Coolier - 新生・東方創想話

Dog Fight? or Cat Fight? -Entrapment-

2005/03/22 23:57:53
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力ある言葉が夜の闇に融ける。
碧の輝きが闇の中で弾ける。

そして、風が吹いた。二人の間にのみ吹き荒れる、不思議な風だった。
風は蝙蝠たちの楔を悉く吹き散らし、あらぬ方向へと押しやってしまう。
ある物はそのままあさっての方向に飛んで行ってしまい、ある物は館に新たな穴を開ける。
そしてまたある物は来た道を真っ直ぐ引き返し、主であるレミリアの元へ向かう。

「・・・・ふん!」

己の力に呑み込まれてしまうようでは吸血鬼・・・・・・どころか妖怪失格だ。
眼前すれすれの所で楔の穂先をがしりと掴み、その手を硬く握り締める。
すると巨大な楔は握った所から風船のように爆ぜ、微細な粒となって夜の中に散った。


「・・・面白い使い方ね。弾を撃つだけじゃないだなんて」
「知識を紡ぎ、知恵と成す・・・・私だって少しは進歩するのよ」
「でも、それでも私との差は埋めがたい・・・・・・400年という年月は決して短くない」
「・・・・確かにあなたの力は侮り難いけど、術のバリエーションなら私の方が上。まだ分からないんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・いいえ、分かるわ」

使い魔の蝙蝠たちを引っ込めてレミリアが口の端をにぃっ、と吊り上げる。
それは己の力を存分に振るう事、または友人と力の競い合いを純粋に楽しんでいる微笑ではなく、むしろまだ誰にも悟られていない『何か』を見て、または予見して楽しんでいる陰湿な微笑だ。
その禍々しい笑顔はレミリアが吸血鬼であるという事をパチュリーが再認識するには十分で、また彼女に次の行動を決意させるのにも十分だった。



ページをパラパラとめくり、次なる見開きを今度はレミリアに向けるパチュリー。
ページいっぱいに大きく描かれた魔法陣、そこへ本越しに魔力を伝え、同時に増幅させる。
パチュリーほどの魔力の持ち主になると、簡単な術は力ある言葉を紡ぐ必要すらない。心の中で術を念じ、魔力を伝え、発動の意志を念じればそれだけで発動できてしまう。
レミリアもそうだが、現に空を飛ぶ事も『空を飛ぶ』という彼女たちにとっては簡単な術を念じて発動させているに過ぎないのだ。

そして、ページから真っ赤な魔法陣が浮かび上がってきた。

「燃え上がれ・・・・・・『サマーレッド』!」

真円を描く魔法陣が収縮し、小さな火球が生成される。それに手を添え、魔力をカタパルト及び推進力として目の前で余裕の表情を見せている相手に向けて撃ち放った。
火はほぼ全ての生き物にとって驚異となり、また武器となる。それは人間だろうが魔女だろうが吸血鬼だろうが、変わりはない。
かの紅魔の妹でさえ、燃え盛る焔の大剣を棒切れのごとく振り回して武器とするほどである。
レミリアとて吸血鬼、ましてやこの火球は魔力で生成した物だから例え火が効かなくても魔力がその身に染み渡る。


「無駄ね、無駄無駄」

余裕の表情を崩さず、レミリアは動こうとすらしない。
だが簡単な術とはいえ使い手はパチュリー、火水木金土に加え日と月の力まで操るほどの強大な魔力の持ち主だ。
そんな彼女の術なのだからそれが小技でも、相手がレミリアでも、効かない筈はない。致命傷には至らなくとも少なからず火傷や衝撃によるダメージは受けるはず・・・・・・・・・



――そう、受けるはずだったのに。



まさにレミリアを呑み込まんとした炎は突如として爆ぜ、熱気と魔力の残滓を僅かに残して消えてしまった。


「!?なぜ・・・・・・・・・・・」
「さぁ、なぜかしらね」

レミリアは指一本動かしていないし、見えぬ殺気を放ったり結界を張ったわけでもない。
一方的に火球が『何かにぶつかったように』爆ぜてしまったのだ。この分だと、レミリアは『少々熱い』という程度にしか感じていないだろう。

「じゃあ、次は私のターン」
「・・・くっ」
「魔理沙が怒るから殺しはしないわ。安心して」


パチュリーの疑念を嘲笑うかのように、再びあの陰湿な笑みが浮かぶ。人差し指を立て、その先に紅い光が集まる。
レミリアの本領は肉弾戦だが、だからといって弾幕が弱いわけではない。むしろ弾幕においてもその密度だけなら紅魔館一を誇るくらいだ。
たとえ指先に集まる程度の小さな光でも、その使い手がレミリアなら話は違う。
収束して放てば大概の防御結界は薄氷のごとく砕かれるだろうし、拡散して放てば身を置くすき間すらない弾幕が生まれるだろう。

そして、レミリアは人差し指をパチュリーに向けて軽く振った。










紅い光が迫って来るのがよく見える。
その色合い、輝き、視界の中で徐々に大きくなってくる過程すらも。
パチュリーの目にそれがはっきり捉えられるくらい、レミリアが放った光は『遅かった』。
それこそ、一度欠伸をしてからでも充分見切れるほどに。

(・・・・・何かある)


そう考えるのが自然だ。
相殺しようと弾を撃てばそれに反応して広範囲に炸裂するのかも知れないし、真っ直ぐ飛んでいるように見せかけて実は何かに命中するまでしつこく標的を追尾し続ける特性があるのかも知れない。
または、初弾で油断させておいて本命の第ニ射を狙っているのかも知れない。
だが、どれであるにせよ距離を取っておけば多少は安全が確保される事に変わりはない。
念には念を入れてパチュリーは紅い弾を必要以上に横に大きく避け・・・・・・


バチン、と夜空に稲妻が舞った。


「――――――ッ!?」



指先ほどの小さな弾を避ける所まではよかった。炸裂はしなかったし、追尾するようにも見受けられない。ついでに言うなら次弾も飛んで来なかった。問題はその後だ。
不可解な事に、衝撃はパチュリーの『背後』から来た。背を灼かれ、肺の空気を全て押し出され、声を出す事すらままならない。
一瞬後に感じたのは熱にも似た痛み、肺に入る新鮮な空気の感触、そして服と髪がほんの少し焼け焦げた臭い。
この痛みを鍵として、パチュリーはようやく何が起こったのかを理解した・・・と同時に、疑問も浮かぶ。


――あの攻撃はダミーだった・・・・・・

――そもそも、レミィに殺気なんてなかった・・・・・・

――殺気がないのに、私はやられた・・・・・・

――なぜ・・・・・・?



「うふふ・・・・・葡萄はお嫌い?パチェ」
「・・・・・・・・・・まさか」


月明かりを頼りによくよく目を凝らして周囲を見る・・・・・・自分とレミリアの周囲の空間が淡い輝きを放っている事にパチュリーは気付いた。
さらに自分の目の前に絞って目を凝らす・・・・
――――粒子。米粒よりもはるかに小さい、真っ赤な粒子が漂っているのがパチュリーの目に映る。
そしてその粒子の正体が、その粒子の出所が、一本の線となってパチュリーの中で繋がった。

「・・・・・これ、あなたが・・・いや、あなたの使い魔が撃った・・・・・・・・・・」
「流石に記憶力は悪くないみたいね?それに、勘もなかなか冴えてる」


己の使い魔が撃った弾をレミリアが握り潰す光景、パチュリーはそれをはっきりと覚えていた。
あの時、確かにレミリアの手の中で紅の楔は霧散した。だがそれを形作っていた紅の魔力は完全には消えていなかったのだ。
レミリアの匙加減一つで完全に霧散させる事もできただろうし、逆に吸収して魔力の足しにする事もできたはず。
だが彼女は敢えてそうせず、物理的・魔力的に干渉できるレベルを保ちつつ魔力を粒子として拡散させておいたのだ。
そうしておけば、それは本人の意志に依らない攻防一体の見えない弾幕と化す。
サマーレッドの火球を弾いたのも、パチュリーの背を灼いたのも、全てはこの粒子の為した業という事だ。

「罠にハメるっていうのは本来私のやり方じゃあないんだけど・・・・・・ま、それでも言わせてもらうわ」

肩で荒い息をするパチュリーを見下し、低い背を反らしふんぞり返るレミリア。
パチュリーより背の低いレミリアが威張る仕草を見せるのは可愛らしく見えるか、そうでなければ滑稽でしかない。
だが自分は全くの無傷で相手にそれなりの傷を負わせた彼女にはその仕草をするだけの資格がある。
例え、それが全く似合わなかったとしても。



「あなたは既に、私の結界の中にいる」


己の絶対的有利を確信したか、レミリアは珍しく勝ち誇った。



(next)
JOJO分補給。

レミリアに頭脳戦は似合わない?
いやいや、戦いの年季という奴ですよ。
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