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東方千一夜~The Endless Night   第一章「永遠に紅い幼き月・前編2」

2010/03/22 00:03:18
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 その森は昏く、光が一切射すことは無い

 昼間でも陽の射す事の無いその森は、進化の過程をよほど外れてしまったかのような異様な木々に覆われている
 あちらこちらには、どのものかも分からぬ獣の骨が散乱し、その内のいずれかは、人骨と思しき物も混じっている

 森を抜けると、鳥すら通わぬような断崖絶壁に出くわす
 ほとんどの者が、ここで道を失ってしまうだろう

 一つの黒い影が、途轍もないスピードでその断崖を飛び上がっていく
 その頂上にこそ、かの者が目指す館があった

 どす黒く濁った湖に浮かぶその館には、門はあってもそこに渡る橋も無い
 全体が蔦に覆われ、陽の差さぬジメジメとした環境の中で黴と苔が大部分を侵食していた

 わずかに見える館のレンガから、その館が元は紅いレンガ造りであることが伺える
 建物には一切の窓はなく、外周からは中の様子を知ることは出来ない

 無人の廃墟としか思えぬ佇まいではあるが、建物からは途轍もなく邪悪な妖気に満ちている

 館の名は、『紅魔館』と云った…

 館に降り立った黒い影…。この館の主、レミリア・スカーレット

 その翼は自身の身体よりも大きく、高貴な吸血鬼の血統を存分に身に纏い、美麗な細工人形のようないでたちだった

 その翼さえなければ、どこか遠い異国の王女といわれても分かるまい
 まだ幼い妖怪でありながら、すでに館の主としての風格を備えていた

 少女は階段を降りていく。まだ陽は高いものの、この館の周囲は常に厚い雲に覆われており、まるで太陽を拝むことは出来ない

 陽の光に浄化されぬ穢れが、館の内部には積もりに積もっている
 埃が積もり、血腥い腐臭と死臭が建物の内部には満ちている

 レミリアが階段を降り切ると、目指す部屋に到着した

「パチェ…」

 ノックもせず、レミリアはその部屋にいるべき住人の名を呼びながらドアを開けた
 部屋の中には、レミリアの数倍はありそうな巨大な書架が無数乱立していた

 床には怪しげな幾何学模様と、神を穢す呪詛が所狭しと描かれている
 わずかな蝋燭の明かりから見える書物の大半は、人間の持つ辞書よりも数段分厚い魔導書である

「レミィ…」

 薄暗い明かりの中、レミリアの声に弱々しい声が答えた
 部屋の隅に置かれた小さなベッドには、レミリアの親友にして魔法使いのパチュリー・ノーレッジの姿があった

 夜の種族の印である月の紋章入りの被り物に、この建物では異彩の白いローブ
 紫色の髪はやや乱れ、元から青白い肌は吸血鬼であるレミリア以上に青く生気を失っている

 ベッドの上には、今まで読んでいたのであろう分厚い魔導書が置かれている

「パチェ、また本を読んでいたのね。安静にしていなければだめじゃない」

 レミリアが、パチュリーの傍の椅子に腰掛けながら言った
 高貴な吸血種としての語り方ではなく、親友に話しかける語り方だった

「ごめんなさい、でも、私は本を読むのが好きだから…ゴホッ、ゴホッ」

 答えようとした途端、パチュリーは激しく咳き込んだ

「ほら、無理をするからよ。早く横になって」

 レミリアが本を奪い、パチュリーに横になるよう急かす
 その窶れ具合から、パチュリーが相当に衰弱しているのが分かる

「ありがとう、レミィ。…あなた、また街に行ったの?」

 パチュリーが訊いた。どうやら、パチュリーはレミリアが夜な夜な街の工場を破壊しに出かけていることを知っているようだった

「当然よ…。私は、あの街にある工場を全て破壊する。あなたの為にね…」

 レミリアが答えた

 産業革命と人間達が呼ぶ文明の発達により、この館に一番近い人間の街にも工場が乱立するようになった
 工場を動かすには莫大な燃料が必要であった。石炭、泥炭、木炭、石油、それらを燃やして発生する熱は人間に巨万の富を与えたが、同時にそれは悪魔であるレミリアにさえ作り出せないような、強力な毒性を持つ排気ガスを生み出した

 この館は、鳥も通えぬ様な断崖絶壁にあるが、空気はどんな場所にでも自由に入り込むことができる
 その工場が吐き出す汚れた空気のせいで、元から気管支の弱かったパチュリーは、喘息の発作を悪化させていた

 パチュリーは病気を治す魔法を研究しようとしていたものの、それは一向に上手く行かなかった
とうとう寝込んでしまったパチュリーを見て、レミリアは決心した

 あの街に存在する全ての工場を破壊する
 そうすれば、あの汚れた空気が館にやってくることも無い。そう考えたからだった

「お願い、レミィ。もうこんなことは止めて、私の病気は、きっと私の魔法で治して見せるから…
 地下に閉じ込めていた妹様まで開放して、危険すぎる」

 パチュリーが懇願する

 レミリアは、よほどの事がなければ人間を襲う事はなかった
 この鳥も通わぬ館にたどり着く人間は、よほどレミリアを討つ事に執心している者だけだった

 自分を激しく憎む者、吸血鬼を討つことに己の使命を奉げた者
 そういった者だけを、レミリアは相手にして戦ってきた

 無辜の人間を、無差別に襲うようなことはしなかった
 明らかに自分よりも格下の者を襲うことを、吸血鬼としての誇りが許さないからだ

「そうはいかないわ、あの娘の力は『ありとあらゆる物を破壊する能力』。工場を破壊するにはうってつけの力だものね
 大丈夫、私と一緒にいれば、そう簡単に力を暴走させることはない」

 レミリアが答える

 悪魔の妹、フランドール・スカーレット

 元より吸血鬼は、優れた身体能力と強力な妖力を持っているが、彼女はそれに加えてどんな物でも破壊できる力を持って生まれた
 しかし、彼女はその力を使うにはあまりにも幼すぎ、その精神も不安定だった

 もしも、彼女がその力を暴走させてしまったとしたら、レミリアはおろか、この世の全ての神魔が一斉にかかったとしても止める事は出来ぬ
 三日三晩、破壊の権化と化した彼女は目に映る全ての物を破壊し、この世は最後の審判を迎える前に終結してしまうだろう

 それを恐れたレミリアは、彼女をこの館の地下に封印し、地上に出さないようにした

「もう街の半分の工場は破壊し尽くした。あと二~三ヶ月もあれば、あの街の工場を全て破壊できる
 そうすれば、あなたの体調だってきっと良くなる。また、夜中の散歩を楽しめるようになるわ」

 レミリアが言った

 どれほど高貴な血筋を引いているといっても、彼女もまだ幼い妖怪である事に変わりなかった

 仮に、あの街にある工場を全て破壊できたとしても、パチュリーの病気が治る保証はない
 また、人間の際限のない欲望は、どれほど二人が破壊を繰り返したとしても収まることは無い
すぐに新しい工場を次々と建てて行くだろう

 怪我をした部位が、さらに強度を増して復活するように、人間は簡単に破壊できぬように工夫してくるだろう
 そうなれば、如何に吸血鬼が優れた種族だとしても、破壊は容易ではない

 だが、そうなることが分かっていたとしても、この幼い吸血鬼は苦しむ友の姿を見ていると、何か行動せずにはいられなかった

「人間だって愚かじゃない…、このまま貴方達が破壊を続ければ、必ず貴方の正体に気付くはずよ。そうすれば、必ず追っ手がかかる」

「上等よ、返り討ちにしてやるわ。人間如きが、我々吸血鬼に勝てる訳が無い」

 レミリアが、自分の爪を尖らせて見せる
 紅いマニキュアでも塗られたかのようなその爪には、幾多もの人間の血が染み付いている

「人間にだって、優れたハンターは大勢いるわ。貴方のご両親だって…」

「パチェ!」

 言いかかったパチュリーの言葉を、レミリアは物凄い形相で止めた
 レミリアにとっては、両親の話は禁句だった

 人間などに討ち取られた両親の話は…

「ご、ごめんなさい…」

 パチュリーの言葉は、そこで途切れた

 全ての原因を作ったのは自分だった
 自分がもうちょっと丈夫だったら…、レミリアにこんな危険を冒させずにすんだ

 たしかに、レミリアには高貴な種族特有の傲慢さがあったが、弱い者には手を出さない優しさと、人間の文明が進んで行く中で共存して行こうとする分別があった

 それが、自分の病気が進んでしまったせいで、レミリアは人間の街を破壊する悪魔になってしまった
 レミリアの両親が殺された時にレミリアの流した涙を知っているのは、自分だけだというのに…

「レミィ…」

 パチュリーは言いかけて止めた

「パチェ、私はどうあっても人間を許すことはできない。豊かな生活を求める事はいい。優れた文明を持とうとすることは、それは私達がより優れた力を求めるのと同じ。
 でも、この世の全てが自分達の物だと思い、我々、闇の住人達の棲み家を奪い、剰えわずかに残った土地すらも奪おうとするなら、我々は戦う
 驕り昂ぶった人間共に鉄槌を、これは、あなただけじゃなく、人間と闇の住人との戦いでもあるの」

 レミリアはそう言うと立ち上がった

「そう、でも人間の力を侮らないで。彼らの文明が、私達の力を超える日もそう遠くない
 せめて、この館の守りは固めるべきだわ。貴方はしょっちゅう外に出かけてるけど、貴方がいない時を狙って攻められたら一溜まりもないわ」

 パチュリーは、そう言うのが精一杯だった
 この数世紀の間、人間は恐るべき速さで文明を発達させた

 遠い異国の地まで飛び出し、いまこの大英帝国は太陽の沈まぬ帝国と呼ばれているらしい

 レミリアは、ずっと我慢していたのだ
 人間達が、自分達の領土に侵入してくるたびに…

「そう、貴方の忠告、ありがたく受け取るわ。たしかに、貴方の使い魔だけでは警備は不安だものね
 新しく、この館を守る戦士を雇うことにしましょう」

 レミリアは、そういって席を立った

「レミィ…、ごめんなさい」

 パチュリーは俯きながら呟いた
 その声は、レミリアに届くことはなかった






――――――――――――――――――――――――――








 その森は、どこまでも続いていくかのように鬱蒼と茂っている
 街と街を繋ぐ、森を切り拓いて作った道を蓬莱山輝夜と藤原妹紅は歩いていた

「く~れない~にそ~まった~、こ~の俺を~
 な~ぐさめ~る奴は、もうい~な~い~♪」

 輝夜はどこかで拾った小さな棒を片手に歌いながら歩いている
 19世紀の英国の森を、Xjapanを熱唱しながら闊歩する蓬莱人の図は、滅多にお目に掛かれる物ではない

「ねぇ、もこたぁ~ん、ちょっと休みましょうよ」

 そういうと同時に、輝夜は地面に座り込んだ

「またか、そんなんじゃ、いつまで経っても街に着かないぞ。それと、もこたん言うな」

 もんぺに手を突っ込んだまま、妹紅は振り返る
 だらしなく足を投げ出し、輝夜は絶対に動かないポーズを決め込んでいる

「私は高貴なお姫様なのよ、下々の者のように地面を這いつくばって歩いたことなんてないの
 もう面倒だから、飛んで行きましょうよ」

 輝夜が言った
 日ごろの運動不足が祟ってか、輝夜の足はパンパンだった

「ダメだ、ここはどうやら幻想郷の外の世界らしいからな。空を飛んでる所を誰かに見られたりしたら、とんでもない事になる」

 道すがら、すれ違う人々の話を聞いている内に、二人はここが19世紀のイギリスであることに気付いていた
 あの時の光は、幻想郷の大結界すらも超えて、外の世界にまで二人を連れ出していた

 妹紅は、輝夜にかまわず進んでいく
 輝夜に付き合っていたら、それこそ日が暮れてしまう

 野宿に慣れてはいるが、幻想郷と違って、外の世界では何が起こるか分からない
 できるだけ、早いうちに街に着いて宿を探さなければならなかった

「もう~、待ってよ。せめて、十cmでいいから浮かせて」

 輝夜は、器用に身体を浮かせて妹紅を追った

「お前なぁ、そもそもこの時代に来たのは、お前の従者を探すために来たんだからな。もっとキビキビ動け」

 文句の多い輝夜を説教しながら、妹紅は歩いた
 いつの頃からか、こんな自然に輝夜と会話できるようになったのは

 そんなこんなを繰り返しながら、夕暮れ近くになってようやく二人は街についた
 てゐが辿り着いた、あの街である

「けっこう広い街だなぁ、この中からお前の従者を探すのは大変だぞ」

 妹紅は街を見渡せる高台に上っていた
 破壊された工場の跡は、妹紅の視界からは見えないが、まだ稼動している工場からは排煙が続いている

 工場が減った分、他の工場の需要が増えて昼も夜もなく稼動している状態だった

「…永琳、イナバ、てゐ。この街に、貴方達のうちの誰かがいるのね」

 輝夜は、小さく呟いた
 輝夜は小さく唇を噛み、拳を握り締めた

「さあ、もう今日は遅い。宿を探して、休息を取ろう」

 輝夜の素振りを見ながら、妹紅が言った
 蓬莱人とはいえ、疲れは当然感じるし、痛みもある
 睡眠を取らなければ、活動することもできない

「そうね…。所で貴方、英語は喋れるの…?」

「う…!?」

 輝夜の指摘に、妹紅が詰まる
 妹紅は英語をビタイチ喋ることができなかった

「ふぅ…、スペルカードに英語を使ってるクセに、英語が喋れないなんてねぇ」

 口元を隠しながら、輝夜は笑った

「うるせえな、私のスペルカードの名前は慧音が考えたんだよ!」

 苛立ちながら妹紅が答える

「お~ほっほっほ、千年以上も生きていながらエゲレス語の一つも喋れないなんて、脳みその皺がなくなってるんじゃないの」

「おまえみたいに、下らない事に使ってないだけだ!」

 そんな事をしている内に、どんどんと時間が経って行く
 妹紅を馬鹿にしながら、輝夜は宿を探した

 出稼ぎの期間工も多いこの街では、そう簡単に宿屋は開いていない

「なんだいこのお金は?」

 ようやく見つけた小さな宿屋の女将は、輝夜の出したお金を見ながら言った
 当然の事ながら、幻想郷で流通しているお金は、19世紀のイギリスにおいて使える訳もなかった

「ププ…!」

 さんざん馬鹿にされてきた妹紅が、唖然としている輝夜を見ながら笑いを堪えている
 自分も気付いてなかったが、輝夜が恥をかく姿を見て溜飲が下がった

「アハハハ、どうすんだ。諦めて野宿でもするのか?」

 宿を追い出された二人
 妹紅はまだ笑っているが、輝夜は小さく震えていた

「ふん、冗談じゃないわ。あんたと違って、私は月のお姫様なのよ
 今までお金に困ったことなんてないのよ」

 月の都にいた頃は、もちろん生活に不自由したこともなかった
 下界に落とされてからも、竹取の翁に拾われ、黄金の詰まった竹と求婚者達からの貢物が切れたことはなかった
 幻想郷に来てからも、永琳が作った薬を売った金を使い続けていた

「ふぅん、でも、こんな時間にどうやったら金が作れるんだよ」

 妹紅は訊いた
 この国の人間から見れば、二人は異国の人間である
 そう簡単に仕事が見つかる訳はないし、縦しんば見つかったとしてもすぐに金が手に入る訳でもない

 身許の保証のない人間に、給料の前借など簡単にさせはしないだろう

「ふ…、簡単なことよ、かつては一国の天子でさえ陥れた私のこの美貌を持ってすればね」

 脳に蛆でも湧いたかと思ったが、輝夜は案外本気だったので妹紅は黙っていた

 二人は、街の繁華街に繰り出した
 夜中でも、この街のパブの明かりが消えることは無い

 人間の持つ欲望の一つ一つが、この街の明かりとなっている

 輝夜は獲物を見る目で、行きかう人々を観察している
 イヤらしい目つきの男が数人、二人に言い寄ってきたが、金を持ってないと見るや輝夜は一撃を食らわせて追い払った

 輝夜は、男の懐具合を監視していた
 やがて、一人の男がパブから出てきた

「ちくしょう!、いい女の一人もいねえじゃねえか!」

 かなり欲求不満が溜まっているのだろう、不満をぶちまけながら店を出てきた

「まったく、ようやくたまってた給料が出たってのに、これじゃあ不完全燃焼だぜ」

 その台詞を訊いた瞬間、輝夜はその男をターゲットに定めた

「ねえ、彼氏。私といいことしなぁい」

 輝夜は、男に声を掛ける
 夜鷹か白拍子の掛けるような、間の抜けた甘い声だった

「なんだぁ…、姉ちゃん…俺は…」

 酔った男は、不意に声を掛けられ状況を掴めなかった
 輝夜は素早く、男に接近する

「私、遠い国から来たの…。貴方を見てたらキュンと来ちゃった
 ねえ、遊びましょう…」

 輝夜は、男に顔を近づける
 輝夜の息が掛かるほど、その顔を男は見つめる

 墨を溶いたような緑の黒髪、長い睫と澄んだ湖水のような瞳
 目が痛くなるように白い肌、幼そうにも見え、それでいて妖艶な魅力を湛えている
 かつては一国の天子すら魅了したのも頷ける

 この娘の着物を一枚ずつ剥いで…

 男の脳内は、妄想しただけで桃源郷へ飛んでいってしまった
 オリエンタルチックな女の魅力に、たちまち男は罠に嵌る

「へへ…、いいのかい。そうかいそうかい、まあ、そんなことならしょうがねえ
 早速、俺の宿で」

 そういって、男は輝夜の腕を掴み、自分の宿に連れて行こうとする

「あらぁ、純情ね…。私は、ココでも構わないのに…」

 輝夜は、男が掴んでいた手を軽く離す
 逆に、男の手首を捕まえて動きを封じる

「イテテ、なんだよ。いくらなんでも、こんな所で…」

「ウフフ、だ・か・ら、あっちの物陰で…ね」

 そういうと、輝夜はパブのすぐ裏の路地を示した
 普通なら、そんなトコで…と疑う所だが、輝夜の色香にはまってしまった男には、すでに正常な判断はできなかった

「しょ、しょうがねえなぁ…、こんなトコでだなんて。誰かに見られても知らねえぜ」

 こうして、罠に嵌った男は、まんまと輝夜に路地に連れ出されてしまった





バキッ! ドカッ! ドンッ! ベタッ! ピチューン!





「儲けた」

 数分後、男を叩きのめした輝夜が、満杯になった財布を握り締めて出てきた
 男は、悪漢レスラーにでも襲われたかのようにボロボロになっていた

「おまえ、本当にお姫様なのか…?」

 一部始終を見ていた妹紅が言った

 自分では高貴な生まれだと言ってる割に、やってることは追剥である
 むしろ強盗に近い

 というか、ああいう状況に慣れすぎてる
 ああやって、妹紅の父も輝夜にのめり込んで行ったのだろうか?

「なによ、貴方が英語が喋れないから私がやってあげてるんじゃない」

 ほっぺたを膨らませながら、輝夜が抗議する

「私が英語を喋れたら、私にやらせるつもりだったのか」

 妹紅は、初めて英語が喋れなくて良かったと思った

「当たり前じゃない、仮にも月のお姫様の私がこんな阿婆擦れみたいなことを…
 誰かさんの稼ぎが少ないせいで、私が働く破目に…」

 よよよ…と、輝夜は泣き真似をしながらわざとらしく崩れる

「ぬう、人をヒモみたいに…」

 泣き真似をする輝夜に殺意を覚えながら言った
 しかし、輝夜が身体を張って稼いだ金で食べさせて貰う以上、それは立派なヒモである

 給料が出たという男の言葉の通り、財布の中には結構な大金が入っていた

「まあ、これで金は稼げたんだし、宿屋にも泊まれるじゃないか」

 無理やり誤魔化しながら、妹紅が言った
 いつの間にやら、完全に夜中になっている

 不老不死の蓬莱人とはいえ、腹も減るし眠気も来る
 休んで体力を回復させないと、明日には動けなくなってしまう

 蓬莱人に限らず、誰でもそう思うところである

「馬鹿ねえ!、せっかく大金が入ったってのに、これを使わない手はないでしょう」

 しかし、この月のお姫様は違うようだった

「使うって、何にして使うっつうんだよ」

 妹紅が呆れつつ、怒りを覚えつつ訊いた

「決まってるでしょう!、カジノよ!」

 言うが早いか、輝夜はすでに駆け出していた






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――







 輝夜と妹紅が街に到着していた頃、てゐと美鈴は紅魔館へ向かう森を走っていた

 美鈴はてゐを肩車し、鼻歌交じりに散歩でもしているかのような足取りで森を駆け抜けていく
 しかし、その背後には無数の怪物達の亡骸が転がっている
 巨大な大蛇も、火を吐くドラゴンも、ただの一撃で美鈴に倒されていた

「アイヤ、さすがに世界を席巻する大英帝国だけあって、出てくる怪物も違うアルな」

 呑気に美鈴が言っているが、肩に乗っているてゐは怪物が出てくる度に肝が縮み上がっていった
 美鈴にとっては、単なる修行の一環でも、てゐにとってはとんでもない大冒険である





ギィィィィヤァァァァ!!




 けたたましい声と共に、二人の前に巨大な二本足のドラゴンが現れた
 俗言うワイバーンと呼ばれるドラゴンだった

「どうやら、この森の主アルね」

 森から頭が突き抜けるほど巨大なドラゴンを前に、美鈴は冷静に言った

「ヒィ、引き返すウサ、こんなデカイの相手にできないウサ」

 てゐが言った
 体格差とかいう以前に、相手が巨大過ぎた

 相手を象とするなら、美鈴達はミジンコくらいの大きさしかない
 しかも、てゐを肩車している以上、美鈴は両手が塞がったまま戦うしかない

「アハハ、平気アル」

 てゐの言葉に、美鈴は気楽に答えた
 と、同時にワイバーンに向かって、飛び上がった






ギィィヤオォォォォォ!!







 美鈴が飛び上がると同時に、ワイバーンは炎を吐いた

「ヒィィィ!!」

 てゐは目を瞑る
 しかし、一向に熱が伝わってこない

 美鈴は、自分の周囲に気を張って炎を防いでいた
 これが、美鈴の本当の気を使う能力
 自分の気を錬り、周囲に展開したり、離れた物を破壊したりできる

「はぁ!!」

 美鈴は、自分の右足に気を集中させ、一気にワイバーンを貫いた





ギィィィィヤァァァァァ!!!





 美鈴の身体は、ワイバーンの巨体を突き抜けた
 ワイバーンの巨体が、森の木々を薙ぎ倒しながら崩れ落ちた

「さぁ、もうそろそろ見えてくるアル」

 事も無げに、美鈴は走っていた
 あれほどの巨体を誇ったワイバーンを一撃で倒して、まだ余裕があった

 森が終わり、断崖絶壁が聳え立つ
 この断崖の上に、目指す紅魔館があった

 美鈴はてゐを乗せたまま、一気に跳ね上がる
 いくら空が飛べるとはいえ、この断崖は簡単に飛び上がれるものではない

 ただ高いだけでなく、常に凄まじい強風が起き、まともに飛ぶこともできないからだ
 だが、美鈴はその断崖をてゐを乗せたまま飛び越えてしまった

「さぁ、到着アル」

 美鈴は、そういっててゐを降ろした

「あれが…、紅魔館…」

 てゐが呟いた
 その館は、てゐが思い描いていた紅魔館の姿とは違った

 幻想郷にあった紅魔館は、鮮やかな赤いレンガと綺麗に棲んだ湖に建ち、庭には四季折々の花が咲き乱れる美しい庭園があった

 しかし、そこにあったのは、廃墟同然のやけに汚く不潔でばっちい館だった
 わずかに汚れの隙間から覘く紅いレンガだけが、その名残を示していた

「本当にあれが紅魔館ウサか…?」

 てゐは、握り締めていた羊皮紙を拡げる
 この紅魔館の位置が分かったのも、この羊皮紙のお陰である

『求人案内、仕事内容・館の警護 時給750ポンド 勤務時間・要相談 詳細は紅魔館まで』

 …と、これ以上にないほどに分かりやすいヒントは無かった
 それは、紅魔館の警備の仕事の求人案内であった

 てゐは、これを拾ったのは偶然だと思っているが、実はパチュリーの魔法でそれ相応の実力を持った人間だけが拾えるようになっていた
 勿論、拾ったのは美鈴である

「まぁいいウサ。さっそく入ってみるウサ」

 紅魔館には、門に繋がる橋が無い
 飛んでいかなければ門に入れない

 てゐが飛ぼうとしているが、美鈴は館を見つめたまま動かなかった

「美鈴、何してるウサ、早く行くウサよ」

 てゐが美鈴を急かすが、てゐの声が聞こえないのか、美鈴はそこから動かなかった

「とても邪悪な妖気アル…、こんなに邪悪な妖気は初めてアル」

 いつも笑みを絶やさない美鈴の顔が緊張している

 中国からインドを経て、中東からヨーロッパを回ってきた美鈴ですら感じたことのない邪悪な妖気がこの館には渦巻いている

「美鈴!」

 てゐが大きな声で呼ぶ、ようやくそれに気付いた美鈴は自分の顔を叩いた
 顔面の筋肉が麻痺してしまったように強張ってしまっている
 強張った筋肉を戻して、いつもの笑顔に戻った

「分かったアル、すぐに行くアル」

 二人は飛び立ち、あっと言う間に門の前に辿り着いた

「あ~、たのも~アル。求人案内を見て来たアル。中に入れて欲しいアル」

 呼び鈴も何もない、飾り気もない門を叩きながら、美鈴は言った
 こんなにデカイ館では、とても声も届きそうも無いが、門は数秒もしないうちに開いた

 二人は門をくぐり、館の内部に入った

 間近で見ると、たしかにてゐの記憶の中にある紅魔館と同じ造りであることが分かる

 趣味がいいのか分からない彫刻や、どうみても人体を切断しているようにしか見えない絵画
 高級そうな調度品は、乱雑にぶちまけられているが、どれも見覚えがある

 それらを通り越して、二人は大広間に入った

 唯一、この部屋の扉だけが開いていたからだ




「ようこそ、紅魔館へ…」




 大広間は、それは信じられないような広さだった
 この部屋は、たしか吸血鬼が月に行くロケットの披露会で使われた部屋だ

 幻想郷中の妖怪達を呼び寄せて入りきるほどの広間だから、広くて当然だった
 はるか遠くに、主人の座っているであろう玉座が見える

(間違いない、あの生意気そうな声、偉そうな態度。間違いなくレミリアウサ)

 てゐは目を凝らす
 大人用のその椅子は、レミリアには合っていないが、横からその大きな翼がはみ出している

「うふふ、ようこそ、私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」

 レミリアの周辺の燈台に火が灯る

「子供…!?」

 美鈴が呆気に取られたような顔になる
 てゐから吸血鬼という話は訊いていたが、まさかこんな小さな子供とは思わなかった
 あんな小さな身体で、あれほどの邪悪な妖気を放てるものなのか

「ふん、で、ウチで働きたいわけ?」

 レミリアはいきなり訊いてきた

「はいアル。私は格闘妖怪の紅美鈴アル。はるばる中国から修行の旅でやってきたアル」

 美鈴が言った

 あの求人案内には、パチュリーの魔法が掛けてある
 あの求人案内を手にすることができるのは、それ相応の実力を持った者だけである

 そもそも、実力が無ければ、この紅魔館にやってくることすら出来ない

「ふふふ、いいわ。雇ってあげる…。ただし、私の出す試験に合格できたらね」

 そのことを、レミリアも十分承知しているが、レミリアは意地悪にもさらに試験を出してきた

「望むところアル」

 美鈴は、胸を張って答える
 これであっさり採用されては、却って拍子抜けというものである

「ふふふ、いい返事だわ。小悪魔!」

「は!」

 レミリアが声を掛けると、赤い髪に頭から小さな羽根の生えた悪魔が現れた
 パチュリーの使い魔の小悪魔である

「小悪魔に勝てたら、貴方を雇ってあげる。断っておくけど、あの森で倒した怪物の力を当て込んでるのなら諦めたほうがいい。
 この娘は格は低くとも、悪魔の端くれ。あの程度の怪物とは訳が違う」

 優雅に足を組み、手すりに頬杖をついたレミリア
 よほど、小悪魔の実力に自信があるのだろうか

「分かったアル、やってみるアル」

 小悪魔が、大広間の中央まで進んだ。羽根を広げ宙に浮かんでいる
 美鈴もそれにならい、中央に進む

「美鈴!、頑張るウサよ!」

 中央に進んだ美鈴に、てゐが応援の言葉をかける

「任せるアル」

 美鈴は振り向き、てゐに向かってピースサインを出した

「チャンス!」

 美鈴が振り向いた瞬間、小悪魔は試合開始の合図を待たずに仕掛けた
 鋭い飛び蹴りが、美鈴の後頭部を直撃した

 流石に悪魔だけあって、物凄いインパクトである

「ああ~!、卑怯ウサ!」

 てゐに卑怯と呼ばれるのも何だが、悪魔には卑怯と云う言葉は通用しない
 レミリアは、試合開始の合図があるなどと言っていない

 あったとしても、油断したのは美鈴の方である

「ああ~、すまないアル。もう試合は始まっていたアルか?」

 しかし、美鈴はケロリとした表情で振り返った
 あれだけの蹴りを食らって、まったくのノーダメージである

「ククク、タフさだけは認めてあげるわ。でも、これまでよ!」

 そういうと、小悪魔は一気に美鈴に畳み掛けた

「ハァ!」

 小悪魔の右の拳が唸る。しかし、美鈴はわずかに身体をずらしてかわす

「く…!」

 すぐさま左の拳を繰り出すが、それも虚しく空を切る

「足元がお留守アル」

 攻撃をかわした美鈴が、小悪魔の足元をすくった
 自分のパンチの勢いでバランスを崩した小悪魔は、そのまま壁まで転がった

「お、おのれ~!!!」

 プライドを傷つけられた小悪魔が、一気に美鈴に向かって突っ込んだ
 しかし、どの攻撃も美鈴は簡単にかわしていく

「力があっても、使い方がなってないアル」

 小悪魔のパンチを受け止めた美鈴
 その拳を軽く捻っただけで、小悪魔は簡単に転がった

「力の流れ、技の流れが大雑把すぎるアル。だから簡単に相手に利用されるアル
 そんなんじゃあ、いつまでたっても私に触れることもできないアル」

 さすがと云うべきか、仮にも悪魔である小悪魔が完全に遊ばれている

 しかし、この戦いをけしかけた張本人であるレミリアは小さく笑ったままだった
 まるで、こうなる結果が分かっていたかのように

「く…くそぉ~、あんな田舎者の妖怪に、この小悪魔が…」

 悪魔なだけに、小悪魔のプライドは高い
 名前も聞いた事もないような中国妖怪に遅れを取るなど、恥を通り越して屈辱である

「こうなれば、もう試合ではない。私の最大の技で葬ってやる」

 そういうと、小悪魔は両手の中に自分の妖気を集めだした
 太陽の様なエネルギーの凝縮体が、小悪魔の手の間に出来る

「…なにアル!?」

 中国武術を極めた美鈴にも、こんな技は記憶にない

「やめなさい、小悪魔!。その技は強すぎる!」

 レミリアが言ったが、すでに小悪魔には届かなかった
 小悪魔は、その両手の中に自分の全妖気を集めた

「死ね!、デスボール!」

 小悪魔が、そのエネルギーの塊を放った
 とてつもない破壊のエネルギーが凝縮されたその球は、異様な唸りを挙げて美鈴へ向かった

「美鈴、避けるウサ!」

 てゐが叫ぶが、すでに遅い
 その球は、もう回避が出来ない間合いまで飛んでいる

 美鈴はその球に向かい、丹田に力を溜めた

「はぁ!!」

 球が美鈴を直撃する。と、同時に、美鈴は溜め込んだ気を放った
 空中で、巨大なエネルギーがぶつかり合う

「ば、馬鹿な…、私の最高の技なのに…」

 二つのエネルギーがぶつかり合った爆風が、埃を巻き上げた
 その埃の中から、無傷の美鈴が姿を現した

「今のは危なかったアル。西洋の妖怪は面白い技を使うアルな」

 小悪魔の全妖力が込められたデスボールを、美鈴は気合だけで打ち消してしまった

「貴方が最高の技を使って見せたなら、私も必殺技を見せてあげるアル」

 そういうと、美鈴は構えを変えた
 腰を低く落とし、身体を開き気味に両手を相手に向けた

 まるで、狼が獲物に襲い掛かるような構えだ

「狼牙風風拳アル!」

 いうが早いか、美鈴は疾風の如く襲い掛かった

「ハァ!!」

 風のような美鈴の右拳が、小悪魔の顔面を襲う
 さらに連続で手刀が3発、さらに左の肘、膝蹴りと続けざまに入る

 その動きは、とても目で追うことが出来ない

「ホォォォ、アチャ!」

 その疾風のような連携技のフィニッシュは、後ろ回し蹴りだった

 小悪魔の腹部を捕らえた蹴りは、そのまま小悪魔を壁に叩き付けた
 小悪魔はそのまま意識を失い、伸びて床に崩れ落ちた

 目にも止まらぬ、怒涛の七連撃であった

「フゥゥ…、いい運動になったアル」

 呼吸を整える美鈴
 圧倒的な力を見せ付けての華麗な勝利だった

「ククク…、おめでとう。さすがに、小悪魔程度では相手にならなかったかしら?」

 小さく拍手をしながら、レミリアが玉座から降りた

「試験は合格よ…、あなたには今日から働いて貰うわ」

 レミリアが美鈴の前に立つ
 長身の美鈴とでは、本当に大人と子供ほどの差がある

「やったウサ、これで帰れるウサ」

 てゐは無邪気に喜んでいる
 しかし、広間の中央にいる二人は、そんなてゐを余所に今までにない緊張に包まれている

「ウフフ…、私には分かる…。貴方が、本当は私の所で働くことが狙いではないことが…」

 レミリアの言葉が、今までと違う
 偉そうで生意気な言葉じゃなく、狂気と歓喜を孕んだ言葉になっている

「バレたアルか…」

 美鈴は、汗をかいている
 小悪魔と戦ってかいた汗じゃない
 レミリアと対峙する緊張感でかいた汗だ

 レミリアの抑えていた妖気が、どんどん膨れ上がっている
 その禍々しい妖気は、小悪魔などの比ではない

「私は格闘妖怪アル。自分より強い者を、より強くなる為に探してきたアル
 今日、ここで会えた…」

 美鈴が、構えを取った

 美鈴の全身から、一気に戦いの気が放出される
 美鈴もまた、その力を抑えていた

「いいでしょう、全力で来なさい。遊んであげるわ!」

 レミリアがそういった瞬間、美鈴が仕掛けた

 小悪魔と戦った時とは比べ物にならないくらい、鋭い拳がレミリアを襲う
 しかし、レミリアは避けない

「!?」

 美鈴のパンチが当たったと思った瞬間、レミリアの身体は数百羽とも思えるほどの蝙蝠に分離した

「―――は!?」

 パンチを空振りした美鈴が、すぐに背後に気配を感じた
 身体を蝙蝠に分離したレミリアが、美鈴のすぐ後ろで合体し元に戻ろうとしている

「く!?」

 美鈴はすぐさま横っ飛びに飛びすさる
 次の瞬間には、美鈴が元居た床には大きな穴が開いた

 レミリアの蹴りは、ただの一撃で床を破壊した

「遅い!」

 レミリアは、美鈴が横っ飛びに避けたのを見るや、素早くそれを追尾した

「!?」

 後から飛んだはずのレミリアが、先に飛んだ美鈴に追いついた
 そのスピードは、距離感も遠近感も無関係になるほどだった
 レミリアの拳が、美鈴の顔面を捉えた

「ぐあッ!?」

 レミリアの一撃で、美鈴は壁に叩きつけられた

「く…、!?」

 起き上がろうとする美鈴に、レミリアはさらに追撃を仕掛けていた
 空中から、レミリアの両脚が美鈴に向けて突っ込んでくる

「はぁ!」

 美鈴は、すぐさま迎撃体制を作る
 下半身を起こし、逆立ちするような形で気を溜める

「飛天昇竜脚!」

 溜め込んだ気を一気に開放し、逆立ち蹴りの格好のまま美鈴は飛んだ

 空中で、二人の蹴りがぶつかり合う
 その強烈な威力は、二人を吹き飛ばした

「ふふふ…、やるじゃない…」

 空中で翼を広げ、レミリアはゆっくりと地面に降りた
 美鈴も空中で回転して着地するものの、ダメージの分はどうみても悪い

「まいったアルな…、あの速さにはとてもついて行けないアル」

 そういうと、美鈴は目を閉じた

「なんのつもりかしら…?」

 ゆっくりと近づきながら、レミリアが問う

「貴方の速さを目で追おうとすると、余計に惑わされるアル。わずかな気の流れを探って戦わないと、とても敵わないアル」

 これも、美鈴の能力の一つ

 集中力を高め、相手の気配を感じ取る
 相手が自分と同等なら使うまでも無いが、これほどに速さに差があると使わざるを得ない

「面白いわね、じゃあ…、見せてもらおうか!」

 レミリアの身体が弾丸のように飛び出した

 鋭い爪が、美鈴を狙う
 しかし、美鈴は目を開かない

「…!?」

 レミリアの爪が、美鈴を捉えたかのように見えた、だが、美鈴には傷一つない
 わずかな気配を読み取って、紙一重でその爪を避けた

「はぁ!」

 そして、レミリアが通過するその一瞬で、レミリアの後頭部に素早く肘を叩き込んだ
 かわす間もない、必要最小限の動きで叩き込まれた肘は、レミリアにもかわしようがなく、レミリアは突っ込んだ勢いのまま床に滑り込んだ

「憤!」

 さらに、美鈴はレミリア目掛けて空中から仕掛けた

「く…!?」

 またもや、レミリアは身体を蝙蝠に分離させ攻撃をかわした

「そこアル!」

 美鈴が、左の肘を自分の後方に向かって放つ
 美鈴の後背で合体しようとしていたレミリアは、合体完了の直前に美鈴の肘に吹き飛ばされた

「す、凄いウサ!、これなら勝てるウサ!」

 てゐが興奮しながら言った
 あの吸血鬼相手に、美鈴が奮闘している

 レミリアの攻撃は直線的である分、相手の気を読んで攻撃をかわす美鈴には格好の標的だ

 しかし、戦っている美鈴本人には、そんな余裕はなかった

「うふふ、強いわねえ…。妹以外で私に土をつけたのは貴方が初めて…
 でも、貴方も分かっているでしょう。私が実力の30%ほども使っていないことを…」

 あれほど美鈴の攻撃を食らっていながら、レミリアはほとんど無傷だった
 服についた埃を払いながら、余裕たっぷりにレミリアは近づく

 あれほどの攻防で、本当に30%の力しか使っていないというのか

「貴方の強さに免じて、50%の私を見せてあげるわ」

 目を閉じた美鈴にも、レミリアの妖気が膨れ上がっていくのが見えた

「行くわよ!」

 相も変わらず直線的な攻撃、レミリアは一直線に美鈴に向かう

(右のストレート!、左に避け…!?)

「美鈴!」

 てゐが叫ぶ
 美鈴はレミリアの気を読んで、攻撃を読んでいたにも関わらず、身をかわす暇もなくその攻撃を受けてしまった

(右の膝げ…!?)

 レミリアの攻撃の起こりから、敵を撃ち抜くまでの速度が速すぎる
 またも、攻撃を読んでいながら、まともに食らってしまった

「はぁ!」

(…!?)

 レミリアの拳が、美鈴の腹部に深く突き刺さった

 今度は、読むことすらできなかった
 気付いたら、レミリアの拳が美鈴の腹部に突き刺さっていた

 美鈴の身体が、空中に浮く
 レミリアは素早く飛び上がり、宙に浮いた美鈴の背後を取った

「………!?」

 そのままレミリアは体重を乗せ、美鈴を床に叩きつけた
 石畳の床に、まるで埋もれるかのように、美鈴は全身を叩きつけられた

「どう…?、まだやる…?」

 床に這いつくばったまま、立ち上がれない美鈴にレミリアが聞いた

「ま、参ったアル…」

 美鈴はついにギブアップした
 体格的には自分の半分ほど、年齢でも自分が上のはずだというのに、美鈴はまったく歯が立たなかった

 50%で、これほどの力の差があるとは…

「美鈴!」

 倒れたままの美鈴に、てゐが駆け寄る

「ふふふ、気にしなくてもいいわ。美鈴、貴方は十分に強い。ただ私が強すぎるだけよ。圧倒的にね
 時に、そこのウサギ…。貴方も彼女くらいに強いのかしら?」

 レミリアが、てゐに目を向けた

 てゐは、背筋が凍るような思いがした
 美鈴は自分の何倍も強いというのに、まったく歯が立たなかった

 てゐなど、レミリアと比べたら太陽と尺取虫くらいの差がある

「ふん、まあいいわ。どうせパチェと妹の世話をする者も雇おうと思ってたからね
 部屋はたくさん空いてるから、好きな部屋を使うといいわ
 条件はそこに書いてある通りよ。それから美鈴」

 部屋を出ようとしていたレミリアが、美鈴に向けて凶悪な笑みを浮かべた

「私の部屋の鍵はいつでも開いてるから、好きな時にこの首を狙いにくるがいいわ」

 まるで新しい玩具を買ってもらった子供のような顔で、レミリアは言った
 レミリアは足取りも軽く、大広間を後にした

「うう…」

 美鈴の全身を、激しい痛みが襲う

「美鈴、しっかりするウサ。そうだ、これを飲むウサ」

 てゐは、懐から薬の入った小箱を取り出した
 永琳印の薬の入った小箱だった

 てゐは傷薬を美鈴の口に流し込む

「う…、身体が楽になったアル。いい薬を持ってるアルな」

 流石に、永琳印の傷薬
 効き目は抜群だった

「貴重な薬を申し訳ないアル。まったく歯が立たなかったアルよ」

 てゐに背を向け、小さく震えている
 レミリアに負けたのが、それほど悔しかったのか

 然もありなん。中国やアジアでは敵無しだった美鈴が、まったく手も足も出なかったのだから
 これでショックを受けてなかったら、かなりの馬鹿か変人である

「美鈴、元気を出すウサ。きっと次は勝てるウサよ」

 てゐが声を掛ける
 気休めにしかならないとは分かっているが、こんなとき、どんなことを言えばいいのか。それは誰にも分からない

「そうアルな。やっぱり世界は広いアル」

 そういうと、美鈴は立ち上がり、振り返った
 その表情は、意外にも明るく元気だった

「今まですっごく功夫を積んできて、強くなったと思ってたアルが上には上がいるものアル
 私、ここが気に入ったアル。ここで修行して、もっと強くなるアルよ」

 さっきあれほどまでにコテンパンにされたというのに、まぶしいほどの笑顔で美鈴は言った

「さあ、さっそく修行を始めるアル。私、なんだかワクワクしてきたアル」

 そういうと、美鈴は部屋を元気一杯に飛び出した
 なんだか心配して損をした気分だ

「まったく、変なヤツウサ…」

 二人は、こうして紅魔館で住み込みで働くことになった
今回も長くなったけど、まだ第一章の3分の1くらいです

あと、ご覧になられてる方、段落を区切る句読点を付けないのはワザとです
時間と容量の削減の為なのでご理解ください

てゐと美鈴が地味というのは言いすぎでした、ごめんなさい
本当は会話シーンが多くて冗長になるのを避けるためです

あと、一部キャラがエクスプロージョンしております
東方以外からのオマージュがあります
作者独自の解釈、設定があります

第一章中編のリンク貼っちゃいます
ダイ
http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1269677401&log=106
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コメント



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1.無評価名前が無い程度の能力削除
1げっと
2.無評価名前が無い程度の能力削除
何とゆーか、色々言いたい事が山程あるけど、いちいち書いてたら凄い量になるので一言だけ、 少しは他人の忠告から学んでくれ!!
3.無評価名前が無い程度の能力削除
内容はともかく、文章の体裁等すぐに直せる事くらいは改善してから来てください。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
なんか指摘された箇所が直っていないような……。
>時間と容量の削減の為なのでご理解ください
そういう意図があったなら一番最初に書いてください。何も説明なしでは困ります。
「、」「。」をつけるつけないでそんなに容量が変わるんですか?SSを書いてない素人の私にはわからないのですが……。
時間の削減って「、」「。」をつけるのにそんなに時間がかかるんですかね?SSを書いてない素人の私に(ry
これで三分の一なら確かに膨大な量にはなりますね。第何章まであるのか知らないですが。
正直30~40kbでちまちま投稿されるくらいなら、100kb超えても良いからある程度纏めて投稿すれば良いじゃないですか?
他の人の作品を見てるのかは知らないですが、100kbを超えてる人はたまにいますし。
そうすれば早めに全てを投稿し終えることが出来ますよ?
このままでは投稿されるたびに、前作のようなコメントがずっと続くことになります。

てゐや美鈴の口調についても、冗長になるのを避けたいのは良いです。
ただ、それだけのために口調をウサやアルにする理由にはならないのでは?
何故なら冗長にならないように、口調で誤魔化す必要がないようにするのが貴方の腕の見せどころじゃないんですか?
会話シーンが多くなりすぎるのなら、必要なさそうな会話を省いて短くしてもいいと思います。

「東方以外のオマージュ~」などを書くべきとこは後書きじゃないですよね?
序章なり、前作に前書きとして書いておくべきことなのではないですか?書くのが今更過ぎます。

新作の後書きに前作のコメントについて書くのは良いです。
しかし、それまで反応一切に無いってのは良くないとおもいます。
本当にコメントを読んで理解してますか?
容量削減云々といった考えについても前作のコメント欄もしくは後書きを使って返信という形で伝えられますよね?
何故しなかったんしょうか?
私が思うに、時々別作品で見かけるコメントへの返信というものを、貴方もやった方がいいと思います。
そうしないと今のままでは貴方の考えや意図は伝わらず、評価も低いままですよ。
9.無評価名前が無い程度の能力削除
書き方が滅茶苦茶でも許される場面は2つある
①2ちゃんのVIPみたいな全員の盛り上がり>文章力
②文章以外が逸脱

氏が狙えるのは②なんだけど、設定が創想話じゃウケないタイプだから望みなし
だから指摘点を改善しないといかん
この文は個性だから、とか時間短縮だから、とかそういう理由なら改善してくれ

文が汚くて間違いだらけなのは個性じゃく短所だし、細部まで完全に完成させないのを時間短縮ってのは「チャーハンつくったよ!材料買っただけだけど」って言ってるのと変わらない

キャラの語尾とかは自由でいいと思うけど、氏のキャラ設定からして語尾と合わないよね
その辺も考えて書いたらどうだろう

文章までテキトーだと誰にも読まれないよ
15.無評価名前が無い程度の能力削除
句読点が時間の削減にはつながらないと思うけどなぁ……ひょっとして携帯で書いてるとか?
それなら無印に投稿出来る程度の量を携帯で書くなんてきつすぎるからパソコンで書くことを勧めるよ。
そうすればブラウザで見た時の文章量の少なさとかも分かると思います。
17.無評価名前が無い程度の能力削除
アルとかウサとか軽く鳥肌立ったwwwwwww(もちろん悪い意味で
18.無評価名前が無い程度の能力削除
最近何がしたいのか分からない作品が多いなぁ
21.無評価名前が無い程度の能力削除
>バキッ! ドカッ! ドンッ! ベタッ! ピチューン!
男は死んだ。DQN(笑)という文章を付けたくなった。
それにしてもさすがにウサとアルはねえよwww
23.80ずわいがに削除
前回あんなことを言っといてなんですが、やっぱり美鈴アルで毎回つまづく感は否めませんねぇ;
二次創作において「美鈴」というキャラがイメージしにくくなるのはかなり痛いです。

いやぁ、展開がマジRPG系のノリですなぁ。金を手に入れて即カジノってのがww
レミリアが工場を破壊する理由がパッチェさんの為だったとは、ねぇ。
それにしても小悪魔がなんかワロタwww
24.無評価ダイ削除
>ずわいがにさん

美鈴もへんたい東方ではデブキャラになったり、古明地さと三郎では殺人犯になったり、チルノン教授でも○○犯になったりしてます

語尾にアルをつけるくらいは、まだマシな方だと思います

キャラ的には、少年時代の悟空をイメージしてあります
より強くなることを目標にしていること、底抜けに明るいとことか
25.無評価名前が無い程度の能力削除
マシじゃないよ……
28.30クル削除
普通の会話がかなり真面目なのに、戦闘のパロディ要素が多すぎると思いました。
パロディ要素を抜きにしても十分成り立っているのでもったいないですね。
あと文章が、前回よりも更に悪くなっている気がします。
35.90ほうじ茶削除
姫様の誘惑…やばい、避けられる気がしねぇ(^^;

この章もとても面白かったですよ!
文体云々ではなく、作者様の描くストーリーをほかの人にも楽しんで欲しいくらいです。