Coolier - 新生・東方創想話

チルノはやっぱり冬が好き

2010/04/16 15:55:08
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「また次の冬に戻ってくるから、それまでいい子にしててね」

 もう、毎年いつもいつも同じ言い回しね。

「そうだったかしら?」

 そうよ、覚えてるわ。あたいは天才だもの。それから毎年
 ずっとあたいは…春も夏も、秋も。ずっとここで待ち続けて…

「…ごめんね、でも不貞腐れないでちょうだいね。私は冬の妖怪で―――」

 それも何度も聞いたわ! …何度も、何度も。

「それも覚えてるのね。貴女は賢いもの、うん。
 そう、だから私は次の冬を待たなくちゃいけない」

 …春なんて来なければいいのに。
 春だけじゃなくて…夏も、秋も。来なくていい。ずっと冬が続けばいい。

「我が侭言っちゃ駄目。貴女が冬を好きなように、他のみんなだって
 春が好きとか、夏が好きとか、それに秋が好きとか…変わってほしくないって
 思っても、みんなそれを受け入れて、むしろそれを楽しんで過ごしてるんだから」

 知ってるよ、それぐらい。でも…

「それに、その場にいない私にはわからないけれど。
 意識して…改めて考えてみたら、楽しむようにしてみたら
 貴女も他の季節を好きになれるかもしれない。他のみんなと同じように」

 そうかなあ……

「出来るわ。貴女は自然の妖精の一人だもの。
 春と夏と秋、良いところを見つけてみてちょうだい。
 私からの、来年までの宿題にしましょう」

 わかった!天才のあたいがそれぐらい見つけてやるわよ!

「ふふ…いい子ね。約束よ」

 うん!約束!




「それじゃ……またね、チルノ」




 あたいはずっとずっと、青空に向かってぶんぶんと大きく手を振っていた。
その彼女の綺麗な笑顔がその色に溶けて消えるまで、何度も。

 そして彼女から言われた『宿題』という言葉を忘れないように
ぎゅっと右のげんこつをつくって、空に掲げた。

 来年までの、宿題。次に会うときまでの約束。


--------------------------------------------


 湖はほとんど霧で覆われているけれど、少しだけのぞきこんでいる
光がまぶしくて、暖かい。それに、湖から吹き込んでくる風が涼しくて気持ちがいい。

 湖の水辺をザッと蹴り上げる。はねた水がその先の、湖に浮かぶハスの葉に
乗ったカエルに当たった。カエルの奴、今年はいつもと違って、出てくるのが早い。

 それとも・・・貴女の方がギリギリまで残ってくれていたのかな。

 人差し指をカエルの方にそっと向ける。あたいの力がカチカチとカエルをたちまち
手の平ぐらいの氷のかたまりにした。めでたいめでたい今年の初凍らせだ!

 あたいがまた水辺でカエルを探していると、湖に広がる白い霧の向こうから
見慣れた顔の友達みんなが手を振って大声で叫んでいた。

「チルノちゃーん!あけましておめでとー!」

「チルノー!あけましてー!」

「またカエル凍らせて遊んでんのー?こっち来て遊ぼーよー!」

「新春の弾幕ごっこよ!去年はやられたけど、今度は私が勝つ!」

 おっとり笑顔で手を挙げる大妖精、相変わらずのにかっとした笑顔のルーミア、
その隣にはバカみたいにぶんぶん手を振るミスティア、腕を組んで
ばさばさマントを鳴らすリグル、四人が目の前でふわふわと浮かんでいる。

 むむ、どうやら最強のあたいが弾幕ごっこのお呼ばれのようね!
女王様の風格をもってお出迎えしてやろうじゃないの!

 あたいはみんなに混ざって、それから思いっきりピースサインを
してニヤッと笑顔を見せてやった。あたい流の決闘申し込み、という奴だ。

「実は冬の間ずーっと考え抜いて出来た新スペルカードが
あるのよ!この最強のあたいに勝てるかな!」

「何だとー?こっちだって『虫の知らせサービス』で鍛えた
虫たちの統率力、スペルカードとして見せてやる!」

 そう言ってあたいの挑戦を受けたのは一番好戦的なリグル。
よーし、かかって来るがいい、挑戦者よ!わははー!

 頑張れー、という他のみんなの応援に囲まれて、あたいは
指先につまんだスペルカードをどんとリグルに向けて突きつけた。






 道端のカエルも、霧の湖のはずれの森の虫たちにも。
しばらくぶりの友達にも。寒がりでずっと外に出たがらなかった、
かつての弾幕ごっこのライバル達にも。

 あたいはまとめて「久しぶり!」と声をかける。

 ぽかぽか陽気に包まれた、それは出会いの時間で。

 そんな春の日を、あたいはすごく好きになった。




--------------------------------------------




「しかしあっちーな、畜生」

「あんたねぇ…いきなりこっちにやってきた挙句、
 人の氷枕を占領しといて何言ってるのよ」

「うるせー、借りてるだけだよ。それに何が『人の』だ」

 じんじんと照りつけてくる太陽の光の向こうから、ミーンミーンと
耳を突くセミの声がやかましい。博麗神社の居間でお互いしかめっ面をして向かい合う
霊夢と魔理沙が、それに負けないぐらいの声で何かよくわからないことを言いあっている。

 あたいはというと、そんな魔理沙がだらしなく伸ばした足に
ぽんと乗っかってくつろいでいる。顔を汗だくにして、
氷いっぱいの湯のみに入った麦茶をがぶがぶ飲んでいるのは見てて面白かった。
この時期になるとどうしてみんな、こんなにもだらだらと
しているんだろう。不思議でしょうがない。

「チルノ、こんな奴ほっといて今から紅魔館とこの図書館に行こうぜ。
 アリスもパチュリーも呼んで読書会と洒落込むとしよう。
 あいつら二人もきっと喜ぶぜー?」

「待ちなさいよ、その子は持出厳禁よ!
 もし連れて行きたいのなら貸出料を請求するわ!」

 霊夢がぱっと飛び起きて、ドスドス音を立てて魔理沙に近づく。
それから魔理沙の方にぐぐっと顔を近づけてうなり声をあげて睨む。
魔理沙は困り顔で「おいおい」とつぶやいた。

「でもあたいは本、よくわかんないよ?」

 魔理沙と向き合って、あたいは首をかしげる。そういえば
この前の夏もこんな風に連れられて図書館に行って、
本をとって見たはいいけど、お話どころか文字もわからなくて
その日は結局、分厚い本を枕にして寝ちゃった気がする。

「大丈夫だいじょーぶ、その辺は優しいアリスやパチュリーに
 読んでもらうといいさ。もしかしたら魔法のひとつでも
 覚えられるんじゃないか?」

「魔法が使えるようになるのね!」

「お前は天才だからなー、ほんとは私の部屋で一緒に、
涼しくなってくる夕暮れぐらいまでみっちり勉強でもしたいところだが。
どこぞの鬼巫女が許してくれなくてよー」

 わざとらしく聞こえるような溜め息をつきながら、魔理沙はあたいの首に
抱きついている。霊夢は同じように大きな溜め息をついて、腕を組んで
じっと上から魔理沙の方を睨んでいる。

「ほんと、調子のいいことで…まぁいいわ。ある程度家事も
 終わったことだし。図書館に集まるなら私も連れて行きなさいよ?」

「…暇人巫女め」

 霊夢は湯飲みの底をぐりぐりと魔理沙の頭のてっぺんに押し付けた。
そして、「いででででで」と魔理沙が変な声を上げるのをクスクス笑うと、
そのまま背中を向けて、台所の方に歩いていった。

 魔理沙は目を瞑って「ああ、畜生。あぢー」とつぶやきながら頭をさすって、
それからまたあたいに何度も聞いた愚痴をこぼしてきた。




 顔を緩ませて抱きつく魔理沙に、あたいはふふんと鼻を鳴らしてやる。

 やっぱりあたいは天才で最強なのね!

 あたいが天才で最強だから、こうして皆が求めて、褒めてくれるんだ。

 それからしばらくして、霊夢や魔理沙たちと訪れた図書館で、
あたいはアリスやパチュリーたちにお話を聞かせてもらって。
結局前と同じであたいは居眠りをしちゃったけど。それでも
みんな、「また今度」と言ってくれた。

 そんな夏の日を、あたいはすごく好きになった。




--------------------------------------------




 湖のはずれの見慣れた森が、夕暮れの日の色に染まって赤や黄色になって、
ふわふわとその葉が目の前を落ちて、山を作っていく。そんな風景の中。

「チルノちゃーん!」

 森にどんとそびえる太っちょの木と木の間をささっとすり抜けて、
橙が小さな耳と長い二本の尻尾をぴょこぴょこ動かしてやってきた。
その両手には大きな紙袋を山ほど抱えて込んでいて、顔の半分が
見えなくなっているくらいだ。

「橙、お買い物?」

 袋のひとつを覗き込むと、山盛りの焼き芋がぎゅうぎゅうに
敷き詰められていた。橙はうん、とうなずくとそのひとつを
手にとってあたいに差し出してくれた。熱い食べ物は苦手だけど、
焼き芋は甘くておいしいから大好き。両端のヘタの部分を
両手でつまんで、おなかの部分を皮ごとがぶりと一口。

「藍様と買い物なの、紫様からのお使い!
 でも藍様のお許しで、遊びに来ちゃった」

 嬉しそうにぱぁっとした笑顔で言う橙の背中で、いつの間にか
その『らんらん』が「やぁ」と、橙と同じように顔半分を
紙袋で覆っていた。相変わらずもふもふ毛だらけだなぁと
また焼き芋をかじりながら、バカみたいに数の多い尻尾の方を見ていると、
らんらんは橙に言う。

「おや、橙。焼き芋をあげたのかい」

「紫様のでしたけど…やっぱり駄目だったでしょうか」

「ひとつくらいなら許してくれるだろう。ほらチルノ、見てみろ。
 まだもう一袋あるんだぞ?これも全部紫様がお食べになる分だ」

「人里に売られてる神様印の焼き芋でおいしいから、
 この時期はいつも おやつに食べてるの、紫様」

 苦笑いで見つめあう二人だけど、おいしいものならしょうがない。
あたいは、おなかの部分がなくなって両手で半分こに分かれた焼き芋のかけらを
どっちもぽいっと口に入れる。しまった、ヘタをとり忘れた。…まあいいか。
 橙は手に持っている残りの袋の口元を見つめながら言った。

「あとはねー、今日のお夕飯の食材。今日はお鍋をするんだって」

「野菜やら肉やら買い込んで、『食欲の秋』というわけだ。
 しかしながらその分だけ運動もしなさい、とあれほど申しているのに…」

「それって『運動の秋』ですよね!藍様」

「そうだぞ、橙。立派な妖獣になるためにしっかり食べてしっかり
 遊ぶんだぞ。チルノもまた、良ければ橙の弾幕ごっこの相手をしてくれ」

 そう言うとらんらんは「そろそろ行こうか」と橙に呼びかける。
元気よく橙がうなずいて、あたいにバイバイと笑顔で言うと、2人は
森の木々の中へとささっと素早く消えていった。







 よくあたいは、『何とかの秋』という言葉を聞いていつも不思議に思う。

 以前、魔理沙の家に遊びに行くと、「読書の秋さ」と
言って閉じこもってずっと本を読んでいて。博霊神社に行くと、
「味覚の秋と十五夜を兼ねるのよ」と言って、ちっこい鬼と一緒に
せっせと団子を作っていた。紅魔館の門番は「昼寝の秋ですよー」と
言って、いつもと変わらない風にうとうとしながら門の前に
立っていたのを見たのを思い出す。

 みんな何かと秋につけて色々やってるんだなぁ、とよくわからないけど
感心してしまう。そうだ、あたいも何かしてみよう。
この頃は池でカエルが大合唱してるから…『カエル凍らせの秋』なんて
どうだろう。すっごく面白そう。

 それからあたいは夜が来て、真ん丸いお月様が湖の上に浮かぶまで
ずっと『何とかの秋』をいっぱい考えた。
 
 どれもこれも面白そうで、その日はずっとわくわくしっぱなしだった。

 そんな秋の日を、あたいはすごく好きになった。




--------------------------------------------




 湖の水辺も、はずれの森も。見える景色のほとんどがが真っ白に染まった。
ヒューと鳴く北風があたいの髪をそっと揺らす。そして鼻の頭にふと
雪の粒が乗っかって、鼻がむずむずする。

 生き物も、他の友達も見えない、しんと静まり返った寒空の下で。あたいは
そのまま仰向けになってふんわりとした雪に体を預ける。見えるのは薄灰色の
雲としんしんと降る白雪ばかり。雪の粒たちのひとつひとつを目で追って、
あたいはぐるぐると目を回しそうになる。



 ふと目を閉じて、何度も巡ってきたこの季節のことを思う。

 いつもこうして、あたいはそっと雪の上で寝転がって
空を見つめていた。意味なんてないんだけど、それはあたいにとっては
すごく特別なことで。こうして乾いた空を見つめていると、いつも…。



 大きな手のひら、だけどか細くて綺麗な指。
 暖かい両の手がそっと、あたいの頭を撫でてくれる。

 ぱっと目を開くと、そこには。
 あたいの目の前で。前と全く変わらない姿で、
 優しく微笑んでくれる貴女がいた。





「ただいま、チルノ。元気にしてた?」

 うん、あたいは元気だよ。ずっと待ってた。

「私もよ、眠りながら貴女の夢を見てた。そっか、元気なら良かった」

 うん。天才で最強のあたいは元気が取り柄なのよ。

「そうね、ふふ。…そうだ、私の宿題覚えてる?」

 当然よ!覚えてる、ちゃんと答えも出したんだから。
それじゃ、一世一代のあたいの宿題発表よ。

「偉いわね。それじゃ早速、聞かせてもらおうかな」

 よーく聞くのよ。……うぉっほん。
結論!あたいは春も夏も秋も冬も、好きなのだ!

「な、なるほど。でもそれじゃ答えになってないわよ。
 もうちょっと詳しく聞かせてちょうだい?」

 ふふん。天才のあたいがわかりやすいように教えてあげるわ!
まずは、春なんだけど―――





--------------------------------------------





 そう、貴女の言うとおりだった。

 貴女のおかげで春も、夏も、秋も。
 
 前よりずっと好きになれた。



 でも。あたいはやっぱり、冬が一番大好きなんだ。



 貴女とこうして出会えることが。

 貴女に抱きしめてもらって、いい子だって褒めてもらうことが。

 貴女と一緒に色んなものを見つけて、考えて。わくわくすることが。

 何よりも大好きだから。






 おかえりなさい、レティ。
本当はアレンジ曲の題材だったのですが表現するに有り余るイメージの
膨大さだったのでちゃんとした文章にしました。
普遍的なレティチル話に、ちょっとした成長物語を付加しつつ。
チルノの一人称視線の文章ってどうすんだ………。
アップ後、追記で色々自分で書き加えてみましたが、推敲がさほど苦でないのは
「レティチル最高や!他の季節いらんかったんや!」という理由からでしょうか。
今年の冬も静かにお待ちしております。
かち割り氷
http://www.voiceblog.jp/librablue_1016/
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コメント



0.430簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
レティチルは正義
7.50コチドリ削除
カエルの子はオタマジャクシ。小ガエルなのか、大蝦蟇の子供という作者様の設定なのでしょうか?
持込厳禁→持出厳禁では。
サツマイモ→ヤキイモの方が風情が出るかと。
色々細かい指摘をしてすみません。
8.40名前が無い程度の能力削除
> 博霊神社
博麗神社だな
10.無評価かち割り氷削除
気になるレスがございましたので返信。

>コチドリさん
カエル…すいませんたぶん後者を想像しての言葉です。何でこういう間違いしたし…
    描写せずにもうカエルで通します。
焼き芋…『焼き芋』という言葉を素で忘れてました、これは…

修正加えました、ご指摘ありがとうございます。

>名無しさん
ナンテコッタイ、ご指摘ありがとうございます。
14.100名前が無い程度の能力削除
チルノの天真爛漫さは癒やし効果があるね
15.80ずわいがに削除
全ての四季を好きになる、か
やっぱチルノは最強の妖精ね