Coolier - 新生・東方創想話

ある春の一コマ

2005/02/23 09:43:21
最終更新
サイズ
12.69KB
ページ数
1
閲覧数
630
評価数
1/58
POINT
2440
Rate
8.36
 
                    ◆
 
 想像して頂きたい。
 自分に荷物が届いた。
 大きさはタテ六十センチ、ヨコ三十センチ、高さ二十センチほど。
 重さは重いともいえないし軽いともいえない。ちょうど中間の重さ。
 白い、綺麗な桐の箱で、蓋には熨斗紙がつき、自分の名前が書かれている。
 誰から送られてきたかは不明。
 そのようなものが朝、玄関にあったらあなたはどうするだろうか?

                    ◆

 博麗神社の巫女、博麗霊夢は今まさにその場面に出くわしていた。
 朝、目を覚まし身の回りの支度を整え、朝食。
 その後、賽銭箱に何か(最近桜の花びらやごみが入っていることが多い。賽銭は始めから入っていない。多分これからも入らないだろう)入っていないか見に行く・・・つもりだったのだが玄関を開けた瞬間鎮座していた箱に足を取られ転倒しそうになり、今に至る。
「・・・」
 とりあえず縁側に上げてみた。
「・・・」
 とりあえず当初の目的通り、賽銭箱と境内の掃除をした(今日は巧妙に札に見えるように細工されている葉っぱが入っていた。おそらくあの狐だろう、紫の指図だと思うのであとで殴っておく必要がある)。
「・・・」
 とりあえずお茶を淹れた。
 ずずず・・・
 (誇張でなく)何も無い縁側にお茶をすする音が響く。
「・・・さて、どうしたものかしらね・・・」
 ようやく目の前の問題に取り掛かる。
 発見からこの時点にいたるまで小一時間。博麗の名は伊達ではない。
 で、選択肢は四つ。

1・・・蓋をあける
2・・・今日も来るであろう「暇だ」と言いながら来る誰かに押し付ける
3・・・知り合いの骨董屋に売りつける(当然高額で)
4・・・無かったことにして埋める

「売り払うのが一番だけど・・・『これまでのツケの分』とか言われてタダで回収されそうね」
 店主の冷笑が脳裏に浮かぶ。選択肢3、没。
「誰かにプレゼントとか何とか言って押し付ける・・・無理ね。私のキャラじゃないわ」
 賢明な判断である。霊夢が他人に贈り物。きっとあの吸血鬼ですら不審がり受け取らないであろう。選択肢2、消滅。
 さて、残るは二つ、埋めるか開けるか。と、ここでふと思う。
(中に何が入ってるんだろう?)
 普通一番初めに思うことを今頃考えるあたり、流石は霊夢、といったところである。
 それはともかく、ここからは自分自身の好奇心との勝負である。
 果たして開けるか、それとも・・・
「えい」
 ぱかっ
 開けた。
 いともあっさり。
 躊躇無く。
 中身を凝視すること一瞬。
「・・・」
 そして閉めた。
「・・・」
 急須から湯飲みにお茶を注ぐ。
 ずずずずず・・・
 そして飲む。
「・・・なーんか棺に収まった死体の如く横たわった人形が居たけど気のせいね。うん、気のせい気のせい」
 言い聞かせるように呟く霊夢。
「きっと見間違いね。ほら、春だし。最近宴会続きだし」
 もう一度蓋を開ける。
「ほら、ね・・・?」
 やっぱり人形だった。
 しかも・・・さっきは閉じられていた目が開いていた・・・
 視線が、合った。
「っ!!!!」
 蓋を閉めた。紐でぐるぐる巻きにした。さらに二重結界で封印した。
 がらっ
 ぽいっ
 ぴしゃり
「・・・いやー、今日もいい天気ね」
 とどめに箱ごと押入れに仕舞い込んで無かったことにした。
「・・・暇ね、誰か来ないかしら」
 因みにその日は珍しいことに訪問客が居なかった。

                    ◆

 翌日。
「あー、だる」
 霊夢は縁側でお茶をすすっていた。
「昨日は結局誰も来なかったし、せっかくの静かな夜だと思ったらなんかなかなか寝付けなかったし・・・私何か悪いこととかしたかしら?」
 各方面から苦情が殺到しそうな台詞だったが、所詮は独り言。誰も突っ込まない。
 とっくに今日のおつとめ(主に境内の掃除)は終わっている。社務所の掃除は境内のように竹箒一本で済まないし、はたきやら雑巾などを使うのが面倒なのでやっていない。
「することないし、今日は早めに昼食にしようかしら」
 立ち上がり台所へ向かう・・・ところで足が止まった。

「な・・・ん、で・・・・・・?」
 人形が居た。
 薄紅色の着物。
 長い黒髪。
 そして、凍りつくようなツクリモノの目。
 間違いなく昨日の『あの』人形だった。

「っ!」
 霊夢はほぼ反射的に針を撃ちだしていた。
 人形の頭めがけて。
 その狙いは正確。一瞬後には打ち抜く筈。

 カッ!

 だが、針は人形には当たらなかった。当ったのは人形のすぐ後ろの柱。・・・人形は、消えていた。
 影も形も無く。
「どういうこと・・・?」
 しばらく呆然としていた霊夢だったがすぐに押入れを開け、昨日の箱を取り出した。
「気のせい気のせい・・・昨日よく眠れなかったし・・・」
 自らに言い聞かせるように呟きながら箱を調べる・・・紐を解いた形跡はないし、大体結界も破れていない。
「そうよね、結界から出てくるのはあのすきま妖怪だけで充分よ・・・でも、一応」
 結界を解き、紐も解く。そして、おそるおそる蓋を開けると・・・

 何も無かった。

「は?」
 人型にへこんだ緩衝材代わりの白い布。
 それが箱の中のすべてだった。
 すっ、と自分の血の気が引いていくのがわかった。
 背中に凍るような視線が感じられる。
 おそらく、いや、きっと『居る』のだろう、あの人形が。

                    ◆

 その日の夜。
 境内に着陸する黒白の姿があった。
 いわずと知れた普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。当然の如く家主の許可無くあがりこんでいく。
「霊夢~、いるか~?明日の宴会の打ち合わせも兼ねて暇だから晩飯厄介に来たぜ~」
 勝手に飲んで騒ぐことが主旨の宴会に打ち合わせもへったくれも無い。要は夕飯が目当てである。
「いつも手ぶらだと悪いような気がしたから今日は珍しく某所から調達してきた茶葉を持参だぜ・・・って何やってんだ、お前?」
「・・・何してるように見える?」
 いつもどこぞやの春亡霊・・・とまではいかないものの、似たような雰囲気を持つ霊夢から良くないオーラが感じられる。ここは正直に答えるが吉だ。
「・・・強いてあげれば『ゴキブリ退治、しかし対象が吸血鬼並みに素早くしぶとかった』ってところか」
 霊夢、お払い棒装備。部屋のところどころにある傷から何発か夢想封印をぶっぱなしたことが伺える。
「・・・」
「・・・」
 沈黙。
 (しまった、台詞ミスったか?)などと魔理沙が考えていると、霊夢は周囲を見回し、張り詰めていた気を解いた。
「どうやらあんたが来たと同時に姿を消したみたいね」
「・・・ゴキブリか?」
「もっとやっかいなものよ」
「お前が厄介なんて言葉を使うなんて世も末だぜ。まあ、説明してみな。面白そうだったら協力するぜ」
「・・・仕方ないわね。実は・・・」

 ~少女説明中~

「・・・・・・ってわけなのよ」
「不審なものだったら速攻であけるなよ、と言いたいところだが多分私もそうしただろうから言わないでおくぜ」
「言ってるじゃない」
「きっと空耳だぜ」
「・・・まあ、いいわ。・・・で、どう思うわけよ」
「その・・・人形だっけか。特徴をもう一度言ってくれ」
 どうやら興味を惹かれたらしい。魔理沙はやや乗り気だ。
「だから、桜色っぽい着物着ていて、長髪の黒髪」
「着物に・・・黒髪か・・・」
 うーん、と唸り腕を組み、考え込むような素振りを見せる魔理沙。
「知ってるの?」
「・・・ああ。多分それアリスの人形じゃないか?こないだ押しかけた時、あいつの部屋の人形棚にいたような・・・」
 アリス・マーガトロイド。
 魔理沙と同じ魔法の森に住む魔法使いである。主に人形を使役した魔法を得意とする。
「・・・なるほどねえ・・・そういえばアリスが居たわね・・・さっきまですっかり忘れていたわ」
 本人が聞いたら号泣並みの台詞をさらりと言う霊夢。怒りがぶり返してきたのか、良くないオーラが再び出てきているので、突っ込めない。
「実物を見ていないし、記憶も確かじゃないから断定は出来ないけどな」
「まあ、いいわ。連れてきて」
「私がか?」
 魔理沙の反論に人差し指を立てて答える霊夢。
「報酬は今夜の夕飯。最初からそれが目当てでしょ?働かざるもの食うべからず、よ」
「・・・わかったぜ。まったく、カンの鋭さだけは一品だな」
 お前だって普段ぜんぜん働いてないだろう、という台詞を飲み込み、境内を飛び出していく魔理沙。それを見送る霊夢。
「犯人もわかったし、これで安心ね」
 決め付けるのはどうかと思うが、概ね間違っていないのだろう。魔理沙の記憶力は大抵の場合正しい。多分。

                    ◆

 数刻後、境内に着陸する二つの影があった。
 ひとつは先程と同じ黒白、霧雨魔理沙。もうひとつは話に上った人形遣い、アリス・マーガトロイドである。
 二人は言い合うようにして社務所に上がりこんでいく。もちろん巫女に挨拶なしで。
「せっかく新しい、いい生地が手に入ったのにあんたがドアぶち破ってきた所為で台無しじゃないのよ」
「ぶち破った、とは心外だ。私は箒ごとお前の家に入っただけだぜ。それに生地が台無しになったのはお前が紅茶を吹き出したからであって私の所為じゃないぜ」
「何処の世界にいきなりドアぶち破られて平気な奴がいるのよ」
「どこぞやの春亡霊とか」
「あ~・・・ってそう言う場合じゃなくて、何の用よ、こんな寂れたところに連れ出して」
「用があるのは私じゃなくてここの主だぜ」
 口論しながら居間にたどり着く。そこでは霊夢が食後の茶をすすっていた。いつもの光景である。魔理沙は「連れてきたぜ」と霊夢に言い、勝手知ったる他人の家、とばかりに食卓につき食事を始める。よほど空腹だったらしい。
「寂れていて悪かったわね」
「ま、まあ、言葉のあやよ。それで?用って何?」
 以前こっぴどくやられたのであまり刺激するのは良くない。
「あんたの人形が来てるから連れてって」
「は?何よ、それ?」
「・・・説明聞いていなかったの?」
 隣で食事中の魔理沙を見る。
「私は『連れてこい』としか言われなかったからな・・・この漬物美味いな」
 味噌汁をすすり、漬物をかじりつつ答える魔理沙。
「そこまで期待した私のミスね・・・・・・いいわ、私が説明する。実は・・・」

 ~少女説明中(本日二度目・残りコンテニュー回数(霊夢が逆ギレするまで)0回)~

「ふうん。それは多分私の京人形ね。で、何処にいるの?」
 ぐるりと室内を見回すアリス。その視界に人形は居ない。因みに視界の端に食後の惰眠を貪っている黒白が居るがこの際無視しておく。
「さあ。いつの間にか居るもの」
「さあって・・・まあ、いいわ。その人形が入っていたっていう箱見せて」
「確か、再度二重結界で封印して押入れに・・・あったわ」
 適当な収納の所為で混沌と化した押入れからがしゃん、ガラガラといった雑音や、「ぎゃー」「わー、藍さまの頭に金たらいが」「わ、私の油揚げがー!」などといった隙間の邸宅の住民の和やかな(?)声が聞こえてきたがこれも黒白同様無視。
「普通の箱ね・・・でも、よくこんな不審なもの開ける気になったわね。開けるから結界解いて頂戴」
「魔理沙にも同じこと言われたわ。・・・はい、これでいいわよ」
 蓋を開ける。今回はアリスが。

 開けた。

 中には人形が居た。目が開いた状態で。
 人形はアリスを視認するや飛びつき、身を摺り寄せた。さながら主人にじゃれる子犬のように。それを唖然として見る霊夢。
「よしよし・・・って霊夢、ひどいわね。人形といっても意思はあるんだから。この子をこんなところに閉じ込めてるなんて」
「閉じ込めたって・・・なんか自由自在に空間転移してたわよ、そいつ。コレ撃っても消えて避けてたし」
 針を取り出す霊夢。アリスはそれを見て、
「はあ?そんなこと出来るわけ無いでしょ。だったら春に撃ち落されたりしてないわよ」と呟く。
「それに大体なんで京があんたのところに居るのよ。この子本来なら今、白玉楼に居るはずなのよ」
「それが聞きたいのはこっちのほうよ。ところでなんで白玉楼に?別にあんたの故郷って訳でもないでしょうに」
 世を儚みたいなら話は別だけど、とさりげなくひどいことをさらりと言う霊夢。それに対し、
「ほら、京の正式名称って『春の京人形』でしょ。そういう状況のほうが力を蓄えやすいのよね。だから、よりそれに近づけるために預けてたのよ」
 とアリスは答える。
「よく断らなかったわね。あの庭師が」
 呆れた様に言う霊夢。
「使役してもいいって条件つけたから。寧ろ感謝されたわよ。人手が足りなくて助かったって」
「なるほど、どうりで最近見なかったわけだ」
 いつから聞いていたのか魔理沙が急に話に割り込み納得している。というかいつの間に起きてたんだ。
「つーか、ここまで話が来たら真犯人はわかったも同然だろう」
 場を仕切り始める魔理沙。今まで無視されていたのが少々ご立腹らしい。・・・寝てた本人の自業自得だと思うのだが。
「ヒント一、空間転移。ヒント二、白玉楼関係者」
「関係者って、あの春亡霊と庭師でしょ?」
 霊夢の答えに指を振る魔理沙。仕草が妙にあっているのは天性か。
「その春亡霊の友人、を忘れているぜ」
「ああ」
 思い出したように手を打つ霊夢。
「そう、あいつだ」
「あいつって誰よ」
 一人蚊帳の外にありつつあったアリスが尋ねる。
「境界を操る妖怪で、八雲紫っていう奴だ。年の割にケバい服着たやぐえっ・・・・!!」
「お呼びかしら」
 言い終わらぬうちに魔理沙の頭上の空間が割れて金ダライが降ってきた。狙ったように脳天にクリーンヒット。しかもその中には渦中の妖怪、八雲紫が座っていた。それに対し霊夢は「来るなら玄関から入ってきなさいよ」と何とも見当ハズレな答え。微塵たりとも魔理沙を心配していない。
「まあ、いいわ。呼ぶ手間が省けたし。コレあんたの仕業?」
 未だアリスの腕の中に居る京人形を指差す霊夢。傍らに浮く上海人形が羨ましそうに見ているが気のせいだ。
「そうよ、慌てふためく霊夢、面白かったわ」
 お払い棒で殴った。
「痛いわ」
「理由はそれだけ?」
「もちろん、だってこのところ暇だったし、宴会誰も呼んでくれないし」
 もっかい殴った。
「ひどいわね、貴女。親の顔が見てみたいわね、見てたけど。小さい頃はあんなにかわいらしかったのに・・・」
 さらに殴った。

                   ◆

 数刻後、頭にたんこぶをたくさんこしらえた八雲紫がマヨイガに居たのは余談である。

 同時刻、魔法の森に向かう道上空。
「寧ろ私も自分の人形をいたずらの道具にされた被害者なのに、何で霊夢に殴られなきゃいけないのよ・・・それより、ねえ、上海さっきから拗ねてるみたいだけど私何かした?」
 手に京人形を抱えたまま上海人形に問いかけるアリス。上海人形は先ほどからそっぽを向いている。
「自業自得だぜ」
 頭にたんこぶをこしらえた魔法使いが二人、飛んでいた。
「それにしても手加減なしで落ちてきやがったら首が痛いぜ」
「普通の人間なら折れてるわよ。流石は野良魔法使いね」
「まったく・・・あいつ結構重かったぜ・・・」
 魔理沙の発言に返さず黙って魔理沙の頭上を指すアリス。
「ん?・・・・・・・・・!!」
 魔理沙、たんこぶ一個追加。

 更なる余談として、上海人形の機嫌が治るまでに一週間かかったことを記しておく。
ここへの投稿も三度目になります。俳諧という者です。
初め、ホラーっぽいものを書いていたつもりがこのような形にまとまってしまいました。
アリスは自身の人形の強化のため作中のように他者に人形を預けている。というような妄想の元、このような作品が出来ました(きっと倫敦人形あたりはメイド長(夜霧つながりで)あたりに修行に行っているのでしょう)。
短文ですが、では。

誤字、脱字の指摘や御意見などいただけると幸いです。
俳諧
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2400簡易評価
8.40てーる削除
最初見たときは怪談物キターかとw

霊夢、あんた巫女でしょ・・本業本業w

(最初間違えて簡易で点数入れたのでこっちで再度入れなおし・・)