Coolier - 新生・東方創想話

増えたフランドールと二匹のクマちゃん人形

2010/04/22 00:22:35
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「実は妹様が6万5536人に増えたんですよ」

紅魔館の門番、紅美鈴は僕の店に来るなりそんな事を言った。

「そうかい。出口はあっちだよ」

今日は一日ずっと曇り空で憂鬱な気分だなと思っていたらこれだ。

「ほら、妹様のスペルカードで『フォーオブアカインド』ってあるじゃないですか」

僕の言葉はさらりとスルーされてしまった。

「そのスペルカードで妹様が4人に分身するんです。それでその4人がまた同じことをやって」
「……やりすぎたわけか」

それを繰り返す事で6万5536人のフランドールが誕生したわけである。

「はい。それで16人に増えたくらいまでは面白いですねーでよかったんですが」

16人のフランドール。それだけでも結構壮絶な絵面だ。

「16人が4倍したら64人ですよ? それの4倍で256人……」
「止める誰かはいなかったのかい」
「そりゃあ止めましたよ。でも右も左も上も下も妹様妹様。そんな状況で私の声が届くと思いますか?」

部屋中に一杯のフランドール。とても色彩鮮やかそうである。

「そして256人が1024人……妹様の部屋に入りきらなくなった妹様が部屋からあふれ出して……」

むしろその人数になるまでは部屋に入りきれた事に驚くべきなんだろうか。

「もうこうなると諦めの境地ですね。ただ見ていることしか出来ませんでした。紅魔館の門番が何てザマでしょう」

はっ、と自虐気味に美鈴は笑う。

「……そもそも何でそんな事になったんだい?」

尋ねると美鈴は露骨に目線を逸らした。

「えー、まあ、その、なんといいいますかですね」
「うん」
「……ただの思い付きだったんですよ。妹様ってどれだけ増えられるんですかーって」
「という事は君の自業自得だと」

しかもフォロー出来る要素が何一つ存在しなかった。

「ああ、今日はとてもいい曇り空ですね。吸血鬼が昼でもちゃんと力を発揮出来そうなくらいです。その大量の妹様がここにやってきたら一体どうなってしまうでしょう」
「……事情はわかったけれど、僕にどうしろというんだい」
「はい。この店ならばなんとか出来る道具のひとつやふたつあるかと思いまして」
「ふむ」

彼女は意外と僕の事を高く評価してくれているのだろうか。

頼られているのだからそこは何とかしてやりたいところだ。

6万5536人のフランドール事件を解決した香霖堂。

天狗の新聞あたりに載ればたちまち評判になりそうだ。

「いくつか候補を出してみるよ。ちょっと待っててくれ」
「ありがとうございます! 助かります」

僕は倉庫に向かい、道具を探すことにした。

「フランドールか……」

歩きながら僕は彼女が始めて店に来た時の事を思い出していた。






カランカラン。

ドアベルの音が聞こえる。また霊夢か魔理沙だろうと思い僕は読んでいた本のページをめくった。

「……ん?」

めくったページを読み終えたあたりで妙な事に気がついた。

ドアベルが鳴ったのに、誰も入ってこないのだ。

妖精の悪戯だろうか。

本を閉じ、入り口のほうを眺める。

「……」

宵闇の中、少女が体半分だけ覗かせ、こちらをじっと見つめていた。

「うん?」

そこでようやく気付く。外はもう夜だったのだ。

本を読むときは灯りをつけたままにしておくからまるで気付かなかった。

「こんな時間に子供が一人でか」

まあ妖怪の本来の活動時間は夜だ。おかしい事でもないか。

「いらっしゃい。お客さんかい」

背中に生えた羽を見て変わった形をしているなと思いながら僕は尋ねた。

「ここ、お店?」

尋ね返してくる。

「そうだよ。ここは香霖堂。色んなものを取り扱っている」
「面白いものある?」
「……君が何が面白いと思うかわからないけど、中に入って見てみるといい」
「そうする」

ひょこひょこと中に入ってくる彼女。

「わぁ」

棚に置かれたものを見て瞳をきらきらと輝かせ、感嘆の声を漏らす。

僕は彼女を見て子供の頃の魔理沙を思い出した。

「気になるものがあったら手にとってみるといい。説明してあげよう」
「うん」

ぱたぱたと慌しくあちらこちらを眺める彼女。

「なぁにこれ」
「それは携帯電話だね。離れたところにいる相手と連絡の取れる道具だ」
「へえ、そんなのあるんだ」

ぱかぱかと携帯電話を開いたり閉じたりしている。

「残念ながら動かないんだがね」
「なんだ、つまんないの」
「おっと」

ぽいと投げ捨てられたそれを僕は慌てて受け止めた。

「一応売り物だから丁寧に扱ってくれると嬉しいな」
「丁寧に?」

ばきっ。

「あー……」

言うなり手に取った別の携帯電話が真っ二つに折れてしまった。

曲げてはいけない方向に曲げてしまったんだろう。

使い古されてかなりボロボロになってしまっているものもあるのだ。

「こうしちゃ駄目なの?」
「うん、駄目なんだよ」

まあひとつ位は仕方ないだろう。子供のやることに腹を立ててはいけない。

「ん、わかった。ごめんね」
「……」

本当にわかってくれたんだろうか。心配である。

「ねぇ、可愛いものないかなぁ」
「可愛いもの……ねぇ」

少女が可愛いと思うようなものは僕にはよくわからなかった。

魔理沙や霊夢もそういうところではあまり参考にならない。

「ん、そうだ」

ひとつ思いついたものがあり、それを引っ張り出してくることにした。

「ちょっと待っててくれ」
「うん」

倉庫へ向かい、それを持ってすぐに引き返す。

「これなんかどうだろう」

それはちょうど抱きしめられるサイズのクマのぬいぐるみだった。

「わぁ、可愛い!」

満面の笑顔でぬいぐるみに抱きつく少女。

やはり子供はぬいぐるみが好きなようだ。

僕が最初見つけたときは色んな部分が破れたりしていたが、服を直す要領で繕ってやったものである。

「ねえ、これで足りる?」
「うん?」

彼女が僕に手のひらを向けてみせる。

その上にはぴかぴか光るコインがいっこ乗っかっていた。

「……」

僕は感動した。

ああ、この子はちゃんと代金を支払ってくれるというのか。

「十分だよ」

元々暇つぶしに直したものなのだ。

おもちゃのコインだって十分すぎるくらいである。

僕はコインを受け取り、懐に仕舞おうとして。

「……金貨?」

その材質に気付いた。

「どうしたの? やっぱり足りない?」
「いや……」

むしろ多すぎるくらいだ。

金貨なんて僕の生きてきた中でも数えるくらいしか見たことがない。

「これは返そう」

そう言って彼女に手渡そうとした。

「でも、ここお店なんでしょう?」
「ん、ああ」
「お店だったらお買い物したらお金を払わないと」

彼女の言葉を霊夢や魔理沙に聞かせてやりたい。

「そうでしょう?」
「……っ」

目頭が熱くなってきた。

まさかこんな少女に教えられるとは。

商品を売り、報酬を得る。

そう、これが商売の基本なのだ。

「そうだよ、君は何も間違っていない」

間違っているはずがないじゃないか。

「でもこれじゃ多すぎるんだ。お釣りに出すお金に困るくらいに」
「いいよ別に。あげる」
「むう」

彼女に金の価値を説明するのは難しそうだった。

「……じゃあこうしよう。君がまた来たら、その時は気に入ったものをタダであげようじゃないか」
「え? いいの?」
「構わないさ。また気が向いたら遊びに来てくれ」

その時の為にいくつか用意をしておこう。

「ありがとう!」

満面の笑顔。

ああ、心が癒されていく。

「じゃあ、私そろそろ帰るね」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「なぁに?」

彼女がまた来た時の為に、名前くらいは聞いておいたほうがいいだろう。

「僕は森近霖之助。君は?」
「私? 私はフランドール」
「ありがとうフランドール。覚えておくよ」
「うん。じゃあね! ばいばい」

フランドールはぶんぶん手を振ってそれから宵闇の中へと消えていった。

「フランドールか……」

どこかで聞いたことがある気がするけれど、何だったかな。

まあ、そのうち思い出すだろう。

僕はさほど気にせずに、本の続きを読むべく店の中へと戻るのであった。







「……」

倉庫の中に置かれたままのフランドール用に用意した道具。

あれから彼女が店に訪れる事はなかった。

情けない話であるが、フランドールがレミリアの妹である事に気付いたのは彼女に会ってしばらくしてからの話である。

魔理沙や霊夢に最初聞いていた話とあまりに印象が違ったからだ。

凶悪で破壊的な奴、という話だったのだがそんな印象はまるで無かった。

おまけに彼女は495年も生きているという。

僕は彼女を子ども扱いしてしまったが、彼女は遥かに僕より年上だったのだ。

といっても彼女は精神的にあまりにも幼すぎる。

憶測ではあるが、彼女の生きてきた4百数十年はほとんど活動しておらず、最近になって初めて活動を始めたのではないだろうか。

「……これは止めておこう」

分身とはいえ、彼女を無理やりどうこうするのは抵抗がある。

手に取った紫外線照射装置を元の場所に戻し、美鈴にもう少し詳しく話を聞いてみることにした。

他に何かしら解決方法があるはずなのだ。






「よう香霖。何か面倒ごとに巻き込まれてるみたいだな」

戻った僕を迎えたのは魔理沙だった。

「だいたいの話はこいつから聞いた。フランが増えたんだって?」
「そう。6万5536人にね」
「香霖に頼まなくても私だって解決できるぜそれくらい」
「へえ?」

魔理沙はどうやって解決するつもりなんだろうか。

「全員並べてマスタースパークでピチューンってな」

流石は魔理沙。弾幕はパワーだと言うだけの事はある。

「ちょっとー! そんな事したらレミリアお嬢様に怒られるでしょ!」

美鈴は慌てた様子だった。

「本物だったら死にやしないだろう。最後に残ったのが本物って寸法さ」
「だいたい全員が全員妹様と同じ能力なのよ! 素直に当たるわけないじゃない」
「んー、じゃあ全員で湖に入水とか……」
「レミングじゃないんだから」

美鈴は呆れた顔をしていた。

「で、店主さん。何かいいアイテムはありました?」
「ん、ああ……」

僕は紫外線照射装置を持ってこないでよかったなと思った。

発想が今の魔理沙と同レベルである。

「そのフォーオブアカインドはスペルカードとして使っているんだろう?」
「ええ、そうです」
「なら時間が来れば効果が切れるんじゃないか?」

4人に増えるのはフランドール自身の能力であるが、スペルカードとして発動しているのなら、効果は有限のはずである。

「私だってそれくらい一番最初に考えましたよ」
「ということはまさか?」
「もちろん効果は切れます。ただ、減る間もなく増えてしまうだけでして」
「……ん?」

僕の頭にある仮説がよぎった。

もし、それが本当だとしたら。

だらだらと背中に嫌な汗が流れているのを感じる。

「ひとつ聞かせてくれ。フランドールが6万5536人になったっていうのはいつなんだい」
「私が紅魔館を出る時です。パチュリー様が確認したから間違いありません」
「そう、か……」

天井を仰ぐ。

「今、君が店に来てからどれくらい経ったかな」
「さあ……結構経ってるんじゃないでしょうか」

それは僕が倉庫であれこれ探したり、考え事をしていたりしたせいである。

何故もっとこの可能性に気付かなかったのか。

みしみし、がたんと店の壁が軋む音が聞こえた気がした。

「もし……もしもだ。6万5536人がさらに4倍に増えたらどうなると思う?」

誰にも言わずにここに来たのだとしたら、今頃紅魔館は大変な事になっているんじゃないだろうか。

「だ、大丈夫ですよ。レミリアお嬢様に報告してありますし。妹様が増えましたって」
「それで何て?」
「お嬢様が妹様にきちんと警告してくれました。増えるんじゃないわよ。絶対に増えるんじゃないわよ。絶対に絶対よって」
「なあ、香霖……」

魔理沙も気付いたようだ。

「ひとつ、いい事を教えてあげよう。いや、悪い事か」
「何?」
「外の世界でその『やるなよ! 絶対にやるなよ! 絶対に絶対やるなよ!』というのはやれというサインなんだよ」

外の木々がざわめく音が聞こえる。

「うわっ!」

魔理沙が叫び声をあげた。

視線の先。

窓の外に写る何者かの影。

「6万5536人が4倍で26万2144人。さらに4倍で104万8576人。そのさらに……」
「ま、まさか。冗談でしょう?」
「冗談ならばいいんだけれどね……」

419万4304人がさらに4倍で1677万7216人。

ついに1千万の大台を超えた。

さらに4倍で6710万8864人……

「今やもう、幻想郷がフランドールで埋め尽くされているかもしれない」

この香霖堂が崩れるのももはや時間の問題か。

フランドールの気の済むまでそれは続くだろう。

「だ、だって、私、そんなつもりじゃ……」

青ざめた顔の美鈴。

もはや彼女でどうにか出来るものではない。

「……」

静寂が店の中を支配する。


カランカラン。


それを破壊するドアベルの音。

「!」

魔理沙が八卦炉を向ける。

しかしそこにいたのはフランドールではなく。

「咲夜さん!」

紅魔館の完全で瀟洒な従者がそこに立っていた。

「迎えに来たわよ美鈴」
「さ、咲夜さん。あの、妹様は一体どうなって」
「まさか1億とかに増えてないよな?」

魔理沙の言葉を聞いてにこりと笑う咲夜。

「ご安心下さい。妹様はもう増えていません」
「……ほんとか?」
「ええ。私が妹様の時を止めましたから。104万8576人の時点で」

それでも104万か。頭の痛い数字である。

「よく本物のフランを見つけ出せたな」
「従者ですから」
「流石咲夜さん!」

このメイド、どこまでパーフェクトなんだろうか。

「美鈴」
「は、はいっ」

表情を強張らせる美鈴。

これから紅魔館に戻ったら彼女にはきついおしおきが待っているだろう。

「レミリアお嬢様からの伝言よ。よくやったわ美鈴ってね」

美鈴は目をぱちくりさせていた。

「ど、どういうことなんですか?」
「普通ここは怒るべきところじゃないのか?」

僕も今の言葉は予想外だった。

「いえ、分身はパチュリー様の魔法でなんとかしましたから」
「すると分身は全部消えたのか」

さすがは紅魔館の誇る魔女。

「いいえ?」
「……どういうことなんだい」

状況がよくわからなかった。

「見たほうが理解が早いと思いますわ」

そう言って咲夜は入り口のほうを向いた。

「妹様、おいでください」
「「「「「「はーい!」」」」」

すると店の中に1、2、3……7人のフランドールが入ってきた。

「こりゃ壮観だな……」

全く同じ容姿の少女が7人。

「パチュリー様の魔法で分身を固定化して貰ったんです。もちろん本人とは切り離してありますので何があっても本人に影響はありません」
「……固定化?」
「はい」

頷く咲夜。

「それはもしかして……スペルカードの制限をとっぱらったと、そういうことかい」
「その通りです」

フランドールの力は幻想郷でもトップクラスだろう。

その軍勢が104万も?

レミリアがよくやったわ美鈴と言ったのはまさか。

「紅魔館の幻想郷征服計画か!」
「何を言っているのかわかりませんわ」

咲夜が首をかしげていた。

「パチュリー様の調査の結果あることが判明したんです」
「何だい?」
「分身しすぎたせいで分身の妹様一体一体の能力が非常に低下しているんですよ」
「ええええ!」

美鈴が叫ぶ。

「104万にも増えたらそうなるかもしれないな……」
「分身妹様はただの人間並みの身体能力になっています。飛べますが」

つまり飛べるだけでそれ以外は何の強みも無い状態ということである。

「妹様!」

がばっと傍のフランドールに抱きつく美鈴。

「え、何、めーりん」
「すいません、私のせいで……」
「よくわからないけど、めーりんは悪くないよ?」
「い、妹様……」

フランドールはどこまでも無邪気だ。

分身を繰り返して増えたのも悪意があっての事ではないだろう。

「パチュリー様も万能ではありませんので、残った分身は1万人程度です。本物の妹様も今は力を失っていますが、すぐに回復するでしょう」

何故そんなことをしたのだろうか。

力を失った分身を固定化してわざわざ残す理由がわからなかった。

「……固定化したフランドールはどうするんだい?」
「幻想郷にはいくつか勢力がありますから、そこで幾名かづつの妹様を養って貰えるかどうか交渉中とのことです」
「交渉中……ね」
「香霖堂にも如何ですか? 一家に一人、妹様」

そんな家庭用品のような言われ方をされても困る。

「妹様は見ての通りの容姿ですし、とても愛らしいですわ」
「咲夜、私可愛い?」
「ええ、とても」
「えへへー」

確かにこうやって笑う姿は可愛らしい。

「ねえ、咲夜、私は?」
「私は?」
「かわいい? 私かわいい?」
「はい。とても可愛いらしうございます」
「やったー!」
「わーい!」
「咲夜大好きー!」

各々によって若干反応が違うのが面白い。

「と、このように愛らしい妹様の素晴らしさを皆に知って貰おうという、お嬢様の考えなのです」
「ううん」

何か色々とおかしい気がする。

「あー、一人くらいならウチでも養えそうだな」

するとやり取りを見ていた魔理沙がそんな事を言った。

「そうですか? 助かります」
「魔理沙の家に行っていいの? わー、楽しそうー!」

さっそくとばかりに分身フランドールが魔理沙に抱きついていった。

「ウチは汚いからな、あんまり期待するんじゃないぜ」

まんざらでもないような顔をしている。

魔理沙の情操教育には案外いいかもしれないなと僕は思った。

「ええと、本当に大丈夫なんですか?」

美鈴が尋ねる。

「ええ、何も問題ないわ。さあ、帰りましょう。妹様も待っているわ」
「は、はい!」
「それでは失礼いたします」
「ご迷惑おかけしました」
「ああ、うん」

咲夜と美鈴、フランドールご一行は去っていった。

結局僕は何もしていないのだけれど、事件が解決してしまったようだ。

「んじゃあフランA、家に行くか、またな香霖」
「はーい」

魔理沙もフランドールを連れて去っていく。

さり気に酷い呼び方だったが大丈夫だろうか。

「まあ、いいか……」

多分上手くまとまったんだろう。

そう思うことにした。

だが、この事件は終わりではなかったのだ。

これは始まりにしか過ぎなかったのである。






「号外ー号外だよー」

天狗の新聞。

僕は表紙にでかでかと書かれた文字に目を奪われた。





『幻想郷でフランちゃん大ブーム!』







最初は何を言ってるんだこの吸血鬼と思いながら渋々引き受けたんですが……これが実に愛らしくてですね。

ウドンゲも妹が出来たようで嬉しいと言っていますし、てゐも悪戯仲間として喜んでいます。

ああ、姫様にもフランちゃんを一人提供しました。フランちゃんの前だと妙に張り切って家事を手伝ってりしています。

本当に引き受けてよかったです。フランちゃんのおかげです!

○E・Yさん



ええ、それはもちろん一番は橙ですよ。ですが橙の情操教育によいと思いまして。

それで引き受けたんです。正解でした。橙ったら妙にお姉さんぶってそこがまた可愛らしく……

え? あ、はい。フランちゃんの話ですね。フランちゃんは紫様にも可愛がられています。昨日なんか一緒の布団で寝たみたいですよ?

呼ばれ方が大層気に入ったみたいでして。とにかく新しい家族が増えたという感じで毎日楽しく生活しています。

フランちゃんのおかげです!

○R・Yさん


最初はまた幽々子様が気まぐれでと思ったんですけれど。びっくりしましたよ。

あの幽々子様が自分のお菓子を与えたんですよ? あの幽々子様が。

信じられません。でもあんなおねだりのされ方をしたら無理もないと思います。

私も寂しくて眠れないと部屋に来た時はこう……はっ!

まだまだ修行が足りませんね。ですが最近修行も楽しいんです。

やっぱり後ろで応援されるとやる気が出ますよ。

フランちゃんのおかげです!

○Y・Kさん



うにゅ? インタビュー? フランちゃん? フランちゃんは可愛いよね。

え、他に? うん、裏表が無くて可愛いってさとり様も言ってたよ。

私も仲間が増えて嬉しいな。本当は一緒に弾幕ごっこしたいんだけどそれは無理みたい。

こいし様とも一緒に遊んだりしてるし。お燐も地獄観光とかさせてあげてるみたいだね。

それから橋にいる……誰だっけ? なんとかって人もフランちゃんと一緒にいるのを見たことがあるよ。

こんなに可愛いなんて妬ましいわって頬をすりすりしてた。

仲がいいっていいことだよね。

これもフランちゃんのおかげだね!

○U・Rさん



あたい? 別にあたいは関心ないんだけど。上司がさ。

あの人あんな性格だから結構大変でね。やっぱりストレス溜まってるんだと思うんだ。

それがね、フランちゃんが来てからさ。笑顔が増えたね。いやもちろん仕事中はあの仏頂面なんだけど。

プライベートで? うん、充実してるんだと思う。今日の晩御飯はハンバーグですなんて上機嫌でさ。

おかげであたいも仕事がサボリやす…ごほんごほん。あ、これカットしといてね。

やっぱり上司が元気だと気分もいいって事さ。

これもフランちゃんのおかげだね!

○K・Oさん



総領娘様は始め弾幕ごっこの相手のつもりだったようです。だから最初はがっかりしていました。

しかし話しているうちにこう……なんといいますか母性愛が刺激されたようで。

今や昼も夜もフランちゃんにべったべたです。ええ、本当に楽しそうですよ。

総領娘様は退屈を嫌がっていましたが今は充実しているようです。

ここ最近であれだけ楽しそうな顔を見るのは久しぶりですよ。

これもフランちゃんのおかげです!

○I・Nさん



・その他たくさんのコメントを頂いておりますがいくつか簡潔に紹介いたします。




べ、別に寂しかったわけじゃないわよ。仕方なく……そう。仕方なくよ。なによ、その顔。だから違うって言ってるでしょ!

○A・Mさん


フランちゃんうふふ

○Y・Kさん


誠に愛らしく、感慨無量である!

○B・Hさん


あたいはさいきょーだけどフランもさいきょーだと思う。

○Cさん


そーなのかー。

○Rさん


そんな事より出番を下さい。

○匿名希望



「……なるほどね」

最後のほうがあまり関係なくなってきているが、気にしたらいけないんだろう。

新聞はフランちゃん特集がずっと続いた後に「まあ家のフランちゃんが一番可愛いんですけどね!」という言葉で締めくくられていた。

読み終えた僕は目の前の光景に意識を向ける。

「家のフランが一番可愛いに決まってるでしょ」
「何言ってるんだ霊夢、家のフランが一番だぜ」

互いに家のフランが一番だと言って聞かない霊夢と魔理沙。

どこもまあ、こんな感じなのだろう。

「やめて霊夢お姉様!」
「ケンカは駄目だよ魔理沙お姉様!」
「……フランがそう言うなら仕方ないわね」
「ああ、フランがそう言うなら仕方ないな」

このやり取りはパフォーマンスで、要するに二人はフランに「お姉様」と呼んで貰いたいだけなのである。

「すいませーん、フランちゃんグッズ入荷してますかー」

どうやらお客さんのようだ。

「香霖堂へようこそ。もちろん入荷しているよ」

紅魔館から委託販売しているフランちゃんグッズ一式。

売れ行きはそりゃあもう素晴らしく、ここ最近はずっと黒字続きである。

「早苗。アンタ自分のとこの神様の信仰はいいの?」
「信仰と可愛いものを愛でるのはまた別です! 諏訪子様もそう言ってました!」

今やどの家庭にも一人はフランドールがいるのではないだろうかというくらいである。

「ところでさっき面白い話をしていましたね。家のフランちゃんが一番可愛いに決まってますよ!」
「どうせ諏訪子の服でも着させてるんでしょ?」
「な、何故それを!」
「……それが可愛いかどうかは疑問だが……そうか、その手があったか」

ふふ、ふふふと怪しく笑う魔理沙。

「香霖! ウチのフラン用に私と同じ衣装を作ってくれ!」
「あ! ずるい! 霖之助さん! 私も!」
「構わないけれど、お代は払ってくれるんだろうね」

と僕は彼女らではなく、それぞれのフランドールに話しかける。

「君たちのお姉さんは代金を踏み倒したりしないよね?」
「するわけないよ! 霊夢お姉様は偉いんだもん!」
「魔理沙お姉様はちゃんと借りたものも返せる凄い人なんだから!」

きらきらとした眼差しで二人を見つめるフランドール。

「わかったわよ、払うわよ」
「……くっ、香霖もずるいぜ」
「毎度ありがとうございます」

純粋な者の前では悪さは出来ない。

天狗の新聞風にいうならこういうことだろう。

僕がちゃんとした収入が得られるようになったのも、フランちゃんのおかげです!

「それじゃあ頼んだわね。行くわよフラン」
「じゃあな香霖」
「あ、では私も。また新しいグッズが入荷したら買いに来ますので」

三人でそれぞれのフランドールの話で盛り上がったあと、満足げな顔をして去っていった。

外はもうすっかり日が暮れて真っ暗である。

「ふう」

そういえば外の世界でこういう格言があるそうだ。

『可愛いは正義』と。

「まさにその通りだな」

注文された衣装を縫いながら僕はそんな事を考えた。


カランカラン。


「ん」

来客を示す音。こんな時間に誰だろう。

「……こんばんわ」
「フランドール?」

そこにはフランドールが立っていた。

「どうしたんだい、迷子かい」

どこかの家のフランドールがはぐれてしまったんだろうか。

「私、本物」
「本物?」

本物という事は分身ではなく紅魔館の真フランドールということか。

「うん。信じてくれなかったらちょっと何か壊してみせるけど」

握った右手にぼわっと紅い弾が現れる。

「いやそんな事をしなくても信じるよ」

僕は慌てて彼女を止めた。

「……」

手を開き、弾が虚空へ消える。

「それで、一体どうしたんだい」
「……グッズが欲しいから、買いに来たの」

言葉の割にはぶすっとしたつまらなそうな表情。

「それは構わないけれど」

僕はフランドールお気に入りのクマちゃん人形を手渡してあげた。

以前彼女が買っていったものを真似て僕が作ったものである。

「何かあったのかい」
「……」

ぎゅっとクマちゃんを抱きしめたまま黙り込んでしまう。

「話したくなければ構わないよ。ちょっと待っててくれ」

奥からいくつかのお菓子を持ってくる。戻ってくるとフランドールは魔理沙のように壷の上に座っていた。

「気が向いたら食べていいよ」
「ん」

傍にお菓子を置いてやり、再び新聞に目を通す。

「フランちゃん大人気だって」

表紙の文字に気付いたようだ。

「ああ、魔理沙も霊夢も夢中みたいだね。他のみんなも」
「私じゃない私にね」
「……」

なんとなく、彼女の不機嫌な理由がわかった気がする。

確かに幻想郷でフランドールはちやほやされているが、それは決して本人ではない。

全く同じ姿の分身だけがもてやはされている状況は面白くはないだろう。

「誰にも言わないで来たのかい。今頃心配してるんじゃないかな」
「どうせ気付いてないよ。今の紅魔館には私が1000人くらいいるし」
「そりゃあ壮観だ」
「皆のところに預けたのとそれで全部なんだって」

残りの全ては幻想郷で誰かのところにいるということか。

「……」

彼女はまた黙り込んでしまった。

「……ああ、そうだ。少し待っていてくれ」

フランドールとの約束を思い出す。

今こそそれを果たすべきだろう。

「君に渡したいものがあるんだよ」

大急ぎで奥からそれを引っ張り出してくる。

「わぁぁ!」

曇っていたフランドールの表情が、ぱあっと明るく輝いた。

「おっきいクマちゃん!」
「ちょっと頑張って作ってみたんだ」

今まで扱っていたものと違い、このクマちゃんは特大サイズだ。

フランドールと並ぶとほんの少し小さいくらいの大きさである。

「抱きしめられる大きさもいいけど、こういうのもいいだろう」

流石に本物のクマと同じサイズは無理だったが。

そこまでいくとちょっと可愛くない気もするし。

「うん、すっごい可愛い!」
「いつかのお釣りの代わりにこれを渡すつもりだったんだ」

気に入ってくれたようでよかった。

「貰っていいの?」
「もちろんさ」

ぼふっとぬいぐるみに顔をうずめるフランドール。

「……ありがとう、お兄様」
「う、うん」

不意を突かれて思わずぐらりときた。

確かに霊夢や魔理沙が夢中になるのもわかる。

「でも……」

再びフランドールの顔が曇った。

「あんまり今は、帰りたくない」
「……分身がいるからかい?」

頷く。

「……お姉様が何を考えてるのかよくわかんないよ」
「うーん」

それは僕も気になるところだ。

フランドールはあのレミリアの妹である。

紅魔館の紅霧事件の一件でその情報は妖怪の間にあっという間に広まったらしい。

あの館にはレミリア以上のとんでもない奴がいるぞと。

実際の彼女を知らないで情報だけを知っていたらどう思うだろうか。

ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。

そんな能力を持つ彼女は。

「本当の私は怖がられてたのに」

そう、怖い。

悪い情報しか聞いていなければ、いい印象は抱かないだろう。

なら実際に接してみたら?

「僕は君は怖くはないと思う」
「そう? 本当に? 私、壊しちゃうよ?」

ぎろりと赤い目が輝いた。

「残念だけど商売柄、君より物騒な知り合いが多いんだよ」

八雲紫や、風見幽香。フランドールの姉であるレミリアだってそうだ。

「霊夢や魔理沙に店の一部を壊された事もあるし、彼女らの壊れた道具を治すのもしょっちゅうだ」
「……あの二人も物騒だと思う」

退治されたフランドールからすれば、そう思うのも無理はないかもしれない。

「まあ、細かい事は置いておこう。要はきっかけなんだよ」

そういう意味では僕は運が良かったんだと思う。

最初から彼女がフランドールだと気付いていたら、偏見の目を向けてしまっていたかもしれないからだ。

「初めて君に会った時も僕は子供っぽいなとは思ったけれど、怖いとは思わなかった」
「ほんとに?」
「嘘じゃないよ」

ありとあらゆるものを破壊する能力といってもそれはフランドールの一面でしか無い。

能力を使わず、普通に接する事だって彼女は出来るのだ。

「なんで自分が怖がられていたと思うんだい」
「だって……お姉様は私を怖がってたもん」
「怖がっていた? レミリアが?」
「だって、ずっと閉じ込めてたんだから」
「紅霧事件の前の事かい」
「いつからかはよく覚えてないけど、外に出してくれなかった」

当時の彼女がフランドールを外に出さなかった理由は僕にはわからない。

こうしてこの場所に彼女がいることからも、今はフランドールの好きにさせているようだ。

「……なんでみんな分身は可愛がるんだろ」
「元から好かれる要素はあったんだと思うよ」

分身とはいえフランドール。若干の違いはあれど性格にそこまでの差異はないはずだ。

ただ真フランドールと違うのは力があるか無いかだけで。

「……いや、だからこそか」
「何が?」

何故レミリアは分身のフランドールを皆に預けたのか。

咲夜が言っていたではないか。

フランドールお嬢様の可愛さを知ってもらうためです。

それはそのままの意味なのだ。

「フランドール。レミリアはね……」
「こんなところにいたんですか。探しましたよ妹様」

声のほうを向く。

「めーりん」

紅魔館の門番、紅美鈴が立っていた。

「帰りましょう。お嬢様も心配しておられます」
「アイツは私の事なんてどうでもいいと思ってるよ」

ぶすっとした表情で答えるフランドール。

「そんな事はないですよ」
「今日は大人しく従って帰ったらどうだい。美鈴も怒られてしまうかもしれない」
「……」

じっと僕と美鈴の顔を交互に見つめた後、諦めたように彼女は言った。

「帰る」
「そうかい」
「ご迷惑おかけしました」

ぺこりと頭を下げる美鈴。

「ここは店だからね。お客さんならいくら来たって迷惑じゃないさ」
「……また来てもいい?」
「構わないとも」
「ん」

フランドールが微笑んだ。

「じゃあ、また」

美鈴に僕のあげた大きなクマちゃん人形を担いで貰い、並んで帰って行くフランドール。

「……さてと」

彼女たちの姿が見えなくなったのを確認し、僕はフランドールが来た時から開いたままになっていた入り口に向けて声をかけた。

「レミリア、何か用かい」
「……」

蝙蝠が一匹店の中に飛んできて、レミリアの姿へと変化した。

「グッズの売上を確認しにきたのよ」
「おかげで順調に売れているよ」

答えるとレミリアは当然だろうという顔をした。

「そりゃあ私の妹は可愛いもの。売れて当たり前じゃない」
「そうだね」

レミリアは僕に背中を向け、フランちゃんグッズをいじりはじめた。

「あれこれ考えるのは自由だけど、フランドールには言わないでね。貴方の勝手な想像を」
「あの子には何も言わないよ」

僕が言うべき事ではなく、彼女が気付いてこそ意味があることだろう。

「……正直、過保護すぎたところはあったんだと思うわ。だから好きにさせてあげようかと思って」
「その為に、土台を作ったと?」

ぱたぱたと背中の羽が揺れ動く。

「たまたまそうなるだけよ。だってそうでしょう。今回の事は美鈴の思いつきで始まった事なんだから」
「もしも失敗したら、全部自分が責任を引っかぶるつもりだったんじゃないかな君は」
「失敗なんて有り得ないわよ。私の妹は可愛いもの」

くるりと振り返り、レミリアは笑う。

「美鈴には色々と感謝しなくてはいけないわね」
「あの子もいい子だと思うよ」
「フランドールにしろ美鈴にしろ、貴方よりずっと長く生きてるわよ。子ども扱いは止めなさい」
「ついね」

美鈴はともかくとして、フランドールは完全に子どもとして扱うのが癖になってしまっていた。

「咲夜にも、パチェにもいくら感謝しても足りないくらいだわ」
「みんな君とフランドールが好きなんだよ」

レミリアは嬉しそうに微笑んだ。

「……ま、今回の件は巫女あたり全部気付いていながら放置しているんでしょうね」

幻想郷の一勢力である紅魔館のフランドールが大量に現れたというのに、霊夢は何もしなかった。

「フランドールの分身が皆のところに行った時からずっと曇り続きだったのにねぇ」
「……そうだったかな?」
「少なくともフランドールがいるところはね。不思議な偶然もあるものね」

それはきっと偶然ではないだろう。

狙ったようなタイミングで美鈴が現れたのも、そもそもの事件のきっかけも……

いや止めておこう。それを言うほど僕も野暮ではない。

「まあ、もうじき終わるわよ」
「そうかい」
「じゃ……帰るわ」
「ああ」

いじっていたクマのぬいぐるみを置いて、レミリアは去っていった。

「……」

フランドール・スカーレットは紅霧異変以前は全く存在を知られていなかった。

スペルカードルールを用いたの初めての異変。紅霧異変。

その異変を起こした主は、他ならぬレミリア・スカーレットである。

彼女はスペルカードルールの効果を確認したかったのではないだろうか。

そのルールが、お互いにとって安全な遊びである事を自らの身で確かめたのだ。

そして紅霧異変の直後、フランドールが暴れだした。

もし、スペルカードルールが出来る前にフランドールが暴れていたらどうなっていただろうか。

攻撃される。

敵視され、拒まれ、恐怖の対象として扱われる。

だがフランドールが倒されたのも、その後起きた異変の全ても、スペルカードルールといういわば「遊び」によるものである。

幻想郷は平和になったのだ。

しかし。

吸血鬼という強大な力を持つ種族への警戒と偏見は強い。

『運命を操る程度の能力』のレミリアと、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持つフランドールだ。なおさらである。

偏見を解くためには当人の事を知ってもらえばいい。

知らないから不安を抱くし、警戒もする。

各勢力のところに力の無いフランドールがやってきた。

これはチャンスだと、あるいは思ったかもしれない。

だがフランドールはあまりにも幼く、無邪気だった。

そんな彼女を、皆は受け入れたのである。

「……そして終わりか……」

後は行く末を見守るとしようじゃないか。







「静かになったわねえ」

お茶をすすりながら霊夢が呟く。

「そうだね。この間までの忙しさが嘘みたいだ」

1万人のフランドールはあっさりと幻想郷から姿を消した。

始めは皆騒然としたが、数日すると静かになった。

香霖堂もまた、閑古鳥の鳴く店に逆戻りである。

「分身フランが消えたのはパチュリーの魔法が切れたからだろ? 仕方ないじゃないか」

魔理沙が壷の上で足をぶらぶらさせながらそんな事を言う。

そう、分身が消えたのは魔法が切れたせいだ。

むしろずいぶんと長く持ったというほうが正しいかもしれない。

「現金なもんだよな。みんな夢中になってたのにさ」

今や買い手のいなくなった、フランちゃんグッズ。

「まあ仕方ないよ」

ブームというのは概ねそんなものである。

「そういえば前に頼んでいた衣装出来た?」
「おっとそうだった。私のも出来てるか?」
「ああ、出来ているよ」

霊夢のところにいた分身フランドール用に作った、霊夢と同じ衣装。

同じく分身フランドール用の魔理沙の衣装。

「不思議なもんでな。自分が消えるのわかってたみたいでさ。うちのフランが消える直前に言ったんだよ」

魔理沙が僕から衣装を受け取り、何ともいえない表情をする。

「本当の私とも遊んでねって」
「……そうかい」
「しょうがないからこれは本物のフランドールに着せる事にするぜ」

そう言って笑う。

「そうするといい。きっと喜ぶ」
「ま、上の弾幕ごっこが終わるまで待ちましょうよ。それと私のほうが先に服着せるから」
「おいおいそういうのこそ弾幕ごっこで決めるもんだぜ」

少女たちは実に血気盛んである。

「外の対決はまだ続いているのか」
「見てみるといいわよ」

僕は外に出て空を眺めた。

夜空に輝く眩い弾幕。

一人はフランドール・スカーレット。

もう一人は霊烏路空。

彼女は分身のフランドールが消える前から既に紅魔館に来ていたそうだ。

目的はただひとつ。

「フランちゃんと弾幕ごっこがしたいの!」

現在彼女とフランドールの勝率は若干空リードらしい。

と言っても空はすぐに試合数を忘れてしまうので正確な数はわからないのだが。

「あっちも続いてるなあ」

魔理沙の見ている方向でも弾幕ごっこは続いていた。

レミリア・スカーレットと比那名居天子。

天子もフランドールと弾幕ごっこをやりにきたのだが、空が交戦中だったので変わりにレミリアが相手をしているのだ。

「アレも物好きよねえ」

彼女も毎日のように紅魔館に来ているようだ。

弾幕ごっこだけではなく、フランドールに色々衣装を着せようとしているらしいが。

「昨日は永遠亭の姫と兎。一昨日は幽霊とその従者。その前は二柱の神様だっけ? 紅魔館も客人が多くなったものねぇ」
「まるで君が紅魔館の主みたいだね」
「レミリアが言ってたのよ。邪魔くさいったらありゃしないってイヤそうに」
「顔は笑ってたんじゃないかい」
「ええ。悪戯が大成功した子供みたいな顔してたわ」

そう言って霊夢も笑う。

「レミリアはただ自分が楽しくなる為の事をやっただけよ」
「そうかな?」
「私の勘によるとそうなのよ、きっと」

自分の勘という割には他人の考えのような言い方だった。

「かもしれないね」

まあ、そういうことにしておこう。

「それとも実は妹のためにあれこれやってたのねーなんて話してみる?」

多分それを言ったらレミリアは全力で否定するだろう。

「身内のために異変を起こすだなんてはた迷惑な話だぜ」

魔理沙が笑いながらそんな事を言う。

「妖怪らしくていいと思うわよ、私は」
「そうだな。それでこその妖怪だからな」
「霖之助さんもレミリアを見習ってもっと大それた事をすればいいのに」
「ははは」

ドーンと大きな音が響き、夜空に大きな光が広がっていった。

「終わったらしいわね」
「だな」

しばらくして二つの影が、こちらへ向かって降りてくる。

「えっへっへー、勝っちゃった」

満面の笑顔のフランドール。

「うにゅ……まけたー」

対照的にがくりと落ち込んだ様子の空。

今回はフランドールの勝利だったらしい。

「今丁度、君の話をしていたところだよ」
「私の?」
「そうそう。私の衣装と同じのを着ないかってな」
「だから私のほうが先だって言ってるでしょう?」

睨み合う二人。

「ケンカはやめてよー、霊夢お姉様も魔理沙お姉様も」
「……まあフランドールが言うなら仕方ないな」
「フランドールが言うなら仕方ないわね」

最初、フランドールは霊夢と魔理沙を呼び捨てにしていたのだが、二人が頼み込んでこう呼んで貰う様にしたらしい。

フランドールもノリノリでそれをやっているようだ。

「今は楽しいみたいだね」
「うん!」

にこりと笑うフランドール。

「友達もたくさん出来たし、すっごい楽しいよ」
「そうかい。よかったね」

本当によかったと思う。

「……お姉様も嬉しそうだし」
「ああ」

レミリアが何も言わなくてもフランドールはいずれ気付くだろう。

レミリアが本当に妹の事を好きだという事を。

「そういやフラン。お前レミリアに好きなとこ行っていいって言われたんだろ。どっか行かないのか? ウチならいつでも歓迎するぜ」
「うん」

分身フランドールがいなくなってから、幾名かは紅魔館にやって来ているらしい。

フランドールに会わせてくれ。

そうやって来た人たちは本当に彼女を気に入ったんだと思う。

今だってきっと、フランドールはどこに行っても歓迎されるはずだ。

「でも私が欠けちゃうと、役が出来なくなっちゃうもん」
「役?」
「うん。私一人でも出来てたけど、それよりもっと強いの」

僕には彼女の言いたい事がなんとなくわかった。

弾幕勝負が終わり、レミリアが下へと降りてくる。

勝負を見守っていた紅魔館の皆も、こちらへ向かってきた。

「妹様ー! そっちはどうでしたー! お嬢様は勝ちましたよー!」
「妹様。拝見していましたが素晴らしい戦いでした」
「どちらもいい勝負だったわ。まあレミィは危なっかしかったけど」

スカーレット姉妹を慕う、三人の家族。

「お疲れ様、フランドール」

そしてレミリア。

「お姉様もお疲れ様!」

がばっと満面の笑顔で姉に抱きつく妹。

「暑苦しいわね全く」

口はともかく優しい表情で微笑む姉。

「あー、あれじゃなんの話か聞けそうにないな」

魔理沙がそんな事を言った。

「役のこと? わかんないの魔理沙」
「なんだよ、霊夢はわかるってのか?」

ここは解説役たる僕の出番である。

「つまりだね。レミリアとフランドール。そして美鈴と、咲夜と、パチュリー。五人の並んだ組み合わせだ」
「ああ、なるほど。そりゃフォーオブアカインドより強いな」

5つの同じ色の並んだカードが揃った時に出来る役。

「ストレートフラッシュ……いや。ロイヤルストレートフラッシュだね」

それは最強の役である。

「あら、図書館には小悪魔だっているわよ。それに妖精メイドだって働いているわ」

聞こえていたのかレミリアがそんな事を言った。

「そうだね。彼女たちもか」

そうするとロイヤルストレートフラッシュよりもさらに強いかもしれない。

「それともう二匹いるよ!」

フランドールがばっと手を上げてアピールしてきた。

「なんだい?」

尋ねると彼女は満面の笑みで答えるのだった。


「私の部屋のちっちゃいクマちゃんとお姉様の部屋のおっきいクマちゃん!」
*ご指摘頂きました箇所を修正しました

仲良き事は美しきかな。
Q.フランドールが増えたらどうなるの?
A. フランちゃんかわいい。
と書き始めたら結構な長さに。


ところでわたしも分身フランドールが欲しいんですが。


貴方がコンティニューできないのさ!
SPII
http://cgi-games.com/esupi2/
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コメント



0.9000簡易評価
8.90名前が無い程度の能力削除
うちにもフランちゃん一人ください
10.100Admiral削除
素晴らしい作品でした。
フランやレミリアの描写ににまにまさせてもらいました。
あんたは最高だ!

>○Y・Kさん

これだけ誰か分からない…
13.100名前が無い程度の能力削除
フランちゃんにお兄様と呼ばれ隊
15.100名前が無い程度の能力削除
久々の作品ではありませんか

1人目茶苦茶欲しいと思った私は正常な筈。可愛いなあ
最後のオチでレミリアも可愛いと(ry
素敵なSS、ありがとうございました
24.100名前が無い程度の能力削除
オチにちょっと潤んだ
25.100名前が無い程度の能力削除
いいお話でしたー。

無邪気なフランが可愛かったです。
あと、クマの人形をぎゅーっ、ってしてるのを想像して身悶えた。
27.90名前が無い程度の能力削除
65536体の妹様な時点で、壊れギャグとしか思えなかったのにw
いいなぁ、こういう毒気の欠片も無い作品。
31.100名前が無い程度の能力削除
霊夢仕事しろw


2人目のY・Kさんは…おじいちゃんの方?
34.100煉獄削除
フラン可愛くて堪りませんねぇ……。 彼女の頭を撫で撫でしたいなぁ。
霖之助とフランの会話や、紅魔館組やみんなと楽しく過ごしている姿など面白いお話でした。
40.無評価名前が無い程度の能力削除
あとの方のY・K
妖忌?ヤマメ?どっち?
41.100名前が無い程度の能力削除
ギャグかと思ったらなんて良い話なんだ。
妹想いのレミリアも、分かって放置した霊夢も好きだなぁ。
フランのこれからが楽しみだ。
素敵な話をありがとうございます!
43.100名前が無い程度の能力削除
まさかのいい話
47.100七人目の名無し削除
とても良い話で感動しました。やはり香霖堂には妹キャラがよく合うと思います。
だから次は、こいしちゃんと霖之助の話が読んでみたいです。
48.100名前が無い程度の能力削除
コイン一個あげるでのコンテニューさせてください
49.100名前が無い程度の能力削除
フランちゃんかわいい。
50.100名前が無い程度の能力削除
理想のレミリアでした。
53.100名前が無い程度の能力削除
Y・K→風見幽香に違いない
55.100名前が無い程度の能力削除
oh...なんというかわいさ・・・
59.100名前が無い程度の能力削除
あ~もしもし紅魔館さんですか?
予約注文したフランちゃんがまだ届かないんですが。
60.100名前が無い程度の能力削除
Y・Kのイニシャルが存外に多いことに気がついた作品だった。でもありゃあ妖忌だろ。
コメントをみた孫娘が爺さんをとっちめるために活動を開始したようです。
63.70名前が無い程度の能力削除
パロディネタはあまり好きじゃないのだが赤外線照射装置でクスリときた
分かる人には分かる程度、分からない人でも違和感をあまり感じずに読める程度のさりげなさが好きよ
67.100名前が無い程度の能力削除
母性本能全開の天子……イイ!
でもポーカーの最高の役ってファイブカードじゃなかったか?
72.100名前が無い程度の能力削除
愛だ。愛が溢れている。
73.100名前が無い程度の能力削除
出オチかと思ったら最強の手が揃っていた、
これもフランちゃんのおかげに違いない

貴方の作品の読後感の良さが好きです
79.90夜空削除
ちょっと突飛な感じもしましたけど
最後に幸せな笑いが零れる素敵な作品ですね
優しく見守りたくなるような気持ちになりました
面白かったです
83.100名前が無い程度の能力削除
フランちゃん可愛いよフランちゃん。

しかし二人目のY・Kって風見幽香か魂魄妖忌のどっちなんだろ
84.100コッポラ削除
よかった。実によかった
92.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい作品でした!
93.100名前が無い程度の能力削除
風見幽香に1票
94.100名前が無い程度の能力削除
すんませーんウチにもフランちゃんくださーい
98.100名前が無い程度の能力削除
ちょっとフランちゃん注文してくる
99.90名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー
102.100名前が無い程度の能力削除
良いね、優しさに溢れてるねぇ。
109.100名前が無い程度の能力削除
最初のインパクトのある掴みからいい話にまとまって面白かったです。
119.100名前が無い程度の能力削除
コンテニューできない……
124.100名前が無い程度の能力削除
霖之助は傍観者に徹してたな。もったいね
131.100名前が無い程度の能力削除
後で貰った大きいほうのクマのぬいぐるみがレミリアの部屋にあるという最後の下りでウルッと来ました
132.90名前が無い程度の能力削除
フランちゃんマジかわいい……!
ギャグだと思ったら最後良い話だしw
フランが幸せになる話はいくつ読んでも良いもんだ、自分まで幸せ気分になれる。
133.100名前が無い程度の能力削除
いい話になってたw
137.100名前が無い程度の能力削除
タイトルと序盤からギャグかと思いきや、とてもいい話。
141.100削除
あれ?
いつのまにか素敵でオチがいい話になっていたwww
GJです
144.100名前が無い程度の能力削除
とても良いぜ
149.100名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー
フランが幻想郷すべてに受け入れられる話も珍しいね
150.100名前が無い程度の能力削除
フランちゃんの可愛さが半端ない
151.100名前が無い程度の能力削除
つまりフランはみんなの妹ということですね、分かります。

「紅魔館のカードは、すべてが切り札なのさ」、か。いい仕事を拝見しました。
156.100名前が無い程度の能力削除
仲良きことは美しき哉。
168.100名前が無い程度の能力削除
>「……ありがとう、お兄様」
羨ましいぞ霖之助ぇぇぇぇ!!

何はともあれ素晴らしかったです。
ロイヤルストレートフラッシュが出来たのなら、彼女たちはどこまでやっていけるでしょう。
良いお話をありがとう!
171.90名前が無い程度の能力削除
フランかわいいよフラン

けどシュト○ハイムさんが使ってた対吸血鬼兵器は「紫」外線照射装置じゃなかったっけ?
赤外線じゃあストーブだぁ
176.100名前が無い程度の能力削除
出落ち?かと思いましたが、とても素晴らしかった!一家に一人フランちゃんをどうぞ!
193.90名前が無い程度の能力削除
つクマちゃん
208.100名前が無い程度の能力削除
可愛い
229.100絶望を司る程度の能力削除
上に同意