Coolier - 新生・東方創想話

我ら、紅魔館FC! 第七節

2010/04/19 15:13:06
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 ※ このお話は『我ら、紅魔館FC! 第一節』からの続き物になります
 
 
 
 
 
 
 
 Ⅰ
 
 
 
 
 
 
 
 ――人里第一球技場――
 
 
 
 
 
 ――パン! パン! パパァーン!!!
 
 
 
 
 高らかな快音を響かせて、まだお日様が燦々と日の光を照らしている真昼間の時間帯の『人里第一球技場』に色取り取りの花火が打ち上げられる。
 (『人里第一球技場』自体はパチュリーの魔法の作用で、曇り空である。――もっとも、そのおかげで上空に打ち上げられた花火は良く見えるのであるが)
 
 
 「真昼間に見る花火も中々オツなものね」
 「『幻想郷サッカー大会』の開幕戦のセレモニー的なものも兼ねているのでしょう。多分、この会場だけではなくて他の会場でもやっているはずよ」
 
 『紅魔館FC』のベンチから打ち上げられた数々の花火を見ながら、レミリアとパチュリーはそんな感想を漏らし合う。
 
 
 
 
 
 ――『ウォォォオオオオオォォォ!!!!!』
   『オオォー! 『紅魔館FC』! オオー、オー! 』
   『ファイトー! 負けるなぁ~! 頑張れ『紅魔館FC』!!』
   『ウ~サ~ギ、ウ~サ~ギ、今日の試合に勝つのはどっち? それは勿論、『永遠亭ムーンラビッツ』さ~』
   『因幡、因幡! 因幡のウサギは可愛くて~、ついでにサッカーも勝っちゃうよ~』
 
 
 
 
 
 ――待ちに待った『幻想郷サッカー大会』本番、すでに試合チケットは完売。
 ここ人里第一球技場は『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』の試合を生で見ようと、たくさんの人妖で溢れ返っていた――。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 射命丸 文(以下 文) 『はい、文々。ラジヲをご清聴の皆様! ついにやって来ました、『幻想郷サッカー大会』本番であります!! 
 今日はその開幕戦の試合カードの一つである、『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』の試合を私、射命丸 文が実況生中継いたします! 
 ――え~、しかしながら今日は他会場でも試合がある為、皆様お馴染みであるセル○オ天狗さんは、他会場の試合の解説に出向いていらっしゃるので今日は残念ながらお休みとなっております。
 ……ですが、その代わりになんと『幻想郷SG』の選手兼監督である八雲 紫さんに解説に来てもらっております! 
 紫さん、今日はよろしくお願いいたします』
 
 八雲 紫(以下 紫) 『はぁい、ラジヲの前の皆さんこんにちはぁ~! 八雲 紫でぇす、今日はよろしくネ☆』
 
 文 『あややや……。紫さん、そんな誰も望んでない視聴者サービスはいいですから真面目に解説役をお願いいたしますね』
 
 紫 『うふふ、あなた今の発言でこの幻想郷中の一千万人の紫ファンを敵に廻したわよぅ?』
 
 文 『何ですか、紫ファンて。それに幻想郷には一千万人も人口いませんよ! 本当に真面目にやって下さい、お願いします』
 
 紫 『うふふ、まずはツカミはオッケーという所かしら? まぁそれは置いておいて、よろしくね』
 
 文 『あやぁ、『幻想郷SG』の開幕戦が明日だからって解説役に呼ばなきゃよかったかもです……』
 
 紫 『ほらほら、真面目にやるから機嫌を直して頂戴な。……私をわざわざこの試合の解説に呼んだのも、ちゃんと理由があるんでしょう?』
 
 文 『あやや、えぇそうです。紫さんのチームは練習試合で今日『紅魔館FC』と対戦する『永遠亭ムーンラビッツ』と試合をしてますよね。今日はそこら辺を
 含めて解説をお願いしようかと……』
 
 紫 『えぇ、いいわよ。……『永遠亭ムーンラビッツ』、攻守に隙がない洗練されたプレーをする非常にいいチームだったわ。もし『紅魔館FC』が前の試合……、
 『地霊殿ヘル・シティ』に1‐5で負けた試合ね、あれから何も成長していないのなら苦しい試合展開になるでしょうね』
 
 文 『成る程。ではこの試合は『紅魔館FC』が前の試合の反省点を修正出来たかどうかが鍵になるわけですね?』
 
 紫 『まぁ、それだけではないけどね。例えば――』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――『永遠亭ムーンラビッツ』 ベンチ内――
 
 
 
 
 
 ――タッ タッ タッ!
 
 
 
 
 
 「ふぅ……」
 
 『永遠亭ムーンラビッツ』のFWである鈴仙・優曇華院・イナバは、準備運動も兼ねて自陣ベンチ側のフィールドの縁を走り込み息を吐く――。
 
 「おぉ~、気合入ってるねぇ~。ってか、少し気負いすぎじゃないの?」
 
 そんな姿をベンチ内から眺めていた地上の兎、因幡てゐがからかいを込めた表情で鈴仙に話しかける。
 
 「てゐ。……別に気負ってなんかいないわよ? ただ、開幕戦だからね、コンディションを完璧にしておきたいだけよ」
 「ふぅ~ん。……ま、今日の相手は優勝候補の『幻想郷SG』じゃない、『紅魔館FC』だしね。少なくとも『幻想郷SG』よりは付け込む隙は有りそうだし、気が楽だね」
 「てゐ、驕っちゃ駄目よ? 勝負なんて水モノ、どっちに転ぶか分からないんだから!」
 「そうさ、勝負なんて水モノ。だから試合が始まる前にそんなにガチガチに決める必要は無いと思うなぁ~」
 「む~……」
 
 てゐに驕りを諭したつもりが、逆にもっとリラックスしろと諭されてしまった鈴仙は悔しそうに頬を膨らませる。
 
 「でも真面目な話、そこまで気負わなくてもいいと思うよ? 今日の試合はそんなに難しいゲームじゃないと思うし。……勿論、『紅魔館FC』が以前と変わらなかったら、だけどねぇ~」
 てゐはそう嘯きながらも、油断など微塵もしていない目でチラリと『紅魔館FC』のベンチを窺う――。
 
 
 
 (さすがは幻想郷の最古参な妖怪なだけあるわね。顔はヘラヘラ笑ってても、実の所微塵も油断してない……か。こういうてゐの処世術は見習っていかなきゃなぁ~)
 
 
 
 鈴仙がそんなてゐの立ち揮まいに心ならずも感心していると、
 
 「優曇華、てゐ、ベンチ内に集合なさい。姫様が今日の試合のミーティングをなさるそうよ」
 フィールドの縁で話していた二人に、『永遠亭ムーンラビッツ』のコーチ兼輝夜の相談役の八意 永琳が声をかける。
 
 「あっ、はい! すぐに戻ります! ――行くわよ、てゐ!」
 「へいへい、了解了解~~」
 
 永琳の呼びかけに二人の兎は小走りになりながら、『永遠亭ムーンラビッツ』のベンチ内に向かってゆく――。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』 ベンチ内 ――
 
 
 
 
 
 「全員集まったわね、それでは今日のチームの作戦を発表するわ」
 ベンチ内で『紅魔館FC』のチームメイト全員が集合したのを確認した後、監督であるパチュリーは静かに口を開く。
 
 
 「――まず、今日はチームのフォーメーションと何人かのポジションを変えるわ。
 フォーメーションは今までの4-4-2から、ダブルボランチ型の4-5-1、細かく言うと4-2-3-1になるわね。それに変更するわ」
 パチュリーはそう言って『紅魔館FC』のチームメイト達を見渡し、特に反論、異論等がない事を確認すると話を続ける。
 
 「前回とポジションを変える選手は二人よ。一人目は咲夜、あなたはポジションを一つ下げて小悪魔と中盤の底をケアして頂戴。
 そして二人目は――、フランドール……、あなたよ」
 パチュリーは自身が考えたチーム戦術を説明しながら、ゆっくりとフランドールの方を見て言う――。
 
 
 「えっ!? 私……?」
 きょうびポジションが変わるなどとまったく考えてもいなかったフランドールは若干狼狽した様子でパチュリーの顔を見返す。
 
 「えぇ……。今日のあなたにはFWではなく、中盤の――いえ、チームの柱であるトップ下をやってもらうわ」
 そんなフランドールにパチュリーはいつものように、落ち着いた静かな声音で告げる。
 
 
 
 
 
 「「「え~っ!!!!?」」」
 
 
 
 
 
 その発言には当事者のフランドールだけでなく、『紅魔館FC』のチームメイト全員が驚きの反応を示す。
 
 
 「しかしパチュリー様、妹様はその……、あまり体力に自信があるわけではございません。
 チーム内で一番運動量が必要とされる中盤の選手は負担が大きいのではないでしょうか?」
 「そうよねぇ、フランの性格や身体能力を考えるとポジションは前線の方がいいと思うんだけど?」
 
 パチュリーの考えに咲夜やレミリアが疑問の声を上げると、
 
 
 「妹様のスタミナの事に関しては多分大丈夫なはずよ。今日、妹様にしてもらうのは現代型のトップ下じゃない、……古典的な10番(クラシカルNo,10)というものよ」
 パチュリーはそう言って、咲夜やレミリアの疑問に答える。
 
 「古典的な10番?」
 そんな問答を聞いていたフランドールはパチュリーの言葉に首を傾ける。
 
 「外の世界の――、いわゆる現代のサッカーのトップ下というものはチームの攻撃のタクトを振るうだけでなく、相手ボールのチェックや、
 時としてストライカー的な役割もこなさなければならない、スタミナとあらゆる技術・フィジカルの総合力が要求されるポジションよ。
 ――それに対して、古典的10番というのは全てにおいてフリーハンド、チームのあらゆる制約を免除されたポジションなの」
 「えっと、つまり……?」
 
 今一つ理解しきれていないフランドールを見ながら、パチュリーはさらに話を続ける。
 
 「――つまり、今日の妹様は最前線と中盤の底との中間辺りでどっしりとボールが来るまで構えていなさいという事。勿論、守備はほとんどしなくて良いわ。
 その為に咲夜と小悪魔のダブルボランチにしたのだから。……今日は妹様は、その能力の全てをチームの攻撃の為だけに使ってください」
 パチュリーは分かり易く噛み砕いた表現を使い、そう一気に話終える。
 
 
 
 「私がトップ下……」
 やっと理解したフランドールは、今日の試合で自分がトップ下を務めるという実感が今一つ涌いてこないのか淡々とした表情でそう呟く。
 
 
 
 「えぇ、今日は妹様が試合を創造(創る)んです」
 
 
 そのパチュリーの言葉に、フランドールは目を見開いて驚く――!
 
 
 
 (そうだ、トップ下の主な役割は試合をゲームメイクする事じゃん! ――あ、でも私は今まで自分の能力で何かを破壊してばかりで、そういや何かを作ったり、創造したりした事って一度も無いや……。こんな私に試合を創る事なんて出来るの……?)
 
 
 
 フランドールはそう思い、不安そうに周りを見渡す。――すると、
 
 「……やってみなさい、フラン」
 「私と小悪魔で後ろはしっかり守ります。ですから、ご安心してプレーして下さい」
 「妹様ならきっと出来ます!」
 「わちきも頑張るわさ!」
 「ボールを奪ったら、すぐに妹様にパスを出しますね」
 
 レミリアが、咲夜が、美鈴が、小傘が、小悪魔が、そして『紅魔館FC』のチームメイト全員がそう言って、不安そうな表情を覗かせるフランドールに励ましの笑顔を送る。
 
 
 
 (――上手く出来るか分かんない……。けど、私は今までチームにたくさん迷惑を掛けちゃったし、これはそれを返上するチャンス……だよね!)
 
 
 
 チームメイト達の励ましに少しだけ勇気が出たフランドールはポジション変更を了解するべく、力強く顔を縦に振る――。
 
 そのフランドールの合図をパチュリーは見届け、
 
 「大丈夫、妹様ならきっと出来ます。――では、その次のチーム戦術だけど――」
 そう言って、チームメイト達に次の戦術を伝え始めた――。
 
 
 
 
 
 
 
 ――人里第一球技場 実況席――
 
 
 
 
 
 文 『さぁ、両チーム共に試合前の準備を終えてフィールドに入場して来ました! 後は主審の試合開始の笛を待つばかりです!』
 
 紫 『いよいよ始まるのね、どんな試合展開になるのかしら~? 私達と所属しているリーグは違うけれど興味深いわ』
 
 文 『……そういえば紫さん、興味深いといえば『永遠亭ムーンラビッツ』の秘密兵器という噂ですが、今私の手元に両チームのベンチ入り選手の名簿があるのです。『永遠亭ムーンラビッツ』の秘密兵器って、この人なんでしょうかね……?』
 
 紫 『そうみたいねぇ~』
 
 文 『でもスターティングメンバーには入っていませんね』
 
 紫 『そりゃ、秘密兵器っていうくらいだから試合を決めるような時とかに出すんじゃない?』
 
 文 『あややや、そうですか……。それにしても、この人が秘密兵器ねぇ~。まぁ出場した時のプレーに注目してみましょう! ――さぁ、試合はいよいよです!』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・『紅魔館FC』 スターティングメンバー
 
 ・GK 1 紅 美鈴
 ・DF 2 妖精メイド
     3 妖精メイド
     4 妖精メイド
     5 妖精メイド
 ・MF 6 小悪魔
    16十六夜 咲夜
     7 妖精メイド
    11多々良 小傘
     9 フランドール スカーレット
 ・FW 10レミリア スカーレット
 
 4-5-1(4-2-3-1) 監督 パチュリー ノーレッジ
 
 
 
 
 
 ・『永遠亭ムーンラビッツ』 スターティングメンバー
 
 ・GK 1 妖怪兎
 ・DF 2 妖怪兎
     3 妖怪兎
     4 因幡 てゐ
     5 妖怪兎
 ・MF 6 妖怪兎
     7 妖怪兎
     8 妖怪兎
    12妖怪兎
    13妖怪兎
 ・FW 11鈴仙・優曇華院・イナバ
 
 4-5-1(4-2-3-1) 監督 蓬莱山 輝夜
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』     まもなくキック・オフ!
 
 
 
 
 
 
 
  Ⅱ
 
 
 
 
 
 
 
 ――『ウオォォォオオオオオォォォ!!!!!』
 
 
 
 
 
 試合前の準備を終えて両チームの選手達が人里第一球技場のフィールドの内に入場すると、会場全体から爆音の歓声が響き渡る――!
 
 
 
 そんな中、『紅魔館FC』のチームメイト達は一ヶ所に集まりフィールド内で円陣を組む。
 
 「よ~し、お前達よく聞きなさい! 私達が待ちに待った『幻想郷サッカー大会』本番だ、気合を入れていくわよっ! 
 ――私達に『敗北』の二文字は無い、有るのは『栄光』と『勝利』の二文字だけよ! ……だが、気負いすぎるなよ? 
 監督のパチェが言っていた『One for All All for One』(一人は皆の為に、皆は一人の為に)の精神だ、――いくぞっ!!!」
 
 円陣の中心にいるレミリアがそう言ってチームを高らかに鼓舞する。
 
 
 
 
 
 「「「One for All All for One !!!(一人は皆の為に、皆はお嬢様の為に!!!)」」」
 
 
 
 
 
 レミリアの鼓舞に『紅魔館FC』のチームメイト達はそう掛け声を上げてフィールドに散ってゆく――。
 そして、この試合を裁く主審がゆっくりと腕時計の時間を調節し、金笛を口に咥え込む。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『ピィィィイイイイイィィィ!!!!!』
 
 
 
 
 
 主審の合図が鳴らされ、今『幻想郷サッカー大会』のリーグ戦開幕試合、『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』の試合が始まる――!
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半2分 ――
 
 
 
 
 
 ――パシッ! ポンッ!
 
 
 
 
 
 『永遠亭ムーンラビッツ』のボールから始まった前半、『紅魔館FC』のフィールド内でボールを味方に送り、自身も前線に走り込みながら鈴仙は考える。
 
 
 
 (さて、立ち上がり5分間くらいの内に得点出来ると敵チームも浮き足だってベストなんだけど……)
 
 
 
 そんな事を考えながら鈴仙は再度自身の所へ来たボールをサイドに散らすと、すぐさまセンタリングを上げられた時に対応出来るようベストポジションに着ける位置に移動する。
 
 
 
 
 
 ――パシッ! タタタッ、パシッ! タタタッ、
 
 
 
 
 
 「そこっ! ボールを見ていないで敵8番のチェックに付きなさいっ! ――ちっ、このチーム、ボールを持った時の連動性が凄いわね……。マークを絞らせないつもりなのかしらっ!」
 次々とマイボール時にチーム全体が連動した動きをしていく『永遠亭ムーンラビッツ』の選手達に、『紅魔館FC』の中盤の底をケアする咲夜は戸惑いを隠せず、そう呟く。
 
 
 
 
 
 ――パシッ! トンッ! パシッ!
 
 
 
 
 
 そんな『永遠亭ムーンラビッツ』の連動した攻撃はあっという間に『紅魔館FC』のサイド深くを抉ってしまう――。
 
 
 
 「ボールホルダーの8番にマークを! フリーでセンタリングを打たれます!」
 ゴールマウスを守っている美鈴がディフェンス陣にそう指示を飛ばす。
 
 
 「ヘイヘ~イ!!! こっちにパスを頂戴な、っと!」
 
 
 『紅魔館FC』の妖精メイドがまさに敵8番のマークに行きかけた絶妙のタイミングで、
 『永遠亭ムーンラビッツ』のサイドバックである因幡 てゐがオーバーラップを仕掛け、敵8番を追い越してゆく――。
 そして妖精メイドがオーバーラップをしたてゐに気を向けた一瞬、フリーになった敵8番は今がチャンスとばかりにセンタリングを上げる。
 
 
 
 
 
 ――ポォーン!!!
 
 
 
 
 
 緩やかな曲線を描いたセンタリングはそのまま『紅魔館FC』のペナルティエリアにいる鈴仙の元へ向かってゆく――。
 
 
 「――!? やらせません!」
 特定のマークに付いていなかった小悪魔が、センタリングを待ち受けている鈴仙の所へ走り込む――。
 
 
 
 
 
 ――ダッ!
 
 ――ダッ!
 
 
 
 
 
 鈴仙と小悪魔は空中にジャンプし、センタリングのボールを競り合う――!
 
 
 
 
 
 ――トンッ!
 
 
 
 
 
 僅かに鈴仙がセンタリングのボールを制し、鈴仙はそのままヘディングを選択せず自身の真横にボールをすらす。
 
 
 
 「む!?」
 鈴仙のヘディングに対処しようと身構えていたGKの美鈴は、その鈴仙の行動に一瞬戸惑う。
 
 
 
 
 
 ――するとそこには中盤の底から走り込んで来た『永遠亭ムーンラビッツ』の妖怪兎が待っていた。
 そして鈴仙から受け取ったボールをそのままフリーでシュートする!
 
 
 
 
 
 ――バシュウゥゥウウウ!!!
 
 
 
 
 
 「しまった! ――くっ!!」
 その行動により反応を遅らされた美鈴だが、諦めずに横っ飛びしブロックしようと試みる――!
 
 
 
 
 
 ――バシィィイイイ!!!
 
 
 
 
 
 間一髪、美鈴はシュートされたボールを手で弾き、ゴールマウスを死守する。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『ウォォオオオオオーーー!!!』
 
 美鈴のスーパーセーブで人里第一球技場全体に大歓声が涌き上がる。
 
 
 
 
 
 
 
 文 『っぉ惜っしぃぃいいい! 『永遠亭ムーンラビッツ』、前半開始早々に絶好の得点機を逃してしまいましたぁーーー!!! 
 逆に『紅魔館FC』のGKの美鈴選手、スーパーセーブです! 『紅魔館FC』、美鈴選手のナイスセーブにより救われました!』
 
 紫 『早速『永遠亭ムーンラビッツ』の特徴が良い形で出たわねぇ。この流れるような連動性のある攻撃、これが『永遠亭ムーンラビッツ』の最大の武器よ。
 ――恐ろしいのはこの連動性が攻撃時だけでなく、守備時にまで発揮される点ね。攻守に渡るチーム全体の統率された動き、非常に厄介だったわ……』
 
 文 『成る程、それが『永遠亭ムーンラビッツ』の強味なんですね! では逆に聞きますが、『永遠亭ムーンラビッツ』の弱点などはあるんですか?』
 
 紫 『うふふ、そうねぇ~……。しいて言うなら『永遠亭ムーンラビッツ』にはスター選手がいない、って所かしら。チーム全体では高い総合能力を持っているけれど、選手個人個人の能力はズバ抜けた選手はいないわ。今まではそれが弱点といえば弱点だったんだけど……』
 
 文 『あやっ? どうしたんですか?』
 
 紫 『何でもないわ。まぁ、大人しく試合を見ていればいずれ分かるんじゃないかしら?』
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半2分 0-0
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半5分 ――
 
 
 
 
 
 「はいっ、妹様っ!」
 GKの美鈴からのスローイングのボールを受けた小悪魔は、監督のパチュリーのプランニング通りに現在トップ下を務めるフランドールへパスを送る。
 
 
 
 「よ~し、任せてっ! ――って、えっ!?」
 小悪魔からのパスを受け取り、さぁいざ行かん!と前を向いたフランドールは、トップ下が取れる行動の選択肢の多さに仰天し思わず足を止めてしまう。
 
 
 
 (わわっ、えっ!? えっ!? えっと、ボール受け取ったけど、どうしよう……。いつもみたいにお姉さまに送る? 
 それともサイドの小傘お姉さんにパス? いやいや一旦ボールを後ろに下げて様子見&攻撃の形を作り直す?)
 
 
 
 普段FWとして咲夜や小悪魔からボールを受けても、自身の身体能力を駆使して突破するか姉であるレミリアにパスしかしていなかったフランドールは、
 取り合えずボールをチョチョンと小突きながらドリブルをし、どうしようと必死に頭と瞳をグリグリと働らかせる。
 
 
 
 しかし、そうやって時間を掛けているフランドールに対し敵妖怪兎達は素早く包み込むようなディフェンスを仕掛けてくる――。
 
 
 
 (ああヤバイヤバイ! 早く決めないと敵にボールを取られちゃう! どうする、どうする――!)
 
 
 
 素早くプレスを掛けてくる敵妖怪兎達に憔悴しながらそれでも必死に選択肢を探しているフランドールに、
 
 
 「――フラン!」
 
 姉であるレミリアが業を煮やし、ここだとパスを要求する。
 
 「――あ、うんっ! お姉さま!」
 レミリアの声にフランドールは反応し、救われたと状況確認もせずに取り合えずパスを送る――。
 
 
 
 
 
 ――バシィィイイイ!!!
 
 
 
 
 
 ――が、残念ながらそのパスコースは『永遠亭ムーンラビッツ』の守備陣に読まれておりインターセプトされてしまう。
 
 
 「あっ……」
 パスをインターセプトされたフランドールはそう小さな声を上げるが、状況はそれだけでは許さない。
 
 
 
 
 
 ――ポォーン!
 
 
 
 
 
 フランドールのパスをインターセプトした敵妖怪兎は、フランドールがボールを持った事で前掛かりになっていた『紅魔館FC』の手薄なサイドにスルーパスを放つ。
 そして、これまた絶妙なタイミングで攻撃に連動した別の敵妖怪兎がそのスルーパスをサイドで受け、そのままサイドを抉る。お手本のようなショートカウンターである。
 
 
 「くっ、こいつらまた……。小悪魔、妖精メイドと一緒にチェックに行って頂戴! 私は中央のスペースをカバーするわ」
 『永遠亭ムーンラビッツ』の鋭いショートカウンターに苦々しい顔をしながら咲夜が指示を出し、自身もまた急いで自陣に下がってゆく。
 
 
 
 
 
 ――トンッ!
 
 
 
 
 
 『紅魔館FC』のサイドを抉っていた敵妖怪兎は小悪魔達がチェックに来ると、ドリブル突破すると見せかけてフィールド中央にいる鈴仙にパスを送る。
 
 
 
 
 
 
 
 「少し遠いけど……、捉えるっ!!!」
 鈴仙はそう言って仲間から送られて来たボールをトラップし、ゴールマウス目掛けてミドルシュートを放つ――!
 
 「――ちっ!」
 鈴仙から放たれたミドルシュートに対し、咲夜は懸命に走り込んでシュートの軌道上に足を伸ばしブロックを試みる。
 
 
 
 
 
 ――チリッ、バシュゥゥウウウウウン!!!
 
 
 
 
 
 咲夜の足先に僅かにボールは触れ、若干軌道をずらしながらボールは『紅魔館FC』のゴールマウスに進んでいく――。
 
 
 
 
 
 ――バシュゥゥウウウウウン、ガキィィィイイイイイン!!!
 
 
 
 
 
 放たれたボールは鋭いカーブを描きながら『紅魔館FC』のゴールマウスに襲い掛かったが、鈍い音をたててゴールポストに当たりラインを割ってしまう。
 
 
 「ポスト……か。軌道が変わらなければ……、運が無いわね」
 自らが放ったシュートの行方を見届けた鈴仙は無念そうな顔をすると、ディフェンスのために自陣へと引き返していく。
 
 
 
 
 
 
 
 文 『あぁ~~っと、『永遠亭ムーンラビッツ』今度はゴールポストに弾かれてしまいましたぁーー! わずか5分間余りで決定機を2回も逃してしまいましたねぇ~』
 
 紫 『『紅魔館FC』はまた助かったわね。0-0と0-2じゃエライ違いだからこれは大きいわよ?』
 
 文 『そうですね! しかしながらまだ試合は始まったばかり、どうなるか注目であります!』
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半5分 0-0 
 
 
 
 
 
 
 
 ――『永遠亭ムーンラビッツ』 ベンチ内――
 
 
 
 
 
 「ふふふっ……、試合を決めるのはたった一人の特別なプレーヤーではないわ! スタミナが足りなければ皆で連動して動きカバーしあえばいい、
 得点が一人で取れなければ皆で連動して動き隙を作ってゴールを奪えばいい、そしてその為の最善な方法をチーム全員に浸透させる、それこそが戦術! 
 それがチーム・タクティクスよ! ――私がこのチーム全員に浸透させ、武器にまで昇華させた難題をはたして打ち破ぶれるかしら?」
 ベンチ内で今までの試合内容を観察していた『永遠亭ムーンラビッツ』の監督、蓬莱山 輝夜は袖で口元を隠しながらそう満足そうに呟く。
 
 「まだ試合は始まったばかりだけど、調子は良さそうね」
 その隣で輝夜の相談役を兼任する『永遠亭ムーンラビッツ』のコーチ、八意 永琳がそう話しかける。
 
 「まぁ八割方上手くいっているわね。この調子ならそう遠くない内に得点が入るでしょう」
 「それは『紅魔館FC』の監督も危惧しているでしょうね。何かしら仕掛けてくるかも」
 「もう仕掛けてると思うけどね。……普段と違うフォーメーション、普段と違うポジションの選手、興味深いわ」
 「ふむ。見ていると今の所、それほど効果を発揮してないようね」
 「……。ま、憂うような時がきたらアレを出すから大丈夫でしょ、多分」
 
 輝夜はそう言ってチラリとベンチ内で惰眠を貪っている少女を見やり、クスリと笑う。
 
 
 
 「しかしまぁ輝夜も良くこんな逸材を発掘したものね……」
 その少女の方を永琳もチラリと見やり、呆れ気味に問う。
 
 そんな永琳の様子を隣で見ていた輝夜はクスクスと笑いながら応える。
 
 「別に私自ら幻想郷界隈を散策して見つけたわけじゃないわよ? この娘を発見したのは偶然よ、偶然」
 「優曇華から聞いた話だけど、この娘、お腹を空かせてウチの前に倒れてたんでしょう?」
 「えぇ、そうよ。で、そのまま捨て置くのも何か後味悪いからってイナバが世話したのがそもそもの始まりね」
 
 永琳の問いに輝夜はもう一度、この二人の会話の主役である現在ベンチで幸せそうに眠っている少女――の方を見ながら話を続ける。
 
 「私もこの『幻想郷サッカー大会』に向けて色々とチームの事を考えていて、気分転換に庭で蹴鞠をして遊んでいたらこの娘に出会ったわけ」
 「……で、ためしに蹴鞠をやらせてみたら大変に見所があった、と」
 「そういう事。――ただ、サッカーは楽しいけど動くとお腹が減って疲れちゃうからフルタイム出場は嫌だっていうのが玉に瑕だけれどね」
 「それでも構わないって思う程の逸材なんでしょう? この娘は?」
 「そうねぇ~……、私の蒐集家の心をくすぐったくらいだから、それだけの価値はあるでしょう」
 
 輝夜はそう言って頬に手を当て、控えの妖怪兎にお茶の用意を頼むのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』 ベンチ内――
 
 
 
 
 
 「……、誰?」
 無言で試合の展開を見守っているパチュリーだったが、不意に誰かの気配を感じてその方を見やる――。
 
 
 
 「――よう! 敵情視察に来てやったぜ!」
 「お邪魔するわね」
 
 パチュリーの誰何にいつものようにのんきに応えたのは、『人里SC』の選手二人。
 森に住む黒白の普通の魔法使い、霧雨 魔理沙と七色の人形遣い、アリス・マーガトロイドであった。
 
 
 「まったく……、ここのセキュリティは一体どうなっているのかしら」
 パチュリーはその声を聞くと頭を振りながらボソリと愚痴を漏らす。
 
 「そんな連れない事言うなって! 同じ魔法使い仲間じゃないか」
 「同じリーグ所属の敵選手をホイホイとベンチ内にあげられるわけないでしょう? ……アリス、あなたは一緒にいるならコイツを止めて頂戴」
 「私が言って止めると思う?」
 
 物静かだった『紅魔館FC』のベンチ内は突然の魔法使い二人の乱入で騒がしくなる。
 
 「しっかし、フランがトップ下とは随分と思い切った戦法を取ったもんだな」
 パチュリーの諫言も何処吹く風と魔理沙はポンと話を切り出す。
 
 「ふぅ……。別に特別な戦術ではないわ、妹様の体力を九十分間持たせる戦術を採用しただけよ」
 パチュリーはそんな魔理沙の態度に溜息をつきながら問いに答える。
 
 「ふぅ~ん。……で、本当のところはどうなんだ? お前の事だからそれだけの理由じゃないんだろう?」
 「……私を買いかぶり過ぎよ。確かにいくつかの戦術は教えたけれど実際に実行するのはフィールドにいる選手達よ、私はそれを見ているだけしか出来ないわ。 ――ただ、妹様のポジション変更については期待もしているのも事実。あとはそれが奇手になるか悪手になるか、よ」
 
 魔理沙の勘ぐりに対し、パチュリーはそう言ってフィールドに視線を戻すのであった――。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半22分 ――
 
 
 
 
 
 「ここだわさ~!」
 「あっ、うん! ――はいっ!」
 
 相変わらずボールを持った時の選択肢の多さに何をすればいいのか戸惑っているフランドールは、遠いサイドに張っている小傘からのアピールでそこにボールを送る。
 
 
 
 
 
 ――ビュゥウウウン!
 
 
 
 
 
 「――およよ、大きすぎだわさ~」
 しかしフランドールの送ったパスは大きすぎて小傘の頭上を越え、そのままラインを割ってしまい相手ボールになってしまう。
 
 「あ~、ゴメンなさい……」
 フランドールは今日何回目かのパスミスをしてしまい元気無く謝る。
 
 
 
 前半が始まってから今まで、フランドールはボールを送ると敵にカットされ、
 大きく展開しようとすれば力加減が今一つ分からずパスミスをしてしまい満足にトップ下の役割を果たすことが出来ていなかった。
 
 
 
 (……はぁ。さっきからミスしてばっかり、やっぱり私なんかに何かを創造するなんて出来ないよ、皆……)
 
 
 
 度重なるミスの連続でフランドールはすっかり気落ちしてしまう。
 するとそんなフランドールの様子を見かねた咲夜が近寄って来る。
 
 
 「妹様、そんなに気を落とさないで下さい。失敗は誰にでもありますわ」
 「咲夜……。でも今回のこのフォーメーションや作戦は私有りきの作戦なんでしょ……? それなのに――」
 
 咲夜の慰めにフランドールは顔を上げて反論するが、咲夜は優しくフランドールを諭す。
 
 「妹様、妹様は今回初めてトップ下というものをやられているのですから、これで良いのですわきっと。」
 「でも私失敗ばかりしてチームの皆に迷惑を掛けてる。監督のパチュリーもこれじゃあ……」
 「パチュリー様もそれは織り込み済みでしょう、きっと。――妹様は試合前にパチュリー様に言われた通り、自分の試合を創造して下さればいいのですわ」
 
 咲夜はそうにこやかに笑いながらフランドールを励ます。
 
 
 
 「自分の試合を……創造する」
 フランドールは咲夜の最後の言葉を復唱する。
 
 
 「はい、妹様の好きなように自由に、縛られずに、ですわ」
 咲夜はそれだけを言うと自分の元のポジションに戻ってゆく――。
 
 
 
 
 
 ――この後、フランドールは少しずつではあるが自分の思ったようにプレーし始め、ポツポツと『紅魔館FC』の好機を演出するようになる。
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半22分 0-0
 
 
 
 
 
 
 
 ――『永遠亭ムーンラビッツ』 ベンチ内――
 
 
 
 
 
 「う~ん、思ったよりも試合が膠着しちゃってるわね……。思ったよりも『紅魔館FC』が粘っているとも言えるけれど。これを見て永琳はどう思う?」
 一進一退の攻防を展開している目の前の試合を観戦し、試合開始直後とは違った展開になってきている事に若干歯噛みしながら輝夜は永琳に訊ねる。
 
 
 「……危険ね、あの『紅魔館FC』の9番(フランドール)。試合開始して途中までは殆んどトップ下として機能していなかったけれど、
 ここにきて序々に機能し始めているわ。今は主にパスで好機を演出しているだけだけど、これに自身の身体能力を全開で駆使し始めた時どうなるか……」
 輝夜の問いかけに永琳は厳しい目つきをしたまま、そう答える。
 
 「やっぱり永琳もそう思う? 最初はウチのチームが優勢に試合を進めていたのに、いつの間にか五分五分の試合展開。――この原因は間違いなくあの娘よ。あの娘が段々と際どい所にパスを配球し始めてから、ウチのチームは攻撃の手を緩めて守備にもある程度専念しなくてはいけなくなってるわね」
 輝夜はそう言って自身の目を細め、う~んと考え込む。
 
 
 
 「手を打たないでいいの?」
 「まだまだ致命的な綻びでは無いし、もう暫く様子を見ましょう。……ただ今までとは別の計算用紙が必要になりそうだけれどね」
 
 永琳の問いかけに輝夜はそう言って苦笑するのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半43分 ――
 
 
 
 
 
 「――よっ、と」
 そう言って味方からのボールを受け、トップ下としての役割を果たす為に前を向いたフランドールの脳裏にぼぉーっと幾つかの線が浮かび上がる。
 
 
 
 (まただ……、さっきよりもよく視えるようになってる。今視えた線は2、3、4……、5本かな? 
 その内の2本は駄目だな、そのあとの線が浮かばないや。その他の線は――)
 
 
 
 フランドールの脳裏にはつい20分くらい前からある異変が起き始めていた。
 
 ――それはフランドールがボールを触った時に一瞬だけ自身の脳裏に幾つかの線が表れ始めた事である。
 一番初めは薄すぎて何が何だか分からなかったが、ボールに触れ、チームメイト達にボールを配球し段々と自分の試合を創造していくにつれて、
 どんどんとその線はハッキリと視えるようになっていった。今までフランドールはその視えた線に従ってパスを配球していたのである。
 
 
 
 
 
 ――ポンッ。
 
 
 
 
 
 フランドールは選択した線にしたがってサイドにいる味方の妖精メイドにパスを送る。
 その妖精メイドは暫くドリブルした後、ペナルティーエリアにいるレミリアに向かってセンタリングを上げる。
 
 
 
 
 
 ――ガチィ!!! バシィ!
 
 
 
 
 
 そのセンタリングのボールをレミリアと敵妖怪兎達が空中で競り合い、こぼれたボールを敵妖怪兎が取り合えず前方に大きくクリアする。
 
 そのボールを中盤の底にいた咲夜が拾い、またフランドールにボールを送る。
 
 
 
 
 
 「はいよ~っと」
 そのボールをフランドールがトラップした瞬間、
 
 
 
 
 
 ――ブン、ブブン……、
 
 
 
 
 
 フランドールの脳裏に今までで一番大きく、しっかりとした線が表れる――。 
 
 
 
 (んっ、これはっ……!?)
 
 
 
 フランドールはいきなり視えた線に驚くが、その線を記憶にしっかりと刻みつける。
 
 
 「でも……」
 今までは視えた線の通りにすぐにパスを出していたフランドールだったが、ここに来て躊躇する。
 
 ――何故なら、その線の通りにパスを出すには一つ問題があった。
 
 
 
 (こいつらを抜かないと今視た線の通りにパスが出せないや……)
 
 
 
 フランドールはそう思いながら、ボールホルダーである自分にチェックをかけようと近寄って来る二人の敵妖怪兎達を見据える。
 
 
 
 (どうしよう……。そうだ、そういえば私まだ今日は一人も敵を抜いてないや。今までずっとパスばっかりしてたし、やってみる? ……うん、やってみよう!)
 
 
 
 フランドールは自身の心の中でそう問答をして結論を出すと、今日初めてドリブルで相手を抜くという選択肢を取る。
 そしてフランドールは今日初めて、自身の全身体能力を開放する――!
 
 「いっくぞ~!」
 
 フランドールはそう声を上げ大きくドリブルを開始し、プレスに来た敵妖怪兎達と接触する。
 
 
 
 
 
 ――タタタッ、 クイッ、 ヒョイッ!
 
 
 
 
 
 「ウフフ! それじゃ反応が遅い、遅いよ~」
 そう言ってフランドールは最初にチェックをかけてきた敵妖怪兎を自身の抜群のスピードでいなし、
 
 
 
 
 
 ――ガシィィイイイ!!!
 
 
 
 
 
 抜かされた敵妖怪兎をカバーしていたもう一人を、自身の姉と同じく抜群のフィジカルで押さえ込みながら颯爽と抜き去る事に成功する――。
 
 
 
 
 
 「よし、ミッション達成! それっ!!」
 見事に敵妖怪兎の二人を抜き切ったフランドールは、さらなるプレスが自身に来ない内に素早くパスを送る。
 
 
 「うぉう、ナイスパスだわさ! ――ほいさっ!」
 そのフランドールからのパスを受けた小傘はそのまま流れるような仕草でペナルティーエリアに低い弾道のアーリークロスを送る。
 それはまるで予め、小傘がそこで低い弾道のアーリークロスを上げさせる事が決まっていたかのようなパス。
 
 
 
 
 
 ――シュウィィイイイン!!!
 
 
 
 
 
 「ナイス、クロスよっ! 届きなさいーーー!!!」
 フランドールのパスと同時に動き出していたレミリアはまさにドンピシャのタイミングでクロスが入った事に内心驚きながらも、
 ペナルティーエリアに放り込まれた低い弾道のクロスにスライディングをするようにしてボールに足を合わせようとする――。
 
 
 
 
 
 ――パァアアアン!!!
 
 
 
 
 
 放り込まれたボールはレミリアの足にヒットし、敵ゴールマウスへと吸い込まれるが間一髪ゴールキーパーの腕によって前方へ掻き出されてしまう――。
 
 
 「まだだわさ!」
 
 
 
 
 
 ――バシュゥウウウウウ!!!
 
 
 
 
 
 しかし、ゴールキーパーによって掻き出されたボールはゴール前に走り込んでいた小傘によって再度、ゴールマウスに押し込まれる!
 
 
 
 
 
 
 
 ――『ウォォォオオオオオォォォーーー!!!!!』
   『紅魔! 紅魔! ウォォォオオオオオォォォーーー!!!』
   『小傘ぁ~! 結婚してくれぇーーー!!!』
 
 
 
 その瞬間、人里第一球技場の『紅魔館FC』のサポーター席が歓喜の渦に包まれる――!
 
 

 「いやったぁーーー!!! 公式戦初ゴールだわさーーー!!!」
 「クククッ、やるじゃない! それでこそ『紅魔館FC』の一員だわ!」
 「ナイスゴールね、おめでとう!」
 「小傘さん、おめでとうございます! ベンチでパチュリー様も喜んでくれてますよ、きっと!」
 
 ゴールを決めてはしゃぎ廻っている小傘に続々と『紅魔館FC』の面々がお祝いに駆けつけ、そんな小傘の頭を小突いたり軽く抱きしめたりする。
 
 
 
 
 
 「ゴールの『創造』、おめでとうございます、妹様!」
 「――!? 美鈴……、うん!!!」
 
 そんな小傘を祝う輪の中には入らず、何とも言えない不思議な充実感に満たされてその場に立っていたフランドールにGKの美鈴が駆け寄り、そうにこやかに祝福する。
 
 
 
 (出来た、私にも出来た……。 私にも何かを『創造』ることが出来たよ! アハハ、面白い、何かを創造するってこんなに面白いことだったんだ……)
 
 
 
 フランドールはそんな事を考え、美鈴に訊ねる。
 
 「ねぇ、美鈴。私、これからサッカーのゴール以外にも色々『創造』れるかなぁ……?」
 フランドールの問いに美鈴は爽やかな笑顔を浮かべて、
 
 「はい! 妹様なら必ず色々な物や事柄を『創造』れますよ!」
 そう頼もしく答えるのだった――。
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半43分 1-0
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』 ベンチ内――
 
 
 
 
 
 「おぉぅ、見事に先制したな。作戦は大当たりって感じか、パチュリー?」
 「いい時間に得点を入れられたわね、いいモチベーションでハーフタイムに入れそうよ」
 
 先程の得点をベンチから観戦していた魔理沙とアリスの二人はそう言ってパチュリーの方を見る。
 
 
 「――ええ、どうやらこの戦術は奇手になって成功したみたいね。良かったわ」
 パチュリーは表情にこそ出さないが嬉しさの感情が篭っている声でそう応える。
 
 
 
 「何にせよ、これでいよいよ『永遠亭ムーンラビッツ』はフランドールを自由にさせる事が出来なくなったわね……。
 脅威的な身体能力を誇る攻撃専門のトップ下がやっと機能し始めた、これは相手チームにとっては非常に厄介よ」
 「お前の狙いはこれだったのか?」
 
 今までの試合経過を綿密に分析しながらボソボソと呟くアリスの言葉を聞き、魔理沙はそう訊ねる。
 
 
 「上手くいく自信はそんなに無かったけれどね。……私の嬉しい誤算は、私の思っていたより妹様にトップ下の才能があった事ってかしら?
 まさかここまで動けるなんてね」
 パチュリーはフィールドを見ながら魔理沙の問いに応える。
 
 「まさに思わぬ大発見ってやつだな。てことは、この試合が終わった後もフランにトップ下をやらせるのか?」
 「さぁね、それは妹様の心境次第よ」
 「ふむ……。だけどフランのやつ、良い顔してサッカーやってるな。
 ――少なくとも、このポジション変更はあいつの心の成長には役立ったってわけか」
 
 
 その魔理沙の言葉にパチュリーは答える事はせず、ただ黙ってフィールドを見渡した。
 
 
 
 そしてこのまま前半は終了し、試合の行方は後半に委ねられる――。
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   前半終了 1-0
 
 
 
 
 
 
 
 Ⅲ
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』 ベンチ内   ハーフタイム――
 
 
 
 
 
 「ふぅ~、最初の方は少し危なかったけれど今の所、イイ感じね!」
 主審の前半終了の笛が鳴り、自身の所属するチームのベンチに戻って来たレミリアはまずまずの展開だとチームメイト達を褒める。
 
 
 「わちきもゴールを決められたし、気分が良いわさ~!」
 「美鈴も試合序盤のセーブ凄かったわ」
 「いえいえ、私はただこのチームで期待されている役割をこなしただけですよ。そんなに褒められるような事はしてませんよ~」
 「あっ、水分補給用の飲み物持って来きますね! 皆さん、何がいいですか~?」
 
 
 レミリアの言葉に『紅魔館FC』のチームメイト達はワイワイと話し始める。
 まだ試合は終わってはいないが、1点リードして前半を終わる事が出来たので『紅魔館FC』のベンチ内のムードはとても明るかった。
 
 
 「私もベンチ内から試合を観察してはいたけれど、実際にフィールドで戦ってみて『永遠亭ムーンラビッツ』はどう?」
 「少なくとも守備陣に関しては間抜けではないな。前に試合をしたウチの妖精メイド達の守備陣よりははるかに堅い……が、
 生憎とウチのチームも以前よりもパワーアップしている! ――つまり、楽勝ね! フランのパスも通り始めてるし、問題無いわ!」
 「そう、なら後半も頑張って頂戴」
 
 試しに聞いてはみたが、やっぱりいつものレミリアの倣岸不遜な言葉を話半分で受け流し、パチュリーはそう親友にエールを送る。
 
 「クククッ、まぁ任せておきなさい! 後半は私も華麗にゴールを決めてやるわ!」
 「ええ、私も期待しているわね」
 「期待して待ってていいわよ――というか、パチェ? 一つ気になる事があるのだけど、質問していいかしら?」
 「ええ、どうぞ」
 「なんか前にもこの台詞を言ったような気がするんだけど……、何で黒白の鼠がウチのベンチにいるのよ」
 
 レミリアは半ば呆れたような目で、フランドールに見つかりその暴走機関車のようなタックルを受けて地面に倒れ込んでいる魔理沙を見ながら言う。
 
 
 「魔理沙だけじゃなくて、アリスもいるわ。……まぁ、その質問に関しての苦情や文句はこの試合会場のセキュリティー管理関係者に言って頂戴」
 「フン、どうせいつものように特に理由もないんだろうさ。面白そうだから、暇だったから来たんだろうよ」
 「もう自分で結論を出しているなら、その質問は無意味よ、レミィ?」
 「ククク、確かにそうね」
 
 レミリアとパチュリーは自分達の目の前で仲睦まじく(?)じゃれ合っている魔理沙とフランドールを見ながら、お互いに話を掛け合う。
 
 
 
 「――妹様、お楽しみ中に申し訳御座いませんが身体の方は問題有りませんか?」
 周りが暖かく二人のじゃれ合いを眺めている中で、咲夜が一歩前に歩み出てフランドールの身体を気遣う。
 
 「うぉっぷ! ――そうだフラン、身体は平気なのか? 前の試合みたいに無理しちゃ駄目だぜ?」
 幼い吸血鬼の親愛のスキンシップを受け、揉みくちゃにされていた魔理沙は助けに船だと同調し、ふぅと息をつきながら身体を引き剥がす。
 
 「うん! 今日は全然平気だよ! これなら後半もちゃんと出れそうかな」
 咲夜と魔理沙の問い掛けにフランドールはアピールも兼ねて元気一杯に返事を返す。
 
 「そうか、今日は私もベンチ内でフランの活躍を見ててやるから、たくさん試合を楽しんで来るといいんだぜ」
 「うん! 見ててね、今日の試合は絶対に勝つから!」
 「おぉ、絶対勝利宣言とは景気がいいな。まぁ頑張ってこい!」
 魔理沙とフランドールが微笑ましい会話をしていると、
 
 「――フラン、もし今日の試合に勝ったら魔理沙が紅魔館で一日中遊んでくれるそうよ? 良かったわね」
 「――本当!?」
 
 後ろにいたアリスがニヤニヤと笑いながら、そうフランドールに告げる。
 
 「んなっ!? ちょ、ちょ、ちょい待て! そいつは勘弁願いたいぜ――ってか、アリス! お前なに勝手に人をご褒美扱いしてるんだよ!」
 「勝手も何も……、あなたは普段からイリーガルな意味で紅魔館にお世話になっているんだから、これくらいして少しはお返しをした方がいいんじゃないかしら?」
 「それはお前に指図される事じゃないぜ! そう言うのを小さな親切、大きなお世話って言うんだ!」
 「あらそう? でも紅魔館の皆さんは大歓迎みたいだけど、ねぇ? レミリア、パチュリー?」
 「クククッ、――あぁ歓迎しよう! 可愛い妹の為だ、私が断るはずが無いじゃないか」
 「ふふ……、それは良いアイデアね、アリス。なら私も今日の試合は是が非でも勝つように監督しないと」
 
 そうしてあっという間に魔理沙包囲網が完成すると、魔理沙はぐむむ……と渋い顔をして黙り込む。
 
 
 「魔理沙、私と遊ぶのは嫌……?」
 「あ~、別に嫌ではないんだがフランは色々と加減がな……」
 
 周りの話を聞いていたフランドールは少し悲しそうな顔をして魔理沙に訊ねると、魔理沙はそう弁明した後に決意したように言う。
 
 「……よし、分かった! もしこの試合に勝てたら一日中、フランと遊んでやるぜ。――ただしアリス、お前も一緒にだ!」
 「えっ!? なんで私も一緒なのよ! 私は関係無いでしょう!?」
 「関係無いわけあるか! 一体誰のせいでこうなったと思ってるんだよ、付き合ってもらうぜ!」
 「わ~い、楽しみだなぁ!」
 
 そう言って魔理沙とアリスは言い合いを始め、フランドールは喜びを表わにする。
 そんなこんなでハーフタイム中の『紅魔館FC』のベンチはとても賑やかであった――。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『永遠亭ムーンラビッツ』 ベンチ内   ハーフタイム――
 
 
 
 
 
 「1点先制されてしまったわね、これは向こうのチーム力を侮っていた監督である私のミスよ。……ゴメンなさいね」
 ハーフタイム中のミーティングを始める際、輝夜は一番初めにそう言って『永遠亭ムーンラビッツ』のチームメイト達全員に頭を下げる。
 
 
 
 『……』
 
 
 
 その輝夜の謝罪をチームメイト達は問題無いです、ドンマイですと黙って受け止める。
 
 
 
 月の民である永遠亭の高貴なお姫様が、自身のペットや地上の妖怪兎達に頭を下げる――。
 普通なら考えられない光景であるのに『永遠亭ムーンラビッツ』の選手である鈴仙や、てゐ、妖怪兎達は一向にその光景に動じてはいない。
 
 
 それは何故かというと『幻想郷サッカー大会』が開催されるとの告知があり、それに従いこの『永遠亭ムーンラビッツ』が結成された際に、
 
 『今から永遠亭の姫である自分がこのチームの指揮を執るが、その時はこの私『蓬莱山 輝夜』を永遠亭の姫でなく、
 『永遠亭ムーンラビッツ』の監督である私として見て欲しい。また自分もこれからチームの指揮を執る際はそのように振舞う』
 
 ――と、予め皆に告げたからである。
 
 輝夜は『永遠亭ムーンラビッツ』というチームを結成して自分がそのチームの監督に就任した時、
 チームを完璧にコントロールするには監督と選手達の信頼関係が最も大切と考え、チームを指揮する際『永遠亭のお姫様』という肩書きを捨てたのであった――。
 
 
 
 「……とはいえ、点差はたったの1点。まだまだ時間もたっぷりあるし逆転は十分可能よ、頑張りましょう!」
 謝罪の後に輝夜はそうチームメイト達を励ます。
 
 
 
 「「「オーーーーー!!!」」」
 
 
 
 輝夜の鼓舞に『永遠亭ムーンラビッツ』の選手達は高らかに声を上げて応える。
 
 
 「うん、いい返事だわ! じゃあまずはチーム全体の戦術を見直すわよ? 
 一つ目は『紅魔館FC』の現在最大のストロングポイントとなっている9番の対処の件、これは――」
 輝夜はチームメイト全員の気合を感じて満足そうに頷き、監督の本来の役割であるチーム戦術の修正を選手達に告げてゆく。
 
 
 
 「どうしたの鈴仙ちゃん、ボーッとしちゃってさ?」
 「――え、あ、ああ。何か姫様、生き生きとしてるなぁ~って思って……」
 
 監督の輝夜の指示を大人しく聞いている選手達の中で、てゐが隣で何となく物思いに耽っていた鈴仙を見て話かける。
 
 「生き生きねぇ~、確かに楽しそうに見えるけど」
 「でしょ? 何というか、輝いているというか……」
 
 てゐにそう応えながら鈴仙は考える。
 
 
 紆余曲折を経て永劫の時を生きる事になったお姫様、そのお姫様にとってこの『幻想郷サッカー大会』はきっと格好の暇潰しなのだろう。
 ただこの『幻想郷サッカー大会』というイベントは幻想郷が始まって以来のお祭りで、人妖拘わらずたくさんの交流があり、自分の姫様はその交流をとても楽しんでいる。
 どんな形であれ姫様が喜んでいるのは私も嬉しいし、おそらく師匠もそう思っているはず――と。
 
 
 
 「そういえばあの娘はまだ寝ているの?」
 後半のチーム戦術を選手達に伝え終えた輝夜は、そう言って永琳の方を見る。
 
 「ふふっ、それはもうグッスリと」
 永琳は輝夜の言葉に相槌を返すように応える。
 
 「はぁ……。まったく仕様が無いわね、永琳、悪いけど彼女を起こしておいて。後半の途中から投入するつもりだから、準備運動とかも念入りにね」
 「分かりました」
 
 輝夜はそう永琳に指示を出すと、『永遠亭ムーンラビッツ』の選手達全員を見渡して言う。
 
 「さぁ、もうすぐ後半よ! あなた達『永遠亭ムーンラビッツ』の力を出し切れば必ず勝てるわ、頑張りなさい!」
 
 
 
 
 
 
 
 ――人里第一球技場 実況席――
 
 
 
 
 
 文 『あやや、紫さん、結局前半は1-0で『紅魔館FC』のリードとなったわけですがどうでしょうか?』
 
 紫 『そうねぇ~、前半の総括はサッカーっていうスポーツは常に勇敢なチームが勝つスポーツではない……って所かしらね』
 
 文 『あややや……、それはどういった意味なんでしょうか?』
 
 紫 『サッカーでは格上相手が勝負の時は引いて守ってのカウンター戦術が非常に有効とされているわ。もし相手がその戦術を採ってきた場合、どうなるかしら?』
 
 文 『う~ん、自分のチームがたくさんボールを保持する時間が多くなりますね』
 
 紫 『そう、ボールを保持する時間が多いという事はそれだけ敵チームを攻める事が出来る、または攻めているという事よ。それが勇敢なチームの意よ』
 
 文 『あ~、成る程! 例えその試合でたくさんボールを保持して敵チームを攻めていても、敵チームのカウンターで負けてしまう事もある……というわけですね?』
 
 紫 『イエスよ。サッカーは紛れのあるスポーツなの、外の世界では『ジャイアントキリング』なんて言葉があるくらいにね。
 まぁ今回の『紅魔館FC』の得点は引いて守ってのカウンター攻撃で挙げたものではないけれど、言いたい事は同じよ』
 
 文 『前評判が高かった『永遠亭ムーンラビッツ』が前半で負け越す展開も、そう驚く事ではないと?』
 
 紫 『ええ。それにまだ試合は終わっていないわ、後半がある。うふふ……、私にはこのまま『永遠亭ムーンラビッツ』が大人しく負けるなんて到底思えないけれど』
 
 文 『あやや、分かりました! それでは後半も両チームに注目して見てみましょう!』
 
 
 
 
 
 
 
 Ⅳ
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半13分 ――
 
 
 
 
 
 「輝夜、彼女の準備が出来たわ」
 『紅魔館FC』と『永遠亭ムーンラビッツ』の試合の後半が始まり、監督として試合の戦況を見ていた輝夜に永琳が話しかける。
 
 「ん……、ようやく準備出来たのね。今から試合に出場させるから彼女をここに連れて来て頂戴」
 「分かったわ。――さぁ出番よ、輝夜の前に来て頂戴」
 
 永琳は輝夜の言い付け通り『彼女』をベンチ前に呼び寄せる。
 
 「ん~、そろそろ私の出番なの?」
 永琳に呼ばれた『彼女』はそう言い、マイペースに歩きながら輝夜の前に来る。
 
 「ええ、あなたの出番よ。今の所ウチのチームが0-1で負けていてね、後半が始まった今現在も得点を挙げるにはどうやらあと一押し足りないみたいなの。
 私があなたに求めるプレー、……説明する?」
 「ううん、いらない。要するに練習中にやってるいつも通りの事をすればいいんでしょ~?」
 「その通りよ。ちょうど相手のチームのトップ下がこの試合で猛威を奮っているし、いい機会だから見せてあげるといいわ。――本物のトップ下、『No、10』というものを」
 「う~、お腹が空くからあんまり動きたくないんだけどね~」
 「クスクス、さぁ行ってきなさい。――『ルーミア』」
 「は~い」
 
 
 そう言って輝夜に送り出され、宵闇の妖怪ルーミアはのほほんとした表情でフィールド内に入る――。
 
 
 
 
 
 
 
 文 『おおっと、ここで『永遠亭ムーンラビッツ』選手交代のようです。え~、どうやら13番の選手と代わるようですが……』
 
 紫 『……来たわね』
 
 文 『あややっ、これは――? ……紫さん、ついに『永遠亭ムーンラビッツ』の秘密兵器と目されている選手が試合に登場しますねぇ~!』
 
 紫 『『永遠亭ムーンラビッツ』の秘蔵っ子、宵闇の妖怪ルーミア……。うふふ、どの程度のものか見せてもらうわ』
 
 文 『あやぁ、紫さんはこのルーミア選手の実力をご存知なんですか?』
 
 紫 『うふふ、ある程度はね。と言っても、前に一度スキマで覗き見しただけだけど』
 
 文 『ああ、いつもの幻想郷ピーピングですね! あんまりやりすぎると皆さんから嫌われちゃいますよ? 私は気をつけた方がいいと思いますけどねぇ~』
 
 紫 『あら? 盗撮、捏造上等の自称新聞記者(笑)に言われたくはないわね』
 
 文 『あやややっ、失礼な! 自称じゃなくて清く正しい本物の新聞記者ですっ!! ちゃんと文々。新聞っていう新聞を発行しております!!! 
 文々。ラジヲをご清聴の皆様、この人の先程の発言を信じちゃ駄目ですよ~』
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』   ベンチ内――
 
 
 
 
 
 「うん? ありゃ、ルーミアじゃないか? なんであいつが『永遠亭ムーンラビッツ』の交代選手として出て来てるんだ?」
 『紅魔館FC』のベンチ内からルーミアのフィールドインを見届けた魔理沙はそう言って驚く。
 
 
 「知らないわ。……まぁ私も試合前のベンチ入りメンバー表を見た時は軽く驚いたけれどね」
 「う~む、ルーミアねぇ~。……言っちゃ悪いが、あいつは妖怪としてはそんなに力の強い奴じゃないんだがなぁ~」
 「魔理沙、これはサッカーの試合よ? 妖怪としての格とサッカーの上手さは必ずしも比例しないわ、それはウチのチームの小傘が証明しているでしょう?」
 
 首を傾げる魔理沙にパチュリーはそう言って諫言する。
 
 「1点負けている後半での投入、何だかきなくさいわね。少なくともただの選手というわけでは無さそうよ?」
 口元に自身の指を当て、ジッと黙考していたアリスがパチュリーに問いかける。
 
 「そうね、ただ情報が少なすぎて今はこの交代に対して動けないわ」
 パチュリーは瞳を軽く閉じながら、ゆっくりと首を横に振って答える。
 
 「前から噂になっていた『永遠亭ムーンラビッツ』の秘密兵器って、ルーミアの事だったのね……」
 「あ~、そんな噂もあったな。あれってルーミアの事だったのか……」
 
 アリスと魔理沙は二人ともそう感想を漏らす。
 
 
 
 「とにかく、『永遠亭ムーンラビッツ』のジョーカー、今は動きを見せてもらうわ」
 
 『紅魔館FC』の監督であるパチュリーはそう言って、ルーミアが出場したフィールドを睨みつけるように見渡した――。
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半13分 ルーミアが出場
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半15分 ――
 
 
 
 
 
 ――パシッ!
 
 
 
 
 
 「さぁて、あんまり気張り過ぎるとお腹が減っちゃうからサクサクいくよ~」
 後半途中から出場し、ボールを受け取ったルーミアはチームメイト達にそう声を掛ける。 
 
 
 
 
 
 「「「オーーーーー!!!」」」
 
 
 
 
 
 ルーミアの掛け声に『永遠亭ムーンラビッツ』のチームメイト達は気勢を上げる。
 
 
 「んじゃ、始めようか~!」
 チームメイトの返事を聞いたルーミアはそう言ってゆっくりとドリブルを開始する――と、
 
 
 
 
 
 ――ゾワッ!!
 
 
 
 
 
 「――っ!? 何!? この感じは――!!」
 「さ、咲夜さん……、これは」
 「……空気が、変わった!?」
 
 ルーミアがボールを持ってドリブルを開始した時、『紅魔館FC』の中盤の底を守る咲夜と小悪魔の二人は試合の空気が急激に変化した事を敏感に察知する――。
 
 
 
 
 
 「まずは~、あなた達を抜くね~」
 ルーミアはそう言うと、そのまま咲夜と小悪魔にドリブルで突っかかってゆく。
 
 
 「くっ、わざわざ二人で待ち構えている所に突っ込んでくるなんて舐められたものね!」
 「二人で囲みましょう!」
 「ええ、行くわよっ! 小悪魔!」
 
 そんなルーミアに対し、咲夜と小悪魔は声を掛け合いボールを奪取せんとプレスを掛けにいくが、
 
 
 
 
 
 ――トンッ!
 
 
 
 
 
 「まぁ私一人じゃ抜かないけどね~」
 二人がプレスを掛けようと目の前に詰め寄った直後、ルーミアはノールックで斜め前方にパスを送る――。
 
 「!?」
 「えっ!? そんな所に味方はいないはず――」
 
 あっさりとルーミアにパスでかわされた二人はそう言って後ろを振り返る。だが、
 
 
 
 
 
 ――パシッ!
 
 
 
 
 
 まさに完璧なタイミングでルーミアを追い越した敵妖怪兎がそのパスを受け取り、そのままドリブルで『紅魔館FC』のフィールドに侵入してゆく――。
 そして程よいタメを作った後、綺麗に『紅魔館FC』のディフェンダーである妖精メイドのマークを外した鈴仙にスルーパスを出す。
 
 
 
 「よしっ!! ――もらったわっ!!!」
 スルーパスに反応した鈴仙はボールを逆足でトラップし、すぐさま利き足に持ち変えてゴール隅に向けてシュートする――!
 
 
 
 
 
 ――バシュゥゥウウウ!!!
 
 
 
 
 
 そのシュートはGKである美鈴の指を掠めて『紅魔館FC』のゴールネットを揺らす――。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『ウォォォオオオオオーーーーー!!!!!』
   『ウォォォオオオオオーー!! 『永遠亭ムーンラビッツ』最強!!!』
   『うどんげーーー! 愛してるぞーーー!!!』
 
 
 
 鈴仙の同点ゴールに『永遠亭ムーンラビッツ』のサポーター達は大歓声を上げて盛り上がる。
 
 
 
 
 
 
 
 文 『ゴーーーーール!!! ゴール、ゴール、ゴーール!!! 同点ゴールです!!! 
 『永遠亭ムーンラビッツ』、鈴仙選手のゴールにより試合を振り出しに戻しましたぁーーー!! 鈴仙選手、素晴らしいゴールへの動き出しでしたねぇ~』
 
 紫 『あの月兎は本当にFWの鑑みたいな選手ねぇ~。豊富な運動量、仲間を生かす視野の広さと自分でゴールを決めるキックの技術の高さ、
 さらにポストプレーまでこなすフィジカルの強さ、全てにおいて高水準で纏まっているわ』
 
 文 『さすが『永遠亭ムーンラビッツ』のスタメンFWなだけはありますね~!』
 
 紫 『ウチのFW陣ときたら萃香はただデカイだけで足元の技術はマダマダだし、妖夢は視野の広さに問題有りだし……。まったく、この月兎を見習ってほしいものね』
 
 文 『よくそんなFW陣で『幻想郷サッカー大会』の優勝候補筆頭チームになれましたね……』
 
 
 
 
 
 
 
 
 「くっ……」
 「ふぅ、ようやく1点入ったか。ウチの秘密兵器のルーミアも入った事だし、悪いけどこの試合は勝たせてもらうわ!」
 
 ゴールを破られてしまい、フィールドに両手をついたGKの美鈴に鈴仙はそう声を掛ける。すると、
 
 「鈴仙ちゃん~、ナイスゴール! クスクス、これで緊張も少しは解けたんじゃない?」
 「ナイスゴールだね~。お祝いにあなたの耳、食べていい~?」
 
 フィールドの後方からてゐとルーミアがゴールのお祝いに駆けつける。
 
 「もう、最初から緊張なんかしてないってば! あと、どさくさに紛れて私の耳を食べようとしないで~!!」
 鈴仙は自陣のフィールドに戻りながら、てゐとルーミアにそんな返事を返すのであった。
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半15分 1-1
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』 ベンチ内――
 
 
 
 
 
 「やられたわね……」
 鈴仙のシュートが『紅魔館FC』のゴールネットを揺らし、試合会場が『永遠亭ムーンラビッツ』の歓声で涌いている中でパチュリーは小さく声を漏らす。
 
 「見事に鈴仙にやられちまったなぁ~、ナイスゴールだぜ。これで同点、試合も振り出しだな……」 
 魔理沙は自身の腕を後ろ頭に廻しながらそう呟く。
 
 
 「……問題はそれだけじゃないわよ? でしょう、パチュリー?」
 「ええ、これは厄介な事になりそうね……」
 
 アリスはそう言ってパチュリーの方を見やる。
 
  
 「あん? この試合が振り出しに戻った事以外に何か問題でもあるのか?」
 何やら二人で意思疎通が出来上がっている事に対し、魔理沙が疑問の声を出す。

 「このゴールは直接的には鈴仙が挙げたものだけれど、間接的にはルーミアがゴールを生みだしたようなものだからよ」
 「うん? 鈴仙のゴールをアシストしたのは妖怪兎だろ? ルーミアじゃないぜ?」
 
 その疑問にパチュリーは答えるが、魔理沙はまだパチュリーの言わんとする事が飲み込めず再度質問する。
 
 「私が言っているのはそういう事じゃない。ルーミアがボールを持った時の敵チームの動き出しの問題について言っているの」
 その言葉にパチュリーはくるりと横を向き、魔理沙の顔を見つめながら答える。
 
 
 
 「あの鈴仙にラストパスを送った妖怪兎、咲夜と小悪魔がルーミアに対してプレスを掛けにいった直後に走りだしてたわね……」
 「あの妖怪兎だけじゃない。ルーミアがボールを持った瞬間『永遠亭ムーンラビッツ』のチーム全体が瞬時に攻撃の態勢にシフトチェンジし、そう連動して動き出した」
 「はぁ? ……おいおい、そんなのもしルーミアが咲夜達にボールを奪取されてたらそのままカウンター直行じゃないか!」
 
 アリスとパチュリーの分析に対し、魔理沙は有り得ないだろと思わず自身の声を荒げてしまう。
 
 
 「そんなに有り得ない話でもない。ただ単に『永遠亭ムーンラビッツ』のチーム全員がルーミアにボールが渡った時、ルーミアなら絶対にボールを取られない、
 ルーミアならきっと自分のフリーランニングに気がついて絶好のパスを送ってくれる、……とチーム全員が共通して思って動けばそれは有り得るのよ」
 パチュリーはそんな魔理沙を諭すように落ち着いた声音で説明する。
 
 
 「何だよ、それ」
 パチュリーの言葉に魔理沙は信じられないと返事を返す。
 
 
 
 「――ねぇ、魔理沙? 味方の選手全員にそんな感情を抱かせる選手を人々は『エース』って呼ぶのよ。
 そして、一昔前の外の世界のサッカーならその選手は大体にしてある背番号を背負っていたわ、分かる?」
 「ある背番号、……まさか!?」
 「そう――『No、10』よ」
 
 パチュリーはそう言って魔理沙から目線を外し、新たにフィールドを支配しつつある『永遠亭ムーンラビッツ』の10番を背負う者――ルーミアを目で追うのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半21分 ――
 
 
 
 
 
 「よっと、ふぅ……」
 フィールドのセンターサークル付近でパスを受け取ったフランドールは小さく息を吐き、改めて気合を入れ直すと前方を見やる。
 
 「ここまでは楽にボールを持たせてくれるんだけどなぁ~」
 フランドールはさらにそう言葉を続けて吐くと、どうしようと悩む。
 
 
 
 後半が始まってから監督である輝夜の指示により、『永遠亭ムーンラビッツ』の選手達は守備戦術を対フランドール用ともいうべき戦法に変更していた。
 そして今の所はそれが見事に機能し、前半の途中から『紅魔館FC』のトップ下としてフィールド内で輝いていたフランドールは輝きを失ってしまっていたのである――。
 
 
 「何を悩んでいるの~?」
 そうすると不意に気配が表れ、その気配の持ち主はフランドールのボールを奪おうと足を伸ばす――!
 
 「おっと! 危ない危ない……」
 「ちぇ、残念~」
 
 
 そう言って不意に現れたルーミアのチェックをすんでの所で回避すると、
 フランドールはルーミアと一対一の形になり隙を窺いながら話しかける。
 
 「あれ~、あなたもチームの『トップ下』何でしょ? 私の守備になんか付いちゃってていいの?」
 「私はあなたと違って今時の『トップ下』だから、ある程度守備にも参加しなきゃならないの~。それに、」
 
 フランドールの問いかけにルーミアはそう答え、
 
 「――それに、私もあなたと少しお話がしたかったから~」
 そんな事をルーミアは笑顔でフランドールに話す。
 
 
 
 「うん? お話って何?」
 「私はこの試合を後半からしか見てないけど、多分あなたにも視えているんでしょ~?」
 「!?」
 
 フランドールはルーミアのその発言にドキッとして驚き、思わずボールをキープしている足を止めてしまう。
 
 「あの線が視えるって事は~、あなたにも『No、10』の才能があるのかもね~」
 ルーミアは一瞬フランドールの足が止まった隙にボールを奪う事はせず、そのままマークを続行しながらそう話す。
 
 「『あなたも』って事は……、」
 「そうよ、私にも視えている。――でも、今の私とあなたには決定的な違いがあるの~」
 「……決定的な、違いって?」
 
 自分以外にもこの奇妙な現象を体験していた存在がいる事にフランドールはさらに驚きつつも、
 何とか自身の心を落ち着けてルーミアの最後の台詞の意味を問い質す。
 
 「仲間を上手く使えてるか――って事。はい、後はよろしく~」
 「えっ……、あっ!?」
 
 ルーミアはそう言うと、スイッと自分からフランドールのマークを外す。
 
 その言葉と行動の意味を理解出来ず自身の眉を顰めるフランドールだったが、直後に表れた二人の敵妖怪兎達の気配によってルーミアの言葉の意味に気付かされる。
 ルーミアは会話をしながらさり気なく自チームの守備網に誘導していたのであるが、フランドールはルーミアの言葉に気を取られ周囲の警戒が疎かになっていたのだった。
 
 
 
 
 
 ――バシッ! トンッ!!
 
 
 
 
 
 そんなフランドールからボールを奪取した妖怪兎(6番)は素早くボールを手薄なサイドに送り、ショートカウンターを開始する。
 
 
 
 
 
 ――タッタッタッ!!! ポォーン!
 
 
 
 
 
 そしてそのボールを受け取って『紅魔館FC』のサイドをドリブル突破した妖怪兎(12番)は、バイタルエリアの中央付近にいる鈴仙にパスを送る。
 
 
 
 「ナイスパス。はいっ!」
 パスを受けた鈴仙はボールをワントラップした後、そのまま流れるように『紅魔館FC』の最終ラインを務める妖精メイド達の頭上を越えるフライスルーパスを出す――。
 それに反応したのはセンターサークル付近でフランドールを計略に嵌めた後、そのまま前線に走り込んで来たルーミアだった――。
 
 
 
 「最終ラインが突破された!? こうなったら前に出るしかないっ!!」
 『紅魔館FC』のGKの美鈴はその光景を見ると瞬時に判断し、勇敢に前方へ飛び出してゆく――。
 
 
 
 
 
 ――ヒューン、 トンッ ポンッ!
 
 
 
 
 
 鈴仙からのフライスルーパスに対しルーミアは、ボールに背を向けたまま自身の利き足を軽く上げアウトサイドで再度ボールを宙に浮かせ胸でトラップし、ゴールマウスへ向かおうとする。
 
 
 
 
 
 ――『おお~!!!』
 
 
 その超絶技巧トラップに対し、会場は一斉に大きくどよめく。
 
 
 
 
 
 「いくらトラップが上手くたって、もうあなたと私の距離は殆んど有りません!!!」
 ゴールマウスから飛び出した美鈴はルーミアのトラップ完了とほぼ同時に滑り込み、ルーミアの利き足にあるボールを奪おうと手を伸ばす――。
 
 
 「そうなのか~」
 
 
 
 
 
 ――クイッ! クルッ!
 
 
 
 
 
 美鈴がボールに手が触れようとした瞬間、ルーミアはボールを後方にずらしクルリと回転し、
 驚愕の表情をした美鈴を嘲笑うかのように鮮やかに抜き去る――!
 
 
 
 
 
 ――トン! コロコロコロ…… パサッ。
 
 
 
 
 
 ――そして無人のゴールマウスにのびのびとボールを蹴り込み、そのボールはゆっくりと転がっていきゴールラインを越える。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『ウォォォオオオーーー!!! スゲー!! ファンタスティク!!!』
   『トラップからゴールまでが超絶すぎる……。どんなテクニックしてんだよ、あの10番……』
   『『永遠亭ムーンラビッツ』の10番、ルーミアね。――よし、憶えたぞ! おいら、今からルーミア選手のファンになる!』
 
 『紅魔館FC』のゴールネットが揺らされた直後、試合会場に詰め掛けたサポーター達は敵味方関係無く先程のスーパープレーを披露したルーミアに賞賛と拍手の嵐を贈る――。
 
 
 
 
 
 
 
 文 『――ス、スゥゥペェェルゴォォオオオオオル!!!!! 『永遠亭ムーンラビッツ』、ルーミア選手のスーパープレーにより見事に逆転しましたぁーーー!!! いやぁ~、紫さん、私謝ります! 試合が始まる前はルーミア選手の能力を疑ってしまっていてスミマセンでした! まさかこれほどの選手とは……』
 
 紫 『うふふ、これが『永遠亭ムーンラビッツ』の秘密兵器の実力ね……。この前の練習試合の時に出てこなくて本当に良かった、
 出て来てた時の事を考えるとゾッとするわねぇ~』
 
 文 『あややや。……でも、何故これほどの選手がスタメンじゃないんでしょうかねぇ~?』
 
 紫 『さぁ? あちらさんにも深い事情があるんじゃないかしら』
 
 文 『ふむ、とても興味深いですねぇ。これは試合終了後にでも少し探りを入れてみますか……』
 
 
 
 
 
 
 
 「……何てボール捌きしてんのよ、あいつ。……あんた、あいつと同じ事出来る?」
 敵陣でルーミアのスーパープレーを眺めていたレミリアは、呆れと賞賛が入り混じった複雑な表情で近くにいた小傘にそう訊ねる。
 
 「ん~、実際にその状況になってみないと何とも言えないわさ。……あんな抜き方もあるのね、勉強になるなぁ」
 レミリアの問いかけに小傘は首を振りながら、少しズレた答えを返す。
 
 「何にせよ、逆転されたわね。これは不味いかしら……」
 レミリアはそう言うと、苦い顔をしながら自身の爪を噛んだのだった――。
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半21分 1-2
 
 
 
 
  
 
 
 ――『永遠亭ムーンラビッツ』 ベンチ内――
 
 
 
 
 
 「計画通り、ルーミアを投入して大正解ね」
 ルーミアの逆転ゴールをベンチから見届けながら永琳は輝夜にそう話しかける。
 
 「あの娘は正真正銘の本物よ、永琳? 元々ウチと縁があったわけじゃないただの野良妖怪のルーミアが何故ここまでチームの皆に信頼されているか、
 今のプレーで分かったでしょう?」
 「ええ、とても」
 
 チームが逆転した事に満足気な顔をして答える輝夜の顔を見て、永琳は内心で微笑みながら頷く。
 
 
 「妖怪の身体能力を基にした頑強なフィジカルもさることながら、戦況を判断し自チームの有利になるように行動するインテリジェンス、そしてあのボールを
 扱う素晴らしい技術、彼女は己の持ったその才能で練習中にチームメイト達の信頼を得ていったのよ」
 「私は本業やこの『幻想郷サッカー大会』の医療技術担当を任されてあんまりチームをコーチ出来なかったけれど、ここまでのチームに仕上げていたのね」
 「ふふん、私はこの『永遠亭ムーンラビッツ』の監督よ? これくらい容易い、容易い」
 
 永琳の素直な賞賛に輝夜はチッチッチと得意気に指を振って応える。そして、
 
 
 
 「この試合、ウチと『紅魔館FC』のトップ下、つまりルーミアとフランドールね。――このまま行けば、その出来の差が勝負を大きく左右する事になりそうね」
 
 輝夜はそう言って頬をつきながらフィールドに視線を戻すのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半24分――
 
 
 
 
 
 「う~ん……」
 またもセンターサークル付近でボールを受け取ったフランドールはそう小さな声を上げて悩んでいた。
 フランドールの頭に引っかかっているのは、つい先程ルーミアに言われた言葉についてである。
 
 
 
 (私とあの娘の違い……、『仲間を上手く使う事』ってどうやってやればいいんだろう?)
 
 
 
 フランドールはそう自身の頭で考えながらゆっくりとドリブルを開始する。
 しかしフランドールが『永遠亭ムーンラビッツ』のある程度の陣地まで到達すると、敵妖怪兎達が一斉にプレスを掛けにいく素振りを見せる。
 
 
 「ちぇっ」
 それを見てフランドールは渋々とボールを後ろに下げ、攻撃をビルドアップし直す事を選択する。
 
 
 
 (後半が始まってから急にやり辛くなっちゃったなぁ~。一定のラインを越えるとプレッシングが始まって、
 私がボールを持ってドリブルしようとすれば囲んでプレスを受けちゃうし、かといってパスを選択しようにもこの密集地帯じゃ……)
 
 
 
 フランドールはこの『永遠亭ムーンラビッツ』の守備戦術にどうしたものかと溜息を漏らす。
 
 
 
 『永遠亭ムーンラビッツ』は試合の後半からボールを奪取するラインを予め定め、それまではあまりプレスに行かないという守備戦術を採用した。勿論、これは輝夜の指示によってである。
 『永遠亭ムーンラビッツ』の監督である輝夜は、自チームの最終ラインを下げたうえで自陣の選手の密集度を上げ空きスペースを埋めさせた。
 高い位置からのプレッシングを捨てる、これは自チームの攻撃力をいくらか削る行為であったが、同時に『紅魔館FC』の攻撃の軸であるフランドールの攻撃力を削ぐ事に見事成功していたのである――。
 
 
 
 
 
 ――パシッ!
 
 
 
 
 
 一旦後ろに下げたボールが再びフランドールへと渡るが、またもフランドールがある程度までドリブルで進むと敵妖怪兎達がプレスの構えを見せて――、
 先程と同じ展開になるのかと思われたその時、
 
 
 
 
 
 『おい! お前等、これじゃあフランドールVS『永遠亭ムーンラビッツ』じゃないかよ!! いくら攻撃の軸がフランだからって何もかもをフラン任せにするな!
 フランがパスを出すスペースが無くて困ってるぜ? 前線にいる奴等はただ良いボールが来るのを待つんじゃなくて自分達も走ってフランの為にスペースを作りやがれ!
 それと咲夜、小悪魔! フランがボールを持ったらリスクを賭けて前線に走り込んで人数をかけろ! 今日のフランはこのチームの『エース』なんだろ、
 『No、10』なんだろうが! もっとフランの事を信頼しろ、フランなら絶対にボールを奪われないって! フランならきっと走り込んだ私に良いパスを送ってくれるって!!!』
 
 
 
 『紅魔館FC』のベンチからずっと今まで試合を観戦していた魔理沙が不意にスクッと立ち上がり、レミリアや咲夜ら『紅魔館FC』の面々にそう大声で檄を飛ばす――!
 
 
 
 「何?」
 「何、何、一体どうしたの?」
 「ん~?」
 
 フィールド外にいる魔理沙の突然の行動に『永遠亭ムーンラビッツ』の面々は一体どうしたと戸惑う。 
 ――しかし、
 
 
 
 「フン……、この私とした事が魔理沙に気づかされるなんてね」
 「あ~、そういえばそうだったわさ!」
 
 その魔理沙の檄を聞いた前線のレミリアが、小傘が、
 
 「咲夜さん!」
 「えぇ、そうね……。妹様を信じましょう!」
 
 中盤の底を守る小悪魔も、咲夜も『紅魔館FC』の皆が、魔理沙の檄を聞いて一斉に動き出す――。
 
 
 
 「魔理沙…、お姉さま、咲夜、皆……」
 フランドールはボールを保持しながら、その状況をただ呆然と見渡す。すると――、
 
 
 
 
 
 ――ブン…… ブブン!
 
 
 
 
 
 (わ~、スゴイスゴイ!!! もの凄くたくさんの線がハッキリと視えるよ! これなら、――いけるっ!)
 
 
 
 フランドールの脳裏に幾筋ものゴールへと至る線が視え、その事に勇気が湧いて出たフランドールは力強くドリブルを開始する――。
 
 
 
 ……そう、『紅魔館FC』のチームメイト達は前半途中からのフランドールの好機演出のせいで、知らず知らずの内にすっかり攻撃はフランドール任せになっていたのである。
 ドリブルで抜かしての好機演出はフランドール任せ、自身は動かずにラストパスもフランドール任せ、これでは『紅魔館FC』の攻撃が滞るのも無理はなかった……。
 『No、10』に対する信頼と依存は似ているようで違う。『永遠亭ムーンラビッツ』のルーミアは信頼であったが、『紅魔館FC』のフランドールに対しては依存であった。
 だが、魔理沙の檄によってフランドールに対して依存から信頼へと変わった事により、『紅魔館FC』の攻撃に厚みと連動性が生まれ始める――。
 
 
 
 
 
 「――そこっ!」
 前線のレミリア達の積極的な動き出しによって『永遠亭ムーンラビッツ』の守備陣形にスペースが生まれたのをフランドールは見逃さず、素早くそのスペースにパスを送る。
 
 
 「ほいさっ!」
 その『永遠亭ムーンラビッツ』の最終ラインの裏に抜けるようなパスをサイドで受け取ったのは小傘であった。
 そして小傘は得意のドリブルで敵妖怪兎の一人を抜き去ると中央にマイナス気味の速いグラウンダーのパスを出す――。
 
 
 
 
 
 ――シュゥゥウウイィィイイイン!!!
 
 
 
 
 
 そのグラウンダーのパスコースの先にレミリアが走り込み、敵妖怪兎達もそうはさせるかとディフェンスの為にマークに付く――が、
 
 
 「クククッ、……悪いな。私は囮だ」
 レミリアはそう言って、自身に向かって来たボールをヒョイっと跨いでスルーする。
 するとそのスルーされたボールを中盤の底から走り込んでいた咲夜が華麗にトラップし、そのまま迷いなく利き足を振り上げる――、
 
 
 
 「――残ぁん念! まだ私が残っていますよ~っとね!!」
 『永遠亭ムーンラビッツ』のディフェンダー陣の中で唯一、レミリアのスルーに惑わされなかったてゐがシュートモーションに入っている咲夜にスライディングタックルを仕掛ける。
 
 
 「――えぇ、残念ですわね」
 
 
 
 
 
 ――コツン
 
 
 
 
 
 スライディングに来たてゐにそんな微笑む余裕すら見せながら、咲夜はアウトサイドキックでシュートではなくパスを選択する。
 
 「ギュッとして――、ドッカァーン!!!」
 
 
 
 
 
 ――ドギャァァアアアアアン!!!!!
 
 
 
 
 
 フランドールの足元から弾丸の様なスピードでボールが放たれ、ボールは超速で『永遠亭ムーンラビッツ』のゴールネットに突き刺さる――!
 
 
 
 
 
 
 
 文 『ゴォォォオオオオオルゥゥウウウ!!! ゴール、ゴール、同点ゴールゥゥウウウ!!! 『紅魔館FC』、逆転されてすぐに同点ゴールを叩き込んだぁーーー!! なんという美しい連携プレー!!! まるでチーム全員が同じゴールまでの絵を描いているかのような攻撃の連動でした!!!』
 
 紫 『うふふっ、このゴールは『紅魔館FC』全員で挙げた得点のようなものね。魔理沙の言葉によって『紅魔館FC』のチームメイト達に素晴らしい一体感が出来上がったわ、これで最後まで勝負は分からなくなったわねぇ~』
 
 文 『あやや、何というシーソーゲームでしょうか! 私としても実況のし甲斐がありますね~』
 
 
 
 
 
 
 
 「やったぁーーー!!! 同点ゴール&私も公式戦初ゴールだぁーーー!!!」
 ボールがネットを揺らしたのを確認したフランドールは高らかにジャンプし、ガッツポーズを決める。
 
 
 「やったわね! ナイスゴールよ、フラン!!」
 「おめでとうございますわ、妹様!」
 「やったー!! さぁ、ここからまた逆転するわさ!」
 「おめでとうございます!」
 
 
 そんなフランドールを『紅魔館FC』のチームメイト達が次々と祝福する。
 
 
 
 
 
 「また同点か……。逆転したリードを守り切れなかったとはいえ、しつこいわね……」
 スコアを同点に戻され、若干気落ちしてしまった鈴仙は肩で大きく息を吐きながら一人そう呟く。
 
 「仕方無いよ~。またこっちが点を入れて、突き放せばいいだけ~」
 「そうそう、過ぎた事は仕方が無いって! ――でも『紅魔館FC』、正直ここまでやるとはね……」
 そんな鈴仙の呟きを聞いてルーミアとてゐが鈴仙を慰める。
  
 
 三人は会話の後、厳しい初戦になったなと各自思いながら『紅魔館FC』のゴールの祝いの輪を黙って見つめるのであった……。
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半24分 2-2
 
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』   ベンチ内――
 
 
 
 
 
 「……、ありがとう」
 フランドールが豪快に『永遠亭ムーンラビッツ』のゴールネットを揺らし試合会場がその同点ゴールに涌き上がる中で、パチュリーは静かに礼を述べる。
 
 
 「あん? 何、お前がそんな事を言いたそうな顔をしていたからな、代わりに代弁してやっただけだぜ? 
 お前のその小さな声じゃどう頑張ってもフィールドの全員に聞こえないだろうしな」
 魔理沙は自身の頬をポリポリと掻きながら、何の事はないぜと嘯く。
 
 「何、格好つけてるんだか。後半が始まってからの『紅魔館FC』の拙攻ぶりにイライラしてたのが本音でしょう?」
 そんな魔理沙をアリスは呆れるような眼差しで見つめボソッと呟く。
 
 「あーもー、いちいちシャシャリ出て来るなよな、アリス! せっかくパチュリーに貸しを一つ作れるかもって思ったのに!」
 「はぁ、やれやれね……。第一、魔理沙があんな事をしなくてもパチュリーは何かしらの手を打ってたわよ。でしょう?」
 
 見事に魔理沙の図星を突き、魔理沙に噛み付かれながらもアリスはそう問いかけると、
 
 「ふふ……、でも実際に魔理沙の檄飛ばしは最高のタイミングだったわ。もしあれが無くとも私は手を打っただろうけれど、
 あの魔理沙の檄飛ばし以上の効果を上げられたかは……難しいわね」
 アリスの問いにパチュリーはそう薄く微笑みながら答える。そして、
 
 「さぁ、これでウチと『永遠亭ムーンラビッツ』の『トップ下』に対する理解のアドバンテージの差は殆んど埋まったはず……。
 あとの勝敗は『サッカーの神様』のみぞ知るって所になるのかしら」
 パチュリーはそう言葉を続け、試合会場に設置されているスコアボードと残り時間を確認するのだった。
 
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   後半44分 ――
 
 
 
 
 
 文 『さぁて、いよいよこの試合も大詰めの時間帯に入って来ました! 後半途中のフランドール選手の同点ゴール以降、これまで両チーム共にフランドール選手、ルーミア選手が軸になって様々な好機を演出するもいずれも得点には至らず、ここまで2-2の同点のまま来ております!! 
 紫さん、随分と緊迫した試合展開になってますが、どう思いますか?』
 
 紫 『ここまで来ると『紅魔館FC』は大健闘してると言ってもいいわねぇ~。やっぱりこの試合中に『紅魔館FC』の選手達が成長した事、
 特にフランドール選手の成長が大きく作用しているのかしら? 攻撃面では『永遠亭ムーンラビッツ』にまったく見劣りしなくなったもの。……それがこの試合展開を作っているわね』
 
 文 『成る程。という事は『紅魔館FC』も、紫さん率いる『幻想郷SG』の強力なライバル候補に成長したという事でしょうか?』
 
 紫 『うふふ……、『紅魔館FC』とは所属するリーグが違うから、私達のチームと対戦する事になるとしたら決勝トーナメントになるわね。
 ――その時は、遠慮なく叩き潰させてもらいますわ』
 
 文 『あやややや、これはもし決勝トーナメントで『紅魔館FC』VS『幻想郷SG』になった時は大変面白い事になりそうですねぇ~!』
 
 
 
 
 
 ――パシッ!
 
 
 
 
 
 「よし、――いくよ~!」
 フランドールは咲夜からボールを受け取ると、顔を上げて前線を見渡す。
 すると脳裏にボォッと幾筋かのゴールへと至る線が浮かび上がり、フランドールはその内の一つを選択しドリブルを開始する。
 
 
 
 「これ以上は行かせないよ~」
 するとルーミアと妖怪兎がドリブルコースを遮り、フランドールのボールを奪取しようとプレスを掛けに来る。
 
 
 「あははっ! いいよ、勝負しよう!!」
 それを見たフランドールはニヤリと笑うとそのまま加速し、ドリブルでルーミア達に突っかかってゆく――。
 そしてフランドールとルーミア達が交差する瞬間、フランドールはルーミアに呟く。
 
 「『No、10』は『仲間を上手く使う』んだったよね? ――今日は色々と教えてくれてありがとう!」
 
 
 
 
 
 ――トンッ!
 
 
 
 
 
 フランドールはそう言って、自身を後ろから追い抜かして行く小悪魔にボールを出す。
 
 
 
 
 
 ――パシッ!
 
 
 
 
 
 「ナイスパスです、妹様っ! ――お嬢様っ!!」
 フランドールからボールを受け『永遠亭ムーンラビッツ』の中盤の守りを突破した小悪魔は、そのまま敵チームの最終ラインを飛び出したレミリアにスルーパスを送る。
 
 
 
 
 
 「クククッ……、これがお前達に送る鎮魂歌になるだろう。存分に受け取るがいい!!」
 小悪魔のスルーパスに見事に反応したレミリアはボールをワントラップし、思い切り足を振り上げシュートモーションに入る――。
 
 
 
 『まだ間に合うわっ!! レミリアのシュートコースをブロックして消しなさいっ!!!』
 
 その光景を見た『永遠亭ムーンラビッツ』の監督の輝夜は思わずベンチから立ち上り、そう大声で守備陣に指示を出す――。
 
 
 「了解了解ってね!!!」
 輝夜の指示を聞いたディフェンダーであるてゐや妖怪兎達はシュート体勢に入っているレミリアに一斉に襲い掛かる。
 
 「――ハッ、小賢しい! このまま纏めて撃ち貫いてやるわ!」
 レミリアはそんな『永遠亭ムーンラビッツ』の守備陣のブロックなど意に介さないと強引にシュートする――。
 
 
 
 
 
 ――バシュゥゥゥウウウウウ!!!!! バシィィイイイ!!!
 
 
 
 
 
 しかし、レミリアの放った強烈なシュートはてゐの身体にブロックされそのまま空高く上空に舞い上がってしまう――が、
 
 
 
 「――結局、今日はずっとあなたが主役だったわね……、フラン?」
 「えへへっ、今日の私は『紅魔館FC』の『No,10』だもん! ――つまり、そういう事だよ~!!」
 
 自身のシュートがブロックされた事を悔しがる素振りを一つも見せず、レミリアは背後から上空に抜けてゆく一つの気配に向かってそう語りかける。
 
 「これでもうコンテニューは出来ないよ!」
 
 フランドールはそう言ってボールを追って空高くジャンプすると、優雅に上体を反らしオーバーヘッドシュートを放つ――。
 
 
 
 
 
 ――バシュゥゥゥウウウウウ!!!!!
 
 
 
 
 
 ――バサァァアアア!!!
 
 
 
 
 
 フランドールが放ったシュートは上空から鋭い軌道を描き、『永遠亭ムーンラビッツ』のゴールマウスに突き刺さる――。
 
 
 
 
 
 
 
 文 『ゴーーーーーーーール!!!!! 『紅魔館FC』、試合終了間近で勝ち越しゴールを挙げましたぁーーーーー!!! ゴールを挙げたのはまたもフランドール選手!!! 最後は美しく上空からオーバーヘッドで決めたぁーーー!! 残り時間を考えるとこれが決勝ゴールになってしまうのでしょうかー!!?』
 
 紫 『結局、今日の試合は『紅魔館FC』が制す……か。『紅魔館FC』と『永遠亭ムーンラビッツ』、今日の試合は両チーム共に決定的なまでの差は無かったわねぇ』
 
 文 『それは両方のチーム力が拮抗していたという事ですか?』
 
 紫 『そう。それは逆説的に『紅魔館FC』にそこまでのポテンシャルがあるという事を証明した……。うふふっ、これは楽しみになってきたわ~』
 
 文 『あややや、しかしまだ試合は終了していません!! もしかしたら『永遠亭ムーンラビッツ』のまたまた同点ゴールがあるかもしれませんよ?』
 
 紫 『そうね……、試合は最後まで分からない。試合終了まで私達はこの勝負を見届けましょう』
 
 
 
 
 
 
 
 そしてレミリアが、フランドールが、咲夜が、鈴仙が、ルーミアが、監督である輝夜も懸命にチームに指示を飛ばし、残り時間を精一杯に戦う。
 
 
 
 
 
 『ピッ ピッ ピィィィイイイイイ!!!!!』
 
 
 ――数分後、フィールド全体に今日の試合終了を告げる笛の音が響き渡る。
 
 
 
 
 
 ――『ウォォォオオオオオーーーーー!!!!!』
   『紅魔! 紅魔! 『紅魔館FC』が勝った!! ウォオオ!!!』
   『よっしゃぁーーー! 『紅魔館FC』、万歳ーーー!!!』
 
 
 主審の試合終了の笛が鳴らされた瞬間、人里第一球技場に詰め掛けていた『紅魔館FC』のサポーター達は歓喜の渦に包まれる。
 そんな歓声の鳴り止まないフィールドの内で、
 
 
 「フランーーー!!」
 「妹様!」
 「妹様っ!」
 「妹様~!」
 「フランちゃん!」
 
 
 レミリアを始めとした『紅魔館FC』のチームメイト達が試合終了の笛の音を聞くと一斉に、
 今日の試合の立て役者であるフランドールの元へ次々と飛びかかる――!
 
 
 「わわわっ!? ちょ、ちょっと皆、気持ちは嬉しいけど重いってば~!!!」
 
 
 
 
 
 ――『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』   試合終了 3-2 『紅魔館FC』、『幻想郷サッカー大会』リーグ開幕戦勝利!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ※ 翌日の『文々。新聞』のサッカー欄にて
 
 
 『『紅魔館FC』、激戦の末に勝利をもぎ取る!!!』
 
 (見開きにフランドールの逆転オーバーヘッドシュートの写真)
 (下記に、試合終了後にお互いのチームの健闘を称え合うパチュリー監督と輝夜監督の握手の写真)
 
 ・先日、幻想郷中の人妖が待ちに待った『幻想郷サッカー大会』のリーグ戦の開幕戦が各試合会場で行われた。
 筆者が実況を務めた人里第一球技場で行われた『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』の開幕戦もたくさんの人妖達で試合会場は溢れ返り、
 また試合内容もその観客達をおおいに湧かせる素晴らしい内容であった。まず前半2分に――。
 
 
 
 ・『幻想郷サッカー大会』リーグ戦 第一節 結果
 
 ・『永遠亭ムーンラビッツ』 2-3 『紅魔館FC』 (人里第一球技場)
 ・『地霊殿ヘル・シティ』  2-0 『霧の湖フェアリーFC』 (旧都、地底はいいとこおいでませスタジアム)
 以下略……
 
 
 
 
 
 
 
 
皆様、こんにちは。こんばんは。ビバです。
今回のお話はまるまる一本、『紅魔館FC』VS『永遠亭ムーンラビッツ』の試合でお送りいたします。 
ただ今回は誰一人として自身の能力を使っていないので、普通のサッカー風景を文章にしただけになってしまっています。反省ですね……。

東方キャラの特殊能力をサッカーに当てはめるのは中々に難しいですね、自分も色々と考えていますが……。
おっ、これ良いなと思いついても強すぎだったり、そもそもサッカーに利用不可能な特殊能力だったり。

まぁ色々と空想するのは楽しいので気負わずにこれからも頑張っていきたいと思います。
 
 
※それと前回のタグの件、期待させてしまわれた方々申し訳ありませんでした。
自分的にはこの物語の第二部のサブタイトルのつもりでつけていたので……、本当にすみませんでした。 
 
ビバ
vibaviba0902@yahoo.co.jp
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コメント



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10.100ずわいがに削除
興奮し過ぎて涙出てきたww

またもやダークホースですか、ルーミア。そしてラインが見える、と。
それにしても毎回チームが確実に成長していってるのが凄いですね。経験が活きてる。
あと、試合本番でいきなりポジション変えられたら本当に何もかもがいつもと違って戸惑いますよね。しかしフランはよく頑張った!
12.100ぉらぉら削除
おお
すげぇや
15.100名前が無い程度の能力削除
ルーミア素敵!
19.100名前が無い程度の能力削除
この試合は文句なしに面白かった
フランの目覚め、敵チームの隠し球、金髪ロリ対決、チームの成長
確かに殆ど能力使ってないけど些細な事の気がします