Coolier - 新生・東方創想話

失われた刻

2010/07/07 13:24:22
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 霧雨魔理沙は、やけに落ち着いた態度でアリス・マーガトロイドと星や月を見ていた。

「ねぇ、魔理沙。いよいよ明日行ってしまうのね」
「そうだな。でも、不思議とすぐに戻ってこれる気がするんだ。必ず無事に戻ってくるぜ」
「あたりまえじゃない。無事に帰ってきたら」

そう言ってアリスはひょい、と魔理沙から八卦炉を奪う。普段はこういうことを絶対にしないため忘れられがちだが、手先が器用なのでこういうことも出来ない事は無い。

「な・・・いきなり人の宝物を取るなよ。酷いじゃないか」
「どの口がそういう事を言うのかしら?まぁ、無事に帰ってきたら返してあげる」
「分かった、無事に帰ってきたらちゃんと返してもらうからな」

アリスなりの思いやりを察した魔理沙は、取り返すという野暮なことはしなかった。傍若無人ではあるが、空気は読めなくもない。

「えぇ、約束よ」
「約束だな」

そして夜も明けるころ、金星が暁の空に輝いていた。


 事の発端は極めて単純だった。

「え・・・嘘?こんな事ってあっていいのかしら?・・・・・・もし、これが本当だとしたら今まで貯めた知識の一部がパーになるじゃない。これが間違っていることを証明するにも、早速実験しなければ・・・」

 そう、幻想郷では一部を除いて天動説が有力なのだ。動かない大図書館こと、パチュリー・ノーレッジもそれを信じていた。現代ではもうすっかり違うと証明された天動説。それが、守矢の巫女の持ち込んだ「理科の教科書」と「歴史の教科書」によって覆された。別の作者・編集者による同じ内容の資料が2つ揃えば、確定にはならなくとも信じていた事実を揺るがすことは容易い。無論、大発見レベルの事象で尚且つそれまでの定義が曖昧な事象であればあるほど・・・と云った条件などがあるが、今回の地動説を擁護する資料が揃ったことは、これに値するのだ。
パチュリーは、いてもたってもいられなくなった。早速、親友でもありこの館の主であるレミリア・スカーレットに相談した。

「レミィ、ちょっと大がかりな実験がしたいんだけど・・・」
「ふむ、私の見た退屈しのぎの運命というのはこれか。いいよ、パチェ。ド派手にやって頂戴」
「待ってレミィ、予算とかの相談もあるから私がわざわざレミィに相談しているの。私は、多分館が吹っ飛ぶくらいじゃ相談はしないわ」

さらりと恐ろしい事を言いつつも、パチュリーは予算案を提出した。
レミリアは予定外の事に思わず「0」が5つ程多いのか?と聞き返すが、あっさりと否定されてしまう。
しばらく黙りこんだレミリアはメイド長の十六夜咲夜を除く主要メンバーを召喚した。咲夜にも声を掛けたが、館の警備と掃除を兼ねるので代理を出す、と言って掃除に戻ってしまった。
 レミリアの妹であるフランドール・スカーレットは何故自分まで呼ばれたのか、それは分からなかった。姉からはいつもより重要な話がある、としか聞いていなかったからだ。もしかしたら、こっそり館を抜け出していることがばれたのかもしれない。今ここで、大勢の目の前で断罪されると考えると、逃げる算段をしなければならなかった。しかし、あれこれ考えているうちに、姉が戻って来たので逃げることを諦めることにした。
 今、ここに揃っているのはレミリア、パチュリー、美鈴、フラン、そして咲夜の代理として顔を出しているメイド副長だった。パチュリーは全員を見渡して淡々と告げ、レミリアが後に続く。

「さて、ここに集まってもらったのは他でもないわ。私の次の実験で・・・」
「紅魔館の20年分の予算が吹っ飛ぶこととなった。そこで、私から諸君に頼みたいことがある。スポンサーを用意して欲しい、スポンサーでなくとも当日見に来てくれる者を集めて欲しい。でなければ私はおろか諸君も住処をなくしてしまう」
「ねぇ、お姉さま。そのパチュリーの実験をやめることは出来ないの?」
「幻想郷の未来にかかってくるから無理よ」

暫くの静寂が会議室を包み込んだ。沈黙を破ったのはメイド副長。

「分かりました。そこまで重要な事なら我々メイド隊も微力ながら全力を尽くさせていただきます」
「非力なメイドなんかに務まるとは思えないから、私も協力するね。お姉さま、いいでしょ?」
「当日の警備は私にお任せ下さい」
「ありがとう、みんなありがとう・・・」

この温かい空気も長くは続かなかった。扉の勢いよく開かれることで再び静寂が訪れる。

「お待ちください!!この二人にも何か手伝わせるべきです!」
「待てよ、私はパチュリーに呼ばれて・・・」
「そうよ!こんな展開なんて聞いていないわ!」
「ありがとう、二人とも。確かに入ってもいいって言ったけど、私は会議中に入ってもいいなんて一言も言っていないわ」

扉には、メイド長。そして持っている紐の先には魔女が二人。そして室内でニヤッとする魔女が一人。咲夜によると、無断で図書館に入ろうとしたらしい。パチュリーの判断で、魔理沙は飛行士を、アリスは組み立て作業を手伝わされることになった。

 それから5年の歳月が立った。ロケットは河童の河城にとり監督の下、本体は完成した。
絶対に月には着陸しないという条件の下、永遠亭の金銀財宝と医師の八意永琳を代表とする医療スタッフの派遣というバックアップが付いた。
半ば脅しに近い形で、天狗を丸めこみ無理矢理スポンサーにした時は軍神八坂神奈子をも脱帽させたという。
最初は厳しい訓練にべそをかいていた魔理沙も、今や多少息切れこそはするものの心身共に強くなった。

 前日、警備とシステムの微調整担当の者以外は休暇を貰うことが出来た。
アリスと魔理沙は同じ時を過ごしていた。

「ねぇ、魔理沙」
「ん、え?あぁ、なんだ?」
「どうしたの?ぼーっとして。何かあったの?」
「いや、ただ、明日出発するんだなってな。そう思うと、何だか緊張してきてさ・・・意識していないと、体の震えが止まらないんだ」
「自信がないの?」
「いや、そうじゃない。武者震いって奴だぜ」
「・・・魔理沙。いよいよ明日行ってしまうのね」
「そうだな。でも、不思議とすぐに戻ってこれる気がするんだ。必ず無事に戻ってくるぜ」
「あたりまえじゃない。無事に帰ってきたら」

そう言ってアリスはひょい、と魔理沙から八卦炉を奪う。普段はこういうことを絶対にしないため忘れられがちだが、手先が器用なのでこういうことも出来ない事は無い。

「な・・・いきなり人の宝物を取るなよ。酷いじゃないか」
「どの口がそういう事を言うのかしら?まぁ、無事に帰ってきたら返してあげる」
「分かった、無事に帰ってきたらちゃんと返してもらうからな」

アリスなりの思いやりを察した魔理沙は、取り返すという野暮なことはしなかった。傍若無人ではあるが、空気は読めなくもない。

「えぇ、約束よ」
「約束だな」

そして夜も明けるころ、金星が暁の空に輝いていた。




『霧雨魔理沙は、宇宙飛行士として適任だった。優れた環境適応能力に悪くは無い体力。そして女性であることが加味されて幻想郷の人間の中でこの上ない人材であることは間違いない。しかし、私個人としては、私としては本当にそれでよかったのだろうか?』
~パチュリー・ノーレッジ著、「宇宙測定計画について」より抜粋

 ふぅ、と一息付くと紅茶を飲む。魔理沙が宇宙へ旅立って数万年。私こと、アリス・マーガトロイドは振り返ってみることにした。
幻想郷も大分と変化した。
まず、この大地には海が出来た。そしてここ数年は真夏に40度越えることは当たり前となってしまった。
そして技術。車やヘリコプターなどが普及し、人が楽に幻想郷を行き来することが出来るようになった。
博麗と守矢の巫女は代替わりしたようで挨拶には行ったがそれっきりだ。何代か代替わりした時点でどうやら神社は統一され、幻想郷の象徴となった。
あの紅い館の主も今は幻想郷の重鎮として今では敏腕を振るっている。その妹からは、以前に感じられた狂気を感じられなくなった。主の親友はいつからか積極的に外に出るようになった。
白玉楼では、有機栽培を始めたと新聞で読んだことがある。
マヨヒガは相変わらずのようだが、式の式に式が出来たようだ。
永遠亭も、竹林から人が出入りするようになったが、あそこのお姫様とは相変わらずのようだ。
人里では経済格差が激しくなり、息苦しくなってしまった。24時間営業のコンビニエンスストアが普及し、星がきれいな夜は少なくなってしまった。
妖怪の山に印刷工場が出来たようで、廃棄物の埋め立てによる森林伐採が問題になっている。
地底とは地上の者と一悶着あった。その悶着に私まで駆り出された記憶がある。最後はスキマ妖怪が調停役を買って出たようだが。
彼岸では昔から相変わらず死神がサボっては閻魔に説教されている。そして閻魔はさらに説教臭くなったとか。
魔理沙の家兼霧雨魔法店は、私が毎日掃除に行っているため相変わらず綺麗な状態が保たれている。
そして、私は今永遠亭の入院棟3階・・・精神科のフロアにいる。友人が減り、夜も眠ることができないとパチュリーに相談したところ、紹介をしてくれた。
過去を振り返っていると、背後から医者に声をかけられた。

「アリスさん、今日は急遽退院の日になりましたよ。なんでも退院する足であるところに寄ってもらいたいっていう話です」
「分かりました、お世話になりました」

荷物を纏めて紅魔湖へ行く事にした。あの時と変わらない湖。妖怪の統治下ということもあってか、相変わらずここは昔と同じ綺麗な湖だ。
そんなことを思っていると、後ろから声をかけられた。

「よっ、アリス。元気にしてたか?」
「ま、魔理沙?いつ帰って来たの?しかも生きていたなんて!」

そう、あれから数万年もたっているのだ。人間である魔理沙が生きているのはおかしい。
夢かも知れないと、頬をぎゅうっとつねってみたが痛覚があり、これが夢でない事の証となった。

「何言ってんだ?私が幻想郷の大地を離れたのはほんの2時間前だぜ?」
「う、嘘・・・?数千年も待ったのよ?」
「おいおい、冗談・・・を言っている目じゃないなパチュリーの所に行くか?」
「・・・・・・うん」

 紅魔館の図書館に着いた。門番は休みだったみたいだが相変わらず、古風な図書館で安心したのもつかの間、パチュリーの秘書である小悪魔が目的の本を探す為にPCで検索を始めた。

「A-2の3、上から5段目の真ん中あたりですね」

そういうと、小悪魔は本を取りに行き、渡してくれた。
入口から幼くも落ち着いた声がして、私こと霧雨魔理沙は振り返った。

「ごきげんよう、魔理沙。驚いたでしょう?」

金色の髪、赤と青が入り混じりつつも混ざることのない瞳、そして声の主を決定付ける宝石のような、羽。体型こそは成長しているが間違いなくフランドールだった。

「よっ、フラン。元気にしてたか?2時間前に帰って来たから挨拶を兼ねて来たんだぜ」
「ちょっと待っててね。お姉さまとパチュリーを呼んでくるから。」

そして挨拶を一通り終えて、現状の説明をしてもらった。どうやら私はウラシマ効果とやらで時間を失ったらしい。
この2時間と数万年の間を埋めるには1週間も要らなかった。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
技術だけは。
そう、技術を使いこなすには1週間もあれば十分だった。メンタル面では、数万年と2時間の間は埋められない。
流石にあの5年で人から無理矢理ものを借りたりはしなくなったが、根本的なところは変わっていないのだ。
帰ってきて1年は散々だった。
最初は幻想郷からの寄付金をたんまり貰っていたので何とかなった。しかし、私のような人間があぶく銭を持つものではない。
競馬や競艇などと言った娯楽に費やしてしまい、半年もしないうちに無くなってしまった。幸いなことに、私は暇がなければ見向きもしないので下手に大量投資はしなかった。
そこからが困った。アルバイトという形でコンビニに就職したものの、3日でクビにされた。専用の機械はやはり馴れない。
アリスに助けられて、やっと生きていけているという自分が情けなかった。しかし、どの手段を取ってもアリスに迷惑を掛けてしまった。
そして今は、やっと新しいスタートラインである起業が成功し、寺小屋で使う問題集の編集屋で稼いでいる。


そう、これはちょっとしたタイミングで運命の歯車がかみ合わなくなった少女の物語。
SFでよくある、「ウラシマ効果」です。
補足説明
敢えて細かい描写は外してあります。仕様です。
それこそ細かい描写をすると、ここに投稿できるかどうか怪しいレベルまでに無茶をやってしまう可能性があるので・・・ご了承ください。
魔理沙の乗ったロケットは、実はパチュリーの魔法とにとりの技術によって、フルスロットルからいきなり完全停止が出来るようになっています。
急降下ペンギン
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コメント



0.190簡易評価
3.50名前が無い程度の能力削除
最後のは蛇足だと思う。
全体的にまとまってない感があるが、発想はいいと思う。
7.100名前が無い程度の能力削除
多少の変化はあっても、幻想郷は相変わらず存在していた…
猿の惑星とは正反対で面白いですね。
なんだかんだでハッピー(?)そうな魔理沙に一安心。

↓作品内容と関係無い感想↓
細かい描写を避けた理由を述べていらっしゃいますが、杞憂なのでは?
大丈夫!ここには本当に色々な作品が存在しますよ~。
個人的に、作者様ご自身が本当に納得のいく作品というものを読んでみたいな、と思った次第です。
(例えばエロ、グロ的な表現規制に関することについて言及されていたのでしょうか?もしそうだとしたら私の的外れな意見はスルーしてください)