Coolier - 新生・東方創想話

ある魔法使いの選択

2010/04/22 20:45:24
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1.ある魔法使いの日記より抜粋

 私が魔法の研究を始めてから、どれ程の月日が流れただろうか。
 研究を始めたその理由はと問われれば、私は迷うことなく自身の知的好奇心を満たすためだと答えるだろう。
 だがしかし、その切っ掛けは何だったのかと聞かれれば――これに答えることは難しい。
 何故、魔法なんていうものに興味を持ったのか。それを私は覚えていないのだ。
 通りすがりの魔法使いに窮地を助けられたなんて、そんな劇的な出来事があったわけでもない。
 ある日突然魔法に興味を持つようになっていて、気が付けばいつのまにやら魔法使いになっていた。
 まあ、人生なんてものは得てしてそんなものだろう。
 特に深く気にするようなことでもない。
 それよりも問題だったのは、私の予想を遥かに超えた自身の好奇心の強さだ。
 魔法使いとなり、好奇心の赴くままに研究を始めた私だったが、いくら研究を続けても底が見えない。
 一つの研究が終わればまた別のテーマに興味を持ち、次の研究に取り掛かる――その繰り返しだ。
 それ自体は一向に構わない。退屈するよりは遥かにマシだ。
 けれど、ある日ふと気づいてしまった。
 もし、私の命が尽きるまでに、その好奇心を満たすことが出来なかったら?
 一度考え始めると、それが恐ろしくてたまらなかった。
 私は、ただ自分が満足するまで研究を続けたかったのだ。
 その願いを叶えることは、実はそれほど難しいものではない。
 捨虫の魔法、これは自身を不老とするための魔法であり、魔法使いにとっては最もよく知れた魔法の一つでもある。
 しかし、私はそれ使わなかった。
 その魔法を使えないわけではない。実行しようと思えば、今すぐにでもその魔法を行使することは出来る。
 それでも私はその魔法を使わなかった――いや、使いたくなかったのだ。
 森羅万象、全てのものに時は等しく流れ、移ろい、果てていく。
 それこそが最も自然な姿であり、そこにこそこの世界の美しさはあるのだと私は思う。
 捨虫の魔法を使い不老となることは、その輪から自分ひとりだけ外れてしまうようで、どうにも好かない。
 魔法使いなんて十分に人の道から外れているのかもしれないが、それでも私は移り行く季節の中を共に歩んで行きたいと、そう思ったのだ。
 それゆえに、私は捨虫の魔法以外の選択肢を探さなければならなかった。
 そうしてその研究を始めてから数十年、ようやく魔法は完成した。
 実行後の経過を確認できない事だけが唯一の懸念事項だが、これはその魔法の特性上、致し方ないだろう。
 この研究のせいで他の研究が出来なかったというのもとんだ笑い話だが、これからはそんな心配をする必要も無い。
 なにしろ、時間は無限に用意されているのだから。
 そう、何も問題はない。
 私は誇ろう、自分自身のなしたことを。
 私の選んだ『選択』を――。
 





2.『文々。新聞 第124季 卯月の一』より抜粋

 人里で人気の人形遣い、その真の目的とは?

 縁日などでの人形劇で人気を博しているアリス・マーガトロイド(魔法使い)だが、彼女は何故そこまで人形に拘るのか。
 自立人形作成のためということだが、人形劇の観客からは「まるで生きているように見える」と既に研究が完成している
 のではないかという声も――


(中略)

 ――前回は明らかに出来なかった彼女の研究について迫るべく、我々は再び彼女の家を訪問した。


 ――前回中途半端になってしまった研究内容について詳しくお聞きしたいのですが。

『そう、別に構わないわよ 』

 ――今回はあっさり答えてくれるのですね。

『……そりゃね。
 無理に追い返してあること無いこと適当に書かれるよりは、インタビューに応じて真っ当な記事を書いてもらった方が幾分ましだと思うだけよ。
 別に研究テーマ自体は隠すようなものでもないし 』

 ――文々。新聞に書かれているのは真実だけです。

『あんな記事を書いておいてよくもそんなことを……まあ、いいわ。
 それで、なんだったかしら。あぁ、私の研究についてだったわね。
 前にも話したけど、私のしている研究は一言で言えば自立人形の作成よ。
 文字通り、自分で考え、自分で動く人形を作ること。それが私の研究テーマ 』

 ――人形劇を見ている人々からは、既に完成しているのではないかという声もありますが?

『いいえ、今の人形達は自分で動いているわけではないの。あれは全部私が操作しているのよ。
 勿論、その動作の全てを私が制御しているわけじゃないわ。
 ある程度まとまった一連の動きを予め人形達に記憶させておいて、それを私の命令に従って実行しているだけ。
 その方法と技術に関しては何処に出しても恥ずかしくないものだと自負しているけど、とても自立人形とは呼べるものではないわ 』

 ――そういえば、自分で動く人形が太陽の畑にいましたね。

『あぁ、メディスンのことね。
 勿論、既に調査済みよ。
 彼女の場合、元々は普通の人形だったけれど魂が宿って自立に至った――つまり、所謂『付喪神』というもののようね。
 それと同様の方法でのアプローチも試みてはいるわ。
 人の形を模したモノには魂が宿る……。
 誰が言っていたかは忘れたけど、それは自立人形に対する一つの解答と言えるでしょうね。
 人形に自らの手で生命を宿らせる、それが私の研究の行く着くところなのかもしれない 』

 ――なんだか、まるで神様のようですね?

『ふふっ、今更それくらいで怖気づいたりはしないわ。
 私は魔法使い、神をも恐れぬ知の探究者だもの。
 けど、おかしいわね。
 神様って言っても全然大層な感じがしないわ。理由はわからないけど。うん、まったく。
 でも――確かにそうなのかもしれない。
 私はそうすることで、少しでも神様に――神様の視点に近づきたいのかもしれないわ。
 ……っと、話がそれたわね。
 まあ、そんな方法の研究もしているわ 』

 ――魔法で魂を操るなんてことが可能なんでしょうか?

『そうね、残念ながら現時点では無理だと言わざるを得ないわ。
 けど、魂に干渉すること、制御すること――それ自体はいつか可能になると思うわ。
 根拠? 根拠ねぇ……。あなたは蓬莱の薬って知っているかしら?
 そう、あの伝説の不老不死の薬ね。
 私見だけど、あれは薬というよりはある種の魔法に近いんじゃないかと思うの。
 蓬莱人はたとえ肉体が消滅したとしても、破壊される前の姿へと完全に再生されるわ。
 あれはね、肉体ではなく魂を核として再生しているからなんじゃないかって、そう考えているのよ。
 つまり、蓬莱の薬によって変化するのは肉体ではなく魂の方。
 魂に作用するから、その在り方が違う妖怪が飲んでも効果が出ない。
 蓬莱の薬は魂に作用する魔法の先駆けかもしれないってわけ。
 だからサンプルとして是非欲しかったのだけど、今はもう薬自体はないようね。
 うーん、やっぱり調査してみたいわ。
 もう一回作ってくれないかしら? 』

 このように彼女は語っている。彼女の研究については明らかになったが、それが実現した場合それは人形と呼べるのか?
 付喪神とどのように違うのか? など、まだまだ興味は尽きない。今後も――
(以下省略)







3.『文々。新聞 第124季 長月の一』より抜粋

 動かない大図書館が動かない理由[ワケ]

 『動かない大図書館』との異名を持つパチュリー・ノーレッジ(魔女)だが、最近では住居である紅魔館以外での目撃証言
 が後を絶たない。目撃した人々の間では『何かの前触れでは?』など不安の声も上がっている。そこで今回我々は、その噂
 の張本人に直接インタビューを試みた。

 ――こんにちは、いつも清く正しい射命丸です。

『……また来たのね。今日は一体何のようかしら? 』

 ――最近、外で活動することが多いようですが、何か理由があるのでしょうか?

『……別に、たまたま用事が重なっただけ。
 今はこうして図書館にいるでしょう? 』

 ――そもそも、どうして普段は図書館に引き篭もっているのでしょうか。図書館で何をしているのですか?

『あなたにはサッカーでもしているように見えるのかしら 』

 ――……本を読んでいるように見えますが。

『えぇ、そう、読書をしているわね。それでわかったかしら? 』

 ――いえ、そうではなく。そうする意味を聞いているのです。

『成程、つまりそうする理由、目的が聞きたいのね。……そんな事が記事になるのかしら。
 まあ、端的に言えばこうして本を読んで『知識を集めること』が目的ね。
 そうやって自分自身の知的探究心を満たすこと。
 ただそれだけが私の望むことであり、魔法使いとしての誇りでもある 』

 ――膨大な数の本があるようにお見受けしますが、読みきれるのものなんでしょうか?

『そうね、たとえば――そう、魔理沙のような普通の人間には無理でしょうね。
 ご覧の通り、この大図書館だけでもその蔵書の数は計り知れないわ。
 その上、本は今こうしている間にもどんどん増え続けているのだもの。
 とてもその短い一生の間には読みきることは出来ないでしょうね。
 でも――勿論、私は違うわ。
 捨虫の魔法。あなたも名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないかしら。
 その魔法を使うことによって私は長命を得ている。
 私は確かに魔法使いだけど、魔法使いという種族は別に長命でもなんでもない。
 基本的には普通の人間と同じよ。えぇ、まったく。
 違いがあるとすれば生まれつき魔力が強いとか、その程度の事ね。
 不老であるということは後天的なものよ。
 捨虫の魔法なんて使わないで、さっさと死んでしまうような魔法使いだって中にはいるわ。
 勿論、逆の場合だってある。
 人間が捨食の魔法を使い、その後捨虫の魔法を使えば魔法使いの場合と同等の効果を得ることが出来るわ。
 そうなれば、それは人間ではなく立派な魔法使いね。
 確か、アリスなんかはそうだったんじゃないかしら 』

 ――そんなにぽんぽんと魔法使いが増えても構わないのですか?

『別に構わないわ。同じ種族だからといって仲間意識なんかはないもの。
 それに、捨虫の魔法もすぐに会得できるような簡単な魔法ではないの。自力で習得しようと思ったら相当な時間を必要とするでしょうね。
 むしろ私としては、人間のように死んで行く魔法使いという種族のほうに疑問を抱くわ。
 長命を得るというのはあくまで研究のため、自分自身の好奇心を満たすための手段であって、目的ではない。
 それを実行しないということは、それは探求し続けることを放棄したということ。
 魔法使いとは魔法に魅入られ、その研究を続ける者よ。
 果たして探求を止めた者を魔法使いと呼ぶべきなのか――そっちの方が疑問ね。
 ふふ、最初に言ったでしょう?
 知的探究心を満たすことが私の望みであり、誇りである、と 』

 ――では、仮に捨虫の魔法がなかったらどうなるのでしょう?

『そうね、その場合は――矢張り、それでも探求を続ける者を、それ以外の道を模索し続ける者こそを『魔法使い』と呼ぶべきでしょうね。
 捨虫の魔法が確立される前は、その他にも色々な方法が研究されていたようだし。
 若返りの魔法をかけ続けるとか、中には転生魔法なんてものを研究していた者もいたみたい 』

 ――成功した事例があるのですか?

『いえ、成功したという話は聞かないわね。
 まあ、使うのは一度きりだし、捨虫の魔法や若返りの魔法と違って目に見えてわかるものでもないしね。
 たとえ成功者がいたとしても、誰も気づかないんじゃないかしら。
 是非曲直庁を通さずに、対象を自ら選定し直接行えば発見するのは難しいでしょうね 』

 ――それは、貴女の場合も同じでしょうか?

『私? 私だったらどうするのか?
 そんなこと、決まっているでしょう?
 勿論、諦めるはずがないわ。
 きっとどんな手を使ってでも、研究を続けるための方法を探し出すわ。
 そして、それを迷う事無く実行するでしょうね。たとえそれがどんな方法であったとしても。
 だって、私は魔法使い――パチュリー・ノーレッジですもの 』

 そう彼女は述べている。やはり彼女はその二つ名が示す通り図書館にいることが常であり、今回のように外出することは
 イレギュラーな――
(以下省略)







4.『文々。新聞 第122季 如月の二』より抜粋

 御阿礼の子、その神秘に迫る。

 幻想郷縁起が完成したというニュースは記憶に新しい。その内容は広く公開されており、既に目を通された方も多いのではないだろうか。
 編纂は尚も続いているということだが、大結界成立後としては初の幻想郷縁起ということもあり、その期待は高まるばかりである。
 そこで今回はその著者である御阿礼の子に注目し、今代の御阿礼の子である稗田阿求(人間)に取材をお願いしたところ、直接インタビュー
 をする機会を得ることが出来た。


 ――それでは、宜しくお願いします。

『わわ、本当にやるんですか。
 なんだか緊張してしまいますね 』

 ――なんだか楽しそうですね。

『そんな風に見えますか?
 はい、実はインタビューというものを一度受けてみたくて。
 ほら、前に一度だけ私の記事を書かれたことがあるじゃないですか。
 あれも記念にとってあるんですよ。
 でも、あの時はインタビューはありませんでしたし……。当たり前ですけど 』

 ――そう言って頂けると有難いですね。どうにも非協力的な方が多くて……。

『……はぁ、そうなんですか。
 私は全然構いませんよ。何でも聞いて下さい 』

 ――それではまず、転生についてお聞きしたいのですが。

『そうですねぇ……。
 実の所、転生前の記憶というのは殆ど残っていないのです。
 残っているのは、幻想郷縁起に関する一部だけ。
 勿論それだけということはありませんが、大抵の記憶は転生の際に失われてしまうようです。
 ああでも、時々ふっと転生以前の記憶が蘇ることもありますね。
 そんな時は、まるで覗き見もしているような、そんなこそばゆい感じがします。
 何しろ、それまで自分の知らなかった光景が突然頭に浮かぶわけですから、少し混乱もしてしまいますね。
 いえ、御阿礼の子としての自覚――つまり、阿礼の生まれ変わりだということは理解しています。
 何というのでしょうか。記憶は余り残っていませんが、感覚として残っているのですね 』

 ――それは、たとえば使命感のような?

『そうですね、幻想郷縁起に関してはそれに近いような感覚かもしれません。
 意思、とでも言えばいいのでしょうか。
 そんなものを強く感じることがあります。
 ……上手く言えなくてすいません 』

 ――そういった点は、環境による影響も大きいと思われますが。

『うーん、それは無いとは言えませんね。
 特に私の場合、生まれた時から周囲に御阿礼の子として認識されていましたし、これまでもそのように育てられました。
 もしそうでなかったのなら、もう少し違った性格になっていたかもしれません 』

 ――以前とは違った点もあるのですか?

『はい、やっぱり転生前と比べて変わった所も多くあると思います。
 私なんか、最近は紅茶に凝ってるんですよ。
 幻想郷ではなかなか手に入りませんが、あの芳醇な香りが好きで仕方ないのです。
 以前の『私』はそんなことは無かったのですが……。これも変わった所の一つですね。
 でも根本となる部分、……つまり幻想郷縁起のことですね。
 それだけは、変わらないと思い――いえ、実感しています。
 だって今もその志は、変わらず私の胸にあるのですから 』

 そう彼女は語った。転生というものについては実際にしたことがないので理解できない点も多々――
(以下省略)







5.香霖堂にて

 よう香霖、遊びに来てやったぜ!
 ……ん、何を読んでいるんだ?
 天狗の新聞に……日記? しかし随分古い日記だな。
 へぇ、アリス達の記事か。
 なんとも詰まらなそうな新聞だな。
 え、私はなんの研究をしているのかって?
 ……いや、特に決まったテーマはないなぁ。
 何か大それた目的があるわけでもない。
 ただ好奇心の趣くままに、好きな事を研究しているだけだぜ。
 それじゃあ、なんで魔法に興味を持ったのか?
 そうだな。私が魔法に興味をもったのは――はて、なんでだっけ?
 んー……?
 おかしいな、思い当たる理由が無い。
 切っ掛けがなんだったか……。よく覚えてないな。
 あそこには魔法の道具みたいな物もないし、これといった出来事も記憶にはないな。
 なんだろう、ある日突然魔法に興味が沸いてきたような――そんな感じだな。
 まあ、そんなのどうだっていいだろう? 大切なのは今だぜ。
 自分で言うのも何だが、好奇心が強いのは今も昔も変わらない。
 きっと魔道書の類でも見て興味をもったんだろう。
 捨虫の魔法?
 いや、今のところは考えてないぜ。
 あれは何となく好かないし、別に選択肢がそれだけとは限らないだろう?
 もしもそれが必要になる時が来たら、その時に改めて考えるだけだ。
 私らしい、自分だけの『選択』を――。
 ……ん?
 どうしたんだ香霖、そんなに青い顔をして……。











 ――果たして、『選択』をしたのは『誰』だったのか













その渇き、満ちる事無く
負け猫亭
[email protected]
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コメント



0.910簡易評価
1.50名前が無い程度の能力削除
人間が捨食の魔法を使うと魔法使いになるだけで不老には足りませんですよ
不老になるにはきちんと捨虫が必要となります。
さしあたりお知らせ。
4.無評価負け猫亭削除
>1さん
指摘、ありがとうございます。
早速反映させていただきました。
5.70名前が無い程度の能力削除
つまるところ、パチェの言った転生魔法型が魔理沙だと言う事でいいのかしらん?
9.80名前が無い程度の能力削除
無限ループって怖くない?
19.80ずわいがに削除
ん、これは「初めの日記は全員に当てはまる」ってことなのでしょうか?なんかあんまちゃんと読み解けた自信がありません;w
しかし魔法使いたちの考察は面白かったですねぇ