Coolier - 新生・東方創想話

やらしい二人

2010/04/26 13:31:24
最終更新
サイズ
12.44KB
ページ数
1
閲覧数
712
評価数
10/34
POINT
2140
Rate
12.37

分類タグ


 次々と桃色の着物で木々が着飾り、そしてその糸をほつれさせていく季節、春。
 その日、博麗神社では宴会が開催されていた。
 あらゆる人妖が揃い、酒を酌み交わす。
 さて、今回の宴会はようやく"暖かい"春が訪れたことを祝うものでもある。
 氷精など、個人的な感情からやってこないものもいる。

「やっぱりお姉ちゃん来ないのかな……」

 まだ芽吹きの季節とはいえ、多少は力が回復しつつある秋静葉も、その中の一人だった。



「ん、んむぅ」

 体を伸ばしてリラックス。
 別に桜は嫌いじゃない。
 いや、嫌いか。
 春のくせに儚いとか何様のつもりか。

「あー、早く秋が来ないかしら」

 毎年その台詞を繰り返す私は、とても退廃的なのかもしれない。
 でも、静けさを司る私だからこそ、そうして刹那的でいてもいいのだ。

「いーけないんだ」
「ん?」
「穣子様は宴会に出席されたのに……」

 何がいけないというのか。
 それ以前に。

「あなたも同類じゃないの」
「えへへ、バレちゃいました」

 声の出所、背後にいたのは脇を露出させた、いまだに巫女との区別がうまいことつかない特殊な装束を身に付けた、風祝。
 東風谷早苗。

「また酒を呑みたくないもんだから抜け出してきたのね」
「だって神奈子様も諏訪子様も無理に……」
「いーじゃない。 構われてる内が華よ」
「私は静葉様に構われたいのに……」

 本当に不思議なことなのだけれど、私は早苗に気に入られている。
 私自身はそれほど興味はないのだけれど。
 他人の巫女を掠め盗るような真似はしたくないし。
 一度、乾坤を創造する程度の二柱が悲しむからこっちくんなと言った。
 その返答がこれ。

『神奈子様と諏訪子様も御心の広い方々ですから大丈夫です!』

 嫌いといえば、こうだ。

『わぁい、静葉様に嫌われました!』
『なんで喜んでるのよ』
『静葉様にとっての特別になれました!』

 つくづくこの風祝は幻想郷に来てはいけなかったのではないか、と思う。
 神奈子が泣いて語ったところによると、"外側"にいた頃はもっとまともだったらしい。
 ちなみにその慟哭で山が一つ消滅しかけた。
 諏訪子の方はといえば。

『まあ、したたかに育ってくれた方が嬉しいし、別にいーんじゃない?』

 などと相棒の頭を鉄輪で叩きながら笑う始末。
 もしかして早苗は諏訪子似なのではないか。
 適当に回想しながら、私は宴会会場からどんどん距離を取っていく。
 それに早苗もついてくる。

「ついてこないで」
「静葉様ー」

 こら。

「ついてこないでってば」
「静葉様はどこに行かれるのですか?」
「ついて……はあ」

 本当に常識を捨ててしまったんじゃないのかこの子は。
 ついてくるなって言ってるのに。

「寂しいところを探して昼寝するのよ」

 寂しいところでなら、多少力を補給することもできる。
 さらに寝ていれば無駄な力も使わずに済むの一石二鳥だ。

「だから、早苗は邪魔だからついてこないで」
「静葉様が冷たい……いつものことですが」

 わかってるんだったら、わざわざ言う必要はないと思う。

「じゃ、私は行くから」

 ちょっと冷たくしすぎたかな、とも思った。
 けれども、それもいつものことだったのでなるべく背後を気にしないようにして、歩き出した。

「……」

 しばらく歩いて、こっそりと振り向いてみる。
 若葉のような髪の彼女は、いなくなっていた。
 そう、それでいいの。



 ちょうど、幻想郷と"外側"を隔てる結界のすぐ近くに建てられた廃屋。
 博麗神社から半刻ほど歩いたところにあるそれは、霊夢曰く先代の博麗の巫女が晩年を過ごした場所らしい。
 年季の入った、湿っぽい木の匂いのする戸を引けばカビの匂いが襲って、こなかった。
 脱いだ履物を手に持って、中をどんどん進んでいく。

「相変わらず、面白い場所……」

 この廃屋はある力によって、家主がいなくなったその日の状態がキープされている。
 力の正体は功名に隠されているようだったが、わずかに判別することができた。

「あの隙間妖怪が何を考えているのかはわからないけれど、力を貯めるのにはうってつけなのよね……っと」

 きっと、先代の巫女の持ち物だったのであろう、敷きっぱなしの布団に入り込む。
 何の感傷、はたまた思惑があったのだろうか。
 蜘蛛の巣どころか埃すらないこの場所は、先代が生活したそのままの姿をずっと残していた。
 そこにあるのは、不変という寂しさ。
 玩具の家、持ち主のいない箱庭。
 変化する儚さだけが、私の好むものじゃない。
 そう言った意味では何度拒絶されても一切態度を変えない早苗も寂しい存在なのかもしれない。
 私が、あなたの想いに応える確証なんてない。
 というか私自身にそんな気なんてさらさらないというのに。

「わっけわかんない……どうしてひっつきたがるんだか」

 私には穣子と秋と、紅葉さえあれば十分なのに。
 それ以上は、抱えきれない。
 寂しさが、私の存在が、揺らぐ。
 確かに賑やかなのも悪くはない。
 ただ、私には少々うるさすぎるんだ。

「煩わしい、面倒……」

 良い言い回しが思いつかない。
 なんだかんだで負の感情でしかないのだから、できるわけないのだけれど。
 罪悪感を覚えないわけでもない。
 今回の宴会だって、穣子を一人で置いてきてしまったし。
 わざわざ誘ってくれた博麗の巫女にも悪いだろう。
 正直なところ、早苗に対してあんな態度でいるのもいい気はしない。
 だからといって彼女が好きというわけじゃない。
 嫌いでもない。
 単純に興味がないだけ。
 愛憎の対局にあるのは無関心。
 私は、彼女を無視している?
 それは想いを踏みにじる最低の行為。

「儚いなぁ」

 それが、たまらない。
 人間たちが織り成す関係から生まれる切なさは、私にとっては秋に匹敵する愉悦。
 私は、そんな私が嫌いなんだ。
 とにかく、私は面倒くさい。
 だから今自分が持てる以上のものはいらない。

「早苗……」

 もし私がただの人間だったなら、ただの妖怪だったならなんて考える。
 自分自身が儚いなんて、本末転倒かもしれない。
 でも私だって冬になれば消える一歩手前まで、憔悴しきる。
 最近ではそのことに快感すら覚えるようになってしまった。

「早苗……ごめんね」

 持てるだけの関心を早苗に向けてから、私は意識を闇と同化させ始める。
 はぁ、なんか気持ちいい。
 よく眠れそう。

「早苗……」

 半濁した意識で、儚い自分に笑う。
 ああ、なんて最低な自慰行為。
 神様は許してくれる?
 私が神様だった。

(許します)

 そんな声が聞こえたような気がしたところで、私の意識は完全に没した。



 許すなんて、私が言えることじゃない。
 でも、言わなきゃいけない気がした。

「早苗……」

 今にも消えそうな静葉様を。
 あなたを、繋ぎとめたかった。

「私が、私は許します」

 私は、東風谷早苗は半分でしかなくて、しかも半人前な、三分の一にも満たない存在だけど。
 それであなたの何かになれるのなら。
 例え弾劾者でも姉でも、なんにでもなれる。

「ごめんね……」
「私が謝らなきゃ、いけないんですけどね」

 寝言らしき声に、返答する。
 アレから私は、静葉様の匂い、気配と言った方が正しいものをこっそり辿って、廃屋にたどり着いた。
 そして、こうして足元で寝ている静葉様を見下ろしている。

「静葉様」

 覚えてらっしゃいますか。
 あなたが言ってくださった言葉。
 きっとあなた自身は何も考えておられなかったのかもしれないけれど、今の私を作ってくれた言葉。
 霊夢に二度も負けて、自棄になっていた頃の私に、あなたは。

「私が、紅葉みたいだって。 美しいって」

 馬鹿にしてる、と前の私なら感じたかもしれない。
 花ならともかく、枯葉。
 でも、私はそれで立ち直れた。
 紅葉だって、桜だって時には勝てないけれど。
 また着飾るために努力を重ねる。
 私は、わざわざあがくのがみっともないと思っていた。
 それを、あなたが壊してくれた。
 十度消えかけても、十度蘇るあなたを美しいと思った。
 秋が、待ち遠しくなった。

「静葉様……」

 膝立ちになって、髪飾りを取り払ってあげる。
 いい匂いのする髪の毛は、とてもさわり心地がいい。
 こうして撫でる機会は初めてじゃなかった。
 少し前、白蓮たちがはじめて参加した宴会で酔いつぶれた静葉様に、こっそりとよりかかった。
 穣子様は私をちょっと見て、「まあ、がんばりなさいな」とおっしゃった。
 勇気を出して、髪の毛に触った。
 壊れそうで、触れる事自体が罪のように感じた。
 こうして触れるのが二度目になっても、やっぱり、怖い。
 もしも静葉様のように、私も許しを乞うのならば、こうだろうか。

「あなたを、壊したいです」

 めちゃくちゃに、したい。
 私の刻印をつけたい。
 壊したい。
 ああ、でも。

「もったいないから、できそうにないですよ……」

 静葉様は、本当にズルいと思う。
 壊したいのに、壊したら二度と戻らないように思わせるなんて。
 今にもいなくなりそうな癖して、安心したような寝顔を見せてくれるなんて。
 本当、卑怯。
 とりあえず仕返しに、枕を盗ってしまうことにした。



 なんだろう。
 なんだか、とっても気持ちいい。
 気持ちいいけれど、不安だ。
 これを失ったときに、私がどうなってしまうだろう。
 これはいつ消えてしまうのだろう。
 感じたことのない感情が、私の意識を釣り上げて行った。

「……」
「……」

 視界が、開けて。
 真っ先に飛び込んできたのは、儚い者の、笑顔。
 不覚にも、美しいと。
 惜しいと思ってしまって、目をそらす。

「おはようございます、静葉様」

 言ったのに。
 アレだけ拒絶したのに、どうしているのよ。
 しかもいつの間にか掛け布団をまくられてるし、膝枕されてるし。

「ついてくるなって言ったでしょ」
「静葉様」
「人の話を聞きなさいよ……」

 目をもう一度、早苗の方に向けてああ、さっきの笑顔をもう少しだけ見ていれば良かったと思った。
 早苗の顔からは、感情が読みとれなかった。

「静葉様は私のことが好きですか?」
「好きでも、嫌いでもないわ」
「じゃあ、私のことをどう思ってますか?」
「変な子」

 そうとしか言いようがない。
 まさか悪いと思ってるだなんて言えないでしょ。

「私は、ですね」

 そう言って早苗は思いつめた表情をして俯いた。

「私は、静葉様のことが好きです」
「祀るならもう二柱いるじゃない」
「違うんです。 静葉様のことが、一人の女の子として大好きなんです」

 珍しく、積極的だ。
 面倒なことになりそう。

「年頃的にそういうのに憧れるのはわかるけど、別の子にしときなさいな」

 結局私は早苗のことはどうも思わないって言った方が正しいし、大体に私とあなたとの付き合いには致命的な問題があるでしょ。

「あなたと私は、ずっと一緒にいられないし」

 早苗の種族はいまだによくわからないが、少なくとも不死ではないだろう。
 私だっていつ完全に消え去るかわからない。
 神も、儚い。
 不安定なのだ。

「あなたが先に逝くなら、私はついていきます」

 そして、と言って早苗は面を上げて私の目を見た。
 早苗の目は、私には熱すぎた。
 汗が出そうなくらいに、強い熱を孕んでいて、真剣さが感じられた。
 だからこそ、この後放った言葉は、マジなのだろう。

「私が先に逝くくらいなら、私があなたを壊します」
「は……?」

 今まで何度も、しぶとく生き残ってきた私を、壊す。
 どうやって。

「そうすれば私と静葉様は一蓮托生。 儚いでしょう?」
「儚いけどさぁ……」

 だから。
 私はあなたのことは別に好きでも嫌いでもないんだってば、と反論しようとして。
 それでなくても、という早苗の声を聞いた時には、既に彼女の顔が至近距離にあって。

「私は、静葉様を壊したくて、たまらないんですよ」

 ほんのちょっと、唇をふれ合わせる程度の、軽いキス。
 すぐに、口の熱はなくなって、今度は上半身全体に熱を感じた。

「……それで、壊したつもり?」

 早苗の柔らかい体に抱きしめられたまま、私は問う。
 もう流石にこれだけで恥ずかしがったり、慌てるほど私だって若くない。
 人里でモーションかけられたのも十じゃ収まらないほどだったから。
 ずるいです、と小娘が呟いた。

「……すっごい、恥ずかしかったんですよ?」
「自業自得よ」

 慣れないことなんかするからだ。
 なんとなく力のおかげでわかるのがイヤだけれど、指摘しなければならないことがある。

「……早苗、これファーストキスでしょ」
「そんなことまでわかるんですか」
「儚いことならなんでもね」
「やらしいです」
「あなたねぇ……」

 寝起きの神の唇突然奪う奴が言うセリフか。
 はあ、とため息をつく。
 なんだかなあ。

「何、アンタまだあきらめてないの」
「セカンドでもサードも、静葉様に全部捧げるつもりですよ」

 抱きしめられる力が強まってきた。
 襲われるかもしれない。
 そういうだらしないのも刹那的でいいんだけど。

「こら」
「あうっ」

 早苗にデコピンしてやって、力が緩んだすきに脱出する。

「全く……最近の巫女はみんなこうなの?」
「風祝ですよぉ……」

 霊夢という早苗といい、型破りにも程がある。
 埃なんてないけれど、軽く服を払って、立ちあがる。
 お腹なんか減らないけれど、何か食べたくなってきた。
 外を覗けば、空が夕日に染まり始めていた
 夜雀は確か、今の時間から屋台営業してるんだっけ。
 宴会でもみかけなかったし、今日もやってるのかしら。

「……少し、付き合いなさい」
「え?」

 私の唇は高いのだ。

「どうせ神奈子も諏訪子も宴会で遅くまで帰ってこないんだから、夕飯の準備はしなくてもいいんでしょ? 八目鰻でも食べにいくわよ」
「え、あ、う」
「……なにやってんのよ」

 てっきり狂喜乱舞するかと思ったのに。

「だって、静葉様が、誘ってくれるなんて、はじめて」
「あー」

 そうだったかしら。
 なんとなく、一緒に行ってもいいかな、なんて思ったんだけど。

「来ないのならいいけど」
「い、行きます行きますよ!」

 つぶやいて玄関に出れば、犬みたいに走って追いかけてきた。

「え、えへへ……」
「……気持ち悪いわね」
「いや、なんだか静葉様に興味を持ってくれたのかな、って思うと嬉しくて」
「ただの気まぐれよ」
「だとしてもいいのです。 私は静葉様についていければ……」
「なによ、あきらめないんじゃなかったの」

 早苗の呆けた間抜け顔が、とても愉快だった。
 紅葉みたいなやつは、嫌いじゃないのよ。
 せめて。

「せいぜい、私を魅せられるくらいになりなさいな」
「……はいっ!」

 生まれた太陽、笑顔から目を逸らして、死ぬ太陽に目を向けて。
 私は、私たちは屋台へと歩き始めた。
 哀れな夕日はまるで、私たちを哀れむように、燃えていた。

「ああ、儚いわ」
 タイトルに偽りない、ならいいと思う。
 ちょっとやらしさが足りなかったかな、とも思うリーオです。
 季節はずれにもほどがあるけど、桃色の中に赤が混ざってもおかしくないですよね、多分。

 では、お付き合いいただきありがとうございました。

 コメ返しです。
 >2様
  うわあい! とんでもない誤字でしたね、すいません……。
  読んでよかったって思ってもらえたら嬉しかったです!
 >4様
  常識はないものだと(ry
  早静を見かけたのはどこかは言えないけれども。
  でもこのカップリングにビビッと来ていつかは作品にしたいな、なんて思っていた次第であります。
 >7様
  空白の行含めて三行でまとめるのが流行っているんでしょうかw
  さなしずもっと流行ってほしいです。
  割と絡みも多いカップリングのはずなのです。
 >8様
  早苗「ふふふ……目覚めましたか?」
 >12様
  もっと世界は広がるべき。
  こちらこそ読んでいただけて感謝です。
 >17様
  少しでも、彼女たちのことを魅力的に感じてもらえたなら、それ以上の喜びはないです。
  新境地……結構マイナーだったのかしら。
 >21様
  ここからどうやって早苗が巻き返すか……わくわくしますね!
 >24様
  早苗「奇跡の力で……」
  静葉「やめなさい」
 >ずわいがに様
  どちらかが枯れても、どちらかが養分を持ってきそうですね。
  静葉様はともかく早苗さんは放って置かなさそうです。
>29様
  わぁい、許された!
  やっぱりどマイナーなのかー、とか今さらなリーオです。
  流行れとは言わないけど、認知度が上がれば嬉しいなあ、さなしず。
リーオ
http://lieolieohumansong.blog76.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1200簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
一個稔子があって途中で読むのを辞めそうになった

最後まで読んで良かった
4.100名前が無い程度の能力削除
まさかの早静。

早苗さんの病的?なまでの静葉への愛がすごいなww
7.100蕪城削除
まさかのカップリング

いや……ありだな
8.100名前が無い程度の能力削除
早静か……また新たな世界の扉を開かれてしまったw
12.80名前が無い程度の能力削除
これは良い組合せ。
新たな世界をありがとう。
17.100名前が無い程度の能力削除
静葉さんという事でホイホイクリックしたら見事に新たな境地に目覚めました。

早苗さんがとっても一途で可愛らしいですね!
クールな静葉さんも自分的には新鮮で良かったです!
21.100名前が無い程度の能力削除
予想以上に良いカプ、お互いに溺れきってしまったふたりも見てみたいなぁ
きっとドキドキできる
24.80コチドリ削除
今の所はクールビューティ静葉様とお東風谷ま早苗さん、な関係でしょうけど、
油断できぬ。この早苗さんは底が知れねぇ……
27.80ずわいがに削除
いいのです。許します。

儚いどころか枯れることを知らなさそうなカプですなw
29.100名前が無い程度の能力削除
マイナーだな
超許す!