Coolier - 新生・東方創想話

冬と春の境界

2010/03/10 01:49:27
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 寒空の下で神社の掃除をテキトーにしながら、霊夢は空を見上げる。昨日とは打って変わって今日は寒い。天気は良いけれども、風が少し強くて物凄く冷たかった。

「さむ」
「そうでしょうね~。何せ夜には雪が降るらしいですから。これは椛が言ってたので多分外れませんよ」
「…………」
「あ、寒いのは気温のことじゃなくて、もしかして懐のことですかね?」

 霊夢は隣に佇むデバガメ大好き天狗に、漸く視線を向けた。背景に「ジロッ」という効果音を付けたくなるような眼差しで。

「どーも。今日も清く正しく愛の報道をお届けする射命丸です♪」

 霊夢のそんなガン付けを気にするでもなく、まさに烏の濡れ羽みたいな黒髪ショートの天狗、射命丸文はヘラっと笑っていつもの軽い調子で言葉を紡ぐ。巫女の癪に触れるギリギリのところを刺激しているというのに、本当に度胸があるというか命知らずというか。そんな文はニコニコとした営業スマイル全開で、霊夢に問いかける。

「さて、そんな寒がりの博麗の巫女にしつも」
「お断り」
「まだ何も言ってま」
「お断りだっつってんでしょ」

 ガンとして受け付けない霊夢に、文は「あややや」と苦笑を漏らした。

「『どうやら博麗の巫女は大変ご機嫌斜めのようです。妖怪の皆様、この時期の紅白の巫女には要注意です!』っと」
「……何メモってんのよ」
「新聞に載せるちょっとしたコラムにでも使えないかなと思いまして」

 サラサラ~と手帳にメモを取る文は、霊夢に更に睨まれても物ともしない。
 度胸があるというか命知らずというか。寧ろこれではただの阿呆かもしれなかった。

「でね、霊夢さん今日のバレ」
「関係ない」
「いや、ですか」
「あたしには関係ない。ほら、答えたんだから帰りなさいよ」

 「まだ帰らないっていうんなら……」と、目つきがMAXに悪くなった霊夢は、袖許から札を取り出して文を威嚇する。
 文はまた「あややや」という独特の口癖を発しながら恐がるように肩を竦めた。

「そんなこと言っていいんですかねぇ」

 挑発するように文はニタニタと笑い、ピッと霊夢に見せ付けるように真っ白な封筒を取り出した。

「……何よそれ」
「今朝、そこの賽銭箱に入っていたモノです」

 「相変わらずお賽銭はゼロでしたけれども」と、文は付け加える。
 でも、霊夢が反応したのはその言葉ではなかった。その言葉も気には障ったが、霊夢が少し目を見開いて視線を注ぐのは、その真っ白な封筒。
 あの賽銭箱には、確かにお金以外のもの入っていることが多い。ドングリとか松ぼっくりとか、綺麗に色づいた楓の葉とか、変な色をしたキノコとか。それは悪戯好きの妖精の仕業だったり、賽銭箱の中身があまりにも淋しかったからとかいうどっかの氷精の同情だったり、どっかの魔法使いの出来心だったりするけれど。でも、あの賽銭箱の中に人知れずあんなものを入れておくヤツなんか、一人しか知らない。

「……返せ」
「じゃあ取材に応じ」
「返せっつってんでしょ!!」
「どぅわ!?」

 いきなり額目掛けて飛んできた札に、文は思わず声を上げる。それと、同時に迫ってくる霊夢。きっと殴られたら痛い。パーじゃなくて、グーパンチをしてくるに違いないからだ。

「あやや~。ムキになっちゃって~」

 文は上体を屈めてスイっと霊夢の拳をかわし、ついで追撃してくる足も回避して、大きく後退する。

「そんな大事なモノなんですか?」

 営業スマイルの中に鋭さを混じらせて、距離を取った文が笑う。が、札の弾幕が目の前に広がって文は浮かべた笑みを引っ込めて顔を蒼くした。隙間を見つけて丁寧に回避していくが、回避した場所にとある物が飛んできた。

「え、ちょ」

 それはさっきまで掃除に使っていた竹箒。箒の柄は文の額にスコーンとクリティカルヒット。文は堪らず仰け反るが、そこに追い討ちをかけるかのように剛速球の陰陽球が鳩尾に深く入った。くの字に折り曲がった文は、咳き込むことも出来ずに呻きながら、神社の冷たい石畳に膝をつく。
 今のは卑怯じゃね? とか思う間もなく、文の視界が翳る。見上げたらダメだと思いつつ、でも顔を上げてしまった文の瞳に写ったのは、まさに鬼の形相をした巫女様で。

「あややや」
「……一回死んどく?」

 一回で済めば安い方かな。
 なんて文は思いながら、引き攣った営業スマイルしか浮かべられなかった。


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