Coolier - 新生・東方創想話

可愛い子は甘やかしたいものなのです。

2010/05/13 02:12:39
最終更新
サイズ
10.13KB
ページ数
1
閲覧数
3152
評価数
22/106
POINT
5900
Rate
11.07

分類タグ

ふかふかのベッドに、真っ白なシーツ。
シルクのパジャマに、カシミア素材のカーディガン。
温かい紅茶に、焼きたてのクッキー。

全てが自分の為だけに用意されたもの。
いつもより優遇されているようで、この館の主と同等の扱いを受けてるんじゃないかと錯覚するほど丁重な扱い。
それは別に悪くない。優遇されて悪い気などはしない。
しかし、だ。

「ほら見て見て。お団子、可愛いでしょ?それともポニーテールのほうがいいかしら?」

人の髪を楽しそうに弄っているコイツは一体何なんだ。
私がいつものように図書館の本を"借り"て帰ろうとしたところに咲夜に出くわして、小言の一つや二つくらい飛んでくるかと思っていたが何のお咎めも無く。
怒らないのかと尋ねると今日は非番だからと答えるメイド長。それでいいのか。
それどころかむしろ「暇だから遊んで」とかメイドらしからぬ事をのたまう咲夜に連れられ部屋に招かれ。
茶を飲みながらなんてことない雑談に付き合っていたらいつの間にかとっぷりと日が暮れていた。
そろそろ家に帰ると言うと「泊まっていけばいいじゃない」という返答。
仕事はと尋ねると非番だからいいのと軽く拗ねた口調で言われるとそうなのかと頷くしかなく、何故か泊まれ泊まれと煩い咲夜に強く押されて一泊する羽目に。
夕食を食べた後、二人で風呂に入ると上から下まで全身くまなく洗われた。もうお嫁に行けないかもしれない。



そんなこんなで現在。

「見た目ふわふわで柔らかいのに指に絡まない髪質なんて羨ましい妬ましい。もう、悔しいから目一杯魔理沙の髪で遊んでやるわ」

きゃっきゃうふふとはしゃぐ咲夜の腕の中で私は物言わぬ人形と化している。
何を言っても無駄、下手に拒めば更に悪化すると身を持って知ったばかりなので大人しくしている他ない。
後ろから抱きかかえられての髪弄りを拒んでいたら、時を止められ気付けばレミリアの格好をさせられるというトラウマを植えつけられた。死にたくなった。

「ねぇ魔理沙。あなたはどんな髪型がいい?」
「…好きにしてくれ」

逆らうことなく全てを受け入れる。
数分前の惨劇を繰り返さない為に多少の羞恥は封印すると心に決めた。

「何でもいいのよ?大抵の髪型ならちゃちゃっと出来るから」
「特に無いよ。なんか落ち着かないし元に戻して欲しいんだが」
「こんなに綺麗な髪なのに何もしないなんて勿体無いじゃない。何かリクエストしてよ」

完全で瀟洒な従者はどこへやら。
此処には「ねぇねぇリクエストないの?ないの?」と人の肩を揺さぶりながら髪型のリクエストをねだる駄々っ子しかいない。もうやだこのメイド。

「あーもう、分かったよ。咲夜と同じのにしてくれ。それでいいだろ」

半分自棄、というか投げやりな感じで言う。

「私と、同じ?」
「ああ」
「おそろい?」
「…ああ」

私が投げた言葉の意味を咀嚼するように問うた後。

「ん。分かったわ」

少しばかり弾んだ声でこちらの要求を呑み、鼻歌を歌いながら髪を梳かし始める。
嫌な予感しかしないのは気のせいだと思いたい。ていうか帰りたい。
あえて時間を止めずに髪弄りをしていることから楽しんでいるのが伝わってきた。が、私は不安になる一方だ。

「やっぱり、髪はアップよね」
「別にそのままでもいいじゃないか」
「駄目よ、それじゃお揃いの髪型にならないもの。一つに纏めあげてバレッタで留めれば……ほら、前から見たらそれっぽいでしょ?」
「あー…、うん。そう、だな」

鏡に映る自分を改めて見る。
正面から見ると両サイドの髪を三つ編に結ってしまえば咲夜とほぼ同じ髪型だ。
完成図を想像したら違和感しかなかった。

これでメイド服を着せられたらそれはそれは見事なトラウマが私の中に植えつけられるだろう。
今、古明地さとりに想起のスぺカを使われたら立ち直れない。死んだ方がマシだと思う。

勿論そんな運命は是非回避したい。ここの主が運命操作してくれる事を心から願った。

「ふふ、これでメイド服を着たら完全にお揃いになれるわね」

…少しは気を利かせてもいいじゃないか。軽く泣きそうになった。

「メ…!?…いや、もう夜だし、遅いし。湯冷めするし、今日は止めようぜ?なっ?」
「大丈夫よ、私も着るし」

何が大丈夫なんだ。
咲夜が着たって普段着だから珍しくもなんともないだろ。
ていうか何でそんなにテンション高いんだお前。

「…いや、私は遠慮しとく」
「えー。折角髪型がお揃いなんだから。服もお揃いにしないと駄目」
「駄目ってなんだよ駄目って。そこまでする義務はないだろ」
「だーめーなーのー。おそろいがいいの」

何この駄々っ子メイド。
やだやだー!とか駄々をこねてる咲夜の姿は珍しいというか貴重というか。
なんにしても衝撃が強すぎて一瞬夢かと思った。思いたかった。でも夢じゃなかった。
完全で瀟洒なメイドは何処いった。

「もう、寝ていいか。色々疲れた」
「私はまだ眠くないもの。魔理沙がメイド服着るなら考えるけど」
「…勘弁してくれ」
「何で嫌なの?メイド服は嫌い?」
「いやいや、嫌いとかそういう事じゃなくてだな」
「じゃあ問題ないじゃない」

問題ありまくりに決まってんだろ駄メイド。


「なくない」

「なくなくないもん」

「なくなくなくない」

「なくなくなくなくないもん」

「なくなくなくなくなくない」

「なくなくなくなくなくなくないもん」

ゲシュタルト崩壊。


「ストップ、ストップだ。目眩がしてきたぜ…」
「あら、大丈夫?膝枕してあげようか?」

誰の所為でこうなったと思ってる。主にお前の所為だよ。

「膝枕とか別にいらん…って何故そんな期待した目でこっちを見てるんだ」
「膝枕してあげようか?」

わくわくしてる咲夜。
それに若干引く私。

「や、いいって」
「膝枕してあげようか?」

謹んで遠慮する。
が、引く気配は一向にない。

「それしか喋れないのかお前は」
「膝枕してあげようか?」

駄目だ、意思疎通も出来ない。

「……………」
「膝枕してあげようか?」

会話が成り立たない。というよりは元から人の話を聞く気がないだろこの従者。

「だから遠慮」
「じゃあメイド服着せてもいいのね」

なにその選択肢。どっちをとっても救いが無い。

「う、ぐ……」
「どっちがいい?」
「ひ、膝枕で…」

素直でよろしい、と頭を撫でられた。
満面の笑みを浮かべる咲夜の顔を憎たらしかった。畜生。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆





「んぅ…、んん………はっ!」

勢いよく身体を起こす。
いつの間にか寝ていたらしく、現状を把握しようと周りを見―

視界に映るのは、微笑み。

「あら残念、起きちゃった。もうちょっと魔理沙の寝顔を見ていたかったのに」
「………っ」

不覚。ついつい太腿の心地よさに負けて寝てしまうとは何たる不覚。
ていうか、見られた。寝てる姿を、見られた。

「可愛かったわよ?指を近づけたらそのまま掴んで咥えちゃうんだもの。少し驚いたけど」
「はぁああ!?う、嘘だ!んな事するかっ!」
「別に嘘じゃないんだけど。その証拠にほら、未だに私の手を掴んでる」
「……!?」

おそるおそる自分の手に視線を落とす。
その手はしっかりと咲夜の手首を掴んでいた。

…気付かなかった。今の今まで。全く。

「ね?」
「ああ、うん。確かに、な…」

見られた。知られた。寝てる時の癖。
最近気付いたのだがどうやら私は睡眠中に何かを口に咥える癖があるらしく。
目覚めると枕やシーツを咥えている事がよくあった。
それを、まさか、ここで。

しかも、よりによって、咲夜の指とか。

「魔理沙」

顔が、熱い。
恥ずかしい。逃げたい。死にたい。
顔から火が出るくらい熱くて、泣きたくなった。
かろうじて、まだ泣いてはいないけれど。

「笑いたきゃ、笑えよ」
「笑う?どうして?」

寝ている時の癖は誰にも知られたくなかった。
だから人前ではなるべく寝ないようにしていたし、誰かの家に泊まることがあっても睡眠は浅く、深い眠りにつく事はなかった。

「だって。こんなの、恥ずかしいだろ」

この癖を知られたら馬鹿にされると思った。
誰かに見られたらからかわれると思った。
連中に悪意は無いと分かっていても子供扱いされるのだけは嫌だった。

それは咲夜だって例外じゃない。
対等に見られなくなるのが、怖い。

「魔理沙」
「……なに」

ぶっきらぼうな返事。
言葉を発するだけで瞳に溜まった涙は零れ落ちそうで。
咲夜の方を見れない。



「そんな事ないけど」
「ぅ、わっ」

ぎゅう、と優しく抱きしめられ。
そのままベッドへ倒れる。

ギシリと軽く軋む音。
布越しに感じる咲夜の体温と、吐息。
耳元に近づき、そして

「可愛いわ、魔理沙」

甘く優しい、囁き。
身体中の血液が沸騰したかのような錯覚を覚えた。

「思わず抱きしめたくなるくらい」

こうやってね、と腕の力を少しだけ強め、私の頭を抱えるように抱きしめる。
先程よりも柔らかい感触に包まれ、聞こえるのは鼓動の音。とくんとくんと規則正しいリズムを刻んでいる。
他人の温もりと鼓動がこんなにも落ち着くものだなんて、知らなかった。


「…誰にも見せたこと、なかったのに」
「そうなの?てっきり霊夢やアリスあたりは知ってるものだと思ってたわ」
「あいつ等は一番知られたくない部類だな。弱味は、見せられないだろ」
「別に向こうはそんな事思わないだろうけど……そう、じゃあ私が初めての相手なのね」
「第三者が聞いたら勘違いしそうな言い方をするなよ」
「だって間違いではないでしょ?」
「…ふん。言い方はともかく、な」
「なんだか拗ねてるみたいね。なに、見られた事がそんなにショックだった?」

そりゃあ、ショックに決まってるだろ。
今まで隠してた事がバレてすぐにに立ち直る奴なんてそういない。

「拗ねてなんかいないぜ」
「声色がふてくされてるわ」
「………」
「もう、機嫌直してよ」

まだ恥ずかしいだけだとは口が裂けても言ってやらない。

しょうがないわねと苦笑。
幼子をあやすみたいに後頭部をぽんぽんと撫でられた。
けどそれほど不快じゃなく、むしろ心地いい。なので大人しく受け入れておく。

「魔理沙」
「………」
「魔理沙。こっち見て」
「…なに」

名前を呼ばれゆるゆると顔を上げる。
すると両手で顔を包まれ、穏やかな表情で咲夜が言う。

「あなたはもう少し人に甘えるべきよ。一人でいるとふと人恋しくなるときはない?孤独感や寂しさを感じることはない?少なからずあるでしょう?寝ている時の癖はきっと、甘えたいという気持ちが無意識の内に出ているからよ。だから、ね?魔理沙」

―甘えていいのよ?

「…っ!」

ずるい、反則だ。
そんな表情で、そんな声で囁くとか駄目だろ。
どんなスペルカードよりも、強力な一撃だった。けどそれでいて優しくて、温かくて。
委ねてもいいのだと、受け入れてくれるのだと咲夜は伝えている。

「誰かに甘えたら無意識下の欲求も解消されるでしょうし。私は既に魔理沙の癖を見てるし、羞恥心は半減されるでしょ?」
「いや、恥ずかしいのには変わりないけど…。でも、なんで。そこまでしてくれるんだ…?」
「私ね。あなたを甘やかすのが好きみたい。元々自分が世話焼きなのは分かっているんだけど、それを抜きにしても魔理沙と一緒にいるのが楽しいの。『私が』魔理沙を甘やかしたいのよ」
「あ、ぅ……、その…そ、そう、か…」
「だから、私に甘やかさせて?」
「ぅ……」

マスタースパーク並の直球ド真ん中。
これはある意味、愛の告白よりも恥ずかしいかもしれない。

馬鹿みたいに暴れ回る心臓と灼熱地獄より熱い頬。
恥ずかしさはピークに達していた。
咲夜は私の返事を待っているのに、つっかえたようにうまく言葉が出てこなくて、もどかしい。

「………っ」

それでもどうにかして伝えようと腕を伸ばした。



ぎゅう。

「…まりさ?」

胸のあたりに頭を埋めるようにして咲夜にしがみつく。

どちらも言葉はなかったが、なんとなく伝わったのか咲夜も優しく抱き返してくれる。






そしてしばしの沈黙。

「…ときどき」

「うん?」
「ときどき、こうしてほしい」

「…ええ、よろこんで」

掠れた声で、今の自分に出来る精一杯のおねだり。
うん。今はまだ、これくらいでいい。

すこし速くなった鼓動の音に耳を傾けながら、ゆっくりと目を閉じた。
さくまり!(挨拶)
甘い作品をあまり書いてなかったので糖分多めにしてみました。むしろやりすぎたかなと少し反省。
でも、甘やかす咲夜さんと若干嫌がる振りをしつつ甘える魔理沙とか最高だと思うんです。
咲マリはもっと流行るべき。

実は途中で暴走して授乳プレイとか書いてしまったなんて言えない。
でも正気に戻って泣く泣く削除したなんて言えない。

読みにくい部分も多々あったと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3780簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
ほ、頬肉が元の位置に戻らなくなったんだがどうしてくれる・・・!
甘々咲マリおいしゅうございました!
3.100名前が無い程度の能力削除
搾乳プレイを削除するだなんて正気じゃない!
この駄メイドかわいすぎる 一人くださいw
5.80風峰削除
さくまり!(挨拶)
咲マリはもっと流行るべき、超同意!
正気に戻るなんてとんでもない!待ってますよww
13.100煉獄削除
ほのぼのとしているというか、暖かい雰囲気があって良かったです。
駄々っ子してる咲夜さんとか抱きつく魔理沙とか可愛いですねぇ……。
15.100名前が無い程度の能力削除
さくまり!(ry

この咲マリは見ててほのぼのするw
というか甘くて2828せざるを(ry

咲マリはもっと流行るべき(キリッ
28.100名前が無い程度の能力削除
あんまぁーい!!
駄々っ子咲夜さんがかわいすぎてニヤニヤしてしまいましたよ!

さて向こうで授乳プレイをお待ちしておりますよフフフ
30.80名前が無い程度の能力削除
いいね、甘ったるいね
お口直しにミルクが欲しいな
32.100名前が無い程度の能力削除
これは良いものだ
36.100名前が無い程度の能力削除
なんなんだこのメイドと魔法使いは……可愛いすぎる
37.70名前が無い程度の能力削除
塩! 塩を持って来い!
このままでは萌え死んでしまう……かはっ
38.90名前を忘れた程度の能力削除
さくまりっ!(ry
実は甘えたい魔理沙に、オフだとはっちゃける咲夜さん、これはいい。
削除したプレイはともかく、続きを書くように。
100点はそれまでお預けです。
46.100名前が無い程度の能力削除
さくまり!
駄メイドが可愛すぎる……とりあえずキムチくれ!
52.100名前が無い程度の能力削除
この二人がドストライクだった(吐血
57.100名前が無い程度の能力削除
…誰か岩塩を持っとらんかね。
61.100ぺ・四潤削除
この咲夜さんが可愛すぎて息が苦しい……
この魔理沙の癖は……二人で一緒に寝てたら無意識ちゅっちゅが発生するのか?
続きをぜひお願いします!
63.100えまのん削除
なにこの駄メイドと甘えんぼうかわいい
消した分はこっちでは無理でもアッチでは書けるので待ってますw
66.100削除
さくまりです
これから続きにいっていますうへへへへへ
71.100名前が無い程度の能力削除
最新を見る前に来てみたものの、いやはや、これで充分すぎるほど糖分摂取した上でこれから更に糖分摂取しに行かなきゃならんとは……氏ぬかもw
75.100名前が無い程度の能力削除
さくまり!(挨拶)
GJ!
81.100名前が無い程度の能力削除
なんぞこれ~~~~~~~!
うほ!イイサクマリ!
84.100名前が無い程度の能力削除
あまい・・・
98.100完熟オレンジ削除
授乳プレイがないとはどういうことですか(憤怒)
それを抜きにしてもあっまいSSご馳走様です。