Coolier - 新生・東方創想話

咲夜のお見舞い

2010/06/01 09:00:55
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「咲夜」
「・・・咲夜」
はっとして、咲夜はあわてて返事をした。
「なっ、なんでしょうか、お嬢様」
お嬢様と呼ばれた少女は、その青く透き通った髪を少し揺らせてふぅっとため息をついた。
「あなた・・・昨日からどうしたの? より正確に言えば、昨日の夜からだけど」
ズズッっと紅茶をすすりながら少女は問うた。
「音を立てて紅茶を飲むのはあまり感心しませんわ」
「そうかしら?そうね、飲んでるのよって、アピールしてみたのよ」
お嬢様はひどく適当なことを言った。
しばしの沈黙の後、再び口を開く。
「・・・それで?」
月の光を背にしてもなお光輝く紅い瞳が咲夜を見つめる。どうやら、理由を言うまで解放してはくれないだろう。
しかし、いざ言おうとすると、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。言い淀んでしまう。
「そういえば・・・」
お嬢様は後ろを振り向き、窓から見える大きな月を見ながら言う。
「霊夢の具合は良くなったのかしら」
ぴくっ・・・その言葉に少し反応してしまう。
「せっかく遊びに行こうと思っているのに、あいつが起きていないんじゃ退屈でしょうがないわ。・・・そうねぇ、咲夜」
「はっ、はい」
少しだけ声がうわずったのに自分自身が一番動揺してしまう。
「あの巫女が早く治るようになんとかしなさい」
「なんとか・・・ですか」
「えぇ。なんとかよ。あいつが治るまで戻ってこなくていいわ」
「ええぇ!? でっ、でも仕事が」
「パチェがこの間言っていたわ。外の世界には有給って言うのがあるのよ」
お嬢様はイタズラっぽい笑みで咲夜を見ている。
「よくわからないけど、とにかく休めって言うことよ」
「わかりました・・・」


咲夜がティーセットを持って部屋を出ていくと、お嬢様は一人つぶやいた。
「さて・・・あの子がいない間、誰に仕事をさせようかしら・・・」
「わざわざ行かせることもなかったのに。物好きね、レミィ」
咲夜と入れ替わるように部屋に入ってきたパチュリーに向かって、満面の笑みで答える。
「従者思いの良い城主でしょう? さぁ、後をつけないとね」
「・・・どこが従者思いなんだか。ただの暇つぶしじゃない」
なんとなく、部屋に入ったパチュリーは窓から月を見る。
そんなパチュリーをスーッと横切って一言。
「紅魔館のことは頼んだわよ、パチェ」
「なっ!? 私は、研究が・・・」
そこには、もう誰もいなかった。


「そう、これはお嬢様の命令で・・・早く良くなってもらわないと困るだけです」
月が、空高く登り、静寂に満ちた幻想郷に光を注いでいる。妖怪っ子一匹いない夜空にメイド服の少女のシルエットだけが浮かんでいた。
咲夜は、自分に言い聞かせるように神社に向けて飛んでいる。
しかし、シルエットは予告もなしに二つに増えた。
「おっ、なんだこんな時間に。お前もあいつの顔を見に来たのか?」
ちょうど、神社から箒に乗って来たいかにもな魔法使いと会う。咲夜は、一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに無表情を装う。
「お嬢様のわがままで、早く霊夢を治しなさいって。・・・それで、一応様子を見に来たのよ」
「ふーん。いつもながら大変だな。あいつは、ちょうど寝ちまったところだから、行っても話せないぜ?」
特に気にする素振りも見せずに、魔理沙は去っていった。もしもの時のために考えておいた台詞を無事に言えて、咲夜は、ほっと安堵した。
静かに神社の庭に降り立つ。神社には、明かり一つなく、月の光だけがあたりを照らしている。
夜が明けてからくればよかったな、と咲夜は今更ながら思った。ただそう、居ても立ってもいられなかったのだ。お嬢様も早く治せと言っていたことだし・・・。
「お邪魔します」
起こさないように、気を使ってささやくように言った。しかし、これでは泥棒みたいである。・・・泥棒。
「まさかっ・・・」
よもや魔理沙は何か盗んでいったのでは・・・日頃の所行を思い出し、邪推してみる。
よくよく考えてみれば、ここには盗みたくなるような物はないだろう。主からしてみれば失礼極まりない話だ。
その当の本人は静かに寝息をたてている。
思ったより元気そうでよかった。
昨日、霊夢が突然倒れたという噂を耳にしたときには気が気ではなかった。伝染病か、はたまた妖怪にやられたのか、もしかしたらすごい重病かもしれない。あれこれ考えてしまって、仕事もろくに手につかなかった。
お嬢様に気を使わせてしまったのかと思うと、情けない気持ちでいっぱいになった。
「ふぅっ、でも本当によかった」
出来れば寝顔を見てみたかったが、明かりを点けて、起こしてしまってはお見舞いに来た意味が全くない。それに・・・今のこの状況を説明するのは、非常に・・・面倒だった。深夜、病で寝込んでいる霊夢の寝室に、当人の了承も得ず入り込んでいるのだ。(この家に防犯という概念が無いことも問題だが)
これではまるで・・・


「あれじゃあ、完全な夜這いね」
神社から少し離れた森林。その木の上で、少女は咲夜の心境を代弁した。
「まぁ、霊夢はそういうことには疎いから、まず泥棒だと思うだろうけど」
もう一人の少女は、その木の上の隣、ぽっかりとあいた空間、その境目に肘を付きため息混じりに漏らした。
二人の少女は、目の前にある、神社の内部の映像が映し出される不思議な球体を見つめている。
「便利なものね、これ」
「そうでしょう? この間の異変の時にも使ったんだけどいろいろと使い道があるものね」
木の上の少女は、空間にいる少女の方を向いて、にっと尖った歯を見せる。
「この後の展開を賭けない?」
「あら、何を賭けるのかしら」
空間の少女は余裕の表情で見つめ返す。
「私が勝ったら、この玉をもらうわ」
「ふーん・・・そうねぇ、私は何を貰おうかしら」
「勝ってから考えるのでもいいわよ」
そう言って、少女は球体の方に向き直る。
空間の少女は、しばし考え、一言。
「あなたの能力を使うのは無しよ?」


ぶるっ
咲夜は、急に寒気を感じ身震いした。
「私も風邪を引いちゃったのかしら・・・」
これで、霊夢の風邪が治ったらそれも悪くないかもしれない。他人に移せば風邪は良くなるらしいし。
しばしの間、寝息を聞いていたが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
とりあえず一度、紅魔館に戻って改めて来よう。そう思って、霊夢の脇から立ち上がろうとしたら、正座をしていたことが災いして、足がもつれてしまう。
(空間の少女は、ちらと木の上の少女を見る。彼女はあくまでも、ポーカーフェイス。じっと球体の映像をのぞいている)
転びそうになるのを必死でこらえて手をつこうとして、はっとする。下手なところを触ると、霊夢が起きてしまう。強引な軌道修正によって、なんとか霊夢を避けて手をつくことが出来た、が・・・。
咲夜の唇に柔らかい感触が伝わる。眼前には霊夢の寝顔。障子から差し込む月明かりでも、まつげの本数を数えることが出来そうなくらいの距離。
頭の回転が鈍くなる。自分が置かれている状況がいまいちわからなかった。
「・・・・・・・・・はぁっ!!」
咲夜は、今までの配慮も忘れて、大きな声を上げて飛び上がる。
「んん~・・・・・・」
だが、幸いなことに霊夢が、起きることはなく、寝返りを打っただけだった。
咲夜は、自分の唇に手をやると、今起きた事態を必死に整理しようとした。だが、頭はぐるぐる回り、心臓の音は早鐘どころではなく、16ビートは軽くオーバーしていた。


「あっはははははははは!!」
木の上の少女は笑い転げて、木の上から落ちそうになった。落ちたところで飛べるからまったく問題は無かったが。
「やるわね、咲夜。読みが外れちゃったわ」
笑いすぎて涙を流しながら、木の上の少女は言う。
「そうね、ちょっと出来すぎているくらいだわ。・・・でも、きな臭くても賭けは賭けよね。あなたから貰うもの、考えておくわ」
そう言って、空間の少女は球体をしまうと、空間ごと消えてしまう。
木の上に、一人残った少女は、先ほどまでそこにいた空間の主に向かって、言った。
「こんな良いものを見せて貰ったんだもの。賭けはそのお礼よ」

コンコンッ
ノックの音が響く。それに対して、部屋の主は実に事務的な声で応答する。
「入りなさい」
おずおずとした様子で、咲夜が部屋に入ってくる。
内心では、それを笑いながら、一ミリも顔には出さず、さらに事務的な声で問う。
「それで? 霊夢のところに行ってきたの?」
「はっ、はい・・・」
少し、もじもじとした仕草を愛らしく感じつつ先を促す。「あの・・・思っていたより体調は良さそうでした。明日あたりにでも、出かけてみてはいかがでしょうか」
「そうね、あなたと二人で行ってみようかしら」
一瞬、はっした顔を見せる咲夜。やはり、それをさっと引っ込め、仰々しく言う。
「いえ、私は停滞させてしまった仕事を片付けなくてはいけないので、代わりに、お供の妖精を何名か付けます」
正直、にやにやが止まらない。それを表に出さないようにするのも疲れるものだ。
「あら、仕事なら有能なうちの知恵袋が片付けておいてくれたわ」
えっと言い、よく見ると、部屋にはもう一人隅のイスに腰掛け、本を開いている少女が目に入る。
その少女は、ちらと目線をあげ、あまり大きくない声で話す。
「私は、自分の研究があったのに、それを後回しにして、片付けてあげたのよ」
「あっ、ありがとうございます」
「お礼はいいから、実験を手伝ってね」
身の危険を感じ咲夜は、少したじろいだが、断るわけにもいかず、実験(おそらく実験体)の手伝いをすることになった。
「さて、それはそれとして、これで何の気兼ねも無く神社に行けるわね」
「あぅ・・・・・・はい」
赤面し、俯きながら答える咲夜を満足そうに見つめ、少女はふと思った。
(・・・紫は何を欲しがるのかしら)
まぁ、それはその時に考えるとして、今は明日起こるであろう、もっと楽しいことに胸を躍らせるのであった。
途中まで考えていた内容とは全然違う、ほのぼのとした終わりになりました。
一応、伏線みたいなものも張ってみたり。
初投稿で、初東方SSです。
そして、咲夜の視点で書いていたはずが、気が付いたらお嬢様の視点になっていました。
運命操作ってすごいです。
mezashi
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コメント



0.1560簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんかわいいです。

私が買ったら→私が勝ったら
20.100名前が無い程度の能力削除
咲霊いいじゃないのさー
23.100伏狗削除
咲夜さん可愛いです~
咲霊!咲霊!
伏線と言う事は、続編もあるのですね。
期待しています。
27.100名前が無い程度の能力削除
久々の咲霊SSに胸のトキメキを感じずにはいられない!
次はもっと二人の絡み(性的な意味ではない)が見られたらいいなぁ
29.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さん可愛いw
思わずニヤニヤしましたw
34.100名前が無い程度の能力削除
これからも貴重な咲霊を書いてください!
38.80名前が無い程度の能力削除
これは続きも期待できそう! 早速読むぜー