Coolier - 新生・東方創想話

三妖精異変

2010/05/01 19:00:17
最終更新
サイズ
10.65KB
ページ数
1
閲覧数
763
評価数
3/18
POINT
880
Rate
9.53

分類タグ


博麗神社の裏にある大きなミズナラの木、そこには光の三妖精が住んでいる。
魔法の森から最近引っ越してきた彼女たちは、そこで数少ない参拝客に悪戯したり、
お供え物を盗んだりして楽しく暮らしていた。
その三妖精の一人、サニーミルクは最近ある疑問を抱いていた。

「もう、なんで私たち妖精はみんなに馬鹿にされるのかしら」

サニーはコーヒーカップを手に二人の妖精に愚痴をこぼす。
二人はそれをいつもの雑談だと思って聞いている。

「まあまあ、それは今に始まった事じゃないし。
毎日それなりに楽しくやってるからいいじゃない」

ルナチャイルドは気にせずブラシで金色の髪を梳いていた。相変わらずマイペースである。

「もう、だからルナは鈍くさいって言われるのよ」

サニーはコーヒーカップをテーブルに叩きつけた。
甘い物好きな妖精には珍しいサニーの好むコーヒーが、ルナの白い服に小さな斑点を作る。

「ちょっと、汚れちゃったじゃない」
「ごめんごめん、でもずっと前から疑問に思ってたんだけど、
この国の信仰は自然そのものを神とみなす汎神論でしょ。そして私たちは自然の化身、
だったらなんでその妖精が貶められなければならないのよ」

ルナは片方のこぶしをあごに当てて考える。

「う~ん、そういえばそうねえ。でもそれは置いといて、このシミどうしよう」

ルナはコーヒーのシミをふきんで拭こうとしたが、洗濯しないと取れないようだ、
しばらく考えて、あきらめて髪をとかす作業に専念する。
その光景をただ傍観していたスターサファイヤが言う。

「まあでも、自然、つまり春の暖かさ、水の流れ、風の音とか、込み入った話だと
プランク定数とか、地球と太陽のほどよい距離とかに日々感謝する人はいないからねえ
当たり前すぎてありがたみを感じないのよ」
「よーし、じゃあそれをいったん消滅させて、有り難味を分からせてやらない?」
「なーに無茶な事言ってるのよ、自然そのものを消滅させたら、
私たちも消えちゃうじゃない?」ルナが呆れた。
「だからあ、できる範囲で自然現象に異変を起こすのよ」
「例えば?」と冷やかなルナ。
「私は太陽の子だから、お日さま光を隠しちゃうとか」
「それは天照大御神でしょ」スターが突っ込む。
「そうだ、私は光を操れるんだった」

サニーは何かを思いつき、外へ飛び出した。二人はそのまま朝食を食べる。

「スター、どうしよう」
「好きにさせときなさい」スターは動じずに、キノコ盆栽の手入れを始めた。








霧雨魔理沙は今日も霊夢のいる神社へ遊びに出かけようと外へ出たが、なぜかその日に
限って違和感を覚えた。

「何だろう、なにか変な感じがするぜ」

魔理沙は辺りを見回してみたが、どれほど五感を働かせてみても、魔法の森はいつもの
魔法の森であった。小動物や鳥のさえずり、なんかこう口では表現できないが、いかにも
魔法と言う雰囲気しかない。それでも心の奥で感じる違和感は何だろう。
魔理沙は何となしに空を見上げると、ようやくいつもと違う雰囲気の原因に気がついた。
空が黄緑色をしていた。

「空の色が変わっている、異変だぜ、といっても空の色以外に変わりはないようだし、
まあ人畜無害な感じもするが……」

太陽光は白く見えるが、そこには様々な色の光が混じっている。太陽光が大気に当たると
なぜか青い光だけが四方八方に散乱し、それで青く見えるのだと言う。
それが別の色に見えると言う事は、何かが別の色の光を散乱させているという事になる。

「太陽の光をいじる? ただひとり思い当たる節があるぜ」

魔理沙は神社へ急いだ。境内で霊夢が案の定目を丸くしていた……わけでもなく、
黄緑色の空の元で、普通に境内を掃いている。

「霊夢。お前よく平然と掃除していられるな。呑気な奴とは思っていたがこれほどとは」 

霊夢の反応はそっけないものだった。

「あら、特に妖気も感じないし、こんな日もあるわよ」 と掃除を続ける。
「でも薄気味悪いぜ、まあ、太陽光の波長をいじるといえば、大体の見当は付くけどな、
裏のミズナラの木がにおうぜ」

魔理沙は裏出へ歩いていく。雑草をかきわけて木の立っている所を目指した。
霊夢も後からついて来る。

「ああ、あの妖精たちの事ね」
「お前、あの木に妖精が住み着いてたの知ってたのか」
「まあ、あの子たちも自然の化身、と言う事は八百万の神様のひとつ。
だから多少お供え物が盗まれるのも、それこそが供物と思う事にしてるの」
「でもたまに人間に悪戯するぜ」
「この国では、人間に恵みをもたらすモノも、災いをもたらすモノもひっくるめて、
人知を超えた存在そのものをカミと呼んできたから、その定義だと間違いないでしょ。
どうせ悪さするなら、近くに置いておいた方が監視しやすいしね」
「それでいて、虫の居所が悪ければお仕置きするだろ?」 魔理沙が霊夢の顔を見てニヤリと笑う。
「ええ、敬意をこめて。ね」 霊夢も悪戯を仕掛ける妖精のごとく微笑んだ。

ミズナラの木が見えてくる。
木の表面にはガラスのような透明な板が何枚か貼られていて、内部をのぞく事が出来る。
妖精の一人と目が合い、こちらが笑いかけると、瞬時に頭を引っ込めた。

「ごめん下さいだぜ、返事がない、じゃあ入るぜ」

中には二人の妖精が抱き合ってこちらを見つめている。

「ま、魔理沙さん、返事がないから入るってどういう感覚ですか」
「お前らもやっている事だろ?」魔理沙は悪びれない。
「心配しないで、紫が許可したんなら、別に追い出すつもりはないわ」
「ところでルナにスター、サニーはいないのか」
「さ、サニーはいま出かけています」
「そう、きっとこの異変もどきもあいつの仕業ね」
「見ろよ、今度は空が薄紫になってきたぜ」

空が今度は魔理沙の言った色に変化している。でも相変わらず妖気などは感じられない。
と思えば、今度は空がレモン色に変化し、次は桜色になった。

「たまには空の色が変ったって悪くないわ、慣れればこれはこれで悪くないし、
でも飽きたら元に戻すのよ」
「ええ、そりゃもう元通りに」二人は冷や汗をかきつつ愛想笑いをする。








「ふう、ボコボコにされずに済んだわ」 

ルナがすっかり冷めた緑茶を一口すすり、ため息をつく。

「サニーもなかなかやるじゃない、私もささやかだけど異変が起こせるわ」

スターが場の空気を変えるべく、努めて明るい口調で言う。

「マジで?」
「うんマジ、今夜散歩する時、空を見てごらん」

その時、ドアをノックする音が聞こえ、そのあとすぐにサニーが得意満面で帰ってきた。

「ただいまー。いやーみんな驚いてたわ」
「サニー、いったいどこで何してたの」 ルナが問う。
「秘密、でもこれで、みんな私達を少しは畏怖するようになるはずよ」
「でも目立つと、退治されちゃうかも」
「うっ、まあそん時はそん時よ」

しかし、空の色が変わるだけで、特に幻想郷の何かが変わったわけでもなく、
一過性の不思議な現象としてやがて人妖の記憶から薄れて行った。魔理沙いわく、

「最初は不気味に感じたが、よく考えればこれくらい幻想郷じゃ日常茶飯事だぜ」との事。








その晩、ルナとスターは夜の散歩を楽しんでいた、
サニーも誘ってみたが、やっぱり明るい時に遊びたいといってそのまま眠っている。
三日月の明かりのもとでルナは聞いてみた。

「ねえ、スターができる異変って何?」
「ふふふ、夜空を見てごらんなさい」

ルナがスターの指差した空を見ると、星の配置が変わっていくではないか。

「ちょっとスター、どうやったの」
「実はね、ちょっと念じれば、息をするようにこう言う事が出来ちゃうの。あまり意味はないかもしれないけどね」

スターはさらに北斗七星を指差した。

「でも、私達に畏怖の念を抱かせるのなら、目に見える異変を残してもいいかもね」

指をくるくると回す。すると星が小さな虫のように動き出し、
ひしゃく型の星の配置が左右逆さまになってしまった。

「ねえ、これだけーっとこのままにしておくのはどうかしら?」

「だ、だめよ、元に戻しなさい、みんなの運勢が変わっちゃうじゃない。
それこそ巫女や賢者たちに目をつけられるわよ」

ルナはスターの肩を掴もうとして、転んだ。
ルナが狼狽するさまをひとしきり楽しんだ後、しょうがないなとつぶやきつつ、
北斗七星を差した指を反対方向に回すと、星は元通りの配置になった。

「じゃさね、私は帰ってもう寝るわ」

スターがあくびしながら帰った後、ひとりになったルナは孤独な散歩を楽しむことにする。

「サニーもスターもすごいなあ、それに比べて私は……」

三日月の方を見て、形よ変われ、光よ強くなれ、と念じてみる。
月の光が少し強くなった。ルナは心を躍らせたが、やがて首を左右に振り、
すぐに元に戻した。考えてみれば、太陽も星も自力で輝いているけれど、
月は太陽の光任せである。なんだか空しくなった。

「はあ、いくら月光が増しても、所詮は他人の光」
「あら、月も十分魅力的な天体ですよ」 知った声が聞こえた。妖精ではない。
「紫さん……ですか」

目の前の空間が音もなく裂け、多くの目玉がこちらを睨む暗い空間から、八雲紫が現れた。

「こんばんは」
「こんばんは、あの、紫さんはやっぱ、サニーとスターが今日した事に気づいてましたか」
「ええ、でも大した害はないから大丈夫ですよ」
「そうですか、良かった。でも、サニーもスターもあんなすごい事が出来るのに、
なんで今まで異変を起こそうとしなかったんだろう」
「いい事、あなた達妖精は自然の化身、自分で思うより大きな力を持っているのです。
もし、あの太陽の妖精が一切の光を地上に届かなくしてしまえば、
地上は冷え切ってしまうし、星の巡りが変われば星占いが狂うだけでなく、
星を合図に種まきをする人も混乱するでしょう。
貴方だって、やろうと思えば、幻想郷の全人妖を発狂させる事が出来るはずよ、
試してみますか?」

ルナは顔を青くして首をぶるぶると振った。

「そ、そんな事、できるわけ無いじゃない! 
自分で言うのも何だけど、もしそんなすごい力があったとして、
私達の頭で大それたことを起こしても、思うようになるとは限らないし。
それに、それに……何て言うんだっけ、
ちょっとしたボタンの掛け違えで幻想郷が消滅するわ」

紫はルナの言葉にうなずいた。

「そう、力を持っていても、無暗に行使しない、それが高度な精神文明と言えます。
あなた達はただ、自然をあるがままに維持していればいいのです。
あなた達は確かに頭が良くない。露骨に言えば、おバカ」
「頭が良くないの時点で露骨なんですけど」
「でも、おバカさん達にしか宿らない力もある、
幻想郷の土台に関わる根源の力、それが貴方たちなのです」
「根源の……力」
「貴方たちがあるがままに生きているだけで、その力は適切に行使され、この世は維持されています。
太陽は普通に地を照らし、星は普通にその位置を変え、月は普通に夜を照らす。それでいいのです」
「はい、なんとなく分かったような、分からないような……」
「記念にこれを差し上げましょう、これを見るたびに、今日の事を思い出して下さい」

紫は水晶のかけらを記念にルナにあげた。
家に帰ったあと、月明かりに透かして今夜の事を振り返る。
本当は私達にすごい力が宿っているらしい、でもみだりに力を使う事は災いを招く。
私達があるがままに生きるだけで、その力で世界は維持されるという。
妖怪の賢者の言葉だ、その真意を全て知る事はかなわないだろう。
でも少しだけ妖怪や人間、仲間に対するコンプレックスが消えたような気がする。
ルナは微笑み、水晶のかけらをベッド脇の引き出しにそっとしまった。








「あ~あ、相変わらず人間も妖怪も私達をおバカ扱い、
もっと尊重してくれてもいいのにな。私たちだって世の中の構成要素でしょ?」

サニーが両手を後ろに組んで背中をのけぞらせ、足をテーブルの上に置いて言う。

「ふふふ、知ってる? 本当は私達、とても大きな力を持っているのよ」
「ホントなの、ルナ!」 サニーが身を乗り出す。
「うん、でもみだりに力を振るうのはダメよ、
私達が妖精の本分を守って、妖精らしく暮らしているだけで、世の中うまく回るのよ」
「それって、歯車ってこと?」 サニーが不満そうに口をとがらせる。
「ちょっとニュアンスが違うわね、部品は部品でも、かけがえのない部品」
「博麗の巫女のように?」
「きっとそうだと思う」
「やったー、ルナも久々にいい事言うわね」 

ころころと表情を変えるところが愛らしい。
ルナとスターは顔を互いに見合わせてそう思った。

「さあ、世界を維持するために、また巫女に悪戯しに行くわよ」
「どうしてそんな結論になるのかわからないけど、そうね、行きましょう」
「ああ、みんな待って、うわっ」
「やっぱりルナは鈍くさいなあ」
「でもそこが可愛いじゃない」

転んだルナに二人は手を貸して、神社へ向かう。

偉大な存在は、そうとは見えない姿で意外と近くにいるものだ。
サニーがいうようなことを前から疑問に思っていました。それはそうと、三妖精の話が少ないようなので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

10/07/11 誤字を直しました。
とらねこ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.630簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
ゆかりんはルナチャには優しい

急にプランク定数とか持ち出す辺りが原作の台詞回しっぽくてニヤリとしました。
7.100名前が無い程度の能力削除
素敵な三妖精ですね。
彼女達の力もこんな風に解釈すると面白いですね、妖精は自然そのものだから大切にしてあげないとw
彼女達に話しをしてる時の紫さまも、優しいお姉さんみたいで魅力的です。
13.70ずわいがに削除
ルナとサニーに引け目を感じるスター可愛いよ!

自然はただそこにあるだけで意味があるんだな