Coolier - 新生・東方創想話

Dog Fight? or Cat Fight? -Quite in the dark-

2005/03/29 01:19:04
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少女二人が上空で戦っているからといって、地上が巨大な観戦席になるわけではない。
むしろその逆、地上も戦場になる場合がほとんどで、今回もその例外ではなかった。
レミリアの試し撃ち弾、パチュリーが弾いた錐弾、シルフィホルンで押し戻された楔弾―――全てレミリアの攻撃だ―――と、度重なる流れ弾によって紅魔館は少なからぬ損害を被っていた。


「うわー・・・・・・」

そんな中、美鈴は弾幕に染まる夜を見上げる数少ない一人だった。
館にいるメイドは皆、被害を受けた箇所の修復や救命活動に追われているし、多少手が空いている者でも、レミリアとパチュリーの戦いのとばっちりを恐れて誰も外に出ようとはしない。
結局、館と二人から遠くはなれた主門で警備をしている美鈴は修羅場と化した天地をのほほんと眺めていられるのだった。


「どうしよう・・・・・・止めた方がいいよね・・・・・・・・・・・・でも、あの二人の間に割って入ったら・・・・・・でもパチュリー様が危ないし、やっぱりここは私が」



ヒュッ

サクッ



「とめった!?」

銀の輝きが美鈴の頭を裂いた。
それは寸分違わず彼女の眉間に突き立ち、あまつさえ帽子の『龍』のバッジもまとめてかち割るという完璧な仕事だ。
これほどの職人技をやってのける人物など、美鈴の記憶と知識には幻想郷中を探しても一人しか見当たらない。
ちょっぴり怖いような、それでいてどこか嬉しいような、そんな感情が図らずもこみ上げる。


「何ボーッとしてるのよ、美鈴」
「あ、咲夜さーん・・・」

そう、紅魔館のメイドの中でもナイフを扱うのはメイド長・咲夜ただ一人。
眉間に突き立ったナイフに気を取られているほんの一瞬の隙に、咲夜は美鈴の視界内に入っていた。

「こんな時に外になんかいたら、命がいくつあっても足りないわ」
「そうですけど・・・・・・誰も止めに行かないんですか?」
「お二方はそこそこ本気よ・・・・・私たちなんかが行って止められるとでも思う?」
「う・・・・・・まぁその」
「だからと言ってまさか妹様をお呼びするわけにもいかないし、こういう時は放っておくのが一番。覚えておきなさい」

眉間からナイフを引き抜き、美鈴の頭に真っ赤な血の花が咲く。
これでも命に別状はない所が妖怪の妖怪たる所以であり妖怪のいい所、悲しい事に二人にとっては日常茶飯事なので気にする様子など全くない。
それでも血を拭きつつ傷口をさすりつつ、美鈴は咲夜に尋ねた。


「ところで咲夜さん・・・なんでパチュリー様とお嬢様、戦ってるんですか?ご友人のはずなのに・・・」
「あぁ、それはね・・・・・・・・・・ほんの少し前の事よ」


咲夜の瞳が遠く遠く、どんどん遠くなる。
『ほんの少し前』と自分で言っておきながら、その瞳は遥か昔の良き思い出に浸るそれそのものだった―――




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





『あなたの猫度は24点』
『厳しいですわ』
『だから、あなたの猫度が上がるように矯正しないと。少なくとも72点は欲しいわね』
『高いのか低いのかよく分かりませんが』
『まずは形から入る事が大切よ。さあ咲夜、早速この付け耳を・・・・・・』

『待ちなさい、パチェ。咲夜は私の犬よ』
『番犬なら頼りないけど間に合ってるでしょ、レミィ』
『咲夜は番犬じゃなくて室内犬。専ら愛玩用ね』
『駄目よ。猫がいないと、ネズミを追い払えないじゃない』
『そんなの、あなたの魔道書か小悪魔にでも任せておけばいい事だわ』
『私の所有物はそれ以上でもそれ以下でもない』

『犬』
『猫』
『犬』
『猫』

『犬!』
『猫!』
『・・・・・・もういいわ。パチェ、表に出なさい』
『・・・まったく子どもなんだから・・・・・・・・・』
『ハッ、たかだか100歳程度のあなたに言われたくないわ』
『あなたなんて、私の5倍も長生きのくせに私より小さいじゃない』
『・・・・・・・・・・・・ な ん だ と ? 』
『事実を言ったまでよ』

『・・・そういうわけで咲夜、すぐ終わらせるから待ってなさい』
『尻尾も用意しておくわ、咲夜』

『はぁ・・・・・・・・(五十歩百歩のような気がする・・・・・・)』





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「・・・・・・って事があったの」
「・・・・って、それだけ!?」
「そうよ。私の意志なんて完全に無視されてるわよねぇ・・・」
「うぅ・・・理解できないです・・・・・・」
「あんたが理解する必要はないの。ま、あのお二方にとっては重要な問題みたいだけど?」

遠い目のままため息をつく。
咲夜の遠い目はただの懐古ではなく、自嘲も含んでいたようだった。
ナイフをしまいながら見せる重い表情は、近い将来己の身に起こるであろう事態を想像してまったからなのだろう。
―――どちらが勝ってもペットに成り下がるのではたまったものではない。



「まあ、それはともかく。五体満足だったらあんたも館の修復を手伝いなさい」
「え?門番の仕事は・・・・・・・?」
「あのねぇ・・・・・門を破られるのと建物に穴開けられっ放しなのとどっちがいいと思ってるの?それにあんたは貴重な筋肉担当なんだから。門番は誰かに任せてサッサと来る!」
「痛タタタタタタ!?さ、咲夜さ~ん、もっと優しくぅ・・・・・・・・・・・」


容赦なく美鈴の耳を引っ張って引きずり、空を見上げる咲夜。
空の一角を染める紅はまるで二人の戦いの行く末を暗示しているように見え、咲夜はますます館への帰路を急ぎだした。










「結界か・・・・・弾幕でただ囲っただけの子供騙し、一度見ればもう引っかからないわね」
「へぇ、じゃあこの子供騙しで手痛い傷を負ったのはどこの誰だったかしら?」
「・・・・・・・・・ッ」
「でも私に挑んで負けたなら、それは恥じるべき事じゃないわ・・・・・・降参なさい」

『紅の夜王』たる貫禄でレミリアが言う。
驚異的な生命力、身体能力を誇る吸血鬼と手負いの病弱魔女。誰の目から見ても吸血鬼が圧倒的優位である事は明らかである。『夜の王』という二つ名は伊達ではない。
そんなレミリアの技を一度だけだが跳ね返し、且つ感嘆させしめたパチュリー。この状況でレミリアにこう囁かれれば、自身の健闘に納得しこれ以上刃向かおうなどとは思うまい。

だが、パチュリーは違った。
背を灼かれたと言っても傷は浅く、魔力にもかなりの余裕がある。音を上げるにはまだ少し早いのだ。
普段は滅多に見せる事のない闘志を静かに滾らせ、レミリアをキッと睨みつける。


「・・・・魔女の私に騙し合いで戦おうなんて、100年は早いわ」
「何・・・・・・?」
「確かにあなたが罠を張るなんて思ってもみなかったけど、人を騙すのは本来魔女の領分・・・・・そして一歩でも私の領分に踏み込んだからには、相応の覚悟は決めてもらうわよ」
「・・・まだ戦おうっていうの?」
「無論。布石の打ち合いなら私の方が得意だもの」

レミリアに対する下克上、とも取れる大胆発言だった。大胆でなければ命知らずかただの無知だろう。
あまりの言葉に返答するのも忘れてしまう―――その一瞬の隙を、パチュリーは見逃さなかった。
懐から次なるカードを出し、同じく封じられた力に与えられた名を紡ぐ。





――我は呼ぶ、深緑の魔風

――我は纏う、新緑の息吹



カードが光輝く玉となり、碧の輝きとなって右手に宿る。紅い楔を吹き散らした『シルフィホルン』と全く同じだ。
自分たちを取り囲んでいる魔力の霧を晴らしてしまおうという魂胆なのだろう・・・・・・そう予測していたレミリアは、あくまでも冷静だった。

「口では色々言えるけど、やる事はやっぱり単純ね!?」

レミリアの手には数本のナイフが握られていた。
このナイフは元々隠し持っていた、と言えるし無より生み出した、とも言える。
レミリア生まれつきの運命操作術により『そこにナイフは存在し得ない』という事実とその後永劫の運命を自分の都合のいいように強引に捻じ曲げ、あたかも手品か何かでナイフを取り出しているかのような錯覚を見せているのだ。

そしてそれらのナイフを漂わせ、しかし切っ先は全てパチュリーに向ける。
レミリアの合図一つでそれらは風を突っ切り、魔力を帯びた刃でパチュリーの体をぼろ雑巾と化すだろう。
余裕の表情に、さらに深みが増す。

「例え魔力を帯びた風でも、重さのある物質には効くのかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「失敗したらゲームオーバー・・・・・・試してあげるわ」


弾幕発動のためのスペル(呪文詠唱)は、弾幕の根源を魔法や神仙術などに依らないレミリアには必要ない。
カードに秘められた弾幕の封印を力ずくで解放させ、或いは己の力を思うがままに奮い、眼前の敵を殲滅するだけだ。
そして運命操作により、数本だったナイフは増え続けていた。
渦を巻き、列を連ね、無差別に魔力を撒き散らし、何の変哲もないただのナイフだった物は今や吸血鬼の鋭利な牙か爪と化している。
その光景は、古い文献などによく記されている『とある光景』を彷彿とさせる物だった。



「我が結界の中で、冥獄を見ろ―――――獄符『千本の針の山』!」





そして、力は解放された。
一定の秩序を得てナイフが連なり、パチュリーの行く手に道を創る。
秩序の枷を逃れて紅弾が乱れ飛び、パチュリーの行く手の道を塞ぐ。
紅と銀で築かれし針の山、その針の一本一本が意志を持って降り注ぎ、周囲をまさに地獄と化す。
その地獄の中で標的は悶え苦しみ、全身を貫かれて息絶えるのだ。



「・・・・・そう来る事はお見通し!」

ポケットから新たにカードを取り出し、パチュリーは声を上げた。
左手の中でカードから輝きが発せられ、炎の色となって燻りだす。


――我は呼ぶ、紅蓮の炎気

――我は放つ、火龍の大渦


パチュリーが操る五行の術は、単体で放ってもそれなりの威力を生む。だが、異なる二つの属性を組み合わせると組み合わせ次第では全く違う特性を帯びたり、威力が増幅されたりする場合がある。
これをパチュリーは『複合符』と呼び、レミリアや咲夜は『合体技』と呼んだりするのだが、今パチュリーが実行しようとしているのはまさにその複合符だった。
魔力を吹き散らす木符の風に全てを呑み込む火符の炎を乗せて流す。すると炎は嵐となり、さながら山火事のごとく周囲を焼き尽くすのだ。


――原初の炎と無尽の風にて

――汝、地平の全くに至るまで

――燃やし、均し、無に返さん


――木火符『フォレストブレイズ』





赤と碧の光が交錯し、二人を包み込む。
時期が時期なら、それと状況が状況なら人々に聖夜の夢を与えている所だが今はそうもいかない。
風に乗った炎はまさに龍のごとく渦を巻き、レミリアの放ったナイフを、魔力を、全て呑み尽くす。
その中で鉄は勢いを失い、固体でいる事すらできず赤熱された『何か』となって無数にばら撒かれ、紅弾に至ってはまるで蛇に飲み込まれた蛙のごとく。何もかも炎に触れるそばから次々と消し飛んでしまっていた。



「私の弾幕が・・・・・・・・!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・熱ッ」

初めて焦りを表情を浮かべるレミリアをよそに、熱気が彼女の白い肌を炙る。
防御結界を使えば魔力により生成された炎を遮断する事はできるが、炎の余波だけは免れない。ましてや箱入りとして育ったレミリアの事、熱から受ける影響の大きさは人一倍だ。

「・・・・でも、この程度じゃ私は倒れない・・・・・・火力が足りないんじゃないかしら?」
「それくらい知ってる・・・・・いわばこれは、『布石の布石』なんだから」
「布石の・・・・・・布石?」

言いながら、パチュリーのポケットからはさらにニ枚カードが出される。

「あなたが知る必要はない・・・・・・熱いんでしょ?冷やしてあげるわ」

紫で縁取りされたカードを右手に、
青で縁取りされたカードを左手に。
そして魔道書を中央に。正三角形に配置されたそれらから光が生まれ、
次いで反転させた光を生み出しパチュリーの目の前で六芒星を描く。


――我は呼ぶ、礎たる大地

――我は築く、堅固たる巨人


――我は呼ぶ、万物の母

――我は癒す、万物の渇き


先ほどの複合符、『フォレストブレイズ』と同じように二色の輝きが手元に集まる。
レミリアが熱気に巻かれて僅かながら怯んでいる今こそ、このスペルが威力を発揮する時。
ゆえに迷いもミスも許されない・・・・・・が、パチュリーはあくまでも冷静だった。


――巨人は地上の星屑となりて

――赦しは凍れる怒りとなりて

――裁きの雨をいざ、降らせん


――土水符『ノエキアンデリュージュ』





時を刻む時計のように正確に言葉を紡ぎ、力が解き放たれる。
小さな手から撃ち出されたのは水に包まれた土塊、ただそれだけだがもちろん特別製だ。
握り拳ほどの土塊はまるで石のように硬くまとまり、それだけでも当たればただでは済まないだろう。

土を包む水は高速・高密度で当たれば鉄をも切り裂き石に匹敵する硬度を発揮する。
そして、固体は払いのける事ができても液体はそれができないのが世の常だ。衝撃から身を守ろうと防御を一点に集中させていても、少しでも土塊に触れたなら水が飛び散り広域に魔力攻撃を行う・・・・・・これがこの符の強みだ。



「ちぃぃっ・・・・・鬱陶しいッ!」

豪雨のように降り注ぐ土塊を拳と脚で砕き、レミリアは土と水の弾幕をしのぎ続けていた。
いくら石のように凝縮された土でも、レミリアの拳の前では泥団子のような物。正拳が、裏拳が、蹴りが、土塊を次々と砂の粒子に還していく。
だが魔力を帯びて纏り付く水だけはどうにもならない。受けるダメージは微々たる物でも積もれば馬鹿にならないし、それは『水』であるがゆえに二次的にレミリアを追い詰めていく。


「う・・・・視界が・・・・・・・・・・・!?」

水は熱されれば湯となり、さらに熱されれば沸騰し水蒸気となる。
拡散した水は『フォレストブレイズ』の熱気を受けて瞬時に水蒸気と化し、辺りに濃密な霧を生み出していたのだ。



『どう?これが布石を打つって事よ』
「パチェ!?」

霧の中からパチュリーの声だけが響く。だが、真っ白となった視界とくぐもった響きはその位置を特定させる事を許さない。

『私の姿、見えないでしょう?この霧は水そのものが魔力を帯びてるから、そう簡単には晴れないわ』
「く・・・・・・・・・!」
『これで私の勝ちは確定したかしらね・・・・・もう一押し、いくわよ』
「・・・・・・こうなったら!」



数条の紅い光が白い霧を撃ち抜き、撃ち抜いてはその部分に元の闇色を取り戻す。
パチュリーは何らかのスペルを使うために呪文詠唱に入ろうとしている・・・・・・レミリアはそう読み、手当たり次第に攻撃を仕掛け始めたのだ。
これでパチュリーに攻撃が当たればよし、当たらなくても確実に霧は晴れていくはずだ。


『レミィ・・・・・・そんな事をして霧を晴らす前に、私の攻撃は確実にあなたを捉える・・・忘れないでね』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ」
『あなたが言った事のお返しをさせてもらうわ』

霧の向こうの声は全く調子が変わる事がない。
この状況においても油断・慢心がない事の証であり、パチュリーという少女の性格を如実に現している。
この分だと、ほくそ笑む事すらなくいつものジト目を見えぬ相手に向けているに違いない・・・・・・
そんなパチュリーの顔がレミリアの脳裏に浮かぶ。と同時にパチュリーの意外な力の強さと計算高さの片鱗を感じ、レミリアは本格的に焦りの表情を浮かべていた。



『あなたは既に、私の結界の中にいる』

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