Coolier - 新生・東方創想話

無駄骨喫茶ナズーリン

2010/03/08 05:43:58
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①小さな食事会


私が命蓮寺の戸をくぐったのは、ずいぶん夜も更けた頃だった。

探索の能力を持つ私だが、使わないと錆付くのは何事も同じ。
だから特に任務の無い時はこうして、私のネズミ達と一緒に無意味に探し物をするのだ。定期訓練のような物である。
それで、つい熱が入り、気づけば夜中になっていた。

「むふ」
また、この訓練はついでの副産物としてチーズとか手に入る。今宵もなかなかの大漁だ。
チーズの他、コーヒーやワインやその他諸々も探索の成果である。

「ふん、ふん」

ちょいと鼻歌。
今宵は月も綺麗だし、いま少しは夜更かしも構うまい。

…というかそもそも、我々の住む命蓮寺は人間と妖怪、どちらにも門戸の開かれた寺と自称している。実際そうだし。
ならば妖怪の主な活動時間たる夜中に皆が寝静まるのはおかしい。うん、きっとそう。

妖怪ネズミの一人ぐらい、起きて番をしているのも悪くあるまい。

そういう訳で私は厨房に座り込み、毘沙門天の宝塔を起動して湯を沸かしていた。
こいつは非常に便利な代物で、なにより静かなのが良い。ご主人様に見られれば怒られるだろうが。

ぽこぽこ

お湯が沸いた。
穴の開いてない柄杓で何杯か掬って、ネズミに挽かせたコーヒー豆の上にかける。
私の探索能力を以ってすれば、コーヒードリップ用の器材だって揃うのである。
これが意外にチーズに合うのだ。うふ。

「It's a world of~…」
小さく口ずさんでみる。コーヒーの一滴また一滴と、金色のドロップは目の保養といえよう。

がたん

「A world of…ん?」

突然物音がしたから見てみると、入り口の戸が開いている。

「どうもこんばんは、ナズーリン」
そう言って入ってきたのは封獣ぬえだった。

彼女は、われらが聖の復活を悪戯気分で邪魔した妖怪である。

だが、聖自身はそのことを気にも留めなかった。
ぬえの方でも、今では妙に聖に懐いているように見えるし、命蓮寺の皆も彼女に友好的なようだ。

…まあ、ぬえがやらなければ、どうせ他の誰かが邪魔しに来ていたに違いない。
妖怪なんて皆だいたい、そういうもんだ。いちいち敵意を持つのも馬鹿らしい。

「やあ、こんばんは。悪いが聖は寝ているよ」
私はコーヒーを注ぎながら、ぬえにそう告げた。

ぬえは笑って答える。
「分かってるわよそんなの。むしろ、こんな時間に何をしてるの?」

どうやら、この寺で真夜中に起きている奴が珍しいらしい。

「なに、人妖双方の信仰のため、人知れず努力をね」
「ふうん?」

適当に答えたが適当に頷かれた。

「…飲むかい?」
そう言って私はコーヒーカップをぬえの前に置いた。
ぬえはケタリと笑って嬉し気に見えた。

ずずと啜る音が響く。

「…あら、美味しい。苦くて酸っぱくて、正体不明な味ね」
「それは褒めているのかい?」
「ん」
ぬえは何度か頷いた。
態度を見るに、コーヒーというものを初めて飲んだらしい。

「なら良かった」
とだけ応え、私もカップに口をつける。

きちんと温めておいたカップはコーヒーの温度を損ねていない。
が、濃い目の酸味はちと私の好みを外れる。
刺激が少ない薄い香り。ちょいと物足りない?
今回の豆はそこそこ、という評価に落ち着きそうだ。

ふうと緩い息が漏れてしまう。
それから私は、あらかじめ切っておいたスモークチーズに手を伸ばした。

「どうぞ」
「ん、いいの?…いただきます」

ぬえにも薦める。彼女もチーズをつまんで齧った。
それからまたコーヒーを啜る。ほう、と彼女の顔が明るくなった。

それを見て、内心で私は微笑んだ。ブラックコーヒーは乳製品との相性がよく、そしてやはりチーズとも好相性なのだ。
自分の趣味が他者と通じ合う瞬間は悪くない。

「……美味しい」
ぬえは小さく呟いた。そうかい、とだけ応えておく。

それから何となく沈黙が続く。
ちびちびとコーヒーを舐め、チーズを一口ひとくち齧り続ける。

「ねえ」
「なんだい」
「いや、これ美味しいんだけどさ、」
「?」
「そのう、…私なんかにくれて良かったの?結構な貴重品じゃないの、これって」
「ん、いやまあ、そういうもんかね」

宝は台所の隙間に埋まっている。これは私の好きな言葉だ。
台所さえきちんと選べば、価値のあるものは意外と手に入るのである。
たとえそれが幻想郷における希少物品であろうとも。

「構わないよ。チーズはそれを喜ぶ者の口に入るべきだ。コーヒーもね」
「はあ…」

ぬえはなんとも微妙な顔をしている。嬉しそうでもあるし申し訳なさそうにも見える。
私はちょいと立ち上がった。

「…ふむ、どうも夜中にコーヒーを飲むと小腹が空いていけないな。何故だろうね?」
「?」
ぬえは首を傾げている。

「どうだい、何か食べようか」
「…いいの?」

コーヒーを飲むと眠れなくなるから、起きている時間が延びて、結果として空腹を感じるのかもしれない。
まあ、そんなことはいい。

私は、秘蔵のパスタをネズミ達に持って来させた。これは私のとっておきである。
パスタはお湯に放り込み、これまた秘蔵のオイルとガーリックを持ってきてフライパンに放り込んだ。



……これは私の気のせいかもしれない。以下は私の邪推だ。

何となく、ぬえが寂しそうに見えたのだ。
そして、ひょっとしたら、と私は思う。

彼女は後悔しているのではなかろうか。

…妖怪と人間の平等を唱える白蓮。彼女によく会いにくるぬえ。

ぬえの過去に何があったかは知らないが、私達と同じく地下に封印されていたというから、人間とひと悶着あったのだろう。
それでも何かを恨む様子もないし、その内面は一筋縄ではいかないように見える。

聖の復活を邪魔したことに対して、命蓮寺の誰もが、彼女に罵詈雑言の類を一度たりとも浴びせていない。
むしろ、彼女を受け入れ、歓迎する姿勢である。

それが逆に、ぬえにとって居心地が悪いのかもしれない。
彼女はとても後悔していて、本当は謝りたいのだけど、誰も何も言わないから言い出せないのかもしれない。

……けれど、それでは駄目なのだ。
誰かが切っ掛けを作ってくれるのを待つだけでは。

私達は間欠泉が吹き出るまで千年待った。
それは、どうしても封印を自力で解けず、他に手が無かったからである。
今回のぬえの場合はそうでは無いだろう。千年待つ態度では駄目なのだ。

そんな事を考えていると、かける言葉とか私の立ち位置とか、そういうのが分からなくなってきて、だから私はとりあえず料理を振舞うことにしたのだ。
これが彼女への助けになるかとか、そういう事は考えていない。私はそんなに優しくない。



「あら、何してるの?」
夜中におよそ似つかわしくない、香ばしい匂いが満ちてきた頃になって、部屋に誰かの声が響いた。

(やばい聖かな聖だったら流石にニンニクは不味かったか?いやもういっかうちにはお酒もあるし仏教は寛大ってどっかで聞いたようん)

そんな事が一瞬脳裏をよぎったが、声の主は雲居一輪だった。
叱られるかなと思ったがそういう様子はない。いいのかそれで。

「美味しそう!ぬえと二人きりで張り切っちゃってんの?このこの」

ウザい。

「小腹が空いただけだよ。君も食べるかい?」
「うん」
「じゃ、皿3枚出して」
と私が言った時には既に雲山が戸棚を開けていた。気の利く奴だ。一輪抜きで向き合って話をしたい。

「ほら、ぬえも」
「いいの?」
「遠慮は要らないよ」

皆でスパゲティをもそもそ食べた。
ぬえは一言も発しなかったけれど、食べるペースは早いし、こちらに向ける視線が何故か熱っぽかった。

一輪は旨い旨いと言って食べていた。
そして雲山にあーんしていた。妙な絵だった。

…まあ、満足してもらえて良かったのかな。
賑々しく更けていく夜の中、私はすっかり冷めてしまったコーヒーを啜った。なぜか、さっきよりもずっとうまい気がした。






②ナズーリンが倒れる日


あれから相変わらずだ。

ぬえは定期的に命蓮寺を訪れ、白蓮に会っている。
寂しそうな表情は、あれから一度も見ていない。
私の邪推は杞憂だったのかもしれない。

変わったことといえば、そう、ぬえが私に話しかけてくる頻度が増え、私の部屋を訪ねてくることが多くなった事だろうか。
ついでに一輪は、ぬえが私に会いに来ると、毎回ぬえが帰った後に冷やかしてくる。今時ヒューヒューとか久々に聞いたぞ。

「うるさいな、もう何も食べさせてやらないぞ!」
と言ってやりたいのだが、一輪の後ろで雲山がひたすら謝っているのを見ると何も言えなくなってしまう。

しかし一輪の嗅覚はどうなっているのか。
私が何か食べ物を作ると、いつも出来上がる頃に食卓に座っているのだ。謎の能力だ。


閑話休題。

そんなことはどうでもいいのだ。

今、私達は博麗神社にいる。宴会に参加しているのだ。


そして私は針のむしろだった。





…事の発端は、少しだけ前のことになる。

「ナズーリンってさ、料理は上手いしコーヒーもワインもいいの選ぶし、色々センスあるよね」
「はあ」

一輪が酒を片手に絡んできた。私は適当にあしらった。

「一輪、恥ずかしいからやめてくれ」
「いいじゃない。雲山もそう言っていますわ」
「はあ…」
「特にあの、ナズーリンのスープパスタときたら絶品。クリーム仕立て、粉チーズをたっぷりと…ああ、私のお口に涎が満ちる」
「聖の真似はあまり似合わないわよ。口拭け」

一輪の顔面にハンケチを投げつけていると、霧雨魔理沙が会話に入ってきた。

「へえ意外だな。料理上手なのか、お前」

私は上手という程でもない。趣味程度だ。大仰な呼称はひたすら恥ずかしい。
だから私は首を横に振って、魔理沙に答えた。

「いや、シロウト仕事だよ。一輪は褒めすぎさ」
「そんなことないってばさ」

一輪が私の頭に抱きついてきた。うざい。

「ああ、お腹減ってきちゃった」
「私の耳でも齧る気かね」
「それもいいわね」
「飲みすぎだよ、君」

ため息が出る。やや諦め気味に、私は酒の入ったグラスを傾けた。

それから持って来ていた弁当箱を開け、中身をつまんだ。

「何だそれ?」
「ん、おつまみ。ここらの宴会は持ち寄り式と聞いたから」
「ほう。ちょっとくれ」
「どうぞ」

弁当箱の中身はリンゴのチーズサンド。
薄くスライスしたリンゴで、レーズンを埋め込んだチーズを挟んだものだ。
甘いんだかしょっぱいんだか良く分からない味だが、私は好きである。

「へええ、わりと凝ってるな。お前が作ったのか?」
魔理沙がそう言った。照れる。

「ん、まあね。急いでたんで、ありあわせだが」
「どれ、いただきます……変わった味だが…あ、美味い」
「そりゃよかった」

魔理沙という奴は裏表のない人間だと聞いている。
ニコニコと笑ってチーズサンドを食べているのを見ると、なんとも言えずくすぐったい気分になる。

「もう1個食べて良い?」
「構わないよ」

魔理沙が2個目に手を出した時だった。

「あ、いいもんみっけ」
にゅ、と手を出してきたのはぬえだった。
彼女もしばしば、私の作った物を食べてくれている。

「ほうほう、これは初めて見るわ」
なんだか妙にテンションが高い。彼女も酔っているのか。

「ううん、正体不明なお味。でも良いわね。ナズーリンの料理はハズレ無いわ、本当」
そう言って満足気に頷いている。

「あ、私も食べるー」
そう言って一輪も、私の頭の上から手を伸ばす。

「お前らがっつくなよ。私の分がなくなる」
魔理沙もぽんぽん食べている。

…いつの間に集まってきたのか、他の人妖も次々に手を伸ばしてきた。
そんなに量は無い。すぐに弁当箱は空になってしまった。

「いや、美味い美味い。もう他に持ってきてないのか?」

魔理沙は自分の指をちゅっと吸って、私に話しかけてきた。

「うん、すまない。これで全部さ」

何だか不思議な気分だ。もっと作ってくればよかったかな、そういえば大根があったから煮物も出来たかもなあ。
私はそんな事を頭の隅で思っていた。


そこまでは良かった。
その後だった。一輪の奴が、こんなことを言い出したのだ。

「ナズーリンナズーリン、」
「何だい、耳を引っ張らないでくれないか」
「あのさ、私いいこと思いついたの」

私は一輪の方を振り向いた。
何故か、一輪の傍に浮いている雲山は私から目をそらした。

一輪はこう言い出したのだ。

「貴方、お店をやればいいじゃない!」
「……お店?」
「そう、お店…カフェーよ。ナズーリンのカフェー。これは貴方の才能を十全に活かせるし、それに、」

「……はあ……?」

良く飲み込めない私に対して、一輪は今までに無いほど大輪の笑顔で言ったのだ。


「借金も返せるじゃない!」


…うん、まあ、実のところ、私達には借金がある。大枚の。
その…あまり大声では言いづらいが、毘沙門天の宝塔を取り戻す際、とある古道具屋とひと悶着あったので…。
まあ、そこの店主は変わり者らしく、返済期限はほぼ無いに等しいような契約ではあるのだが。

それはいい。

そうではなくて、問題はそんな事ではなくて、


「う、うわあ。それ、いいかも…かふぇーってのは、要するにコーヒーとか出すお店でしょう?行ってみたい!」

何故かぬえもはしゃぎ出した。

「お、いいねえ。人里に茶屋はあるが、カフェーは無いしな。妖怪の山にはあるらしいが私らは入れんし」

魔理沙も大頷きしている。

「ほう、ナズーリンが、社会…幻想郷の小さい社会とはいえ、そこに所属して、社会の皆の為に労働をしようというのですか」

いつから居たのか、私のご主人の寅丸星も満足げな顔をしている。おい待て、あんた話を聞いてたのか。なぜ確定情報みたいになっているんだ。

「その上、私の不徳ゆえの借金の、返済の為に、とは…うぐ、ううう」

さらにご主人は必死に涙を堪えている。卑怯だ。




「お、おい」

気づけば話が進んでいく。私だけを唯一、除け者にして。


「場所はどうする?」
「ああ、それならいい場所がある。人里の外れの川の傍にな、使われなくなった水車小屋があった筈だ。なに、頼めば使わせてもらえる」
「おっ、いいねえ。改装なら任せておくれ」
「仕入れはナズーリン一人じゃかわいそうねえ。私手伝うよ」
「あ、じゃあ私も」
「私もー」
「おおおお、皆優しいわ。これで接客に専念できるわね、ナズーリン!」

一輪にパァンと背中を叩かれた。
私はその勢いのまま倒れた。それから動く気力も無かった。
気づいたら、誰かが背中をさすってくれていた。見ると雲山だった。

「う、雲山…。なんとか、一輪達を止めてくれないか」


雲山は目をそらした。






③無駄骨喫茶ナズーリン


私は基本的に、裏方が好きだ。
妖怪として力が強い方でもなく、目立つのだって好きではない。

ならば何ゆえ、こうなるのか。
運命とは理不尽なものである。…いや、これは運命とは呼びづらいな。冷厳で容赦のない、運命というものに対して失礼だ。

こう言わせてもらおう。

幻想郷は理不尽だ。



カラン、コロン

「やあ、いらっしゃい」

ドアベルの音に、反射的に来店歓迎の文句を返す。
が、見ると入ってきたのは一輪だ。

「何だ君か」
「何だとは失礼ね。いやー、随分サマになってきてるわね」
「はあ、そりゃどうも」

あれから私の生活は色々変わった。

まず、ここは私の店ということになっている。

カウンターの中に私が立っている。カウンター内部には小さなキッチンが備え付けられていて、コーヒーを淹れたりチーズを切ったりする。
ケーキや軽いデザート類は、キッチン下のマジカルフリーザーに作り置きしてあり、注文と共に出す。
スパゲティはキッチンで茹で、フライパンに移して炒めながら味付けする。

店の外には看板が立てられ、『喫茶 ナズーリンカフェー』と、そのまんまなネーミングがしてある。
どこからか誰かが持ってきた黒板がその横に立ててあり、可愛らしいイラストとオススメメニューが書かれている。
ちなみに誰が描いたの?とぬえに訊いたら、どうも雲山らしいということが判明した。

私は普段の服が汚れるということで、人形遣いに発注して届けてもらったエプロンドレスなる制服を着ている。
フリフリが多少、過剰で邪魔なのが気になる。
あまりに邪魔くさくて、一度、スカートの裾を結んで表面積を小さくしようとしたのだが皆に反対された。
可愛くないから、だそうだ。なんだ、どいつもこいつも乙女ぶりおって。働く身にもなれ。

まあ、長々と説明してしまったが、言いたいことは一つきりである。

忙しい。

理由はよく分からないが、連日お客が入ってくる。

この間など、毎日来る常連のお客が実は死神だったことが分かった。しかもサボリの泰斗らしかった。
それで閻魔様が乗り込んできて修羅場になりかけた。ついでに、珍しく紫色の妖怪が冷や汗をかいていた。(この方、いつもはものすごく余裕のある態度なのだ。本当に珍しい)

また、魔理沙が魔法使いの3人組で来店して私に分からない談義をして長々と居座ることもある。

天狗のお客も来る。大抵、ネタがネタがと唸っているか、手帳に何ごとか書きとめているかのどちらかである。

ぬえなど毎日来る。もっとも彼女はあまり接客の負担にはならない。
自分でコーヒーを淹れ、私が働いているのを眺めているだけだ。
私の顔なぞ面白くもあるまいと思うのだが。チーズの穴ぼこを数える方が、まだ有意義ではなかろうか。

ご主人も、彼女自身が忙しい癖によく顔を出す。
彼女もまた、にこにこしながら私が働くのを眺めている。
幻想郷には変わった人妖が多い。




……まあ、そんな毎日だ。忙しい。忙しいけれど。


「ね、案外、こういうのも悪くないでしょ?」

閉店後のカウンターで、一輪がそう言った。
他にはぬえしか居ない。私を含めて3人だけの店内だった。

「…。」
「……と、雲山が申しております」

なんだ雲山か。

「…。いや、でもねえ。ほら、お蔭様で十分繁盛してさ、そろそろ借金も返せそうだし、さ、」

もう、店を畳んだって。
私がそう続けようとした時だった。

「……お店、やめちゃうの、ナズーリン?」

突然、黙っていたぬえがそう口を開いたのだ。

「……いやあ、それは、その」

ぬえの顔を見ると、その、なんと言うか、うるうるしている。

卑怯だ。

そして気づくと、一輪のニヤケ顔が視界の隅に映った。

(雲山、そいつぶん殴れ)とアイコンタクトを送ろうとしたが、雲山は両手で顔を隠していたので失敗に終わった。乙女か。

しばらく間が空いた。
それから、おもむろに私は続きを言った。

「……や、休み、そう定休日を設けようかと思ってね!お客が来るのは有難いことだが、これではプライベートな時間が取れないんだ!」
「定休日?」

そう定休日、と私はぬえに続ける。

「うん、もう十分お金も稼いだし、借金を返す必要もないから…そうだな、週に3日も店を開けておけばいいんじゃないかな」
「ふうん。…それもそうね。ナズーリン、随分働いてるものね」
ぬえはそう言って頷いてくれた。

一輪も(意外なことに)賛同した。
「うむ…ま、久々に寺でナズーリンの手料理を食べるのもいいかもねえ」

「そうだろうそうだろう」
私は言った。

確かに、店も…まあ、楽しくないといえば嘘になる。

でもなんというか、それだけでは無い、普通の妖怪としての暮らしだって、私は出来る筈なのだ。

だから、そう。店をしばらく休んで、久しぶりに、当てのない探索の小旅行に出るのも、悪くない。

「それと、そうだな…しばらくは、店を閉めさせてもらえないかな。ほら、充電期間というやつで、さ…」

私はアンニュイな空気を醸し出す努力をした。
しばらくの休み。長い休み。
それもいいかもしれないのだ。

二人も、お客さんも、きっと同意してくれる――。


その時だった。

「話は聞かせてもらいました!」

ガラン

ドアベルが鳴って誰か入ってきた。

「…ご主人?」

寅丸星だった。私のご主人は、息を切らせてこう言った。


「な、ナズーリン、本当にお店、やめてしまうんですか」
「…聞いていたのか。でもね、ご主人。しばらく休業するだけだよ。私だって休みは必要…」


「そ、そんな。せっかく、ナズーリンの為に買ってきたのに。高級カメラ」
「? ご主人、話が読めな…」


「随分吹っかけられたけど、買ってきたのに。ナズーリンが働く姿、すごく綺麗だから」
「?………おい、ちょっと待て」


私は思わずご主人の袂に手を伸ばし、漁った。

そして、一枚の紙を探り当てた。

「……なにこれ。『借用書』」
ぬえが首を伸ばして、私が取り出した書類を読み上げた。



「…おい、ご主人。これはどういうことかな?」
「い、いや、その。随分ナズーリンもお金を儲けているし、その、私も少し、寂しくって、いいかな、って…」
「…。」

「…ナズーリン。これ、ずいぶんヤクザな金貸しみたいだけど…?」

一輪がおそるおそるそう言った。
そりゃそうだろう。私らにはまだ借金があるのだ。

そんな中、ご主人にホイホイお金を貸してくれる商人、と、なれば…。


「うわああああ!い、一輪!今すぐ店を開けるんだ!24時間体制だ!席も増やせ!君もウェイトレスをやれえ!」
「わわわ分かりましたああああ!」
一応、一ヶ月くらいで返せたらしい。

その後しばらくは、ナズーリンは干からびたチーズみたいな顔をしていたとか。








――作者は「ナズーリンの淹れたコーヒーを飲みたかっただけ」と供述しており
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コメント



0.4870簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「面白かったのでこの点数を付けた。反省はしていない 」などとと供述しており
10.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「ぬえたんかわいいよぬえたんうひゃぁぁあぁあぁ」などと正体不明な供述をしており
13.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「雲山が良い味を出している。ナズーリンを見ているだけで楽しそうだ 」などとと供述しており
14.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「食べ物の匂いに敏感な一輪さんが可愛すぎて 」などとと供述しており
15.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「ナズーリンのエプロンドレスを写真に収めたくて星に売った」などとと供述しており
19.100薬漬削除
容疑者は「100点入れなさいという聖さんの声が聞こえたんです」等と供述しており
22.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「おい、いち早く金を返すためにも村紗にもエプロンドレスだ」等と供述しており
24.100賢者になる程度の能力削除
容疑者は「雲山とは甘い酒が呑めそうだ」と供述しており
25.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「一輪さんとナズが可愛すぎて辛抱たまらなかった」などと供述しており
27.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「店の雰囲気とかマジ行ってみてェ」などとと供述しており
32.90名前が無い程度の能力削除
容疑者は「タイトルにホイホイされて、ちょっと眺める程度に留めるつもりがそのまま面白くて一気に読んでしまった。一人一人が凄くキャラがたっていて魅力的。雲山が特に素敵」などと供述しており
35.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「一輪のキャラが定まっていて感動した」などとと供述しており
36.100マンキョウ削除
容疑者は「一さんのポニテが見たいんDA!!」と狂述しており
37.100奇声を発する程度の能力削除
容疑者は「ぬえが可愛くて生きるのが辛い…」などと供述しており
39.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「うざかわいい一輪もいいがナズにデレデレのぬえも捨て難い。どうすればいいんだ。」などと供述しており
41.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「星さんみんなの姿が入ったそのデータ焼き増しして下さい」などと供述しており
43.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「ナズーリンはやっぱ苦労性キャラだよな!あと星自重しろ」等と供述しており
45.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「ナズーリンのフリフリが見られてよかった。後悔はしていない」などと供述しており
48.100ぺ・四潤削除
容疑者は「ナズーリンの写真を売れば借金なんかすぐ返せると思った。悪気はなかった」などと供述しており
49.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「デレてるぬえを毎日そっと眺めてるだけで満足だったんです」等と供述しており
50.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「もちろん星さんも、責任とってウェイトレスだよな?」などと供述しており
53.100橙華(仮)削除
容疑者は「QOU(急に乙女な雲山)が来たので吹いてしまった」などと供述しており
63.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「乙女な雲山が好きです! でも華麗にオチをもってくる星がもおっと……!!!!!」などと供述しており
64.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「何このコメントの統一感w」などと供述しており
65.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「微妙にウザい一輪さんのキャラがグッドな上に俺もナズさんのコーヒー飲みたいし」などと供述しており
69.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「所々の雲山がいい味だしてる」などと供述しており
72.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は容疑者は「謎の雲山プッシュに吹いた」などと供述してみたり
78.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「星一家いい!」などと供述しており
80.80名前が無い程度の能力削除
誤字報告
雲井→雲居

一輪さんの機転が利いて要領の良い性格が、中々めんどくさい方向に発揮されていますね
タイトルにもなってる後半部分も面白かったのですが、個人的に前半の雰囲気がとても好きです
ナズーリンとぬえの静かな夜、そこに入ってくる騒がしい一輪さん
それぞれがとても魅力的で、ますます星組を好きになりました

あと、どうでもいいことですが、「カフェ」ではなく「カフェー」とするところに無性に心惹かれました
なんでだろう
81.無評価ガブー削除
>>80
即刻修正しました。ご指摘ありがとうございます。
は、恥ずかしい
86.100名前が無い程度の能力削除
ぬえが可愛いです。
92.100名前が無い程度の能力削除
容疑者がゲシュタルト崩壊。
それはともかく、ナズーリンはなぜか苦労してる姿が似合うと思うんだ。
一輪&雲山がいい味出してた。いいカフェーだった。
93.90名前が無い程度の能力削除
雲山が乙女でワロタwww
さて、そろそろ幻想郷のナズーリンカフェーを探さないと……
94.90名前が無い程度の能力削除
とても面白かったです
ナズとねえの組み合わせは珍しい。初めて見たかもしれない
キャラがとても魅力的ですね
紳士的で料理上手なナズ、かわいいぬえ、軽いけどいい性格をしている一輪、乙女な雲山
星さんはもうちょっとしっかりしてほしいところですがw
カフェーの雰囲気も良く、一度行って見たいと思うほど素敵でした
エプロンドレスも良いですが、ナズにはウェイター姿も似合いそうですね

あと、カフェーとしたところにも、なにか言葉に出来ない、大正的なロマンを感じました
なにか、語幹が良いですよね。カフェー
96.100名前が無い程度の能力削除
とても良い。カ(↑)フェー(→↓)
98.100名前が無い程度の能力削除
ナズは素敵だし、ぬえは可愛いし、雲山一輪は面白い。主要キャラがみんなキャラ立ちしてて素晴らしい。こういうまったりした作品は大好きです。
101.100名前が無い程度の能力削除
あぁ、実に良いものだ…。
102.100名前が無い程度の能力削除
雲山マジイカスw
103.100名前が無い程度の能力削除
雲山がいいなぁ。
ナズーリンカフェー、ぜひ行ってみたいです。
104.100名前が無い程度の能力削除
ちょっとカメラ用意するんで、
ナズーリンカフェーの詳細な住所を……。
105.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「幻想郷の女の子たちのおしゃべりスポットですね、わかります」などと言いつつ、盗撮用の小型カメラを設置しようとしたところを居合わせた四季映姫・ヤマザナドゥ裁判長に即日有罪の判決を(略
107.90名前が無い程度の能力削除
雲山が可愛いんだがw
111.100ずわいがに削除
容疑者は「ナズーリンとカフェーの雰囲気がこんなに合うとは驚いた」などと供述しており
113.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「タイトルの無駄骨を頑駄無と読んでしまった」などと供述しており
117.無評価ガブー削除
今になって誤字に気づいたので修正しました。遅ればせながら。

(×『運命というのものに対して失礼だ。』→というもの)
120.無評価名前が無い程度の能力削除
コメントの流れでだいぶ点数得してるね
面白かったです
124.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「\すげえ!/」などとと供述しており
125.100名前が無い程度の能力削除
ぬえがフラグめっさ立ててんのにフォローが入らないあたりに100点  などと供述しており…
128.80名前が無い程度の能力削除
容疑者は「ナズのパスタが食べたかった。あとナズぬえ可愛いよナズぬえ」と供述しており…
131.100名前が無い程度の能力削除
雲山万能だなw
ナズーリンの意外な一面が可愛かった。
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容疑者は「雲山サイコー!」と供述しており・・・
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容疑者は「ぬえがせっせと立てたフラグをナズに片っ端から粉微塵にされているのが哀れでついカッとなってやった。反省はしているが、後悔はしていない。
あとコメ欄の統一性が(ry」など6時間に渡って供述しており…
137.100名前が無い程度の能力削除
面白かった。ぬえは頑張ったw
星ちゃん……
138.100名前が無い程度の能力削除
星はわざと買ってきたのだろうか。
とりあえずナズーリンもぬえもかわいい
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容疑者どもwww
147.90名前が無い程度の能力削除
容疑者は「これはいいナズぬえ。星君は自らの責任を理解すべき。罰として撮った写真のネガを要求する」などと供述しており
148.90名前が無い程度の能力削除
容疑者は「ナズ星さいこーーーーーーーーーーー 」などとと供述しており
149.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「雲山かわいい」などとと供述しており
150.100プロピオン酸削除
容疑者は「ナズーリンの入れたコーヒーならちょっと飲んでみたいかも」などとと供述しており
152.100名前が無い程度の能力削除
容疑者は「このロリコン共め!俺も混ぜろ!」などと供述しており