Coolier - 新生・東方創想話

東方腐敗、暁に散乃 〔香・霖〕最終話

2005/03/29 12:14:16
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深・男幕結界発動中。

むさ苦しい漢たちの、暑苦しい闘いを見届ける覚悟なく踏み込む者に――――死を。












 





「――やあ、僕の敵」
「――ふん、小童が」

 決して出会ってはならなかった漢たち。
 けれど……ふたりは出会ってしまった。
 そう、運命の赤い糸には誰も抗えぬ。
 表裏も溶け合うほど複雑に絡み合ったメビウスの輪――紅白のフンドシはもうほどけまい――
 
 夕暮れどきのお馬が刻。
 黄金律の肉体を誇る仁王像が向かい合う。
 
 約束の時は訪れた。
 神々の黄昏は訪れた。
 二人の全裸兵の熱き邂逅は――果たされた。
 洞窟の出口に立ち塞がる白フン。
 眩しげに目を細めてそれを見据える赤フン。
 両者ともに、再会を喜び合い「ぬしゃあ!」「おやっさん!」と泣きむせび固い抱擁を交わす。
 夕日をバックに重なり合う、黒い一つのシルエットが――ロマンティック・フォーエバー。
 たとえ絡めた指先が離れても、ふたりがその熱き滾りを忘れぬ限り…
 溶け合ったこころは――永遠に離れられないのだ。
 
 
 
 ……なんて恐ろしい愛情劇には、残念ながらならなかった。
 極めてクールに淡々と、男祭りの幕は上がる。
 
 
「久方ぶりだね、妖忌。相変わらず壮健そうでなによりだ。ああ、そうそう。前回の限定ジャンケンでは身包み一切ひん剥かれて災難だったね。勝ち逃げした僕が言っても慰めには全くならないと思うが…ふふ…心から同情するよ」
「……ぬかせ。このペテン師が。ワシがいつまでも気づかぬと思うたか。…あの後、他の参加者どもを斬り潰して問い詰めたぞ」
「へえ、それは随分…君らしいやり方だね」
「ふん。悪質なイカサマを見抜けなんだワシが今更とやかく言うつもりも無いが…今日は、みょんな小細工を弄すると同時に貴様の命は無いと思え」
「あは。安心したまえ、我がライヴァル妖忌。今回の趣向は正真正銘、男と男のがちんこ勝負だからね。君の大好きな――肉体と肉体、汗と血潮がぶつかり合う正統派男幕勝負だ。おっと、でも剣士が剣を持っていないとフェアプレイにもとる一方的な展開になっちゃうね。ああ、なんなら前回質に入れた君の刀を返してもいい」
「――不要なり。貴様に情けをかけられるほど、ワシは衰えてはおらぬ」
「そうかい。さすがは僕の認めた唯一の漢――”フォビドゥンマスター”魂魄 妖忌。実にさわやかさんだね」
「ぬかせ。ワシを見くびるな」 少し頬を赤らめる妖忌。


 無言でじっと見詰めあうふたり。
 香霖の少年のような眩しい視線に耐えかね、ぷいと妖忌は顔を背けた。
 ……わかりきっていたことだが、此処は既に――異界。どこかが致命的に狂った香霖空間。
 どこを見ても褌、裸、褌、裸、褌、裸、褌、裸――――止めにガーターベルト。
 
 そう、此処は幻想郷ならぬ幻葬郷なのだ。
 
 
 
  ***
 
 
「さて、前置きはこのぐらいにしてそろそろ勝負に移ろうか」
「……おう」
「男祭り3番勝負。まずは恒例の”幻想しりとり”からだね」
「むぅ。気乗りせぬが……仕方あるまい」
「はは、そう言いつつも君はやる気満々と見たね。だけどやる気と戦果は直結しないことを、僕は知っている」
「ぐ…」
「じゃあ、にらめっこの勝者たる僕から先陣を切ろうか。その前に……ほら」
 いつものところからゴソゴソと妙な道具を二個取り出し、片方を頭部にセット。同時に片目を覆うように緑色のスクリーンが展開した。
 同じ形状をした道具を妖忌に放る香霖。
「さ、スカウターを着け給え。コレが無いと判定が困難だからね」
「……おう」
 言われるままに装着する妖忌。
「では、ルールの確認だ。このしりとりは使用単語の”萌え度”を競うもの。先に累積したポイントが1000になったほうが勝ち。萌え度判定はスカウターが勝手にやってくれるから気楽なもんさ。真の漢は知性も重要。条件は対等。タンマは無しだよ?」
「わかっとるわい。さっさと始めい」
「――アハ☆焦らないの」
 顎に指を当ててパチン☆とウインク。
 
 ……
 
 …………

 …………………

 <男祭り 第一プレイ 幻想しりとり>
 
 レディ ゴゥ

香「おっぱい!」(+50)アハァ!!

妖「…い、いい妖夢」(+50)ムゥ…いきなり破廉恥な…

香「ムチムチぃー」《乳コンボ +50》進歩ないねぇ…またそれかい。
妖「乳当て」《コンボ割り込み妨害 ±0》…豊満にも手を出すとは…外道が。

香「てゐ」(+30)おっ、ブラジャアのことだね! 古風だなぁ。
妖「いい幽々子」《ゆゆようむ発動 +100》新顔のヨウジョか…

香「香霖堂」《スカ -100》そればっかだね、君は。ん? 何故僕のお店が-100なんだいッ!?
妖「ウドンゲ」(+40)ふふ…ワシとて最近の萌え娘の動向は掴んでおるわい。

香「げいつ」《NGワード -500》し、しまったッつい…。僕の馬鹿馬鹿!!
妖「ツェペシュの幼き末裔」(+60)フォフォフォ、たわけ。

香「十六夜 咲夜」(+70)あの胸はパッドだと思うね、僕は。
妖「八雲 紫」(+100)まあ、そうかもな。 ゆあきんじゃよ。

香「霖之介!」《危険人物-200》な、なんだってー!? 壊れてるのか、この装置は!
妖「毛玉レスラー」(-80)む、これはいかんな。親分殿…。

香「ラクトガール ~ 少女密室」(+80)いよっしゃあ! いい曲名!!
妖「ルナサ姉(ねえ)」(+50)ふむ。

香「エメラルドメガリスッ」《ぱちぇコンボ発動 +120》YES!
妖「スカーレットシュート」(+30)ぬ…連撃にならなんだ。ストラディにするべきであったか…。

香「鳥目だッ」《ぱちぇ病弱コンボ継続 +150》うははははー、じと目最高ッ!
妖「め…めめめめ…めるぽ」ξ・∀・)ランダムボーナスタイム ………《暴走 -300》うごぉぉおおぉぉ!?

香「ポリフェノールゥ!」《ぱちぇ更生コンボ継続 +200》おおっ、どんどん来てるぜ! 病弱美少女万歳!
妖「…ルーミア」(+30)当ればでかいが、外れると痛いのう…めるぽは…

香「フフフ…アリス・マーガトロイド!」《魔女ッ子連鎖発生 +300》~~~っ、今回だけは君に感謝だッアリス!!
 
 ………
 
 ………………
 
 そんなこんなで不毛な言霊の応酬は熾烈を極め、最後らへんは白熱した香霖と負けず嫌いの妖忌にによる放送禁止用語のオンパレードとなり、残念ながら詳細な描写は不可能となってしまった。
 結局いやらしい言語を操る程度の能力に優れた香霖が、実直なゆゆようむ萌え一筋の妖忌を下し――第一プレイの勝者となったのである。
 岩壁を悔しげに殴りつける妖忌。
 固い岩を水気の無いクッキーのように粉砕した拳の威力が彼のやるせなさを表している。
 一方、屁理屈をこねて我を通す戯言遣いでは定評のある香霖堂店主は、そんな彼をふふんとせせら笑い、いらつく妖忌に更なる追い討ちをかけた。
 
「う~ん…どうしたんだい、妖忌。そろそろ頭にボケが回ってきたのかな? 君と僕とではおつむの出来が違うから仕方ないとはいえ、そりゃああまりに手応えが無さ過ぎってもんだよ」
「……殺す。ヌシは絶対殺す。…次の勝負は肉弾戦じゃ。生きて明日の陽を拝めると思うなよ…」
 
 
 ふぅん、そうかいと舌なめずりをしながら妖艶な笑みを浮かべウインク。
 
 魅惑のビームを直撃され、ぐぉ…と呻く妖忌を尻目に香霖はおもむろにフンドシに片手を突っ込んだ。そして内部に広がる香霖空間からシュポンと小気味いい音を立てていっこのリンゴを取り出す。
 
 いつも褌内部の貯蔵庫は綺麗にしているとはいえ、食あたりが怖いので丁寧に褌の裾で拭い(ごしごし)、シャクッと齧る。
 瑞々しい果汁と固い果肉が彼の乾いたこころと喉を潤した。
 何故フンドシからリンゴが? と突っ込んではいけない。どうしてかというと、彼のひみつを狙い、背後に忍び寄るものは――自分が逆になにかを突っ込まれる覚悟をせねばならぬからだ。
 
 そんなどうでもいい彼の嫌な習性は兎も角、香霖は色々と謎が多い人物なのである。
 なので、彼の行動にいちいち理由を求めていては、こちらが混乱するだけ。
 こういう不可思議は気にしないに限るのだ。
 
 
「うん――美味。君も食べるかい? ほら」
 ひょいっ
 宙を飛ぶ未成熟な青い果実。
 ぱしっ
 分厚い手の平で受け取る妖忌。
「青林檎か…貴様らしい。だが」
 ミリ…
 ……
 …………
 メッシャアアァァーーー
「その手は喰わぬ。大方、貴様が齧った所以外に即効性の下剤でも仕込んだのであろう。姑息な戦法は通じぬ、と言った筈じゃ」
 握り締めた拳から、ボタボタ林檎を構成していた物質が大地に染み込んでいく。
 カチコチに凝縮された林檎だった物を、手首のスナップだけで物騒な贈り物をした相手に投擲。
 ヒュ…
「おやおや、疑り深くなっちゃって。今回は、そんな無粋な真似しないといっただろう?」
 ブォン
 林檎弾は香霖のからだを貫いて彼方に消えた。
 ――残像だ。
「む。おぬし………」
「クスッ。いつまでも昔の僕だと思わないほうが身の為だぜ? お・じ・い・ちゃ・ん(はぁと」
 
 空気が変わった。
 アットホーム(?)だった雰囲気は一転して地獄の戦場へと変貌。
 ピクリ、と香霖の不用意な単語に反応する妖忌。
 全身の毛穴から洞穴全体をビシビシ震撼させる鬼気を放射する。
 目を伏せながら、彼は重々しく口を開く。

「………森近よ。お主は言うてはならぬことを言った」
 ゴゴゴ…
「ん? なんか言ったかい、おじいちゃん」
 ゴゴゴゴゴゴ…
「まだ、言うか…」
「アハァ。おじいちゃん、どうしたの?(…ふふ、怒れ怒れ。僕の計算通りに…)」
 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「まだ、貴様には人魂灯の件で聞かねばならぬことがあったが…もはや、問答は無用」
「人魂灯? ……ああ、アレか。ふふ、妖忌。君のお孫さんは実に、いい」
「……」
「返してあげなーい、と意地悪したときの、彼女の見せたあの涙目…思わず武者ぶり突きたくなるほど、愛らしいよね。とてもこんな糞ジジイの血を引いているとは思えないほどの可愛らしさだった。僕のコレクションに加わる価値は十二分にあるよ。妖夢は。――ああ、そうそう。彼女の主君、西行寺 幽々子と言ったかなあ。その子も」
「黙れ」 凄絶な鬼気が香霖のフンドシをピリピリ奮わせた。
「(もう一息か…)おや? どうしたのかな、おじいちゃん。僕、なにか気に障ることでも言ったかなあ」

  無邪気な笑顔を作りながら、香霖はあらかじめ仕込んでおいた仕掛けを発動するべく、そーっと股間へ手を伸ばす。
 妖夢以外に「おじいちゃん」と言われた上、香霖の得意とする”言葉嬲り”を散々受け、頭に血が昇ってる妖忌はそれに気がつかない。
 (ふふ、なんとも真っ直ぐな漢だ。君のそういう所――嫌いではないよ)
 褌の脇からにゅぅうっと手を差し入れ――ミニ八卦炉に触れる。

「おいしかったよ。君のお孫さんは」(本当は食べちゃいないけど、ね。クスッ)
「!!」 絶句する妖忌。
 嚇怒が臨界に到達――
 半霊は溶岩の如く赤熱。
 肉体は人鬼の鋼と化した。
 爆発的な激怒を拳に乗せ、目の前にいる不届き者にぶつけようと身をたわめた刹那
 
 
「今だッ 魔理沙、君の愛を僕に! 変符――マスタァァーースバーーーーークゥゥッ!!!!」




 ぴかっ

 ――ズオオォォオオォォゥゥーーー
 
「ぬっ!?」
「うはははは! 油断大敵だよ、妖忌。こんな挑発に乗ってしまうとは…お・ま・ぬ・け・さん☆」

 がらがらがらがら……  どどめ色の閃光を受け、天井から崩壊する洞窟
 
「安心したまえ、君のお孫さんも主君も平穏無事さ! こうみえても僕はフェミニストなんでねー」
「ぬおぉぉぉ」

 パチもんスペル発動後、素早く外界へ飛びのく香霖。
 雄叫びを上げながら落ちてくる岩盤に押し潰されていく妖忌。
 
 ズドドドドド…………
 






「フッ…残念だよ、これでは僕の見せ場が無いじゃあないかい? せっかく魔理沙のガーターまで装備してきたのにさ」
 ……。
「君はどうも年の割りに素直過ぎるね。はぐれ老人純情派なのもいいが、少しは僕を見習い」

 独り言を止め、おや? と崩落した洞窟跡を見やる香霖。
 よく見ると岩石の山が微細な震動を放っている。


 ガガガガガガガガ…  地の底より響く地鳴り
 
「?」 腰に手をあて「ん~?」と首を傾げる香霖。


 ガッガッガッガッツ…  地表近くでなにかを殴りつけるような、音がする
 
「……成る程。さっすが僕の――宿命の強敵」
 にやり
 香霖はうきうき楽しそうに微笑んだ。
 と、同時に――
 
 どごぉぉおおぉぉーーーー怨……
 
「オラオラオラオラ――――オラァッ!」 

  
 最後の岩盤が強烈なラッシュで砕かれ、空の彼方に弾け飛んだ。
 ぽっかり開いた地獄の穴より、腕組みをしながら胡坐をかき、天高く垂直に跳躍する影。
 傷一つ無い肉体には、おぼろげな拳闘ヴィジョンを取る半霊が纏わりついていた。
 人影はそのまま手近な岩場に着地。
 
 
 《《 バーーーーン 》》 大きく上体を反らせ、振り向くようなポーズで妖忌は香霖を指差した。

「……ぬしはワシを怒らせた……。この程度の騙まし討ちで、ワシの男魂を葬れると思うな」
「ははぁ。久しぶりに見たよ。君の半霊戦闘体型”スター・チャイルド”を。さすがにいい趣味をしている」
 香霖は目の前で戦闘スタイルとなった半霊を、物欲しそうに見詰めた。
 ずんぐりむっくりとした鈍重そうな半霊は、妖忌の忠烈な意志を受け…
 ぐーぱんちをぶんぶんしながら、にぱー と朗らかに笑うデフォルメ幽々子の姿に変貌していた。
「しかも、以前見たときより格段に力あるヴィジョンが進化しているね。そのほっぺの赤丸…気がつかないとでも思ったかい?
 ふう…。恐ろしい男だ――魂魄 妖忌。老いてなお、現状に満足せず、その心の奥で萌え狂う少女魂の研鑽を欠かさないとは。
 それでこそ、それでこそ僕の薔薇色ハーレム人生に立ち塞がる……運命の男」
「――当然よ。我が背中の刺青”ゆゆようむ”に誓って、この妖忌……お嬢と妖夢への愛を忘れたことなど片時も無し」
「……どうやら、僕はとんでもない間違いを犯していたようだ。あわよくば今の挨拶で君を葬れるかなぁ…と考えていたのだが、やはり君と僕との因縁は、そんな容易い手段で断ち切れるようなちゃちぃ絆では無かったらしい」
「ほう…」
「妖忌、妖夢…。魂魄に連なる者たちは、僕の人生と…どうしても重なり合うさだめにあるんだな。――因縁、としか言えない運命の悪戯。だが、僕は嬉しいよ。この――全身に満ち溢れる喜びに気づいてしまった。妖忌……僕とて見かけどおりの年月しか生きてきた訳では無いつもりだ。遥かな昔のことはもう殆ど忘れてしまったが、君らのような高潔で真っ直ぐなたましいを持つ剣士に出逢ったことなど、ついぞ無かったような気がする。それ程君らは希少で価値が高いレアモノなんだ。誇るがいい、魂魄の家系を。叫ぶがいい、己の主君に対する萌えを。魂魄の家系の恐ろしさと素晴しさは、この僕が世界の誰よりも正確に正当に理解している」

「訂正しよう。我が強敵(とも)魂魄 妖忌よ。今度こそ、正々堂々――僕のすべて、全身全霊を以って君に挑戦する。受けてくれるかい? 我が心友よ」
「ふ…言いよるわ、若造の分際で」
「はは、見てくれよ。本気の君と相対しているだけで、こんなにも足がガクガク震えてくる…情けないだろう?」
「……」
「忘れたとは言わせない。まだ僕が…自分こそ最強の幻想郷男児だと信じていた頃の、君との運命的な出会いを」
「……」
「あのとき君から受けた恐怖、一日たりとも忘れたことは無い。人鬼とはなにか、と理解させられた……あの、瀕死で地に伏せ天を仰いだ、三日月の夜を」
「……」
「だが、今日こそ僕は……こころに巣くうトラウマ、忌まわしきあやかしのゆめを、克服して見せるッ!」
「…無駄なあがきよ。一度折れた心は、ヒビの入った業物と同じこと。二度と本来の強度を振るうことは適わぬ。再びワシの本気とかち合えば――今度は只では済まぬぞ」
「君との絶望的な力量差は承知の上さ。だが、今の僕は……独りじゃない」
 香霖は思わせぶりに言葉を切った。
「む」 興味を引かれた妖忌。
「行かないで、行っちゃやだっ香霖ー! と泣きながら背中に抱きつき、僕を引き止めた少女――霧雨 魔理沙。『どうしても行くのね』『すまない魔理沙、男にはやらねばならない時があるんだ』『――じゃあ、これを私だと思って穿いてって』『えっ…いいのかい? でもこれは』『ううん、いいの。香霖が無事に戻ってくる為のおまじない』『魔理沙…』『香霖…』残酷な世界を壊さんばかりに強く、強く抱き合い口付けを交わすふたりの恋人たち。降り続ける白雪はそんな彼らを優しく覆い隠してゆくのでした……と、手渡された彼女の愛が籠もったお守り”黒のガーター”。これを装着している限り、僕は誰にも――――負けるわけには、いかないんだッ」
 衝撃の事実を叫びながら、胸に秘めた覚悟を宿敵に吐露する香霖。
「……なんと」驚愕する妖忌。
「冷たい水で禊をし、震える体で僕の無事をお星様にお祈りしている彼女の想いに報いるためにも、僕は退かない! いや……退くわけには、いかないんだよ……」大仰に空を見上げ、涙を堪える香霖。
「……(グス…)」妖忌は感極まって鼻を啜った。
 (掴みはオッケーかな。本当にお孫さんに似て単純だなぁ…。そこが君のいい所であるが…弱点でもある)
 眼鏡の奥で邪悪な光が灯った。
 涙ぐんでる老人はそれに気がつかない。
「だが、まあこれは君と僕との真剣勝負だからね。悲しいことだが、手加減してくれなんて言えない。
 ああ、君になら。真の漢たる君にならたとえ負けて死んでも悔いは無いさ」
 (こう言っとけば、取り合えず負けても死ぬことは無いだろう)
「……ううむ」
「本当さ、妖忌。こう言ってはなんだが、むしろ僕は君と出会えたことをかみさまに感謝しているんだよ」
「むぉ」
「もっと違う形で出会えてたなら、僕らはきっと親子のように仲良くなれただろうよ」

 ……
 …………

「……なんじゃと……」妖忌の目に剣呑な輝きが灯った。
 (! し、しまった……ヤツにこういう誤解を招く発言はタブー!!)
「……ぉぅ、貴様……矢張りワシの孫、よ う む の こ と を 」
「ち、ちがう。誤解だよ? 妖忌。君を始末した後にじっくり妖夢のことを愛でようなんてちーっとも、これっぱかしも思っちゃないさ! ついでに幽々子のことも頂こうなんて、天地神明にかけて思ってない!!」
「……」 深まる疑惑。
「ちょっといい話で君の同情を買い、闘いやすくしようだなんて、いいがかりもいい所さ!」
「……」 もう、聞いていない。
 臨戦態勢を取る妖忌。
「ちぃっ! もはや戯言もここまでか。――いいだろう。やってやるさ!! 男祭り3本勝負、第二プレイ。”頑駄夢ファイト”レディ…」
 バク転しながら妖忌と距離を置く香霖。




 どこからともなく幽冥楼閣、西行寺の幽玄華麗なメロディが流れ始めた。
 
 
 真っ赤に萌える夕焼け空の下。
 
 紅白の褌姿で対峙するふたつの黒影。
 
 フンドシより草薙とミニ八卦炉を召喚する香霖。
 手刀を構え、身に纏う半霊をスタンド化する妖忌。
 
 互いにほぼ全裸。夕日に輝く風神雷神の金剛仁王像。
 目が潰れる程いかがわしくも、片時も目が離せない――激しい死闘の幕が斬って落とされる。
 悪鬼羅刹どもが交わす、一言の合図と共に――
 
 
 
 
「――ゴー!!!!」
「――轟ッ!!!!」




「先手必勝、おやつも少女も早いもの勝ちさ! 喰らえッ」
 草薙の剣を右手に構え、八卦炉を刀身に当てる。
 彼の隠された能力が、アイテム組み合わせの効果を最大限に発揮。
 鑑定ぐらいにしか使い道の無い能力というのは、少女たちを油断させる為の世を忍ぶ仮の姿。
 彼の能力の真髄は、古い道具の持つ隠された潜在能力を限界まで引き出すこと。
 それは――他力本願ながら、組み合わせ次第で無限の可能性を秘める能力だ。
 
「霖天に座せ、森羅万象の大蛇よ。お前の主、森近 霖之介が命じる。ヤツを食い破れ! ――始解『香霖丸』!!!」
 
 ミニ八卦炉が妖しい輝きを放ち、剣の本性を古き眠りから覚ます曙光を励起。それを受け、草薙の刀身に秘められた”いにしえのちから”が解放された。
 
「ぬっ!? これは……オロチかッ」
 全裸で手刀を構え、半霊を従える妖忌。
 草薙の剣先から緑暗色のオーラが溢れ出し、藻が浮き変色したどぶ川のような、穢い大蛇の姿が宙を舞う。
 少女は言うに及ばず、大人ですらひと呑みにする巨大な大蛇型の弾幕が、香霖の意志を受けウネウネと妖しい挙動を誇示しながら――妖忌に襲い掛かった。
「はっ! どうだい、この剣の威力は。これも魔理沙が僕にプレゼントしてくれた最高の逸品さ!!
 ああ……僕ってすっごく皆に愛されてるよなぁ。ふふ、僕も……愛してるよ、魔理沙……」
 とろーんとした夢見る瞳で口を半開きにし、どこか遠くを眺める香霖。
 ちなみに、草薙は香霖が詐欺同然の卑劣なやり口で魔理沙から巻き上げた、類稀なる力を秘めた古代の秘宝だ。
 それを得る為に正当な代価を支払った訳でも、ましてや純粋な好意で譲り受けたのでも無い。断じてある筈も無い。
 だが、既に彼の記憶領域には自分にとって都合のいいストーリーが書き込まれているので、真実は闇の彼方に忘却されていた。
 
 
 赤い残照を浴び、穢い蛇身が現世を嘲笑う。草薙より顕現したオロチは超高速収束誘導弾と化し、妖忌に迫る。
 
 
「甘いわッ若造がぁぁーー! 魂魄「幽明求聞持聡明の法」ゆゆようむッ!!」
 スパーン!
 妖忌が股間の赤フンドシをピシリと打ち鳴らした。
 それを合図に――
 妖忌の魂魄流奥義が発動。
 背後の半霊がジワジワ二重存在のようにぶれていく。
 妖忌の”ゆゆようむ”という強い強い想いに反応して、巨大半霊ゴリアテ(仮称)はそれぞれ桜色と若葉色の分身を形作る。
 ぽんっ
 ぽぽんっ
 ドッペル完成。
 ふたつの姿かたちは、丸っこくって可愛い幽々子と妖夢を模している。だが、それらには老人の終生変わらぬ愛と夢と希望がふんだんに込められているので、ありえないほど強大な戦闘力を持った二頭身姿のパワーヴィジョンと成り果てている。
 ス…
 自分が生み出した願望の象徴に真摯に黙礼。
 ぎらり
 不退転の気概を胸にオロチ弾を見据え、行動開始。
 
「逝きますぞ、お嬢、妖夢ッ! ワシがあのオロチめを引きつけますので、その隙に左右からアレを微塵切りにしてくだされ!!」
 フンヌゥゥーーー
 両手を広げて全身にビキビキ男気を漲らせる妖忌。
 このスーパーアーマー状態の彼を打倒するには、香霖程度の謎パワーでは役不足。
 飛躍的に防御力が上がるこの漢構え。難点は移動も攻撃も出来なくなることだが、それは役割分担した半霊が補ってくれる。
 
 攻守ともに隙無し。
 剣を捨てた剣客
 魂魄 妖忌
 これぞ、愛に生きる老剣客が新たに見出した、素敵な新境地を具現する萌え魂の真骨頂なり――
 
 我が心 永遠なれ――
 
 ――ゆゆようむ
 
 
 がしぃぃっつ 「ヌッハァァアアァァーーーー」 オロチ弾の吶喊をがっちりキャッチ
 
 ズドドドドドド……   パワーとパワーの純粋なちから比べ
 
「うぬぬぬぬぬぬぅぅぅ」 鋼の肉体がギチギチ唸る

「なに! 受け止めた!? 馬鹿なッ 神代のヒヒイロカネが持つ神性、無手で受けられる筈が…」
 動揺する香霖。
「……ムッフゥゥーーー。森近よ、だからオヌシはアホなのじゃ。道具にばかり頼り、己の肉体を信じきれぬその惰弱な性根。剣を捨てて真の武人として目覚めたこのワシが――叩き直してくれるわッ!」
 全身を襲う苦痛に耐え不敵に笑う妖忌。
 その男らしい言葉に気押された様子で顔をしかめる香霖。

「ようむッ 今じゃ! 彼奴の胴体を斬り潰せぇぇーー」
 みょん
 みょみょみょみょみょーーーん
 変な動作音を立てながら、半霊:ようむは両手の霊刀で、草薙と妖忌を繋ぐ長大な蛇身をスポポポポーンと斬り潰した。

「な、なんと」焦る香霖
 よしよし、と孫の形をした半霊を暖かく見守る妖忌。
 続けて――

「ゆゆ様、後は夜露死苦お願いしますぞ! おなかいっぱい、いただきませいッ」
 フゴー
 フゴゴゴゴー♪
 食べた。
 とてもおいしそうに、食べている。
 蛇の切り身――エネルギーの塊を綺麗に残さず平らげた。

「……な、なんだってーーー!?」
「フォフォフォ。我が主のしあわせ笑顔、ようむのみょんみょんエフェクト。我が奥義に死角無し」
「むむむ、まだ始解とはいえ…こうも簡単に僕の香霖丸(草薙だ)が防がれるとは。半霊幽々子、そのほっぺの赤丸、伊達ではないということかい。恐ろしいひとだ……魂魄 妖忌。人間とは鍛錬次第でこうも…うおっ!?」

 弾幕が掻き消された隙を衝いて、大きく気力を消耗する半霊を通常形態に還元。間を置かず瞬歩を用いて香霖の眼前に妖忌が急接近。

「フォォォーー! ワシのマスタークロス(フンドシ)捌ききれるか!」
 股間の赤フンをグイィィと引き伸ばし、片手に纏わり付かせ、新体操のリボンの如くシュルシュル廻し、螺旋のちからを布地に通す。
 
 妖忌の男魂が込められたフンドシは一閃で岩をも断つ恐るべき凶器。
 借金のカタに剣を質に取られ強制連行された地下王国で、屈辱と辛酸を舐めた妖忌が編み出した必殺武器だ。
 
 彼はこの秘技で固い岩盤をドリルのようにガンガン掘削し、高額のペリカを稼ぎ出し現場監督に昇進。
 その後、彼の男魂に感服し意気投合したオーナーの計らいで異例の早期返済を成し遂げたのであった。

「くっ、なんて変幻自在なフンドシ捌きだ! どうやら前回の計略が裏目に出たようだね……っつ!!」
 いくら草薙剣が凄まじい威力を秘めていようとも、香霖は剣の扱いは不得手。
 肉弾戦のエキスパート、魂魄 妖忌との近接戦闘は、荷が、重い!

「この馬鹿弟子がぁッ 剣に振り回されているようでは、真の剣士とは言えぬぞッ」
「フン…(ガキィッ)何時から、僕が(ギャリリリリ)君の(ズビシュ)弟子に(ブォン)なったの、かなぁッ!!」
「ほざけ! ワシと一度でも剣を交え生き残った者は、すべて我が弟子よ!!」
「ははっ、無茶苦茶言うね! でも、そんな君の俺様主義(ギリギリ…)尊敬するよッ」
 渾身のちからを剣に込め、連撃を大きく弾いた。その僅かな隙に妖忌のフンドシ無間地獄から緊急離脱する香霖。
 
 ガィィイイィィン   
 
 また距離を詰められる前に、ガーターの助けを借り死地から高速移動。
 
 フー ハァハァ ゴパー
 フー ハァハァ ヒュゴー
 
 乱れた呼気を、遥か昔に会得した特殊な呼吸法で鎮める香霖。
 伸びきったフンドシを手に、はだけて見えそうになってしまった身だしなみを無言で整える妖忌。
 
「フゥゥハァァーー。さすがに、接近戦では、君に、及ぶべくもない」
「ふん…森近よ。貴様がワシに及ばぬのは妙な小道具ばかりに頼り、肉体を鍛え上げることを怠った報いよ」
「ふ……そうかも知れないね。だけど、これが僕の選んだ道。今更ああそうかい、と簡単には変えられないさ」
「道は違えど、それもまた一つの選択か。ワシとは相容れぬ道なれど、その求道精神だけは褒めてやろう」
「そりゃどうも。くくっ、しかし…楽しいねぇ、妖忌」
「おう、貴様の動き、前回とは見違えたぞ、森近」
「――男子三日会わずんば刮目してみよ。どうやらそれは僕らにも当て嵌まっていたようだ」
「男は生涯是修行よ。ワシとていつまでもマスターの地位程度に甘んじているつもりは無いさ」
「く、ははは! そうかい! くふふ……いや、失敬。やはり君と僕とは素晴しく気が合うようだ」
「ふん、戯言を。まあしかし……貴様を見ているとワシの若い頃を思い出すようじゃ」
「へえ」
「……まだワシが未熟で、多少剣の腕が立つぐらいで身の程知らずにも天に唾していた、若かりし青春を、な」
「ふふ、君がそんなことを言うなんて珍しいにも程が有るよ」
「――全くじゃな。夕日が――落ちゆく紅蓮の残光が、少しばかり、ワシの口を軽くしたらしい」
「うん――確かに、綺麗な――夕焼けだねぇ……」
「……」
「……」




 地平の彼方、峻厳なる山々に溶け崩れてゆく赤き落陽。
 しばしの間、ふたりの人修羅は戦いの手を休め、今日という日が死んでゆくのを黙って看取る。

 魔法の森にぽつんと存在する、忘れられた平原。
 男達は美しき黄昏のなかで、なにを思っていたのだろう。
 夕陽の朱色が一筋、香霖の手元に差し込む。
 彼が手に持つ草薙の剣――神代の記憶の忘れ形見が、在りし日の幻想、還らぬ昔を懐かしむように
 ほおずきみたいな赤い目で
 きらり
 と泣いた。
 
 
 サァァーーーーー
 
 宵の寒風が草木を薙いだ。
 

「……」
「……」


「……妖忌」
「なんじゃい」


「先程君のお孫さんをどうこうしたという話だが――」
「――分かっておるわい。これ程曇りなき剣を振るう男が、そのような非道を為す筈も無し」

「――――は。まいったなあ、君にはすべてお見通しだったという訳か」
「……あまり無理をして悪ぶらぬことだ。ワシら同好の士に虚勢や偽りは無用ぞ」

「……そうかい」
「おうよ」


「……」
「……」


 もうすぐ、最後の陽光が冥府に沈む
 
 
 
「妖忌」
「うむ」


 彼らは別段なにかを語り合った訳では無い。
 口を衝いて出たのは、何気ない飄々とした会話。
 それなのに、まるで申し合わせたように――互いに最後の構えを取る。
 
 彼らは分かっているのだ。
 あえて語らずとも、理解しているのだ。
 真の男と男が辿る――決着の着け方を。
 少女萌えに己の全てを捧げた――彼らには、
 
 もはや――
 
 言葉は――
 
 ――不要
 
 
 
「これから出すのは、現段階の僕が――封神具”黒のガーター”の神性と、ヒヒイロカネの秘められし幻想、ミニ八卦炉の絶大な出力を借りて撃ち放つ――正真正銘、最強最後の大博打だ。これを破られたら、もう僕には君に勝利する手段は残されていない」

 おごそかに草薙を正中線に構え、八卦を刀身に当てる。
 
 
「妖忌、見事この香霖丸(草薙)のすべて、受けきって見よ」

 黒のガーターが妖しく燐光を放ち出した。
 








「――森近よ。その覚悟、天晴れなり。……よかろう。ならばワシもそれに応えよう」


 その言葉と同時に、妖忌の背後に浮遊する半霊がブルリと震えた。

  
「剣に生きるもののふが、あえて己の命たる愛剣を手放すことにより、開眼した奥義」


 ざわ…
 
 半霊が見る見る溶け崩れ、渦を巻いて妖忌の手中に収まってゆく。

  
「剣の本質は、物質にあらず。剣とは己の魂より沸き出でたるものなり」


 ざわ…  ざわ…   ざわ…
 
 ぼんやりと実像を結んでゆく長い幻影。
 それは――彼の魂の色をあらわすかのように、純白に輝いていた。


「我が魂の銘、ゆゆようむ。――汝のあるべき姿を思い出せ」










 大気が震えていた。
 絶大な霊圧が、黄昏の幻想郷に満ちてゆく。
 その異様な気配を感じ――
 マヨヒガで眠りこけていたスキマ妖怪の鼻提灯が、パチンと弾けた。
 紅魔館で優雅なティータイムを楽しむ紅い悪魔のカップで、紅茶の真紅がさざめいた。
 白玉楼――大量の桜餅を阿修羅の如き速度で口に運ぶ華胥の亡霊の手が、ピタリと止まった。
 永遠亭の一室で、ネトゲにハマり、引きこもりプレイ中の蓬莱の罪人が、ありえないタイプミスをした。
 博麗神社で箒を手にした紅白の巫女が――へーちょ! とクシャミをした。
 
 
 
 
 






「いくぜ?」
「…来いや」














「「「 世界の中心で萌え狂え……っ    大ぐっれいと、香霖丸ッ!!!! 」」」
「「「 禁じられた想いよ、像を成せ…   冥衝斬倫 真・ゆゆようむッ!!!! 」」」








 荒れ狂う力場。
 香霖の刀が粉微塵に砕け、ギラギラとした微細な破片が彼の頭上で悪趣味なミラーボールを二つ形成した。
 砕けた筈の草薙。
 その内部より暗緑色の鱗が迸る。
 見る間にそれは八つの頭を持つ巨大な大蛇となり、鎌首をもたげ一斉に妖忌に飛び掛かった。
 大蛇がうねる。
 それは八つの支流を持つ、弾幕大河の氾濫。
 景気付けに二個のミラーボールがくるくる回り眩しいレーザーを無差別に放ち、彼らを応援。
 
 
 
「妖忌ッ 今こそ僕は君を越える――」
 
 
 
 
 対するは真・ゆゆようむ。
 一見それはただの刀。
 桜色の大太刀。
 若葉色の小太刀。
 
 だが――
 
 
「ふ……若いのう。確かにそれは強力だ。だが、必殺は派手にぶちまければ良いという訳ではあるまいに」
 
 苦笑。
 本当に、目の前の男は昔の自分を見ているようだ。
 目先の華やかさにばかり目が行き、本質を曇らせた――愚かな羅刹。
 
 
「見るがいい、極限まで圧縮された――想いの力を」
 
 見れるものならば、な。――呟きが空気に溶けた。
 堰を切った奔流が妖忌を呑み込む。
 避ける間もない圧倒的な攻撃。
 
 
 それを――
 
 
 
 
 
「さらば、我が宿敵よ。――君のことは、忘れない」

 香霖は大蛇に呑み込まれていく妖忌を真摯に見詰め、静かに囁いた。
 眼鏡の奥で綺麗な水滴が一滴
 つぅーー
 流れ落ちた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ほう、それは嬉しいことじゃな」
 
 耳元で囁かれた――死んだ筈の男の声。
 
「!?」

 ビクン
 
 香霖の背筋を電流が貫いた。
 これは
 生命の
 ――危機。
 

「馬鹿なッ…なんなんだい、そのスピードはッ!?」 
「これぞ我が身体能力を鬼神の域まで引き上げる究極剣。森近……敗れたり」

 
 
 
 
 

 
  
    
 
 
 
 
 斬
 
 
 
 
 
 
 
 

 
  
    
 
「――……」  背後に黙然と立つ偉丈夫に、にやり、と笑いかける香霖。

「……我が剣に、斬れぬもの……無し」  二刀を通常形態に戻し、す…と目蓋を閉じる妖忌。











 ピシ
 
 
 ……
 
 
 …………
 
 
 …………………
 

 
   
《《カシャン》》
 
 
 
 
 
 草薙の本体が
 
 
 砕けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「さ、さすがだ……我が宿敵よ……ゴフッ」
「……」








 憑き物の落ちたような、清々しく純粋な笑顔のまま、彼は――
 咽ぶような草の香りがする大地に顔面からドサリと斃れ付した。
 
 
 香霖堂店主、少女萌え倶楽部第三階位”ローリングコーリン”森近 霖之介は
 
 
 
 
 
 
 今、この時を以って、陥落した。
 
 
 

 
 
 
 
 
「善き闘いであった」


 
 
 
 
 最後の西日が立ち尽くす妖忌の背後でゆっくりと沈んでいく。
 足元には安らかな顔で眠る、世代を越えた熱きライヴァル。
 勝者はポツリと魂の言語を死んでゆく夕陽に贈る。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――ゆゆようむ……萌え……」





 
 
 男祭り三番勝負、第三戦を待たずして決着を見る。
 ゆゆようむ命の老剣士 魂魄 妖忌の勝利を以って、この不毛な闘争は幕を――閉じた。 
 
 
 
 
 
 森近 霖之介――――暁に散る。
 
 
 
 
 


 
 
 
 完
あー……終わった。
最後死んだように見えますが、生きてます。
この後、辱めを受けた魔理沙の仇にフランとパチェが来襲。
沈んだ筈の夕陽が再び昇る…
無論ロイヤルフレア。
烈火の如く怒り狂う妹様のレーヴァティンが、可哀相な彼を色々と目も当てられない状況へと導く。
死人に鞭打つ残虐展開になるのは分かりきってるのでここで締め。
彼の最期に魅せた格好いい死んだふりを褒めて上げて下さい。

なるべく変態的でない香霖を書いた……つもり。
これでやっと悪夢のような幻葬郷から抜け出し、通常の少女幻想郷へ戻れる…。
さよなら さよなら さよなら……香霖。
――もう、君には会うこともあるまい。


こっそりスキマ:暁=夜明け。語呂がいいから気に入ってるんで、そのまま見逃してくだされ……。
         だって、夕焼けに死す…だと夕焼け番長みたいで間抜けなイメージが(自分的に
         この話の舞台、香霖空間では夕焼け=暁なのです!誰がなんと言おうともッ!!
しん
[email protected]
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コメント



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1.無評価モコ削除
香霖は永遠に不滅です!
ただ彼が滅ぶほうが幻想郷は平和かもしれないが…
途中は普通に見ごたえのある戦闘シーンでした。
2.無評価nの人削除
ご愁傷・・・い、いやいや、お疲れ様でした^^;

でもアニキはみんなの心の中にいつまでも生き続ける事でしょう。
そう、いつまでも・・・  


ゴフッ