Coolier - 新生・東方創想話

宵花火

2005/02/10 09:21:12
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 高く高く、遠吠えのような音を道連れにして、光が空に昇っていく。
 ひとつ、ふたつ……。
 宵闇の色に染まった空に昇り、

 ────────どん!

 大気を震わせてきらめく華、花弁は散りゆく光の残滓。
「ああ、そうか……。今日は、そんな日だったな」
 それを見上げて上白沢慧音(かみしらさわ けいね)はつぶやいた。
 竹林の道、三日月が傷付いた身体を冷たい光が照らしている。その光は積もった雪の白と相まって、彼女から流れる赤をいっそう際立たせていた。
 ……にしても、酷い格好だろうなあ。
 つい腰を落としてしまったらこのざまだ。
 楼閣の頂上、もしくは香炉に似たトレードマークの帽子は、広げた左手の先に転がっている。複雑なパターンを裾に施した青いスカートにはかぎ裂きができている。ただ、わずかに青が交じった銀髪は輝きを失っていない。
 傷は浅い。だが、疲労が深かった。
 目を閉じる。

 ────────どん!

 また、空に花が咲き、横たわる慧音の耳に里の皆の声が届いた。
 ……届いた気がした。
 私としたことが、あの里ならではの冬祭を忘れていたとは。こんなことなら、ちゃんと妹紅を誘っておけばよかった……。

 ────────どん!

 そんな思考は光と音にかき消される。服を濡らす雪の冷たい感触が、どうしてか心地よかった。
「妹紅(もこう)は、見ているだろうか」
 そんなつぶやきも季節外れの花火に飲まれ、慧音の意識は記憶の中へ飛んだ。

                      ◇ ◆ ◇

 今日はひさしぶりに妹紅の元へ行った。相変わらずというかなんというか、野人のような食生活をしているので、持ち寄った食材でちょっと御馳走っぽいものを作ってやったのだ。
 優雅にしようと思えば幾らでもできるのに、そのための知識も経験さえもあるのに、藤原妹紅はこの気ままな生活を改めようとしやしない。
「栄養には均衡というものが存在する。そもそも、まず食べられれば良いなんていうのは、本当に窮乏した時であって……」
「いいじゃん、そんなのー。野菜だけーとか、肉魚だけーとか、そういうことしてるわけじゃないんだし」
「そういうことではない。私が言いたいのは……」
「ああ、大丈夫大丈夫、心配ない無い」
「……?」
「だって、ときどき慧音が来てくれるもん。慧音のご飯は一事が万事、そりゃあもう万全だから」
「…………食事を喜んでくれるのは嬉しい。だが妹紅、私は、」
「ほらほら、せっかく美味しいご飯なんだから慧音も食べて食べて! あ、私おかわりね」
「……わかった」
 懇切丁寧に忠告しようとしているのに、こんな風になってしまうのだ。
 最近は妹紅が“要領”を憶えてしまったものだから、慧音は「どうやって話を聞かせるか」ではなく「どうやって誘導されないようにするか」を考えなくてはいけなくなってしまったのである。
 いやはやまったく、どうしたものか。とは思うが本当のところこういうやり取りは嫌いじゃなかった。むしろ好ましいと感じてしまい、忠告しなければならない側がそんなことではどうする、と葛藤していたりするのだが。妹紅はどう思っているだろうか。
 ただ、確かな思いは一つ。
 復讐の妄念に憑かれ、それだけに生きるよりは遥かに良い。だって、あの子は人間なのだから……。
 竹林の外まで送る、という妹紅の申し出を「ほう、人恋しくなったか?」とからかい交じりに断ってみせる。
 すると彼女は慌てたように「そういうつもりで言ったんじゃないー」とちょっと向きになって返してきた。この点、完全に子ども扱いできるぶん慧音に利があるので、妹紅にはやり返せない一撃だから。
 そうして、その夕刻に慧音と妹紅は別れた。

                      ◇ ◆ ◇

 油断をしていたつもりはなかった。
 暗い闇が降りる夜。力ある半獣の身であっても向かってくる輩はいるし、この道は刺客が通る道でもあるのだ。
 中でも特に気を付けなければならないのは満月の夜。
 長い長い竹林のその先、妹紅の元で輝いているような月。その磁力に引き寄せられるようにして、様々な刺客がこの道を走る。姫の命を受けて、主の仇敵を狩る為にひた走るのだ。
 はじめは狐かと思った。
「どうした、道に迷ったのか? この先には食いしん坊がいるぞ。──出口がわからないなら、私と一緒に行くか?」
 かなり大きな獣だったが、あえて慧音はしゃがんで声を掛けた。獣が言葉を介さないのは当然分かっているが、この際必要なのは語り掛けているという事そのものなのだ。
「ほら、おいでおいで」
 慧音は優しく語り掛ける。 引き締まっていることの多い表情をなごませて、そっと手を差し出す姿は普段からは想像できないくらい可愛い。そうすると、小柄で微妙に少女趣味がにじんでいる格好とこの上なく合っているから。
 空に三日月が顔を出した。

 光───月の白が作り出す暗がり。
 闇―――夜の黒が描き出す明かり。

「……!?」
 それの一瞬の交錯が慧音の感覚を奪った。思わず獣から目を逸らし、空を見上げる。また月がおかしくなったのか? と一緒に思考も獣から逸れる。それがいけなかった。
 音もなく衝撃が、
 なんの前触れもなく生じた爆圧が、慧音に襲いかかった。完全な不意打ち。加えて体勢が悪すぎ、威力が大きすぎた。とっさに防御方陣を作りはしたが、そんなものがなんの足しになろう。
 どうにもならないまま、地面から引きはがされた。
「くぅっ!!」
 遅れてくる痛みは全身に取り憑いていた。
 そっと肌に雫が触れたような感覚はやがて、突き刺すような痛みに転じていく。続いて鉄のような重み、もわっと錆びた臭いが鼻を衝く。
 ───く、そういうことか!
 晴れる視界。その先には、体中に幾つもの顔を浮かび上がらせた獣の姿。すべて牙を剥き、いまにも飛び出しそうほど吠えている。その中央、“最初の顔”は泥細工が崩れるように溶け落ちる。すなわち、フェイク。
 そして慧音の、右腕、左肩、右腿と左脚に、首だけの獣が食いついていた。間に合わせの防御方陣などあとかたもない。
 油断していたつもりはなかった。だが、甘く見ていたのは事実かもしれない。妹紅の宿敵、月の姫という彼女の力を。獣の耳は長い。狂暴な形相に添えられた、嫌味のように長い兎の耳。
 それを妹紅にけしかけたということ。
「……ひとを莫迦にするにも、」
 怒りの衝動を感じながらも、しかし慧音は焦らない。食いつかれたままの腕を腰だめに構え、叫んだ。
「大概にしろーーーーっ!」
 まばゆい閃光が彼女の全身からほとばしり、瞬時に最大まで引き上げられた霊力がまとりわつく牙どもを消し飛ばす。
 霊撃。
 幻想郷に住まうさまざまな人妖でも力のある者が、なにより己の力を知る者のみが使える秘技だ。この二つが伴わなければ力を放出しきって倒れるか、制御しきれずに自滅するかのどちらかだろう。
 もっとも、己が何であるかを知らない者が幻想郷にいるはずもないだろうが。
「お前がただの使い魔だろうが、己の意思で動いていようが、」
 しかし、いかに慧音といえどもいまの一撃はこたえた。少しばかり強めに放ったからだ。バックロードがきつい。
 がくん、と最も深くダメージを受けていた左肩が落ちる。
 それを見、すかさず頭(かしら)の数を増やして打ち出す獣。本体から離れる際、筋肉が収縮して跳ねるので、射出というより投擲に近い。しかもそれは飛来している最中にまた分裂を繰り返す。
 その軌道は緩やかな紡錘形、ぐぐぅっっと曲線を描き、大男が両手を広げるように咆哮響かせながら殺到してくる。
「そんなことは知ったことではない」
 近距離。
 狙いすました飽和弾幕。それらすべてが、牙、牙、牙、牙、牙、牙。空腹の飢えではなく、殺戮の餓えを満たすべく、ただ一人の少女を目指す。収束する。
 だが、
「だが、あの人間を狙うのなら、貴様は私の敵だ!」
 声だけ残して慧音が後方へ飛び退く。もちろん逃げの為の後退ではない。それはあきらかに戦いを知る獣の動き。地面についた繊細な左手さえも強靱な脚。そのまま身体は空中へ。
 しかし、あちらも獣。狩りをはじめた牙は止まらない。
 収束した交点からもう一度、さっきより細い紡錘形───槍の穂先のような形を描いて獲物を食らおうと突っ込んでくる。
 また、近距離。
 その手前で、慧音は符を掴み取った。
「───『国符・三種の神器』」
 宣言は速やかに、召還された式神は戦陣を敷き、剣が、勾玉が、鏡が、空中に──慧音の側に顕在化する。彼女はその配置を見もせず腕を伸ばす。右手が緑宝の剣を掴む。鋼よりなお鋭い葦刈りの青銅(あおがね)。そして前面に出るは勾玉!
 牙の先頭はあとわずか、およそ四間。すなわち七メートルほどしかない位置に、
「車狩り!」
 慧音の声に式神が奔(はし)る。収束する牙の側面を突くように弧を描き、青赤(せいせき)の鉱石弾と光も環(わ)を帯びた黒弾が突撃する。さながら宙に勾玉の姿を映しださんとするように、ほの白い珠炎(たまほむら)──式神の列は食いつく牙を爆散して喰い破り、閃光だけ残して敵を討つ。
 されど、牙の方が上を行く。数の暴力が陣形を突き崩さんと邁進し、雲が月を隠す暗闇でもはっきりと浮かび上がる慧音の白い喉に、
「あまり私を安く見るな!」
 流れ出る血で彩られた宝剣が迫るすべてを刺し貫いた。
 もちろん刃それで止まらない。勢い、走る、銀と青の閃光、その形は少女、左右を護るように追随する鏡と珠、これこそが国体の表象。光に触れるものは爆ぜるように飛び散り、砕け散り、獣の牙はそれ以上の半獣(けもの)の牙によって喰い潰されていく。
 飽和弾幕が晴れていき、正面を指して迷わない切っ先が狙いを定める。
「私の敵になったからには、相応の覚悟は出来ているのだろうな───!」
『!!』
 喰い殺そうと展開した牙どもを逆に喰われ、獣ははじめて自分以外の獣に戦慄した。焦り、戸惑い、ためらい、………………畏れ?

 おぉぉおぉぉっぉぉぉぉぉーーーーーン!

 共鳴する雄叫びは果たしてなんの為のものか。時間を巻き戻すするように再びふくれあがる身体、猛る牙、放たれる無数の頭。
 ───非減数分裂?
 追いついてきた式神を従えつつ、上昇する慧音の思考はどこまでも冷静だった。上げすぎた速度をきりもみ旋回で殺し、不愉快な獣を睨み付ける。戮滅(りくめつ)の舞を演じながらもその横顔は生真面目に引き締められていた。
 全ての歴史を知る彼女が敵を侮るはずも、ない。
「そんな力を持つ獣、そんな歴史など、」
 獣はなぜ己が畏れを抱いたのかがわかなかった。しかし無理も無かろう。彼は幻獣、妖獣の類ではなく、狂った魔術師が産み出した人工生命にしか過ぎないのだから。
 自分が幻獣どころか神獣の化身を相手にしているなど思うはずも、ない。
 そして当然、慧音はその正体をもう悟っていた。妹紅の仇敵はたまたま手に入れたそれをけしかけたに過ぎないのだろう。
「私が無かったことにしてやる!」
 流れる血が宙にかすかな輝線を残し、銀と青と白、そしてわずかな赤がひるがえる。

 おぉ、っぉおっぉっぉぉ、ぉーーーー、ーン!

 獣の咆哮は統一を失ってぶれ始めていた。それでも構わず、なりふり構わず、牙を一斉に打ち出す。落とせ、墜とせ、あの娘を喰い殺せ。すぐそこにある死の命運を叩き潰せ。
 数の暴力は健在。
 畏れから個を隠し集団で群れ合う愚者のように、獣の牙どもは寄り合い、渦巻き、螺旋となって慧音へ向かう。
「…………」

 ほんの一瞬だけ半獣の瞳に悲しげな色が浮かんで、消えた。

「八紘(はっこう)!」
 残っていた八基の式神が円を描き、さながら観音像の光輪のように彼女の周囲を取りまく。二つの正の形が描く星、八紡星──結界式。回転し、高められていく霊力は光景を歪める。
 迫る牙の螺旋、骨の色の錐(きり)。
 慧音はかわそうともしない。
 引き延ばされた時間の中、距離指数が零になり少女の姿が乱流に飲まれ──
 ──全くの無傷で姿を現した。
 攻撃こそ最良の防御。圧倒的な戦意をまとったその姿は幻影の盾のごとく、群がる牙どもを寄せ付けない。
「天津(あまつ)!」
 右手が剣を放す。式神は次の陣を組む。三種の神器、そのカタチを現出させた霊力の結晶はそれらの核となり、慧音を中心に三角を、

 ───『未来・高天原』。

 光景(せかい)が変わった。
 三日月をたたえた宵闇に幾つも浮かぶ赤茶色の輪──歴史の糸を紡ぐ桐車。天から降りる夜明けの光のように一瞬で消える、しかしあまりも鋭い無数の輝き。
 光が消えた跡へまた光が差しまたたく間さえ光。
 それは誰かの影のようであり、どこかの景(かげ)のようでもある。 中心から拡がっていく、赤い鉱石弾はさながら日輪。
 そんな幻想を獣は見る。
「         」
 夜空に切り開かれた黎明の中心。たたずむ、赤き瞳に消え去る歴史を映した少女がなにかを言った。
 ありえないはずだった身体を灼かれながら声を聞いたが、獣はそれを言葉として理解することはできなかった。
 それが、獣の見た未来だった。

 ────────どん!

 遠くで花火の音が聞こえた。

                      ◇ ◆ ◇

 目を開けると、そこには懐かしい顔。
「いや、懐かしくもないか……」
「なに言ってんの、慧音?」
 妹紅の声は心配そう、というより不思議そうな響き。突拍子もないことを聞かされて戸惑っているような感じだった。事実その通りだが。
「あ、妹紅か。どうした?」
 その言葉に妹紅は一気に脱力したようだった。おおげさに「はあぁぁぁ」と息を吐いてのろのろと手当てを始めようとする。怪我の程度が大したものじゃないとわかると、また一つ息を吐く。
「……慧音、あのさ」
「なんだ?」
「あいつだね」
 それは質問ではなかった。
「あいつがまた刺客を寄越したんだね。私を殺す為にどうせ野兎かなんかになんかとんでもない使い魔を化けさせて襲わせようとしたんだろ? あの性悪姫ろくな事考えないったらありゃしないっ。でも大体けーねもけーね! 私にやれ食生活がどうのとか行儀良くできるくせに不作法をするのは……良く憶えてないけどそういうのとか、油断だとか、他にもとかとか言うくせに自分が思いっきり油断してちゃダメじゃん! もう別に刺客なんてほっといていいんだから、あいつ……輝夜ッ、」
「……妹紅、痛い」
「あ、」
 どんどん支離滅裂になっていく言葉を慧音の嘘が止めた。荒れていく言葉とは裏腹に、妹紅の手は優しかったので痛みなど無い。だが、そう言った。

 ────────どん!

 花火の光が慧音の横顔を照らす。
 穏やかにこちらを見つめる琥珀の瞳を、妹紅は綺麗だと思った。
「……ごめんなさい」
「うん」
 しばらくは無言。
 慧音はかつて自分が教えた通りに、治癒の護符を布に貼り付ける妹紅を見ながら少しほっとした気持ちになる。
 ずっと見てきた。
 狂気に飲まれる姿だって見たことはある。刺客を殺し、それでも高まる力を収められず空を焦がしていた姿をどうにもできずに見上げたこともある。
 確かに、輝夜への妄執は消せるはずもないだろう。
 だが、その妄執に飲まれ己を失ってしまうようなことはもう無いような気がする。それはもう大丈夫……そんな気がするのだ。
 ──あの人間と妖怪たち。
 皮肉なことに、輝夜にけしかけられて“肝試しだけのために来た”連中とのやり合いが、裏表のない弾幕合戦が、妹紅に何かを与えたようなのだ。

 ────────どん!

 またたく花火の下、慧音はそっと笑った。
「妹紅」
「なに、慧音?」
 呼びかけに妹紅が顔を上げる。自分の血で汚れてしまった頬を拭ってやってから、慧音は続きを口にした。
「祭に行かないか。……さっきまで忘れていたのだが、里で冬祭があるんだ」
「ああ、それで花火なんか上がってるのね。って、慧音が忘れてた?」
「ん、まあ、そのなんだ……ころっと」
「慧音らしくもないね」
「まったくだ」
 雪を払って立ち上がる。花火が止まったのは中休みか? 行こうかと慧音が誘うと「そんな怪我をして何言ってるんだ」と妹紅が言う。それを受け止めて知識と歴史の半獣は笑った。
「この程度なら大したことはない。それに───そんな歴史はすでに無かったことになっている」
「……本当に大丈夫なの?」
「当たり前だ。私を誰だと思っている」
 乱れたスカートを直し腰に手を当てて言い切ってみせると、妹紅はなぜか意地の悪い顔をした。
「それなでもさ、けーね」
「な、なんだ? ……わ、とっ」
 ひょいっという感じに妹紅は慧音を抱え上げる。身長差からやすやすと、お姫さまの位置に収められてしまう。状況を把握するのに一瞬も要らない。こういう扱いにまったく慣れていない慧音はうろたえる心を抑えきれず、表現に困った感情は赤面を作った。
「莫迦、そんな気遣いは無用だ」
「えー、でも慧音、怪我人だし。『怪我人は大人しくしているものだ』って言ったの、どこの誰だっけ? けーね」
「く…………」
 ここで自分の台詞を引用されてはたまらない。慧音は諦めたようにうつむいて、身体の力を抜いた。転がっていた帽子を妹紅が差し出す。それを無言で受け取って胸に抱きこむ。まるで子どものようだと自嘲するが、勢いラストスペルを使ってしまった疲労にぬくもりが心地好い。
「でもさぁ、どうして今日はお祭りなの? 毎年無いじゃん」
「去年の冬が異様に長かったからだ。誰かがどこかから古文書を見つけてきて、今年はそうならないようにと古の祭の再現を企画したらしい」
「ふーん、人間は相変わらず変なことが好きだね」
「……そうだな」
 お前も人間だろう? とは言わなかった。
「あ、そういや私っていま顔出して大丈夫かな? かなーり久しぶりな気がするんだけど」
「私と一緒なら平気だろう。……もしかすると、憶えているものがいるかもしれないな」
「えー、そうかな? だって前に里へ行ったのって……あー、あー、まぁ百年はいってないと思うけど」
「六十年前だ」
「うわ、さすが慧音だ。油断してても歴史は間違えないよ」
「だ、から、油断云々のことは……」
「あー、ほらほら騒がない騒がない、『怪我人は……」
「それはもういいっ」
 等々……妹紅優勢のまま仕様もない言葉たちが行き交う。雪化粧された竹林の中、月と星に照らされて半獣を抱えた蓬莱人がてらてらてらてら歩いていく。
 雪道には一人分の足跡と、二人分の影。
 心地好いぬくもりの中、慧音はそっと瞳を閉じた。

 ────────どん!

 夜空に咲くのは、季節外れの光の華。
 さながら弾幕のような、彩色豊かな宵花火。それはこの里特有の春を呼び込む、人々の願いの形。
 ───いや、きっと弾幕よりも切ない幻想だ。
 瞼に触れる光を感じてそんなことを思った。
「なんか言った、慧音?」
 妹紅が声を掛けたとき、慧音は穏やかな寝息を立てていた。
 幻想郷の夜は平穏でちょっとだけ騒がしい。いまも、いままでも、これからも……。
 出来が微妙なので迷ったのですが、だからこそと思い、二度目の投稿に踏み切りました。
 私見ですが、永夜抄の中で式神をもっとも美しく使うのは慧音だと思うのですよ。陣形という発想はそこから、三種の神器については第二回最萌での数々の支援絵にヒントをもらいました。
 そんなわけで思いっきり戦闘させてみました。当然ながらはじめての試みだったので、大げさにしすぎたかなぁ……という反省があります。バランス取りは難しいですね。
 と言いますか、好き勝ってやり過ぎてごめんなさい。
 最後に、慧音は格好良くて可愛いのです!(爆)
あおぎり
http://homepage3.nifty.com/studio_shisiki
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