Coolier - 新生・東方創想話

香霖堂へ逝こう!【前】

2005/03/02 07:02:25
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私、鈴仙・優曇華院・イナバにとって、その日の始まりはいつもと同じだった。

いつもと同じ時間に、いつもと同じ冷蔵庫の場所を覗いて見ると、いつものように私のデザートがなく、
いつもみたいにクシシと私の後ろで笑うてゐを、いつものように追いかける。

ドダダダ!!

ドダダダ!!

いつものように二つの足音が永遠亭に響き渡り、兎達は何事かと思って部屋から出てきて、
私とてゐの走り回る姿を見ると、「いつものことか」と言って部屋に帰っていく。


そんな、いつもと同じ日常…のはずだった。

****************************************

「て~ゐ~!待ちなさ~い!!
今日と言う今日は許さないんだから!」
「えへへ~、私の物は私の物、れーせんちゃんの物も私の物だよ~!」
「そんな主義は認めません!」

いつもは付かず離れずのまま追いかけっこは終わっているが、今日という今日は我慢できない!
私はすかさず奥歯を噛んだ。

カチッ

体を包む浮遊感とともに、足が軽くなる。
「これで!!」
「え…、うそ!?」
残像を残しつつ近づく私を見て、てゐは狼狽していた。

まさか、師匠に仕込まれたものがこんなところで役に立つとは…
転ばぬ先の杖だな、とか思っているうちにてゐの背中は目前にまで迫っていた。
「捉えた!」
「!!」
私の手がてゐに伸び、その服に掴みかかる。
「さぁ、てゐ、いい加減に観念しな…」

ビリッ

「あっ」

「あっ……あ~!!!」

いつもとは違う騒音に、兎達は何事かと思って部屋から出てきた。
右を見ると、衣服を破かれ恨めしそうに私を睨みつけるてゐ。
左を見ると、ハァハァと息を切らしながら破れたてゐの衣服を握っている私。
それを見ると、兎達は「いつものことか」と言って部屋に戻っていった。


「ひどい、ひどい、れーせんちゃんひどい~!
この服お気に入りだったのに~!」
「だ、だって、元はと言えば、てゐが私のデザートを…」
「ひどい、ひどい~!!
えーりん様、えーりん様ぁ!!」
てゐがいきなり腕を振り始める。
これは…
「えーりん様!えーりん様!
助けて、えーりん様!!
れーせんちゃんが、れーせんちゃんが!」
てゐの腕の振りに加速がかかる。
…不味い!!
これは、師匠を高速召喚するための儀だ。
万が一、師匠が来てしまったら、てゐの話術によって十中八九私の責任にされてしまう。
「宴会芸」とかの題目で、人の奥歯に加速装置仕込むあの人だ。
どんなお仕置きをされるかわかったもんじゃない!
ならば…これだけは阻止しなければ!!

「えーりん様!えーり…わっ!!」
すかさず私はてゐの体勢を崩し、流れるような動作でてゐの後ろに回る。
そして、左手でてゐの首をホールドし、残った右手でその眼前に座薬を突きつける。
CQC(Close Quarters Combat)の完成だ!
「てゐちゃ~ん、私が謝るから、師匠だけは勘弁ね?」
ね、の部分を強調しながら、てゐの鼻先に座薬をグリグリと押し付ける。
「う、うぅ……」
「言うこと聞いてくれないと…」
座薬の先っぽをてゐの耳に入れる。
「ひゃっ!?
み、耳はやめて~」
「それじゃあ、言うこと聞いてくれる?」
「聞く、聞くから、耳だけは~」
「よしよし、それじゃあ…」
「ひゃあ!?
や、やめてってば~」
同じ行為を10分ほど堪能した後で、ようやく私はてゐを解放した。
くそう、可愛い奴め。


「…じゃあね、許すかわりにてゐのお願い一つだけ聞いてくれる?」
「お願い?…まぁ、私にも責任あるし、簡単なものぐらいなら…」
それを聞いててゐはニヤッと笑った。
不味い…失言だったか!?
「それじゃあねぇ……お洋服買って♪」
「洋服?」
あれ?以外に…
「そ、新しいお洋服。誰かさんのせいで、てゐのお気に入りが破れちゃったからね~」
洋服か…悪くはないんだけど…
「今、持ち合わせが少ないからな…」
「…そっか、じゃあしょうがないね」
「ごめんね、てゐ?」
てゐは笑顔でウンと頷くと、再び腕を振り始めた。
あれれ?『しょうがない』って…こういう意味なわけ!?
「ちょ、ちょっと、てゐ!!」
「えーりん様、えーりん様!」
「…クッ!!」
仕方がない…口で言って分からないなら、CQC(カラダ)で教えてやる!
私はてゐの行動を再び阻止すべく、てゐに腕を伸ばした。
ところが

「えっ?」
てゐは突っ込んできた私を軽くいなし体勢を崩させると、首の後ろに手刀を叩き込んできた。
「!!」
これは……CQCカウンター!?
私は成す術もなく前に倒れこんでしまった。
「ふふ、タイミングさえ分かっていれば、カウンターぐらい簡単だよ」
そう言っててゐは私を仰向けにすると、その指で私の鼻先をグリグリと押し込んだ。
「お洋服買いにいこ、ね?」
「………はい」
私は力無く返事した。

****************************************

「確かこの辺だったよね~」
「う~ん、そのはずなんだけど…」
私はあたりを見回したが、香霖堂はおろか他の建物の気配すらなかった。


いざ洋服を買いに行こうとなった段階で、私達はある問題に気づいた。
『そう言えば、幻想郷にそんな気の利いた店あったっけ?』
『え~、れーせんちゃん知らないの?』
『そんなこと言われたって、服を買いに行く機会なんて滅多にないし…』
『え~、困ったな~』
『う~ん、店…店…………あっ』
『何か思いついた、れーせんちゃん?』
『…うん。洋服屋ってわけじゃないけど、「あそこ」になら、あるいは…』
『…あっ、てゐにもわかった!「あそこ」…だね?』
『そうそう古今東西「何でも」揃っているあの店なら、きっと洋服も置いてあるはずだよ』
『そうと決まったら善は急げだよ、れーせんちゃん!』
『よ~し、それじゃあ…』
『『香霖堂へ行こう!』』


…と言うわけでここまで来たんだが、肝心の香霖堂が見つからず、私達は途方にくれていた。
「まったく、どうしてこんな辺鄙なところに店を構えているのかしら、霖之助さんは…」
はぁ、とため息をつくと、横からクシシという笑い声が聞こえてきた。
「…何よ、てゐ?」
「別に~!
ただ、れーせんちゃん、りんのすけさんに会えるから嬉しいんじゃないのかな~って」
「なっ!?
り、霖之助さんとはそんなのじゃなくて…!」
「あはは、顔紅いよれーせんちゃん♪照れてる照れてる!」
「うっ…」
そりゃあ、興味が無いって言えば嘘になる。
落ち着いた物腰や、知的な言動、そして時折見せる物憂げな表情。
幻想郷の住民とは一味違うその静かな佇まいに、私は正直惹きつけられていた。
でも…だからといって、その感情が「特別」かと言うと…
「あっ、あったー。
お店があったよ、れーせんちゃん!」
てゐの声でハッと我に返る。
「えっ、あぁ…ホントだ」
「ホラホラ、早く行こうよ、りんのすけさんに会いたくないの?」
「だ、だから!」
そうじゃないって言ってるのに~!


やっとの思いでたどり着いた香霖堂は、相変わらず寂々としていて、客がいるような雰囲気はまったくなかった。

「それじゃあ、開けるね」
と、私が扉に手をかけたとき、その手を通じて表しようもない負の感情が伝わってきた。
「…うっ」
「ど、どうしたの、れーせんちゃん?」
「…てゐ」
「な、何?」
「やっぱり…帰らない?」
「えっ、えっ?どういうこと?
折角ここまで来たのに?」
「あっ、あはは。
冗談、冗談だよ」
もちろん、冗談ではなかった。
何故なら、私の第六感が告げるのだ、『この中を見てはいけない!』と。
「もう、れーせんちゃん、冗談言ってないで早く入ろうよ~
れーせんちゃんが入らないなら、てゐが先に入るよ~」
「!!ダ、ダメ!危ない!」
「危ないって…どういうこと?」
「…いいから、てゐは下がっていて」
私は意を決した。

これから直視するであろう狂気に耐えるために瞳を切り替える。
赤い瞳…狂気の瞳に。
準備は…出来た。
「それじゃあ、いくよ…!」
私は扉をソッと押し開けた。


「みょん」


「!!?」
薄暗い香霖堂の中に、その男、森近霖之助はいた。
いた、が…

「みょん」

「!!?」
いた、が、あれは…誰?
そんなの、霖之助さんに決まっている。
あの顔や、あの体つき、そしてあの眼鏡は霖之助さんに間違い無い。
でも、でも、何で、何で…

「みょん」

「!!?」
何で、女の子の服を着ているの!?

「みょん、みょん…」

森近霖之助は確かにいた。
その身には、魂魄 妖夢のものであろうと思われる衣服を纏い(ご丁寧なことにおかっぱ頭のカツラまでつけて)、
狂ったように「みょん、みょん」と壁に向かって呟き続けていた。


「うっ…」
私はその狂気に耐えられず、開きかけた扉をすぐに閉めた。

「あれ、どうしたの、れーせんちゃん?りんのすけさんはいなかったの?」
「…霖之助さん、霖之助さんは…」
あぁ、霖之助さんは…
「霖之助さんは…いなかった」
途端に私の瞳から涙が溢れる。
「えっ、えっ?れーせんちゃんどうして泣くの?
そんなにりんのすけさんに会いたかったの?」
「違う、違う…けど、うぅ…」
「わわっ!れ、れーせんちゃん!?」
私はてゐを抱きしめ、嗚咽を漏らした。

いなかった。
霖之助さんはいなかった。
「私の知っている」霖之助さんは…いなかった。
私の、私の知っている霖之助さんはあんな、あんな酷いことは…しない!
あんな、酷い、酷い……ことは…
「よしよし、れーせんちゃん泣き止んで。
とりあえず、てゐに何があったか話して、ね?」
「て、てゐ…うっ、うぅ………あのね、あの……」


「おや?」

突然扉の開く音とともに、後方から馴染みの無い声がした。
「あっ、りんのすけさん!」
ナンダッテ?
「霖之助……さん?」
私は壊れかけたブリキのおもちゃみたいに、ギギギと首を後方に向けると…
そこには霖之助さんが…いた。
「ふむ、百合の香に誘われて出てきてみれば…これは、これは、珍しいお客さんだ」
そう言って静かに佇む霖之助さんの衣服はいつもどおりのものだった。
私はホッと胸を撫で下ろす。
「…む、いい句が浮かんだ。聞いてくれるかい?」
「句…ですか?」
この人突然何を…と思っているうちに、霖之助さんは句を詠み始めた。

「若百合の 蕾刈り取る 香霖堂   by霖之助」

「…そんな不吉な句を詠まないでください」
「これは手厳しいな」
そういって霖之助さんはあたりを見回した。
「まぁ、こんなところで立ち話も何だから、中に入りたまえ」
「あっ、いや、私は別に……」
「おじゃましま~す!」
「あっ!てゐ、ちょっと…」
制止も空しく、そのままてゐは狂気のすくつ(何故か変換できない)に入っていってしまった…
「さぁ、鈴仙君も早く中に入りたまえ」
「…あの、霖之助さん」
「んっ?何だい?」
幸か不幸か霖之助さんと二人っきりになれたので、先ほどの奇行を本人に問いただそうとしてみた。
「あの、さっきは…何を…やってたんですか?」
「さっき?」
霖之助さんは、はて?という顔をした後、あぁ、と手を叩いた。
「ちょっと、試着を…ね」
「試着って…ああいうのが趣味なんですか?」
「いやいや、そういうわけじゃない」
私の心にパッと光明が射し込んだ気がした。
あぁ、そうだ、この人はきっとのっぴきならない事情があって、あんな格好を…!
「あれは…ライフワークさ!」
グッと親指を立てながら百万ドルの笑顔を浮かべる霖之助さん。
「………」
この瞬間に私の中の霖之助さんは死んだ…

…そう言えば、霖之助さんの笑顔を見たのはこれが初めてかも。
ほんの少しキュンとなる胸に、私は「アホか」と突っ込みを入れておいた。
あぁ、鬱だ……


to be continued…
ホンマ霖之助は三国一の変態さんやで!!
so
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コメント



0.1930簡易評価
2.40てーる削除
そうですか・・趣味じゃないんですか・・安心・・


・・って、ライフワークディスカw


アァ・・アタマカラ みょんみょん・・ ガハナレナイ・・・orz
15.60名のない男削除
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 CQC!CQC!
 ⊂彡
21.50紫音削除
・・・香霖・・・(つ_T)
巣窟を「そうくつ」ではなく「すくつ」と読んでしかもそれを変換できないことをまず疑問に思うほどのれーせんの混乱っぷりがまた・・・

・・・れーせん、南無・・・(-人-)
51.30さわしみだいほん削除
おかしな趣味かw