Coolier - 新生・東方創想話

私と貴女でゆゆこいし -死体の埋まった桜は綺麗に咲く?-

2010/07/10 00:03:16
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 冥界に存在する武家屋敷、白玉楼。
 その縁側でのんびりと腰掛けているのはこの屋敷の主、西行寺幽々子である。
 いつもは傍にいる妖夢も今は買い物に出かけて不在なため、ゆったりとした時間を満喫中だった。
 緑茶を口に含み、ホッと一息。程よい苦味が舌に馴染んで、気分がリラックスして締りのない笑みを浮かべるのである。

 そして、緑茶には和菓子と相場が決まっているわけで。
 妖夢に内緒でこっそりと隠していた、皿に乗せた桜餅に手を伸ばした幽々子だったが、そこにあるはずのものがなくて首をかしげてそちらに視線を向けた。
 先ほどまで桜餅があったはずの空っぽの皿。その向こう側に、いつの間にか縁側に腰掛けている少女の―――古明地こいしの姿があって、幽々子は「あらあら」と頬に手を当てる。

 「珍しいお客さんだわ」
 「こんにちわ、お姉さん。このお餅、とってもおいしいわ」
 「取って置きの一品ですもの。あなたに食べられてしまったけれど」
 「無意識の結果だわ」
 「無意識のうちにここにくるなんて、貴女はよほどの死にたがりかしら?」

 言葉ではどこか責めているような調子だったが、その表情は相変わらず笑みが浮かんでいる。
 こいしはあむっと桜餅を頬張ると、満面の笑みを浮かべてもきゅもきゅと忙しく口を動かしていた。
 まるで小動物ね。などという失礼な感想を抱きつつ、幽々子はのんびりとお茶を楽しむことに決めたようである。
 ひらひらと桜の花びらが舞い、こいしの鼻の上にちょんとのった。

 「桜といえばさ」
 「死体かしら?」
 「そう、それ。綺麗な桜ほど根元に死体が埋まってると聞いたわ」
 「養分が大事ですもの」
 「でも実際は、死体なんて関係なかったり」

 「そのとおり」と幽々子は上機嫌に笑みを浮かべた。
 彼女がこいしからゆるりと視線を移した先には、一本だけ咲いていない大きな桜の木がポツンと聳え立っている。
 幽々子につられて視線を向けていたこいしも、「お茶ー」と暢気に言葉にして彼女の湯飲みを強奪した。
 急須からこぽこぽとお茶を注ぎ、ふーふーと熱を冷ましながらズルズルと啜る。

 「あれ、死体入り?」
 「噂なんてあてにならないことの証明ね」
 「咲いてないからねぇ。あ、でもでかさだけなら一級品ー」
 「大きくても花が咲かないのなら、それは餡子のない饅頭のようなものだわ」
 「餡子が死体?」
 「皮が幹ね」
 「それじゃあ、花は?」
 「だって、咲かないもの」

 つながっているような、微妙に外れているような、そんな会話。
 それでもこいしは納得したようで、「それもそうか」と一人つぶやくと、投げ出した足をぷらぷらと揺らし始めた。
 咲かない桜を見つめる少女に苦笑しながら、幽々子は扇子を取り出して口元を隠す。
 どれくらいそうしていただろうか、幽々子は目をスッと細めて、それに気がついたのかこいしは彼女に視線を向けた。
 視線と視線が絡み合って、お互いの瞳を覗き込むようにジッと見つめ続けている。

 「私と貴女、よく似ているわ」
 「でも、決定的に違う。そうでしょ?」

 「えぇ」と、亡霊は静かにうなずく。
 相変わらず幽々子は微笑を浮かべてはいたが、こいしからは彼女の口元は扇子に隠れて見えていない。
 ひらひらと、桜の花びらが舞い落ちる。
 その中で、内面のよく似た少女たちは互いに笑いあっている。

 「本来、無意識とは幽霊の本分だわ。幽霊、ないし魂は剥き出しの自分そのものだもの。貴女は無意識でありながら生者であり」
 「お姉さんは死者でありながら意識に捕らわれている。のほほんとしてるけどさ、お姉さんのそれは計算された理性の賜物だわ」
 「だからこそ、私たちはその歪さが似ているのであり」
 「その実、私たちの方向性はまったくの真逆なのね」
 「貴女は生きていながら死者に近く」
 「お姉さんは死していながら生者に近い」

 まるで謳うように。
 お互い、何を言葉にするのかわかっていたかのように。
 二人は交互に言葉をつむぎ、そして笑みを崩さずにお互いを見つめ続けている。

 死者でありながら、生者に近い少女。
 生者でありながら、死者に近い少女。
 似たような発想をしていながら、けれどもその内面は限りなく真逆のものだ。

 だからこそ―――二人はよく似ている。

 生者に近い死者だからこそ。
 死者に近い生者だからこそ。
 二人の内面は限りなく近くなる。

 そうして、お互い噴出すようにくすくすと笑う。
 春の陽気ももう少しで消え行くこの季節、こうして普段面識のない少女と語り合うのも悪くない。

 「もうそろそろ桜も見納めね」
 「地底の桜もそろそろかなぁ」
 「死体は埋まってるかしら?」
 「お燐は大変ね。むしろはかどるかな」
 「桜を掘り返すのは大変ね」
 「むしろ本業な気がするけどね」
 「ミイラ取りがミイラになるかしら」

 そんな他愛もないやり取りを続けていると、玄関のほうから音がした。
 どうやら愛しい従者が帰宅したらしく、幽々子はクスクスと笑みをこぼしてンーっと背筋を伸ばす。
 隣を見てみれば、いつの間にか少女の姿は消えている。
 相変わらずの神出鬼没ぶりに、幽々子は「忙しい子ね」と苦笑し、奪われていた湯飲みを手にしてお茶をこぽこぽと注ぎなおす。

 「ただいま帰りました幽々子様。どなたかいらしたのですか?」
 「えぇ、かわいらしいお客様がいらしてたわ。それよりも妖夢、お腹がすいたから何か作ってちょうだいな」
 「はい。それでは、何かつまめるものを作ってきますね」

 主人の言葉に困ったように苦笑しながら、従者は部屋の奥へと消えていく。
 その後姿を見送りながら、幽々子はクスクスと笑みをこぼして咲かない桜に視線を移す。
 ほかの桜は咲き乱れているというのに、一本だけ咲かない巨大な桜の木。

 「きっと、あの桜の中の死体は食いしん坊ね」

 咲かないのは死体が養分を吸い取ってるからだなんて、そんなことを思いながら幽々子は緑茶を味わいながら飲むのであった。
皆さん、今回の話はいかがだったでしょうか?
この二人、なんとなく似ているなーと思ったのが今回の話を書くきっかけでした。
こう、お互いに何を考えてるのかよくわからないところとか。
こいしは無意識に。
幽々子は意識的に。
その違いを自分なりに解釈して書いてみたのですが、楽しんでいただけたなら幸いです。
あと、今回は原作をある程度意識した会話を目指してみましたが……ものすごく難しかったです^^;
それも含めて、地の分もなるべく淡白になるように意識して書いてます。コレもまた難しかったですけど。

それでは、今回はこの辺で。
前回の話にコメントしてくださった皆さん、評価してくださった皆さん、本当にありがとうございました。

※実はコレの前に一度別の話を投稿したのですが、改めて内容を見たらちょっと思うところがあったので削除しました。
その話を読んで評価してくださった皆さんには申し訳なく思ってます。
これからはもっとよく考えてから投稿します。本当にすみませんでした。
白々燈
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コメント



0.2090簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
非常にいい出来栄えに感服です
オチも秀逸
5.100名前が無い程度の能力削除
ゆゆ様もこいしも、形は違えど何を考えているのかは誰にもわからない。ゆゆ様は自分の考えていることはわかっているでしょうけれど、こいしはどうなのでしょうか。やはり、無意識だからわからないのでしょうか。
7.100名前が無い程度の能力削除
歌うような二人の言葉のやり取りに惚れました。
無意識に相手の言葉を感じ取り、
意識的に相手の言葉を読み取り、
言葉を紡ぐことで、詩にも似た旋律が響きあう。
表裏一体のシンフォニーといった所でしょうか。
9.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
10.100名前が無い程度の能力削除
うーん、良作。この雰囲気は出せそうで出せない。
物書きの端くれとして、尊敬いたします。
11.100名前が無い程度の能力削除
成功してると思います。いいなあ、原作の雰囲気。
16.100名前が無い程度の能力削除
これは上手い……お見事です。
17.無評価名前が無い程度の能力削除
この二人の掛け合い、またこの二人の組み合わせに脱帽です。
生者な死者と、死者な生者。
原作風の掛け合いがまた良いです。
18.10017削除
間違えてフリーレスにorz
24.90名前が無い程度の能力削除
二人の会話が最高でした
原作っぽいぼのぼの感素晴らしい
36.80名前が無い程度の能力削除
不思議な日常の一部分がいい味を出していて読後感がすっきりしたものでした。
56.100サク_ウマ削除
完璧です。幽々子とこいしは何かしらシンパシーを感じるのではとは前々から思ってはいましたが、その感覚を見事に作品に落とし込んでいて、とても良い作品になっていました。