Coolier - 新生・東方創想話

So Sad

2010/04/14 02:03:14
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 起きると、すうすうという寝息が聞こえた。
 手に熱。手を動かし、手に触れるものの輪郭をなぞってみると、私の手に誰かの手が重ねられているようだった。
 はて、と思い未だもやの掛かった頭で隣を見る。私の従者が隣で寝ていた。
 何故従者が主人と一緒に寝ているのだろうと思い、そこで思い出す。
 ああ、そうだ、昨日は永夜の異変を解決しに行って……。
 疲れて、そのまま一緒に寝てしまったんだった。
 しかし体を折り、胎児のような格好でこちらの手を握るその姿は、普段の瀟洒さとかけ離れていた。

 ふーん……可愛いところもあるのね。

 そんな事を考えていると、握られた手がかすかに動いた。ううん、という寝言も言っている。
 どうやら覚醒の時が近いようだ。
 もう少し寝顔を見ていたかったかな、などと思いながらも、組まれた手を解き、体を起こし、ベッドから抜け格好を正す。
 最近なくなってきてはいるというか自分でなくしていっているが、それでも一応人の上に立つ者なのだから、最低限の威厳は保つ。
 そして、彼女が眼を覚ました。

「……ん。あれ? ここは……」
「おはよう咲夜。よく眠れたかしら?」

 窓辺でカーテンを手にしながら振り返る。

「え、あ、お嬢様? 何故私の部屋に……?」

 何度も瞬きをしてこちらを見る咲夜。どうやらまだ寝ぼけているらしい。

「ふう。ここがおまえの部屋に見えるかい?」
「……!」

 咲夜の眼が見開かれる。そして急に辺りを見渡し始めた。どうやら脳が活動を始めたらしい。
 咲夜の顔が赤くなってい……ったと思ったら、突然咲夜の姿が無くなった。
 そして急に香ばしい匂いが漂い始めた。それは良く嗅いだ事のある、というかほぼ毎朝嗅いでいる臭いだった。
 これは……。

「おはよう御座います、お嬢様。こちら朝食になります」

 ベットから眼を放し、声のした扉のほうを向く。
 姿を消した咲夜が、いつの間にか衣服も髪も整え、あまつさえ手には件の香りを放つ盆を手に持っていた。
 こちらが彼女を見た事を確認した彼女が、盆からテーブルに料理を並べていく。
 あの嗅いだ事のある匂いはやはり、いつものオムレツのそれだった。

「はあ……。恥ずかしいからって、そんな事のために使う能力かね」

 呆れて頭を掻く。

「違います。主人が起きたらすぐに朝食が準備できる。それは従者の最低条件ですわ」
「いくらなんでも苦しくないかねぇ」
「本当の事ですから、苦しい事など何一つ」
「そーかい。ま、いいけどさ」

 そう言って咲夜が朝食を並べた席につく。
 しかしよくもまあ真顔であんなデタラメ並べられるもんだ。
 クスリと、小さく笑ってしまう。

「……なんですか、お嬢様、その笑みは」
「いやいや、なんでもないよ。本当本当。主人を信じなって」

 ヘラヘラと軽い口調で言ってみる。
 自分で口にして思う。はて、私はどこでこんな言葉を覚えてきたのか。

「お嬢様、ずいぶんとあの人間達に似てきましたね」

 少し拗ねた口調で言う咲夜。
 言われて気づく。そうかあの人間達からか。確かに言われてみればそれ以外ありえないなと思える。

「丸くなった、って事だろ。いい事じゃないか。私は今の紅茶ばかり飲んで、おまえやパチェと今みたいにぐでぐでやってる日々が、嫌いじゃないよ」
「むう。うまくはぐらかされている気がしますわ」
「ああ、実際そうだからね」
「お嬢様」

 そう言って咲夜はこちらを睨んでくる。
 その顔を見て、また笑ってしまう。私に釣られたのか、咲夜も小さな笑いを漏らしていた。

 この日々が永遠に続くと、そう思っていた。


      ――――――――――――――――――――――――――――――


 コンコン。コンコン。
 ノックの音で、眼が覚めた。
 懐かしい夢だった。できる事なら、もう少しあのまどろみの中にいたかったかな、なんて思っていると、再びノックの音がする。
 一つ分かっているのは、あのノックの音の主が、彼女ではないという事。

「ああ、起きているよ」

 そうドアの向こうに返事を返す。

「朝食のお時間になられましたのでお食事をお持ちしましたが、いかがなさいますか?」

 返事と同時に香ってくるのは、あのオムレツの匂い。
 まったく。あいつもわざわざ後任が全く同じに作れるようにしていかなくともいいだろうに。
 その匂いを嗅ぐと、思い出しちゃうじゃないか。

「……悪いね。今日はちょっと朝食をとる気分じゃないんだ。下げてくれ」

 郷愁に胸を締め付けられながら、返事を返す。

「畏まりました。では、失礼致しました」

 一拍置いてから、足音が離れていく。多分ドアの前でお辞儀でもしたのだろう。

 さて、と。

 ベッドから起き上がり、今日も一日を始めるべく洋服棚へと向かう。
 扉を開けると、棚上部の小物置き場から、何かが落ちてきた。
 新聞だった。確かあの天狗が作った……文々○新聞と言ったか。
 彼女も今では烏天狗の上部の仕事につき、新聞を作る暇がなくなってしまったらしい。
 懐かしいねぇ、そう思いながら、その新聞を開いてみた。

 ……。

 なんでおまえはこう……なぁ、咲夜。

 新聞の一面には、私と咲夜が永夜の異変を解決した時の写真が載っていた。
 写真の中の私は、どうだと言わんばかりの笑顔で、無理やり咲夜の肩に腕を回し、もう片方の手でピースサインなんて作っていた。
 咲夜は、仕方ない主人だとでも言うように呆れているような顔で、しかしこちらにあわせて、控えめではあるが二本立てた指をカメラに向けていた。

 ……なんでおまえはこう、私のあちこちに残ってるんだよ。ねえ咲夜。

 心の中で問いかけても、答えは無い。
 新聞から目を放し、部屋をぐるりと見渡す。
 あいつと過ごした日々が、今でもたやすく思い出せた。
 涙腺から何かがこぼれた。

 ……もう、枯れたと思っていたんだけどねぇ。

 咲夜がいなくなったあの日にめいっぱい泣いた。
 その後も何年かは、何かを見て、彼女を思い出すたびに泣いて、もういい加減出なくなったと思っていたのに。
 それでも、流れるものは止まらない。
 心はきつく締め付けられていた。甘い郷愁に胸は焼かれていた。
 私達の時間が、巻き戻せればいいのに。
 だがそんな事は私にはもちろん、彼女にも出来なかった。
 分かっている。そんな事は無理だと、今更だと。でも、思ってしまうのだ。
 あの日々が戻るならばと、あの時間が戻るのならばと……。
 自らの無意味な思考を、頭を振って止める。

 私達の移った写真の載った新聞を手に、歩いていく。
 扉の前まで来て、ドアを開く。
 外へ出る前に、その新聞を以前咲夜が朝食を並べたテーブルの上に放り投げた。

 いつしか私達が、笑いあったその場所へ。
 こんばんは。C-kitという若輩者です。
 まずはここまで読んで下さった方、本当にありがとう御座いました。
 お気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、このお話はとある曲を聴きながら思いついたものです。細美さん愛してる。
 今回は余韻が残るようなものを書いてみたいな、などと思い書いてみたのですが、どうにも難しいですね。精進しなければ。
 今回も至らぬ部分が多かったとは思いますが、少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
C-kit
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コメント



0.510簡易評価
2.40名前が無い程度の能力削除
咲夜の寿命話は今までやり尽くされたネタなので、一線を画すオリジナリティがあったら良かったんだけど……
どうもパッとしない印象です。
8.10名前が無い程度の能力削除
話の展開が唐突すぎる
10.30名前が無い程度の能力削除
こんな短い文章で語れるほどレミリアと咲夜の絆は浅くないと思います。
何かワンエピソード欲しいです。
12.20カイ削除
手元に曲があったので聞きながら読みました。細美さんはどこへ行こうとしているのだw

曲の雰囲気は出ていたと思います。他は皆様ご指摘の通りです。
あとまあ、もっともっと細美ワールドを広げられたかと思います。発端が三分未満の曲だろうと、描ききるまで言葉を連ね、重ねてもよいと思います。そこが残念でした。
13.80名前が無い程度の能力削除
もうちょっと濃くしてもいいかな、なんて。
オリジナリティとかはそんな気にする事じゃないでしょ。
好きにこの二人を書いてください。
14.無評価C-kit削除
>2
ご指摘ありがとう御座います。
なるほど……なんとなくこんなの書きたいなぁ、と思って書いてみましたが、それが浅はかだったようです。
次回はもっと素敵なお話が思いつけますよう、うんうん唸ってみます。

>8
ご指摘ありがとう御座います。
唐突過ぎる。プロットの甘さと推敲の足りなさが原因のように思えました。この反省を次回に活かせればと思います。

>10
ご指摘ありがとう御座います。
短くても雰囲気出せるかな、と思い書いたものなのですが……絆が浅いと思われてしまいましたら大失敗ですね。精進致します。

>12
ご指摘ありがとう御座います。
やはり書き込みの足りませんか……レミリア咲夜、細美さんへの愛が足りませんね。次作ではもっと愛が込められるよう頑張ります!
細美さんは……きっといつかELLEに戻ってきてくれると信じてます。

>13
ご指摘ありがとう御座います。
やはり皆様のご指摘通り薄っぺらさが一番の問題なのですね。自分の甘さを痛感致しました。
17.70ずわいがに削除
この作品、もしかして上にあるお話と繋がってるのかな。レミさんの優しい雰囲気が伝わってきます。
18.無評価C-kit削除
>17
ご評価とコメント、ありがとう御座います。
ええ、実はそのつもりで書いていました。
ただ、そのためにこちらがおまけと言うか、お話として酷く陳腐なものになってしまいまったようです。
以後この失敗を踏まえていけたらな、と思います。