Coolier - 新生・東方創想話

魔法少女マジ狩るフラン-Magic Candy

2010/05/05 05:43:48
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 紅魔館地下に存在する広大な大図書館、そこに集まったのはご存知、フラン、こいし、小傘、早苗の魔法少女関係者である。
 ひとつの机に集まって他愛も無い話に花を咲かせていると、もう一人の魔法少女関係者の小悪魔が、人数分の紅茶を運んできた。

 「話がはずんでますねぇ。何のお話をなさってるんですか?」
 「あぁ、小悪魔さん。実は、私が持ってたカードゲームの話題でちょっと」
 「なるほど、アレですね」
 「えぇ、アレです」

 にっこりと紅茶を受け取りながら、早苗は楽しげに頷く。
 もともと、魔法少女稼業にかかわり始めてからというもの、こうやって皆でひとつの場所に集まることが多くなった。
 その際、早苗が持ってきた外の世界の道具で遊ぶことも多くなり、今はこうやってその話題で楽しく談笑するのも常になっていたのだ。

 「だからさぁ、小傘のスクラップデッキには下級の火力が足りないんだって」
 「うぅ、フランのドラグニティだって似たようなものなのにぃ」

 そして、もっとも楽しんでいたりするのがフランと小傘の両名だったりするのだが。
 昔じゃ考えられないですねぇとなんだかしんみりしそうになった気持ちを払拭するように、小悪魔はブンブンと首を振ってその考えを追い出した。
 昔は昔、今は今。そこで彼女が楽しげに笑っているならそれでいいじゃないかと納得して、いつものようににっこりと笑顔を浮かべる。

 「はい、妹様も小傘さんも、それからこいしちゃんも紅茶をどうぞー」

 能天気な声で紅茶を並べていけば、皆が「ありがとう」と言葉にしてくれて、そんな些細なことがなんだか嬉しい。
 小悪魔にとってしてみれば、皆が楽しそうに笑っていてくれればそれでいい。何事も面白おかしく楽しまなきゃ人生は損なのである。
 もっとも、小悪魔の場合はそのためなら悪戯も辞さないから性質が悪かったりするのだが、まぁソレはさておき。

 「そーいえば、私たちって魔法少女として大事なものを忘れてますよねー。魔法少女にとって致命的に足りないものがありますよ」
 「ほへ? そうなの早苗?」

 のんびりとした口調で言葉にした早苗に、紅茶を飲み始めたこいしが不思議そうに問い返す。
 「ハイ」と風祝が満面の笑顔で頷いているのを見て、ソレまで話していたフランと小傘も不思議そうに首を傾げた。
 魔法少女を続けて随分とたつが、その自分たちに足りないものは何なのか。
 それがわからず、やはり彼女たちは首を傾げるしかないのである。

 「うーん、私たちに足りないものねぇ。小悪魔はわかるの?」
 「もちろんでごぜぇますですだよ妹様」
 「ですだよ!?」

 フランのツッコミもなんのその、柳の如く受け流した小悪魔は、人差し指をぴんっと立ててにこやかに一言。

 「ズバリ、変身です!!」
 「変死!? なんて素敵な響き!!」
 「いやいや、こいしソレ違うから。最後の「ん」が抜けてるってば。変身だよ、変身」

 自信満々に言い切った小悪魔の言葉に目を輝かせるこいしに、冷や汗流しながらフランが訂正込みでツッコミをひとつ。
 「しかし、変身ねぇ」などとぼやきながら、フランは椅子に背中を預けると考え込んだ。

 「変身って言っても、私は蝙蝠になるぐらいしか出来ないよ?」
 「いえいえ、そういう変身ではなくてですね、普段の衣装から魔法少女衣装へとコスチュームチェンジすることを言うのです。魔法少女といえばやっぱりコレですよ!」

 フランの言葉に答えたのは早苗である。
 一体何がそんなに彼女を熱意へと駆り立てるのか、力いっぱいに説明する早苗の表情はこれでもかというほどに輝いていた。
 そして「わかる、わかりますよ早苗さん!!」などとグッと拳を握りしめる小悪魔。この二人、妙なところで似たもの同士のようである。
 そんな様子に苦笑する小傘と、我関せずなこいし、そして呆れたようなフラン達の表情には、二人とも気づく様子が無いのは、ある意味で彼女たちにとっては幸せだったのかもしれない。

 「で、具体的にどうするのさ、その変身って?」

 それでも、なんだかんだと乗ってあげるフランはある意味で慈愛に満ち溢れているのかもしれなかった。
 本当は「どうせやらされるんだろうなー」という諦めから来る対応だったりするのだから、世の中は無情で満ち溢れているのかもしれない。
 そんな彼女の心情に気がついているのやらいないのやら、小悪魔は実に楽しげに言葉を紡ぎだす。

 「大抵は魔法の言葉を唱えると変身したりしますよねー。例えるなら『パァァァァァイル・フォォォォウメイション!!』とか」
 「いや、なんか良くわかんないけどさ。ソレ絶対違うよね? 間違いなく違うよね? 香ばしい鋼の匂いがプンプンするんだけど」

 彼女の出した例に嫌なものを感じてか、真顔で手を横に振って冷静なツッコミをこぼすフラン嬢。
 フランも小悪魔との付き合いは長いもので、こういった感じで時たま嫌な直感が働くことがあるのである。今回はその例だ。
 そんな彼女たちのやり取りを見つつ、小傘は何か思い出したように早苗に言葉をかけていた。

 「ねぇ、早苗。早苗の持ってたロボットアニメにあの台詞叫んで変身する人いなかったっけ?」
 「あ、私も覚えてるわ。なんかこうすごい格好してるお兄さんだよね?」
 「シー!! 駄目ですよ小傘さんこいしさん、もうちょっとでフランさんが騙されそうですからお静かに!」
 「騙されねーからねッ!? 今のやり取りのどこに騙されてる要素があったのさ!!? 目ぇ腐ってんのこの風祝はっ!!?」

 ひそひそ会話する三人……というよりも、むしろ早苗に対して半ば怒り混じりのツッコミが飛んでくる。
 そんな彼女が面白かったのか、「こぁ~っこぁっこぁっこぁっこぁっ!」と珍妙な笑い声を上げる小悪魔に、ギラリとフランが睨みつけた。
 大抵の相手ならすくみ上がるような眼光に晒されながらも、平然としている小悪魔はある意味で大物なのかもしれない。

 「変身、したくありませんか?」
 「別に今のままでもいーです! わざわざそこまでする必要も無いでしょ?」
 「うーん、残念ですねぇ」

 むーっと唸りながら困ったように呟く小悪魔を見て、奇妙な違和感に襲われる。
 おかしい。いつもならもうちょっとしつこいはずなのに、今日はやけにあっさりと引いた。
 これは、何かある。そう半ば確信にも似たフランの予感は、小悪魔が次に浮かべた満面の笑顔で確実なものへと変貌する。

 「しかーし、そんなこともあろうかとこんなものを用意してみましたー!!」

 パンパカパーンなどと自分の口で口走りながら、小悪魔が懐からひとつのビンを取り出した。
 ソレを怪訝そうな表情で見るフランとは裏腹に、「おぉ!」と歓声を上げる風祝。
 そして不思議そうな顔をする小傘とこいしをよそに、小悪魔は高らかにその名を口にする。

 「名づけて、魔法の飴『マジックドロップ』! お子様なあなたも瞬く間に大人の女性に、大人なあなたも瞬く間に若いあなたに戻れる至高の珍品です!!」
 「マジですか! 小悪魔さんさすがですね、わかってらっしゃいます!!」
 「ねぇ早苗、喜んでるところ悪いけどさ、今さっき小悪魔さらっと珍品とかいったんだけど。ものすごく信用できないよ」

 明らかな怪しいアイテムの登場に早苗のテンションが鰻上りだが、逆にフランのテンションは駄々下がり中。
 しかし、こいしと小傘の二人は興味津々なようで、その飴が詰め込まれたビンに視線を注いでいる。
 そんな中、やっぱりフランの発言が不満だったのか、小悪魔はぷーッと頬を膨らませて抗議の視線を彼女に向けた。

 「信用できないとは心外です妹様、私が考案し、パチュリー様と八意永琳様の共同で作り上げたこの飴が信用できませんか!!?」
 「信用できる要素が欠片たりとも見つからないんですけど!? 考案したのが小悪魔ってだけでも信用ならないのに作ったのマッドだらけじゃん!!?」

 おおよそ信用できる要素が見つからずに思いっきりツッコミを入れるフラン。
 何しろ、考案が小悪魔、そして作ったのがあのパチュリー・ノーレッジと八意永琳の両名である。
 腕は確かだが、何かとマッドな性分のある二人が作った代物が、完全に安心できないと思うのも仕方が無いわけで。

 「普段の行動がアレだからね、皆」
 「フォローできないよね。……悪いとは思うけど」

 そして中々に酷いことを口走るこいしと、なんだか申し訳なさそうな小傘の声。
 魔法少女組はどうやらフランと同意見らしく、のんびりと紅茶を楽しんでいる。
 一方、早苗はというと今の話を聞いてもまったく引く様子は無く、むしろ一層と目を輝かせていた。
 流石は妖怪相手にも畏れぬ風祝、多少のリスクなんぞはなっから頭には入っちゃいねぇのである。

 「まぁまぁ妹様、この魔法のキャンディーを舐めればあら不思議、あなたも大人の女性へと仲間入りですよ! まぁ、効果は10分ほどで切れちゃうんですけどねー」
 「……本当に大丈夫なんでしょうね?」
 「そこはぬかりありません。私が安全を保証しますよ」

 小悪魔の言葉を受け、むーっとしばらく考え込んだフランだったが、やがて諦めたように深いため息をひとつついた。
 なんだかんだで小悪魔とは長い付き合いだし、彼女がここまで言うのなら安全面は確かに大丈夫なのだろう。
 諦めが肝心とはよく言うが、こんなときのことを言うのかなぁなんてぼんやりと考えたフランは、小悪魔に視線を向ける。

 「わかったわよ、使えばいいんでしょ、使えば」
 「さすが妹様、だから妹様って大好きです!!」
 「はいはい、おだてるのはいいからさー。年齢上げる飴よろしく」

 まぁ、諦めついでに、自分が大人になった時の姿が気になるというのも、わりと混じってはいただろうか。
 恐ろしさ半分、興味半分といった感じで、フランは小悪魔から赤色の飴を受け取った。
 その後も小悪魔はこいしに赤い飴を、小傘には青い飴を配っていく。
 そして、早苗はというと飴を受け取った三人が飴を舐めるのを今か今かと待ちわびてワクワクしていたりする。
 そんな早苗の様子に苦笑する者、笑顔を見せる者、呆れた顔を見せる者と様々だったが、そんな事を気にする風祝でも無い。

 「さぁ、どうせなら皆さん一気に逝きましょう!!」
 「ねぇ小悪魔、今なんかニュアンス違った気がするんだけど」
 「気のせいでございます妹様、さぁ皆さん大人の階段へ、レッツチャレンジ!」

 テンション高いなぁなどと思ったが、いつもの事かとため息をひとつついて、飴玉を口に放る。
 ソレにあわせて他の二人も飴を頬張り、コロコロと舌先で嘗め回した。

 そうして―――現れた変化は劇的であった。

 フラン達の体が淡い光に包まれる。一瞬、驚く彼女たちだったが対して小悪魔のほうはというとニコニコと笑顔のまま。
 やがて姿が見えなくなるまで眩い光を放ち始めた三人。そしてソレが収まったその後には―――

 「……ほわ~」
 「すごい……本当に大人になってる」

 二十歳前後の姿にまで成長したフランとこいしの姿であった。
 フランは西洋人らしい背の高さと、ソレでいて豊満な胸とくびれた腰、どれをとっても女性の魅力を秘めた姿。
 対するこいしも背こそそこまで高くないが、東洋人らしいバランスのいいスタイルは十分に女性の魅力を秘めたものだった。
 服も成長した姿に合わせてしっかりと大きくなっているのは、流石はパチュリー・ノーレッジと八意永琳共同の魔法の飴といったところか。
 その姿に、満足そうに頷いているのは小悪魔である。にっこりと笑顔を浮かべ、感無量といった様子で彼女たちに言葉をかける。

 「とっても素敵ですよ、皆さん」
 「すごいよ小悪魔! 私、初めてあなたのこと見直したかも!!」
 「フランの言うとおりだね。コレはちょっと嬉しいかも」
 「いやー、それほどでもー」

 珍しく褒められたせいか、照れくさそうに頬を赤らめて頬をかく小悪魔。
 彼女にしては珍しい表情だが、それだけ褒められて嬉しかったということなんだろう。
 そんな小悪魔の表情に満足したのか、フランはうんうんと頷くと後ろを振り返り―――

 「ねぇ、小傘もそう思うで……」

 紡ごうとした言葉が、その光景に押し止められた。
 絶句したフランの視線の先、そこに広がっていた光景は……。

 「な、なんで私だけ小さくなってんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」

 いつもの16歳前後の姿の小傘ではなく、明らかに10歳未満の姿をした小傘の姿であった。
 ピタリと硬直する一同。その中で「あらあら」と困ったように頬に手を添える元凶こと小悪魔。
 そして何を思いついたのやら、ポンッと手を叩くと小傘の傍に歩み寄り、ごにょごにょと内緒話。
 不安そうに視線を向ける小傘にも、小悪魔は非常にいい笑顔でサムズアップしたのみ。
 どこか諦めたようにため息をついた彼女は、てくてくと早苗の方まで歩み寄ると、彼女の服の裾を掴み、涙目上目遣い舌たらずな言葉を紡ぐと。

 「お姉ちゃん、こわいよぉ」

 風祝から信仰心という名の鼻血が噴出した。

 「ふぉ、ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!! 小傘さんふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!?」
 「にゃ、にゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 「落ち着けぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 辛抱たまらんといわんばかりに小傘に襲い掛かる早苗。
 そして涙目で悲鳴を上げる小傘。
 今まさに魔の手に晒されようとした小傘を守るため、風祝をレーヴァテインでホームランするフランドール。
 「おうふぅっ!!?」と珍妙な悲鳴を残し、ずったんばったんと勢い良く吹っ飛んで図書館のドアにゴールインする風祝。
 風祝の完全沈黙を確認した後、ギロリと鋭い眼光が小悪魔に向けられる。
 成長したことで一層威圧感を放つようになったその視線にも、あいも変わらず小悪魔はかんらかんらと笑うのみ。

 「どういうことコレ?」
 「あれ? 言いませんでしたっけ? 赤いのが年齢を上げる飴で、小傘さんの舐めた青いのが年齢を下げる飴なんですよ」
 「いや、それは聞いて無いから。青いのが年齢を下げるなんて一言も聞いて無いから。ていうか、わざと小傘に青いの渡したでしょ小悪魔」
 「ありゃ、わかりましたか?」
 「何年小悪魔と付き合ってると思ってんの。そのぐらいの意図は読めるよ」

 ため息をひとつついて言葉にすれば、小悪魔は満足そうに笑みを浮かべるのみ。
 そんな彼女たちの様子にこいしと小傘が苦笑して、そのすぐ後に早苗が復活。
 暴走エ○ァ初号機のごとき動きと叫びで小傘に迫り、再び騒がしくも慌しい空間に早変わり。



 その光景を、本棚の影からひとつの人影が覗き込んでいたことには、誰一人として気がつかなかった。



 ▼



 さて、そんなことがあった日の翌日のことである。
 結局あの後、騒ぎに騒いでいたらすっかりと遅くなってしまい、全員紅魔館に泊まることになり、皆フランの部屋で一泊した。
 そして、彼女たちが目を覚まして仲良く談笑していたところに、慌しい様子で小悪魔が部屋に入り込んできたのだ。

 「た、大変です妹様!!」
 「ほへ? どうしたのさ小悪魔?」

 珍しく慌てた様子の小悪魔を不思議に思って、フランは小首を傾げて問い返した。
 早苗や小傘たちも同じ気持ちだったのか、フランと同じように首を傾げてどこか不思議そうだ。
 よっぽど急いでいたのだろう。息も絶え絶えで全力疾走していたことが窺えるその様子を見れば、彼女がどれだけ焦っているかがわかるというものだろう。

 「マジックドロップが、誰かに盗まれちゃったんです!!」
 「盗まれたって……別にいいじゃない。確かに、手間とかは掛かってたかもしれないけど、年齢を変えれるだけじゃそこまで危険とも思えないし……」
 「そういうわけにも行かないんです、妹様! もし、アレを盗んだ人がアタリ玉を舐めてしまったら……」
 「……アタリ玉?」

 昨日、まったく聞かなかった言葉に、猛烈に嫌な予感が膨れ上がっていくのを止められない。
 口の端が引くつき、「まさか」と小さく不安をこぼしたその直後。



 ―――耳を劈くような、激しい破砕音が上の階から響き渡った。



 「ほわ!?」
 「な、なんですか一体!?」
 「上の方からだよね、今の」

 小傘がびっくりしたように声をこぼし、早苗も驚きを隠さずに席から立つ。こいしも驚いたのか席を立ち、音がした上の階に視線を送っていた。
 これは、何かが起こっているのは間違いない。そう判断したフランは小悪魔に視線を送って、彼女が頷いたのを見るや否や部屋から躍り出た。
 辺りにはキャーキャーと妖精メイドが逃げ惑う声、それだけで事態の深刻さが伺える。
 皆ついてきてくれているのだろう、後ろから聞こえてくる聞き馴染んだ足音に、フランは嬉しく思う気持ちを押しとどめて足を速める。

 長い長い階段に差し掛かり、登るのも面倒だと皆が飛行で一気に飛び去っていく。
 階段を抜けた先、そこに広がったのは満天の夜空であった。
 本来あるはずの天井も、石作りの壁も、今は無残にもあたりに散らばって瓦礫の山と貸し、紅魔館は地下を残して跡形もなく崩れ去ってしまっている。
 その瓦礫の中に―――気絶している十六夜咲夜を庇うように、背に巨大な瓦礫を背負ったまま仁王立ちする紅美鈴の姿があった。

 「咲夜! 美鈴!!?」
 「咲夜さん! 美鈴さん!!?」

 フランと小悪魔が慌てて駆け寄り、彼女たちの様子を確かめてみるが、二人とも意識がないものの命に別状はなさそうでほっと一安心。
 瓦礫をどかし、美鈴を咲夜の隣に寝かせた小悪魔は彼女たちが負った傷を治すために魔法をかけ始める。
 命に別状は無い。それは、不幸中の幸いだった。

 けれど、コレは一体誰の仕業なのかとフランの中でぐつぐつとマグマのような怒りが湧き上がってくる。
 二人に怪我を負わせ、紅魔館を吹き飛ばした犯人を見つけ出し、すぐさまに縊り殺したいと思うほどの憎悪が湧き上がってくるのが感じられた。
 ソレに蓋をして、すぅっと静かに深呼吸。昔はこのまま感情に流され、狂気に呑まれて暴れまわっていただろうが、今の自分は昔の自分ではないのだ。
 何とか落ち着きを取り戻し、改めて咲夜と美鈴に視線を送れば、傷は徐々に治っていき、今は安らかな寝息すら立てている。
 ソレを見て良かったと、フランは心の底からそう思えた。

 「あれ? これ昨日の飴が入ってた瓶じゃないですか小傘さん?」
 「あ、本当だ。でも空っぽだね」

 ふと、後ろから声が聞こえてそちらに振り向けば、早苗の手には空の瓶があり、ソレをどこか残念そうに小傘が眺めている。
 吹き飛んだ紅魔館。空っぽの瓶。小悪魔の言うアタリ玉。そして先ほどから姿の見えないフランの姉。

 「……まさか」
 「あー、うん。そのまさかっぽいよ」

 とんでもない不安に襲われたフランがポツリとこぼした言葉に、こいしが冷や汗流しながら、どこか同情の感情が混じった言葉をフランに紡ぐ。
 半ば諦めにもにた気持ちで、フランはこいしの視線の先を目で追っていく。

 そこにいたのは。

 「ふ、ふふふふ、ふぁーはっはっはっはっはっはっはっは!! 世界よ、私に跪けぇぇぇぇぇ!!」

 トンでもねぇ音量で盛大に馬鹿笑いをあげる300mを超える巨体のフランの姉、レミリア・スカーレットがそこにいた。
 ガ○バスターもびっくりの巨大さである。しかも台詞がものすごい悪の親玉っぽい。
 ぐらりと、めまいと同時に頭痛が襲い掛かってきた。小悪魔のせいで大分耐性がついたと思っていたが、いくらなんでもコレは無い。

 ツッコミたい。ツッコミたいがだがしかし、ツッコミ所が多すぎてツッコミ切れなかった。
 ふと、肩を叩かれるような感覚がしてそちらに振り向けば、なんだか生暖かい目で皆から同情された。涙がちょちょ切れそうである。

 「小悪魔、アレどういうこと?」

 かろうじて絞り出した声でそう問うて見れば、彼女は咲夜と美鈴を魔法で癒しながら言葉を紡いでいく。

 「アレは、おそらくアタリ玉を舐めたせいだと思われます」
 「アタリ玉?」
 「はい、こいしさん。あの飴の中にはアタリ玉と呼ばれるものが入っていまして、お嬢様はソレを舐めてしまったと思われます。
 アタリ玉にはいくつか種類があるのですが、お嬢様がお舐めになられたのは恐らく巨大な悪の親玉になるアタリの飴玉……略して悪玉です!!」
 「なんか急に魔法のアイテムからコレステロールみたいな名前になったんだけど。なんで魔法のアイテムの中にそんなコレステロールみたいな名前の代物が入ってんのさ」

 冷静なツッコミをひとつこぼし、「ていうかさぁ」とフランは小悪魔に視線を向け。

 「結局原因お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 「ほぐぅあ!!?」

 華麗なローリングソバットを小悪魔の後頭部に叩き込んだのであった。
 そのあまりの綺麗なソバットに、『おぉ~!』と感嘆の声をこぼす小傘と早苗とこいしの三人。
 そのままぶっ倒れそうになった小悪魔の頭を引っつかみ、ぎりぎりと締め上げながらこちらを振り向かせるフランの表情には立派な青筋が浮かんでおいでだった。

 「昨日あなたを見直した私が馬鹿だったよ!! なんでそんな物騒なもん作っちゃったのよ!!?」
 「いやその、作るときにパチュリー様と永琳さんで『誰かが巨大化したら面白そうですねー』なんて話がはずんじゃいまして、そのままの勢いで一個だけ作っちゃったんです」
 「三人ともグルかよ!!? 一番最悪なパターンじゃないのそれ!!?」
 「わ、私もまさかここまで巨大化するとは思わなかったんですよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 小悪魔にしては珍しく、本気で反省の色が感じられる涙目だった。
 さすがに紅魔館を丸ごと吹っ飛ばす大惨事になるとは思わなかったようで、巨大化したサイズも本人曰くまったくの想定外らしい。
 恐ろしきは、パチュリーと八意永琳の技術力ということか。マッドはコレだから始末におえねぇのである。
 そんなやり取りをしていると、離れたところで瓦礫がガラガラと持ち上がり、崩れ落ちる。
 そこに現れたのは、傷だらけになりながらも立ち上がる人形遣い、アリス・マーガトロイドの姿であった。

 「ふふ、まだ立ち上がるのね人形遣い。あなたに勝ち目が無いのは最早明白ではなくて?」
 「……確かに今の私じゃあなたにはかなわないわ。けれどね、諦めるわけにはいかないのよ。私には―――最高の切り札(カード)がここにあるのだから!!」
 「……あれ、なにこのデジャヴ」

 なんだかシリアスっぽく進む会話にデジャヴを覚えて冷や汗混じりにポツリとフランが一言。
 しかし、そんな彼女の言葉など聞こえなかったかのようにアリスは傷だらけだというのに戦意を失わずに不敵に笑みをこぼした。
 文字通りの巨大な敵を前にしても動じない姿は、確かにカッコいいかもしれない。静かに腕を頭上に掲げ、彼女は叫ぶ。
 そのスペルカードの名を。己が命を託した一枚のカードに、命を吹き込むように。

 パチンと、空気をはじくように指を鳴らした。

 「出ろぉぉぉぉ! ゴリアテェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 はたして、それは本当にスペルカードの宣言だったのか。
 彼女の叫びに呼応するように、空でキラリと何かが光った。
 一体なんだと皆が思う間もなく、超高速で飛来したのは一体の人形―――いや、それを人形と呼称することすらおこがましい。
 それはレミリアと同じという以前よりもはるかな巨体で、両手には紅魔館すらも真っ二つに出来るであろう巨大な剣、ソイツは人形と呼ぶには余りにも巨大すぎた。

 呆然とするフラン達をよそに、「とうッ!!」と元気のいい掛け声でジャンプするアリス。
 同時に人形の胸部がパカッと音を立てて開き、彼女は綺麗にジャストオン。
 直後、人形の目が命を宿したようにキュピーンッと輝き、両腕の剣を大きく振りかぶり、突きつけるように剣を構えた。

 『あはははははははは!! 馴染む、実に馴染むわこの体ぁー!!』
 「うわーい懐かしいー。……つーか覚えてる人いるの、この展開?」

 色々アレな叫びがこだまする中、フランは遠い目をしてポツリと一言。
 以前にもあんなことあったなぁと懐かしくもほろ苦い思い出を思い返していると、すぐさま目の前で巨大人形と巨大レミリアがぶつかり合う。
 ていうか、どうしたのアリスそのテンション。とか突っ込む気力もなく、皆も同じ気持ちなのか呆然と目の前の怪獣大決戦に視線を移している。

 「妹様、魔法少女としてアリスさんに加勢しましょう!!」
 「いや、どないせーっちゅうねん」

 小悪魔の言葉に、フランの至極全うな反論が飛び出した。
 確かに、10mとか20mぐらいならフランでも勢い良く加勢に飛び出したことだろう。
 だがしかし、考えてみて欲しい。相手は軽く見積もっても300mの巨体である。焼け石に水になるのが結果として見え見えだった。
 いかにフランドールといえど、さすがにこれほどの圧倒的な質量差はいかんともしがたい。
 能力を使えば話は別だろうが、その場合間違いなくレミリアが亡き者になる。さすがにそこまでする気にはなれないわけで。

 「ていうか、なんでアリスさんここにいるんですかね?」
 「うーん、図書館に来る途中だったんじゃないかな?」

 早苗の純粋な疑問に答えたのはこいしである。
 確かに、アリスは図書館に来ることが良くあったし、その答えは皆が納得できる返答であった。
 しかし、フランにはまだ納得のいかないことがひとつだけあった。
 その疑問を解消するためにか、フランは目の前で暴れる一人と一体から視線をはずし、ポツリと一言。

 「ていうか、アリスのテンションおかしくない?」
 「大丈夫です、妹様。きっと瓦礫の下敷きになったときに頭を打ったんです!」
 『そっか、なら仕方が無い』
 「大丈夫じゃないよ! 仕方なくも無いんですけど!!? 何で今ので納得しちゃったのさ皆!!?」

 小悪魔の一言に、皆が納得したように頷いてフランだけがイヤイヤと手を横に振りながら全力でツッコミをこぼしている。
 そんな時であった。ズドォォンッと巨大な音とともに地鳴りがして、彼女たちの傍に何か巨大なものが落下した。
 それがあのゴリアテ人形の腕であるということに気づくのは、そう時間は掛からない。
 慌てて皆がそちらに視線を向ければ、左腕を引きちぎられ、顔面の半分が損失し、右足が歪な方向にねじり曲がっているゴリアテ人形の痛ましい姿だった。

 「ふん、噂のゴリアテ人形の力もこの程度? はっきり言って興ざめだわ」
 『甘く見ないで欲しいわね! まだメインカメラがやられただけよ!!』
 「いつその人形が噂になったのよ、聞いたこと無いよそんな噂! ていうかメインカメラどころか足も腕も大損壊じゃないのさ!? いくらなんでも見栄張りすぎだよアリス!!?」
 「ふふ、よく言ったわアリス・マーガトロイド!! 夜の王として、ソレ相応の技で貴様を屠ってやろう!」
 『やってみなさいレミリア・スカーレット! 私の心に勇気が宿る限り、ゴリアテ人形は無敵よ!!』
 「人の話聞いてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!? お姉様ぁぁぁぁぁ!! アリスゥゥゥゥ!! お願いだから私の話聞いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 二人の会話にフランがツッコミを入れるのだが、そんなもん聞こえちゃいねぇのかノリノリでバトルを再開する目の前の近所迷惑の巨大人形と巨大生物。
 キャーキャーと近場の妖精が逃げていくのが気配でわかるし、あの巨体だから恐らく人里からも丸見えであることだろう。
 頭が痛い。ついでに胃も痛い。きっとストレスなんだろうなぁとおもって、不思議と納得してしまって鬱になりそうだった。

 フランがそんな状態だとは露知らず、ガッチリと組み合う二対の巨体。
 そんな状況にもすっかり慣れてきたのか、後ろでは「この後どうしよっかー」などとこいしの暢気な声が聞こえてくる始末。
 すごく泣きたい。もうとにかく全力で泣きたい。夕日に向かってバカヤローって全力で叫びたい。
 しかし、現実は無情にも怪獣大決戦は続くわけで。

 「ふふ、あなたもここまでのようね、人形遣い。あなたを倒し、私はこれから世界を我が物にするわ」
 『そんなことはさせないわよ、レミリア。まさか、ここでジョーカーを切ることになるなんてね!』

 一体何をと、誰もが思った。
 ゴリアテ人形の残された腕が大きく振り上げられ、その腕は―――あろうことか自身の胸を貫いたのだ。
 誰もが、息を呑む。ゴリアテ人形の腕がゆっくりと引きずり出され、その手に握られていたのはドクンドクンと心臓のように明滅する管に繋がれた心臓部とも言うべき動力炉。

 『この魔力炉を暴走させれば、いくらあなたでも無事ではすまないでしょう!?』
 「しょ、正気!?」
 『正気よ、生憎とね! あなたにも教えてあげるわ、このゴリアテ人形の恐ろしさを!!』

 彼女の言葉に、いきなりうろたえ始めたレミリアの様子に誰もが彼女のやろうとしていることを理解する。
 すなわち―――自爆である。
 フランたちもいるのにである。この人形遣い、ちっとも正気じゃなかった。

 「ちょっと待っ―――」

 フランが待ったをかけようとしたがもう遅い。
 光は瞬く間に凝縮し、そして耐え切れなくなったかのように鮮やかな七色の光を携えて辺りに迸る。



 瞬間、音が消えた。



 色が七色に明滅する。



 眩い光に視界が閉じられ、世界が一時外界と遮断される。



 その刹那の後―――巨大な爆発音と衝撃波を伴ってゴリアテ人形は自爆した。



 大地を揺るがし、大気を震わせたゴリアテ人形の自爆。それは、アリスの持てる最後の手段。
 その爆心地の近くにいたフランたちは、なんとか瓦礫を盾にすることで何とかやり過ごしていた。
 ゴリアテ人形もレミリアも空に浮かんでいたことが、彼女たちが爆発をやり過ごせたひとつの要因にはなっていただろう。

 「アリスさん、まさか自爆するなんて……なんてオイシイところを持っていくんですか!」
 「泣きながら言うことなの小悪魔それ!!?」
 「アリスさん、この風祝……あなたのこと5秒間だけ忘れません!」
 「短いよ!!? もう少し覚えててあげて!!? こいしの家のおくうでももうちょっと覚えられてるよ!!?」
 「アリス……ごめん、誰だったか覚えてないや」
 「アンタが一番酷いよこいし!!? 顔ぐらい覚えてあげようよせめてさぁ!!?」
 「そっか、自爆すれば私も人間を驚かせられるのね!!」
 「するなぁぁぁぁぁぁ!! 絶対に自爆しちゃ駄目だからね!!? 自爆したって誰も喜ばないからね!!? フランとの約束だよ小傘!!?」

 皆好き勝手言いたい放題だった。
 あんまりといえばあんまりな台詞の数々に、たまらずフランがツッコミを入れてしまうが、無理らしからぬことだろう。
 ひゅるひゅるぽてりと、誰かがフランの足元に落下する。
 誰だろうとフランが足元に視線を向けると、そこにはアリスがコレでもかというほどの満面の笑みで安らかな寝息を立てていた。
 腹が立ったんで頬を抓ったフランは何も悪くあるまい。

 「ふふふ、ふはははははは!! 自爆するとは驚いたが、ソレも無駄に終わったようね!!」
 「うわーい、さすがお姉様、無意味にしぶてぇ」

 もくもくと上がる煙の中から馬鹿笑いを上げて登場した巨大レミリアに、フランが冷め切った目でポツリと一言。
 何しろ、しぶとさにかけてはフランも認める驚きの生命力である。
 今の爆発で気絶してれば良かったのに、などと妹が薄情なことを思っていたことなど露知らず、レミリアはフッとニヒルに笑う。

 「褒めても何もでないわよフラン」
 「いや、褒めてない」

 ばっさり切り捨てられた。そして思いっきりへこむ巨大レミリア。
 そういう妹べったりなところはちっとも変わって無いらしい。かえって悪質な気がしてフランは盛大なため息をひとつつく。
 だがしかし、この巨大レミリアめげない泣かない挫けない。傷心振り切ってクツクツとあくどい笑みを浮かべ、フランに視線を向ける。

 「まぁいいわ。あなたはそこで見ていなさい、幻想郷が滅ぶその時を!」
 「そうはさせないわ、レミリア・スカーレット!!」
 「ッ誰だ!!?」

 唐突にあがった声に、レミリアが険しい表情で反応した。
 大気を揺るがす大声を上げた彼女とは別に、小悪魔、早苗、こいし、小傘も、何事かと注意深く辺りを見回している。
 ただし、どこぞで聞き覚えのある声にフランだけが「まさか……」と冷や汗を流しながらポツリと一言。

 やがて、巨大なレミリアの眼前の空間が、ぱっくりと切り裂かれ―――

 「世のため人のため、怪しき蝶が夜空を舞う。さぁ、とくと御覧なさい卑しきものよ。魔法少女マジカルゆかりん☆!! ただいま参上!!」

 ビシッと、世界に皹が入った。

 一体、それはどのような感覚か。まるで時が凍りついたと表現すればいいのだろうか。
 冬でもないのに身も凍るような寒さが全員を襲う中、ふりふりフリルで色々な場所が以前の三割増しできわどい衣装に、魔法の杖らしきものを持って現れた大妖怪。
 もう魔法少女っていうかどっかの危ないお店のお姉さんだった。

 そして世界が正常な時間を取り戻す。凍り付いていた時間は緩やかに解けていき、目の前の光景を現実として認識したレミリアは―――

 「ほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!? 目が、目がやられたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 あんまりにもアレな大妖怪の姿にその巨体でごろごろと空中でのた打ち回った。ついでに小悪魔ものた打ち回って呼吸困難に陥ってた。

 「ちょ、あなたもそんなこと言うの吸血鬼!!? 何よ何よ何よ!! 私の魔法少女姿のどこがいけないって言うのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 「誰か、誰か私の目を潰せぇぇぇぇ!! 早く私の目を粉々に粉砕してくれ早くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
 「酷い、酷すぎるわ!! そんなに私のこの姿が酷いって言うのあなた達は!! ゆかりん泣いちゃうぞ☆!!」

 鳥肌が立った。誰がとは言わない。ゆかりん以外の全員がである。
 やがて、レミリアの体がシュルシュルと縮んで行き、元のサイズにまで戻ると息絶えたかのようにピクリとも動かなくなった。
 呆然とするゆかりん。そりゃそうだろう。彼女は登場しただけで戦ってすらいねぇのにこの有様である。

 不意に、肩を叩かれてそちらに視線を向ければ、コレでもかというほどにいい笑顔をした小悪魔がいた。目は瞑ってたが。

 「ありがとう、マジカルゆかりん」
 「え……いや、その……」
 「ありがとうございます、マジカルゆかりん」
 「いや、だから……」
 「ありがとね、マジカルゆかりん」
 「や、だからね……」
 「ありがとう、マジカルゆかりん。わちきは感動したよ」
 「……あー、うん。ありがとう」

 小悪魔、早苗、こいし、小傘に次々とお礼を言われ、言いたいことを封殺されたゆかりんこと八雲紫はこくんと頷いた。
 ちなみに、全員目は瞑ってた。
 そして何事もなかったかのように談笑しながらどこかに歩み去っていく4人。その四人を呆然と見送る紫の肩に、再び誰かが手を置いた。
 そちらのほうに視線を向ければ、慈愛に満ち溢れた微笑を浮かべるフランの姿があった。

 「……飲みに行こう。奢るよ、ゆかりん」

 そのあまりの優しさに、千年余りを生きてきた大妖怪が号泣したとか何とか。
 二人は肩を組み、深夜の時間帯にもかかわらず、ミスティアの屋台に向けて足を向ける。
 フランの背丈が足りなくて半分吊るされた宇宙人ッぽくなってたが、んなこたぁ二人にとっちゃ些細なもんである。



 とある春の日、八雲紫とフランドール・スカーレットの間に友情が芽生えた瞬間だった。



 ▼



 その翌日、屋台で一晩飲み明かしたフランが日傘をさして朝帰りしたとき、そこには信じられない光景が広がっていた。
 昨日、爆発やら何やらで粉微塵となったはずの紅魔館が、すっかりと元通りになっていたのである。
 時間にして僅か一晩。コレで驚くなという方が無理であろう。
 そんな風に呆然としていたフランのところに、小悪魔と咲夜、そして美鈴が歩み寄ってきた。

 「お帰りなさい妹様」
 「え、あ……うん。ただいま」

 思わず生返事をしてしまったが、ソレも無理はあるまい。
 何しろ、いくらなんでも目の前の現実はちょっと許容しづらいところがあるのだ。
 いくら時間を操れる咲夜がいたとしても、さすがに一晩ではどうしようもあるまい。

 「ねぇ、咲夜も美鈴ももう平気なの?」
 「えぇ、大丈夫ですわ妹様。お嬢様も特に異常は見当たらず、今は部屋でお休みになってます」
 「アリスさんも今は客室で眠ってもらってますよ。迷惑かけちゃいましたからね」

 とりあえず、二人の安否が気になったので聞いてみれば、咲夜も美鈴ももうすっかり大丈夫らしい。
 昨日、あれほどの大立ち回りを演じたレミリアとアリスも無事なようで、ホッとしていいんだかなんだか複雑な気分である。

 「小悪魔……」
 「うぅ……今回ばかりは反省してますよぉ。咲夜さんにも怒られたんですから、できればお叱りはもう勘弁してほしいなーと」
 「いや、もうそれはいいよ。なんていうかもう小悪魔に関しては色々と諦めてるし、ソレよりも聞きたいことがあるんだけど」

 フランが言葉にすれば、彼女たちは皆同じように首を傾げた。
 その様子に例の疑問を抱いているのが自分だけらしいことに気がついて、思わず頭痛を覚えたがソレを押しとどめて彼女は言葉にする。

 「昨日更地になったはずなのに、なんでもう昨日と変わらない紅魔館が出来上がってるわけ?」
 「あぁ、そのことですか」

 どこか納得がいったのか、小悪魔はにこやかな笑みを浮かべた。
 晴れやかで、そしてどこか誇らしげに、彼女は謳う様に。

 「パチュリー様が一晩でやってくれました!」



 その後、「数多のロボット入り乱れる世界のどこぞのメカニックかよ!!?」というフランのツッコミが、青い空にむなしく溶けて消えたのであった。
小ネタのつもりで書いたらいつの間にかシリーズ中もっとも長くなってしまいました。
改めてみたら魔法少女まったくして無いですが、楽しんでいただけたなら幸いです。

それでは、今回はこの辺で。

前回の話にコメントしてくださった皆さん、評価してくださった皆さん、本当にありがとうございました。

※誤字の修正と、身長的に不可能ではと指摘された場所をちょっと修正しました。
誤字を指摘してくださったコメント2の方、コチドリさん、それからおかしい場所を指摘してくださったコメント22の方、本当にありがとうございました。
白々燈
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コメント



0.3100簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
アリスがまさかガンダムネタ製造機だったとは……。
なんか今回の話っつーか話が進むにつれてフランちゃんのツッコミが強烈になってる気がします。
むしろ常識人が減ってる……?

いつもの魔法少女シリーズ同様楽しく読めました。また続き頼みます!


誤字訂正
我冠せず→我関せず
3.100名前が無い程度の能力削除
魔法少女新作きた!これでかつる!
相変わらずフランのツッコミは鋭いなぁ。かなり笑わせていただきました!

パイルフォーメイションで私の腹筋が成敗されたwwwww
7.100名前が無い程度の能力削除
パッチェさんはアストナージさん並の仕事の早さだったのか…っ!
アリスのあのシーン、あのBGMが頭に浮かびましたw
9.100薬漬削除
暴走アリスの所為で腹が痛い!
そしてふらんちゃんかわいいよ!!!
10.無評価名前が無い程度の能力削除
スクラップ幻想入りするの早すぎだろw
まだ登場して一ヶ月たってないぞww
12.90名前が無い程度の能力削除
万感の思いを乗せて、この台詞を言わせてもらおう。
B B A 無 理 す ん n(ガオン
14.100ぺ・四潤削除
「魔法少女にとって致命的に足りないものがありますよ」で何の迷いも無く変身シーンと思った俺。直後その通りだったことにビビッたww
でも「服も成長した姿に合わせてしっかりと大きくなって」ってあるぇー。
そこはなぜかキラキラ回転しながら服が一度分解されてから再構成されるんじゃないのー。でも小さくなった場合は服はだぼだぼのままなんですよね。
また魔法少女たたらん小傘の活躍しないかなー。あと、まじかるゆかりんそんなにアレかなぁ……

ところで何を言ってるのか意味がわからないと思いますがとりあえず謝らせてください。
「ごめんなさい。やっぱりツッコミふらんちゃんといえば貴方が最高です!」
19.100名前が無い程度の能力削除
ブラボー…おお…ブラボー!!!
20.100名前が無い程度の能力削除
・・・とりあえず、ゆかりんが健気だったからおk!
21.70名前が無い程度の能力削除
おもしろかった
でもフランちゃん495歳なのに20歳になったら
逆にベドくなるんじゃ
22.100名前が無い程度の能力削除
>二人は肩を組み
身長的に不可能では・・・
いや、ゆかりんが幼化してれば可能・・・か?
謎は尽きないがとりあえずフランが健気可愛いので100点
23.100名前を忘れた程度の能力削除
とりあえず一言だけ。それが全て。
「誰か変身後のフランちゃん描いてぇぇぇぇぇぇぇっ!」
25.100名前が無い程度の能力削除
この話の主役はパチュリーwww
28.90名前が無い程度の能力削除
レミリアが飲んだ当たり玉以外の薬がどこに行ったのか分からないのが少し残念かな?
29.100名前が無い程度の能力削除
続き有難う!
すっげーデジャヴと思ったらフランちゃんに先にツッコまれた!
相変わらず悪戯な小悪魔と壊れた早苗さんと、何より一人でツッコミを頑張るフランちゃんが素敵でした。
小悪魔の笑い方が変わってなくて最高w
大人のフランちゃん見てみたい!!
30.100名前が無い程度の能力削除
なぜ貴様が今のカードを持っている風祝。
ゴリアテでかくなりすぎだろ。というか、あの話とリンクしてたのか。チビこあはどこだ!
34.100名前が無い程度の能力削除
先が読めぬ。この海のリハクの目をもってしてもww
35.80賢者になる程度の能力削除
気のせいかな……ゲッターがいた気がするんだけど。
マジカルゆうかりんマダー?
42.100名前が無い程度の能力削除
さすが、割れた地球を「ぬぅんっ!!」で元に戻せるパッチェさんww
紅魔館の修復ぐらい余裕なんですねwww
43.90コチドリ削除
神が再降臨されたというのに、何故皆そのような態度をとるのだ? 
不思議なこともあるものだ……

成程、そういう事か。
紫様のあまりの神々しさに、皆畏れ多くて視線も合わせられなかったと、そういう事なのだな?
やれやれ、驚かせてくれる。危うくブラックホール爆弾を起動しそうになったではないか。
46.90名前が無い程度の能力削除
「アキュリス」と聞いてああ、ドラグニティは阿求が使うのか・・・と思った自分はきっとフランちゃんと阿求のタッグが見たいんだろうなぁ。
あ、感想ですか?大満足ですが何か
48.100名前が無い程度の能力削除
小悪魔さーん!! 風祝さーん!!
「変身」における最も大切な要素たる「変身途中のすっぽんp(以下検閲削除)」を忘れて
どーするんですかっ!!!
50.100名前が無い程度の能力削除
魔法少女には恋愛成分も必要だと魔理沙が言ってた
54.100名前が無い程度の能力削除
スクラップとかドラグニティとか幻想入り早いなぁ…
フランちゃんのデッキと僕の一軍デッキが同じな件…


全員ノリノリ過ぎるからツッコミ役のフランちゃんの心労具合が心配。
57.100名前が無い程度の能力削除
ツッコミを入れるフランが健気でいいなぁ。
相変わらずテンションが高くて素晴らしいゼ!
楽しそうでなにより
58.100H2O削除
最近このシリーズをいっき読みしまして……
私の中で小悪魔とフランの何かが変わりました!
何かもういろいろ悪魔な小悪魔もツッコミのフランも好きすぎます!
59.100名前が無い程度の能力削除
これは、しゅぷれ~……何でもないです

何故服まで大きくしたし
60.100名前が無い程度の能力削除
相変わらず早苗さんのOTOME値が鰻登りだ
ところでマジカルゆかりんはOVA出るんですよね?
61.無評価名前が無い程度の能力削除
毎度毎度、的確すぎるツッコミと微妙に投げやりな文体がツボです。
次は「魔法少女外伝マジ狩るれみりゃ」でよろしく。
62.90名前が無い程度の能力削除
スクラップ強いよね
ドラグニティも組んでるんだよね俺

なんだ。俺も魔法少女じゃないか!
66.100名前が無い程度の能力削除
相変わらずのノリで大変楽しめましたw
69.100名前が無い程度の能力削除
狂気0の妹様
…というか、周囲が狂いすぎていて妹様の狂気が正気になってる!?

魔法少女シリーズはフランお嬢様の更正に貢献しているような気がします^^


それはともかく、マジカルプリンセスYU☆YU☆KO はまだですか?
71.80削除
こあっともんすたーのアリスのゴリアテ目当てに来ましたwww
相変わらず素敵ですね
77.100名前が無い程度の能力削除
ごめん俺ライロで時間が止まってるんだ…

なんかもうやりたい放題すぎて素晴らしいな
79.100名前が無い程度の能力削除
全部読み直したけど、やっぱあなたの小悪魔は素晴らしい。

フランとその他の狂気度は反比例するようです。
83.100名前が無い程度の能力削除
だめだ、分からん・・・!
95.100名前が無い程度の能力削除
『パァァァァァイル・フォォォォウメイション!!』っておまwww
成敗されるぞwww
97.100名前が無い程度の能力削除
紫様は泣いていい…泣いていいんだ…