Coolier - 新生・東方創想話

原始の闇

2010/05/06 13:06:30
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 世界の始まり、そこにはまだ何もなかった。
人間ができるのは、何億年後の出来事。大陸も海も大気も・・・・・・そこにはなかった。
「ここに一つの国を創ろう」
 そういって姿を現したのが、創造神たる父だった。父は、その力により次々と国を創っていく。
そして、国を照らし出す光と国を消し去る闇
を創った。闇から、小さな生命が生まれた。
「お前たちは、私の目の届くところにいなさい」
 父は沢山の子供を創った。
 その中の一人、闇を司る子が父の足に抱きついた。
「・・・わたし、お父さまのことが好き」
 私は父から生まれた。人間たちは畏怖と敬意から『原始の闇』と呼ばれていた。


 日食の刻。光は一時眠りについた。
「ああ、真っ暗だ」人間ちは、太陽の眠りに嘆いた。
そのとき、闇が蠢いた。
外を歩く人間の前に黒い影が現れた。
「あなたは、食べてもいい人間?」
 その影に人間たちは泣き叫び命乞いをする。影は無情にも闇で人間を飲み込んでいった。
・・・・そこに、なにもない。
 それが、何百年も続いてとうとう父の耳に届いてしまった。
 父は『闇』を呼んでつぶやいた。
「お前がやっているのか?」
闇は俯いたまま頭を上げれない。
「そんなこと・・・・・・知りません」
父の悲しい顔がそこにあった。全知の父の前では、何を言ってもどうにもならない
ことは解っていた。私は黒い涙をながして父の前に跪いた。
父は私に人の姿を与えて、何万年ものあいだ幽閉されることになった。
そこは闇そのもの。自分の存在が曖昧になる場所で精神を破壊するのに
時間はかからなかった。

 幽閉されてから数千年と五十余年がたった頃、不思議な来客があった。
 その時にはもう、壁を掻き毟って爪は剥げ落ち、髪も顔も・・・見られないほどだった。
「・・・・・・」
 顔を上げるとうっすらとだが、光が顔を掠めた。
「なんてこと・・・・・・こんな所に・・・・光なんて」
 光はもう見たくない。しかし、何千年も見ていない暖かいそれを涙がつたう。
 手を伸ばそうとしたとき、光が割れた。
「あなたが幽閉されている『原始の闇』ね」
 割れた隙間から一人の少女が上半身だけをだして現れた。
 誰だと聞くと、とても可笑しそうに笑った。
「しがない隙間妖怪」
「ようかい?」
 これが友人、八雲紫との出会いだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 山奥の開けた土地に、広大な敷地をもった日本屋敷があった。
ここは、白玉楼。西行寺が治める神聖な土地だった。
 屋敷の奥で、扇を片手に巨大な桜の前で舞う少女がいた。その近くで、隙間に腰掛ける紫がいる。
 舞がひとしきり終わる頃を見て紫は、少女に声をかけた。
「由々子・・・終わった?」
 由々子は紫に向って、疲れたように頷く。
 紫は安心すると、巨大な桜を見上げた。由々子も紫の隣に立って汗をぬぐう。
「この化け物桜はまだ、おとなしいようね」
「ええ。これも、私のおかげよ。でも、この『西行妖』の封印も年々弱くなっているわ」
「大丈夫よ、由々子。わたしもいるからね」
「・・・・・・」
紫は由々子の扇を取ると可笑しそうに口にあてた。
「由々子は心配症ね」
由々子の手を取って目を見つめた。
「だからね、この化け物桜は私たち二人で封印するのよ。私は別に人間が死のうと関係な
いけど貴女との約束だからね」
 由々子は微笑みながら目の前にある『西行妖』を見つめた。覚悟をした目で・・・・・・。

――『西行妖』――
 西行寺の当主が代々封じてきた妖怪桜。由々子は一度だけ満開になった西行妖を
見たことがある。先代の当主。由々子の父親が死んだ日だ。
 満開の桜の下で首を切り事切れいていた。
「阿・・・嗚呼・・・亞・・ああ」
由々子はふるえが止まらなかった。ただ、恐ろしかった。恐ろしい程、美しい桜が
あった。この時、すでに魂は奪われていたのかも知れない。
 妖怪桜はすぐに枯れてしまった。しかし、それ以来、由々子にはあらゆる死が見えるようになった。
――― ― ―――――   ――――――  ―――― ―――― ―――― ―――――― ―――
 胸騒ぎに目が覚めた。
「・・・・・・・」
 空気が張りつめ、鼓動が早くなる。
「咲く」
 由々子は、扇と刀を手にして飛び出した。

『西行妖』は禍々しく満開だった。あの頃と同じ、恐ろしい程、美しかった。
「もう、終わりにしましょう」
 西行寺由々子は紫との出会いを想う。
「はじめまして・・・・・・か」
「うん。どうしたのよ」
 由々子は当然紫に抱きついた。
「紫は、私にとって大事な親友。だから、伝えておきたいの」
 次の『西行妖』が満開の時、『西行妖』を封印するわ。
「そうね、私にも手伝わせなさいよ」
 二人は笑いあった。

「・・・・・」
 走馬灯だったのかもしれない。
「ごめんね・・・・ゆかり」


『西行妖』が満開になるのにそんなに時間はかからなかった。
 紫は飛び出した。
「由々子。封印するわよ」
 紫が『西行妖』の前に来た時、一人の少女がいた。
「・・・・」
 無表情にその少女を見た。
「そ・・んな・・・」
 西行寺由々子は、まるで蝶がはばたいているように血を流して眠る。
「馬鹿な娘ね・・・」
 紫は亡骸を抱いて泣いた。由々子の亡骸を使い・・・・・・紫は『西行妖』を永遠に封印した。
「永久に眠れ!!」


『原始の闇』は、紫を見た。
「隙間妖怪さん。彼女はどうなったの」
「今、幽々子は幻想卿にいるわ」
「幻想卿?」
「そうよ。幻想に消えた夢の楽園」
 『原始の闇』は幻想卿に思いを馳せた。
「私も行きたいな。その楽園に・・・・・・」
紫は『原始の闇』に赤いリボンを一条渡した。
「これは、封印の札。貴女の力は大き過ぎるから」
「封印したら出られるの」
 外にはもう父はいない。新しい私は、父の創ったわたしではない。
私は、ルーミアという名前を貰った。
そして、楽園へ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 夏も盛り、太陽は高く昇り幻想卿を照らした。
「今日も暑いわね」
 博霊の巫女は汗を拭きながら境内を掃除する。
「霊夢、遊びに来たぜ」
「遊びに来たんなら手伝ってよね、魔理沙。聞いてる」
「聞いてないぜ」
 夏の太陽は一段と強くなった。

 紅い屋敷。紅魔館の広間。
「咲夜・・・準備はできているわね」
「はい。お嬢さま」
 窓の少ない紅い屋敷が動きだした。その日から紅い霧が幻想卿を覆い尽くした。



 ルーミアは、紅く暗い世界で両手を大きく開く。
「でも、何で両手を広げてるんだ?」
「『聖者は十字架に磔られました』に見えない」
「いや。『人間は十進法を採用しました』に見えるぜ」

「あなたは食べてもいい人種」
「こんなところに彷徨っているのは、食べていいのよ」
「そーなのかー」

 自分より強いものがいる。『原始の闇』は、満足そうに微笑んだ。




        
          ー終ー
絶対誰かが似たような話を書いてたでしょうね。でも、私は書いてみました。
雛菊
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コメント



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8.30v削除
ひとまず誤字報告
博霊(博麗)
幻想卿(幻想郷)
意図されていたら申し訳ない。由々子(幽々子)

「原初の闇と紫」「由々子と紫」そして「紅魔郷」と三つの構成になっているようですが、これらを別々にしても良かったのではないかと思いました。
あるいは、より3つを繋げている意味を、例えば原初の闇の心情を描写する事で強めてみては如何でしょうか。
読者は文章から様々な情景や心情を想像するものですが、すみません。自分は、文量を増やすためだけに繋げた、という印象を持ちました。
想像を掻き立てるスイッチである描写は作者だのみです……。