Coolier - 新生・東方創想話

いつかハッピーエンドを描けたら

2010/07/22 20:10:58
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 私は迷子だ。知識の森に身を潜め、今日も私は一人答えを探す。もしかして答えなど無いのでは無いかと焦る気持ちもある。それでも私は私の物語を諦めない。だって終わりにするなら、誰だってハッピーエンドを願うものでしょう?


――◆


「こんばんは。七曜の魔女さん。良い夜ね。」
目だけを本から外し、ゆっくりと見上げる。目の前には少女。だが少女というには違和感を覚える。フランス人形のように整った顔と立ち振る舞いから、彼女の気品が伝わってくる。それはまるで本の中のお嬢様。同時に、お嬢様とは思わせない威圧感も内包している。だがそんな事は私には関係は無い。彼女がなんであろうと、私は私の世界を崩さない。
「スカーレットデビル。こんな時間にお散歩かしら。」
 すぐに本に目を落として興味が無いよう振る舞う。しかしこんな時間に、と言ったものの、彼女にはこの時間こそが正しいのだろう。彼女は吸血鬼だ。吸血鬼は日の下を歩けない。本の中でも有名な話だ。だが私としては、毎夜のように此処へやってくる彼女が少々鬱陶しくも感じていた。だからこそ、皮肉を込めて彼女の嫌がる呼び方をする。それに怒ろうと構わない。私にとって彼女は何かという存在でもないのだから。
「その呼び方は嫌いだわ。私には名前があるの。レミリアと言う名前が。貴方も学習しないのね。毎夜のように初めはここからスタートじゃない。」
「……そうね。それでレミリアお嬢様が私に何の御用かしら。」
 勢いよく本を閉じる。こんな調子じゃ落ち着いて読めたものではない。相手にも伝わるような不機嫌さを込めて。
「こんなにも月が綺麗な日よ。私とお喋りでもしない?」
 断った所でどうせこの吸血鬼は勝手にしゃべり出すのだ。なら少しくらい興味を持って”会話”という奴を楽しんでみよう。仕草だけでその意思を伝えると、満足したのか私の隣にレミリアは座り込む。
「何のつもりかしら?」
「良いじゃない。友人なら対等な立場であるべきだわ。」
 何が楽しいのか、レミリアは嬉しそうに笑っていた。
「それで、魔女さん貴女の名前を聞いていいかしら。」


――◆


「パチュリー様。」
「……こあ。どうかしたの?」
 紅魔館の大図書館で文字通り本に埋もれながら、私は現実に引き戻された。読み散らかした本を一冊一冊拾っては片すのはこあ。
「いえ、何処かお疲れのようでしたから……。今夜はもう休まれては……?」
「ありがとう。けど大丈夫よ。」
 こあの心配を余所に、私はまた本の世界へ落ちる。答えを求めてページをめくる。


――◆


 また別の日。当然のように彼女はやってくる。
「パチュリー。貴女はどうして夜に本を読むのかしら。」
 隣に腰かけたレミリアは私の読む本を興味深そうに覗きこみながら、そんな事を聞いてきた。
「日は毒なのよ。本にも私にもね。」
「あら、本はともかく、貴女個人には別に問題無いじゃない?」
 覗きこむのに疲れたのか、単に興味が失せたのか。レミリアは私の横に積まれた本を一冊取ると適当にページをめくっていた。首をかしげながら、時に疑問符を浮かべ、時にうんうんと感心している。
 その姿は少女の姿相応に見えて、絵にすらなるだろう。
「まぁ貴女とても不健康そうだものね。」
 ものすごく良い笑顔で、レミリアは悪びれもせず言った。何が楽しいのか何て私には良く解らない。ただ、それを不愉快と思う事は、最近少ない。むしろ心地良くすらある。
別に一人で読むにしても、こうして隣にレミリアが居たとしても本の内容が変わるわけは無い。でも前とは違う自分が居る。この気持ちは何だろうか。
「パチュリー。そういえば貴女は本をどこに保管しているの?いつもこの大木に腰かけて読んでいるけれど。」
湖に隣接した森を少し進むとぽっかりと穴の開いたように草原が広がっている。その丁度中央に、このお気に入りの場所がある。まるでこの森の長のようにそびえ立つ大木は、通常の3倍以上の大きさだ。この木がまた都合良く、ある程度の雨は防げる上に昼寝をしていても開けた土地のせいか風の通りが良くて気持ちが良い。
 ちなみにレミリアの住む洋館はこの大木のある場所から湖を挟んで反対側だ。
「当然家よ。……家だった……と言ったほうが良いかしら。」
「?だった……?」
「……着いてくれば解るわ。」
私は重い腰を上げる。手には持ってきた4冊の本を持って森を進む。そう言えば自宅に誰かを呼ぶなんてしばらくしていない。まぁ今更恥ずかしがるわけでもないが。
 5分ほど歩いてから、私は徐々に意識が飛びかけてくる。
――結構やばい。
「……ぜぇ……」
「パチュリー」
「……な……に……」
「言いたく無かったのだけど。貴女もしかして限界?」
 明らかに足元はふらついて。いつ木々の根に引っ掛かるかも解らない。正直、きつい。
 良く分からないが、どうしても休みたくは無かった。見栄と言う奴だろうか。とにかく彼女の前で無様な姿を晒したくは無かった。
「……よ…ゆうよ…このくら…いぃ――!?!?」
 案の定、バランスを崩してその場に転がる。
「あ、死んだ。」
「死んでないわよ!この程度で!」
 勢い良く起き上る。――予定だったのだが。体が言う事聞かず、起き上れない。ただ声だけは勢いがある。さっきまで息切れをしていたのが嘘のように。まぁ所謂、体の限界って奴だ。くすくすと上品な笑いが聞こえてくる。見るとレミリアが手ごろな木に腰掛けて笑っている。
「どうしたのかしら?七曜の魔女さん?こんなところで寝るなんて。」
「……えぇ……こ、今夜はとても月が綺麗だから悪くないわね。」
「そうね。今夜は新月ね。」
 空気が凍る。完全に私の敗北だろう。敗北なのだろうけど……。
――さて私は何と闘っていたのだろうか。
「……少し休ませて頂戴。」
 とても小さな声で。それは唯一私が出来る抵抗だ。
「初めから言えば良いのに。意外と見栄張りなんだから。」
「……煩いわね……」
「それで、後どのくらいなのかしら。」
 レミリアは私とは対照的に余裕を醸し出している。一方の私はと言えばぜぇぜぇと呼吸を整えている。
「……そうね……後15分くらいかしら……」
「そう。……後3回って所かな。」
――この後私は、きっかり3回夜空を見上げる事になる。



――◆


本を読み終える。一息ついてから差し込む光に気がついた。
「今夜は月が綺麗ね。」
月夜の差し込む図書館で、一人外を見上げた。あえて明かりは消して。ただ月明かりだけを図書館に入れる。とても綺麗だ。余りに綺麗なものだから。思わず図書館を抜け出した。きっと彼女もこの月を見ているだろう。精一杯の期待を込めて。


――◆


「なるほど。そういう理由だったの。」
 レミリアの視界に入って来たのは家を埋め尽くした本の山だった。本棚からは溢れ、テーブルからは崩れ。床は足の踏み場すら許さない。
「これでは確かに家で読むどころじゃないわね。貴女だとまさしくこの本の海で窒息しそうだし。」
「……どうせ4回寝たわよ。」
「なんで開き直っているのよ……まったく。」
 しかし、我ながらこの本の山を見ると眩暈がする。自分で言うのも何だが、良くここまで集めたものだ。まさか家を倉庫にしてしまうレベルとは。
 だが処分するという気にはならない。例えばもう20年以上読んでない本があるとしても。ある日突然読みたくなる日が。ある日突然必要になる日が訪れるかもしれない。
――詰まる所私は前に本で見た捨てられない女という奴らしい。
「パチュリー。いくらなんでも外で寝るのは貴女の体に障るわよ。」
「そうは言ってもね。私はここで寝るとなると窒息してしまいそうだもの。」
「意外と根に持つのね。」
「そうね。私はそういう魔女だったみたい。」
 こうして私はまた新しい自分を見つける。あぁ、何で私がこの少女に心を許したのか解った気がした。私は、私を理解していないのだ。でもこの少女は。レミリアは新しい私を拾い上げてくれる。
――例えば私は意外と負けず嫌いだった。
――例えば私は見栄張りだった。
――例えば私は根に持つ魔女だった。
本に住み、本を喰らい、本と眠る私は。まるで少女のような一面を持っていた。私ひとりでは見つけられなかった私を。貴女は拾い上げてくれていた。
貴女は私を友人と呼んだ。なら私も貴女を見つけよう。
「あぁ、そうだわ。パチュリー。」
「……なにかしら?」
「私の館に使っていない図書館があるの。」
貴女の傍で探してみよう――。


――◆


「入るわよ、レミィ。」
重苦しいドアを開ける。ドアをあけるとベッドから体のみを起こし、窓の外を見つめるレミィの姿があった。
「良い夜ね。」
「えぇ、今夜はこんなにも月が綺麗だから。」
 かつて出会ったころの威圧はそこに無く。まるで少女のように弱々しい。
 思わず唇を噛む。どうして貴女は――。
「そうね。とても綺麗な夜だわ。」
 精一杯、平静を努める。でもきっとレミィは気付くだろう。彼女は勘が良いから。
「だから、私とお喋りでもしましょうか。どうかしら、七曜の魔女さん。」
――そうやって冗談めかして。すぐ余裕なフリをする。
 だけど私も付き合おう。冗談を言い合おう。昔のように、精一杯皮肉を込めて。
「断っても勝手に喋るのでしょう?スカーレットデビル。」
「あら、良く解っているわね。」
「当然じゃない。私は確か貴女の友人らしいから。」


――◆


「レミリア。貴女の館には名前とか無いのかしら。」
「え…名前って。館に名前は必要なものなの?」
 解ってないわね…と私はため息をついた。
「名前は必要なものよ。大切なものなら尚更。名前が無ければ愛着も湧かないし。大切なものには名前を付けるものよ。」
 まぁ、これは本から得た知識だが。間違っては無いと思う。例えば人間がペットに名前を付けているのは何故だろうか。例えば「犬」を飼っていたとして。勿論ほかの「犬」と区別する為に付けるのもあるだろうが。それを「犬」と呼んでは愛着など生まれてこないだろう。それはこの「館」も同じと私は思うのだ。
 レミリアにとっては何て事は無いのかも知れないけれど。私は此処に愛着を持ってみたい。とにかく理由は色々あるけど。そういう事である。
「そうね…。ならこういうのはどうかしら。私達姉妹はスカーレット。貴女は七曜の魔女。二つを合わせて”紅魔館”。」
「へぇ。洒落ているじゃない。……ん。レミリア。今あなた、姉妹って言ったかしら。」
「あぁ……そういえば紹介がまだだったわね。私には妹が居るのよ。」


――◆


一冊の本を拾い上げる。
先程までパチュリー様が読んでいた本だ。
興味本位でそれをひろげてみる。白紙の本だった。そこには何も描かれて居ない。
「どういう事だろう……でもパチュリー様が熱心に読んでいたし……。」
 瞬間、本が命を吹き込まれたようにページをめくり出す。此処は屋内だ。風も無いのに勢いよくページは進んでいく。ようやく止まった。本は相変わらずの白紙だった。
「……一体これは……?」
――めくってもめくっても。ページに何か描かれる事は無い。一面の白。白、白。
でもこれじゃあ。一体パチュリー様は何を読んでいたっていうのだろう。


――◆


 そうして私は一人と気付かされる。
 世界は廻る。世界はこんなにも貴女に無関心だ。
 何事も無く一日は廻る。どうして。なんで。
 おかしいじゃないか。私は一人で、こんなにも辛くて。こんなにも怖いのに。
 おかしいじゃないか。私は元々一人だったのに。それが元に戻るだけで、こんなにも辛くて、こんなにも怖い。
 かつて私は、本の内容なんて変わらないと思った事があった。
けど違うのよ。それは間違っていたの。私たちの物語には劇的な変化があったのよ。
 立った一人登場人物が消えただけでね。
「入るわよ。レミィ。」
重苦しいドアを開ける。
「良い夜ね。」
 私は一人呟いた。


――◆


「メイドが欲しいわ。レミリア。」
「また突拍子もないわね。一応聞くけどどうして?」
「良く聞いてくれたわ。まずはこれを見て頂戴。あぁ、言っとくけどこれはとても貴重なものなのよ。外から入って来たものなの。丁寧に扱って頂戴。」
 大きくメイド本と書かれたそれをレミリアは言われた通り丁寧にめくって行く。
 徐々に顔を赤らめながら、それでもなお、ページをめくるのは止めない。
「……パチュリー……!これは!?」
 何処か興奮した様子で私に聞いてくる。どうやらこの”メイド”って奴に興味を持ってくれたみたいだ。
「フフ……レミリア。落ち着いて頂戴。」
 うん、逸る気持ちも解るけど。
「何か意味があるのかしら……!」
うんうん……うん?
「え……だってほら、そこ読んでみて。」
「え……これ読むの?罰ゲーム?」
 だって私が読むのは嫌だし。とりあえず勢いだけでレミリアに読まそう。私は一歩前に出て、さぁ、さぁ!と詰め寄る。
「う……『お…お嬢様それはダメ…あ…』…………」
 ちょっと私にもダメージがあった。恥じらいながらそれを読むレミリアは、言っては何だが、可愛かった。でも言わないでおこう。多分相当怒るだろうし。
「で、重要なのはここよ……!この人間はお嬢様と言っているわ。」
「うん……もう死にたい。」
「戻ってきてレミリア。」
「えぇ…もう大丈夫よ。……それで、この私がお嬢様だから、と言う理由で良く分からないけれど、その”メイド”って奴を雇うのかしら。でも別に館の事は妖精たちがやっているしそもそもこの本でやっている事の意味も解らないし、ちょっと興味があるか無いかって言われたらそりゃ興味あるけどとにかく人間の本なのだとしたらそれは人間の常識であって私は吸血鬼だから別にそんなの必要無いし。」
 先程の事を無かった事にするように早口で言いたい事を言う。本音も混ざっていたように思ったが、流す事にする。話が進まない。
「でも、メイドって可愛いじゃない。」
 瞬間、レミリアの動きが止まった。多分興味はあるのだろうけど、自分のプライドと闘っているのだろう。仕方ない。その背中を押すとしよう。
「きっとメイドが居るっていうのは”主”としてのステータスになるのよ。誰かを従えているっていうだけでその人の大きさが見えてくるとか。そんな感じなんじゃないかしら。」
 レミリアの時が動きだす。照れ隠しなのか視線を下に向けながら
「そうね、一人くらい居るのも悪く無いわ。」
とだけ言った。
「そういえば、この前拾ってきた人間にやらせれば?」
「……メイドはステータスメイドはステータスメイドは……」
「戻ってきてレミリア。」
「……ハッ……え、なに?何の話だったかしら。」
思わず笑ってしまった。最近コロコロ変わるレミリアの表情が楽しくてしょうがない。決してこんなことはレミリアに言うつもりは無いが。密かな私の楽しみだ。
「だからこの前拾ってきた人間。どうせやる事も無いのならやらせれば良いじゃない。メイドって人間の文化なら尚の事都合良いし。」
「……人間……あぁ、『咲夜』の事。」
「へぇ、名前をあげたの。」
「ちょっと興味もあったしね。名前が無ければ愛着もわかないでしょう?」
 得意げにレミリアは鼻を高くした。思わずニヤっと笑ってしまう。これだからこの吸血鬼は飽きない。
「ねぇレミリア。私たちも、私たちだけの呼び名でも決めない?」


――◆


「こちらでしたか、パチュリー様」
 かつて館の主人の居た寝室のベッドに腰掛けていた。その姿は儚く、月夜に照らされ幻想的にすら見える。その姿はまるで霧のようで。掴もうとすれば消えてしまいそうで。
「お体に障ります。どうか今日は休まれては。」
 なるべく冷静に。静かな口調で近寄る。そうでもしないと、月に隠れてしまいそうで。
「……ねぇこあ。」
「どうしました?」
「今夜はとても月が綺麗ね。」
「そうですね。」
「こんなにも月が綺麗だから、私のお喋りに付き合って頂戴。」



――◆



 ページをめくる。最後のページはまだ白紙。
――あれ?
 それは未完成なのよ。
――終わりは書かないの?
 えぇ。だってまだ終わってなんて居ないもの。
――続きものって奴なの?まぁ良いわ。それより遊びましょうよ。
 喜んで付き合いましょう。
こんにちわ、こんばんわ。初投稿となります。

暗くなりそうな話だったので、なるべく明るく明るく仕上げて見ました。
1回読んだら ん?と思わせる作品に仕上がっていればと思います。
疑問に思って2回目を読んで頂けたらそれはもう、嬉しいです。

お目を汚し失礼いたしました。
ぺでぃあ
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コメント



0.620簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
登場人物が一人欠けても、魔女の物語は終わらない。終わってくれない。
それが幸か不幸かなんて私にはわかりませんが、彼女はハッピーエンドを目指している。つまりはそういうことなんでしょう。
もの悲しさの中にどこか優しさを感じる、良い雰囲気のお話でした。