Coolier - 新生・東方創想話

犬と狗(前)

2005/02/22 04:33:05
最終更新
サイズ
13.6KB
ページ数
1
閲覧数
951
評価数
0/41
POINT
1570
Rate
7.60
--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------


私は十六夜咲夜が嫌いだ。


--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------


「咲夜、お茶が冷めているわ。煎れ直して」

「はい、ただ今」

「咲夜、冷えてきたわ。膝掛けを持ってきて頂戴」

「はい、ただ今」

「咲夜、そろそろ寝るわ。準備をお願い」

「かしこまりましたわ、お嬢様」


一見すると子供の我が侭にしか見えないような命を受け、
十六夜咲夜は忙しそうに走り回っている。

「…まるで犬ね」

主人の命令には絶対服従。
どんな嫌な命でも尻尾を振りながら嬉嬉として実行する、あの頭の悪い生き物にそっくりだ。

「…何か?」

隣にいた次長が不思議な顔で聞き返してくる。

だから私は即席の笑顔で

「何でもございませんわ」

と返しておいた。



紅魔館のメイドに就いて今日で3日目。
私は相も変わらす不機嫌だ。

主に不満があるわけではない。
レミリア・スカーレットと言えば幻想郷に住む誰もが恐れるカリスマ。
仮にもそんな人物の下に仕えることができるというのだから、身に余るような光栄である。

館の環境も、僻地ではあるものの湖の真ん中という最高のロケーションで、不満などあるはずもない。

同僚…まぁ先輩達といった適当なのだが、
とにかく面倒見が良く、館に不慣れな私を気遣って色々と世話を焼いてくれる。

そう考えていくと、あれも良いこれも良いとなって収集がつかなくなってきそうだ。

だけども…はぁ…たかだか一点の曇りで、この薔薇色の生活にこんなにも影がさすとは思いもしなかった。

何もかもあの人間…十六夜咲夜のせいだ。

最初、この紅魔館に人間が居ると聞いたとき、大して驚きはしなかった。

何しろ主は吸血鬼だ。
だから、まぁ、「そういう」意味なんだろうと思っていた。
ところが蓋を開けて見ればとんでもない。
そうだと思っていたモノが、あろうことか自分達の仕事仲間で、
その上上司だって言うのだから悪い夢だというしかなかった。

「汚らわしい…」

力は無いくせに姑息で狡猾。
帰属意識が強く、一人ぼっちでは何もできやしない。
あの愚かしい生き物と同じ空気を吸ってると思うだけで反吐が出る。

あぁ、気分が悪い……



つんつん



肩に軽い感触。

隣を見ると次長が何かを小声で促していた。

「…ほら、ボーっとしないで。メイド長がこっちにくるわよ」

…メイド長?

耳から入ったその単語は直ちに頭で変換される。
そして出力。
要するに六夜咲夜のことをいっているのだろう。
次長が言うにはその十六夜咲夜がこっちに来ているらしい。

えぇ、だからどうしたのかしら?

「ほら、頭を下げて…!」

??

何を言ってるのか理解できない。
あたまをさげる?
お犬様に頭を下げろと?
あら次長、そんなの時代錯誤も甚だしいのではないのかしら?

促すのを諦めのか自分だけ難を逃れようとしたのか、次長は慌てて頭を下げていた。
…十六夜咲夜は目の前にまできていた。

「お、お疲れ様ですメイド長」

「お疲れ様ですわ、次長。………あら?」

十六夜咲夜の視線が私に止まる。
まぁ、当然と言えば当然か。
ナンバー2である次長が深々と頭を下げている横で、
ヒラの上に新米である自分が憮然と突っ立っているのだから。
しかも目には明らかな敵意の炎。
誰が見ても何事かと思うに違いない。

「………」

「………」

私は黙って睨み続け、十六夜咲夜も同じように黙ってそれを受け続ける。

その険悪な空気をいち早く察したのか、次長が慌てて間に割って入ってこようとする。

「も、申し訳ございませんわ。この娘はまだここに入ったばっかりで…」

そのとって付けたような言い訳を聞き終る前に、十六夜咲夜は次長を押し退けた。

目指すは私だ。

視線は依然私の瞳から離さず、ツカツカと迫ってくる。
当然、私も視線を外すはずがない。

ツカツカ

ツカツカ

そして停止。

敵は…目の前だ。

その状態で睨み合っていると、突然十六夜咲夜の腕が伸びてきた。
どうやらその手は私の胸倉に向かっているようだ。

…上等じゃないか。
やってやるよ、人間!
格の違いを見せつけてやる!!

……………

……………

「ネクタイ、曲がっているわよ」

???

「…えっ?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

そうして目線を下に下げてみると…
十六夜咲夜がいそいそと私のネクタイを直していた。

現状把握。

途端に私の顔は紅潮し、慌ててその手を振り払った。

「じ、自分で直せますわ!」

不覚にも声が上擦ってしまった。

十六夜咲夜はそれがおかしいのかクスクスと笑いながら、
「やっと口を開いてくれたわね」と小馬鹿にするように言い放った。

私の顔はますます紅潮し、ぐうの音さえ出なかった。

…悔しい!!


--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------


「悔しい!!」

悔しい悔しい悔しい悔しい…!!

私は鬱積した思いを思う存分発散させた。

そう、弾幕という形で。

「悔しい、悔しい!」

ここは紅魔館の中庭。
この時間帯なら誰も通らないであろうから、好きなだけ発散できる。
そもそも、私は紅魔館のこういう静かな環境が好きなのだ。
だからこそ余計にあの人間の存在が憎い。
憎い…憎い…憎い…

あぁ、思いだしたらまた腹がたってきた…!

「っ!!」

声にならぬ声をあげて思いのたけをぶちまける。

問題は無い。
ここには誰もいないのだから

…そう、誰も………


「うひゃ!?」

自分以外の存在を許さないはずの場所で突然人の声(悲鳴?)。
私は慌てて声のした方向を向いた。

「誰!?」

「あいたたた…
まず、謝るのが先じゃない?
まったく、最近のメイドは血の気が多くて困るな…」

…もっともだ。
威力を抑えていたとはいえ、私の過失には違いない。

「ごめんなさい…それで、あなたは?」

「紅美鈴。ここの門番をやっているわ」

紅美鈴?

…何か直ぐに記憶から消えてしまいそうな名前…
なんかしっくりこないというか…

「気安く美鈴とでも…」

「よろしく、中国さん」

何故この名が口から出たのかはわからない。
でも、こう呼ばないといけないような気がしていた。

「……ちょっと待って」

「何か?」

「あなたは初対面の相手をいきなりあだ名で呼ぶわけ?
いったいどんな教育受けてんのよ」

「ごめんなさい、口がかってに…」

「……………はぁ。まぁ、いいけど………」

彼女はもう慣れたという顔で溜息をついた。

「…それで、何であんなに荒れてたのよ?」

そうだ、何であんなに荒れていたのだろうか?
記憶の糸を手繰り寄せる。

……………うっ

思い出さなければよかった………
私の心に怒りの炎が再びポツポツと灯り始める。

「…あなたは妖怪よね?」

私は般若のような形相で彼女に詰問した。

「…当然でしょう?
ここをどこだと思ってんのよ。妖怪以外が…」

「いるじゃない」

「へっ?

………………あぁ、メイド長か。
あの人も妖怪じみてるからな~
人間だって忘れてたよ。

……って、あんた何でさっきからそんなに怒った顔してんのよ?」

「…あなたは我慢できるの?人間よ、人間!
あんな生き物とは一秒たりとも一緒に仕事をしたくないわ。そもそも…」

一度火がついたら止まらない。
私は胸の内を彼女にぶちまけた。

そうして一通り聞き終えた後、彼女は「ふーん」とだけ言った。

その態度が私の心の火を最点火させる。

「ふーん、ってあなた、人の話を…」

「聞いてるよ。要するにメイド長が苦手なんでしょう?人間だから」

「苦手」という言葉が気にはかかったが、まぁ、確かにそういうことなのだ。
しかしながら、いざまとめられるとどうも歯切れが悪く感じる。

そうして彼女はコホンと咳を一つ入れ話を仕切りなおした。

「そうだね、実体験を踏まえた上で言わせてもらうと…」

「言わせてもらうと?」

私の内心は正直わくわくしていた。
何故なら、同じ妖怪同士意見も一致して、あの人間の悪口に花を咲かせる事が出来ると思ったからだ。

「あんたは損をしているね」

「へっ…損?」

残念ながら、彼女の答えは私の期待の斜め上をいってしまった。
だけども、気になるフレーズがあった。
損…ですって?

「そう、損」

もしかして、視野が狭い、などと説教をするつもりだろうか?
生憎、そんな与太話に耳を貸すつもりはない。

「悪いけど、説教なら…」

「あぁ、違う違う。
そんなつもりはないよ。
単なる忠告…ってゆうかアドバイス」

説教をされるような雰囲気でもないと思ったので、私は黙って話を聞いてみることにした。

「この幻想郷には気がふれた奴がたくさんいる。
老若男女はもちろんのこと、人間妖怪を問わずでだ」

「つまり…何がいいたいの?」

回りくどい話は嫌いなんで早急に結論を求めた。

「君子危うきに近寄らずって言葉知ってる?
あんたのその狭い見聞は君子のそれとは言えないね」

「なっ…!」

結局、説教じゃないか!

「あんたの命に関わるかもしれないことだからね。
肝には命じておきなさいな」

「よ、余計なお世話だわ!」

本当に余計なお世話!
私の生き方は私が決めるもの、人にどうこう言われる筋合いはないわ!
そう思いながら、私は彼女を睨み付けた。

「まぁまぁ、そんなにカリカリしなさんなって。

…と油を売りすぎたかな。見回り見回りっと」

そういって彼女は身を翻した後、思い出したように一言付け足した。

「この館にいる限りは嫌でも顔を会わすんだから、まぁ、仲良くしましょう。
出来ればメイド長ともね」

「前者は喜んで、後者は全力でお断りするわ」

彼女は「あはは」と笑うと、その場を去って行った。


--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------


その夜、紅美鈴は昼間のメイド(たぶん新顔だろう)を思いだして苦笑していた。

「若いなぁ」

まぁ、妖怪なんだからあのような感情を持つことはおかしくない。
現に自分にもそんな時期はあった。
そう、あっ「た」のだ。
しかしながら自分は実際に、その目で見ているし、その体で体験もしている。
種族の垣根を超えた「強さ」というものを。

「百聞は一見に如かずなんだがなぁ…」

あれこれ思いを巡らしていると、ふいに目の前を黒い塊が通り過ぎた。

(また、あいつか…)

美鈴は重い腰を上げ、その黒い塊を一喝した。

「ちょい待ち!そう易々と何度も…」

言い淀む。

あれが自分が思っていた「それ」とは違うことに気づいたからだ。

黒い塊がこちらに振り返る。
身の丈は自分の遥か上。
体駆は布越しからでもわかるぐらい完成されている。
そして何より美鈴の鼻についたのは、そいつの溢れんばかりの殺気。

まいった…「あの類」の輩か…

美鈴はため息を一つついて、最近の不運を呪った。


--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------


「咲夜」

「いかがなさいました、お嬢様」

何の前ぶれもなくお嬢様が声をかけてきた。

「今夜は少し騒がしくなりそうね」

お嬢様特有の言い回しだ。
だから後に続く言葉はあなたが考えて頂戴、というニュアンスを含んでいる。

「………はぁ、『また』お客様ですか?
まったく…うちの門番は有能過ぎて困りますね」

「丁重におもてなして頂戴」

「かしこまりましたわ、お嬢様」

そうして、私はお嬢様の部屋を後にした。

--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------


ここは紅魔館の大廊下。
私は夜の見回り中。

「メイドってこんなことまでしなければならないのかしら…」

私はぶつぶつと悪態をつきながら、巡回を続けた。

「見回りなら、あの犬にお似合いじゃないの…」

相も変わらず、十六夜咲夜への鬱憤を口にしているうちに廊下の端に到着。

さぁ帰ろうと身を翻したとき、廊下に立ち尽くす人影に目が止まった。

「………!」

ギョッとした。

それもそのはず、廊下に佇むそいつの姿が普通ではないのだ。
全身黒づくめのローブに、白一色の仮面。
そして嫌でも目についたのが、そいつの両手に持たれた…鉈。
明らかに「見回り手伝いますわ」という感じではない。

 襲 撃 者

…その3文字が頭に浮かんだ。

(まったく、あの門番は何をやっているんだか…)

そんなことを考えても仕方のないことだった。
現に敵は目の前にいるのだから。

「ここがどういう場所かおわかり?直ぐに出て行かないと…」

私の忠告を無視して襲撃者は無言のまま歩を進める。

…へぇ、そう。
それが答えってわけね…上等じゃない!!


あなた通りたいでもわたし通さない

はい交渉決裂

話の続きは


「…弾幕でってことね」

それがここ…幻想郷のルールだ。

事態を一瞬で察知すると、私はすぐ様行動に出た。
瞬時に使い魔を召喚。
1体、2体、3体……召喚終了。
目標は目の前のお馬鹿さん。
さぁ、一斉射撃!!

私が手を振り下ろすと同時に、使い魔から弾幕が発射され、瞬く間に襲撃者を飲み込んだ。

しかし、手を休めるつもりはない。
そのままひたすら撃たせ続ける。

囲め、囲め、囲め、囲め、囲めぇ…!!
私の弾幕で発狂するがいいわ!!


ヒュッ


その時何かが私の横を通り過ぎた。
そしてそれを認識すると同時に、私の左後ろに展開していた使い魔の気配が消えた。

「な、に…?」

状況を確認しようと後ろを向いた、と同時に背中側から「何かが」通り過ぎていく。

それは複数。

ひとつひとつを認識出来たのは…皮肉にも使い魔に被弾したときだ。
1体、2体、3体…と今度は召喚の逆のプロセスで、使い魔が消えていく。


…そうして目の前には誰もいなくなった。


「う、うそ…」

嘘だ。
こんなにもあっさりと?
私の使い魔たちが?
嘘だ。
嘘だ!

…しかしながら、後ろのバケモノは自問の暇も与えてくれない。
その冷めた殺気が私に向けられて…

「!!」

瞬時に体を捻る。
奴の弾を見る暇など無い。
ただ、ただ奴の直線上に立つのは…

…まずい!!

今度は3発…狙いは私の心臓……
って、えっ!?
心臓って、そんなの…「死んじゃう」じゃない!!

私は必死の思いで、体に捻りを加えた。

一発は私に触れることなく通り過ぎ、2発目は私の左肩をかすり、3発目は…

「あぐぅ…!」

私の左肩に深く喰い込んだ。

そのまま私は無様にも床に倒れこんでしまった。

ちくしょう!
私の「負け」か…

こうして弾幕ごっこは終わり。
襲撃者の勝利で幕を下ろしました。
あぁ、お嬢様、申し訳ございません…私、ダメなメイドですわ…



………………って、何よあんた。
何で「こっち」に歩いてくるわけ?
早く先に進めばいいじゃない。
「勝った」んだから、さ。
まぁ、せいぜい先輩たちやお嬢様に弄られるの関の山だと思うけど。
あはは。


しかしながら、襲撃者はこっちに向かって歩を進める。

1歩、2歩、3歩…
私が使い魔を召喚するように、相手を追い詰めていくように。

えっ、えっ?
何でこっちにくるわけ?
こっちは廊下の端だよ?
行き止まりだよ?

…あんたとの縁は終わったはずよ。
ここに来る必要は無いんじゃない?
来なくてもいいんじゃない……かな……

……来ないでよ。

いや、来ないでよぉ!!

襲撃者は私の目の前にくると気だるそうなモーションで、右手の鉈を振り上げる。

「ひっ……」

私は殺されるの?
何で?
理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理

解できない理解…………………







そうして私の時間は停止した。












to be continued…
リメンバー、十六夜 咲夜!!
って感じで、かっこいい咲夜さんのへの原点回帰を目指してます。

前半では大して活躍しなかったけど…
so
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1570簡易評価
0. コメントなし