Coolier - 新生・東方創想話

薄紅色

2010/06/16 20:47:12
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山を染め上げた桜ももはや散り、宴会で浮かれていた者達も三々五々帰りだす。
花見もお開きになり、今ではすっかり静かになってしまった。
ほとんどの者は、桜の盛りは過ぎたと思っている。
私とあいつだけが、まだ咲いている桜があると知っている。
子供じみた、二人だけの秘密。二人だけの約束。


頃合を見計らって一人で出かける。
人を集めて酒を呑んで、馬鹿騒ぎしながらの花見も悪くは無い。
でも、偶には静かに花を見たいとも思う。
人に知られていない、とっておきの場所で。
心通わす相手と共に。



・・・


「お邪魔するわ」

少し待ってみるが何の反応も無い。
外出中か、きっと寝ているのだろう。
今更遠慮する仲でもない。
勝手に入ってしまおうと一歩踏み出す。

「いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ったわ」

上から声が降ってくる。
そして、スキマから紫が落ちてくる。

風を含んでスカートが膨らみ、髪がなびく。
地に立って優しく笑う。
それだけで周囲が華やぐ。
演出だとは分かっていても、それでも目を奪われる。
まったく、憎たらしい愛嬌だ。


軽いキスを一つ、それから頬をくっつける。
二人だけの挨拶。
これをすると、こいつの機嫌が良くなる。
流石に人がいる所ではやらないけど、私にだけ甘えてくるんだと考えると、私も気分が良くなる。
向日葵のような笑顔を振りまきながら、紫が身を翻す。


「今年も綺麗に咲いてるわよ」


八雲紫の屋敷。
その奥に、幻想郷ではここにしかない桜がある。
八重桜。別名、牡丹桜。
他の桜よりも遅く咲き、牡丹のように花弁が折り重なった華美な花を咲かせる。
どことなく、紫と似ている花だと思う。
幻想郷の土地に合わないのか、紫が独り占めしているのか。
他の場所でこの桜を見た覚えが無い。
自分と紫しか知らないことに、ちょっとした優越感を覚える。


あれはいつの事だったか。
花見が終わった後、とっておきの場所があると紫に言われた。
興味があったので付いていってみると、ここの桜を見せられた。
あまりに見事なものだったので、思わず紫に抱きついて押し倒してしまった。
それがきっかけ。
それから、毎年の恒例行事になっている。
本当は私が勝手に押しかけてるだけなんだけどね。
紫も満更じゃなさそうだし、もうしばらくはこの習慣が続きそうだ。



紫に手を引かれ、桜の元まで向かう。
紫は時々、絡ませた指をきゅっと軽く握ってくる。
それに応えて、私も紫の手を握り返す。
時々は、私の方から紫の手を握ってみる。
紫が前を向いているせいで顔は見えないけど、嬉しそうなのが分かる。

紫の歩みは遅い。
この時間を少しでも長く感じたいらしい。
私もこの空気が嫌いじゃないから、紫に合わせている。
でも、ちょっとのんびりしすぎね。




紫の手を5回握る。
ア・イ・シ・テ・ル のサイン。
気付いたかな? まあ、分からなくてもいいけど。
紫が5回手を握り返してくる。
分かってやってるのかしら? まあ、どちらでもいいけど。

顔を見られないようにしている紫の手を引っ張って、こちらを向かせる。
顎を掴んで、少し長めのキス。
らしくないわね。
動揺して目を白黒させてるなんて。
今度は赤くなって俯いちゃった。
からかい甲斐があるわ。


「ほら、早くお花見しましょう」

笑顔を見せてから、立ち止まりそうになる紫を引いて歩いていく。
元々大した距離でもない。
何度も来ているから間違いようもない。
ほら、もう見えてきた。


「ゆーうーかーっ」

紫が後ろから抱き着いてくる。
あーあー、すぐこれだよ。
格好つけてたと思ったら、結局いつも通りじゃないの。
首に抱きついて子猫みたいにじゃれついてくるし。
妖怪の賢者様の肩書きはどこに捨ててきたのかしらねえ。



・・・


「何か敷くものでも持ってくる?」
「要らないわ。花びらの絨毯があるもの」


八重桜はとても綺麗に咲いていた。
厚みのある花が鈴なりに枝にぶら下がっている。
薄紅色の桜が一本きりだが、それでも十分見応えがある。
聞くところによると、幻想郷を隔離したときに植えたものらしい。
幻想郷の歴史と共に育った桜。
酒なんかで濁さず、ちゃんと見てやらないと失礼というものだ。

花びらが落ち、桜の周りを円く、薄紅色に染めている。
それを荒らさないよう気をつけながら、桜の下に座る。
見上げると、視界いっぱいに桜の花が広がる。
柔らかそうな可愛い花。
それが房になっていくつも咲いているのがとても愛らしい。
ずっと眺めていても飽きが来ない。
部屋に飾っておきたいくらいだ。
空を仰ぎ、太陽に向かって咲く花のほうが好きだけど、こうして空を背景に眺める花も悪くは無い。


「ずっと上を見てたら疲れちゃうでしょ」

そう言って紫に抱きしめられ、後ろに倒される。
紫にもたれるような格好で、桜を仰ぎ見る。
別にこの程度で疲れたりしないけど、紫が抱きつきたいみたいだし、別にこのままでもいいか。






日が落ち、辺りが暗くなってくる。
月が出ているので、花が見えなくなる心配は無い。
むしろ趣が出るというものだ。

桜は静かに散り続けている。
風が吹かないので、花びらが木の下に溜まっている。
地面をすっかり覆ってしまい、桃色の絨毯が出来上がる。
まるで、ここだけ別世界のように円く切り取られてしまっている。
ああ、春が終わる。
桜もこれで見納めか。


「寂しいの?」
「うん、ちょっとね」


さっきからほとんど動かなかった紫が聞いてきた。
俯いて、眠っているのかと思ってたけど……。
こいつも色々と思うところがあるのかな。

月の光を受け、妖しさを増した牡丹桜に手を伸ばす。
幽雅に咲き、散り際も美しくある。
それは結構な事だが、やはり寂しさを感じもする。
儚い美しさを永遠に手の内に留めておきたいと思うのは、やはり我侭なのだろう。
花は散る。季節は巡る。人も死ぬ。
去るものをあげればきりがない。
せめて、笑って送れるよう、新しいものを受け入れ、心を閉ざさぬように、存分に今を楽しもう。


「来年も、そのまた来年も、ずっとずっと、ここで桜は咲いてくれるわ。
 幽香は、いつまでも見に来てくれる?」

紫らしくない。感傷的で、弱気な発言。
紫の頭を撫で、そっと呟く。

「ええ、いつまでも通いに来るわ。 死が二人を別つまで、ね」

一瞬の間。
そして、

「ねえ、その言葉って…」

キスで紫の言葉を封じる。

「聞き返さないの、野暮なんだから」

こんな夜だから、言葉は要らない。
二人の気持ちだけあれば、それで十分だ。

「うん」

紫がぎゅっと強く抱きついてきたので、こちらも抱き返す。

「私は簡単に死ぬつもりはないし、死んでからも会いに来てあげるけどね」
「うん」

弾むような声。
どうやら紫の不安は消えたらしい。

二人で夜桜を見上げる。
月明かりの下、桜の下で、愛を交わす。
桜が完全に散るまで、もう暫くこのままで。
春の少し後、夏の少し前。
”ア・イ・シ・テ・ル のサイン”はドリカムの未来予想図から。
こういう機微も幻想入りしてそうですね。
みをしん
http://tphexamination.blog48.fc2.com/
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コメント



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6.100名前が無い程度の能力削除
ふつくしい
8.100名前が無い程度の能力削除
この大妖二人にはしめやか且つ華やかな雰囲気がよく似合いますなあ、情景を思い浮べて眼福眼福
でも二人してはっちゃけた姿も見てみたかったりもするw
11.60名前が無い程度の能力削除
このCPは趣があって良いなぁ
13.100名前が無い程度の能力削除
ゆかゆうか蕩れ
20.100名前が無い程度の能力削除
大人の雰囲気なんだけど恋する乙女な二人がとても可愛かったです。
22.80名前が無い程度の能力削除
アダルトな感じも良いのですが、
香霖堂の紫の挿絵を思い出してイメージするのも可愛らしくて良いですね
33.100名前が無い程度の能力削除
おいちいようwwwwおいちいようwwww