Coolier - 新生・東方創想話

頑張れ十六夜さん!

2010/03/17 19:27:32
最終更新
サイズ
5.39KB
ページ数
1
閲覧数
3610
評価数
40/119
POINT
7300
Rate
12.21

分類タグ

 非常に唐突な話ではあるのだが、十六夜咲夜は嘆息していた。



 ことの始まりは夕食時のことだ。一体何の気まぐれなのやら、彼女の敬う主、レミリア・スカーレットはたまには皆で食事をしようと言い出したのだ。
 メイドとしてあろうとする咲夜は最初こそ遠慮していたのだが、主直々に強制参加と言われれば断るわけにも行かず。
 結局、彼女は内心で渋々とため息をついてから、表面上は穏やかにかしこまりましたと返答したのであった。

 そういうわけで、今現在食堂に集まったいつものメンバーで机を囲み、和やかに始まるかと思った食事会だったのであるが―――ところがぎっちょん、そうは問屋がおろさなかった。

 「……お姉様、何ソレ」
 「何って、マッヨネィ~ズ」

 妹のフランドールの言葉もなんのその、レミリア・スカーレットは何食わぬ顔でカツ丼(レミリアのリクエスト)にマヨネーズをぶちまけていた。
 ぶりゅぶりゅ容器から飛び出すクリーム色のあんちきしょうはまるで山の如し、ひねり出されるマヨはすでに容器の倍近い高さにまで盛り付けられている。
 すでに三つのマヨネーズを丸ごとぶちまけると言う暴挙に、咲夜は開いた口がふさがらない。

 「あ~らお姉様、レディともあろうものがそんな犬のクソのような食事をなさるとは思いませんでしたわ」
 「フラン、レディがクソなんて言葉を使うものじゃないわ。ていうか、あなた人の事いえないじゃない」
 「お姉様のマヨネーズよりましだわ」
 「だからってトマトケチャップってどうなのよ」

 どっちもどっちだよ、というツッコミが喉までせりあがったが、かろうじて飲み込んだ。だって彼女は瀟洒なんだもの。
 ちなみに、レミリアに指摘されたフランの丼には姉と同じ高さの赤い山が形成されていたりする。
 見るに耐えなかった。今ここで自らの目を潰せたらどれほど幸せなことだろうかと、咲夜はわりと本格的にその案を実行しそうだった。

 「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください」
 「だって、美鈴!! お姉様のあれどう考えても量がおかしいもん!! もうあれカツ丼じゃなくてマヨ丼だもん!!」
 「何を言っているのフラン。マヨネーズは大体のものに合うように出来ているのよ」
 「お二人とも、不肖な私からの意見としては、何事も程々が一番です」

 お前が言うなと、この場で吐き出せたらなんと楽だろうか。
 ちらりと美鈴のカツ丼に視線を向ければ、そこには丼から溢れ出る豆板醤にまみれた地獄が形成されていた。
 あぁ、地獄の釜ってあんな感じなのかしらねーと咲夜がぼんやり考えていると、小さくため息をついてパチュリーが言葉をつむぎだす。

 「三人とも、食事のときぐらい静かにするべきよ。それに、私は美鈴の意見に賛成ね。何事も適量が大事と言うことよ」

 卵を二十個もカツ丼にぶちまけて、軽く卵白の海になってる丼を平然と食べている魔女が何を言うか。
 心の中でツッコミを入れるだけならタダなので遠慮なく不満をぶちまける。
 とにかく、人が作った料理をお前たちは何だと思っていやがるのか。どいつもこいつも料理の味を殺すようなことしやがってからに。
 胸中で毒づく咲夜だが、皆はまさか彼女がこのように愚痴をこぼしているとは思うまい。
 何しろ表面上はとても穏やかな笑顔なのである。この瀟洒なメイド長は。

 「あはは、パチュリー様が言っても説得力無いですよー」

 カツ丼をわさびソフトクリームに仕立て上げていく小悪魔が、にこやか笑顔で言葉にする。
 彼女のカツ丼の隣には今日何本目かすらも判らないチューブの束が無残に転がっていたり。
 お前が言うな。お前が言うな。お・ま・え・が・言・う・な!!
 大事なことなので三回同じ事を心の中で思う咲夜さん。心なしか口の端がひくつき始めたのは気のせいではあるまい。
 もはやアレはカツ丼などではない。丼の上に乗っかった巨大なソフトクリームではないか。わさびだけど。

 ぶんっと、あまりの現実に耐え切れなくなって咲夜は天井を仰いだ。
 自分が誠心誠意作った食事が、個人の好みで蹂躙されていくさまは、なんと残酷な光景か。
 自分は間違っていたのだろうか? 皆においしい料理を食べてほしいと思うのは間違いであったのか?
 ソレに何より、自分の料理の腕よりも、皆の健康が心配だった。もうなんかいろんな意味で。
 溢れ出そうになった涙を何とか押しとどめる。ここで泣いてはみなが何事かと思うだろう。
 心配させるわけにも行かず、涙をこらえていた咲夜の目に、不意に誰かの姿が映りこんだ。

 ―――しっかりなさい、咲夜。あなたが諦めたら、誰が彼女たちを救うと言うのです。諦めたら、……そこで試合終了ですよ。

 にっこりと、その人物は微笑んでいる。慈愛にも似た慈悲の心を持って、諭すような言葉。
 ソレが、どれだけ咲夜にとって救いとなったか。

 「しょ、諸葛藍先生……」

 半ば呆然とつむがれた言葉は、しかし他のみなには耳に入ることもなく溶けて消えた。
 八雲藍……もとい諸葛藍はぐっと親指を立てると、割烹着姿に着替えてフライパンを握って台所に立つ。
 威風堂々、と言う言葉がある。その姿はまさしくそう表現するにふさわしく、諸葛藍はフッとニヒルに笑みを浮かべ。

 ―――ゆくぞ、主よ。胃袋の異常は十分か!?

 その背中が、そう語っているような気がして、咲夜は思わず息を呑んだ。
 わずか一瞬。割烹着を身にまとい、料理に心血を注ぐ九尾の姿が見えたのは、些細な刹那の時間。
 なんてことの無い、取るに足らない幻視。しかし、彼女たちはお互い家事をするものとして、確かにつながったのだ。
 わずかな奇跡。そのわずかなつながりが、再び咲夜の闘志をよみがえらせた。

 (そうよ。なにを弱気になっていたのよ十六夜咲夜。みんなの偏食を治せるぐらいの料理を作れなくて、なにが完璧瀟洒なメイド長を名乗れるって言うのよ)

 そうだ、何を弱気になっていたと言うのかと、咲夜は自分自身を叱咤する。
 再び現実に視線を向ければ、未だにマヨがどーのとケチャップがどーの、卵がどーのわさびが豆板醤がと言い合っていた。
 けれど、今の咲夜は晴れやかであった。今は無理であろうとも、いつかは皆の健康のために今よりもっとおいしい料理を作るのだと誓いを立てて。
 咲夜は微笑ましく思いながら、愛しいと思う家族同然のみなに視線を向ける。
 道は困難かもしれない。けれど、絶対に諦めない。だって彼女は瀟洒だから。



 新たな誓いを胸に秘め、咲夜は笑顔のままに今日10個目となるピーナッツクリームをカツ丼の中にかき入れるのだった。
藍「紫様、料理できましたよ」
紫「らーん、蜂蜜2リットル持ってきてー」
藍「……高菜チャーハンに蜂蜜ですか」



何事もほどほどが一番です。


前回の話にコメントしてくださった皆さん、評価してくださった皆さん、ありがとうございました。
白々燈
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3530簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
どいつもこいつも酷すぎるッ!
3.100名前が無い程度の能力削除
咲夜! アンタもか!? 
5.100ぺ・四潤削除
俺が裁判官だったらこの咲夜さん全員皆殺しにしちゃっても無罪どころか逆に他の奴らを罪にする。
って言いたかったのに……
お前が一番最悪だwww
6.100名前が無い程度の能力削除
全員味オンチかよwww味覚壊滅的だwww
8.100薬漬削除
なんという・・・
9.100煉獄削除
おおお……カツ丼に凄い量のケチャップとかマヨネーズとか色々な物をぶち込むとは……
あまりというか、それらのカツ丼は食べたくないですねぇ…。
10.100名前が無い程度の能力削除
【亜鉛欠乏症】

味覚障害  ←いまここ!
 ↓
貧血
 ↓
免疫力の低下
 ↓
精神へ影響 ←アウト♪

みなさん急いで牛肉食べて!肩ロース!
亜鉛摂取してっ!


とここまで書いてから、たまごも亜鉛がそこそこ含まれてるのを知った
アルェー?
16.無評価名前が無い程度の能力削除
 「諸葛藍」と「ゆくぞ、主よ。胃袋の異常は十分か!?」の元ネタは、某聖杯戦争ですね、わかりますw
 貴方の書く紅魔館の住人は、『フラン』が最後の良心(アルェー?)でしたが、その最後の良心ですら壊れたぞwどうしてくれる!!!(笑)
17.100名前が無い程度の能力削除
↑失敬、点数を入れ忘れた
22.100名前が無い程度の能力削除
もうこの紅魔館は駄目かもわからんね
23.100名前が無い程度の能力削除
マヨとかピーナッツクリームはカロリーがヤバい……。
つーかわさびって……。パチュリーが一番健康的……なの……か……?
26.100名前が無い程度の能力削除
栄養素www
まだ美鈴が一番ましかな,味はともかく
27.100名前が無い程度の能力削除
紅魔館の諸君は一体何のバツゲームをやっておるのかねw
29.70名前が無い程度の能力削除
しょっぱいものに甘いものをぶち込むのだけは許さない、絶対にだ。
31.100miyamo削除
さいごのさいごで咲夜さんwww
もう…なんかもう…応援してた自分が…なんかもう…ね?
37.80名前が無い程度の能力削除
咲夜さん、あんたもか……
41.100名前が無い程度の能力削除
藍い『九』兵(家政婦)なのか、諸葛○先生なのかwww
しっかし、なんにでも乗っけるのかなぁ、激味をwww
45.100名前が無い程度の能力削除
ダメだこりゃw
46.100名前が無い程度の能力削除
全員アウトォォォォッォォォォォ
49.70名前が無い程度の能力削除
銀魂思い出したw
50.100名前が無い程度の能力削除
オチは読めた。
が、藍とつながったりして面白かった。
100点
51.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さん...
お 前 が 言 う な w


とても楽しく
読ませていただきました
52.100名前が無い程度の能力削除
紫さんは甘いもの好きだと信じて疑わない。

貴方の書くフランがどんどん進化していく!!!
53.80名前が無い程度の能力削除
咲夜……お前が言うなっ!www
人間である咲夜さんの健康が心配だよ……
55.100名前が無い程度の能力削除
読んでて食欲無くなったんだが、どうしてくれるww
58.80夕凪削除
カツ丼にマヨネーズは美味しいよ。
異論は認めない!
62.100名前が無い程度の能力削除
新○組+柳○四○王な作品でした。
人気投票篇を東方キャラで描いたら面白そう、
とか思ってしまった自分にとってはまさにツボでした。

カツ丼にマヨネーズも豆板醤も合いますが、量はほどほどに・・・・・・
66.90名前が無い程度の能力削除
オチは見え見えだったけど……笑っちゃったからなあw
自分は銀魂が大好きなもので、どうしてもね。
っていうか咲夜さん、ピーナッツクリームはないわ。他はともかく、それだけはない。
70.100名前が無い程度の能力削除
生卵にはサルモネラ菌ってのがたまに入っていてだな・・・。

パッチェさん大丈夫か?
75.90名前が無い程度の能力削除
お ま え らwww
いや基礎がしっかりしてるからその上で味付けしたいってことなのかも分からんね。
とっても美味しそうでした!w
80.80名前が無い程度の能力削除
⑨<皆でパンを食えばいいのよ!
81.100名前が無い程度の能力削除
オチはなんとなく「咲夜さんもなにかを大盛りにするんだろうなー」
くらいはよんでいたものの、ピーナッツクリームとは予想の遥かナナメ上
だったwww

キャベツを想像していたのだが
83.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、銀魂ネタか。それにしても全員味覚崩壊しすぎだろ…いや、銀魂好きだけどね
86.100雪峰昴削除
しっかりとした文章できっちり最後にやってくれる……っ
マヨと胃袋の~の元ネタはわかったが、他にも何かあるのではないかと気になるところ。
しかしこの紅魔館、一日の食費は一体どれほどになるのだろうか
87.80名前が無い程度の能力削除
カツ丼には生卵ダブルトッピングが俺のジャスティス!!
パッチェさんとは生涯の友になれそうだ
89.80ずわいがに削除
カツ丼にケチャップは普通だと思いますが……

藍!割烹着!合わせて“割烹着姿の藍”!これはやヴぁしッ!!
97.80名前が無い程度の能力削除
加減さえ出来ていれば他は許せる。
だが咲夜さんのだけは駄目だ、つかムリw
99.100名前が無い程度の能力削除
藍は背中でかたりつつ、無限の調理をするんですね。
わかります。
115.100名前が無い程度の能力削除
フランちゃんとはいい酒が飲めそうだw
116.100名前が無い程度の能力削除
おお、もう…
118.90名前が無い程度の能力削除
味覚崩壊館