Coolier - 新生・東方創想話

古明地こいしの妖怪試験 

2010/04/29 22:18:37
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「どんなもんだ」

「なんだ、こんなもんか」





◆◆◆





そこは地獄だった。
比喩ではない。
まさに地獄としか表現しようが無い場所だった。
鬱屈とした枯れ木の森に、瘴気のように漂う死臭、小石のごとく当たり前に落ちている髑髏(しゃれこうべ)。鴉とも化物ともつかない何かが、奇矯な鳴き声をあげて空を飛んでいる。遠くには、怨嗟と悔恨の声が蠢く旧都、何者も焼き尽くす灼熱地獄の赤煙、ところどころに深遠の暗闇を導く洞窟などなどが見える。
斑に薄く照る鈍色の空は、幻想郷最悪最古にして最低災厄の地、“地底”。
忌み嫌われる能力を持った妖怪たちが、最終地点の最後の砦としてたどり着く、行き詰った土地。
水橋パルスィはそんな地を歩いていた。
すぐそばには不気味に泡立つ毒の沼地が見え、周囲は生気も生物もない森に囲まれていた。
「まったく、酷い土地もあったもんだわ。ただ歩いてるというだけで、気分が悪くなっていくなんて」
と、独り言。
「さすが地底の名に恥じないわね、“妬ましい”」
ぶつぶつと――呟いていた。
そして。
ずんずんと――歩いている。
「適当な道を進んできたはいいものの、一向にどこかに着くという気配が無いわね。まぁ上下前後左右を見渡せど、この地底に辿り着きたいという場所があるというわけではないけれど――妬ましい。それに適当な道といっても、別に整備されているとか舗装されているとかじゃなくてただなんとなく歩き易い場所を進んで来ただけだけれど、それでもこれだけ進んでどこにも辿り着かないというのもおかしな話じゃないかしら。まるで土地自体がここだけ閉じているかのよう。まったく――妬ましい、妬ましいわ」
負のオーラを撒き散らしながら、パルスィは進んでいた。
方向は――適当。
方角は――向こう。
遠くに地底唯一の都市である旧都が見えているのだから、そっちに向かえばいいのではないかと簡単に思うかもしれないが、パルスィは理解していた。
知識でもなく意識でもなく、妖怪として備わっている、本能で。
「蜃気楼……いえ、怨念の集大成とでも言うのかしらね」
遠く旧都が――揺らめいた。
「“そう簡単に最悪になれると思うなよ”。まったく地底のやつらって、こんな場所に居てさえ、まだ妖怪としての矜持――プライドは持ち合わせているってんだからしかたないわ――妬ましい」
旧都に住まう妖怪たちの念が、旧都への到着を阻む。
並大抵の最悪では辿り着けないように。
だから――進む。
とにかく――進む。
道無き道を、ではない。道のような道を、ではない。
道から外れた道を、進むのだ。
「へいゆー」
声がした。
パルスィは首を向ける。
妖怪がいた。
妖怪が――いた。
妖怪――妖怪が――毒の沼地にハマっていた。
すっぽりだった。
「もしかしてもしかして、顔面無比なそこのおねーちゃんは地底に初めて来た迷子さんかい?」
その妖怪は不敵に笑う。
見えている部分しか見えないが。
首から上しか――見えないが。
「まぁ迷子でもしない限りこんな場所には辿り着かないしその迷子して疲れ果てたやつを私は巣に捕らえていただくって寸法なんだけど、ああ紹介が遅れたね。私は土蜘蛛の妖怪“暗い洞窟の明るい網”――黒谷ヤマメさ」
パルスィは向き直る。
妖怪が妖怪に話しかけることは間々あるが、たいていの場合それは友好的なものではなく、要するに暇つぶしか、何かが気に入らなかったかの何かだ。理由も原因もなく話しかけられることなど、まず無い。
だから、話しかけられたなら区別無く警戒態勢だけは整えておいた方がいい。
とはいえ――。
相手が身動きの取れないような場合はその限りではないのだが。
「顔面無比っていう言葉の意味は全くわからないけれど、おねーちゃんおいう言葉から察するに私に話しかけてきているのかしら? えっと、“黒い沼地にハマる明るい馬鹿”こと黒谷ヤマメさんが私に何の用?」
「あ! 馬鹿にしたね! 私のこと馬鹿にしたでしょ!」
「え、ああ、うん。したけど?」
「うわっ! 否定もしないよこの顔面凶器。さすがにそんな顔面をしているだけあって性格の方も悪いうげ」
その突き出た顔面をパルスィはやおら踏みつける。
「というか土蜘蛛なんていったら有数の妖怪じゃない――妬ましい。で、なんでそんなやつがこんな“面白いこと”になってるわけ」
「いやあのそれにはですね海よりも谷よりも深い訳が……っていい加減足をどかせ! この顔面ルナティック! 私の身体が余計に沈んでいってもはや首の付け根がハネムーン?!」
「ふうん?」
「あえいやごめんなさいより強く踏みつけたその足をどかしてくださいませんか――えっと――」
「パルスィよ、水橋パルスィ」
「足をどかしてくださいパルスィ様!」
「ふん」
パルスィは足をどかす。
どうやら本当にこの馬鹿――黒谷ヤマメは抜け出せないらしい。
毒の沼地と言うよりかは、底なし沼が正解だったようだ。
一歩踏み入れたら抜け出せない、踏ん張ろうとした足が沈んでいく、そんな沼。
しかしそれにしても、こんな場所に住んでいる妖怪だったら、間違ってもそういう場所には踏み入らないようにするはずなのだが。
「で、いったい何があったの? まさか巣から落ちたとか言うんじゃないでしょうね」
「古明地こいし」
唐突に、ヤマメはその名を出した。
「あいつのせいよ」
「え?」
思わず聞き返す。
古明地こいしと言えば地底の更に奥深くに存在すると言われる地霊殿の主の妹。
確か能力は――無意識を操る程度の能力、だったか。
そんな大物が、こんなところまで来たと言うのか。
「いやあ実はここに蜘蛛の巣を張ってたんだけどさ。向こうの森の木とつながってるような結構大きいやつ。それをいきなり誰かに壊されちゃってね。いきなりだよ、いきなり。それはもう、気づいたときには遅かった――いや、自分が落ちていることから、巣が壊されたことに気づいたって感じか」
無意識を操ったのだろう――ヤマメは言う。
「これでも曲りなりには土蜘蛛だからね。糸に伝わる地面の振動なんかには敏感なはずだけど、それでもあっさり、バチンバチンバチンって切られちゃってさ。で、私は見てのとおり、巣の真下にあったこの沼地にホールインワンしちゃったってわけ」
やれやれ――もしも身体が動いていたら首をすくめていただろう。
「私に気づかれずそんなことができるやつなんて、この地底にしたって古明地こいしの他にいない。姿かたちも見てないし、声も足音すら聞いていないけど、むしろそれが証拠! 証拠が無いことが、古明地こいしである証拠なのよ!」
なるほど、不在証明自体が証拠とは、考えたものだ。
「古明地こいしめ……この恨み、晴らさでおくべきか……」
「でも地霊殿っていったら、この地底で最も権力があるやつらなんじゃなかった? 人違い……いえ、妖怪違いなら大事よ」
「ふん、関係ないわね。巣を壊されたこの恨み、私の病魔で区別も種別も無くぶっ侵してやるわ」
ふふふと――笑う。
見かけによらず、怨念深いのかもしれない。
まぁ。
嫉妬深さでは負けないけれど。
関係ないか。
「それで? 私を呼び止めた用事は……まぁなんとなく想像はつくわ」
「その通り。ちょっと手伝うだけでいい。私をここから引き上げちゃくれないかい?」
「嫌よ。なんで見ず知らずのやつを助けるような真似しなきゃいけないわけ?」
私はそんなに優しくない――。
と。
ヤマメは、――笑っていた。
沼地にハマってなお、強者の笑いだった。
「パルスィ、あんた迷子でしょ」
その通りだった。
「私なら案内できる。道を教えてあげられる。私はここら辺の土地に詳しいわよ。この“地底の入り口”からも脱出できるし、もちろん旧都にも案内できる。行きたきゃ地霊殿とその下の灼熱地獄跡まで案内してやるわ」
「………」
「いやもちろんこのまま歩いて行ってもいいんだよ? まぁあと五千里くらい歩いたら、気づくでしょう。自分は閉じ込められたんだって、ね。こら辺に薄くかかった霧――瘴気に気づいてた? これ、実は地底の妖怪によって作られた結界なのよ。私も含めたね。さっきも言ったかもしれないけど、ここは何も知らずに入ってきた妖怪やら人間を弱らせるための土地であり装置なのさ」
だから――閉じている。
ここで終わらせる気なのだから、獲物のために出口など作ってあるはずも無い。
パルスィ自身は進んでいると思っていたが、実際には立ち止まっているのとなんら変わりが無かったのだ。
地底の妖怪達の作った狩場。
獲物を捕らえ、弄るための――狩場。
「だからこそ、こいしの野郎にやられてこんな感じになっちゃったんだけどね」
それはそうだろう。
不意打ちに気をつける伏兵はいない。敵の接近に気づかない陣はない。
だからこその、油断――こんなにきれいにすっぽりハマるくらいに。
「とにかくパルスィもこんなところで野垂れ死にしたくないでしょ? だから私を助けよう。ほら! 互いに利益しか無いじゃん!」
「はぁ……人を勝手に罠にかけておいてよく言うわ。その図々しさ――妬ましい」
「あっはっは、ヤマメは手前勝手で身勝手な上に自分勝手だよねとはよく言われるんだ」
「笑いながら言うことじゃないわね、それ。しかも同じことしか言ってないし」
ため息をつきながらパルスィは腕を組む。
確かにもう歩き始めて体内時計で数日が経過していたし、自分が迷子だと認めたくなかったが、どうしたものかと困ってはいた。
だが。
困っているのは確かだが、助けたいとも思えない。
面倒なやつに絡まれた、と思う。
厄介な糸に絡みとられてしまったようだ。蜘蛛だけに。
「ねぇねぇあんたと話してるのはそれなりに楽しいんだけどそろそろ本当に助けてくれない? さすがの私もあごの辺りまで沈んでくると死の恐怖を感じたりするのだけど」
「ええ~どうしようか……」
「ちょっと! この期に及んでまだ逡巡かい?! ほら! 私もう沈んじゃうよ! ああっ! 横隔膜を動かすと余計に沈んでいくっ! ちくしょう! いいのかい! このままだとあんたも死ぬよ! 死ぬまで迷子だよ! 真宵マイマイだよ!」
やかましい妖怪だ。
今わの際くらい静かにできないのだろうか。
でも、必死な様子は可愛かった。
「わかった――わかったわ。助けてやるわよ」
「ホント! ありがとうパルスィ!」
無邪気な野郎だ。その上馴れ馴れしい。
一応釘をさしておく。
「でもその見返りに、ちゃんと私をこの場所から脱出させてよね」
「もちのろんさ! 私を誰だと思っていやがる! “暗い洞窟の明るい網”黒谷ヤマメ様だぜ!」
暗い地底に似合わない、明るい笑顔だった。
“暗い洞窟の明るい網”。
なるほど名前のとおりなのかもしれない。
ああ――。
――妬ましい。
「え?」
「なんでもないわ。はぁ。でも助けようにも、私がそのまま沼に入るって訳にもいかないし……どうしようかしら」
「そこら辺に私の巣の残骸が落ちてないかい?」
見れば確かに、白いファイバーで出来た荒縄のようなものが泥だらけになって落ちている。
拾い上げてみると、それは蜘蛛の糸だった。
まぁしかしこれならばかなりの重量を持ち上げてもびくともしないだろう。
「じゃあこの糸を投げ入れて、ヤマメが掴んで、それを私が引っ張ればいいのかしら?」
綱引きを思い出す。
まぁ、これは――糸引きか。
納豆みたいだ。
「うむ、ちょっと前まではそうすればいいと私も思ってたんだけど……」
ヤマメはばつが悪そうに笑う。
「しばらく前から手足の感覚がないんだよねぇ、あはは」
「――はぁ?!」
「だからぁ、その糸を掴もうにも掴めないんだよ」
だからさ、と。
「パルスィがその糸を命綱にして、私を引き上げちゃいただけないかなぁ……と。お願い、ね?」
沼地に入れというのか。
底の知れない――底なし沼に。
「いやよ。泥だらけになるじゃない」
「そこをなんとか! お願い! パルスィ様!」
「……………首に巻きつけて引っ張ってやろうかしら」
「や、やめてください! 蜘蛛が首吊ったっていいことなんか一つもないんだから!」
「自分の糸に絡まって死ぬ蜘蛛ってのも、面白いと思うのだけれど」
――ため息。
要するに、もう全身が動かせなくなってしまったヤマメを救い――掬い出すにはパルスィ自身が沼地に入らなくてはいけないらしい。
服が汚れるのは当然として、一歩間違ったら一蓮托生――、一緒に沈み死にかねない。
まぁ。
道半ばで野垂れ死に、地底の妖怪に食われるのとどっちがマシか。
「ふん」
考えるまでも無いことだった。
私は優しくはないけれど、無責任にはなりたくない――。
「私はあんたを助ける。そう言っちゃったからには、何があってもあんたを助けるわ」
向こう側の巨木に糸をぐるぐると巻きつけ、自分の腰にも糸を巻きつける。
その固さを確認。幾度か引っ張ってみる。
「よかったわね、ホント、通りかかったのが私で。他の妖怪だったら、いい機会だとあんたを丸齧りしていたかもしれないわ」
そして。
ズブズブと、躊躇無く、沼地に足を踏み入れる。
「私という妖怪に出会ったあんたの幸運が――“妬ましい”」
ヤマメは呆然と、その堂々とした姿に見惚れた後。
ぽつり――言った。
「恩着せがましいなぁ」
瞬間。
「!」
パルスィに異変が生じる。
異変――まさに異変だ。
身体が――。
沼地に足を踏み入れた瞬間。
右足、左足と――踏み込むと。
ガス――瘴気のようなものが。
周囲に漂っているものとは比べ物にならない濃度の――。
ズブズブと――。
身体が――。
沈み――。
そして――。
動かなく――。
「あ、そうそう言ってなかったっけ。ここ“毒の沼地”だから」
「“な、う、あが、が”」
「ほら急いで、私の能力が効く範囲に入らないと」
どんどん身体が動かなくなっていく――。
「まぁ何で私がこんなところに巣を張っていたかって言えば、もしも戦いになったとき、巣の下に毒の沼地があれば相手がなかなか近寄って来れないじゃない? 巣の上での戦いならこっちに分があるわけで」
「“が、あ”」
「え? なんで私は平気な顔をしてるのかって? 私の能力って病気を操る程度の能力なんだけど、この毒は病気と系統が似てるからそれなりに抑えられたりするんだよ。それでもまぁ操ることはできないし、完全に無効化とかできてなくてさすがに沼地に直接触れちゃったりすると動けなくなっちゃうんだよね」
それでこんな――すっぽりと。
考えてみれば妖怪の力であれば“普通”の沼地を抜け出すのは容易いはずなのだ。飛んだり、能力を使ったり、力任せだったり。
「まだ沼地の毒に侵されていない“新鮮な妖怪”なら、私の能力下に入ればなんとか数秒は動けるはずだから」
その間に引っ張って頂戴、と。
悪びれもせず言う。
底なし沼かつ、毒の沼地。
生命をただ飲み込んでいくだけの沼。
ヤマメ――黒谷ヤマメ。
そんな場所に沈みつつ、あれだけ平然と――超然としていられるなんて。
普通じゃない。
――土蜘蛛。
――土蜘蛛か。
「ふふん」
――ヤマメは笑う。
「いいことパルスィ。私を助けるためには、あんたの力だけじゃなく、“私の力”も必要だったってとこ。重要だから忘れないでよね」
毒無効化も、その糸も――自分が助かるためには必要だった。
パルスィだけがいれば完全じゃない。自分もいなければ、この救出劇は成り立たない、と。
いくら馬鹿でも無邪気でも、妖怪は妖怪だった。
自分の利を忘れない。無償の救いは跳ね除ける。
そして――恩と怨は死んでも返す、のだろう。
だからパルスィも――。
思わず笑ってしまった。
ヤマメがあまりにも妖怪らしくて――。
真面目にヤマメを助けようと、馬鹿正直に沼地に入ってしまった自分なんて――まだまだだった。
ああ、本当に――“妬ましい”。
ひじめましてアニン@です。かみました。
初投稿です。右も左もわかりません。とりあえずごめんなさい。

本作品は当然のごとく西尾維新さんの人間シリーズリスペクトです。
その完結を祝って書いてみました。
作品の雰囲気を似せてみました。無理でした。

内容が無いです。すいません。
日本語が酷いです。読みづらくてすいません。
言葉遊びと皮肉のキレがありません。すいません。
背景描写が苦手です。だれかたすけてくだしぃ。

最低でもあと二三回は投稿しようと思います。よろしくお願いします。
今後の内容としては突如襲来した超地底帝国が幻想郷を滅ぼさんと濃厚な産地直送畜産牛乳の販売を企むかもしれません。未定です。
アニン@
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コメント



0.370簡易評価
4.40名前が無い程度の能力削除
西尾維新リスペクトというか、タイトルがまんま零崎を始めてますよ。
西尾維新さんの文章は嫌いじゃないんですが、西尾維新さんの作品だからこそ映えるような気がすると、こちらの作品を読んで、少しだけ実感しました。
これでも良いという人もいるでしょうが、自分にはちょっと合わなかったようです。言葉遊びとか、呼びかけ、会話内容とか、西尾維新さん独特なので。
9.80ずわいがに削除
俺、SSは読むけど紙媒体の本とかはほとんど読みませんからねぇ。せいぜいラノベぐらい?西尾維新さんというのもご存知ないのです(エッヘン

でもこの作品は普通に楽しめましたよ。なんやかんやで人のいいパルスィと、お馬鹿で妖怪な土蜘蛛ヤマメ。なんだかおかしな雰囲気ですねぇww