Coolier - 新生・東方創想話

東方公開決闘

2010/06/15 16:25:42
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バトルものです、暴力シーンや痛々しい描写が苦手な人にはお勧めしません。


「へっ、実戦ですか?」
「そ、スペルカード戦じゃないやつね」
霊夢の突然の申し出に早苗はキョトンとして応えてしまった。
場所は守矢神社内の茶の間、この日は八雲紫を伴って神社を訪れた霊夢が通され、守矢の二柱も同席し5人でちゃぶ台を囲んでいた。
「幻想郷じゃ妖怪同士の決闘を禁止して、決闘はスペルカードルールでやってるけど、決闘をウチの宴会の席でだけ認めようかと思ってるのよ」
「いずれは弾幕勝負に応じない妖怪を退治なんてこともあるでしょうから、経験を積んでもらう為にもあなたに声をかけに来たわけ」
霊夢の言葉を補足し紫が続ける、腕組みをし俯き加減で聞いていた神奈子がくくくっと愉快そうな含み笑いをして横目で霊夢達を見た。
何か言いたそうにも見えたが神奈子は何も言わなかった、霊夢はそれを肯定の意と察し話を続けた。
「紫の言った通りよ、やってみない?」
「話が急すぎです、だいたい誰と戦うんですか?」
うろたえる早苗だったが隣に座っていた諏訪子にぽすっと背中を叩かれる。
「面白そうじゃない、やろうよ!」
「ちょっと、諏訪子様」
「決まりね!流石、土着神の頂点様は話が早くていいわ」
両手をちゃぶ台につき身を乗り出す霊夢、それを微笑ましそうに見る紫、うろたえる早苗、期待に目を輝かす諏訪子、成り行きを見守る神奈子がいた。
「強引に話を進めてしまったけれど、悪い話ではないと思うわ、ずっと幻想郷で暮らしていくつもりなら実戦での強さも必要になってくるもの」
紫が霊夢と諏訪子の勢いを止めてくれたおかげで早苗は少し落ち着きを取り戻し、改めて思案した。
「あっ、相手はこっちで適当な妖怪を用意するから、それでウチの神社で1対1の決闘、早苗の他にもカード組むかもしれないわ」
「う~~ん」
不意に早苗は正面に座る八雲紫と眼があった、紫もそれに気付き艶やかに微笑み返す。
早苗は考えた、この八雲紫と戦って勝てるだろうか? と。
(多分、勝てない)
そこで早苗は気付いてしまった、勝てる勝てないのシミュレーションをする以前に、目の前の妖怪を恐れる自分の心に。
決闘の提案、強大な妖怪である紫、そして数々の妖怪と戦ってきたであろう霊夢、その存在が早苗にもどかしさ、恐れ、闘争心の混ざった感情の波を起こさせた。
「やります」
「「おおっ」」
「八雲さんが言うように実戦経験は必要ですし、それに私が活躍することで信仰が集められるかもしれません」
早苗が言い終わらないうちに霊夢と紫の背後にスキマが現れた。
「じゃ、一週間後の黄昏時にうちの境内でね とおっ!」
霊夢は座った姿勢のまま真後ろに倒れこみスキマの中に落ちて行った、紫が軽く会釈し霊夢に続きスキマが閉じられる。
後には二人が飲み残していったお茶の湯呑だけが残った。


一週間後。
夕暮れの博麗神社に多くの人妖が集まっていた、これまでの異変に関与した神・妖怪・妖精から怖いもの見たさの里の人間まで、境内の中央には大きな円を描くように幾つものかがり火が配置されている、即席の闘技場であった。
「よっ、霊夢」
かがり火の周りを囲む人垣の最前列に陣取っていた霊夢に後ろから声をかける者がいた、白と黒を基調としたエプロンドレス風の洋服、癖のある金髪、人ごみの中では邪魔になる大きな帽子、霧雨魔理沙であった。
「あら、来たの」
「結界の管理者が二人して決闘を推奨とは、穏やかじゃないぜ」
言いつつも魔理沙の顔はニヤけていた本気で非難している訳ではないようだ。
「魔理沙、あなたも実戦向きのスペルを試したいって顔に書いてあるわよ」
「そのうち、私も出させてくれよ」
「ええ、命の保証は出来ないけどね」
霊夢は冗談とも本気ともつかぬ微笑で応える。
「早苗が出るんだって? 私は早苗が、ん~~勝つ方にパチュリーの魔道書5冊賭けるぜ」
「じゃあ、私は負ける方にお賽銭一ヶ月分、あっ早苗は第二試合ね」
二人が冗談とも本気ともつかぬやりとりをしているうちに人垣の一部がざわつき、そこから一人の少女が闘技場へ姿を現した。

肩で切り揃えた銀髪のショートボブ、緑を基調とした服に長短二本の日本刀を腰と背中に携える少女は白玉楼の庭師魂魄妖夢であった。
妖夢の登場で会場は湧き立ち、あちこちから歓声があがるが、妖夢はそれらの声がまるで聞こえていないかのように静かに佇むだけであった。
既に戦いに向けて精神を集中しているのか、妖夢の集中力がまるで周囲の空気を冷たくしているような錯覚をさせる。
ひとしきり会場の興奮が収まったところで、妖夢の反対側の人垣を飛び越え空高く跳躍する人影が現れた。
それは小柄な妖夢よりも更に一回り小さく、夕闇の空にマントをはためかせ妖夢と一定の間合いをとり、ストッとまるで体重を感じさせない着地音で地に降り立つ。
小柄な体躯に黒マント、何より特徴的なのは頭から生えた二本の触角、闇に蠢く光の蟲、リグル・ナイトバグである。
リグルは観客に手を振るなど愛想よく振る舞いながら既に腰の白楼剣に手をかけ抜刀の体勢になっている妖夢の間合いギリギリまで近づいた。
『始まる!』との予感からギャラリーも静まり返り場が沈黙に支配される中、リグルは右手を差し出し握手を求めた、その表情は柔和である。
妖夢はすぐには応えなかったが、数秒の沈黙後、構えを解き十分に警戒しながらも握手に応じた。

二人の間に無言の握手が交わされ、掌を戻しかけた瞬間、妖夢の右手を激しい痛みが襲った。
「痛っ!」
一旦、間合いを取り直した妖夢はヴゥゥゥンと低い羽音が聞こえるのに気付いた、見ると人の親指ほどの大きな蜂が飛んでいる。
「はっ!」
白楼剣で蜂を両断するがいつものキレがない、右手親指の付け根あたりに鋭くジンジンと痺れを伴う痛みが発生している。
「くっくっ、さすが白玉楼の庭師さんは礼儀正しいことで、くっくっくっ」
リグルは笑いを押し殺しながら喋っていたが、挑発的な態度は隠し切れていない。
彼女の蟲を操る程度の能力で蜂を掌に隠し、妖夢の剣を握る握力を削ぐ作戦であった。
「卑怯な」
まだ左手で右手首を握りながら痛みをこらえる妖夢がリグルを睨みつけ、そのまま視線を外さずに再び抜刀の構えをとった。
痛みで握りがままならない分、いつもより強い力を込める。
妖夢が柄を握る手に込めた力は痛みの為だけではなかった、そこには不意打ちを仕掛けてきたリグルへの怒りと、自分の未熟さへの憤りが込められていた。
妖夢の構えに呼応し、リグルも腰を落としいつでも動き出せる姿勢になった。
二人の間に一層の感情が高まり妖夢の怒りの視線とリグルの嘲りの視線が交差したとき、戦いの火蓋が切って落とされた。

「はあっ」
妖夢の居合い切りが空を薙ぐ、高速の踏み込みで一気に敵を射程に捉えたがリグルは身を伏してそれをかわし、白楼剣はしゃがんだ反動で舞い上がったマントの端だけを切った。
「けえあっ、とあっ!」
袈裟斬り、横薙ぎ、突き、逆袈裟斬り、怒涛の連撃をリグルは際どいところでかわし続ける。
(これはマズいね)
リグルは妖夢が策にはまり自分の優位を感じていた、実際に一連の斬撃は力み過ぎで技に入る前に一瞬の硬直があり、それがリグルの回避を可能にしていたが、挑発が仇にもなり妖夢の勢いは予想を越えてきていた。
「せいっ!」
逆袈裟斬りがリグルの左上腕部を撫でていく、まだ痛みはなく通り抜けて行った衝撃だけを感じる。
(ここでっ!)
リグルは腕を撫で切られながらも大きく後方へ下がり、剣の届かぬ上空へ退避した。
「あまいっ!」
妖夢は逆袈裟斬りから一瞬も止まることなく白楼剣を地面に刺し、その動きと同時に背中の楼観剣を腰の抜刀出来る位置までスライドさせた。
「やあああっ!」
そして、白楼剣の鍔を踏み台に上空のリグル目掛け跳躍、上昇しながらの抜刀は安全圏に逃れたと思い油断していたリグルの胴を斜めに薙いだ。
「がっ!」
落下するリグル、妖夢は下降しながら楼観剣を納刀し着地と同時に地に刺していた白楼剣を手に取り構え直した。
(浅いか)
妖夢は斬撃の感触で大ダメージではあるが致命傷には至っていない事を解っていた、傷口を押さえ苦悶の表情で対峙する敵を見ているうちに、怒りも収まり冷静に戦況を把握し始める。
「ははっ、強いね、でも私を斬るんならさっきの居合斬りじゃなきゃあね」
リグルは痛みをこらえ出来る限りの不敵な笑みで言った。
(強がりでもなさそう)
自分が冷静ではなかったとはいえ、あれだけの連撃をかわし続けたリグルの体捌きは侮れないと判断し、妖夢は白楼剣を納刀しようとした。

 ぐじゅ ぐちゃり

しかし、白楼剣は鞘の半ばで柔らかい感触に阻まれ止まってしまった。
(なに?この感触)
妖夢はリグルを警戒しつつ、恐る恐る手元の鞘を見る。

 ぞ ぞぞぞ 

総毛立った、白楼剣の鞘には夥しい数の虫が詰まっていた、妖夢は気付かずに虫を斬りながら納刀したが、あまりに虫の数が多く途中で剣が止まってしまったという訳だ。
「ひっ」
おぞましさに妖夢は鞘を握っていた左手を離してしまう、右手の白楼剣も再び抜き放つことが躊躇われ途中まで納刀した宙ぶらりんの状況だ。
「斬り潰すんじゃなかったのかい?」
声に振り向いたときにはリグルは眼前にまで迫っていた、顔面を狙った飛び足刀(足の裏が地面を向き小指側の側面を当てる蹴り方のこと)が妖夢を襲う。
辛うじて足刀はかすっただけでやり過ごすが、リグルは飛び足刀の勢いそのままに妖夢の後方へ着地し即座に地を蹴り、再び襲い来る。
「くっ、いやぁっ!」
妖夢はおぞましさをこらえ、虫たちがこびりついた白楼剣を振るった、真一文字の横薙ぎである。
「遅いっ!」
リグルは身を低くし、残撃をかわしながらの地を這う水面蹴りを放った、足元をすくわれた妖夢はうつ伏せに倒れる。
地に伏した妖夢の顔に固く冷たいものが触れた、それは名前も分からぬ甲虫の羽根であった、他にも何匹もの虫が顔の前の地面を這っている。
「きゃ!」
咄嗟に虫から逃れようと体を反転させ仰向けになるが、空が見えるはずの視界は黒く遮られていた。
「ちぇりゃあぁぁっ!」
妖夢の視界を満たしていたのは飛来するリグルのマントであった、仰向けになるタイミングを見計らい真上からリグルの足刀蹴りが妖夢の喉元にギロチンの刃のように迫った。

「がはぁっ! ぐぅっ」

蹴りが喉元にめり込みリグルの蹴り足一本に全体重がかかる。
「はっ!」
リグルが後方に飛び退いて構えをとる、まだ警戒は解いていない。
一秒、二秒、静かな緊張の時間が続く、やがてリグルが敵の沈黙を判断し背を向けた瞬間に、それまで見守っていたギャラリーが一斉に沸き立った。

 おおおおおおっ

歓声を後に退場するリグルがマントを翻すと妖夢の周りの昆虫たちが編隊を組み、マントの中へと収まっていった。


「やるなぁリグルのやつ、妖夢の方が格上だと思っていたが」
「格上が勝つとも限らないのがが決闘の醍醐味よ」
魔理沙に相槌を打つ霊夢、負けた妖夢もなんとか自力で退場した後、すぐに次の決闘の主役の一人、早苗が闘技場に姿を見せた。
「さあ、次はいよいよ早苗の出番よ」
「おう、楽しみだぜ」
やがて既に臨戦態勢の早苗のいる側とは反対の人垣が割れ、対戦相手が姿を見せた。
そいつは顔には般若の面をかぶり死人が着せられる白装束をまとっていた、異様な風体の対戦者に会場のざわつきが波が引くように静まっていく。
対戦者は早苗と十分な距離をとったまま、おもむろに白装束の帯を解き、その場にぱさりと脱ぎ捨てた。
白装束の下から赤い紐飾りのついたスカートと茶と紫を基調とした個性的な衣装が現れ、次に般若の面に手をかける。
会場の全員から注目される中、そいつは般若面を投げ捨てるが、肝心の早苗はすぐに敵の顔を見ることはできなかった。
般若面は、その角が両眼を穿つが如く早苗の顔面に向け投げられたのだ。
「なっ!?」
早苗は上体を斜め後ろに反らしつつ、般若面を受け止めた、今度は早苗が顔の前から面をずらして敵を見る構図になった。

面の向こうには、怒りと悲しみの光を宿した緑の瞳の女が幽鬼のように佇んでいる。
地殻の下の嫉妬心、水橋パルスィであった。
とにかく「バトルものが書きたい」という想いから書いてみました。
いきなり虫グロな描写がありましたが、いかがだったでしょうか?
東方はキャラが多いので、原作では絡みはないけど、このキャラとこのキャラが戦えば
あるいは組んだら面白いなぁ、という想像が尽きません。
色々と書いてみたい組み合わせはありますが、少なくとも次回の早苗vsパルスィだけは
必ず書きあげたいと思います。
ペロの飼い主
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コメント



0.570簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
これは斬新
4.50名前が無い程度の能力削除
すごく読み辛かったです。
題材は面白いと感じました。
7.80コチドリ削除
リグルの能力って、ガチバトルだと地味に色々応用が利きそうですよね。
少なくとも大量のスズメバチやGを召喚されたらコンマ1秒で土下座ですね、私は。
そして次回は早苗vsパルスィですか。うーむ、どんな戦闘になるか全く想像できん。

あと、霊夢や紫様が決闘を推し進める真の思惑なんかが裏に存在すると
さらに物語を楽しめるかもです。
12.100名前が無い程度の能力削除
>「早苗が出るんだって? 私は早苗が、ん~~勝つ方にパチュリーの魔道書5冊賭けるぜ」
 「じゃあ、私は負ける方にお賽銭一ヶ月分、あっ早苗は第二試合ね」
おまえら自分の物と在る物を賭けろよ

ガチバトルで地底勢は怖いなぁ