Coolier - 新生・東方創想話

たま は みずいろ

2010/03/11 03:33:47
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「バカだよこの子は」
「・・・・」
「いい顔してんじゃん。案外何ともないんじゃないの?」
「・・・・」
「この薬って、あれだろ。竹林の薬師製なんだって?酔狂な薬を作る奴もいたもんだね。悪夢をみる薬なんて」
「・・・・」

 神社の六畳間は幾度目かの沈黙で満たされた。
 部屋の真ん中には布団が敷かれ、水色の髪の少女が寝かされている。
 それを囲む2.5柱。神奈子と諏訪子。そして早苗だ。
 寝かされているのは付喪神。からかさお化けの小傘である。枕元には空になった薬瓶と、一通の手紙があった。
「早苗へ 夢の世界で勉強してくる。 人を驚かすのって、やっぱり経験がものをいうと思うの。私には経験なら豊富にある。生きてきた時間は早苗よりずーっと長いんだからね。ただその経験をうまく使いこなせてないと思うんだ、わたし。そのまま考えなしにお手本にして、なぞるだけだったり。そこで、夢よ。夢は思いもかけない展開でその経験をアレンジしてくれる。それを学ぶの。うっふっふ。今から早苗の驚く顔が楽しみで仕方がないわ。生まれ変わったわちきをみておどろけー  小傘   追伸:さすがに一人で悪夢をみるのは怖いから早苗んちで寝ます お布団借りるよ」

「だからって一瓶空っぽにしますか!?バカですか!?バカでしょう!貴方!」

 手紙を紙屑にしつつ、頭を降りかぶって早苗が叫ぶ。
 今晩は大天狗との定例の宴会だった。三人はそろって出かけ、先ほどまで山の妖怪たちといつものドンちゃん騒ぎをしてきたところなのだ。
 風呂に入ってゆっくり寝ようかと神社に戻ってきた彼女らを待っていたのが、空っぽの薬瓶と置き手紙と客間で眠りこける唐笠だったのである。

「落ち着きなよ。もうお風呂に入って、今日は寝な」
「だめです!諏訪子様はこの薬の効き目を知らないからそんなこといえるんです!」
「そんなに効くの?てか飲んだことあるの、早苗」

 どうだったの?と祟り神が身を乗り出す。その顔は実に興味津々といった感じで、漫画的効果音が聞こえてきそうな無邪気なものだった。
 聞かれた早苗は「ええ・・」と沈痛な表情で頷き、拳を握る。

「鈴仙さんから以前一錠頂いたんです。宴会の時に。試してみる?って。結果から言えば、とんでもない夢を見ましたよ。病気の時に見るような切なくて恐ろしい悪夢、あれを何倍も強くしたような。朝になって起きたとき、ああ、戻ってこれたって、すごく安心したほどの夢です」
「へええ。いいねいいね。欲しくなっちゃったな」
「お飲みになりたいんですか?」
「いんや。盛るのさ。不特定多数に」
「はい?」
「神力を使わなくても簡単に恐怖を振りまけるなんて、すてきだと思わない?たとえば土地を大事にしない連中のすんでる村に行って、祟りがあるぞって早苗が一言いうの。で、帰りがけに井戸水とかにその薬を撒く。夜になったら哀れな村人は全員仲良く恐怖体験。ああ、本当にやろうか。早苗、お小遣いあげるから明日買っておいで。ひっひ」
「こら、調子に乗るな」
「うふ」

 祟り神的含み笑いをしてくっくと笑う諏訪子を、神奈子があきれ顔で諭す。祟り神の子孫は困った表情で、笑う諏訪子を見ていた。

「で、早苗の話だと一錠でも効果はテキメンだって話で。それを一瓶飲んだこの子がいくら妖怪とはいえ、恐怖でとんでもない目に遭うんじゃないかと、そう心配していると」
「ええ。精神崩壊してしまわないかなって」
「大丈夫じゃないのかい?妖怪はタフだよ。見かけによらず」

 ぷにぷにと諏訪子が小傘の頬をつっつく。少女は身じろぎもせず穏やかに寝続けた。その静けさが早苗にはたまらなく不安に思えるのだ。

「とりあえず、起こすか。そうすれば一旦は安心だろ。後は吐かすなり胃洗浄するなりすればいい。睡眠薬ってわけじゃないんでしょ、その薬」
「そのはずです」
「えー、起こすの?なんだかつまんないねえ」
「相変わらず残酷ですねえ」
「こちとら祟り神なもんでして、はい」
「ああこわい」
「あんたにもその遺伝子が」
「発現はしてないです」
「してると思うよ」
「神奈子様!?」

 うろたえる早苗とケタケタ笑う諏訪子。とりあえず一つため息を付き、神奈子は小傘を起こしに掛かる。
 別にこの妖怪が心配なのではない。さっさと面倒事を片づけて眠りたいのだ。

「そら、おきろ」

 揺さぶる。

「おーきーろー」

 頭をこづく。

「おきなさい」

 頬をつねる。

「おきてくださいよう」

 早苗がピタピタと頬を打つ。

「こら、このバカ妖怪。おきろ」

 諏訪子が布団の上から胸をたたく。

「起きないな」
「起きませんね」
「起きないねえ」

 三人は腕を組んだ。

「しょうがないね」

 諏訪子はそういうと、こともなげに小傘の髪を一本摘んで、抜いた。

「なにをしてるんですか!」

 憤慨する早苗に、諏訪子はまあまあ、と髪を摘んだ手を振る。摘んだ水色の髪を、半分、また半分に折って、よじる。水色の極細のこよりの完成だ。

「それ」

 そしてそれを形のいい小傘の鼻に入れる。
 反応はなかった。

「アホなことしてるんじゃないよ」

 神奈子があきれ顔で言った。

「そんなんで起きるわけないだろう」

 そういうと、神奈子は小傘の手を取った。くるくるとひねると、蛇口の頭をとるように小傘の手首をはずす。つなぎ目のねじは薄暗いあんどんの明かりをよく反射した。

「こっちのほうがいい」

 くにくにとはずした小傘の手首をいじくり「このゆびとまれ」の形にすると、おもむろに神奈子は持ち主の鼻につっこんだ。

「なにをやってるんですか神奈子様まで」

 早苗もさすがにあきれ顔だ。手を伸ばすと、小傘の頭をしっかりと抱える。

「寝たままの姿勢では窒息する危険があります」

 ぐるぐるぐるぐる。
 ぐるぐるぐるぐる。
 ぐるぐるぐるぐるり。

 小傘の頭がとれた。

「こうしたら窒息しません」

 言って、愛おしそうに取った頭を抱える。相変わらず小傘は何事もなかったかのようにスヤスヤと眠っていた。

「なんだかお手玉みたいだね」

 諏訪子がこよりを抜く。

「懐かしいな。早苗は小さい頃お手玉でよく遊んでいたな」

 神奈子が指を抜く。

「そうですね。こうしていると、そのころを思い出します」

 ぽーん、ぽーん。

 早苗はお手玉を始めた。

「ああ、いいなあ。懐かしい光景だ」
「あのころは早苗もまだ小さかった」

 2柱はその光景に相好を崩した。

「すっかり大きくなったね」
「ああ、立派になったよ」

 しみじみと涙を流す2柱をみて、早苗もなんだかうれしくなった。

 ぽーん、ぽーん。

 お手玉はもっと高く投げられ始めた。

「ああ、玉が一個じゃ寂しいね」
「さみしいな」
「早苗は片手でするのがうまかったのに」
「これじゃあ見れないな」
「あ、そうだ!」

 諏訪子はぽんと手を打つと、帽子を脱いで自分のあたまを真上に引っ張り始めた。

「んー」
「ああ、なるほど」

 神奈子は諏訪子の頭の良さに感心する。
 諏訪子はくすっと笑うと、「えい」と自分のあたまを抜いた。

「そら」

 抜いたものを手の中で
 ぽーん、と早苗にパス。

「ああ、ありがとうございます!」

 早苗は諏訪子の優しさに感動した様子で、満面の笑みでそれを受け取る。

「せっせっせーの よいよいよい」


 早苗の右手の上でくるくると二つのたまが回る。

「ああ、神奈子様、諏訪子様。まだまだ意外と出来るものです」
「ああ、上手だびっくりだ」
「すごいね、早苗」

 でも早苗は不安げな顔になるとお手玉をやめてしまった。

「どうしたの」
「だって、諏訪子様のをお借りしてしまったんです」
「うん、貸したよ」
「それでは見えないじゃないですか」
「ああ、そんなこと」

 諏訪子は傍らに脱いでいた帽子から目玉を二つもぎ取る。
 そして、首の上にちょこん、と二つを仲良くおいた。

「これで大丈夫」
「わあ!」

 笑顔になった早苗は、またお手玉を始めようとした。
 それを神奈子が「ちょっと待って」と止める。

「さあ、早苗、続けて。今度は両手でやって見せてよ」

 そういうと神奈子も自分のものを差し出した。

「これでは神奈子様が見えません」
「だいじょうぶ。私には二つあるんだから」

 諏訪子は片方をはずすと神奈子にパス。

「サンキュー、諏訪子」

 神奈子はそれを受け取るとカチリとはめた。

「さあ」
「早苗、続けておくれ」
「はい!」

 早苗はお二人の仲の良さと優しさに感動し、ほっこらした笑顔でお手玉を始めた。

「せっせっせ-の」
「よいよいよい」
「せっせっせーの」
「よいよいよい」

 早苗の手の上で三つの玉がくるくる回る。
 小さな部屋に優しい手拍子が響いた。

 どん どん どん
 どん どん どん

 三つの玉はリズムを取って早苗の上で踊る。

「懐かしい光景だ」
「早苗のお母さんもこんな風に遊んでたね」
「ああ」
「大きくなったね」
「そっくりになったね」
「いい子になった」
「いいこだよ」

 ぴしゃ ぴしゃ どん
 ぴしゃ ぴしゃ どん

「あれ」

 水を打つ音が早苗の手のひらから聞こえた。
 2柱はいつの間にか涙を流していた。
 早苗の手が濡れる。
「お二人とも・・・・」

 くる、くる、くる
 くる、くる、くる

 ごとん

「あっ」

 涙に濡れた手のせいで、早苗はたまを一つ落としてしまった。
 水色のたまがふすまの方に転がる。

「いけない」

 早苗はお手玉をやめると、二つのたまをそっと畳において転がったたまを拾いにいく。

「あれ?」

 そこで早苗は気が付いた。
 このたまは、濡れてない。

「どうしたんだい早苗」
「早く続きを見せておくれ」

 二つの目が早苗の方を見る。
 早苗は沈んだ顔で、水色のたまを拾った。

「このたまは濡れていません」
「あれ」
「あら」
「これではお揃いじゃありません」
「あれ」
「あら」
「どうしましょう!これではお手玉ができません!」

 早苗は水色のたまを拾ってくると、泣き出してしまった。

「ああ、泣かないでおくれ」
「泣かないで」
「でも、でも」

 ぐずぐずと、早苗はみずいろのたまを抱えてすすり上げる。せっかく、神奈子様と諏訪子様が昔を懐かしんで折られたのに、これでは台無し。どうしよう、どうしよう。

「なかないで」
「そうだよ」
「悪いのは早苗じゃない」
「そうだよ」
「そのたまが悪い!」
「そうだ!」
「濡れてないからだ!」

 諏訪子と神奈子は憤慨した。そして泣きじゃくる早苗の手から水色のたまを取ると、三人の真ん中においた。

「おまえが悪い!」
「そうだ!」
「いますぐいっしょになれ!」
「同じになれ!」

 水色のたまは、黙ったままなんの反応もない。
 諏訪子と神奈子はさらに憤慨した。

「悪いたまだ!」

 どおん。
 大きな柱が天井を突き破り、水色のたまのすぐ脇の畳をたたく。

「悪いたまだ!」

 ばあん。
 床を突き破った土くれの指が、水色のたまのすぐ脇の畳をたたく。

「悪いたまだ!」
「悪いたまだ!」
「うう、ぐすっ」
「悪い、悪い!」
「ヒドいたま!」

 どおん、ばああん。

「悪い!」
「悪い!」
「悪い!」
「悪い!」

 があん、どおおおん。
 
 二つの目玉が水色のたまをにらむ。
 柱と土くれが部屋を叩く。
 早苗は目にこぶしを当ててぐずる。
 しかし水色のたまは全く反応を見せずに、揺れる畳の上でぐらぐら揺れていた。

 があん、どおん。
 ばあん、どかん!

 柱がおれて、畳がめくれる。障子が吹き飛んで、天井がはがれた。

「悪いたまめ!」
「悪いたまめ!」
「早苗を泣かしたな!」
「よくも泣かしたな!」

 があん、どおん。
 ばあん、ばたん!

「おまえみたいな悪いたまはーーー」
「こうしてやる!」

 ぐらりとゆれた水色のたまが、倒れてころがった。
 それを土くれのゆびが摘んで押さえた。
 そこをねらい、大きな柱が飛んできて。









 ぱあん!


「ぶはあああああ!」

布団をはねとばして、小傘は跳ね起きた。

 家具のない六畳間。障子からは強い朝の光が漏れてきている。
 枕元には空っぽの薬瓶。
 ここは早苗ん家の客間。枕元の瓶はあの薬。

「あ、ああ、ああー」

 雀の合唱が、さっきまでの光景との落差を際立たせる。
 奥の台所の方からは包丁の音が聞こえる。朝ごはんの時間のようだ。
 まったりとした平和な朝の空気が、小傘の涙腺を緩める。ひとしきりぐるりと辺りを見回して状況を確認すると、小傘はぐったりと前かがみに布団に沈んだ。

「ひ、ヒドい夢だった・・・・ひ、ひひ、ひ」

 ひきつった笑いをしつつも、その赤と青の目からはじわりと涙がにじむ。
 驚かせ方を学ぶ?とんでもない。ただただ異様な状況の夢を見ただけで、ちっとも参考になんかなりゃしなかった。
 確かに夜道とかであんなお手玉したら、驚かせられる事間違いないだろうけど、あっという間に退治されるわ。それに真似なんかしたくない。もっとこう、まったりとしつつもピリっと締まった驚かせ方がしたいのだ。塩や唐辛子だばだばぶっかけてただ辛いだけ、みたいな極端な驚かせ方なんか、血まみれの死体でも投げつけりゃ誰でもできる。そんな驚かせ方はポリシーじゃない。
 バカなことをしたよ、と自嘲しながら、小傘は布団をぎゅっと握ってぐずぐずと泣いた。

「あ、起きてる」

 後ろから声がした。振り返ると、早苗が湯呑みの入ったお盆を持って立っていた。

「あ、あああ、さなええええ」

 涙の蛇口は全開になった。早苗が枕元に座ると、小傘は彼女にばっと抱きついた。

「うう、うううう、いやだったよう、こわかったよう」
「ああ、よしよし。よく戻ってきました」

 すっかり退行してしゃくりあげる小傘の頭を、早苗は優しくなでる。

「さなえが、かみさまを、ぽんぽんぽんって‥‥うう、ぐずっ」
「な、何が起こっていたのか非常に気になりますけど‥‥大丈夫です。それは夢ですから」
「うえええ」
「大丈夫、大丈夫ですよ」

 しばらく小傘は早苗のお腹に顔をうずめてぐずぐずとやっていたが、早苗の持ってきたお茶がぬるくなった頃にはだいぶ落ち着くことができた。

「さ、ご飯にしましょう。今日は小傘さんも食べてってください。神奈子様が作ってるんです。もうすぐ用意ができますよ」
「う、うう‥‥ありがとう‥‥」

 ずび、と手の甲で鼻をすする小傘。その両肩を、早苗は優しくぽんぽんと叩いた。

「その前に顔を洗いましょうか。ぐしゃぐしゃでひどいことになってますから。そんな顔してったらお二人ともびっくりします」
「びっくり‥‥?えへ、じゃあ、このまま行こうかねえ」

 べろ、と舌を出す小傘に早苗は苦笑する。

「すっかりもう大丈夫なようですね。さ、洗面所に行きましょう」
「うん」

 返事をして立とうとした小傘だったが、ほっとしたら力が抜けたらしい。足に力が入らなかった。

「ご、ごめん早苗、立てないや」
「あらあら。しょうがない子ですね」
「子供言わない。わちきのほうがと、し、う、え」
「はいはい。分かりましたよ。じゃあ、お手伝いしましょうか、"こがさおねえちゃん"のために」
「うむ。くるしゅうない」
「まったくもう。さ、いきますよ。――――はいっ」


 掛け声とともに、早苗は小傘の頭を引っこ抜いた。

「へっ!?」

 すっぽん!と良い音がなった。

「え、ちょ、ちょっと待って、待って!」
「どうしたんですか?そんなに慌てて」
「待って、待って待って待って待って待って!なんで、なんで」

 早苗の腕の中で、小傘はただ青ざめて狼狽することしかできなかった。
 そんな小傘を早苗は不思議そうに覗き込む。

「だって、立てないんじゃあ、こうするしかないでしょう。それに、早くしないとご飯ができちゃいます」
「そんな、待ってよう、待ってよう早苗」

 再び涙が小傘の頬を伝う。いやだ、こんなの嘘だ。まだ夢の中なんて、絶対に!

「わがまま言ってないで、早く流しに行きますよ。今日は玉菜のお味噌汁なんです。早くしないとお湯が煮立っちゃう」
「まって、お願い早苗、つねって。私をつねって」

 早苗は懇願する小傘をますます不思議そうな目で見る。どうにも理解できないようだ。

「やっぱり小傘さんてマゾっけあるんですか?でも今はだめですよ。早く綺麗にして、たま菜のお味噌汁作らなきゃ」

 顔の高さまでたまを持ち上げると、早苗はめっ、と顔をしかめて言った。たまは早苗の手の中で暴れる。

「いやだ、いやだ、起こして、おこして早苗!もういやだ、いやだよう」
「お味噌汁嫌いなんですか?美味しいんですよ。神奈子様のお味噌汁。たまもこんなに新鮮だし」

 くるくると水色のあたまを撫でさする早苗。そうしているうちに、たまは下を向いた。
 たまの先には、水色の服を来た傘お化けの体が、ぺたんと足を崩して座っていた。
 その首元には、玉を外した穴がぽっかりと開いている。その中になにか黒い玉がぎっしりと詰まっているのが見えた。

「あ、あああ‥‥」

 あの薬だ。悪夢の薬、胡蝶夢丸がぎっしり体の仲に詰まっているのだ。
 小傘は思った。あの薬、すべての数だけきっと悪夢は終わらない、と。

「いやああ!」

 ものすごい勢いで暴れ、たまは早苗の手から離れた。
 落下した先には、唐傘お化けの体があった。そこへ勢い良くぶつかる。
 べこん、とブリキ缶を叩くような気の抜けた音がして、お化けの体は後ろに倒れた。
 ざああ、と薬が襟元から転がりでて、部屋中に転がる。

「こら!ダメですよ暴れちゃ!」

 早苗は逃げようとするたまをあっという間に捕まえると、今度は逃げられないようにぎゅっと抱えた。

「さあ、流しに行きましょう。綺麗に洗って、お味噌汁に入れなきゃ」
「うう、ううー!」

 いやいやとたまは震えたが、口を胸に押し当てられて何もしゃべれなかった。


「おっみっそしるー、おっみそっしるー、かーなこさまのーおみそしるー」

 早苗は玉を抱えて、歌を歌いながら台所へと歩いていく。早苗がくるりと客間に背を向けたとき、視線の向きを入れ替える形で小傘は部屋の方を向いた。
 その視線の先では、倒れた自分の体がせっせと散らばった薬を拾って、また体の仲に詰めていた。

「ぶ、ぶはっ!もういらない、もういらないってば!やめて、やめてよう、おねがいだよう」
「おっみっそしるー、おっみそっしるー、すーわこさまもーだーいすきー」



 包丁の音が近づいてくる。
 生暖かい台所の空気が、小傘の頬を撫でた。










「うぶううう」
「小傘さん、小傘さん!」
「ばかだ」
「ほんとーにこいつはバカだ‥‥」

 朝の八時。
 うなされる唐傘お化けの手を握って必死に呼びかける現人神と、呆れ顔の2柱。
 昨晩、楽しく宴会から帰ってきた彼女達は、とんでもない置き手紙とからっぽの枕元の薬瓶ともに客用の布団で眠りこける小傘を見つけた。
 早苗はひどく動揺して、一晩中うなされる彼女につきっきりだった。



「とりあえずさあ」
「何」
「起きたらどうする?」

 諏訪子が相方に訪ねる。

「‥‥叱る」

 頬杖をつきながら神奈子が答える。

「あんたは?」

 聞き返された諏訪子はちょっと考えてから、静かに言った。

「勇者って呼んでやろうかね」




「ううううううう! かぼちゃー!かぼちゃじゃないー!きゃべつでもないーーーー!やめてええええ!」
「こがささーーーん!」

 朝日まぶしい境内に、二つの悲鳴が響く。
 今日も神社は平和だった。一部を除いて。
 
「だから飲みすぎちゃダメとあれほどいったのに、もう」

3/24 返信

>>小傘可愛い・アホ可愛いetc
小傘は自爆キャラだと思ってます。可愛く書けたようでなにより。

>>理想の諏訪子様
同志!

>>ホラーかほのぼのか
当初はバッドエンドの予定でしたが、いじめ切れませんでした。
ホントは小傘がつみれにされたりパイ包みにされたりする予定だったんですが‥‥
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コメント



0.1410簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
胸がきゅんっとした。
小傘はやっぱりアホ可愛い。
3.100名前が無い程度の能力削除
そしてオチで心配している三人もまた…。
9.80名前が無い程度の能力削除
無限ループって、怖いよね……
10.80名前が無い程度の能力削除
小傘、無茶しやがって…
11.100名前が無い程度の能力削除
小傘はかわいい
12.70名前が無い程度の能力削除
お話自体は良かったけどホラーかほのぼのかどっちかにしたほうが良かったかも
でも小傘はかわいい。GJ
17.80名前が無い程度の能力削除
理想の諏訪子様を見た気がする。
19.100名前が無い程度の能力削除
夢って突拍子のない展開が恐いときってありますよね。
20.100名前が無い程度の能力削除
まさしく悪夢
小傘可愛いよ小傘
22.100奇声を発する程度の能力削除
怖いwwwwww
本当に勇者だよw
24.100名前が無い程度の能力削除
かわいい。超可愛い
27.80名前が無い程度の能力削除
読んでて背筋がちょっとゾワッとなったのは内緒だ
それにしても子傘は可愛いなあ
36.100ずわいがに削除
これは悲劇だ!まごう事無き悲劇なのだ!
37.100名前が無い程度の能力削除
シュールww