Coolier - 新生・東方創想話

霧雨SHITTO

2010/05/02 16:58:05
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 空が灰色の雲に覆われて青空なんて見えやしない。折角の昼時だというのにいまいち宜しくない天気だ。ついでに言うと寒い。季節的には立春を過ぎたとはいえ外はまだまだ寒い。あの曇り空では尚更だろう。
 あの雲を突き抜ければ青空が広がっているのだろうけど、上空に上がった分だけ気温が下がるから結果的に変わらない。
 上空にあると言えば、冥界や天界は寒さを感じなかったのを思い出す。あれは一体どうなってるのだろう。
 訳の分からない結界で隔てられている冥界ならなんとなく分かる。頭が春そうな亡霊も住み着いてるし。
 しかし天界には結界とかそういったもので隔てられている訳でもないのに何故あれだけ暖かいのだろう。
 嗚呼、天人は酒を飲んで歌ってばかりという輩が多いからその春度で覆われているのかもしれない。決めた、もっともらしいから天界は春度で満たされたお目出度い場所だと私が今決めた。

「くちゅんっ」

 微妙に考えている事の路線がずれて意味不明な事を考えてしまったが、不意に出た自らのくしゃみで本題を思い出す。そう、とにかく寒い。部屋の中でどてらやら靴下やら着込んでもなお寒い。可憐で寒がりな私には少々堪える。
 ならば、寒いからつい布団の中でぐっすり眠ってしまい昼近くまで過ぎてしまうのも仕方の無い事だろう。
 冬季に一番注意すべきものは何か。様々な例が挙げられるだろうが、やはり一番は温かい布団だ。保証する。
 ともあれ、この寒い中でも私は動かなければならない。動かねば結果は出ないのだから。
 寒さに軋みそうな体に鞭打ち、台所まで移動し名残惜しいがどてらを脱ぎ、近くにあった椅子の背もたれに被せる。あれは防寒着としては中々なのだが、着膨れしていかんせん作業、特に火を使ったものとは相性が悪い。
 冷気から身を守ってくれていたものを脱いだ為に冷たい空気が体を覆ってきて堪ったものではないが、すぐに暖かくなるだろう。今からその火を使った作業をするのだから。
 自慢の八卦炉を土台の下に置き、その土台の上に鍋を置いて準備は完了。さっそく呪文を唱え八卦炉を起動させる。火炉の中心から小さな火が灯り、台の上にある鍋を暖め始め、その火の温もりが僅かに冷え始めた体を染み渡るように暖めてくれる。
 やはりこいつは便利だ。薪等を使わなくてもすぐに欲しい火力が手に入るし、その火力も自由自在。その気になれば妖怪だって消し炭だろうし、そうでなくても暖を取る為、実験の為、料理の為、幅広く活用できる。ミニ八卦炉、これが無い生活なんて今の私には考えられない。作ってくれた彼奴には感謝しなくてはならない。
 いけない、温まってたせいか考えが別の方向に流れ始めてた。焦がさないように鍋をかき回さないといけない。急いで大型のしゃもじを鍋の口に突き入れ、両手を使って中身をゆっくりとかき混ぜていく。
 中身はこの間大量に採ってきた茸。この前に魔法になりそうなブレンドが出来たからまたそれを再現しよういう訳だ。
 まずはブレンドするのだが、茸を煮詰めてスープにする為にこの段階で茸を溶かす特別な液体とそれなりの火力が必要になる。最初は弱火で少しずつ火を通し、茸が柔らかくなってきたら火力を上げて一気に溶かし、ある程度液化させる。その後はまた弱火で数日間時間を掛けて煮込んでようやくスープの完成となる。
 作っている自分でも面倒臭く地味な作業だとは思う。それでもこの地味な作業が大事なのだとも思っている。成果を上げるのに近道は無い。地味だろうが何だろうが、この小さな作業の積み重ねが大きな魔法を作り出すと信じている。だからいつも「良い魔法ができろ」と念じながら丹精込めてかき混ぜ、練り上げるのだ。
 一つひとつは軽い茸達だが、寸胴な鍋の中に一杯ともなればさすがに重い。中々に腕力が必要な作業だ。でもこの時間が結構好きだったりもする。大型の鍋を使って何かを作る、古典的ながらも魔女の実験風景そのもので、それが私は魔法使いだと実感できるからだ。
 未来の大魔法使い霧雨魔理沙様の偉大な実験が今ここに、等とくだらない口上が思い浮かび、我ながらと苦笑してしまう。
 気を取り直して鍋の中身を見てみれば、すでに茸は大分溶け始めていた。良かった、どうやら頃合は逃していないようだ。
 ここからが正念場。火力を上げて一気に茸を溶かし尚且つ焦がさないようにかき混ぜ続ける作業に入るのだ。
 灯されている火に触らないように注意しながら八卦炉を掴み、意識を集中、火力を上げる呪文を唱えた。これで大型の火炉も顔負けの火力が起き、鍛冶職人さながらの高熱との戦いになる。
 筈なのだが可笑しい、燃え盛るような火は一向に出てこない。それどころか腑抜けた音を立てて八卦炉から火が消えてしまった。

「おいおい、一体どうしちゃったんだ?」

 もう一度呪文を唱えてみるものの、八卦炉はうんともすんともしない。試しに取り出して中心を覗いてみるが、そこには赤い灯火は無く、光の届かない陰が見えるだけだった。
 考えてみればここ数日は実験に篭りきりで、その中で八卦炉も断続的に使い続けていた。もしかしたらその影響でどこかが歪んだりして不具合が起きたのかもしれない。
 肝心な時に一番大事な物が故障するとは。思いも寄らなかった事態に思わず軽く舌打ちをしてしまう。これでは実験を中止せざるを得なくなる。

「あーもう頼むから火を起こしてくれよっと!」

 人は肝心なところで作業を止められると気分が悪くなるものだ。つい悪態をついてしまい、気付けば心中の靄を晴らすべく手が八卦炉の脇を軽く叩いていた。
 すると私の願いが届いたのか、再び八卦炉に火が灯った。さすが私、マジックアイテムも工具一つ使わずに起動させるだなんて、自分の才能が怖い。そしてミニ八卦炉、お前は凄い彼奴だ。私の意志一つで何だって出来る。
 それこそ、燃え盛る火柱を起こす事だって造作も無い。そう、手に持つ八卦炉から火柱が立ち上っている。
 熱風を巻き起こし、それが上昇気流となって上空へ舞い上がり、火柱を炎の竜巻へと変貌させる。初めて見る人ならとても一つの小さな道具から起こっているとは思えないだろう。むしろ私がそう思う。
 本当に凄い奴だよ。

「って違うよ、火だよ! 天井が燃えてるから! 止まれ、止まれって! 火事だー!」

 だからって私の家を燃やす程の性能を披露しないでくれ。


          §


 現状確認。ミニ八卦炉、沈静に成功。今は再びうんともすんともしない。
 天井、半壊。焼け落ちて出来た穴は屋根まで貫き、今の私の気分を象徴するかのような灰色の空が顔を覗かせている。
 幸いなのは私は火傷一つ負ってない事と、実験道具、魔道書、その他生活用品には被害が無い事だろう。
 それにしても災難だ。まさか叩いただけで自然災害クラスの火が起こるだなんて予測もできない。もっとも、それを見越せなかった私の落ち度でもあるのだけど。
 もう一度焼け落ちた天井に顔を向ける。黒焦げた炭の奥に見える灰色の雲、やはり何度見ても現実は変わらない。
 手には火災の張本人が物言わず納まっている。道具なのだから物を言わないのは当然なのだけど。
 私の家を燃やしてくれた鬱憤を晴らすべくぶん投げてやりたいところだが、また誤作動でもして燃やされたら目も当てられない。
 ならばどうするか。当然、こいつを修理する以外に選択肢は無い。だが、私もマジックアイテムはそれなりに作れるが、古代の大陸の技術を使ったこいつは専門外。分解しても理解できない。それでいて外の道具も溶け込ませてある特注品だから尚更だろう。
 となれば餅は餅屋。こいつを作った本人に頼んで修理してもらうしかない。そうと決まれば善は急げ、屋根の修理は後にして早速出掛けよう。考えてもみれば、彼奴のところに行くのは結構久しぶりな気がする。最近は篭りぱなしだったから仕方なかったけど。


          §


 いつもの相棒である箒に跨り、いつもの通いなれた空路を迷う事無く進んでいく。やはり空を飛ぶのは気持ち良い。本当はもっと速く飛びたいが、この寒気の中ではする気になれないのが残念だ。
 冷たい空気が顔に当たり思わず身震いをしてしまう。他のところは防寒具が着込めるけど顔だけはどうしようもない。もし顔まで覆うような物ともなれば面でも被る事になるのだろうが、どう考えても奇人になるから使わない。
 森の中を歩けば風も受けないのだろうけど、魔法使いとして外出の移動手段は箒、これは譲れない。それに彼奴の家に行けば私の八卦炉程でもないけど充分に暖を取れる道具がお待ちかねなのだから、寒いのはそれまでの辛抱だ。
 さて、彼奴は今何をしてるのだろう。いや、考えるまでもないかもしれない。いつものように薄暗い店の中でカウンターのところで椅子の背もたれにふんぞり返りながら本でも見ているのだろう。それで私が来ても仏頂面で「いらっしゃい」の一言とか投げてくるだろう。愛想が悪い、だから商売繁盛しないんだ。
 だが色々とサービスしてくれてアフターケアが良い。八卦炉に緋々色金を使ってくれたし、たまにコーラも出してくれる。
 嗚呼まったく、そんなのだからいつまで経っても万年貧乏なのだ。確りとご飯は食べてるのかさえ疑わしい。本人曰く、半分妖怪だからあまり食べなくても大丈夫、だそうだが、やはり何かしら食べないと体に毒だと思う。
 もしかしたら飢えてぐったり、等という事にはなっていないだろうか。そんな事になってたら鼻で笑ってやる。同じ森に住んでいるのだから茸でも採って食べれば良かったのに、と。それで栄養失調な体で店なんて営業できる訳が無い。ひとまず休業にして休ませてやらんとな。営業の工夫とかはしない癖に妙なところで商人魂みたいなものを持ってるからな、彼奴は。
 それで当然、家事など任せてられないだろうから私が仕方なく腕を振るって料理とかを作るのだ。茸料理になるだろうが文句は言わせない。お腹一杯になるまでたらふく食べさせてやる。あと休ませてる間の店番やっても良い。それを口実にツケを取り消してもらおう。
 となるといっそ泊まり込みの方が楽だな。うん、そうしよう。
 で、つまりそれは夜に一つ屋根の下、二人きりの空間になる訳だ。
 彼奴も男だし、ついむらむらとしちゃって私を布団の上に押し倒したりしてそのまま彼奴の顔が近づいて、嗚呼。

「うふふ……はっ!?」

 何を考えてるのだろう私は。訳の分からない脱線をするなんてどうにかしている。これはきっとあれだ、寒いから頭の回転が鈍くなって少し呆けていたんだ。
 そもそも彼奴は朴念仁だからなそんな事考えないだろうし私だって別に期待していない。

「あー、今日はどうも調子が狂うな」

 風で脱げ掛けてきた帽子の鍔を掴み深く被り直し一度深呼吸して気持ちを整える。彼奴のところに行くのはあくまで八卦炉の修理を頼みにいく事。それ以上の事は何も無い。いつも通りにやれば良い。大丈夫、私は正常だ。
 気が付けば足元に広がっていた筈の森を抜けており、目的地をとっくに抜け出してしまっていた。
 これはいけない。うっかりしていた。体を傾けて進路を変更、今まで来ていた道へと戻り建物を探す。幸い、それほど目的地から離れてもなく、自然の中に一つ佇む建造物なだけにすぐに見つかる。
 和式のそれなりに大きな一軒家、幻想郷で唯一外の世界の道具を扱う店、香霖堂を肉眼で捉えた、のだが、高度を下げた辺りから普段なら見掛けないものが店の中から二人の人影が出てきたのだ。霊夢でも紫でも咲夜でもない。服装からしてどうやら里の男達らしい。
 驚いた。まさかこのようなところにまで買い物に来る里の人がいるのは初めて見た。
 男達はこっちには気付いて無いらしい。談笑をしながら里へ続く道を歩いて姿を見送り、店の前に降り立った。店の前には大きい狸の置物や壷、曰く外の世界の物だという道具、何を示しているのか分からない標識等が無造作に置かれている。いつ見ても店をやっているとは思えない外観だ。だが、先程の男達が出てきたと言う事は今も営業中だという事だ。
 いたのは単なる偶然だったのか、それとも彼奴が真っ当な商業戦略にでも乗り出したのか。
 前者なら面白くも無いなんとも無い出来事、後者ならそれこそ異変クラスだ。きっと明日は槍の雨が降る。もしかしたら扉を開けた瞬間、彼奴が営業スマイル全開で迎えてくれるかもしれない。
 それは面白い。新しいからかいのネタが出来るというものだ。
 考えてたら気分が高鳴ってきた。想像するだけで噴出してしまいそうだ。ならば、早速真相を突き止めるべく実行に移すべき。
 にやけてしまいそうな顔に力を入れて我慢しつつ、店のドアノブに手を掛け、いつものように扉を開く。

「おーす、来てやったぜ」
「いらっしゃいませー、ようこそ香霖堂へ」

 本当に営業スマイルで迎えられた。ただし、見た事が無い彼奴、三角巾と割烹着を着た女の子に、だ。
 何も言わず、静かに扉を閉めてから一歩下がり上を見上げる。扉の上の壁に掛けられた木製の看板には憎たらしいぐらいの達筆で香霖堂と書かれている。
 間違いなくここは香霖堂だ。私の記憶が正しければここには彼奴しか住んでいない筈。
 ならさっきの女は誰だ。
 いや、きっと気のせいだろう。少し疲れてて幻覚を見たんだ。幻聴を聞いたんだ。本当は今も彼奴はのんびりと本を読んでいるに違いないさ。
 精神に一喝入れる為に両手で頬を二度叩く。少し力を入れ過ぎて痺れるが、大分目が覚めた気がする。
 これなら大丈夫、幻覚を見る事も幻聴を聞く事も無い。準備は万全、気を取り直してドアノブを掴み、勢い良く扉を開く。

「おーす、来てやっ」
「いらっしゃいませー、ようこそ香」

 すぐに扉を勢い良く閉めた。いる、中に誰かいる。
 店の中で女の子が笑顔で立っている。女おんなオンナ、女の子が「いらっしゃいませ」と笑顔で接客してきた。
 まさか彼奴が店員を雇ってというのだろうか。
 いや待つんだ霧雨魔理沙、⑨ool、じゃなかったCoolになれ。これは何かの異変に違い無い。そうだ、この前の宝船騒動で木片をUFOに見せてた彼奴がいた。きっとそいつの仕業に違いない。また懲りずに悪戯してたんだ。それに気付かないなんて私とした事が不覚だった。
 よしならば今から異変解決だ。彼奴を懲らしめるべく船に殴り込みだ。

「ちょっとー、入るか入らないか早くしなさいよ」
「んぉあぁっ!?」

 背後から声を掛けられて思わず飛び退きながら振り返れば例の女の子が眉を吊り上げて立っていた。しかも良く見たら背中から羽が見える。つまりこいつは妖怪じゃないか。
 いけない妖怪だ。妖怪は人を襲う、だから退治しないといけない今すぐに。八卦炉は使えないけどやってやる、やってやるぞ。

「くそ出たな妖怪、汚物は消毒だ!」
「は!? ちょっとなんでいきなり戦闘体勢に入ってるのよ! てゆうか人を汚物呼ばわりとは失礼ね!」
「知った事か! 私の通った後にはぺんぺん草一つ残らないぜ!」
「さっきから騒がしいね。一体どうしたんだい、と誰かと思えば魔理沙じゃないか」

 答える暇は無い、有無を言わさず倒すつもりだったが、女の子の後ろに現れた人物を見て既でのところで手が止まる。白髪で和服なのか大陸の服なのか分かりづらい青い服を着た彼奴、香霖こと森近霖之助だ。
 香霖の顔を見たら急に頭の熱が下がっていくのが感じ取れる。肩から力が抜け、同時に構えた腕も垂れてしまう。
 考えが纏まらない。私は今まで何をしようとしていたのだろう。

「どうした魔理沙。ぼーっとしてても何も分からないぞ」
「え? ああいや何でもない何でもないよ? ただ香霖が店員を雇うなんて珍しいなぁって思ってたんだ」
「この子の事かい? 別に雇った訳じゃないよ。勝手に住み着いただけだよ」
「住み着いたって、妖精じゃあるまいし……」

 咄嗟の返事にしてはもっともらしい言葉だったと思う。とにかく、今の状況を整理するのが最良だろう。
 香霖堂に妖怪の女の子がいる、それは紛れも無い事実だ。幻覚でも何でもない。香霖は健在で、女の子が香霖堂にいる事を知っている。住み着いたと言う辺り、結構前からの出来事だったと推測される。
 だが解せない。人の家に勝手に住み着くのは妖精ぐらい。妖怪が好んで人の家に住み着くなんて事はまず無い。そもそも香霖堂は暗いしガラクタが散乱してるからとても住み心地が良い環境だとは思えない。

「何でこの子が僕の家にいるのか分からないって顔をしてるね……君は以前、霊夢が本をツケの代わりにしたのを覚えてるかな」
「そういえばそんな事があったな。確かその時に扉を豪快に壊して現れた妖怪を私が退治してやった」
「この子がその時の子だよ」

 思わず嗚呼と声が出てしまう。思い出した。確かにあの時に伸したのは彼奴だ。霊夢が服を破かれたらしいが、私からすればどうともないその他妖怪だったからすっかり忘れていた。
 となると、何故こいつがここにいるのかが大体の予測がついてきた。

「つまり、まだ本を諦めきれないからここに来て張り付き出した、という訳か」
「最初はね。あれはもう僕の物だから当然渡すつもりは無いと伝えたら怒って店を漁り出して、ついに書房を見つけしまってね」
「あんなに沢山本があるならもっと早くここに来れば良かったわ。もうあの赤いのとかあんたの事とかどうでも良くなったのよ」

 彼奴が嬉しそうに羽を羽ばたかせながら話しに加わってきた。一応、私が圧勝した相手なのだが、言葉の通り本人は警戒心は一切持ってないように見える。
 それはそれで好都合だったかもしれない。無駄なスペルカード戦をしなくて済むだのだから。もっとも、もし戦闘になったとしても負ける気は毛頭無いのだけど。

「なるほど。でも香霖も良く追っ払わないな。客が来なくて暇だとはいえ、うろうろされると邪魔だろう」
「僕は平和主義だからね、強硬手段は使わないのさ。で、そうして住み着いたこの子は、どうにも商売に興味を示したみたいでね」
「いつも暇してるから何をしてるのか聞いたら商売してるって言うけど、全然それらしくないから手伝ってやったのよ」
「いらないと言ったのに言う事を聞かずに里まで宣伝されてしまったのさ。その成果で一部の人が出向くようになったんだ」
「でもそいつらも買っていかないから殆ど変わらないわね。あ、本が好きって言ったら本を持ってきてくれるようになったけど」

 屈託無い顔をしながら両手で一冊の本を突き出してきた。それが例の持ってきてくれた本というやつなのだろう。つまり、興味本位で始めた商売の真似事が里の男達に受けてわざわざここまで足を運ぶ。だがそいつらは店の品じゃなくてこいつを見るのが目的。道理で、さっきの男達は何も持っていなかった訳だ。そしてこいつは探し回らなくても本を手に入れる事が出来る。向こうから勝手に手元に来るのだから。
 何もせずに欲しい物が手に入る環境。なるほど、それは香霖の家に住み着きたくもなるのも頷ける。
 はて、今、物凄く気に掛かる事を考えた気がする。いや、考えた気がする、ではない、考えたんだ。

「なぁ、お前は今どこに住んでるんだ?」
「今? 今は霖之助の家に泊まってるよ。まだまだ本が一杯あるもん」
「頼む、もう一回言ってくれないか」
「なにもう忘れたの? 私は霖之助の家に泊まってる。何度も繰り返すのも面倒臭いからこれで覚えてよね」

 目の前がぐにゃりと歪み、捻れ、何か得体の知れない世界に迷い込んだような感覚を受ける。だけどそれは次に瞬きした時には正常な視界に戻っていて、一瞬の錯覚に過ぎなかった。
 それでも体中が奇妙な感覚に襲われて止まない。小さな耳鳴りがするし背中には寒気も感じられるし、頭は目を回した時のような浮遊感に囚われる。
 何でこんな状態になってるのだろう。もしかして言霊の類でも吹き込まれていたのだろうか。

「ねぇ聞こえてるの? いきなり呆けないでよ。話を聞いてるか分からないじゃない」
「え? あ、ああすまん、ちょっと考え事してた。それで、どこまで話してたんだっけ」
「何度も言った事をすぐ忘れるなんて、もしかしてあんた鳥頭より物覚えが悪いんじゃないの?」
「いやそんな事は無いさ。覚えてる、覚えてるよ。お前が香霖の家に泊まり込みで、いるん、だって、な」

 聞こえてなかった訳ではない、ましてや忘れた訳でもない、ただ言葉の意味が先程まで理解できてなかった。でも、自分で声を出してようやく言葉の意味を理解した。
 こいつは、香霖の家に泊まり込んでる。香霖と、二人で一つ家の下で暮らしている。
 突然耳に響く濁った叫び声、自然と動く右腕。三人しかいないとはいえ全く憚らない叫び声が自分の叫び声だと認識した時には私の右腕から放たれたチョップが目の前の妖怪の額に叩き込まれていた。
 叩き込まれたチョップは彼奴の額が柔らかかったのか、反動で手を押し返してくるが私はまた叫びながら彼奴の額にチョップをお見舞いする。何度も何度も何度でも、彼奴が頭を抱えてようとお構いなくチョップをかましていく。

「あ゙ー! あ゙ー! あ゙ー!」
「ちょ、何!? 痛い、痛いって! 何するのよ止めて、止めてよ!」
「こらどうしたんだ魔理沙、落ち着くんだ」

 堪らず攻撃から逃げ出した彼奴が香霖の背後に隠れ、香霖が止めに入ってようやく私の腕が止まった。
 全速で走った訳でもないのに荒げて呼吸をしてしまう。胸も異常なまでに高鳴って心音が耳元まで聞こえてくる。顔が火照って頭の天辺がぼせたように熱い。それでも私の目は香霖の背後からこっちの様子を窺う為に顔だけ出している彼奴を離さない。
 何故だろう、何故私はこんなに荒げているんだろう。

「君らしくない、いきなり襲い掛かるなんて。この子は何もしてないじゃないか」
「それは……何もしてないけど、でもほらあれだ、ええと」
「理由も無いのに人を打つのは良くない。それが切欠で僕の家の中で喧嘩されても困るしね。まずは非礼を詫びるんだ」

 うなされそうな頭の熱も香霖との会話をしている内に冷め始め、冷静に物事が考えられるようになってきた。
 確かに彼奴は何もしていない。ただ香霖の家に本が沢山あって、それが見たくて勝手に住み着いてる、それだけだという単純な話だ。私が別に息を荒げて取り乱す程の事でも無い。
 今思えば些細で妙な事に取り乱してしまってらしくない行動を取ってしまったと思う。ならここは私から詫びるのが筋というものだろう。

「あー悪かった。つい柄にも無くカッとしちまった。謝るよ、この通り、な?」
「嫌だ」

 事を水に流すという意味を込めて握手を求めて差し伸ばした手はたった一言の言葉と共に弾かれた。
 そして返って来たのはまるでお手本の如き見事なあかんべえでした。それも、同性でありながらちょっとときめいてしまいそうなくらい可愛らしい仕草ですよ。見た目も子供ぽいしまさに悪餓鬼といった言葉が似合いそうです。
 よし絞める。

「この鳥モドキめ、折角こっちが折れてやったのになんだその態度は! お前なんかこうしてやる!」
「痛たたたたた!? こめかみを拳でぐりぐりしないでー!」
「どうだ痛いか? 止めてほしかったら謝れ。そしてここから出て行けこのこのこのぉ」
「何で私が謝らなきゃいけないのよ。絶対に嫌だ!」
「いい加減にするんだ魔理沙。痛がってるじゃないか」

 彼奴の頭を締め付けていた腕の手首を掴まれ強い力で引き剥がされると足元が浮き立ち、懸垂するような形で束縛されてしまう。見上げてみればそこには香霖の顔があり、微かに眉を顰めて私を見下ろしていた。
 束縛を振り切ろうと首を振り足を振り体を揺らすも、掴む手が緩む気配は無い。それどころか暴れれば暴れる程に握力が増しているのではないかと思えてくる。
 放せと叫びながら踵で香霖の足を蹴ってみるも、全く怯まない。宙吊りの姿勢では勢いもつかない。何発打ち込んでも無駄という事か。
 悔しいが、純粋な体力では私は大の男に太刀打ちできない。完全に拘束されしまっている。唯一出来る抵抗といえば、もう一度顔を上げ、あえて不機嫌さを前面に押し出しながら香霖を睨みつける事くらいだ。
 先程と変わらず香霖は厳しい顔付きで見下ろしている。そも、何故そこまで厳しい顔をしているのだろう。
 私は別に何も悪い事はしていない。勝手に住み着いた妖怪を追い出そうとしてるだけ、ただそれだけだというのに何故こうも睨まれているのか。
 香霖が睨み、私が睨み返す。互いに言葉を交わさない、目で訴える交戦。
 本来なら睨まれるくらいどうという事はない。しかし、今は姿勢が悪い。懸垂のように宙吊りにされ続けて早くも腕が痺れ始め、上を向き続けるのは首に負担が掛かる。睨み合ってるだけでこちらの体力が削られていくのだ。
 それでいて香霖は一時も目を逸らさず私を睨み続ける。それはつまり、私が根を上げるまで放さないという確固たる意思の表れだと捉えて良い。
 つまり結論からして、このまま抵抗を続けても私が不利になるばかりだという事だ。

「あーもう分かった、分かったよ。止めるから放してくれ」
「そうしてもらえると僕も嬉しいよ」

 観念し頭を垂らして降参の意を見せると呆気なく足が地面に着き、続けざまに拘束されていた手が開放される。
 軽く手首を捻ってみるが、若干の痺れがある程度で、特に酷い痛みがある訳でもない。もしかしたら香霖も少しは女の扱いが分かってきたのかもしれない。
 ふと横を見れば、ずっと様子を見ていたのであろう例の彼奴と目が合う。が、すぐにそっぽを向き鼻であしらわれた。
 予測するまでの事ではなかったが、やはりまた嫌われたらしい。もっとも、仲良くしようと言われてもこちらが願い下げなのだから別に良いのだが。
 だが何とも癪だ。蹴り飛ばしてやりたいところだが、香霖がそれを良しとしないだろうし、こっちもそっぽを向いて敵対の意で返しておく事にした。

「それで、今日はどういった用事だい」
「おおそうだ、危うく目的を忘れるところだった。八卦炉の調子が悪くてさ、ちょっと見てもらえないか」

 取り出した八卦炉を受け取った香霖は目を細めながらそれを傾けたりして眺めている。つまり歪みや凹みが無いかを確認しているという事なのだろうか。何にせよ、私は専門外なのでその意図を理解する事はできない。
 もし修理出来ない状態だったら困る。あれは私の日常生活を支える大事な逸品。できれば軽い故障であって欲しい。

「これはちょっと分解して中を見てみないと分からないね」
「そうか。どれぐらい掛かりそうだ?」
「今から始めると仮定して、簡単な修理だったら夜には終わるよ。それまで店にいるかい? コーラも出そう」
「いや、今日はそんな気分じゃないから帰るぜ。ちと屋根の修理も必要だしな。明日になったら取りに来る」
「そうかい。ならそれまでに直しておこう。ところで、今日は妙にご機嫌斜めだね。何か気に障る事でもあったかい?」
「別に、何でもないし何も無かったぜ」

 普通に接していたつもりだったが、香霖からしたら普段とはどこか違うものを感じたらしい。それとも、周りから見て明からに不機嫌な顔をしてしまっていたのだろうか。
 確かに、どうにも今は虫の居所が悪い。妙に怒りの沸点が低くて、普段なら軽く受け流せる些細な事に向きになって手を出してしまっている。
 とにかく自分でも良く分からない。分かる事といえば、ここにいるとまた暴れ出したくなってしまうのではないか、という事だろう。
 調子が狂う。気分が晴れない。だからこれは今の私ではまともな話もできないだろうと判断しての戦術的撤退だ。それに家の屋根に穴を開けたままで雨が降って室内を濡らす事も避けなければならないのだから。
 「じゃあな」と軽く挨拶をしてから扉を開けて外に出る。相変わらず灰色の雲で覆われて閉鎖的な雰囲気があるが、室内よりかは遥かに開放的だ。
 人は広い場所に出れば気が楽になるものだが、やはり気分は晴れない。原因はあの空の仕業なのか、それとも別の何かの仕業なのか、どれにしろ喜ばしくない。
 箒に跨り空を飛ぶ。行きの時のような緩いものではなく、出来る限りの全速力で上昇する。もっと強く、もっと速く。それこそ、鴉天狗を追い越せるぐらいの速度が欲しい。
 箒の柄を握る手に力が入る。風を切る音が耳を支配し、頬を叩く風は氷のように冷たいが、緩める気にはなれなかった。
 あまりの突風に脱げ掛けた帽子を押さえようと片手を放した瞬間、バランスを崩してしまい、慌てて急停止する。下を見てみれば、屋根に穴が開いてしまっているものの、見慣れた我が家がそこにあった。
 もしかしたら速度の自己記録を更新したかもしれないが、達成感や嬉しいといった感情は一切沸き上がってこない。

「くそ、一体なんだってんだ」

 得体の知れない気分に悪態を取り、一人きりの空の中でそれに対する疑問を口にする。
 当然、答える人は近くにはいなく、私の声は灰色の空に消えていった。


          §


 自分の胸の鼓動が五月蝿い。周りには大きな音を立てるものが無いだけに本来は小さく気にする筈の無い鼓動なのだが、何故か気になって仕方がない。布団を被り目を瞑っても眠気は一向に来ない。それどころか布団の中は息苦しくて逆に目が覚めてくる。
 堪らず布団から頭を出し深呼吸で新鮮な空気を胸一杯に吸い込む、吐き出す。結局、自分で試した行為は求める結果とは逆の結果に終わってしまった。
 目蓋を開けてベッドの横に置いておいたカンテラに火を灯す。小さく揺れる火は部屋全体を照らすには物足りないが、自分の周りを見渡すには充分な明るさだ。
 積み重ねられた魔道書の山、実験に使うフラスコの数々、その他諸々床に転がるマジックアイテム、薄ぼんやりと照らされる部屋の中で目を向けるのは壁に掛けられた時計。時刻を示す針は一時を過ぎている。眠れないとあれこれしている内にすっかり深夜になってしまった。
 普段ならこれ程まで寝付きが悪いという事は殆ど無い。これでも健康体で体内時計も狂いは無いと自負している。だとするなら、この寝付きの悪さは今日の生活の一部に原因があると考えて良いのだろう。
 今日一日の私の経緯。布団の温もりに昼近くまで眠ってしまい、八卦炉の故障で我が家の天井に風穴を開けてしまい、香霖の家に行って八卦炉の修理を頼み、家に帰って屋根に応急措置を施し、茸鍋を食べてお風呂入ってベッドに潜り込んだ。これが今日の経緯だ。
 少しトラブルがあったが、それ以外は至って普通の生活だった。いや、香霖の家に変な妖怪が住み着いた、ぐらいの変化はあったか。
 ふと脳裏に例の彼奴があかんべする光景が蘇り、また苛立ちがぶり返してきてしまった。折角忘れ掛けていたのに。
 なんなんだ彼奴は。馴れ馴れしいし我侭で強情で、香霖の家が自分の家だと言いたげに暮らしていて腹立たしい。
 それを許す香霖も危機管理がなっていない。本人曰く妖怪に襲われない、だそうだが、相手は妖怪であり人間を食べる種族だ。半分は妖怪の血を引いてるとはいえもう半分は人間だ。一緒にいて襲われないという保証はどこにも無い。自分は大丈夫、という自惚れもここまで来ると感心さえ覚える。
 待てよ。考えてもみれば、今は香霖堂には香霖と彼奴の二人きりなのではなかろうか。
 抜かった。私とした事が、今更になって恐ろしい事実の重大さを認知してしまった。そう、今や香霖と彼奴は一つ屋根の下。彼奴は誰の目も届かず、邪魔をされる事もなく、香霖を好きに料理する事が可能だ。
 そう例えば、時間を見計らって寝込みを襲う事なんて造作も無い。そして幼い姿から想像も付かない力で取り押さえ、縊り殺す。息ができずに苦しみ、白目を剥き出し事切れるまでを見下しながら。
 背筋に悪寒が走り、嫌な汗が背中に噴き上がる。身の毛が弥立つとはまさにこの事なのだろう。香霖が危ない。今すぐ助けに行かないと。
 被っていた布団を吹き飛ばす勢いで捲くり返し、ベッドから腰を浮かせる。
 が、その時、布団から抜け出し冷たい空気に触れたお陰か、一瞬熱くなっている中でどこか冷静な頭が走り出しそうな衝動を抑えてきた。そうだ、重要な時こそ冷静にならなければいけない。
 考えてもみれば、彼奴は香霖と随分親しそうだった。馴れ馴れしいのはこの際置いておき、少なくとも好意は持っているようだった。そんな人をいきなり殺すというのも考え難い。香霖は無愛想な奴だが、妙に変な奴に好かれやすい、巫女とか隙間とか。案外、恋心なんて抱いてたりして。
 つまり、先程まで考えていた内容には修正点がある。可能性としてはこっちの方が高いかもしれない。
 草木も寝静まる丑の刻。香霖が薄暗い寝室で一人眠りに付く中、音もなく襖が開き奥から現れたのは一人の妖怪。光源の少ない空間の中だというのに不自然な程に目立つ赤い目が狙いを定め、獲物である香霖へと忍び寄り、寝ているにも関わらず馬乗りになってしまう。さすがに眠りが深いとはいえ異様な圧迫感に目が覚めた香霖の目の前には例の彼奴の顔。顔をほのかに赤く染めながら、恍惚とした様子で目を細めながら見下ろしてくる彼奴の息は僅かに荒く、何も言わずに香霖の胸元に顔を埋める。それに対する香霖の反応は、彼奴の肩を掴み放さないように抱き寄せる。なんと二人は両思いだったのだ。急接近する二人の顔、熱の篭った吐息が互いに掛かるのも気にせず強く抱き合い、一つの布団の中へ二人でダイビングし、そして嗚呼。

「そのまま『昨夜はお楽しみでしたね』ってね、破廉恥な奴等だなコンチクショー!」

 側にあった枕を全力でスローイング。目の前のブックタワーにヒットアンドクラッシュ。知識の山が音を立てて崩れ落ち埃を舞い上げるがこの際どうでも良い。
 何故か荒げる息を整え、妙に熱い頭を振って脳内で勝手に進行する物語を掻き消す。全くどうにかしている。ありもしない妄想をして一人暴走する等、あまりにも滑稽だ。
 念の為に辺りを見回すが当然誰も姿も見られない。良かった、今の恥ずかしい姿は誰にも見られていない。もし見られたら誰だろうと消し炭にしなければならないところだった。
 それにしても本当に調子が狂う。こんな姿はいつもの普通の魔法使い、霧雨魔理沙ではない。一体何が悪いか。考えるまでもない、全ては彼奴が香霖のところに現れたからだ。彼奴の身勝手な行動が周りに悪影響を与えているんだ、主に私に。
 ならばやはり彼奴は追い出すしかない。今すぐにでも香霖堂から追い出し、二度と私の目の前に姿を見せないようにしてやる。
 だが待てよ。今は夜も遅い、こんな時間に訪問しても香霖に悪い印象を与えてしまうだけなのではないだろうか。いやしかし、二人を一つ屋根の下に、というのもどうにも癪だ。いやそれでもやはり迷惑である事を考えて止めるべきか。
 駄目だ、どうしても思考がまとまらない。最善だと思う一手が思い浮かばない。

「あーもうなんなんだこの気分、どうにかしてくれ!」

 瞬間、目の前が光ったかと思うと、木材やガラス質な物を破壊する轟音と共に猛烈な風に煽られベッドから転落してしまう。一体何が起きたんだ。
 後頭部が衝撃が走り、その痛さについ目蓋を閉じてしまう。どうやら転落した際に頭を打ってしまったらしい。だが今は痛みよりも先程の衝撃の正体の方が気になる。ずきずきと痛みを訴える頭に手を当てながら立ち上がり目蓋を開く。
 目に入ってきた光景に自分の目を疑った。私が転げ落ちたベッドの向かい側、マジックアイテムが転がっていたはずの床に大きな穴が開いていたのだ。辺りには砕け散った床材と実験道具の破片が飛び散り、穴からは小さな黒煙が上がっていてまるで火口を思わせる。
 とてもではないが自然現象とは思えない。いきなり地面が爆発、しかもこんな辺境で程規模が小さい噴火なんて聞いた事がない。誰かの悪戯だろうか。爆発物を扱い奴といえば知り合いに人形を爆弾にして扱う自称都会派魔法使いがいるが、彼奴はこんなせこい真似をする性格でもない。
 そういえば、以前に神社の近くで間欠泉と地霊が湧いた異変があったが、これもその類かもしれない。
 ふと、どこからともなく囁くような小さな人声が聞こえた気がした。辺りを見回してみるが、室内、窓の外にも人影は見当たらない。気のせいかと思ったが、やはり人声がどこからともなく耳に入ってくる。誰の声か、耳を澄ませて声の出所を探ると、次第に囁く程度だった声は大きくなりこちらに近づいてきている事が分かり、更にその声が床に開けられた穴から流れてくるのも確認できた。

「妬ましいぃぃ!」

 小さくて上手く聞き取れなかった声が何と発しているのか理解したのと同時に火口から奇声を上げる物体が勢い良く飛び出した。物体は錐揉みになりながらも空中で姿勢を制御し、二本の足で綺麗に着地し立ち上がる。その姿はやや幼い雰囲気が残るウェーブの掛かった金髪のショートという西洋人の顔立ちながら和服に似た服を着ているという、文化が錯誤した出で立ちをした少女だった。

「ここが嫉妬の念が渦巻いていた場所ね。どうやら地上に出て来たみたいだけど、地上なんて何年ぶり」
「お前が人んちの床に穴開けた黒幕かぁ!」
「パルァっ!?」

 とりあえず奴の頬に力を込めた右ストレートを打ち込んでおく。何か語っているがそんな事は私にとっては関係無い。機嫌が悪い時に家の床に穴を開けて土足で踏み込むとは良い度胸をしている。
 気持ち良いぐらいの手応えを感じる右腕を振り抜く。が、奴は倒れる事なくその場で踏ん張り耐え抜いた。その様子を見て慌てて距離を取り、もしもの反撃の為に構え直す。
 拳で振り抜かれ明後日の方向に顔を向いてしまっていた奴がゆっくりと私へと向き直る。突然顔を殴られたのだから激昂していると予測していたが、意外にも奴の顔には怒りの表情は一切見受けられない。それどころか殴った衝撃で切れたのであろう口端から垂れる血を手の甲で拭いながら不敵な笑みを浮かべながらこっちを眺めてくる。

「良い嫉妬パンチね! やっぱり貴女には資格があるわ」
「五月蝿い黙れ。そして帰れ」

 どうやらただの変人だったようだ。とりあえず、お帰り願うべく顔面に飛び蹴りをかましておいた。


          §


「少しは落ち着いたかしら?」
「ああ、腰が痛くて動けなかったら嫌でも頭が冷めるさ」

 暴れたお陰で余計に散らかり床は足の踏み場も無い為にベッドの上で向き合う。奴は正座で私は腰を押さえながらの前屈みだ。まさかキャラメルクラッチを仕掛けて取り押さえてくる等とは思いも寄らなかった。あと少し降参が遅かったら体を二つ折りにされていたのではないかと腰の痛みから思えてくる。手加減して欲しかったものだが、今に考えてもみれば先に手を出したのは私だからやり返されても文句は言えないのだけど。
 改めて奴の顔を良く見て思い出した。私が以前に地底の旧都や地霊殿に向かう際に縦穴の中で出会った事がある。名前は知らないが、確か嫉妬に駆られたペルシャ人と図書館の魔女は言ってたか。

「それで、地下にいたお前が一体何の用なんだ波斯国人」
「誰が波斯国人よ、国名単位で人を呼ばないでくれるかしら。私はね、こういう者なの」

 名前で呼ばれなかったのが不快だったのか、脹れっ面になりながら懐から一枚の札を差し出してきたので、ようやく痛みが和らぎ動かせるようになった腰を伸ばし胡坐を掻きながらその札を受け取る。大きさ、形からしてスペルカードではない。掌に納まりぐらいの大きさをした小さな札だった。札は手書きなのだろう、若干癖のある筆で何かが書かれている。

「パルスィステム嫉妬協同組合連合会会長、水橋パルスィ……何だこりゃ?」
「何だも何も、私の名前よ。水橋パルスィ、地上と地下を結ぶ道を守護神さ」
「いや名前は分かるが、その前にあるパルなんたら連合会ってのが何だって聞いてるんだ」
「なんだそっちね。パルスィステム嫉妬協同組合連合会、略称パルスィステム。『妬ましいもの滅ぶべし』の理念の下に連携、共同したネットワークを作り、組合員の嫉妬を助け、嫉妬が蔓延る世界で組合員の嫉妬解決に貢献する事を目的とした連合会よ!」
「なるほど……それで、会長さんが私に何の用なんだ」
「単刀直入に言うわ。貴女を我が連合会の組合員として迎え入れたいの」

 腰が痛いと思ったら今度は頭が痛いし肩が重い。床を壊した張本人は嫉妬狂いなペルシャ人の上に訳の分からない連合会を設立する変人だったのだから無理もないか。
 本当に今日は厄日だ。ここまで厄が重なると鬱になりそうだ。今日一日全く疲れを感じていなかったのに急に体全体に脱力感が襲い掛かってくる。やはり疲れていたのだろうか。
 それを知らずか目の前の自称橋姫は誇らしげに例の連合会とやらについて熱く語っているが、お引取り願おう。強引で駄目なら言葉で丁重かつ絶対的な態度で。今の状態で訳の分からない話を聞いていても苦なだけだ。

「イメージソングだってあるのよ。さんっさんっさんちょくパルスィステ」
「あー説明が盛り上がっているところ悪いんだが、私は組合だとかの組織には属さない主義なんだ。悪いけど他当たってくれ」
「それはできないわ。だって貴女、凄い嫉妬の念を持ってるもの。そんな人を見捨てられないわ」
「嫉妬嫉妬って、私は別に嫉妬なんてしてないぜ」
「いいえしてるわ。だって、好きな男を別の女に取られた時に出る濃密な嫉妬を纏っているもの」

 何の嫉妬と言ったか。そう、好きな男を取られた嫉妬とパルスィは言った。私に好きな男なんていただろうか。そもそも、実家を飛び出して以降、頻繁に関わってる男といえばあの香霖ぐらいだ。
 別に、私は香霖に特別な感情なんて持っていない。八卦炉をくれたりとか恩はそれなりにあるけど、小さい時からの知り合いというだけでそれ以上の何者でもない。
 別の女というと、彼奴か。あまり思い出したくない。悪餓鬼で可愛げがなくて、天地がひっくり返ろうとも恋愛相手なんて見つからないだろう。
 嗚呼でも何でそんな彼奴を家に泊めようと思うのか香霖は。頭がスポンジみたいに空洞なのではないかと疑ってしまう。どうせ家に泊めるならもっとまともな人を泊めれば良いものを。そもそも男が女を家に招き入れる事が何を意味しているのか理解しているのかあの朴念仁。

「ほら、今だって嫉妬の念がその心を焦がすのを実感しているでしょ?」
「別に、私は香霖の事なんて……好き、だなんて思ってないぜ」
「へぇ相手の名前は香霖って言うのね。耳まで赤くして、本当に好きなのね」
「あーもうだから違う、ちーがーいーまーすー! 好きでも何でもないっての! いい加減その口を閉じやがれ!」
「そんなに向きになっちゃって初々しいわね、妬ましい。まぁそこまで言うならそういう事にしておきましょ。でも自分の周りから消したい相手はいるんじゃないかしら?」

 私の周りから消したい相手、それはいる事を否定はできない。パルスィが現れる直前まで突如として現れた彼奴が私の目の前からいなくなってくれれば、と思っていたのだから。
 ここでも相手はいない、と否定すべき場面だ。でも息が詰まって口が縫い付けられたかのように動かない。真っ直ぐ見据えてくる綺麗な翡翠色の瞳はそんな私の心さえ見透かしてしまいそうで直視する事ができない。

「それは……いるけど」
「ほらねやっぱり」

 耐えられずつい滑ってしまった本音だった。やっとの思いで動かして喉から絞り出したのが相手の予想を認める台詞だというのは何とも情けない。
 パルスィは予測が当たっていた事が嬉しかったのか悪戯染みた顔で口端を吊り上げながらこっちを見てるし、何故か負けた気分がして少し悔しい。

「そんな貴女の気持ちを救う力を私は持っている。一番手っ取り早くて確実に葬る手段としてはこの丑の刻参りスタンダードセットがおすすめよ」
「いやいやいや」

 物凄い笑顔で懐から金槌やら藁人形やらを取り出してくる嫉妬狂いのペルシャ人。どこにそんな物騒な物を隠すスペースがあったのか知らないが、いきなり人に殺人を推してくるか。しかもその笑顔が今まで見てきた表情の中で一番良い顔をしているのだから余計に恐ろしい。

「あら、もしかしてもっと確実な方法が欲しいのかしら。中々用心深いわね」
「違うよ。確かに目の前からいなくなって欲しいとは思うけど、殺さなくても良いんだよ」
「なんだ殺してやりたい程に妬ましくはないのね。つまらないわ……」

 笑顔から反転して今度は心底残念そうに藁人形等をしまう嫉妬狂いのペルシャ人。何故こいつが忌み嫌われているのか少しだけ理解した気がする。どこか感性のずれた台詞をさらりと口にする辺り、嫉妬に駆られるあまりに精神を病んでいるのもしれない。

「相手を殺さずに自分の目の前から消す、方法はあるにはあるね。相手との縁を切るのさ」
「縁を切るって、えんがちょしろって? 口で言ってそうなればどれだけ気が楽だか」
「解釈が少し違うわね。切るのは縁そのもの。私は相手同士の関係を強制的に終わらせる事も出来るわ」
「強制的にか。それって何気に凄いな」
「橋姫は鬼神にして橋の守り神、そして縁切りの神でもあるのよ」

 縁を切ると言われてもいまいちぴんと来ないが、互いに顔を合わせたくなくなるとか、人の心に干渉するご利益があると解釈すれば良いのだろうか。
 確かに、互いに離れる気になれば誰の良心も痛める事も無く彼奴を香霖堂から追い出す事が出来る。

「でも貴女の為には使えないわねぇ」
「え、何でだよ!?」
「だって今まで話したのは組合員に行える事例だもの。貴女は組織に属したくないんでしょ?」

 パルスィの言うとおり、これは組合員になれば協力してくれるという話であって、拒む私には無意味な話だ。
 でも、その筈なのに何故私は胸を弾ませるのだろう。
 自分でも良く分からない。ただ、パルスィと目を合わせて会話していると、香霖と彼奴が近くにいる事が無性に腹立たしくなる。彼奴から香霖を引き剥がしたい。それがどんな方法でも構わない。と思えてくる。そんな私の心には、パルスィの意外な能力が非常に魅力的でならなかった。

「待ってくれ。なるから……組合員になるから、その、お前の力を貸してくれ」
「本当!? 当然よ! 会長として貴女をばっちりサポートしてあげるからね!」
「そ、そうか。でもだからってそんな手を握って大きく振らないでくれ。結構痛いから」
「こうはしていられないわ。今すぐ準備するから明日まで待っててね!」

 パルスィは散々握手をしてから晴々とした表情で穴の中に飛び込んで戻っていった。突然現れて勧誘してきたり藁人形出したり大喜びして帰ったり、騒がしい奴だった。
 騒がしい奴がいなくなって緊張が解けたからか、頭と目蓋が重くなってきた。夜だというの色々と暴れたのだから無理もないかもしれないが。時計を見れた針は午前二時近くを指している。普通で健康的な人間なら眠くなるのも道理の時刻だ。
 辺りを見回せば、枕よって崩された本の山が崩れ、床には穴が開き、その衝撃で砕けたのだろマジックアイテムやフラスコ等の破片が撒き散らされ、室内は悲惨な光景になっていた。
 原因は概ねパルスィにある。だが怒る気も起きない。今はただ眠い。開けられた穴から立っていた煙も消えているから火災の心配もないだろう。
 枕を回収すべきか考えたが、面倒臭かったからカンテラを消したらそのままベッドの上に横になり布団の中に潜り込んだ。掃除云々は朝になってからで良いだろう。
 そういえば、何で急にあの二人の関係が酷く妬ましく思えたのだろう。


          §


 机の上にはパンとソーセージと青野菜のサラダが盛られた皿、そして香ばしい香りを漂わせる温かそうな珈琲が入ったカップ。どこから見ても典型的な洋食のモーニングセットが乗せられている。そして私が座っている向かい側にはパルスィそわそわとした様子でこちらを見ていた。
 先程から、いかにも気にしてないと言いたげに俯いているが、たまに上目遣いで覗いてきては目が合うと視線を逸らし、数秒経つと再び上目遣いで覗き込む、を繰り返している。本人は気付いていないと思っているのだろうか。誰から見てもこっちを意識しているのは見え透いている。

「どう、かしら? 大丈夫よ、一応は人間が食べれる物で出来てるから」
「妖怪にしては私も食べれる物を選んでくれたのは嬉しい配慮ではあるが……」

 どうしてこうなった。
 とりあえず、まずは今朝起きた出来事を整理しよう。
 朝、何かの物音が耳障りで目を覚ましたら目の前でパルスィが家事をしていた。
 撒き散らされたガラス片等は一箇所に纏められ、崩れた筈の本の山は綺麗に積み重ねられて部屋の隅に並べられていた。床に開けられた穴は気休めに「立ち入り禁止」の看板が立てられ黄色いテープで周辺を囲んた程度の措置だったが、昨晩まで足の踏み場も無かった室内は見間違えるくらいに整理されていた。しかも、私が起きたのに気付くと楽しそうに朝食まで用意してくる有様だ。
 ばっちりサポートするとは発言していたが、これではどちらかといえば家政婦に近い。
 更に言うと私は和食派だ。ここにきて人生14枚目のパンを口にしろと言うのか。別にパンを口にしない事に執着がある訳でも無いが。
 しかし、こうも甲斐甲斐しくされると嬉しい気持ちよりも気味が悪いを覚える。実は裏側で何か企んでいるのではないかと勘ぐりたくもなる。だが、物凄く期待と不安が入り混じった視線が刺さってくると非常に断り辛い。そんな捨てられた犬みたいな同情を誘う目で見るのは止めてくれ。
 ここまで来たら腹を括るしかなく、本人曰く人間でも大丈夫だと証言するパンを恐る恐る口にする。

「美味いな」
「本当!? 他の人に食べてもらうのは初めてで少し自信がなかったんだけど安心したわ……おかわりならまだあるから欲しかったら言ってね」
「さすがに朝からそんなに入らないぜ」

 私の感想を聞いたパルスィは不安な顔から一転、花のような笑顔を見せると今食べているものと同じパンが入ったバスケットを取り出して見せ付けてくる。明らか一人二人で食べきれるような数では無いが、何故にそれ程の数が用意されているのか疑問だ。
 だが、パンが美味しいのは嘘ではない。自然と口から零れてしまう程度に仕上がっている。口振りからして経験は浅そうだが、センスがあるのかもしれない。
 側に置いてあった箸を使ってソーセージを摘まみ一かじり。小気味良い歯応えのする皮の中には肉汁が溢れるミンチ肉が詰まっていてこれもまた美味い。そのままサラダにも口をつける。青野菜の瑞々しくさっぱりとした味わいがソーセージの濃い味と調和して実に程良い。質素な組み合わせだが、あまり胃に負担を掛けない献立だ。

「あぁ……私が作った料理が美味しそうに食べられる……なんて良い光景なのかしら」
「これでお前の鬱陶しいぐらい熱い視線さえなければ満点を与えたいところだがな」
「嫌だわ白黒さん、私の事なんか気にせずどんどん食べて」
「気にするわ。それと私は霧雨魔理沙だ」
「そ、それはつまり、名前で呼び合っても良いって事かしら!? そんな、会ったばかりなのに大胆だわ」

 顔を赤らめながら乙女宜しくもじもじしながら机に「の」の字を書き始めるペルシャ人。人の話を聞かないわ何か奇妙な思い違いをするわで鬱陶しい事この上ない。若者風に言えばうざい。地下の妖怪は忌み嫌われた能力を持った者が集ると聞いたが、こいつはそれとは別に性格的に嫌われてるのではないだろうか。
 とにかくうざい。

「でだ、お前はここに家政婦をしに来た訳じゃないだろう」
「そうだったわね。すっかり本来の目的を忘れてたわ」
「忘れるなよ。早く縁切りとやらをやってくれ」
「その事なんだけど、縁切りの能力を使うにはまずは相手の二人が目の前にいるのが第一条件よ。まずは私を二人のところに連れて行って」
「この場ですぐ、てのは無理なのか?」
「相手の顔も知らないのに人の縁が切れると思う?」

 言われてみればそれも道理。例え神であっても顔さえ知らない人に呪詛を掛けろと言われたら困るだろう。呪詛を相手に届けるには体毛といった媒体がなければ確実とは言えないかもしれない。
 仕方が無い、少し面倒臭いがパルスィに二人の姿を見せなければいけない。味を楽しめないのは惜しいが、残っていたソーセージとサラダを掻き込み、パンは頬張った後に珈琲を流し込む。あまり慣れていない苦さが一度に押し寄せ一瞬吐きそうになるが、堪えてそのまま胃の中に収めた。

「なら会わせてやるから来いよ。ここからそう遠くはない」
「でも私は地下へ戻らないといけないわ。一応地上と地下を結ぶ道の番人でもあるから長く離れられないの」
「あー? それじゃあ会わせようが無いじゃないか。協力したいのか邪魔したいのどっちだよ」
「人の話は最後まで聞く。だからね、貴女側にはこっちを連れていくのよ」

 パルスィが掌を差し出すと、その上に翡翠色の火が灯った。熱は感じない。精霊魔法等の類ではなさそうだ。
 火は次第に大きくなり、大人の握り拳程に膨れ上がると意思を持ったように滑らかな球体に変化したかと思うと、更に形を変える。まるで水飴のように柔軟に変化するそれは、最後に高さ二十cm程の人の形を成し、翡翠一色だった体も様々な色が加えられた。完成しただろうその姿は、パルスィだった。パルスィの掌に瓜二つの小さな分身を作り上げたのだ。

「このチビパルちゃんは私とほぼ同じ能力が使えるの。この先、私の代わりに貴女をサポートしてくれるわ」
「分身能力なんてあったんだな。ネーミングセンスは微妙だが……でも何で掌サイズなんだ?」
「小さい葛篭の方が良いものが詰まっているものよ」

 言い方からして、分身はもっと大きく、等身大まで大きく出来るのかもしれない。しかし解せない。小さい物より大きい物の方が沢山詰めれたりパワーが出るだろうに。パルスィの言葉の意味が良く理解出来ないが、ここで反論しても先に進まないだろうからあえて口には出さない事にした。

「それじゃ、私は帰るから頑張ってね」
「帰るって、ちょっと待てよ!」

 パルスィはチビパルとやらを机の上に置くや否や、軽い敬礼をしながら駆け出し、制止が聞こえていないのかそのままテープを飛び越えて床に開いている穴へと飛び込んで行ってしまった。
 何とも騒がしい奴だ。自分で物事を進めすぎている気がしてならない。そもそも帰るって、人の家に地下まで続く穴を開けたまま去るとは実にいただけない。帰るにしてもまずは穴を埋めてからにして欲しかった。どうにも彼奴を相手をすると疲れが溜まって溜息の一つも吐きたくなる。

「何を溜息なんて吐いてるの。さっさと案内してよ」
「おおう!?」

 背後から聞こえる聞き覚えのある声に驚いて振り返る。すると目の前にパルスィがいた。いや、先程よりもサイズの小さい、つまり彼奴が置いていったチビパルと呼んでいた分身が腕を組んで宙に浮いていた。
 なるほど、実際に口を利いて動いてみると作り出された分身とはいえ本当に生きているみたいだ。感心してしてしまう。

「どうしたのよ、じろじろと眺めて」
「あー何でもない。ただ、本当に瓜二つだなと思ってな」
「似てない分身なんて意味ないでしょ。さ、私を見るより、その妬ましい相手を穴が開くくらい睨みに行きましょ」

 パルスィは楽しそうに微笑みながら私の肩に乗ると体を揺すりながら翡翠色の目を向けて出発の催促をしてくる。
 確かに、ここで二人無駄な会話を交わすよりも手早く目的を済ませて平凡な毎日を取り戻さないといけない。私はそうだなと頷き、帽子掛けに掛けてあったトレードマークの帽子を取り、続けて玄関前まで進み、玄関横に置いてある愛用の箒を取りながら扉を開く。
 扉を開いた瞬間に溢れ出す光が眩しく、手で目元を覆いながら空を見上げると、昨日とは打って変わって雲の無い晴天と燦々と輝く太陽が見える。まだ空気そのものは若干冷たいが、染み込むような暖かさ持った日差しが心地良い。これならもうすぐ春告精の姿も見れるかもしれない。そのせいか、普段は瘴気が濃い筈の空気も日が差す家の周辺だけ浄化されているのはないかと思えてくる。嗚呼、今日は間違いなくお出掛け日和だ。
 だが同時に、そんな青い空と眩しい太陽がどこか妬ましくも感じた。

「外は広くて妬ましいわね。青い空、暖かい太陽、生い茂る草木、ちょっと澱んでいるけど地底よりも新鮮な空気、溢れる生命の気配、どれもこれも妬ましいわね。あぁ妬ましい妬ましい妬ましい」
「耳元で騒ぐな」

 とりあえず耳元で陰気臭い台詞を連呼するペルシャ人にでこぴんを見舞わせておいた。


          §


 森の入り口。そこに昨日と変わらずに何に使うのかも想像が付かない道具に囲まれた香霖堂が佇んでいる。昨日と何も変わらない、という事は、彼奴もまだ店に泊り込んでいるのだろう。そう考えると見慣れている筈の香霖堂がまるで怨敵の住み家に見えてくるというのだから不思議なものだ。いや、怨敵というのも大袈裟だろうか。
 兎に角、パルスィには手早く作業を終わらせてもらおう。
 既に香霖堂は営業時間。中の二人も目を覚ましているだろうから抜き足差し足で近付き、辺りにあるがらくたを蹴り飛ばさないように回り込んで店内が覗ける窓の側まで移動する。
 これではまるで忍び込む家を下見する泥棒か何かだ。どうして私がこんなに人目を忍ぶ行動をしなければいけないのだろう。
 簡単に考えて思いつく理由としては、店に住み着いた彼奴と顔を合わせたくない、が挙げられる。私自身でも理由は分からないが、彼奴と香霖が一緒にいるところを見ると平常心を煽られて冷静ではいられなくなる。他人に冷静さを欠く姿を見せるのは私のポリシーに反する。とは言え、もし今の私の姿を誰かが見たら変人と見られるに違いない奇怪な行為だろうし、こそこそしている様が何とも情け無い。
 窓を覗き込むと、薄暗い室内に例の二人の姿が目に入る。香霖はいつもの席でいつものように本に読みふけっている。彼奴も客が来なくて暇なのか、本人の背丈よりも高い壷の口に乗って辞書のような分厚い本を開いている。二人の間には会話は成されていないが、二人が同時に視界に入ってくると再び苛立ってきてしまう。やはり、いきなり正面から突っ込まなくて正解だった。
 でも良く見たら、彼奴が座っているところは私の特等席じゃないか。人の許可も無くあの場所に座るだなんて何て図々しい奴だ。

「あれが話しに聞くお二人さんね。静かな空間で二人きりの読書だなんて、妬ましいわ」
「そうか? 私はそんなの別にどうでも良いぜ」
「親指の爪を噛みながら言われても説得力が無いわ」
「五月蝿いよ。兎に角、これで相手の顔も分かっただろう。早くあの二人の縁を切ってくれよ」
「それなんだけどねぇ、御免あれは私には無理だわ」

 残念だと言わんばかりに苦笑いを浮かべながら首を横に振りながら手を上げて降参の意識を示すペルシャ人。
 とりあえずでこぴんの要領で顎を弾く。あごぴんとでも名付けておこう。あごぴんを下あごに直撃したパルスィは大した抵抗力も感じず面白いように打ち上げられるが、素早くその浮き立った体を逃がすまいと両手で鷲掴みにして引き戻した。
 見た目や握っていると実感できる感触とは裏腹に紙風船のように軽い。分身だと言っていたが、内臓とかはいらないから省いているのだろうか。でもそんな軽い体には血が流れているのか鼻血を垂らしているのはシュールだ。

「何の為に私がこんの湿っぽい事までしてお前をここに案内したと思ってんだ! 縁切りの神ってのは出任せか!?」
「え、縁切りが出来るのは本当よ! でも切れるのは悪縁だけで、あの二人は該当しないわ」
「つまり言うと?」
「悪縁になりそうな念を感じないわ。別にあの二人が結ばれて悪くない縁みたいだし」
「つまりお前は二人が一緒にいても良いという賛成派かこの裏切り者めぇ!」
「ぎゃぁあ!? 人の話は最後までげふぅ!」

 出切る限りの力を込めて手の中にいるパルスィを握り締める。
 畜生、こいつは裏切り者だった。協力する振りをして実は私を嵌めようとした策略だったのだ。
 まんまと騙された。その思いは頭に血を上らせるには充分で、感覚が麻痺して痺れてしまうぐらいに握力を掛ける活力となった。

「らめぇ! 出ちゃ……! これ以上締め付けたら大玉打ち返し弾出ちゃうのぉ!」
「んなもん知るか! 食らいボム上等だぁ!」
「と言うよりも、君はそこで何をやってるんだい、魔理沙」
「邪魔すんなよ! 邪魔するとお前も消し炭にし」

 頭上からの声に振り向きながら怒声を上げる。が、それを見た瞬間に全開だった喉が絞まる。
 私の頭上、いつの間にか窓が開かれていて、そこから香霖が訝しそうな顔をして見下ろしていた。
 体温は氷点下まで急降下。額からは嫌な汗が洪水のように溢れ出すのを感じる。
 よりにもよって一番見られたくない人物に見られてしまった。
 ひとまず、パルスィを見られたら色々と危ない。振り返り間際に後ろ手に持ち直し香霖から見えないようにしよう。

「よ、よう香霖。きょきょきょ今日はお日柄も良く……」
「まぁ確かに良い天気だけど、君は大丈夫なのか? 顔が引き攣って声がどもっているし、さっきも怒鳴り声上げてたし」
「あー、えぇと、それはだな……き、茸だよ! 茸の幻覚にやられたんだ!」
「茸?」
「香霖の家の横に見た事ない茸があったから近付いてみたんだけど、それが予想以上に強力でさ」

 背筋は冷たいとさえ感じるのに心臓は馬鹿みたいに熱く跳ね回っている。体に力が入らず、立っているのが精一杯。質問されて咄嗟に返せたのは偶然だ。答えというには実に苦しい。
 香霖は眉を顰めながらも顔を横に向けたのに釣られて私も同じ方向に顔を向ける。その先には森が広がっていた。人間も妖怪も近寄せず、あまり生き物が多くない場所、魔法の森。密集して生えた木の葉で覆われ、昼でも地面まで陽が届く箇所は殆ど無く、化け物茸の胞子が飛び交う、魔法使いにとって住まうには打って付けの場所だ。
 不意に森の奥からそよ風が吹き込み鼻孔をくすぐり、わずかに吐き気を催してしまう。様々な茸の胞子が浮遊する森の空気は魔法使いの私には普段だったら問題は無いのだが、今の状況ではこの瘴気は少し堪える。
 森の瘴気が体に悪いのは香霖も一緒だったのか、流れてくる風に目を細めていた。

「ここまで胞子が飛んできてしまったか。最近は強い風も無くて心配無いと思っていたのだがね。それよりも魔理沙、君の方が心配だ」
「え? 何だよいきなり」
「幻覚を見ていたのなら、その顔色の悪いさは胞子の影響かもしれない。今日は店も休みだし、中に入って休め」
「い、いや私は別に大丈夫だぜ」
「僕にはそうは見えない。それに今は大丈夫でも後で症状が悪化するかもしれないだろう。良いから来るんだ」
「それはそうだけど……分かったよ。だからそんな真剣な顔で見ないでくれ」

 やや強い口調だった為に渋々頷いてしまった姿を見た香霖は、良しと一言口にして扉を閉める。
 なんとか目の前の危機から免れたようだ。それを実感すると力んでいた膝が脱力感に襲われ、口から大きな溜息となって体から抜け出し、立っていられずしゃがみ込む。
 危ないところだった。もしあそこで深く問い詰められたら私が何をしようとしていたのかばれていたかもしれない。茸のせいだったと誤魔化しは見苦しいとも思えたが、意外と上手くいくものだ。

「気付かれちゃったわね。あれだけ大声出せば当然だけど」
「誰がその大声を出させた原因だと思ってるんだ」

 目の前に両手を脇腹に当てながら呆れた顔をしたパルスィが舞い降りてくる。しゃがんだ際に手に力が抜けてしまって、その内に逃げ出してしまったか。
 憎たらしいからでこぴんの一つでも見舞ってやりたいところだが、今はそんな気力も起きないのが惜しい。

「それにしても貴女って結構、初々しいわね」
「何だよいきなり。私はいたって普通だぜ?」
「だって、好きな彼の前では押しが弱くなるというか、女々しくなるのだもの」

 こいつの言葉が理解できず、暫し考え込む。
 初々しいとはうぶである事。女々しいとは柔弱である事。それらの理由は理解できる。では、好きな彼とは一体誰なのか。彼とは男の事を指す。そして、彼の前という言い方からつい先程までその彼とやらがいたかのようだ。つい先程まで私の前にいた男は香霖一人しかいない。
 つまり、私は香霖が好きだ、とこいつは言っている事になる。
 言葉の意味を理解し始めたらそれに併せて徐々に顔に熱が篭り始めるのを感じてしまう。

「やっぱり女々しくて初々しい恋は見ていて面白いわ。でもやっぱり妬ま」
「危ない上から流れレヴァリエがぁ!」
「しぶぁ!?」

 気付けば適当な理由を付けて目の前のペルシャ人を叩き落としていた。
 静まり掛けていた鼓動が再び五月蝿いくらいに高鳴ってしまっている。まったくもって唐突にとんでもない発言をしてくれる。
 私も花も恥らう年頃の魔法少女である事を自覚している。だからといって、よりにもよって香霖を好きだ等とぬかすとは予想外、斜め上を行くにも程がある。確かに私の近頃は男との関わりは香霖ぐらいしかないが、香霖とはあくまで小さい頃から面倒を見てくれた幼馴染みなだけであり、今であっても、八卦炉をくれたり物々交換で色々と良くしてくれる関係だが、別に恋愛感情等といったものは一切持ち合わせていない。そもそも、こんな辺境に店を建てて商売するは、良く理解できない薀蓄を垂らすは、人としては変人の部類だ。少しは良い顔してるし優しくしてくれるが、香霖に恋するなんて無い。絶対に無い。
 そう、香霖とはただの幼馴染みであり、それ以上でも以下でもない。だから落ち着け霧雨魔理沙。
 ひとしきり深呼吸し心を体を落ち着かせる。最近こればかりを繰り返している気がしてならない。
 ともあれ、そろそろ部屋に入ろう。あまり待たせるとまた疑われかねない。
 足元を見るとヒンドゥーの神様みたいな断末魔を上げて墜落していたパルスィがギャグ漫画の如く、がに股のうつ伏せ状態で地面にめり込んでいた。うんともすんとも言わず指一本動かさないが、妖怪で分身だから死んでいないだろうしそのままにしておこう。


          §


 昼下がりの香霖堂。窓際に置かれている私の身長程ある大きな壷に腰掛け、足を組んで香霖から貰ったコーラを一口喉に流し込む。
 午後になっても窓の外から見えるのは清々しいくらいの青い空。太陽も変わらず日光を大地に降らせ、その光を背に受け恩恵を存分に感じ取る。実に暖かい。もし私が猫や犬等の動物だったならそのまま呑気に欠伸して昼寝の一つにでも洒落込んでいるかもしれない。が、今の人間な私には眠気が全く起きない。寧ろその熱が頭を覚醒させているのではないだろうかとさえ思えてくる。
 正面には黒い革で出来た背もたれ付きの椅子に座って読書に勤しむ香霖の姿。あの椅子は最近見つけたもので非売品だそうだ。自分が使いたい物は商品にしないという辺り、本当に商売がしたいのかと疑わしくなるが、それはいつもの事なので置いておこう。
 それよりも問題はもっと別のところにあるのだ。

「なんで香霖の膝の上にお前が座って一緒に本を読んでるんだよ」
「だって私が見たい本だったのに、こーりんが先に見ちゃうし譲ってくれないんだもん。だから一緒に見るのよ」

 人の膝の上に乗る事をさも当然の行動だと言わんばかりにしれっとした顔で言い切るとは何様だこの居候妖怪娘は。
 馴れ馴れしく人に付き纏うとは教育がなっていない。

「そもそもなんだ『こーりん』て。人の呼び名を勝手に使うなよ」
「だって霖之助とか長いし。それにあだ名は独り占めするものでもないじゃない」

 言っている事はもっともだが、こいつに言われると妙に向かっ腹が立つ。
 それに、よりによって私が使う呼び名を使うとは。もっと別の楽な呼び方があるだろうに。例えば森近とか。

「香霖も香霖だ。そんなところにそいつがいられたら読み辛いだろう」
「魔理沙の言う通りだが、あまり邪険に扱うのも悪いと思って……」
「ああそうかい。なら好きにすれば良いさ」

 嫌なのか良いのか分かりづらい返事を返してくる香霖だが、苦笑いをしているあたり積極的に退けようという考えは持っていないように見える。
 私には到底考えられない。誰かが膝の上に乗ってこられたら問答無用で振り落としているところだ。
 これが大人としての包容力なのか、香霖がそういうものをを全く気にしない性質なのか、それとも俗に言うロリコンなのか、判断はできない。だが、出来ればロリコンではないと信じたい。小さい頃から良くしてくれていた香霖の裏側に幼女に欲情する性癖があったら等と思うと、多少は美化されているだろうが楽しかったあの思い出この思い出がマッハで汚らわしい思い出に成り下がってしまう。いや、一応はこれまで仲良くしてきた者同士なのだからそう発想をすること自体が失礼かもしれない。これ以上は考え込まない事にしよう。
 それよりも問題は私の方にある。今更とも言えるが、あの二人の事を意識し過ぎているのは最早認めるしかない。何を思っているのかは自分でも良く分からないが、二人が一緒に映ると酷く気持ちが昂ってしまっている。
 何が気に入らないのだろうか。
 まさか、本気であの二人が結ばれると思って私怨を抱いているのだろうか。だが待て霧雨魔理沙、それこそ冷静に考えればまず無い事だろう。香霖はロリコンじゃない筈だし、彼奴も何年生きているのかは知らないが見た目も考え方も十歳程の小さな女の子だ。良く見れば、外見は子供とその保護者だ。そうさ、子供と保護者が近くにいて当然ではないか。むしろその光景は微笑ましいものであったり、私にとっては「いつの間に子供作ったんだ」と、からかいの種になるものではないか。ならば、私は二人の姿が物珍しくて面白く映る筈だ。

「あ、ちょっと待ってよ。私がまだ読み切ってない」
「僕はもう全部読んだ」
「こーりんが速過ぎるの。もっとゆっくり読みなさいよ」

 香霖が持っている本の頁を捲ると膝の上の彼奴が捲り返して元の頁に戻してしまうが、香霖はやれやれと言いたげに頭を掻くが、その口元は軽く綻び、それ程気に留めていない、小さい子の我侭を許す親のような顔だ。何も知らない人が見ればまさに仲の良い親子の微笑ましいワンシーンだろう。
 香霖も意外と良い顔をするものだ。普段からあれぐらい緩やかな顔をしていれば少しは客も寄り付くものだろうに。勿体無い。
 ところで、このコーラの瓶はどれ程の握力で握れば砕けるのだろう。今は物凄く物を握りつぶしたい気分だ。
 怒ってなんていません。魔理沙様は至って冷静です。

「あら、またまた素敵な嫉妬オーラ」
「ひゃぅっ!?」

 耳元でいきなり息を吹き掛けられてしまい思わず握っていた瓶を手放してしまうが、咄嗟に両手で掴み直す。幸いに中身は零れなかったらしく、瓶の中で波を作り小さな気泡を無数に浮き立たせるだけで済んだ。

「どうした魔理沙、急に変な声なんか出して」
「な、何でもないぜ。ちょっとコーラがすっぽ抜けて慌てちゃっただけだ」
「そうか。怪我が無いのなら良いのだけど」
「掠り傷一つ無いさ。大丈夫だ読書の続きでもしていてくれ」

 何事かと不思議そうな顔をして質問してくる香霖は適当な答えを疑問に思わなかったらしく再び本へと目を落としたのを見て誤魔化せたようで胸を撫で下ろし、そのまま首を横に向けて元凶を睨みつける。
 耳元で囁かれるシチュエーションは短い間に何度か体験したし声にも聞き覚えがあったが、案の定そこには小さなパルスィが楽しそうに笑う顔があった。

「いきなり耳元で喋るな。びっくりするだろ」
「貴女の側に水橋パルスィ。会員のところならどこにだって現れるのよ」
「気味悪いわ。というよりどこから入って来たんだ」
「そこの窓にひっそり穴を開けて」
「不法侵入じゃないか……!」

 本を見てる二人に聞こえないようにする為に小声での問答を繰り広げつつ後ろを見てみれば、燦々と降り注ぐ日光を通す窓ガラスの隅が鼠一匹分潜れそうな円状の穴がぽっかりと開かれていた。
 恐れ入る。窓に穴を開けて人様の家に上がり込むなんて恥ずかしくないのだろうか。人の家に上がり込むなら堂々と正面突破で上がり込むべきだ。

「この際それに関しては置いておくとして、お前もう地底に帰れ。結局は役に立てないんじゃないか」
「だってまだ役に立てる機会があるかもしれないし、良いじゃないもう少し一緒にいさせてよー」
「むぉぉ頬に縋るな寄り付くなぁ……! 分かったからこれ以上暴れるな。香霖達に気付かれる」
「それじゃぁ……!」
「ただし、気付かれないように帽子の中に入って大人しくしてろ」
「はーい」

 掌を返してすんなりと言う事を聞いて帽子の中に潜り込むパルスィ。なんとも調子の良い奴だ。
 今すぐにでも地底に送り返してやりたいが、近くに二人がいる以上時間が無い。駄々けるパルスィをなだめさせていたらその間に見つかり兼ねない。ならいっそ隠れさせて同行させた方が見つかる可能性が低い。幸い、分身の為か重さは殆ど感じない為、動き辛いという事は無いが、変な奴に纏わりつかれてしまったものだ。

「おっと、もうこんな時間か」

 ふと静かな部屋に香霖の声が響き、そっちに目を向けると、丁度香霖が椅子から立ち上がり、彼奴を床に降ろしている最中だった。香霖の背後に置かれてあるのっぽな古惚けた置き時計の針を見れば、時刻はもうすぐ午後二時半を指そうとしている。気の早い洋式な奴ならそろそろ三時のおやつといって準備に取り掛かっているかもしれない時間だ。

「どうしたのこーりん? トイレ?」
「今日は午後から無縁塚に行って商品になりそうな物を探そうと考えていたんだ。読書に気を取られて少し遅れてしまった」
「どこそこ?」
「簡単に言えば外の世界の物が良く流れ着いてるところかな」

 無縁塚は知っている。香霖堂の裏側に広がる魔法の森、その先にある小さな広場だ。以前に一度だけいった事があるが、そこで閻魔様にしこたま説教をされるわ桜が紫色の花を咲かせて気味が悪いわで、あまり楽しい思い出の無いところでもある。そこは幻想郷の中でも最も外の世界に近い場所らしく、良く外の世界の道具が落ちているのだと香霖は語っていて、定期的に無縁塚に向かっては物色しては使い方も分からないがらくたを集めてくる。コーラみたいな有意義な物が落ちている事もあるらしいが、それも稀だ。

「外の物って言うと本も落ちてるの?」
「本が落ちてる事はあまり無いかな。もしあったら一緒に拾ってくるのだけど」
「私も読んで良い?」
「僕が見た後だった構わないよ。それじゃ君は大人しく留守番していてくれ」
「じゃあ帰ってくるまであの本読んでも良い?」
「仕方ないな。見ても良いけど」

 「挟んだしおりは動かすなよ」と続けるが、彼奴は「見ても良い」と聞いた時点で生き生きとした表情で机の上に置かれていた本を取って椅子に座って読み始めていたが、香霖はそんなせっかちな彼奴の姿をこれもまた苦笑いで返すだけだった。
 温い反応をするのは甘やかし過ぎではないだろうか。本来ならそこは注意の一つや二つは促しておくべきだと思う。
 先程から見ている限り、香霖の彼奴に対する対応は実に甘い。饅頭に蜂蜜と砂糖を掛けたぐらいに甘い。これだけ甘やかしてると本当にロリコンなのではないかと疑わしくもなってくる。

「魔理沙はどうだい? その様子だと胞子の効果も無くなってきたんじゃないか」
「あーそうだな……まだ頭がぼんやりするからもう少しここにいる」
「そうか。あまり無理はするなよ。もし具合が良くならなかったら奥の布団も使っても良いぞ」
「その時は有り難く使わせてもらうよ」
「それなら僕は出掛けるけど、二人とも室内じゃ揉め事はご法度だからね」

 まだその辺りが信用されていないのか簡単な注意事項を釘刺されてしまった。少し心外だ。私だって暴れるべき場所と暴れるべきでない場所の区別くらいは出来ている。異変や私の邪魔をする奴がいるところは撃つ場所で、実家と私に都合が悪いところは撃たない場所だ。香霖堂は色々と世話になってるところだから撃つべき場所じゃない。
 彼奴は「はーい」気が抜けそうな明るい声で返し、私も「分かったよ」と一声掛けながら片手を軽く振って応えると、香霖は一つ頷き「行ってくる」と踵を返して玄関の扉を開けて外に出ていった。扉が閉じられると同時に静かな空間にとっては五月蝿い響く呼び鈴。外からは微かに聞こえる足音と木材が擦れるような音。多分、外にあった荷車も一緒に持って行くつもりなのだろう。
 足音と車輪が転がる音、人の気配が遠ざかり森の方へと消えていく。そして耳を澄ませても聞き取れなくなるまでには時間は掛からなかった。
 沈み返る室内。聞こえてくるのは置時計の狂い無い時間を刻む音、それと彼奴が不定期に本の頁を捲る音ぐらいだ。
 彼奴が熱心に読んでいるのは何なのか。表紙に目を通してみると「非ノイマン型計算機の未来」と書かれている。嗚呼、そういえば以前にここに殴り込みしてきた時の目的の品もあれだった。なるほど、読破し切れてなかっただろう本だけに夢中で読む訳だ。
 ただ、明らかに子供臭い反応をする彼奴にやたら難しそうな題名の本の中身が理解できているのかは分からないが。
 ふと彼奴が顔が上がって目が合う。視線に気付いたのかもしれないが、中々勘が良いのかもしれない。

「なによ、さっきからじーっと見て」
「いや別に。そんな難しそうな本なんて見て、中身を理解してるのかなと思ってさ」
「書いてある意味なんて分からないわ」
「分からないのかよ」

 どこか誇らしげに胸を張って理解してないと断言する彼奴に軽い眩暈を覚えて目頭を押さえる。子供ぽいとは思っていたが、どうやら見た目だけでなく頭の中も本当に幼いようだ。

「ねぇそれよりも、あんたが持ってるそれ何?」
「あん? コーラだよ。外の世界の飲み物だ」
「黒くて変なの。でもちょっと面白そう。どこに置いてあるの?」
「部屋の奥に行けば何本か置いてある。それを好きにすれば良いさ」
「ちょっと取ってくる」

 本を開いたまま机の上に伏せた彼奴は軽く跳ねて椅子から降りると部屋の奥へと消えた。
 部屋の中に一人取り残され、考える相手も話す相手もいなくなってしまった。だからだろう、今になって自分自身についてもっと冷静に考えてみようと思えた。
 結局、私はあの二人に何を感じているのだろう。
 香霖は、言わずと知れた私との幼馴染みで、良い兄貴分だ。昔も今もそれは変わらない、と思う。
 彼奴は、まだ関わってまだ数日の関係だから良く分からない。だが第一印象としては、口が悪い。主に自分の事を中心に考えてる。自分を正当化しようとする。纏めると、あまり好印象を受けない。良く言えば活発で、悪く言えば悪餓鬼だと思う。
 なら、二人が一緒にいる事に苛立ちを感じてしまうのは何故だろうか。
 彼奴が香霖に纏わり付くからだろうか。そうだとしても、何故それ程までに心を乱してしまうのか。
 同じ自問自答を何度繰り返しただろう。だが何度やっても同じ、答えは霞のように掴む事が出来ず、私を悩ませる。
 
「やっぱり、良く分からないよ」
「恋して悩める女の子は美しいわね」
「勝手に喋るなパルスィ。それに私は別に香霖が好きだなんて思ってないと何度も言ってるだろ」
「そうだとしても、貴女の気持ちはどうなの?」

 帽子の中から何かが抜け出し、横から聞こえる声。顔を向ければパルスィが挑発するような冷笑を浮かべて私を見ていた。
 「あの二人が一緒にいて満足?」と続けながら翡翠色の目が私の目を覗き込んでくる。暗く、まるで底が無く引きずり込まれそうな深い翡翠が語り掛けてくる。何のためにここまで来たのか、と。
 部屋の奥から騒々しい足音が近付いてくるのを感じ、振り向けば彼奴が難しい顔をしながらコーラの瓶を持って逆さにしたり軽く振ってみたりと格闘していた。

「白黒ー、これどうやって飲むの? 塞がってて飲みようが無いじゃない」
「なぁ……お前は香霖の事どう思ってるんだ?」
「はあ? 質問してるのはこっちなんだけど」
「答えてくれ。香霖の事をどう思ってる? 好き、なのか?」

 彼奴の顔を見ていたら自然に一つの疑問を口にしていた。詰まるところ、私は彼奴が香霖をどのように受け取っているのかが気になっていたのかもしれない。
 だが、知ったところでどうするというのだろう。そこまでは自分自身でも分からないが、答えを聞けば分かる。そのような気がした。
 彼奴は質問を質問で返された事が不服なのだろう、眉を顰めていたが、やがて何かを考えるように顔を上に向け暫く呻き、当てはまる答えが見つかったのだろう、明るい笑顔を浮かべて向き直してきた。

「好きだよ。ここには本も色々あるし、お店の手伝いをするのも結構楽しいし、こーりんも優しくしてくれるもの。だから、これはきっと好きて言うんだと思う」
「そう、か」

 体の内側にまるで小さな棘でも刺さったかのような違和感を感じた。
 今まで見ていた様子からすれば聞くまでもなかったかもしれないが、やはり彼奴は香霖に好意を抱いている事を確認してしまった。
 拳に力が入る。それがどの感情から来るのかは分からない。ただ、目の前にいる彼奴に対して言い知れない憤りを感じているのだけはなんとなく理解出来た。
 自分自身でも理解出来ない自分の感情が気味悪い。自分自身でも分からない彼奴に対する憤りが不気味だ。
 やはり私はどうにかなってしまったのだろうか。原因の分からない心の中の様々な感情に押し潰されそうだ。
 だから、行動する事にした。
 壷の口から降り、彼奴の前に立つ。頭一つ分は背丈が低い彼奴を見下ろすと不思議そうな顔をしながら私を見上げている。
 きっと、これから放つ台詞を理解はしてくれないだろう。何故なら私でもこんな行動に出るのが上手く理解できないのだから。

「突然だけどさ、お前にスペルカード戦を申し込む。懸けるのは……ここの居住権だ」

 結局、私は分からない感情から逃げる為に強引に引き離す事に決めた。
 やはり私の台詞が理解出来ていないようで、呆気に取られている彼奴の腕を掴み問答無用で引っ張る。後ろから「痛い」「放して」といった声が聞こえるがそれに構わず玄関の扉を開けて外に飛び出した。


          §


 香霖堂から少し離れたところにある開けた通路。そこで彼奴と対立する。
 距離としては充分離れているから流れ弾の心配も殆ど無いだろう。
 風は無く、明るさも丁度良い。まさにスペルカード戦をするにはお誂え向きの天候だ。
 懐を弄りスペルカードを取り出す。手持ちの枚数は3枚。今日は異変解決に向かう訳でもなかった為に少なめだったが、これだけあれば問題無いだろう。

「私のスペルカードは3枚だ。さあ、お前も早くスペルカードを出せ」
「出せも何も、勝手に話を進めないでよ! いきなり人を無理矢理外に連れ出した上にスペルカード戦を宣言するなんて何考えてるのよ!」
「問答無用だ。動かないなら私が撃つ。それで終わりだぜ!」

 いかにも不愉快そうな顔をしながら背中の羽を逆立て彼奴が怒鳴って不満を主張するが、向こうの都合等、今の私にはどうでも良い。目の前から彼奴がいなくなればそれで良い。
 掌をかざし「撃つ」という意識を集中させ、次いで「放つ」と願うと、掌から熱を帯びた緑色の光弾が四発、彼奴に向けて放たれた。
 放たれ加速しながら突き進む弾は彼奴の足元に着弾。瞬間、弾が爆ぜて土煙を巻き上げて彼奴を覆い尽くす。
 マジックミサイル。牽制とその気にさせるには丁度良い代物だろう。
 土煙の向こうから咳き込む声が聞こえると、堪えたのか土煙の中から上空に向けて彼奴が飛び上がった。
 飛ぶ為の器官にしては体格と比べ明らかに小さい羽を羽ばたかせながら、砂が目に入ったからだろう潤んだ目で睨みつけてくる。

「うええ、砂が少し口の中に入っちゃったじゃない。服も汚れたし、何て事してくれるのよ!」
「ああそうかい。抵抗しないからそうなるんだ。抵抗したらもっと凄いだろうがな」
「訳分かんないわよまったく! もうあったま来たわ。そこまで言うなら相手になってやるわよ!」
「それは良い。なら早くスペルカードを提示しな」
「スペルカードなんて作ってないわよ!」

 彼奴が怒鳴りながら横一文字に腕を薙ぐと指先の軌道から人の頭程の大きさの赤い弾が無数に放たれ、弾幕となって降り注いでくる。しかし弾の速度は決して速くない。寧ろ遅くて避けてくださいと言っているような温いものだ。
 慌てずに手にしていた箒に跨り「飛べ」と心の中で命令すると箒はそれに従い、私を乗せながらも軽々と浮かび上がり、迫り来る赤い雨の中へと飛び込んだ。
 規則も無ければ弾幕と呼ぶにはあまりに密度が薄い、闇雲にばら撒いたのが見て取れる弾を一つずつ掻い潜る。右にずれ、左にずれ、頭に直撃しそうな弾を首だけ逸らして避けると目の前から赤い弾が無くなり、簡単に彼奴と同じ高度まで到達する事が出来た。
 彼奴の顔が苛立ちに満ちた顔で睨みつけてくる。今の弾幕が当たらなかった事が気に入らなかったのだろうか。それとも先程の土煙を浴びせられた時の怒りがまだ残っているのか。どちらにしろ、その顔が今の私には心地良く、つい口元が歪んでしまう。

「まったく温い弾幕だぜ。掠る必要もなかったな。それにしても、まさかスペルカードが無いなんてなぁ」
「本を読むのにスペルカードなんていらないもん」
「本の虫か。私が知ってる本の虫はもっと沢山スペルカードを持ってるもんだがな」
「そんなの私には関係無い!」

 口を尖らせながら彼奴が両手を上げ振り下ろすとその周囲から再び赤い弾に加え、同型の青い弾も現れ同時に放たれる。
 赤と青の色合いは中々映える弾幕だが、やはり規則性も無く適当にばら撒いたかのような適当さは相変わらず。数を増やせば良いというものでもない。そして何よりパワーが足りない。
 こちらも腕を薙ぐ姿勢でマジックミサイルを水平斉射、緑の弾幕となって迎え撃つ。
 互いの弾幕が触れ合った瞬間盛大な破裂音を辺りに響かながら互いの弾が爆ぜ、相殺し、打ち消されていく。が、やはり彼奴の弾幕にはパワーが足りない。まるで花火の如くけたたましく爆ぜた一発のマジックミサイルは緑色の爆煙を上げて赤や青の弾を複数飲み込み消し去っていく。そして色鮮やかな爆煙の中、数発のマジックミサイルが弾幕を抜け、標的目指して迫りかかる。
 爆煙の中から飛び出したマジックミサイルに彼奴は慌てふためきながら身を反らして弾を回避するが、避けきれなかった一発が頭に命中し破裂し、その勢いで短い悲鳴を上げながらえびぞり状に仰け反り、額に両手で押さえ痛そうな素振りを見せている。

「脆弱な弾だな。さっさと降参した方が身の為だぜ?」
「一発当たったからって調子に乗らないで……!」

 額を摩りながらも彼奴は姿勢を建て直し、痛みからか目尻から一粒の涙を零しつつも強気に睨み返す。そして額から手を放した直後、勢いをつけて突進、そのまま拳で殴り掛かってきたが、軽く横にずれるだけで振り抜かれた拳は空を切り、勢い余った体ごと私の横をすり抜けていった。
 体勢が崩れて急停止しながらも振り返った彼奴はパンチが当たらなかった事が不服らしく、頬を膨らませている。
 先程の弾と比べれば速度があるのはさすがに背中の羽は伊達では無いようだ。だが、冥界の庭師や鴉天狗の新聞記者のそれには遠く及ばない。そいつらの速度に慣れた私からすればまだ遅い。
 その程度では当たらない、と人差し指を振りながら舌打ちして挑発してやる。すると彼奴は益々頬を膨らませて蛙を彷彿とさせる顔になりながらも再び羽を広げて飛び掛り、彼奴なりの全速であろう速さでこちらに肉薄してくる。
 顔目掛けて放たれた大振りで弧を描く右拳は上体を軽く反らして避け、続けて放たれた左正突きを往なしつつ背後に回り込んで隙だらけの尻を叩いてやると軽く跳ね上がった。「思ったよりも柔らかいな」等と思いながらも彼奴が振り向いたところを透かさず額にマジックミサイルを撃ち込み、爆ぜ、その衝撃で上体を仰け反らせた。
 至近距離からの射撃は大分痛かったらしく、彼奴は悲鳴さえ上げずその場に額を両手で押さえて蹲ってしまっている。
 拍子抜けだ。私からスペルカード戦を申し込んでおいて難だが、あまりにも弱過ぎる。以前にも戦った事があった為、少しは上達したのかと思っていたが、全く変わっていない実力に同情さえ覚えてしまいそうだ。

「もう勝てないって分かるだろ。降参しろ。これじゃまるで私が苛めてるみたいじゃないか」
「降参……なんて嫌よ!」

 彼奴の体が捻れると同時に下から何かが迫り来る気配に咄嗟に後退。眼前を引っ掻こうと試みた手が通り過ぎ、併せて帽子が頭から弾き飛ばされ宙に舞った。避け切れずに鍔が引っ掛かってしまったか。
 飛ばされて弧を描きながら地面に落ちていくだろう帽子は追わない。それよりも目の前の相手から気を逸らしてはいけない。二度の衝撃から額を赤くし、痛みからか目尻に涙を溜めているが、彼奴の目には負けを認めた様子は無い鋭い目付きで仁王立ちしているのだ。

「私はあそこを出ない。まだまだあそこにいるんだ!」

 上擦った怒声を上げながら三度目の突進を再び軽く身を逸らして避けてすれ違う。通り過ぎると急停止、振り向きながら腕を薙いで赤い弾を撒いて弾幕を放ってくる。が、一回目に撒かれたそれよりも遥かに疎らで密度も薄い。避けるまでもなく、掠る事もなく、赤い群れは役目も果たせないまま背後に消えていった。
 余計に弾幕の扱いが酷くなっているのは見た目よりも疲労しているせいなのか。それとも意識できない程に感情が乱れているからなのか。
 腹立たしい。何故かそこまで必死になる彼奴の姿に怒りを覚えて仕方が無い。

「そんなに必死になって、そんなに香霖が好きか!」
「そうだよ、私はこーりんが好きだよ!」
「香霖のどこが好きだって言うんだ!」
「私を家に泊めてくれたもん! こーりんは優しい奴だよ。だから好き! そもそも人を好きだと思って何が悪いの!」
「恥ずかしげもなく好き好き言いやがって……お前は香霖の事を分かっちゃいない!」

 彼奴は香霖を殆ど知らない。香霖がただの優しい奴、そんな筈が無い。
 完全な人間じゃない半人半妖で、森の前に家を建てて挙句に商売を始めるという酔狂な思考を持った変人だ。
 それに動くかどうかも分からない外の道具を集めてゴミ屋敷みたいな外観にする。
 性格も違う。口数はそこまで多くはないし、開けば訳の分からない薀蓄を良く垂らす。ましてや商売したいのかも疑わしい。人に好かれる奴かと聞かれれば間違いなく「違う」と答えられるだろう奇人だ。
 そして、その中に優しさが少し入ってる。そんな男だ。

「私の方が香霖の事を良く知ってるんだ!」
「だからそれが何だってのよ!」

 奴が動きを見せると同時に腕が動き、懐から一枚のスペルカードを取り出し、目標に向けて突き出し開放の念を飛ばす。
 刹那、スペルカードが眩い光を放ちながら札の中から無数の星を空中に吐き出した。
 中身も確認せず発動した一枚のスペル「星符 メテオニックシャワー」は緑、青、赤、黄、色とりどりの星が止め処無く溢れ、瞬く間に星の洪水となって彼奴を飲み込み、吹き飛ばし、地面へと落下していった。
 役目を終えたスペルカードは星を吐き出すのを止め、輝きを失って何事もなかったかのように沈黙し、それを確認してから懐に仕舞う。

「終わりだ、な」

 相手の撃墜、それはつまりスペルカード戦の決着を意味する。後は、勝者が敗者に宣告するだけだ。
 緩やかな速度で地面に着地、飛ばされ落ちていた帽子を拾い上げて付いた埃を軽く払ってから被り直してから敗者の側まで歩み寄り、見下ろす。彼奴は地面に大の字で仰向けになっている。服の所々が破けてはいるが露出した肌からは出血は見当たらないし胸が動いている事から生きているのは確認できた。

「これで私の勝ちだ。大人しく香霖堂から出ていって貰おうか」

 彼奴は答えない。気を失って聞こえていないのだろうか。それとも聞こえてない振りをしているのか。
 頭は横を向いている為に表情を窺う事は出来ない。今の顔は、気を失った事で眠ったように穏やかな顔なのか。それとも、負けた悔しさに顔を歪んでいるのだろうか。
 いや、どちらにしろ私にはどうでも良い話か。これから去る相手を気にしてもどうしようもない。
 が、彼奴が突然勢いを付けて上半身を起き上がらせた。

「嫌だ」

 呆気に取られ言葉が出ない。彼奴は今、私の発言を拒否したのだ。
 膝を曲げて彼奴と同じ高さまで視線を下ろし、顔を覗きこむ。唇を震わせ、今にも決壊しそうな涙を目尻に溜めながらも強気な目付きは一切変わっていない。

「あー? 何言ってるんだ。負けたんだから大人しく従うべきだろ」
「嫌ったら嫌。私は出ていかない!」
「おい子供みたいな事を言うなみっともない」
「いーやーだ!」
「あだだ!? 頬を引っ張るなこの!」

 嫌だ嫌だと駄々を捏ねながら彼奴が手を使って両頬を抓り引っ張ってくる。耐えられない程でもないが地味に痛い。
 腕を掴み振り解こうとも試みるが、押そうが引こうが中々放さない。
 鬱陶しく、その上に人の話を聞かない。幼稚なまでに小さな抵抗を続ける姿には無性に私の怒りを煽る。
 だからその嫌だと連呼する五月蝿い口元を両手で思い切り抓り引っ張り返してやる。

「いい加減にしろ我侭野郎! 鳥鍋にしちまうぞ!」
「ひゃふぁ! れったいにひゃふぁ!」

 摘まむ彼奴の口元は餅のように柔らかく、良く伸びる顔はまるでお多福を思わせる形に変形しまともな発声が出来ていないが、それでも抗議の声を上げ続ける。
 本当に嫌な奴だ。特に、目が気に入らない。今にも泣きそうなくらい涙を溜めている癖に、その目は私から一瞬も逸らさず確固とした意思を持って訴え掛けてくるのだから。
 他の妖怪や妖精、あるいは人間、確固とした意思を持った目をした奴等はこれまで幾度か出会った事があるし、彼奴もその部類だ。それでもどこか他の奴とは違う何かを感じてしまう。
 その感じが私を苛立たせる。
 だからこそ、少しだけ興味を持った。
 口元を引っ張っていた両手を離してやるとお多福顔から元のあどけない顔戻る。するとそれに反応してか、彼奴も私の頬から抓っている手を放してくれた。
 双方の手が空き、相手の事情を聞き出すには丁度良い頃合だろう。

「何をそんなにあそこに拘るんだ? あそこじゃなくても自分の住処があるだろう」
「前の家は……壊れた。この前に雷が落ちて焼けちゃったよ」

 思い返せば、二週間程前に季節外れな雷が鳴り荒れた時があった。その時は家の中で実験の最中だった為、あまり気にしていなかったが、一際大きい雷鳴が轟いた事を覚えている。
 もしかしたら落ちたかもしれないとは思っていたが、彼奴がその被害にあっていたようだ。

「もう泊まる場所が無い。でもせめて本が欲しかった。だからまた本を取り返そうとこーりんのところに来たの」
「そして香霖の書房を見つけて住み着いた、て訳だ」
「そこで色々なものを見た。本以外はあまり知らなかった私に色々教えてくれたところ! だから、出たくない……!」

 彼奴は自分の思いをここぞとばかりに吐露した後は何も言わず目だけで訴えてくる。
 或いは、それ以上はまともな言葉が喋れないから口を閉ざしたのかもしれない。目には褪せない抗議の色が見えるが、既に目尻からは数滴の涙が零れ落ち、唇を噛み締めて嗚咽を我慢している有様だった。
 やはり、私は彼奴に憤りを覚える。勝ち目が無いというのは以前の勝負で明白だった筈なのに無鉄砲に臨み、完膚なきまで敗北したにも関わらず、それでもまだ諦めずにいるのだ。その有様は実に惨めでみっともない。
 だが、そんな彼奴の姿を嫌いにはなれなかった。

「全く、馬鹿じゃないのか? そこまで抵抗する姿勢を見せるなら、人に涙なんてみせるんじゃないよ」
「うるはいよ」
「あーもう面倒臭い……そんなにあそこにいたいなら好きにしろ」

 彼奴の目が丸くなり、零れる涙が止まり、呆けた顔をしている。まだ言われた意味を理解していないのかもしれない。
 だが、それも最初だけ。言われた意味を理解したらしく険しかった顔は次第に緩み、代わって嬉しそうな笑顔が作られる。

「本当!?」
「そうだよ本当だよ。だからいい加減に泣くのを止めろ」
「私、泣いてない」
「そうかい。ほら立てるか?」

 手を差し伸ばしてやると、彼奴は手を掴む。そして放さないよう力を入れながら立ち上がり、起きるのを手伝う。
 起き上がった彼奴を改めて頭から爪先までざっと眺めてみるが、やはり傷はどこにも見当たらない。可笑しな動きも無いところから、捻挫等の心配もなさそうだ。それなりに高いところから落ちたからもしやとも考えたが、体の頑丈さはさすが妖怪といったところだろう。

「ねぇあんた、何で私を見ながら笑ってるのよ?」
「私が笑ってたって? そりゃお前の気のせいだ。笑ってなんか無い」
「嘘だぁ。あんたさっき絶対笑ってたって」
「五月蝿いよ。それに、私は『あんた』じゃない。霧雨魔理沙って立派な名前があるんだ。覚えとけ」
「霧雨、魔理沙……そっか、やっぱりあんたも名前あるんだ」

 彼奴は何を思ったか、今度はしおらしくなり、背中の羽も垂れ下がり力無く揺らしている。
 泣いたり笑ったり落ち込んだり、表情がころころと忙しなく変わるとは騒がしい奴だが、人が突然しおらしくなるのを見るとやはり気になってしまう。何か気に障る事を言ったのだろうか。

「どうしたんだよ、急に」
「ん、名前があるのが羨ましいなと思って」
「お前、名前無いのか?」
「本を読む事ばかりだったから以前は気にならなかったけど」
「どれだけ本の虫だったのやら」
「こーりんのところに来てから殆どのものに名前がある事を知って、それで私だけ外されてるような気分なんだよね」

 自嘲的な笑みを浮かべながら彼奴は項垂れて視線を逸らす。
 自分の名前が無い。そんな事は一度も想像した事が無い。
 自分に名前があるのは当然であり、名前があるからこそ自分の存在を確認できるものだ。が、彼奴はそれが無いと言っている。自分の存在を確認できない、それはどれ程の不安を呼ぶのだろう。想像が付かない。
 掛ける言葉が見つからない。
 ただ、静かに揺れる、まるで夕空を髣髴させる鮮やかな朱鷺色の羽が綺麗に見えた。

「綺麗な朱鷺色」

 呟く自分の声に驚いたが、それは彼奴も同じだったらしく、何事かと顔を上げて私を見る。
 今の場面で羽が綺麗等と場違いな考えをしたと思ったが既に遅い。今の台詞は明らかに彼奴に向けて放ったようなものだ、誤魔化そうにも厳しい。
 微妙に気まずい。もしこの場面を漫画にしたなら、彼奴は頭の上には疑問符でも浮かんでいるだろう。
 しかも興味津々な様子で注目している。嗚呼、そんな何かを期待するような無邪気な目で見ないで欲しい。何か喋らないと悪い気がしてきてしまう。

「そ、そうだ。朱鷺子だ」
「ときこ?」
「お前の名前さ。朱鷺みたいな羽を持った女の子だから朱鷺子だ。今日からお前は朱鷺子って名乗れば良いぜ! なんて、な……」

 思わず乾いた笑い声が喉から通り過ぎる。考える時間も無くその場の勢いで出た台詞だったが、我ながら酷い言い訳だし、朱鷺の女の子だから朱鷺子とはネーミングセンスも単純すぎる。
 それは彼奴も同じなのだろう。興味津々だった顔は期待外れで残念だ、とでも言い出しそうな渋い顔をしてしまっている。

「単純な名前ね」
「黙らっしゃい」
「でも、私がそれを名前だと言っても良いんだよね……ありがとう」
「礼を言われるなんて……いや、何でもない。気に入ったなら、それで良い」

 渋い顔が一転、これでもかと言わんばかりの満面の笑みで礼を言われてしまい、つい帽子を深く被り直し視線を逸らす。
 正直な話をすれば、これ程まで喜ばれるのは予想外だ。寧ろ、その場の勢いに任せて適当な言葉を並べただけの台詞で人の名前が決まるだなんて私自身が納得いかない。
 「礼を言われるなんてお門違いだ」。そう言いたかったが、彼奴の嬉しそうな顔を見て咄嗟に声が詰まりはぐらかしてしまった。彼奴がそれで良いと言うならそれで良いのだろうが。
 それにしてもどれだけ単純な奴なのだろうか。先程まで本気で香霖堂から追い出そうとしていた相手に名前を貰ったという理由だけであれだけの笑顔を向けるとは。

「んー久しぶりにスペルカード戦したから疲れちゃった。ほら、ぼーっとしてないで帰って休もうよ」
「こら引っ張るな。そんな事しなくても自分で歩くから」

 背伸びをしていた彼奴が突然私の手を握り、外見からは思い付かない力で引っ張って歩み始める。
 疲れたと言った割りに生き生きとした様子で歩く辺り本当に疲れているのか疑わしいが、人間では無いのだから人間の尺度で計る事が間違っているのかもしれない。
 歩む道の先には所狭しと木々が生えた魔法の森の入り口。そして入り口の前に佇む香霖堂の姿が遠目に見える。彼奴が帰ると言っていたのだから、香霖堂に帰るという意味なのだろう。何故、私は彼奴と一緒に手を繋ぎながら帰ろうとしているのだろう。最初は追い出して私一人で戻る予定だったというのに。
 ふと彼奴の足が止まり、こちらに振り返り、何かを期待するように見詰めてきた。

「今度は何だよ……」
「ねぇ魔理沙、私の名前を呼んで」
「あー?」
「良いから呼んでよ、朱鷺子って」
「まったく……何だよ朱鷺子」
「何でもないよ。呼んで欲しかっただけ」

 自分の名前を呼ばれたかっただけか。それに満足したようでにこやかな顔を浮かべながら再び前を向いて歩き始める。
 どうしてこうなったのだろう。今の自分の心境は上手く言い表せられない。目的通りに彼奴を追い出せなかった事を悔やむべきなのか。そもそも何故、私は彼奴を許すような言動をしてしまったのか。追い出せなかった以上、これから先どうするのか。
 どれを取っても答えは見つからない。答えに辿り着く前に彼奴の笑顔が脳裏に浮び、それが全てを溶かして蔑ろにされてしまう。
 やはり、彼奴が関わると本当に調子が狂う。打開策も見出せず、深い溜息を吐いて項垂れる他に行動が出来なかった。
 だが、不思議と嫌だとは思わなかった。


          §


 日が傾き、窓から射し込む光で出来る影は大分長くなってきていた。
 元から採光出来るカ所が少ない室内は昼間でも薄暗いが日が沈めばより一層暗くなる。
 思えば以前、香霖が室内を明るくする道具を夜に使っていた。火は使っていなかったから魔法道具か外の道具の類かもしれない。それを使えばこの部屋を照らす事が出来るだろうが、生憎にもその道具の在り処までは知り得ていない。結局はこの薄暗い倉庫のような状況で家の主の帰りを待つ他に無い。
 部屋の中には一人きり。いつもの特等席に座って何をするでもなく足を揺らしながら耳を澄ませる。
 自分の足を揺らす度に擦れる服の音。
 相も変わらず規則正しく時を刻む時計の音。
 そして、部屋の外から聞こえる足音と荷車が揺れる音。
 二つの音が一旦止まり、暫くして足音だけが玄関まで近付くと呼び鈴の鮮やかな音色と共に扉が開かれ、家の主である香霖が顔を出した。

「お帰り」
「ただいま。魔理沙一人かい? あの子はどこいったんだ」
「奥の居間にいる。疲れて寝てるよ。久しぶりのスペルカード戦とか言ってたからな」
「揉め事はご法度だと言った筈だが……?」
「店の外でやったから問題無いぜ」

 わざと悪気無さそうに笑ってみせると、香霖は呆れた様子で肩を竦めたが、咎めの言葉までは口から出てこなかった。ある程度は自分の言う事は聞かないと理解して諦めが付いているのかもしれない。
 香霖は疲れた様子で部屋の中へと歩み出し、いつもの椅子に座った。
 部屋に入ってきた時に何も道具を持っていなかったところを見ると、今日は良い収穫が無かったようだ。

「君とあの子は妙に仲が悪く見えたから心配していたのだが……今度は何が原因だい?」
「まぁその、成り行きだ。しかも終わった後はなんだか好かれたみたいだしな」
「喧嘩の末に好かれたのかい、僕がいなかった短い間にか? 君は一体何をしたんだ」
「上手くは言えないが色々と。そしてそれも成り行きだ」

 曖昧な答えで返しておくと香霖は首を傾げて疑問に思っているようだが見なかった事にする。
 しかし、今思い返してみても部屋に帰ってから騒がしい時間だった。何度も名前を呼ぶ事を要求され、しつこいぐらいに纏わり付かれ、先刻に振ってしまっていたコーラの瓶の蓋を開けて大惨事を引き起こし、散々振り回してくれた挙句に疲れ切って勝手に眠ってしまうのだから。大方、今頃は夢の中で暴れ回っていることだろう。
 全くもって手の焼ける奴だ。
 相手をする私も私か。撒き散らされたコーラを拭いたり、破けた服の代用品を着せてやったりと、義理も無い彼奴の世話をしてしまったのは人が良過ぎる。

「なんだよ。そんなににやけて」
「ああ、君も大分あの子に振り回されたんだなと思ってね」
「香霖はいつから覚妖怪になったんだ?」
「顔で分かるよ。それに、あの子がやりそうな事は大体察しが付く。あの子に似たような人を知ってるからね」
「彼奴に似た奴? それは酷そうだ。顔を見てみたいもんだぜ」

 「そうかい」と香霖は呟きながらおかしそうに笑う。どこか呆れた雰囲気も含んだものだ。
 何が可笑しいのか。訳も分からず笑われるのはあまり気持ち良いものではない。

「笑ったりして悪かったよ、だからそんな不機嫌な顔をしないでくれ」
「私は怒ってなんかいないぜ」

 怒ってないと否定しても香霖の苦笑は消える様子が無い。心成しか馬鹿にされている気がして嫌だった。
 それに、その顔はある場面の香霖の顔と重なってならない。だから、香霖の膝の上に笑ってる彼奴が座っているように見えて、それが気に入らなかった。
 違う。そこにいるべきなのは彼奴ではない。
 なら誰がいるべきなのか。それは分からない。
 だから壷から飛び降り、香霖に駆け寄り、そのまま膝の上に腰掛けた。
 分からなくて悩むくらいなら、私が占領すれば良い。

「どうしたんだ、いきなり」
「五月蝿い。黙ってこうさせろ」
「むぅ……魔理沙も重くなったな」
「レディーに対して重いは失礼だ」
「成長したって意味だよ」

 膝の上から滑り落ちないように深く座り直す。香霖の膝の上には充分座れるだけの大きさがあると思っていたが、実際に座ってみると予想よりも小さく感じた。
 それだけ香霖が言った通り、成長したという意味なのかもしれない。
 思い返してもみれば、香霖の膝の上に乗るのは何年振りだろう。随分小さい頃に座っていた記憶があるが、それが具体的に何年前だったかまでは覚えていない。
 背中に感じる温もりが懐かしい。昔はこうして温もりを感じながら暇を持て余すのが好きだった。そうして香霖を困らせるのが意味も分からず楽しかった。だが、成長しての心変わりからだろうか、それも気付けばしなくなっていた。無駄に異性と触れ合う事に羞恥心を覚えたのが一番の理由かもしれない。事実、今は緊張してうまく体が動いてくれなかった。
 ふと、頭に何かが乗り、くしゃくしゃと撫で回してきた。大きく温かく、優しく撫でてくるその感触には覚えがある。これは香霖の手だ。

「なんだよー」
「悪い。懐かしかったものだからついね。嫌だったら止めるけど」
「止めなくても良いけどさ。触りたかったら触れば良い……今回は香霖だけに特別だ」
「特別な処遇に感謝するよ」

 軽い冗談を交し合いながらも遠慮無く香霖は頭を撫でてくる。押さえつける訳でもなく程好い圧力で優しく包み込むような愛撫が心地良い。
 嗚呼、少しずつ思い出してきた。香霖の膝の上に乗るのは困らせるのも楽しかったが、たまに優しく撫でてきてくれるその感触が好きだった。
 一度引き出された思い出は芋蔓式に昔の出来事を思い出させる。しつこいぐらいに駄々を捏ねたり、使い方の分からない道具を弄くり破損させてしまったり、色々とあった。
 自分の事ながら、やんちゃな幼少期で少し恥ずかしい。

「なるほどやっぱりな。魔理沙とあの子は良く似ている」
「はあ? 私と彼奴が似てる訳がないじゃないか。私はもっと淑やかで可愛いぜ」
「嘘八百だね全く」
「嘘じゃない。怖いぐらいの正直者さ」

 口では否定したが、香霖の言葉が今まで感じていた棘が刺さったような不快感が取り除かれた気分だった。
 まるで見つからなかったパズルの最後のピースを見つけ、絵を完成させたような達成感。
 嗚呼なるほど、ようやく自分の心を理解した。理解してしまった。何と単純で子供臭い。少し考えれば気付けそうな感情に今日この時まで四苦八苦していた私は実に馬鹿ではないのか。
 それがただ面白可笑しく、笑った。抑える事は一切しない。感情に任せて心行くままに笑った。私が溜め込んでいた黒い気持ちを腹の底から吐き出し空にするつもりで笑おう。

「ど、どうした急に笑い出したりして! もしかしてまだ茸の幻覚を見てるのか!?」
「ああ、そんなんじゃないから安心してくれ。答えが見つかっただけだから」
「答えが分かったから大笑いというのはどうなんだ」
「普通だぜ」

 どうやら派手に笑い過ぎたようだ。目に浮んだ涙を指で軽く払い深呼吸をして落ち着かせる。
 少しだけ心配させてしまったが、お陰で心は晴々としていた。

「なぁ香霖」
「なんだい魔理沙」
「もうちょっとだけ、このままでいさせてくれ」

 体を後ろに倒して香霖にもたれ掛かる。
 膝の上から離れる事は簡単だ。それでも今はまだ離れたくない。まだこの二人だけの空間にいたかった。
 昔の思い出に浸る為ではなく、今の私としての二人一緒の時間が欲しかった。
 香霖の方から力が抜けそうな溜息が聞こえる。それが呆れたものから来るのかは分からない。だがそれ以外に口を出そうともしないし退かそうともしてこない。
 だから私は満足するまで止まる事にした。
 背中全体に感じる温もりが気持ち良い。
 窓から射す夕日は優しく包み込むような朱鷺色で綺麗だ。
 時計の振り子は規則正しく時間を刻み、胸の鼓動は時計よりも速く時間を刻む。


          §


 跨る箒を確り握り、朱鷺色に染まる夕空を突き進む。雲は見当たず、今日一日見事な快晴だ。
 頬を撫でる風は少し肌寒いが、これくらいなら気にする程でもない。
 広い空で私以外には誰も見当たらない帰路だが、寂しさといった感情は一切感じない。寧ろ今は清々しい気分だ。今夜はきっと枕を高くして眠れるだろう。

「ちょっとちょっとストーップ! 何をそんな気分良さそうに帰ろうとしてるのよ!?」
「なんだパルスィじゃないか。途中から見なくなったからとっくに地底に帰ったのかと思ったぜ」
「見つからないように隠れてただけよ」

 横から暫く振りの声が聞こえて顔を向けてみれば、そこにはパルスィが慌てた様子で抗議していた。
 色々と相手にしていた上に途中から見なくなった為にすっかり忘れていた。
 そういえば、こいつはサポートすると言っていたが、結局は何もしていなかった気がする。

「まだ大事な用事が終わってないじゃない!」
「大事な用事なら終わってるぜ。修理に出していたこの八卦炉も受け取るって用事がな」

 腰に巻かれたポーチを開けて中から夕日を反射して輝くミニ八卦炉を取り出してパルスィに見せ付ける。
 帰る前に外で恋の魔砲を一発試し撃ちしてみたが狂いは一切無い仕上がりになっていたのはさすが香霖だ。
 こいつを受け取ったなら今日はもう香霖堂に用は無い。

「そっちじゃなくてあの子よ! このままじゃ貴女が目を離している内に奪われてしまうじゃない」
「無いさ。私には分かる。今の彼奴にはそれだけの魅力は無い。あんな我侭な奴を好きになるような男なんて早々いないだろうさ。それにもう彼奴には怒りも湧かない」
「でも、何であそこで一言も言わないで帰るのよ」
「まぁなんだ。まだ言う頃合でもないと思ってな」

 足元に木々が避けて広がる広場とその中心に佇む我が家が見えた為そのまま降下していく。
 地面を確り踏み締め、納得いかない様子で見詰めてくるパルスィに私の結論を叩き付けてやろう。

「もっと大きくなって、立派な女になってから伝える。そっちの方がドラマチックだろ?」
「馬鹿な考えを……恋愛にドラマチックなんて存在しない。あるのは取るか取られるかだけよ」
「ならその時はもっと自分を磨いて盗み返すまでだ」
「世の中はそんなの通用しないんだよ!」

 何が起こったというのか。突然の轟音が耳をつんざき、思わず目を瞑って耳を両手で塞ぐ。
 轟音は大気を振るわせる衝撃となって体を突き抜け腹の底まで響き、辺りの木々を揺らす。轟音に驚いたのだろう鳥が空へと慌て飛び立ち、森の奥では獣か何かが草木を掻き分ける気配がした。
 轟音が鳴り止み目を開けば、そこには肩で息をしてこちらを睨みつけるパルスィの姿があった。
 この状況からして轟音を放ったのはパルスィなのだろう。あの小さな体から大気を振るわせる程の声量が出たのは驚きだったが、それ以上に驚くべきものが見えた。
 今のパルスィは顔には若そうな外見とは似付かない深い皺を刻み、口から鋭い犬歯が生えた歯を食い縛りながら剥き出している。そして、輝きを感じさせない暗く、深く、濁った翡翠色の目が射殺さんとしているのかと思う程の眼力を持って睨んでいたのだ。
 鬼。今のパルスィの顔がまさにそれだ。年相応の顔とはとても言えない激情を宿した鬼がそこにいた。

「後れを取れば気付かぬ間に他の奴に奪われるだけなのよ! 気付いた時にはもう遅い。彼は手の届かないところへ行ってしまう……だから邪魔者はいなくなれば良い! 奪われてしまう前に殺してしまえば良い! あんな女、跡形も無く焼き尽くしてしまえ! あんたにはそれだけの力があるだろう、なのに何故そうしない!?」

 鬼が吼える。邪魔する奴は殺せと声を張り上げてくる。力があるのに何故行使しないのかと疑問を投げ掛けてくる。
 気付けば、まるでパルスィの体が高熱を帯びたかのように彼女の周りの空気が禍々しく歪み、その形相と相まって肌を刺す程の威圧感を放っていた。
 なるほど、今更だが彼女が地底に送られた理由が理解が出来た。嫉妬は人を狂わせる。そして、その嫉妬の為に何を起こすか分からない。彼女はそれが強すぎたから危険視され、地底に送られたのだろう。
 だから思い通りにならない相手には容赦無いかもしれない。断れば私の喉笛にその牙を突き刺してくるかもしれない。
 だが、その程度の脅迫で私は引くつもりは無い。

「殺したところで何も起きない。香霖もそんなの喜ばない。私は、自分の力だけで勝ち取ってみせる」
「そんなのただの油断でしかないのに……どこからそんな自信が湧くのよ」
「甘く見るなよ? 私は霧雨魔理沙だ。欲しいものは必ず手にしてみせるさ」

 決して自分の考えを曲げない。汚い手段は使わず、真っ当な手段で欲しいものを手に入れる。それが私であり、変わらない答えだ。
 脅迫紛いには屈しない、そう訴える為にあえて笑ってみせるとパルスィは恨めしそうに目を細める。
 風を感じない。音を立てるものも無い。パルスィも動く気配が無い。まるで一秒を延々と引き伸ばして時間を止められてしまったかのような錯覚。それでも背中に滲む汗は時間は正常に動き続けている証拠だろう。
 手はポーチの中に入れ、愛用の八卦炉を握り締めておく。もしパルスィが襲い掛かってきた場合は、私もまた全力で抵抗する他無いのだから。

「全く……その根拠が無いのに無駄に溢れる自信が妬ましいわ」

 先に動いたのはパルスィだった。彼女が軽く俯き掌で顔を覆い、暫くしてから離し顔を上げるとそこにはもう鬼はいない。深い皺も無く、輝く翡翠色の目をした少女の顔があり、体を覆っていた空気の歪みも風に吹かれるように消え失せていた。

「ここまでやっても言う事聞かないんだから完敗よ。好きにしなさい」
「おう、好きにさせてもらう。だから私からも一つ質問させてもらう」
「今更何かしら」
「何でお前は私にそこまでしようとしてくれるんだ? 一度会ったきりの奴にそこまでやる義理も無いと思うんだが」

 今に至るまでの一番の疑問がそれだった。なんだかんだで私は組合とやらの組合員になった。その為、パルスィはサポートしてくれた。あまり役に立たなかったが。
 だが、組合員になったからといってその行動はあまりにも献身的、或いはそれ以上の感情さえ感じる場面もあった。一体彼女は私に何を思い、何を感じてここまで同行してきたのか。そこが疑問だった。

「そうね、ここまで来たから話してあげる。私はね、私と貴女を重ねていたのよ」
「私とお前がか? 似ても似付かないと思うがな」
「性格的にはね。ただ、大した行動もせずに手を拱く貴女を見てはいられなかった。このままでは貴女の望まない結末が待っている。そう思ったの」
「随分と経験者振った台詞だぜ」
「橋姫には色々とあるのよ。だから私は貴女に私の嫉妬心を煽る能力を掛けたわ。あの子が妬ましくて仕方が無く感じた時があると思うけど、それも私の仕業よ。結局は無駄に終わったけどね」
「道理で。妙に心が乱れる時があるとは思っていたが……」

 ふと、自嘲気味に話しているパルスィの体が薄緑の光を纏っている事に気付く。薄緑の光は先程の歪みとは違い、蛍の光のように淡く、やがては空気中に四散していた。
 そして、光が四散する毎に彼女の体が透け、反対側が見える程希薄になっていた。

「お、おいお前その体!」
「あぁ、私の役目も終わったからね。そろそろお別れの時間が来たみたい」
「いきなりかよ。少し唐突過ぎないか」
「仕方が無いわ。私は元々作られた者だもの。あまり長くは体型を維持できない」

 話している間にもパルスィの体は足元から光の粒となって上空へと舞い散り、消えていく。
 痛みは無いのだろう、その顔は穏やかだが、どこか悲しそうな表情でこちらを見ていた。

「何よ。今まで鬱陶しそうに扱ってくれた癖にそんな悲しそうな顔してるのよ」
「え、いや、私は別に悲しいなんて思ってないさ」
「色々と素直よね貴女。その素直さが妬ましくて羨ましい。私も貴女みたいだったらもっと違う未来にいたのかもね」
「冗談は止めろよ。一生の別れみたいで縁起が悪いじゃないか!」
「でもこれでお別れなのは確かよ……そろそろ意識が無くなるから言うわね。また、会いましょう」

 パルスィの体が消えていく。光の粒になって四散し消えていく。既に体の殆どは消え、舞い散る光の粒は彼女の首筋にまで迫っていた。それでも恐怖心は無いのか、穏やかな顔で微笑み掛けて。
 このままではパルスィは消える。裏で奇妙な能力を使って操ってくれた癖に詫びの一つも言わずに消えようというのか。私に一つの文句も言わせずに消えようというのか。それこそ身勝手だ。
 このまま消えてもらっては納得がいかない。私が困る。行かないで欲しい。パルスィを引き止めようと腕を伸ばしながら一歩踏み出した。が、制止の言葉が喉を通る前に彼女は光の粒に飲まれ、その場からいなくなった。
 もう誰もいない。馬鹿みたいに手を伸ばして固まる私以外には残されていない。
 唐突に襲われる脱力感に腕が垂れる。何も掴めなかった腕に意味は無いのだから、そのままにしても仕方が無い。

「鬱陶しいとは思ったけど、嫌いとは思わなかったのにさ」

 結局伝える事の出来なかった台詞は聞き届ける者もいず、虚しい独り言になってしまった。
 帰ろう。このまま外にいても無駄に時間が流れるだけだ。
 帽子の鍔を摘まみ深く被り直し、目の前の我が家に向けて歩き出す。
 そういえば、床に穴を開けられてから直していない。それも修理しないと思うと鬱になってくる。
 そんな事を考えながら住み慣れた我が家の玄関を開いた。

「ただいま……」
「おかえり。今夜は茸鍋の旧都風味よー」

 扉を開けた向こう。そこに幼い雰囲気が残るウェーブの掛かった金髪のショートの少女がエプロン姿でにこやかな顔で迎えてくれた。
 私は彼女を知っている。そう、いなくなったと思った水橋パルスィがそこにいたのだ。
 嗚呼なんという事か。まさかこのようにして彼女と再会できるだなんて。この思いはきっと感動と呼ぶべきなのだろう。
 気付けば重かった足を目一杯力を込め、腕を広げて駆け寄っていた。
 そして、微笑むペルシャ人の首元目掛け全力で腕を打ち当て轟沈させた。所謂ラリアットである。
 即興の技にしては中々の威力だ。霧雨ダイナミックスペシャルとでも名付けよう。
 成す術も無く半宙返りして床に沈んだパルスィの胸倉を掴み揺さ振ってやる。
 この霧雨魔理沙容赦せん。

「なんで消えたお前がここにいる! な、ん、で、消えたお前がここにいる!」
「嫉妬パワー無くしてこの威力、まさに貴女は本物ね。ぐふ」
「質問に答えてねえ! さっき外でやったあれは一体何だったんだよぉ!」
「だって分身なんだもの、本体の私まで消えないわよ。台詞は乗りでそれっぽいのをげぇ!?」
「そうかそうか、そんな勢いだけの為に私は無駄な感傷を受けたというのか畜生!」

 思わず回り込んで裸締めを決めてしまう。
 損をした。今年最大の損をした。あの時の時間を巻き戻して全て無かった事にしてやりたい気分だ。

「お前が生きていたのは分かった。だが地下に戻ったんじゃないのかよ」
「いや、折角地上に繋がったからあの穴をいつでも通れる連絡路にしてみたの」
「勝手に改造してるんじゃねぇ!」

 室内の穴が空いていた場所を見てみれば、穴は綺麗に蓋がされていたが、それは取っ手付きの扉であり、丁重にも「旧都行き」と書かれた札まで貼られていた。辺りのゴミ等は綺麗に整理整頓されているのは感謝すべきなのかもしれないが、勝手に変な改造をされるのは御免被りたかった。

「で、今更になって何の用だこのペルシャ人」
「何って、結局私は殆ど何も出来なかったからせめて労いの料理でもと思って」
「いらん。だから帰れ、帰りなさい」
「そんな事言わないでよ。だって私達、その……友達、じゃない」
「うぜぇ!」

 頬を染めながら両手の人差し指を突付き合わせたり回したりして弄くりながら友達発言をするペルシャ人。
 嗚呼分かった。良く分かった。こいつは人の嫉妬を煽る危険な能力を持った上にどこか思考のずれた頭を持った色々な意味で危険な為に地下に送られた妖怪なんだ。
 結論から言えば凄く鬱陶しい奴だ。
 若者風に言えば凄くうざい奴だ。

「それと言い忘れてたんだけど」
「あんだよ?」
「彼との進展第一歩おめでとう」
「あー……祝われる程じゃないだろあんなの」

 パルスィは少し関わっただけでも鬱陶しいと感じる奴だ。しかし、人の事を良く見ている。そこが面倒臭い。突き放そうにも気が引いてしまうというのは実に厄介だ。
 こうも嬉しそうに祝いの言葉等贈られてしまったては首を絞める気も失せてしまう。仕方が無い為、パルスィの首から腕を解き、近くにあった椅子に座る。

「全く、何をぼさっとしてるんだよ。鍋があるんだろ? 腹が減ってるんだ、早く用意してくれ」
「え、あ、そうだったわ、今用意するから!」

 暫く呆然としていたパルスィだったが、意味を理解すると意気揚々と立ち上がり食卓の準備を始めた。
 なんだかんだで、こいつには色々と世話になった。なら相手の要望にも応えてやらなくては私は恩さえ返さない薄情者になってしまう。
 少しの間は騒がしい日が増えるかもしれないが、そこは大目に見るとしよう。
 私も騒がしい日常はそれ程嫌いではない。

「そうだ、せめてあの子が弱る程度にこの丑の刻参りビギナーセットを使」
「好い加減にしろ!」

 だが、枕をあまり高くして眠る事は出来なさそうだ。
どうも、概ね一年と四ヶ月ぶり、酉です。
あれこれとした奔放の旅から久しぶりに帰ってきました。
最後の投稿から大分経ちましたが、近頃の創想話の投稿速度は目を見張るものがあり、既に作品集が三桁に突破には驚かされました。
また、私が見ていない間にも既存の作品にコメントを入れてくれている方もいて、驚きながらも嬉しい限り。
気分はまたしても浦島太郎です。

閑話休題

久しぶりの投稿となる今作も懲りずに恋する魔理沙物語りとなりましたが如何だったでしょうか。
以前に出していた「恋の~」シリーズとはまた違う、読み切りラブコメみたいなものを目指していたのですが、どたばたとした笑いとかほろ甘な恋とか感じてもらえたなら幸いです。
今回初登場となった朱鷺子こと名無し妖怪さん。本を奪われた挙句に魔理沙にフルボッコされる薄幸さ漂う彼女ですが、そこが良いと思うのです。でもそんな彼女にもちょっとした喜びを、と言う事でこういった待遇。
そしてどこから嗅ぎ付けたのか、地底におわす嫉妬神の登場により本編はとっても嫉妬りとした内容と相成りました。
パルスィの仕業です。

さて、次はどうしましょう。
暫くはここでゆっくりと何か書いているかもしれませんが、また次の作品で会いましょう。それでは……

          §

この物語りはフィクションです。
実在の人物、地名、某生活協同組合連合会等とは、一切関係ありません。

二〇一〇年五月六日:誤字修正、返信
二〇一〇年五月十一日:返信
二〇一〇年五月二十日:脱字修正、返信
更待酉
http://yozoranosaihate.blog.shinobi.jp/
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コメント



0.2780簡易評価
11.100名前が無い程度の能力削除
「殺したところで何も起きない。香霖もそんなの喜ばない。私は、自分の力だけで勝ち取ってみせる」<
スクイズの連中に聞かせてやりたいセリフだなあ。
12.100名前が無い程度の能力削除
ああ、甘々な魔理霖だ。
しかしペルシャ人、自重しろw
17.100名前が無い程度の能力削除
やっぱりパルスィは他人の恋路に茶々入れてこそ輝くキャラだと思うの。
さんっさんっさんちょくパルスィステ(略
18.100名前が無い程度の能力削除
みんな可愛くて、みんな良い。
21.100名前が無い程度の能力削除
パルさんかわいいよかわいいよパルさん
23.70即奏削除
描写の一つ一つが非常に丁寧で凄い、と思いました。
おもしろかったです。

誤字報告をば。

>「恥ずかしげもなく好き好き言いやがって……お前に香霖の事を分かっちゃいない!」
→「恥ずかしげもなく好き好き言いやがって……お前は香霖の事を分かっちゃいない!」
>目には褪せない抗議の色が見えるが、既に目尻からは数的の涙が零れ落ち、唇を噛み締めて嗚咽を我慢している有様だった
→目には褪せない抗議の色が見えるが、既に目尻からは数滴の涙が零れ落ち、唇を噛み締めて嗚咽を我慢している有様だった

でしょうか。
28.100名前が無い程度の能力削除
まってました!変わらないクオリティで安心しました。
乙女?まりさはやっぱいいなあ
30.100名前が無い程度の能力削除
お久しぶりです。恋する魔法使いにまた会えて何より。
会話のテンポが実に小気味よくて、楽しめました。
にしても、とっきゅんが可愛すぎる。
34.100名前が無い程度の能力削除
2828
36.100名前が無い程度の能力削除
朱鷺霖かと思いきや気持ちのいい魔理霖でした。
それぞれの立ち位置が一貫してる点や、霖之助自身は終始蚊帳の外、という展開もある意味でとても「らしい」と思います。
39.100名前が無い程度の能力削除
朱鷺霖と思いきや魔理霖と思いきや魔理パルでしたか・・・GJ!
41.100名前が無い程度の能力削除
続きが・・・このノリのパルマリがみたいです・・・はい
42.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙可愛い、朱鷺子可愛い、そしてパルスィも可愛い。
なんだろう、ただの甘甘じゃなくて時折見える甘酸っぱさが素敵です。
御馳走様でした。
46.無評価更待酉削除
>11 さん
スクイズと聞いて何の犠牲バントだろうと思ったけど、スクールデイズの事でしょうか。
ヤンデレっ娘というのは恐ろしいものです。

>12 さん
ペルシャ人の自重しない行動のお陰でそれなりに良い味になったと思うのです。

>17 さん
いけない、それ以上語るとこ○せ○くんがおにぎり投げつけてきますよ!?

>18 さん
東方キャラに可愛くない人なんていないのです、多分きっと。

>21 さん
パルさんかわいいよ!

>即奏 さん
誤字指摘ありがとうございます。修正させてもらいました。

>28、30 さん
まだ覚えてくれていた方がいたというのはありがたい限りです。これで私はまだ戦える。
大分魔理沙の感情の変化に重点を置いた書き方をしましたが、気に入ってもらえたならなによりです。
あと朱鷺子は可愛い。

>34 さん
2424(・∀・)

>36 さん
「この作品ではこのキャラはこうあるべき」、と考えて一貫して書くのは中々難しいものです。
今作でそれぞれのキャラの持ち味を引き出せてたのなら良いのですが。

>39 さん
魔理パル……多分、この先もカップリングにまで発展しないでしょう。総帥の息子と祇園仮面のようなものです。
でも酷いボケと暴力的突っ込みの応酬で見ていて飽きないコンビになると思います。

>41 さん
実は今回の話のサイドストーリーとしてこの二人の話を考えていたりします。
うまくまとまればいずれ投稿しているかもしれません。

>42 さん
ただイチャつくのではなく、僅な悲哀とか、そういうのがあると恋物語は素敵に見えると思うのです。
そんなちょっとしたお話が楽しめてもらえたのなら幸いです。
50.100名前が無い程度の能力削除
あ、ありのままに思ったことを話すぜ!
俺は寮から実家に帰ってきて久々にそそわを見たんだ、そしたらこれまた久々に更待酉さんが作品を
投稿していて、早速見たんだ・・・
そしたらいつの間にか100点を付けていたんだ・・・!
パルスィと朱鷺子が凄いアクセントになってるとか、みんな可愛いとか、起承転結最高だとか、
そんなチャチな作品じゃ断じて無え・・・
もっと恐ろしい更待酉さんの片鱗を味わったぜ・・・

宣言通り「何だか良く分からないノリでお贈りする愛と怒りと悲しみの青春ラブストーリーフィンガーソード!」
でしたね。この作品を表すのにすっごい便利ですこの言葉。東方は紅く燃えていました。
ノリといい展開といい、全てがドツボにハマりました。幾ら賛辞の言葉を挙げても足りません。
53.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙かわいいなー。ちょっと子供過ぎるかな?こんなもんかな?
だがそれがいい塩梅です。パルスィも笑えるw
56.無評価名前が無い程度の能力削除
>50 さん
ざわ……ざわ……
いやなんというか、ありがとうございます!

>53 さん
嫉妬してちょっと子供ぽくなる姿も可愛いと思うのです。
59.90名前が無い程度の能力削除
終着点が良かった。嫉妬にかられる魔理沙やパルスィが悪い印象のまま終わらなかったのが素晴らしかったです。
誤字?報告
大事な用事なら終わってぜ。
→大事な用事なら終わったぜ。
かな?
60.無評価更待酉削除
>59 さん
団円に終わらせる事が前提でしたが、キャラ達が上手く動いてくれたと思います。
また、報告ありがとうございます。脱字として修正させてもらいました。
72.100名前が無い程度の能力削除
そこそこの分量があるにもかかわらず、テンポよく読ませていただけました。
途中パルパルし過ぎて嫌なやつに成りかけてた魔理沙ですが、終盤にかけての吹っ切れで、清々しく締められていたのでよかったです。
朱鷺子の中にかつての『誰かさん』を見た。


あと、親指の爪噛んでギリギリしてる魔理沙を想像したら、鼻から愛が溢れて止まらない。
74.100名前が無い程度の能力削除
甘ーーい、甘すぎるよーアイスに砂糖ぶっかけたくらい甘いよー(某芸人風
83.無評価名前が無い程度の能力削除
「世の中はそんなの通用しないんだよ!」
不覚にもきゅんとしてしまいました。
パルスィが言うとものすごく深くなりますね。
嫉妬に駆られてうざくなるパルスィ可愛い
あと最後。これからは魔理沙はパルスィという立派な嫁さんに振り回されながら
またいじられながら生きていくのですねわかります。