Coolier - 新生・東方創想話

雨宿り

2010/07/22 12:04:05
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この時期は憂鬱だ。毎日のように雨がシトシトと降り、その割に気温は下がらずジメジメと暑い。
晴れていれば気分転換で外に出たりするが、雨の中わざわざ濡れるために出るほど私は活発ではない。
しばらく外に出ていないのと、窓を開けてもジメジメとする家の中、湿気のためかいくら直してもハネてくる寝癖。

「なんで梅雨ってあるのかしら…」
そう呟いて窓から見える空に目を向ける。
雨は振っていないものの、空にはいかにも雨をたっぷりと蓄えたような黒い雲が広がっていた。
「激しく降るのかしら…」
私は少し期待を込めて言う。激しく雨が降れば気温は少し下がる。少なくとも今よりも快適にはなるはずだ。

ふと、頭に違和感を感じる。あぁ…まただ、と思いながら私は洗面台へと向かった。
鏡を見ながら人形を操り、ハネている髪の毛を直す。今日だけで何度目の行動だろう。
他にハネている所が無いか確認して、リビングに戻り椅子にもたれかかる。
既に冷めた紅茶を一気に飲み干し、窓の外を眺める。
「ほんと…何で梅雨なんて…」

梅雨なんて嫌なことばかり、誰が得をするのかしら。
ふと、森に住む白黒の魔法使いを思い出す。人間である彼女の魔法の源は森の茸にある。
そんな彼女からすると、茸の育ちやすいこのジメジメとした気候は大歓迎だろう。
「しばらく…会ってないわね」
私が外に出てないから当たり前だし、茸探しや研究に夢中なら家に来ることも無いだろう。
でももしかしたら…この近くで茸取ってて…突然雨が降り出して、アリスー雨宿りさせてくれ!とかなんて…
って…何を考えているのかしらね。
少し自嘲気味に笑いながらも、顔が紅く染まっているのが自分でもわかる。
普通の魔法使い、霧雨魔理沙。普通の人間に空を飛ぶ能力と魔法を扱える以外はただの人間。私も似たようなものだけど。
弾幕はパワー。口癖の割に影での小さな努力は、凄いの言葉に尽きる。だから強い。
そんな強さや、あの悪いながらどこか優しさのある性格からか、いつも周りに誰かいる。
そして彼女に好意を寄せる者も少なくない。私だって…その一人…
「素直じゃないな、アリスは」と彼女はいつも私に言ってくるけど、素直にさせてくれないのは彼女の意地悪な性格であって、
私だって素直にこの気持ちを表せたらと思う。
それにもし、私が素直になったとしても、変なところだけ鈍い彼女には伝わらないだろうし、
万が一に伝わっても彼女は「で?私はどうすればいいんだ?」と、冗談に聞こえる本音を漏らすだろう。
彼女のスペルカードの符の意味…彼女自身理解しているのかしら?

はぁ…と一つため息。
それが号令かのように雨が降り出した。思った通り雨脚が強い、雨が入ってこないように窓を閉めないと…
通気を良くしようと、家中の窓を開けていたので人形を使いながら全て閉めていく。
窓を全て閉め、ティーカップに新しいを紅茶を淹れて一息ついたところで。
あぁ…まただ。効果音を付けるのならピョコンかしら?そこまで可愛らしいものでもないけど。
面倒くさい、いっその事シャワーに入ろう。髪の毛を濡らせば元通りになる。
思いついた私はすぐに浴室に向かった。
最初からこうすればよかった。どうしてこんな事何度も…
……どうして?どうしてかしら?
基本的に来客の無いこの家、ましてこの雨なら尚更。そして私自身も外に出ない。
誰にも会うことがないのだから身だしなみを整える必要なんてあるかしら?
でも…でもやっぱり…
心の葛藤は行動に現れ、私はさっきから意味も無くリビングと浴室の間をぐるぐると歩き回っている。

しばらく浴室前で止まった後、さっきより強い足音を立ててリビングに戻り椅子に座る。
「きーめたっ!誰も来ないんだし、何もしなくていいじゃない」
自分に言い聞かせるように、少し大きな声で言った。
そうだ、誰かが…まして魔理沙が来るわけないんだから、何もすることなんて無い。
うん、誰かに翻弄されるなんて私らしく無い。これでいい。
この行動力は大きな物よアリス。
私は自分の中の何かに勝てた気がして、少し興奮してしまった。そしてさっき動きまわったのもあって心臓が脈打つのが早い。
窓も締め切ってるからか少し暑いわね。それでこうジメジメしてるし汗掻いてきちゃった。
あ~汗って出始めると止まらないのよね、ベタベタ気持ち悪い。最近弾幕ごっこで汗掻いてないからか妙にベタつくわね。
そうだ、シャワー浴びよう。せっかく心もスッキリしたし、身体も洗い流してスッキリ二倍。
さて、シャワーシャワー。

私は脱衣所で服を脱いだところでうなだれた。
何故だ、私はどこで間違えてしまったのだろう。シャワーに入りたいという邪念が少しでもあったからだろうか。
ともあれ、脱いだ服をもう一度着るのは身体が拒んでいる。
結局私はタオルを一枚取って、ため息と同時に浴室のドアを開けた。

蛇口を捻り手でお湯の温度を確認する。お湯が出てくるまで少し時間がかかる。
そもそもこのシャワーってどんな原理になってたんだっけ?当たり前のように使ってたから忘れてしまった。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、シャワーからお湯が出てきた。
少しさっぱりしたいので、お湯の温度を少し高めに設定する。
ホント…どういう原理だったかしら…

さて、朝から戦い続けた私の頭上の黄色い戦士よ。観念なさい。
私を悩ませ続けたアンタは、この文明の利器シャワーの前に倒れるのよ。
思えば長くも良い戦いだったわ。お互いによく競い合ったものね。
さぁ、温かい銃弾で眠りなさい!

くだらない、本当にくだらない。
そう思いながらも楽しんでる自分がいるのは、梅雨のため外出できない退屈からだろうか。
軽い自己嫌悪に陥ったため、結局まだ髪をシャワーに当てていない。
はぁ…さっさと浴びて上がろう。
そう思った瞬間。私の頭の奥がなにかくすぐられるような感覚。
誰かが私の名前を呼ん…だ?
空耳よね、うん私さっきからおかしいんだから、絶対そらみ…
「アリスー!いないのか?」
今度はハッキリ聞こえた。誰とも間違えるわけない、少し通った、私が一番聞きたかった声。
「え…え…!」
わけがわからずお風呂場でドタバタとする私。
そうだ、とにかく呼び止めないと。
「魔理沙でしょ?何?」
私はお風呂場のドアを開けて大きく叫んだ。
その後、おぉなんだいるじゃんか。と聞こえてから玄関のドアが開く音がした。
魔理沙は基本その家の主がいるとわかると勝手にずかずかと入ってくる。
マナーがなってないが、私としてはそちらのほうが気が楽だった。
おっと危ない。私は急いでお風呂場の扉を閉じる。
「ちょっとシャワー入ってるから紅茶でも飲んで待ってて」
「おぉ」
今のおぉって返事、わかった。というよりも、何か珍しい物を見つけた。って言ったほうが当てはまるようなニュアンスだったけど。
リビングに何か置いたままだったかしら?いや、いろいろ置いてたけど…見られちゃマズイ物とか…

しばらくして、その真意がわかった。足音が近づいてくる。
脱衣所から声がかかる。
「今入ったばっかりか?」
「そうよ、だからまだ時間がかかるから、リビングで待ってて。もちろん、置いてる物触ったり物色したりしないでね」
「ほほぅ…」
返事からして、魔理沙が悪巧みを考えている時のにやけた顔が浮かぶ。
「ちょっと…まさかこの隙に何か盗ろうとか卑怯なこと考えて…」
返事は無い、返事のかわりに何やら服の擦れる音がする。
私の服を盗るつもり?まさか、そんな?うそうそうそ、冗談じゃないわ!いや、でもちょっと嬉し…
いやいやいや、ダメよ。魔理沙をそんな間違った道に走らせるなんて。止めなければ!
私は意を決してドアに手をかけた。
「そこまでよ!」
ガラリと勢いのいい音をたててドアを開けた。そして固まった。
目の前には白くて綺麗な肌。魔理沙の肌。
「お、もう上がりか?ちょうどいい。私も雨の中飛んでたから体が冷えてな。シャワー貸してくれ」
私はカラカラとゆっくり風呂のドアを閉める。
閉めきる前に魔理沙が勢いよくドアを開け返す。
「悪かった悪かった。まだ途中だったか」
途中だったら何よ。何で入ってくるのよ。ちょっと意味がわからない。

いやこれはもしかして、いわゆるフラグと言う物で。この後私は魔理沙とベッドで…。
いやいや、話が進み過ぎだぞ私。その前にまず踏み出すべき一歩があるじゃないか。まずはキ…
じゃないじゃない、まずはこのお風呂場でお互いの体を…
でもない、そのそも魔理沙は一緒に入るつもりなの?まずは魔理沙から「せっかくだから一緒に入ろうぜ」の言葉が掛けられないとはじまら…
「せっかくだし一緒に入ろうぜ」
読心術を心得ていたのね。どうでもいいけど魔理沙がお風呂場に入ってきてから3秒。
どうする私?どうするの?
あの人生選択のカードはスーツ内側のポケットにしか忍ばせてない。
雨の日にわざわざやってきて、しかもわざわざお風呂場まで来るとはもしかして…
……据え膳食わぬは女の恥!今こそ女になr
「ぶうぇぶっ」
突然熱いお湯を顔に掛けられて私は我に帰った。
手で顔を拭うとぼやけた視界がハッキリとしてくる。目の前にはシャワーを持った魔理沙。
「何すんのよ!?」
「いや、話しかけても無反応だし。ずっとニヤニヤしながら裸で立ってるアリスをさすがに危険だなと思って」
そう言われて、私は耳のてっぺんまで真っ赤になる。
「うわぃぶっ」
次は水を掛けられた。
「何すんのよ!?」
「冷却だ冷却。オーバーヒートしそうな顔の色だったからな。そんなことよりさっさと体洗おうぜ」
無邪気に笑う魔理沙。この人は自分の言ってることとやってることが私には迷惑だと気付いてないのだろうか。いや気付かれていても困るけど。

いつの間にか魔理沙の手には泡だらけのスポンジが握られていた。
「ほら洗ってやるから座れよ」
私はまたしばらくオーバーヒートしていたかもしれない。
「あ、うん」




※音声のみお楽しみください。
「ほらほらー誰かに洗われると気持ちいいだろー」
「…ま、まぁ悪いもんじゃないわね」
「それじゃ毎日風呂に入りに来てやろうか?」
「えっ…ほん…いや、バカ!」
「隙あり~」
「きゃうん」
「はっはーすべすべだなぁ」
「ばかっどこ洗って!あっ…」
「ほほぅ。お客さん、ここが弱いのですか?」
「ふぁ…あっ…だめ」
「よいではないか、よいではないか」
「どこで覚えたのよ。こうなったらええぃ!」
「うわわっ」
「よし、観念しなさい。次は私が洗ってあげる」
「いや、アリス。さすがにこの体勢は無理が…きゃっ」
「あら、案外可愛らしい悲鳴を上げるのね」
「ちょっと、いきなりそこは…あっ」
「ほらほら、ちょっとは抵抗したら?」
「だめ…体に力が…ひぅっ…」
「ふふ、魔理沙敗れたり。って…あっ」
「隙ありだぜアリス。よくもやってくれたな」




「疲れたー」
リビングの机に突っ伏す魔理沙。紅茶を注ぐ私の腕もカタカタと震えている。
「まったくいい迷惑よ。人がせっかくゆっくりシャワー浴びようとしてたのに。逆にいい運動になったわ」
「いやぁ私だってあんな事するつもりはなかったぜ」
「大体何でウチに来たのよ」
私は紅茶を魔理沙の前に置きながら言う。
「いやだって、ほら…」
そう言って魔理沙は窓の外を指差す。
先程よりはかなりましだが、雨はまだ降り続いていた。
あの強い雨の中を飛んでいたのなら誰でも屋根の下に入りたくなる。
「なるほど。森にいたら雨が降ってきたから、私の家に飛び込んで来たわけね」
魔理沙はティーカップを手に持ちながらキョトンとした顔で言った。
「何言ってんだ?私はもともとアリスの家に来ようとしてたんだぜ」
「ぶっ」
紅茶を吹き出してしまった。何言ってるのこの人。
あーもう汚いなぁ。と言いながら台ふきんで机を拭く魔理沙。
どうやらからかって言ったわけではなく本気なようだ。
「な…なんでまた私になんか」
私も口周りを拭きながら、心を落ち着かせて言う。
「いや、まぁこう雨ばっかりだと私もお前もあまり外に出ないから会わないだろ?しばらく会ってないからどうしてるかなって思ってよ」
「そ…そう」
落ち着きを見せようと努力はしているが、こんなことを言われて落ち着いていられるわけがない。
ティーカップなんて持つとカタカタ震えちゃうから絶対ダメ。

「れ、霊夢のほうはよかったの?」
あぁもう最悪だ。せっかく自分のことを気にかけてくれているのに、他人の話をされると気分を悪くするのは私自身なのに。
「いや、アイツは紫とか萃香いるしな」
「何よ、私がいつも一人って言いたいわけ?」
もちろんそんな気が無いのはわかっている。ただ少し焦る魔理沙の反応を見たいだけで。
「まぁ簡単に言えばそうだな」
「え!?」
驚きのあまり椅子から勢いよく立ってしまった。
「じ…冗談だよ」
少し焦る魔理沙の顔。私の顔はもしかしたら凄い不安いっぱいの顔だったのかもしれない。
「そ…そう」
力無く椅子に座り直す私。まさかカウンターを喰らうとは。不覚。
「まぁなんだ…元気にしてるかなと。気になってな」
「み…見ての通りピンピンしてるわよ。安心した?」
「あぁ、安心した」
紅茶を飲みながら微笑む魔理沙。

すごく愛しい。できるものなら、この全てを私のモノにしてしまいたい。そんな考えが出ては消えるのを繰り返す。
またここで考えを深くめぐらせるのはやめよう。またぼんやりして、にやけてしまうかもしれない。不安な顔をしてしまうかもしれない。
そうね、ここは少し押してみようかしら…
「なんだか…こっ…恋人みたいね」
「んー?」
「その…しばらく会ってないのを気にかけて、わざわざ会いに来てくれるなんて」
きっと顔が真っ赤になってるだろうから、下をむいて言うしかできない。
しばらく無言が続いたので私は少し後悔しつつ、おそるおそる視線を上げた。
「そうだな…」
相変わらずの笑顔で、魔理沙はポツリと呟くように言った。
「アリスも霊夢も紫もパチュリーも、みんな生きる上では必要無いはずなのに私を必要としてくれることがある。
私や霊夢なんてアリスや妖怪みんなからしたら長い生涯の一瞬でしか無いのに、記憶に留めてくれようとする。
だから、私だってみんなの記憶に残りたい。残れるくらいの強い人間でありたい。そう思っている。
種族の壁を超えて仲良くしてくれるみんなは、恋人みたいで、みんな大好きだ」
最後に満面の笑みを見せる魔理沙。

あぁやっぱり…やっぱり私はコイツが好きなんだ。
当の本人は既に笑顔を崩し、あれ?恋人だと多いからやっぱり家族か?とかどうでもいいことを真剣に考えている。
あぁ…さっきまでの憂鬱はどこへ消えたのかしら。こんな日があるのなら梅雨も悪くないのかもね。
そうだ、今度は私が魔理沙の家に行ってみよう。



「おぉ!」
チラっと窓を見た魔理沙がもう一度見なおして声を上げる。
私も気になって窓を見ようとしたが、既に魔理沙に手を引かれていた。
「ちょっと…どうしたの、いきなり?」
「いいからいいから」
狭い廊下を抜けて魔理沙は勢いよく扉を開けた。
「晴れたぜ!」
空を見上げながら魔理沙は叫んだ。
目の前には真っ青な空と、その遠くには先程まで雨を降らせていた大きな雲。
「梅雨が明けたみたいだな」
「そっ…か」
「なんだ、残念そうだな?あれだけ退屈そうにしてたのに」
「いや、別にね」
先程の決心はどうしよう。一瞬悔やんだが目の前の青空を見ているとどうでもよくなった。今度雨の降った日でもいいじゃない。

憂鬱だった梅雨は明けました。でも少し来年の梅雨も楽しみです。
夏空が広がる。暑い熱い夏が始まります。
夏祭り、花火大会、盆踊り、今の手の感覚を味わえることがこの夏はあるかしら?
私は魔理沙と手を繋いだまま、始まる夏に心を踊らせた。
「じゃ、さっそくだが弾幕ごっこやろうぜ!」
「えぇ~!」
「改良したマスタースパークを味わうがいい!」


ここまで読んで頂きありがとうございます。
ラストは普通に晴れで終わらせようとしたのですが、
梅雨が終わってしまったので少しでも今の時期に合わせようとした結果がこれです。
いよいよ夏ですね。
夏は暑いので苦手ですが、真っ青な空に入道雲がある夏空が大好きです。
皆さんも夏バテには気をつけて下さい。

誤字脱字報告
感想批評お待ちしています。

ついったーしてます。
http://twitter.com/nao_seckey
ふぉろーお待ちしてます。いえ、して下さい、お願いします。
nao
http://qkikqn.web.fc2.com/index.html
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コメント



0.790簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
マリアリの王道といったところですね。
アリスの恋がうまくいってほしいです。
7.100名前が無い程度の能力削除
アリスを応援したいですね。
なぜならお祭りや花火大会に行くマリアリのssが読みたいので
アリスがんばれ超がんばれ!!
11.100名前が無い程度の能力削除
これからの夏が楽しみです
13.100奇声を発する程度の能力削除
音声の所が凄く気になる!
素晴らしいマリアリでした!!
16.100名前が無い程度の能力削除
マリアリは実にいいものだ
癒された