しているようで顔を真っ赤に染め、立ち上がりいろいろと私に反論しているのだが、支離滅裂としていてほとんどが文になっていない。頭を抱えたり、目をものすごい速さで泳がせたりと、その姿は「狼狽」という表し方が似合っていた。
たっぷり暴れて、やっと少し落ち着いた小町が身を乗り出して聞いてきた。

「だ、だって四季様はずうっとあたいのことを説教してきたよ!」

「何とも思っていない部下に何百年も説教を続けられるかしら?」

「はぅぅ…」
そう言うと顔をより赤く染め、いすに力なく座った。一人撃沈である。

続いて今度は美鈴が乗り出して口を開いた。

「さ、咲夜さんは私にそっけなく接するし、ナイフだって投げてきます!」

「部下はたくさんいるのになんで「あなた」とお茶をしたかったんでしょうね?」

「あぅぅ…」
美鈴も顔を赤く染め、撃沈してしまった。

「さぁ、まだ質問はあるかしら?」
私はゆでダコ状態の二人を見まわした。しかし返答はなく、ただぐったりと座っているだけである。


「まあこれで、彼女たちが怒った理由はわかったでしょう?」
私は悪意のない純粋な笑顔で二人を見た。
二人は静かに頭を縦に振った。
「なら、あとは謝るだけ…もちろんそれ以上のことをしてもいいけどね」
再び意地悪い笑みを浮かべた。
彼女たちはうつむいてしまった。
しばらくして彼女たちは顔を見合わせて、何かを確かめたようにうなずき合った。それを私はなんとなしに見ていた。

すると突然彼女たちが立ち上がった。
いきなりの行動に驚いていると、二人は口を開いた。


「幽香さん、ありがとうございました。私たち謝ってきます!」
「幽香のおかげで勇気がわいてきたよ!ありがとう!」
真っ赤の顔で笑顔をつくり、そう言うと別れの言葉を残し二人は去って行った。



いきなりのお礼に照れてしまい、顔を赤くするのは私の番になっていた。











* * *

二人が去ってからしばらく経ち、空には星が輝きだしていた。

私は一人でお茶会を開いていた。すると、前方から誰かが歩いてくる音がした。その音は私の近くまでくると止んだ。
私は持っていたカップをテーブルの上に置き、
「今日はお客さんが多いわね…」
そんなことを呟いて視線を前に向けた。

そこには二人の赤髪の上司、十六夜咲夜と四季映姫がいた。

「どうしました?一緒にお茶でもどうです?」
わざとらしく二人にほほ笑みかけた。

「部下がここに来たと聞いたので」
「誰から?」
「ミスティアです」

まったくあの夜雀は私のところにどれだけ人を送れば気が済むのだろう、と心の中で悪態をついた。

「二人とも、もう自分の職場に返ったと思いますよ?」
置いたカップを再び持ち上げながら言った。
二人は短く礼を言うと背を向け歩きだした。

「聞いてもいいかしら?」
私は二つの背に言葉を投げかけた。私の視線はカップに向けたままである。
歩きが止まったのがわかった。

「今日は二人で行動してたんですか?」
視線を前に向けると不機嫌そうに二人がこちら見ていた。

「ええ、そうです。お互いとも目的は一緒だったので共に行動していました」
映姫が淡々と告げた。

「どこらを探していたんですか?」
「そんなことはあなたには関係のないことでしょ?」
「いいじゃないの?二人の場所を教えてあげたんですから」
映姫がこちらを睨みながら、少し間を空けた。

「…人里や妖怪の山付近です」
面倒くさそうに言い放った。
「頑張ったんですね」
私は彼女たちにほほ笑んだ。
その行動が気に食わなかったらしく、二人ともとても不愉快そうにこちら睨んでいた。


「あなたたちの部下から今日の出来事を伺いました」
そう言うと二人の顔は不機嫌なままだったが、少し頬が赤くなってることがわかった。

「それでなに?」
「あなたたちに一つ言いたいことがあるの」
「…なにかしら?」
返答をしていた咲夜の顔も隣の映姫の顔も赤いままである。








「あなたたちは素直になったほうがいいわ」








二人は目を思いっきり鋭くしてこちらを睨んだ。
私は笑顔をつくり、視線を下に向け再びひまわり茶をすするのであった。遠くなっていく足音を聞きながら。



…どうやらあの二人は不機嫌面になるのが夢中で気が付かなかったらしい。
最後の睨みをきかした顔は真っ赤だったということを…











* * *

「すいませんでした!!」
「えっ!?」

本日何度目になるか分からない驚きを、私は口にした。


太陽が沈んでしまい暗くなってきたのでちょうちんの準備をしていたら、彼女たちが戻ってきた。
真剣な顔で近付いてきたので、何事かと思ったら頭を下げ、声を合わして謝ってきたのだ。
私は驚きの声を上げることしかできなかった。

「ど、どうしたの!?」
「…酔っていろいろと迷惑かけちゃったから謝ろうと思ってね…」
小町が照れくさそうに言った。美鈴も照れ笑いしながらこちらを見ていた。
まさか謝られるとは思っていなかったので、しばらく困惑していた。
そして私も怒鳴ってしまったことを謝ろうと思った。

「別に大丈夫だよ。それより私も怒鳴ったりしてごめん」
彼女たちの照れ笑いが伝染しながら、私は二人に謝った。

「わ、悪いのは私たちなんですから、ミスティアさんは謝らないでください!」
「そ、そうだよ!」
二人とも驚きながらそう言った。そのあわてている姿は子供のようであった。それが面白くて私は笑ってしまった。二人と不思議そうな顔でこちらを見ていた。

私は笑いながら疑問に思っていたことを口にした。
「そういえば、なんで二人とも酔っていないの?」
「幽香さんの所に行ったとき、酔い覚まし薬をもらったんです」
私は再び驚いた。理由は私の言ったとおり本当に幽香に会いに行ったからだ。
続いて小町が口を開いた。

「幽香の所に行ったとき、今日の話も聞いてもらってね…原因についてのヒントを出してもらったんだよ」
どうやら彼女はヒントを出してくれたらしい。本来なら幽香の行動は不満なのだが、今回はこれでよかった気がした。

「じゃあ、原因がわかったんだ?」
「はい!だからこれから職場に戻って謝ってきます」
二人ともうれしそうな表情を浮かべていた。
これから謝りに行くというのに笑顔を浮かべている二人を見ていたら、意地悪な質問もしたくなった。


「…それで?告白もしちゃうの?」
目を細め、笑いながら彼女たちに聞いてみたところ、二人とも顔を赤くし照れ笑いしながら頬を掻いていた。

「まぁ、それも…」
「が、頑張ってみようと思う…」
二人がそうつぶやいた。

そして彼女たちはお別れの言葉を告げ、各々の方向に向かって言ったのだった。



二人を見送りながら、私の心の中にはいろいろな気持ちがあった。しかしそれすべてを言葉にするのは大変だし億劫だったので一言だけにしておいた。


まぁ、結局何が言いたいのかというと…














「恋も仲直りも頑張ってくださいね」















もう二人には聞こえないと知りながらそんなエールを、私は小さくなった彼女たちに言うのだった、
* * *

花畑にて

「あなたたちは素直になったほうがいいわ」

外に設置されたテーブルでひまわり茶を飲みながら、幽香はこの言葉を思い出していた。
理由は分からないが、この言葉が頭にずうっと浮かんでいるのだ。それに不快感を感じながら、一人で座っていた。

「久しぶり、幽香。考え事?」
リグルが幽香の顔を覗き込んでいた。
ここには自分一人しかいないと思っていたから、幽香はとても驚いた。

「な、なんであなたがここにいるのよ!?」
そう言うとリグルは照れ笑いしながら口を開いた。

「久しぶりに幽香に会いたくなってさ」
その言葉を言った途端、幽香の顔は真っ赤になった。今日会ったあの四人と同じぐらいに。

「う、うるさい!」
「怒ることないじゃん…」
「全部リグルが悪いわ!」
「なんでよ!?」

些細なことでいつものように言い合いが始まった。

あの言葉が気になっていた理由は至って簡単であった。

あれは自分にも当てはまっているのだ。

それに幽香が気づいたのは、リグルとの言い合いが終わってからである。

* * *


どうも、シンフーです。
めーさくとこまえーきが好きだったので、合わせたらどんな感じだろう、と思って書いたのがこの作品です。
全三作品のシリーズとして書いているので、次にめーさく、最後にこまえーきとするつもりです。
次回からは糖分多めを目指して書いていこうと思います。
あと、題名に書いておきながら美鈴と小町の会話シーンが少なくてすいません。
この二人はなんだか気が合うように思うので、ぜひ今度集中的に書いてみたいものです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
シンフー
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1530簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
次回作にも期待です!
14.100名前が無い程度の能力削除
タイトルでタグに小悪魔がいないことに不満を覚えた
しかし読んでみてこれはしかたないと思った
がんばれみすちー
18.80名前が無い程度の能力削除
さすがゆうかりんドS(親切)w
うはー、咲夜さんも映輝も可愛ええなぁ
22.80名前が無い程度の能力削除
三作?
幽リグはどうした幽リグは。
30.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです