Coolier - 新生・東方創想話

おっきくなりたい!

2010/04/21 01:37:15
最終更新
サイズ
10.54KB
ページ数
1
閲覧数
1763
評価数
5/41
POINT
2050
Rate
9.88

分類タグ

 『どんな大人になりたいか』。

 誰もが一度は夢想する
 或いは、歳の近い童と語り合う。
 そんな夢を見る特権は、何も人間だけのものではないだろう――。





「あたい、おっきくなった!」



 ところは、妖怪や妖精、果ては人間までもが足を運ぶ夜雀屋台。
 時刻が早い所為だろう、客はおらず、いつもの少女たちが賑やかに話していた。
 いつものとは、‘夜雀‘ミスティア・ローレライ、‘蟲の王‘リグル・ナイトバグ、‘妖猫‘橙、‘宵闇の妖怪‘ルーミア。

 そして、元気よく両手を広げ宣言した、‘氷精‘チルノ。

 チルノに対する反応は、以下の通りである。

「ぺたんこのままじゃん」
「そこの話じゃないと思うよ」
「いーないーなぁ」
「じゃあ、私と同じくらいになったのかな」

 以上。
 誰がどの発言かは考えてほしい。
 ヒントは、紹介した順だ。お忘れならば読み返していただきたい。

 それはともかく。

「だって、こないだお昼寝してる時、『鼻がくすぐったいわ』っておねーちゃんが言ってたもん」

 ‘おねーちゃん‘とは、霧の湖に住む、通称‘大妖精‘のことだ。

 顔を合わせる一同。

 チルノが大妖精の膝に座り、昼寝をしていることはよく知っている。
 各々から聞いた話というだけでなく、何度となくその光景を目撃していた。
 抱く氷精に向けた慈しむような表情に浮かべられていたのは、恐らく微笑みだったのだろう。

 そう、恐らく――チルノの髪により、その口元は隠されていた。

 チルノが嘘をついていなければ、大きくなった、より正確には、背が伸びたと考えられる。

「仮説一。静電気で髪が逆立っていた」
「もしくは、大ちゃんが縮んだとか?」
「もぅ、なによぅ、ミスチー、リグル!」

 この場の誰も、彼女が嘘をつくなどとは疑っていなかった。

 頬を膨らませるチルノに、ミスティアとリグルは手を広げ、苦笑しながら怒りを宥める。
 けれど、五名の中では比較的知識が豊富な彼女たちは、内心で疑問に思っていた。
 種族として妖精は成長しづらいはずなのだが、と。

 疑ったりはしないけど勘違いはあり得るよね、とアイコンタクトを交わし、ミスティアとリグルは頷き合った。

「うがーっ」
「おさえて、おさえて、チルノ!」
「だったら、今、測ってみようよ」

 暴れだすチルノをルーミアが止め、橙が建設的な提案をする。

 なるほど、と頷くリグル。
 一方、ミスティアは首を捻った。
 薬師兼女医のいる永遠亭ならいざ知らず、此処には身長計など、当然ながらない。

「あ、メジャーならあったかも」
「チルノってルーミアより小さかったよね」
「背中合わせで目測ですね。わかります」

 言いつつも、それは測定じゃねぇとミスティアは、心の内で突っ込んだ。

「む。負けないよ、ルーミア!」
「私だって負けないもん!」
「てやーっ」

 無論、興が乗ってしまった二名に届く訳がない。

 無駄に両腕を広げるルーミア。
 合わせるように、チルノも万歳ポーズをとった。
 そんな二名を、見間違える訳にはいかないと橙がじっと凝視する。

 どこか哀愁漂うミスティアの背を、リグルが軽く叩き、微苦笑を浮かべてみせた。



 チルノとルーミア。

「どう、橙? あたいの方が大きいよね!?」
「わ、チルノ、動かないで。首がこそばゆいよぅ」
「前はそんなことなかったし、やっぱりおっきくなってるみたいだね」

 目測云々のレベルですらなかった。



 ルーミアと橙。

「ほとんど同じだったよね?」
「待って待って。んー! っと、ミスチー、どうかな?」
「ちょっとだけど、橙のが大きい。……耳って自由に動かせたんだ」

 ずっこい! とルーミアは叫んだ。



 橙とミスティア。

「んー! んーっ!」
「今明かされる私の身長! 実は紫並み!」
「や、そもそも、私もミスチーもちゃんとした数字は……あー、永遠亭で測ってもらったっけ」

 健闘むなしく、僅差とは言え、橙はミスティアよりも小さかった。



 ミスティアとリグル。

「え……と。今のところ、どう見てもリグルのが高いよね」
「う、うん。私、冬の後って伸びてることが多いし……」
「いーから早くくっついて! 測れないでしょ!」

 一向に背を合わせようとしない二名に、外野三名が突っ込みをいれる。

 結果、やはり、リグルの方が高かった。



 全員の測定が終わった後、再び少女たちは輪になった。
 手には、屋台の名物、八目鰻の蒲焼が握られている。
 時刻が少し下り、日も傾き始めていた。

 口いっぱいに蒲焼をほうばりつつ、チルノがぼやく。

「むー、勝てると思ったのにぃ」
「でも、ほんとに大きくなってたよね」
「私も私も! あとちょっとでミスチーを抜けるよ」
「……へ? あ、えと、何か言った?」
「もう、聞いてなきゃだめでしょ」

 途端、姦しくなる少女たち。
 誰かが口を開けば全員が追随する。
 尤も、少女に限ったことではないだろう。三人寄ればなんとやら、だ。

「あはは、ごめん。えっと……?」
「……橙、もう一回お願い」
「リグルも聞いてないじゃない!」

 一部、ぼぅとしていたようだが――。

 言い直す橙にミスティアとリグルは頷き、ルーミアが後を繋ぐ。

「ちょっとずつだけど、皆、大きくなってるんだね」

 一様に首が縦に振られる中、チルノだけは驚愕の表情を受かべていた。

「皆、大きくなるんだ!?」

 一般的に、妖怪の成長速度は然程早くない。
 理由として寿命の長さがあげられがちだが、確たる証明は未だされていない。
 そも妖怪と一口に言えど含まれるのは千差万別の諸々だ。
 この場にいる者だけでも、夜雀、蟲、猫、闇もしくはその眷属、とバラエティに富んでいる。
 仮に過去、考証家がいたとして、匙を投げても仕方のない話であろう。

 ――とは言え、チルノの驚きは聊か失礼と言えなくもない。

「いや、あんたに言われたくはな――ぁ痛」

 軽口を叩こうとしたミスティアの頭を、リグルが軽く手の甲で小突く。

 『珍しく正論だったんじゃないかなぁ』
 『だとしても、そーゆーことは言わないの』
 『むぅ』
 『それに、ほら』
 『ん?』

 顔を向けるミスティア。
 リグルが小さく眉根を寄せる。
 ミスティアは唇を突き出したが、リグルの指に、会話を続ける三名へと視線を促された。



「じゃあさじゃあさ、どんな風に大きくなりたい!?」
「う? うーん……考えたこと、なかったわ」
「えっへん、私はあるよ!」

 勢いよく尋ねるチルノ。
 ルーミアが小首を傾げる。
 一方、橙は胸を張り、応えた。

 ――既に、話は次へと進んでいたようだ。

 三名の様子にミスティアとリグルは顔を見合わせ、微苦笑を浮かべるのだった。

「それじゃあまず、リグルから!」
「へ……わ、私から!?」
「さっきの結果から。こういうのって後になるほど言いにくくなるもん」
「その割には余裕だねぇ、橙」
「うーん、うーん……大きくなったら……うぅん」

 腕を組み、唸るルーミア。
 肩を竦めるミスティア、更に胸を張る橙。
 顎に手をあて視線を上空に彷徨わせるリグルに――チルノは、不敵な笑みを浮かべた。



 リグルの場合。

「えーっと、出鼻を挫くようだけど……あんまり大きくならなくてもいいかなぁ。
 あ、いや、そりゃぁ背も他のとこも、もうちょっとは欲しいよ? 
 だけど、そんなに大きくなくても……。
 ほら、私って、今でもほどほどに背はあるじゃない。
 だからね、うんと、理想は、ドレスを着てもおかしくないくらい、かな」

 頬をかき、リグルは照れ笑いを浮かべた。

「でも、一番おっきいのはレティよ?」
「そんなことないよぅ。一番は……あ!」
「大ちゃんはミスチーと同じくらいだったよね?」

 不思議そうに問うチルノに、ルーミアは首を横に振り、橙がミスティアの服をつまむ。

「ん……そだね」

 返答は、弁のまわるミスティアには珍しく、言葉少なだった。



 ミスティアの場合。

「あ、次は私か。
 やっぱ乳だね、うん。
 ばいーんと、ぼいーんとね。
 お尻もぼちぼち。ぼんきゅぼんが理想?
 ……でも、何より、今は背が一番、伸びてほしいな」

 先細る言葉は、その割に、確固とした響きがあった。

「ごちそうさま」
「もう、食べるの速いわ。もっと味わって!」
「私、まだ熱くて口も付けてないのに。……どったのミスチー、もごもごして」

 ミスティアは、視線をチルノから橙に移し、結局、曖昧に口を閉ざした。

「チルノ、よかったら食べる? 私、……お腹、一杯だから。――伸びると、いいね」

 蒲焼をチルノに手渡しながら、リグルが微笑み、言った。



 橙の場合。

「んーふふ、私は具体的だよー。
 背は百七十前後で、胸は……胸は……あれ?
 ともかく、ぼいんって感じ!
 髪は短く……あー、でも、長くしてもいいな。
 そんで勿論、尻尾は九本!」

 然程具体的ではなかった――言葉だけを聞けば、だが。

「要するにさぁ、橙は、藍先生か紫っぽくなりたいんでしょ?」
「ふふ、やっぱり、かな。だから、イメージもしやすかったんだね」
「尻尾の数はもっと多くてもいいんじゃない? 二倍でどーんと十八本!」

 何百年、或いは何千年かかるのか。チルノの意見に、ミスティアとリグルのみならず、発言者の橙すらもが首を横に振る。

「あうぅ、また被ったぁ」

 故に、ルーミアの嘆きは誰にも届かなかった。



 ルーミアの場合。

「ことごとく皆とおんなじで、ちょっと悔しいんだけど……。
 最初はね、リグルみたいにそんなに大きくならなくていいかなって思ったの。
 でも、ミスチーと一緒の背格好もいいかなーって。
 でもでも、いっつも膝を借りているから、今度は私が貸してあげたいわ。
 うん、だから、幽香よりも大きくなりたい!」

 幽香――‘四季のフラワーマスター‘風見幽香は、彼女たち共通の‘知人‘だ。

「あー、あいつ、きっと泣いて喜ぶよ」
「言いすぎじゃないかな。藍さんや紫じゃないんだし」
「ちょっと待ってリグル、なんで藍様や紫様が泣くの前提なの!?」

 両手を上げ下げしつつ、橙が牙をむく。
 だが、多数決では『泣く』方が有利だった。
 ニ対一。ルーミアは首を傾げ、チルノは腕を組み笑っている。



 四名の理想が出そろった今、それでも、チルノは不敵に笑っていた。



「ふっふっふ、皆、スケールが小さいね。あたいが一番!」



 そり返りそうな状態での宣言に、皆が思い思いに返す。

「ほー、こりゃ流石はチルノさん、ではではお聞かせくださいなっと」
「そーゆー言い方もしないの。けど、気にはなるね」
「紫様よりも大きいヒト……勇儀様や山の上の神様、あ、香霖堂の店主とか?」
「霊夢や魔理沙よりは大きかったと思うけど……どうなんだろ」

 もろもろの感情やら期待やらが込められた視線が、チルノへと向けられた。

 けれど、意に介さないチルノ。
 重圧を楽しむかのような表情だ。
 右腕をあげ、人差し指を天に突き出す。

 笑みはそのまま、チルノは、高らかと吠える――。



「あたいの目標は! アリスの人形よりおっきくなることよっ!」



 ――日に照らされた小さな体は、とても、とても大きな影を生み出していた。

 以下、それぞれの反応。

「や、あの子たちよりはもう十分に大きいじゃん」
「……だよね? えっと、確か、上海、蓬莱」
「オルレアン、和蘭、露西亜、ろんどぉん」
「そーなのかー?」

 ミスティアは呆れ、リグルが指を折り、歌うように続けたのは橙。
 ルーミアだけが首を傾げていた。
 以上。



 しかし、一同の視線などどこ吹く風で、チルノは、ただ同じ姿勢をとり続ける。
 瞳に浮かぶ色は、どこまでも純粋な決意だった。
 ただただ大きくなりたいと言う、願望。

 童が望む、最初の願い。





 少女たちは輪を作り、再び姦しく語りだす。

 とりとめのない会話。
 翌日には忘れるであろう他愛のないお喋り。
 けれど、彼女たちにとっては、今話さなくてはならないお話。

 誰にだってあり得た、くだらない、どうでもいい、――かけがえのない時間が、流れていた。



 『どんな大人になりたいか』。

 例えば、理想の自身。
 例えば、誰かのために。
 例えば、目標への一歩として。
 例えば、同じになりたいと、思う。

 そして、そう、誰もがまず抱くのは、『大きくなりたい』という、単純な願い。




 今は小さな少女たち。
 彼女達も、いずれ大きくなるだろう。
 時が流れたその先に、そんなことも言っていた、と笑いあうために。



 いつか来る『その時』まで――そんな夢を見る特権は、何も人間だけのものでは、ない。
 





                     <了>
ころころした話になりました。よくわかんないですが、ころころ。四十七度目まして。

色々なところで偶に見かける、大きくなった彼女たち。
じゃあ私の書く彼女達はどうだろう、と思ったのが本作のきっかけです。
実際にそうなるのはまだ早い。……って、ゆうかりんとゆかりんと藍様が言ってた。

あと。チルノの言う『アリスの人形』はゴリアテです。以前に書いた話で、姉妹品にルーミアは会っているので首を傾げていました。

以上
道標
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1610簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
橙蕩れ
13.80名前が無い程度の能力削除
チルノでっかいなあ
14.無評価名前が無い程度の能力削除
あの体型のままゴリアテ人形並みに大きくなったチルノを想像した人
この指とーまれ
19.100名前が無い程度の能力削除
あぁ、ゴリアテだなwwwwと思ってたら後書きに書いてあった。
流石www
28.80名前が無い程度の能力削除
ゴリアテチルノ…
いかん、鼻から何か出そうだ。
31.80ずわいがに削除
リグル可愛いよぉぉおおお!ミスチー伸びろ~ッ

子供の頃はもっと身長高くなると思ってたのにorz