Coolier - 新生・東方創想話

妬みの果てに

2010/05/02 04:36:56
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店へと向かう間、霖之助はずっと夢のことについて考えていた。

紫と寝ないと悪夢になる理由、悪夢に紫が出てくる理由。

紫の持つ『境界を操る程度の能力』は、

夢にまで効力を持つというデタラメな能力。

もし、紫が黒幕だとすれば、そんなのどうとでもなるわけである。

「はぁ…」

霖之助は大きくため息を漏らす。

すると神奈子は心配そうに見つめ、

「大丈夫かい?疲れたらなら一休みしようか?」

と、言いちょうどいい休憩場所を探し始める。

「何、これからの事を考えてのことさ。すまないね、心配かけて」

「そうかい?まぁ、その気持ちも分からんでもないね…」

幻想郷全体の紫に対するイメージは、

「胡散臭い」や「笑ってると逆に怖い」などと、

マイナスのイメージが主である。

まぁ一部ではそれが逆なことになってるのだが、ここでは割愛しよう。

そんなマイナスな紫に、夢という一見おかしな話を、

真剣に聞いてみるというのだ。

下手すれば、からかわれてもおかしくはない。

「もう一度言うが、君が来る必要はないよ?

 君まで紫の暇つぶし相手にされるのもあまりいい気はしないしね」

すると、神奈子は顔を少し赤らめ、

(これって…私のこと心配されてる…のかな?)

霖之助が自分のことを思ってくれていると想像するだけで、

胸の中が暖かくなったような気がした。

「勝手についてきてるだけだからね。

 それに私も霖之助がいいように遊ばれるのはその…嫌だし…」

神奈子の顔はさらに赤みを増し、

恥ずかしくなったのか、俯いてしまった。

「勝手についてきてはいるが、僕だって男だ。

 出来る限り守らせてもらうよ」

途端に耳まで真っ赤になり、その場を急いで離れ出す神奈子。

「――っ!?わ、分かったから、さっさと行くよ!!」

(ったく…ほんとに分かって言ってるんだろうね…)

神奈子は恥ずかしくて話すことができず、

霖之助もそこまで喋るほうでもないので、店に着くまでの間

二人の間に会話はなかったそうな。













店についた二人だが、勿論紫がいるという保証はない。

つまり、骨折り損となる可能性もあるわけだが…。

霖之助には、紫が来そうな予感がびんびんと来ていた。

二人の妹分によって今にも壊れそうな扉を開けると、

「はぁ~い」

案の定紫が、勘定台に座っていた。

「僕も客もいないのに、どうしてここにいるんだい?」

急に不機嫌になる霖之助に、

「そんなの監s…私の能力で、霖之助さんが来そうって思ったからよ?」

ちなみに紫の能力にそんな力は勿論存在しない。

「そうかい。丁度僕も君に聞きたいことが――」

最後まで言おうとすると、急に口から声が出なくなった。

「霖之助さん、その前にちょっといいかしら。後ろの人はだぁれ?」

顔は笑ってはいるが、目が笑っていない。

どうやらこの声が出ないのも、紫の仕業だろう。

「――」

口を動かすが、声が出ない霖之助を見て、

「あぁ、声がでないんだっけ」

紫は人差し指を軽く振ると、霖之助に声が戻る。

「君も知ってる山の神様だよ」

「ええ、私も何度か喋ったことはあるわ。で、どうしているのかしら?」

そう言いながら、紫は静かに近づく。

(はて…彼女の目は…緑だっただろうか)

そんなことを思いながら、霖之助の右腕は無意識に彼女を守る。

だが、神奈子はそれを押しのけ霖之助の前へと歩み、

「私は、霖之助があなたに用事があるというから、
 
 勝手についてきただけさ」

紫はその言葉を聞いたあと、

「そうなの。ねぇ霖之助さん、

 ちょっとこの神様と話をしたいから席を外してもらえる?

 女同士の話がしたいの」

「そうかい。でも物騒な話はしないでほしいね」

すると、紫もニッコリ微笑み、

「ええ、約束するわ」

と、言って奥の方へと入っていった。

神奈子は振り返り、

「心配するな、霖之助。私なら大丈夫だ」

と、軽く胸を叩くと奥へと消えていった。

















「で、私に話って何だい?」

「…霖之助さんと仲いいわね」

「なっ…」

唐突に霖之助とのことを言われ、赤くするも

相手が紫だということに警戒し、顔色を戻す神奈子。

「霖之助さんに守ってやるだなんて言われて、幸せよね?」

あの場で、紫は一緒にいなかった。

「見てたのかい…」

キッと紫を睨むが、効果はないらしく

口元を扇で押さえ、笑う。

「ええ、霖之助さんの為ですもの」

「霖之助の…為?」

神奈子が思うに、霖之助が監視されてどんなメリットがあるのか分からない。

「ええ、霖之助さんに悪い虫がついたら嫌ですもの」

その言葉にピクリの神奈子の眉が上がる。

「ほぉ…。神である私を虫扱いとは、下界の妖怪も偉くなったものだね」

彼女の体から言い様のない、力が滲み出る。

今力を出せば、霖之助の店など軽く吹っ飛ぶだろう。

「あら、怖い。でもここで力なんて使っていいのかしら?」

人差し指でちょんちょんと地面を指しながら、

人をバカにしたように笑う。

「私は喧嘩をしに来たわけではなく、あなたにお願いをしに来たの」

「お願い…?」

「ええ、とても簡単なお願いよ。

 …今後一切霖之助さんに近づかないだけでいいの。とっても簡単でしょう?」

ニコニコと笑う紫に対し、

神奈子の表情は怒気しか含んでいないようだった。

「…どうしてそんなことを言うんだい?」

すると、今度は紫の顔も怒りに染め始め、

「あら、分からない?霖之助さんの隣にいるのは私だけでいいからよ。

 私は、私以外の誰かが霖之助さんの隣にいるなんて考えたくないのよ」

「…だから、霖之助の夢にも?」

「ええ、そうよ。霖之助さんの夢も私で埋め尽くしてほしいの」

もはや、神奈子の顔から怒気は消え失せ、

呆れの色しか見えなかった。

「…霖之助も厄介な女に目をつけられたものだね」

「その言葉そのままお返ししますわ」

一触即発な雰囲気の中、その空気を破ったのは――。

「お取り込み中、すまないね」

話題の人、霖之助自身だった。

「あら、霖之助さん。何か御用かしら?」

「ああ、君に質問があってね」

紫は先程の笑みとはまた違った満面の笑みで霖之助に近寄ると、

「私に?何でも聞いてちょうだい」

「そうか。じゃあ、…君は誰だい?」

紫の顔が笑顔のまま凍ったような気がした。

「いつも顔を合わせてるじゃないですか、紫ですよ、八雲紫」

「僕の知ってる紫は、こっちなんだけどね」

そう言うと、後ろに誰かが待っていたのだろう。

その人物は居間へ入ると、

途端に、今まで笑顔だった紫の顔が崩れる。

「御機嫌よう、私。どういう事か説明してもらえる?」

現れたのは、もう一人の紫であった。

紫?は顔を顰めながらも、

「霖之助さん、そっちが偽者よ。あなたなら分かるでしょ?」

「失礼ながら、話は全部聞かせてもらった。店の作り上声も漏れていたしね。

 紫とは長くはないが、付き合いだってある。

 そういう人…妖怪じゃないことは分かってるんでね」

すると紫は、霖之助の前へ歩み出ると、

「そういうこと。さぁ私の偽者さん?どういうことなのか説明してもらうわよ」

「どうもこうも…私はあなたの欲望を叶えようとしただけよ。

 まぁ、徒労に終わっちゃったけど…あとは頑張りなさいな」

そう言うと、紫?はスッとスキマに消えていった。

「逃げられましたわね…」

「いや、偽者と分かっただけマシさ」

しかし、霖之助にはどうも腑に落ちない部分もあった。

「欲望を叶えようとした…どういうことだ?」

すると、今まで黙っていた神奈子が、

「あの偽者は私に霖之助に近づくなと言っていた。

 もしかしたらそれが関係するんじゃないか?」

「それが紫自身の欲望…。そうなのかい?」

「ちっ、違うわ!

 確かに霖之助さんが他の女と近づくのは嫌だなとは思ったことはあるけど、

 近づかないでなんて…!!」

霖之助の冷たい視線に、強い否定を示す紫。

「ふむ…。彼女の言葉に嘘はなさそうだ。どうする?霖之助」

「そうだね…あ」

何かに気づいたのか、突然紫の顔を凝視し始めた霖之助。

「え、あの、何かしら?」

急に見つめられ、顔を赤くする紫と、

少し眉を寄せる神奈子を余所に、

じいっと見つめる霖之助。

「君の瞳は、黒で綺麗だね」

更に褒め出した霖之助に、紫の顔は真っ赤に染まる。

「あ、ありがとう。えと急にどうしたの?」

「あの偽者の瞳は緑色だった。これも何か関係あるんじゃないかな?」

「そ、そうですわね」

褒められたのと、瞳しか見てないことに複雑な表情になる。

「緑色の瞳に、紫の欲望…つまり嫉妬心」

「一人…その二つに該当する妖怪がいますわ」

紫が想像した人物は、あまり紫にも神奈子にも接点がなさそうな妖怪だった。

















「お邪魔しますわ」

「うわっ、急に入ってこないでよ、妬ましい」

急に声をかけられたパルスィはびっくりして、後ずさりしてしまった。

扉を使わず、家の中に入る。

紫が言うには、居留守を使われたくないためらしい。

「ごめんなさいね。ちょっと聞きたいことがあったので」

「聞きたいこと?」

「ええ、あなた私の嫉妬心を操ったことはあって?」

紫は笑ってはいるが、発せられる雰囲気はどう感じても怒っている。

そしてパルスィは心当たりがあるのか、顔を顰めていた。

「経験お有りのようですわね。

 私と知っててよくできると褒めるべきか、迷う所ですわ」

すると、神奈子は紫の隣に立ち、

「とりあえず、何故分身を作ったのか聞かせてもらえないかい?」

その言葉に、パルスィの眉がぴくりと動き、

「分身?何のこと?」

と、言った。

「何のことって…

 紫の嫉妬の分身が現れたのってあなたの能力のせいじゃないのかい?」

パルスィも本気で分からないらしい。

「確かに嫉妬心を操ったのは謝るわ。

 でも、分身とかなんて本当に知らないわよ?

 覚妖怪に誓ってもいいわ」

「もしかして…嫉妬心が?」

今まで黙っていた霖之助がボソリとそんなことを呟いた。

「どういうこと?」

パルスィを含めた全員が、霖之助の顔をじっと見つめる。

「つまり、パルスィが嫉妬心を操るのをきっかけに、

 紫が無意識で分身を作ったのかもしれない。

 存在の境界を操れば、できるだろう。

 言うならば、思いの捌け口だ。

 こうなればいいという紫の概念が、無意識にその存在を生み出し、

 神奈子へと近づいた。

 ただ、分からないのは作ったのが紫なら消せるの容易いと思うのだけどね…」

「…境界を操れると言っても、生きる者の心の中となれば別です。

 私も神ではありませんし、人の心は操れませんわ」

「まぁなんにせよ、発端はパルスィに間違いはないようだね」

すると、パルスィも怒りを覚えたのか、

「何よ、全ての原因が私だと言うの?妬ましい。

 確かに操りはしたけど、そんなの些細なものよ?

 それに私は嫉妬の妖怪よ?存在意義を否定されたくはないんだけど」

「そのへんで止めてほしいんだがね」

今にも弾幕戦になりそうな空気を霖之助が割って入る。

「霖之助さん、邪魔しないで。

 この子にはたっぷりお灸を据えないといけないの」

「それはこっちの台詞よ。

 何もしないで妬み続けて私を恨むなんてお門違いというものよ」

「止めないか」

強く言葉を発すると、紫も察知したのか黙り込む。

「パルスィ。君がしたことが君の存在意義故に仕方ないかもしれないが、

 できれば、彼女の嫉妬心を元に戻してやってほしいんだが」

「…分かったわよ」

そうして、紫の嫉妬心は元に戻り、

分身が消えるのも時間の問題らしい。

紫と神奈子が喜んでいる最中、

「ねぇ、あなた。ちょっと…」

霖之助の裾をちょいちょいと引っ張り、霖之助に声を掛ける。

「どうしたんだい?」

「あなた、私の存在意義故にって言ったわよね。

 嫉妬されるのって嫌じゃないの?」

静々と聞いたパルスィに対し、

霖之助は如何にも当然かのように、

「嫉妬されるという事は、それだけされる者が優れているということだ。

 それを何故嫌う必要があるんだい?

 嫉妬とは、人が持つ当然の感情だよ。

 僕からしてみれば、嫉妬するということはそれだけ意欲があるということさ」

パルスィはまるで自分を褒められたみたいで、

顔を赤らめた。

「霖之助さーん。何話してるの、そろそろ行くわよー」

紫が帰るための隙間を開いていたので、

「じゃ、僕はもう行くよ」

と、言い隙間に行こうとすると、

「あ、ね、ねぇ」

パルスィから声をかけられ、

歩みを止める霖之助。

「なんだい?」

「そ、その…名前何て言うの…?」

「森近霖之助。地上で古道具屋をやってる者だよ。

 できれば一度来てくれると嬉しいね」

そう言うと、霖之助は隙間へ入り、見えなくなった。

一人残されたパルスィは、

「森近…霖之助」

と、一人復唱し、何かを考えながら外へ出て行ったそうな。


















店に戻ると、

「あ、あの霖之助さん。今日はごめんなさい」

急に紫が頭を下げて謝ってきた。

まだ幻想郷について間もない神奈子も、

紫のその姿に目を丸くしていた。

「何、気にすることはないよ。嫉妬なんて誰にでもあるものさ」

「…怒ってないの?」

「そうだね、ただ一つ言うとしたら、今度からは貯めずに吐き出してほしいね」

(そうすれば、胡散臭いのも治るだろうし)

「わ、分かったわ!」

「わ、私も貯めずに言うぞ!」

紫に先越されるのを恐れたのか、

神奈子も正直になると言い出した。
















正直になるだけならよかった。

彼女らも、今までになく気持ちを言うようになったし、

紫の胡散臭さも少し薄れた気がした。

だが、困ったのは…。

「霖之助さーん、一緒にお風呂に入りましょうよー」

と、一緒にお風呂に入りたがる紫や、

「あ、あの霖之助?昨日怖い夢を見てな、その…一緒に寝てほしいんだが」

と、寝たがる神奈子が増えたのだった。

「素直に…なんて言うんじゃなかった…」

霖之助のため息の一日の回数が増えたことは、きっと気のせいだろう。
ヤンデレじゃないよ☆

さて、お久しぶりです。

つい最近ヤンデレ漫画を見ましてな、

人を傷つけないヤンデレならアリなんじゃないかと

私は思ったわけです(´・ω・`)

人に尽くす女の子って可愛いじゃないですか。

今回シリアス風でしたけど、

作品の文章とあとがきの文章のギャップが私は好きです。

「こんな明るい人がホラー書いたんかい!」みたいなノリが好きです。

まぁ、どんな人が何書いてもいいんですけどね。

あと私はこんな喋り方はしませんw

さて、次回はどうなることやら…

がんばるますノシ
白黒林檎
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コメント



0.3110簡易評価
4.10名前が無い程度の能力削除
なんというハーレム…
5.無評価名前が無い程度の能力削除
早くパルスィの話を書く作業に戻るんだ
8.10名前が無い程度の能力削除
ありえな~い。
16.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんが可愛すぎて生きるのがつらい
22.100名前が無い程度の能力削除
神奈子と結婚しないと死んでしまう病が出る…っ
26.10名前が無い程度の能力削除
うわ…
36.100名前が無い程度の能力削除
次はパルスィが地上に行く話ですねww
46.100名前が無い程度の能力削除
パルスィがかわいゆすぎて生きるのがつらひ
80.100名前が無い程度の能力削除
もっとやれ