Coolier - 新生・東方創想話

大と並の境 6

2010/03/01 20:57:18
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注意事項:
このお話は拙作『大と並の境』のシリーズとなっています。
特に前回『大と並の境 5』の話の続きとなっていますので宜しければ、一度見ていただければ幸いです。
また話の都合上、自分の考えたオリジナルの符が多く使われています。
何それ、と思われますがどうか暖かいで見てあげてください…
今回で最終章となります。
では始まりますのでよろしくお願いします。







大と並の境 6












声が聞こえたのでレティ=ホワイトロックは聞こえた方に振り向いた。
すると向こうから誰かがやってくるのが見えた。
彼女は漂っていたところ一度止まり、来るのを待っていた。

「どうも、レティさん」
やってきたのが射名丸 文だと認識すると、ああ、と頷いた。
よく見ればそこには稗田 阿求も一緒であった。

「……どうかしたのかしら?」
「レティさんを探していたのですよ」
「私を?」
文がレティを探していたことを知り、さてはあのことかと考えていた。
しかしそれにしては様子がおかしい。
なぜなら、あのことで来たのであれば、単独で来てもおかしくないのに、何故非戦闘員である阿求がいるのだろうか?
それにやけに明るい顔と声で話している。
それもまた疑問を深めることになった。

(もしかしてこの子が嫌いな天狗の仲間がいて、それを倒したから感謝しに来たのかしら)
と思ったところでそれはありえないと決め付けた。
天狗は組織的で仲間意識が強い種族だ。
このような場合、感謝の感情の前に報復しようと思うのが天狗である。
では何故、用があるのだと思った。
すると向こうからまだ二人がやってくるではないか。

「ようやく見つかったな」
「今日は駄目かと思ったよ」
「貴方たちも私を探していたのかしら?」
「そのとおりだ」
上白沢 慧音の言葉を聞いてますます疑問が深まった。
レティは顔を済ましながら彼女たちが答えるのを待っていた。

「今日、レティさんを探していたのはですね…」
少女説明中…

「…なるほどね。私が『大妖怪』に当てはまるか微妙って言いたいわけね」
「すみません。何分、私たちの独断で始まりましたので……」
「別に良いわ。気にしてないし」
肩をすくめてレティは若干うつむいた阿求にそう答えた。
実際、本当に気にしていないらしく顔は先ほどからずっと変わらず、澄まし顔である。

「それで、私はどうすれば良いのかしら?」
「あ、実はですね、レティさんの強さを測らせていただこうかなと思っているんですよ」
「……へぇ」
阿求の答えを聞いてぴくりと反応した。
まさか弾幕ごっこを挑まれるとは、と意外そうに見ていた。

「如何でしょうか?」
「ウ~ン……」
レティは考え始めた。
これから特に予定はないのだが、かといって易々と頷くのもなんだか嫌そうである。
というのも先ほど妖怪の山でちょっと力を使ったから、まだ散歩をしていたかったからだ。

(それに面倒だしね)
正直、『大妖怪』とかそうでないとか興味がないようである。
幻想郷縁起に載るだけでも名誉なことであるのに……

何故、幻想郷縁起に載ると名誉なことであるのか?
なぜなら、それに載るということは、即ち妖怪としては危険な分類に当てはまるからだ(ただし、英雄枠を除く)。
危険と言う事は妖怪としての畏怖、恐怖が持ち上げられることになる。
それは妖怪の中でも質が高いことを示す証なのだ。
加えて、レティは今回の改編のノミネートということになると、妖怪としてさらに箔がつくことを示すのである。
にもかかわらず、この妖怪ときたら「面倒」の一言で片付けようとしているのだ。

「……そうね。やっぱり…」
断るわ、と言いかけたところで文を見た。

(そう言えばこの子は何も知らないのよね)
妖怪の山での惨劇を何も知らず、ただ阿求達とつるんでいる文を見て、少しおかしくなった。
ならば、此処で今一度天狗を弄るって言うのも悪くないかもと考え始めた。

あえて此処で言わせて貰おう。
レティは天狗のことが嫌いである。
だから天狗を執拗に弄ろうとしている。
それは妖怪の山が嫌いということが大きく関わっているのである。
あの山は昔 ―幻想郷が出来て間もない頃― 誰でも行き来できたのだが、いつの間にか天狗や河童が我がもの顔で闊歩するようになった。

実は、レティは冬にあそこで一人山の頂上から、下を見下ろしているのが好きだった。
吹雪の日は誰も出歩かず綺麗にクリーニングされた雪の絨毯と、暗いヴェールの中で光る宝石のような雪のコントラストを見るのが好きであった。
けれどいつの間にかそれが出来なくなっていた。
天狗が、次いで河童があの山を独占している。

力を振るえば今日みたいに蹂躙は出来よう。
けれどそれは面倒である。
結局、山にはなかなか入れなかった。
それは山がレティを拒んでいるようであった。
そうしているうちにいつの間にか天狗や河童といわず、山自体が嫌いになってしまった。
それはいつの間にかのことであった。

だから山がどうにかできないのなら代償行動に出るまで。
即ち天狗や河童への蹂躙。
とは言えおおっぴろになかなか出来ない。
邪魔な存在を起こしてしまうことと、面倒だからである。
そして今此処に文がいるのを思い出し

「いいわ。貴方たちに付き合ってあげる」
「本当ですか!?」
「ええ」
阿求は嬉しそうに周りにいた三人に話しかけていた。
周りもそれを見て笑顔になっている。
そしてレティもである。

「では早速ですが宜しいですか?」
「ええ、構わないわ」
「分かりました」
そう言って阿求、文、慧音は後ろに下がった。
そこにとどまったのは藤原 妹紅とレティであった。
それを見てレティは疑問を浮かべた。

「というわけで、私が相手になるわけだ。よろしくな」
「貴方が?」
「ああ、そうだけど。不満かい?」
不満であった。
レティはてっきり文と弾幕ごっこするのだと思っていたのでこの人選には拍子抜けである。
それに一番重要なのは……

「貴方って炎を使うのよね?」
「ああ、そうさ」
相性の問題であった。
レティは雪を妹紅は炎を使う。
炎は雪を溶かす。
それはレティにとって天敵である。
困ったといった表情は出してはいないが、どうしようかと悩んでいた。

(いまさら断るって言うのも失礼よね)
面倒とは言え一回承諾したものを反故にするのはレティにとって嫌なようである。
考え出した結果、

「わかったわ。やりましょう、弾幕ごっこ」
「そうこなくっちゃ」
そう言って妹紅の背後から不死鳥を模した炎の羽が現れた。
そして一瞬にして妹紅の周りにあった雪が溶け出し、水蒸気になって湯気が立ち上がった。

(面倒だから、適当にあしらわれて終わらせましょ)
それがレティの考えた末であった。
しかも「あしらう」のではなく「あしらわれる」のである。
レティにとって勝ち負けは気にならないらしい。
そして二人はある程度の高さまで上昇し、お互いのスペルカードを切った。

「不死『火の鳥-鳳翼天翔-』」
「寒符『リンガリングコールド』」
二人の弾幕が周囲に広がった。
妹紅の繰り出す弾幕はまさに不死鳥。
猛々しい炎をまといし火の鳥が一直線に走りレティに向かう。
対するレティはその進軍を食い止めようと、繰り出した弾幕は火の鳥を捕獲せんと言わんばかりの形をした、弾幕であった。
ストッパ-という表現がしっくりくるような形をした弾幕で抵抗をする。

両者の弾幕は赤対青と波長で言えば正反対の対決である。
それは見るものにとっては夕日になり始めた青空との領土合戦といえようか。


「素晴らしいですね」
「確かに。写真の取り甲斐があります」
阿求の隣では文が喜びながら写真を撮っていた。
その隣では慧音が妹紅とレティの弾幕ごっこを静観していた。


「やるじゃないか」
「ふふっ、ありがと」
お互いの出す弾幕はまだ両者に届いていなかった。
中央での鬩ぎ合いが続いているのである。
しかし、それも長くは続かなかった。
『長引く冷たさと』は言え、炎には勝てないのか。
だんだんと炎の力が増してきた妹紅の弾幕に、ストッパーが効かなくなってきたのであった。
それを見て、レティは、スペルを緩め始めた。
そして火の鳥を寸前で避けた。
牽制程度の弾幕では止めることは出来ないので避けながらの攻撃に移った。
レティは二枚目のスペルカードをだし宣言した。

「白符『アンデュレイションレイ』」
白いレーザーが妹紅を襲う。
レティは先ほどと同じ試みをしている。
なので火の鳥相手では止める事出来ないので避けながらの攻撃になる。
火の鳥が襲ってくるたびレティは回避し、間髪おかずにレーザーを放ち、妹紅を穿たんとする。

今度は妹紅が押されてきた。
いくら火の鳥の属性が炎で範囲が広いからといって、こちらは繰り出すのに一瞬チャージする時間がかかってしまう。
その為初動が短くスピードもある、アンデュレイションレイが妹紅の隙を衝いてくる。
避けられてはまたチャ-ジし、その間に白いレーザーが妹紅めがけて飛んでくる。
そしてそれはギャラリーにも流れが変わってきたことを気づかせた。


「妹紅がおされてきたな」
「そのようですね。レティさんは撃ち合いというよりもヒットアンドアウェイにシフトしてきましたね」
慧音はぐっとこぶしを握っていた。
文も展開が変わったことにシャッターを押しながら、時々カメラから目を離し上空の弾幕ごっこを見ていた。


狙い済ましての一撃。
これが意外にも効いているようで、レティは徐々にレーザーのスピードを上げていった。

「どうかしら、私のレーザーは?」
「いやらしいの一言に尽きるね」
「そう。それは重畳ね」
なおも同じ戦法が取られているというのに、妹紅にとってそれがなかなか対処できていないようである。
しかし妹紅も徐々にスペルを緩め始めると

「時効『月のいはさかの呪い』」
こちらも次のスペルカードに移った。
繰り出される弾幕は先ほどと違い猛々しい火の鳥のような迫力さはない。
しかしスピードもありなおかつ全体に展開できるというのが売りの弾幕である。
これでレティの回避に制限を付けようとしたのだ。
それにはまってしまったレティは先ほどと違い自由に動けなくなってしまった。
弾と弾の間を見つけては上下左右に動き、隙を見て掌をかざしレーザーを放つ。
この繰り返しをしていたところでレティは違和感に気づき後ろを振り向いた。

「弾幕が戻ってくる?」
妹紅から放たれた弾幕がなんと背後から迫っていたのだ。
前方だけに注意していたレティにとっては驚きの言葉に尽きた。
表情は澄まし顔のままではあるが手だけが高速に動いていた。
幾度もレーザーを放ち背後の危険を取り払うと、今度前方から大量の弾幕が来たのでこれも先ほど同様に対応する。


展開が変わってきたことで幾分妹紅にも余裕が出来てきた。
さらに動きを封じようと弾を増やし始めた。
赤と白の弾幕のぶつかり合いである。
特に幾本ものレーザーを打ちながら対処している、レティの周りには白と赤の混ざった小規模な爆発が無数に連なっていた。

ドォン、ドォン、ドォン……


「すごい打ち合いですね」
「妹紅さん、容赦ないですねえ」
「とは言え、レティもたいしたものだ。あれだけの弾幕を最低限の力で乗り切っている。攻撃には移れていないものの完全に対処できているようだ」
「そうですか?けれどレティさんの服にそれなりに血が付いていますよ」
「見えるんですか、文さん?」
「はい。椛にはかないませんがこれでも視力は良い方なんですよ」
椛というのは私の部下なんですよ、と文は阿求に説明していた。
その隣で慧音が首をかしげていた。

(最初のスペルカードは全て避けていたから被弾はしていない。今の弾幕も爆発で見にくいとは言え、被弾していないのは確かだ)
ならあの血は?
妙だ、と呟き顔をしかめながら戦況を見守っていた。

妹紅は蓬莱人だし、戦いには不本意ではあるが輝夜との戦いで慣れている。
おそらくやられることはないと考えていないが…
そう考えながら、慧音は手持ちのスペルカード不安を拭う様に確認していた。





◆◆◆





はぁ、はぁ、はぁ…

一匹の白狼天狗が息を上げながら飛び回っていた。
この天狗、椛は上司である文を探している最中である。
所々衣類が破れており、露出した肌は見るも無残に血が出ていたり、或いはあざになっていた。
とてもじゃないが女性としては可哀想な格好になっていた。
それでも彼女はそれを気にせず文を探すのに必死になっていた。

はぁ、はぁ、はぁ…

止まることなく頭を必死に動かしながら文を探した。
本来彼女の能力、『千里先まで見通す程度の能力』を使えばどんなに遠くにいようと見つけることは容易である。
しかし今日はあいにくにも雪が降っていて見つけにくい。
しかも途中から雪の量が増えてきたので探すことに困難を極めた。
その為移動しながらの探査中である。

しばらくたっても上司である文は見つからず椛はついにひざを付いた。

「げほっ、げほっ……ううぅぅぅ」
息が苦しくなり心臓の辺りをぎゅっと手で掴んだ。
少しでも早く息を整えようと深呼吸を繰り返した。

「ふうぅぅ、ふうぅぅ……」
少しずつ息が整ってくるのが分かってくると、立ち上がりまた捜索に乗り出そうとしたが

「あ、あれ?」
足がふらつきその場で倒れてしまった。
どうやら疲労もかなり溜まってきたらしく足に踏ん張る気力が出なくなったのである。

「くそぉぉ~~、なんでよ」
椛は自分の足のふがいなさにみるみる涙目になってきた。
早く伝えないと文が危ないかもしれないというのに。
言う事聞かない足に、自分に悔しくなったようだ。
その場でもう一度立ち上がろうとするも、痙攣したようにひざが震えだし、また倒れてしまった。
追い討ちを掛けるかのように、降ってきた雪が重くのしかかる。

ダンッ!

強く握られた手は地面に強くたたきつけられた。
こんな事をしても無意味だというのは理解している。
けれど椛は叩かずにはいられなかった。
何度も何度も叩きつけた。

下っ端である彼女に気さくに話しかけてきた。
直属の部下として指名してくれた。
自分ではかなわない敵に会ったとき、何度も駆けつけてきてくれた。
そしていつも笑っていた。

そんな文を今度は自分が助けたい。
けれども言う事が聞かない自分の体に悔しくなり……
誰も見ていないこの雪原で椛は天に向かい咆哮した。



………
……




「どうかしましたか?」
声が聞こえたので耳がぴくっと反応した。
顔を上げるとそこには一人の妖精がいた。

「あ!だ、大丈夫ですか?」
椛の様子を見た妖精はあわてて近寄ってきた。

「すごい傷……今薬草を取ってきますね」
一度妖精はその場を離れていった。
椛はきょろきょろと見渡し今いる場所を把握した。

(夢中になって探したら此処まで来てたんだ)
そう思っているとさっきの妖精が戻ってきた。
そして傷口に何度も薬草をこすり付けられた。
染みるのか椛は薬草をあてがわれるたびに痛そうな顔をした。

「体の方はどうですか?」
「大丈夫です。だいぶ楽になりました」
少しではあるが体力も回復した。
それを聞いて妖精は嬉しそうに微笑んだ。
すると遠くから誰かの声が聞こえてきた。

「……ぃちゃ~ん。お~い……」
「あ、チルノちゃんの声だ」
そう言って妖精は立ち上がり手を振った。
それに気づいたのか呼んでいた妖精らしき者が現れた。

「あ、いたいた。どこにいたのさ?」
「ごめんね。ちょっと用事があって」
「うん?だれそいつ?」
「怪我で困っていた天狗さんよ」
へぇ~っと言いながら椛をまじまじと見ていた。

「天狗って黒だけじゃないんだ」
「そうだよ。たしか白狼天狗で良いんでしたよね?」
「え、あ、そうです」
椛は急に話を振られたので言葉に詰まってしまった。

「チルノちゃんこそどこにいたのよ。私も探してたんだよ?」
「あたいは向こうで蛙蘇生の練習してたのさ。そう言えば、今日黒い方の天狗に会ったよ」
「黒い方って、文さんのこと?」
「そうだよ。そしたらね……」
「どこ!?どこにいるの、文様は!?」
文という言葉を聞いて椛はチルノの肩を掴んでいた。
さっきまで瀕死の状態だったのに本当に回復してきたようである。

「え、え、え?な、何よ、あんた?」
「お願い!教えて、どこにいるの!?」
「え、えっとレティを探しているから、向こうの方にいるって言ったよ」
そうしてチルノが指したのは妖怪の山であった。
椛はすれ違ったのではと危機感を感じ飛びだっていった。
が、急に止まり後ろを振り向いた。

「あ、薬草、ありがとう。あ、あと文様のこともね」
そう言ってぺこりとお辞儀すると瞬く間に飛んでいった。

「あいつ、なんなの?」
「さあ?でも良かったね、お礼言われて」
「ふん、当然よ。あたいったら最強~なんだから」
いつものせりふを聞いて隣にいた妖精はくすくすと笑っていた。

椛が立ち去ると少しだけ雪もおとなしくなった。
そこは赤い館が近くにあることで有名な湖である。

「じゃ、向こう行って遊ぼう、大ちゃん」
「うん」
大ちゃんと呼ばれた妖精は椛とは真逆の方に去って行った。





◆◆◆





冬は天気が移りやすい。
先ほどまで穏やかに降っていた雪が今は徐々に荒れ始めている。
これもレティの仕業かと思わずにはいられなかった。
けれど寒くて、雪と風が強い日でないとレティは見かけられないといわれている。
なので今はこの天気に少しは感謝しないといけないのだろうか。

何が言いたいかと言うと、妹紅とレティの闘いの激しさが増してきたのだ。
顔を見上げた上空ではいくつもの爆発が起きている。
明らかにこう着状態であった。
戦況が変わらず、同じ事が続いているので文もいつの間にか写真取らないでいた。

「全く変化がありませんね」
「そうですね。お互い動こうにも動けないんだと思います」
「阿求殿の言うとおりだ。下手に動けば自分がやられる可能性があるからな」
「けれどそろそろタイムアップでしょうね」
スペルカードには時間制限が組み込まれている。
元々弾幕ごっこは美しさを争うゲームなので、同じものを見ていては飽きが来るという理由のためだ。
それがお互い頃合だというのを文は感じていた。


「ちっ、埒が明かないな」
「こっちもよ。困ったことになったわね」
闘っている本人たちもそろそろだと動き始めた。
そして同時に新たなカードが切られた。

「虚人『ウー』」
「寒符『スナップコールド』」
妹紅が繰り出すスペルカードはまるでマシンガンのようであった。
無数に出される弾は相手を蜂の巣のようにするのではなく、原型さえも残さないような撃ち方であった。
対するレティの弾幕は雪の塊とも言うべきか。
レティが手を振るうと目の前に大きな雪の塊が現れたのである。
それによって妹紅のマシンガンのような攻撃は防がれてしまった。
むしろ拙い状態になった。

「やばっ、こいつは拙いかな」
撃たれた雪の塊は拡散し妹紅の動きに制限を付けられてしまった。
下手に動けば自分が被弾してしまう。
かと言って攻撃をやめてしまえば、塊が飛んでくる。
妹紅は自然と攻撃をせざるを得なかった。


まさか相性の悪い雪が炎を押しているとは思いもよらない展開が広がっているので、下にいた三人も驚いている。

「これは意外な展開ですね」
そう言いながら先ほどまでただ見ていた文は再度写真を取り出した。
熱が入りだしたのか、驚きと笑いが折衷したような表情になっているので面白い。
阿求はそんな文の表情を見てくすっと笑い文に倣って空を見上げた。

「雪は炎に弱いのは確かです。そして雪は水が凍った集合体であるのも確かです」
「水克火。なるほど妹紅が押されるのも仕方ないというべきかな」
はい、と言う阿求の声が聞こえた。
それを考えると相性というのはわからないものだ。

例えば文は妖怪である。
そしてその隣にいる阿求は人間である。
妖怪は人間を襲い、それを糧としている。
それに対し人間は妖怪を退治する。
いわば水と油の存在なのだ。
しかしここにはそんな関係はない。
むしろ上手くまとまっているじゃないか。
どうなるか分からないものだな、と慧音は呟いていた。


空中戦は激しさを増していた。
二回目のスペルがレティ中心に無数の爆発が繰り返されていた一極型に対し、今はオールレンジで爆発が起きている。
というのも、押されていた妹紅はマシンガンを全方向に向けて放っていたのである。
そのため、最初に比べては落ち着いてきたようだ。
かと言ってレティもそれで何も対抗をしていないわけではない。
こちらの方も更に量を増やしわざと相殺させて少しでも命中の確率を上げようとしていた。

「ははっ、どうだい?お前の攻撃はもう届かなくなったよ」
「そうね、困ったわね」
と言いながらもレティは全然困ったようなそぶりを見せない。
最初にも言ったがレティはこの闘いに興味がなくなっていたのである。
それをここまで付き合ったのも「失礼のないように」というもの。

(そろそろ頃合かしらね)
そう言って被弾してもいいような威力が弱められている弾を捜していた。
面倒ごとには付き合わない。
それがレティの信条ともいえるべきか。
徐々に繰り出す雪の塊を少なくし始めた。

その時であった。


「文様ああぁぁぁー!!!」
レティは遠くから声が聞こえたので振り向いた。
そこにいたものを見て驚き、嬉しそうな顔をしていた。


距離的に離れていた弾幕中の二人にも聞こえたのだ。
もちろん下にいた三人にも聞こえていた。

「今の声、椛?」
「椛ってさっき話してくれた天狗ですか?」
「はい、そうですが……どうしてここに?」
ここにいるはずのない椛の声が聞こえたので文はおかしいと思った。
そう思いながら声のするほうに文が向かうとそこには確かに椛がいたのであった。

「椛!?」
「文様!良かった…無事だったんですね」
本当にいるとは思わなかった椛がそこにいたことに文は驚いていた。
しかし驚いたのはそれだけではなかった。
よく見てみると数十箇所に傷跡があったり、服も破れているなどしていた。

「椛、その怪我どうしたのですか!?それに無事って言うのは?」
「文様、至急この場から離れてください」
「えっ?」
椛の言っている言葉の意味が分からなかったので、怪訝な顔をした。
いつもと違う椛の様子に何かあったのかは察する事が出来てはいたが、いったい何があったのか。

「実は妖怪の山が急襲に遭い、現在多数の天狗に被害が出ています」
「急襲!?天狗がですか?それで?」
「被害にあった天狗はおよそ三十。その大多数は重症ですが死者はいません」
「天魔様からは?」
「申し訳ありません。このことを早く文様に伝えないといけないと思い、天魔様には報告せずこちらに向かいました」
「どうしてわたしに?」
「それは……」
その瞬間であった。
一生懸命に文に報告を伝えていた椛が目の前からふっと消えたのであった。
最初、何があったのか分からなかった、文を含めた三人は辺りを見回した。
すると椛は真横に吹き飛ばされていたのであった。

「椛!」
気づくや否や文は飛んで駆け寄った。

「椛!」
「………………」
文が叫んで呼びかけても反応がなかった。
頭に打たれた痣みたいなのがあったが、命に別状はない。
気を失っているだけなのであろう。
文は椛を抱き寄せながら何度も呼びかけた。
声も若干涙声が混ざっている。
阿求はそれを見て戸惑っていた。
何が起こっているのか整理が追いつかないのだろう。
ただ一人、その場にいた慧音だけがじっと空を睨んでいた。


「あら、怖い顔ね」
「あんた、何やったんだ?」
低い声で妹紅はレティに声を掛けた。
レティは右手をかざしたまま静止していた。

「何を?貴方見ていたのでしょう?どうしてわざわざ聞くのかしら?」
「確認の為さ。燃やして良いか駄目かの、ね」
「あら、怖い」
そう言いながらレティは可笑しそうにふふっと笑っていた。
一瞬綺麗な笑顔だとも思った。
まるで何か面白いものを見たような子供をあやす母親のような笑顔であった。
けれどレティはそれとは相反するような行動をとったのも事実である。
そのギャップに妹紅は薄気味悪くなった。

「慧音!サポートは良い!文達をしっかり守っててくれ!流れ弾が当たらないように!」
「了解した。気をつけろよ」
「おう!」
大きな声を出さなくても慧音は聞こえているのだが、その迫力のある声に慧音は任せても大丈夫だと確信した。
いまだ文が立て直せず、また戦えない阿求がいるのだ。
しっかり守るのが役割なのだろうと慧音は意識した。

「産霊『ファーストピラミッド』」
宣言されたスペルカードによって四角柱のような結界が四人を取り囲んだ。
慧音が結界を張ったことを確認した妹紅は正面にいるレティを睨んだ。

「さて理由を聞かせてもらうよ。どうしてあの天狗を撃ったのさ?」
「貴方に答える必要があるかしら?排他的で他のものには厳しく当たる天狗と関係ない貴方に…」
「ま、それもそうだね」
そう言い妹紅は肩をすくめた。

「けれど文が泣いているんだ。友達の為に相応の報い、受けてもらうよ!」
言い終えたと同時に先ほど以上に大きな不死鳥の翼が広がった。
まるでお前を喰らいつくさん、と言わんばかりに威風堂々と広げていた。

「覚悟しな、冬の妖怪!」
「それはどうかしら」
レティの方も見た目には分かりにくいが急激な冷気を広げていた。
おそらく水なんかがあったら瞬間に凍っていただろう。

お互い先の弾幕ごっことは全く違う雰囲気に空気が泣きそうに震えていた。
かたや寒気を迸らせた妖気を、かたや不死鳥の力を練りこんだ妖気を空気越しにぶつけていた。
正確にはお互いまだ攻撃はしていない。
これはいわば冷戦の状態である。
これから始まるのは弾幕『ごっこ』ではない。
『決闘』であった。

「藤原『滅罪寺院傷』」
「冷線『ピアーシングレイ』」
お互いのスペルカードが宣言されるとまた中空には弾幕が展開された。
妹紅が繰り出す弾幕はお札である。
それは水平に、広範囲に展開されていた。
スピードもある所為か中空での領土をなかなか占めている。

対するレティの弾幕は鮮やかな桔梗のような色をした楔形のレーザーが放射されていた。
よく見てみると彼女の周りには白い魔法陣が三つぐるぐると回っている。
どうやらそのレーザーはそこから放射されているようだ。
数は多くないものの妹紅の攻撃を封鎖している。

「ちっ、なんか相性が悪そうだ」
妹紅は軽く舌打ちをした。
攻撃の領土という意味では妹紅が押している。
量もスピードも勝っているからだ。
しかし幾筋のレーザーが防ぎれていなかった。
レーザーはお札を障害と思わずに貫通しているからだ。
このことに妹紅は厄介さを感じたからだ。

「攻撃は単純だ。起動が直線だから読みやすい。後は…」
いかに攻撃を当てるかだと妹紅は考えていた。
レティの攻撃は直線的である。
ゆえに回避は容易であった。
なので妹紅は攻撃を決めることだけに専念し始めた。

一方のレティは左右に上下にと動いている妹紅とは違い微動だに動いていない。
じーっと戦況だけを見ていた。
元々動くのが億劫と考えていた彼女にとって、これは丁度良い状況なのかもしれない。
向こうから飛んでくる攻撃は、周囲の魔法陣が打ち落としてくれるので回避は取る必要がない。
攻撃もいずれ当たるだろうと思って、今のところは静観している。

「さて、どう来るのかしら」
レティはニコリと楽しそうな顔をして見ていた。
腕を下ろし、体を大の字に広げて待ち構えた。
まるで私は動かないから撃ちたければいつでもどうぞ、と挑発するように…

「…っ!やろう……!上等だ!」
このポーズにカチンと来た妹紅は弾幕の中へ飛び込んでいった。
レーザーを避けながらレティの下まで近づいていった。
罠だとは考えながら進行したがそんなそぶりさえ見えなかった。寧ろ…

「いらっしゃい。やっと対面できたわね」
「ああ、そだね」
お互い顔と顔が近づくところまで接近する事が出来た。
息もぶつかるような距離まで接近した妹紅の顔は怒りをはらませた笑顔で、対するレティは涼しそうな笑顔でいた。

「最初っからこうやればよかったよ」
そういって妹紅は睨みながら腕に炎を纏わせた。

「あの世まで、吹っ飛びな!」
ごうっと音を立てた拳は迷うことなくレティの顔に向けられた。
かなり距離は近く迷いもなかったので、完全に殴れると思っていた。
実際、第三者の状況にいた慧音でさえそう思った(女性を殴るのはどうか、しかも顔と来たもんだ、とも思いながら)。
けれどその拳は妹紅の意図とは反するように急停止したのだ。

「あれ?」
間の抜けた声が出た。

「あら、殴るんじゃなかったの?」
「なんで?」
お互い疑問が出た。けれど答えは返ってこなかった。
とは言えこれにはしっかりとタネはある。

「お前、何をした?」
「別に。私は何もしてないでしょ」
「だったら何で私の腕が止まるって言うんだ?」
「さあ、なんででしょう?」
嫌味の意味でレティは言葉を返したわけじゃない。
純粋に疑問に思ったからだ。
ただしレティの疑問というのは「なぜ拳が動かないのか」という意味ではない。
「なぜ気づかないのか」という意味で、だ。

「クッ…このっ…」
「あまりじたばたしない方が良いわ。腕が取れちゃうわよ」
そう忠告されるも妹紅は無視する。
やれやれと言わんばかりに頭を振った。

「あのね。私の能力ってご存知かしら?」
「あん?」
「寒気なのよね、私の能力って」
レティが説明し始めると、突然妹紅の拳の先から凍り付いてきた。

「うっ、うわぁ……」
「私から言わしてもらえれば、寒気ってのは冷気とほぼ同じなの、凍らすという意味では」
レティの説明は続けられる。
同時に妹紅の腕も氷結の進行も続く。
拳が中空で、釘で打ち付けられたように動きはしない。

「決定的に違うのは、冷気って言うのは目に見えやすい。寒気はその逆。ほらアイスクリームなんかよく見ると気体が出ているのに気づかないかしら。あれが冷気よ」
説明はまだ続く。
もちろん、もう一方も。

「だからね、貴方の拳が止まったのは凍り始めていたから。目には見えなかったけどね。でも今は見えているでしょう」
恐怖であった。氷が自分を飲み込もうとしているのだ。
これにはお化けや幽霊が怖いと言っても、それ以上に肝が冷えてくる。

「見えない恐怖は見える恐怖よりも効果的とは言うけど、これもなかなか乙よね」
うっとりとしながらレティは妹紅の腕を見ていた。
必死に動いて外そうとしている。
少しでも氷結の進行を遅めようと、妹紅は顔を凍った腕から逸らすように腕を引っ張っていた。

「でも可哀想だから開放してあ・げ・る♪」
腕を頭上高くまで上げた。
ひゅんと風きり音が鳴ると、
 




ゴキンッ





「うわああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
腕を押さえながらその場でのたうちまわる妹紅。
苦しむ妹紅にとどめが出された。

「とりあえず、一回目のゲームオーバーね」
放射されたレーザーが無防備な妹紅の体を貫通した。

………………

「ぶっ殺す!!!」
再度復活した妹紅は鬼も裸足で逃げ出さんというような形相で弾幕を展開した。

「不滅『フェニックスの尾』」
おびただしい量の火の玉が召喚された。
これには真冬の空といえども団扇が欲しくなるだろう。
団扇で涼めるかどうかは置いといて。

「白砲『ホワイトキャノン』」
レティも次のスペルカードを宣言した。
拳一個分入るかの様な大きさの空間を残して両方の掌を閉じた。
その空間内でチカチカと、宝石が光を反射するように輝いている何かがうごめいていた。
飛んでくる火の玉の方に向いている体を少しひねると、うごめく何かがより一層が輝いた。

距離にして一メートル。
体は熱気に当てられ、寒気を操るレティの周りには水蒸気が発生していた。
徐々に近づく多量の火の玉。
もう目の前は炎をしか見えない。
とてもじゃないが一つ一つ弾が見えないので大きな塊にしか見えない。
けれど各々には気持ちは篭っている。
殺気と言う気持ちが。
まさに死人を彼岸へ送る火葬のようであった。

けれどレティはそれに動じていない。
寧ろいつもどおり涼しい顔をしていた。
掌内の何かだけが慌しく動いていた。
無機質な顔に笑顔が彩られる。

「これで二回目よ。不滅の火の鳥さん」
開かれた掌が炎の方へかざされると、火葬のどてっ腹を打ち抜く大きな閃光が疾走していった。

下から見ていた慧音にはオーロラのような輝きで、あの恋の魔法のような形の閃光に見えた。
そして妹紅にとって正面から向かってきた閃光は、ただ丸くて眩しい何かとしか認識できなかった。
光を浴びた妹紅は不思議と痛みを感じなかった。
しかし先ほどと同じような恐怖が蘇ってくる。
妹紅からだがまた凍り付いてきたのだ。

「ちく…しょう……」
その言葉を最後に不死鳥の羽さえも凍りついた妹紅の氷像が出来た。
その表情は最後と同じ言葉に相応しかった。



………
……




困ったことになったと慧音は考えていた。
レティは強いというのは認識していた。
そして妹紅はそれ以上に強いと認識していた。
これは長年付き添ったからという意味での色眼鏡抜きでの評価である。
妹紅は凍ったと言うだけでは死んでいない。
けれど戦闘不能になったのは事実である。

(私が出ても良いが正直………しかも満月じゃないしな)
現状を念頭に置き、限りなく好条件を探っていた。
決して慧音は冷たい人物ではないことは先に断っておく。
今もレティに対してはらわたが煮えくりかえっている。
けれども冷静に配慮しようとした。

ちらっと後ろを振り向くと静かになった文は俯いたまま動かない。
阿求も文を心配して傍に居る。
顔を前に戻して、再度考え始めた。

(文は動けず、阿求殿は戦えない。だとしたら動くのは得策ではないな)
動くとしたらこのスペルカードを解除しないといけない。
もうひとつ結界代わりのスペルカードはあるが、それを使用したまま戦えば他のスペルカードが使えず、また持続もさせないといけないので効率が悪い。

(どうしたものか)
結局、手が出せないので堂々巡りになっていた。
その時、肩に何かが触れたので後ろを振り向いた。

「文?」
手を慧音の肩に置いたまま、俯いている文が後ろにいた。

「どうした?」
「慧音さん、阿求さん達を守れるスペルカードはありますか?」
「あ、ああ」
「ではそれで守っていてください」
俯いているので表情が分かりにくかった。

「お前はどうする気だ?」
何をするつもりでいるかは察することは出来たが、確認のため慧音は尋ねた。

「私が出ます。そして私が倒してきます」
空中から慧音たちのほうを見ていたレティを文は睨んだ。
その顔は殺すとかそういった物騒な表情ではなかった。
ただ戦いに挑む勇気に満ちていた、というような表情であった。
慧音は文の表情に心強さを感じた。

「わかった」
そう言って慧音はスペルを解除した。
バサッと翼を広げ、一つの羽ばたきで空高くへ文は舞い上がっていった。

「虚史『幻想郷伝説』」
周囲に仕掛けが配置され今度は三人を守るように光の器に包まれた。

「頼んだぞ」
もう聞こえないところまで飛んでいった文に声を掛けた。
それでも文の耳には届いたのか、翼を大きく羽ばたかせた。



………
……




「…次は貴方の番かしら?」
ぐんぐんと上昇してくる文を見下ろしながら彼女に尋ねた。

「ええ、そうです」
「そ。それじゃ早速始めましょうか?」
「その前にひとつ。妖怪の山の襲撃の件聞かせてもらえますよね?」
いつもの文であれば選択肢を設けてでの質問ではあるが、今回はそうではない尋ね方である。
とは言え妖怪の山での騒動、大切な部下である椛への仕打ち…
それらを考慮すればこれも仕方ないというのはレティも感じていた。
けれどそれにしてはレティは文に違和感を感じていた。

「別に構わないけど、貴方妙に落ち着いていないかしら?」
「そうですね。私もそう思いますよ」
「どうしてかしら?」
「…たぶん怒りに任せていては貴方に勝てないからだと、どこかで思っているからだと思います」
「………………」
「確実に貴方を叩きのめす事が出来るのなら冷静でいましょう」
「ぷ、あははははは……」
予想外の答えに文の答えを聞いたレティは堪えきれずに大声で笑ってしまった。
しかしそれは決して馬鹿にした笑いではない。
真面目な顔して、答えがなかなか怖いことを言っている文のギャップに可笑しくて仕方なかったのだ。

「あははははは。貴方最高よ。どの天狗よりも笑える冗談だわ」
「それはどうも」
「そんな貴方に誠意を持ってしっかりと答えてあげるわ。襲った理由を、ね」
目じりに溜まった涙を指でふき取ってレティは言葉を繋げた。

「先ずね、はっきり言えば私は妖怪の山が嫌いなの。だから山にいる天狗を襲った。残念なことに河童には会えなかったけどね」
レティは肩をすかしながら軽くため息をついた。

「次にあの子を苛めた理由だけど、私の邪魔をしたからよ」
「邪魔、ですか?」
「ええ。久しぶりにね、妖怪の山を登ろうと思ったの。最初は湖に行こうと思ったのにね。変よね。でね、誰も踏み入れてなかったから足跡を付けながら登ってたら、途中であの子が通せんぼしてきたわ。だからちょっとお灸をすえてやったわ」
「それだけですか?」
「それだけよ」
にべもなく言ったレティに文は神妙な顔をしていた。
努めて真面目に。
いつもの明るい笑顔が映える文とは違うので人によっては戸惑いも覚えるだろう。
さて、どうして来るだろうかとレティは腕を軽く組みながら様子を見ていると、

「理由は分かりました。なるほど椛も貴方の邪魔をしたことには不注意がありましたね」
「ええ……」
抑揚のない答え、そして行動の現れなさにレティは注意していた。

「けれど貴方はただの気まぐれで山に侵入した。それに山が嫌いというのは貴方の勝手であって、私たちには関係ないことです。それを理由として押し付けるのはいかがかと思います」
「…………」
「だからレティさん…」
「!」
一瞬、瞬きをした間に目の前にいたはずの文がいなくなったのでレティは驚いた。
そして首元に何かが当てられていることに気づいた。

「ご存知ですよね?天狗は排他的で…」
「仲間意識が高い?」
「正解です」
文の抑揚のない答えがレティのおかれている今の状態の悪さを感じさせた。

「…天狗は噂どおりの速さを持っているのね。それなら一欠伸で本当に幻想郷の端から端へ行けそうね」
「一欠伸?冗談やめてください……」
ぐっと力が入ったのを首越しに感じたレティは

「私なら一呼吸でいけますよ」
瞬時に防御に入った。

「旋風『鳥居つむじ風』」
かまいたちのような旋風が文の目の前で発生した。
もしレティが一瞬でも判断が遅れていたら、風によって切り裂かれていただろう。

「…っ、危ないわね」
「惜しかったですよ」
ヒヤリとしたのも束の間、直ぐに文は新たな旋風を発生させた。
連続的な弾幕攻撃にレティも対抗するようにスペルカードを宣言した。

「氷河『グレイシャルベルト』」
レティの周りに環が発生した。
それは地面と水平に、垂直にと青白いのが二つ。
そこからはピアーシングレイのようなレーザーは放射されなかった。

「そのスペルカード、新しく作ったのですか?」
「いえ、違うわ。これはスペルカードルールが作られた頃にしていたものよ。でも、『ごっこ』には向かないからずいぶんと使ってなかったわ」
「どうして向かないのですか?」
「そうね、答えても良いけど、自分で確かめてみるといいわ」
レティは文とある程度距離を開けるとおびただしい量の弾幕を打ち出した。
文も負けじと弾幕を繰り出す。
そうして繰り返すうち、文の弾幕が何度か命中はした。
けれどレティには全くダメージがなかった。

「そのスペル、もしかして防御用ですか?」
「う~ん、若干正解。答えは弾幕吸収よ」
そう言って、尚弾幕が打ち出されてくる。
初期の頃に比べると量が増えてきたことに気づいた文は、急遽弾幕を出さなくなった。

「あら、どうしたの?」
「そのスペル私の弾幕を吸収してカウンターしてますか?」
「正解♪よく分かったわね。もう少しで貴方、手遅れだったわよ」
「なるほど、『ごっこ』には向きませんね」
レティは攻撃に専念し、飛んできた相手の攻撃さえ自分の攻撃になる。
これでは相手のほうはたまったものではない。
とは言え、今はそういうスペルもスペルカードのルールに適用されている。
文だってその類のスペルカードも持っている。
おそらく初期の頃は、それはルール外だったのかもしれない。

「でも今は、そういうスペルもありですよ?」
「そうなの?時代は変わったわね」
なおも楽しそうにレティは弾幕を打ち続け、文は回避に専念した。
弾幕の量の関係から隙間に限りがあるので、文はきょろきょろと首を回しながら次へ次へと場所を移していた。



ある程度時間が経ち、



「あら、終わっちゃったわね」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
残念そうに嘆くレティとは対象に文は疲れが激しいのか、肩で息をしていた。

(こんなの無しですよ。時間が異常に長いです。こんなの本当に『ごっこ』じゃないですよ。おかしいんじゃないですか、あの人)
内心、先の弾幕にけちをつけまくっていた。

「あ、貴方が使っているスペルカードは、最初のを除いてルールが初期の頃のばかりですか?」
「そうね、今日はそれが多いわね。というか残り全部ね」
「…そうですか」
文は余計に疲れを感じてきた。
文自身、以前色々な人、妖怪などに弾幕ごっこを吹っかけて写真に収めたことがあった。
もちろんその中にはこのレティも含まれている。
けれどそのときはそのようなスペルカードを使っていなかった。
なので残りのレティのスペルカードは全て初見になってしまう。
そうなってくるとレティを倒すことに自信がなくなってきた。

(けれど負けるわけにはいかない、絶対に!)
文はチラッと下を見た。
そこにはまだ目が覚めていない椛が阿求に抱えられて、ぐったりしている。
それを見て文はまたやる気が沸いてきた。
絶対に鼻を明かしてやると再燃した。

扇子を胸元に構え、

「風符『風神一扇』」
それを水平に薙いだ。
すると強烈な突風が起こり、レティに襲い掛かる。
もちろん、レティは直ぐに回避しようとしたが上手く動けないことに気づいた。

「!これは……」
そう言うや、弾幕を張りダメージの軽減を図った。
突風がレティを通り抜けるとなかなかの威力だったのか、着ていた服が切れ切れになっていた。

「……やるわね」
「天狗の風からは逃げれませんよ。もう薙いだときには手遅れです」
あの突風は自然に発生したものとは訳が違うようである。
天狗の扇子は一振りで家をなぎ倒すと言われているほど威力に長け、また範囲も広いのである。
レティと文の距離はおよそ十メートル。
それなりに離れているのに既にレティに影響を与えていたのだから、かなりの危険さをはらんでいる。

「さあ、まだいきますよ」
第二陣の突風が起こり、これにもレティは直ぐに反応が出来なかった。

(範囲、威力、射程。どれも素晴らしいわね)
だからこそ苛め甲斐がある、そう思っていた。

レティの顔に笑顔が咲いていた。
それは雪の結晶の様に綺麗で冷たそうに…

「寒冷『アイシクルエンド』」
目を伏せ、宣言した。
レティは手を上げ、まるでオーケストラの指揮者の如く手を振るっていた。
柔らかくそれでいて滑らかに動かされる手の動きに、文は攻撃をすることさえ頭の中から消えていた。
見とれて数秒、文ははっとなり、レティの弾幕に備えたが何も変化がおきていないことに怪しんだ。
なおも注意深く観察していると、ぴたりと彼女の手は止まった。
ゆっくりと目を開けると、悠然とした顔で文を見据えていた。

「どうして攻撃してこなかったのかしら?」
「無防備なところに弾幕をはってもそれは卑怯に値するからです」
つい見とれていました、とは流石に言えなかった。
そう、とレティは言葉短に納得した。

「どんなスペルなんですか?」
「自分で感じてみなさい」
さっきみたいに教えてはくれなかった。
とは言え、本当に何も変化がないのでどうすればよいか判断が付きにくかった。
そこで文はまた距離をあけ、より遠距離から攻撃することを試みた。
離れていればある程度は対処するのに判断の余裕が生まれるからだろうと考えたからである。
しかしそれは間違いであった。

ぱきぱきと霜か氷を踏んだような音が周りから聞こえてきた。
文はレティのスペルが始まったのだと思い、周りを見渡すが何も変化は見当たらない。
音だけが響くこの空間が不気味になり、取り合えずスペルブレイクを狙おうと扇子を薙いだ。
するとどうだろうか。
今度は先ほどとは違い、ガラスが割れるような音が連続して聞こえるのだ。
かなりのボリューム音に文は思わず耳をふさいだ。
そのままレティの方を見ていると、なんとさっきまでは避けれず防御に専念していた彼女がすいっと避けたではないか。
これには文も驚いた。
確かに距離は離れたので向こうも避けやすくはなるだろう。
しかしこのスペルにはもうひとつ、武器があった。

それは最初の構えである。
文は扇子を凪ぐ前に、一度勢いを付けるためにそれを大きく『引く』のである。
そうすることで相手にとって強烈な『追い風』が発生し、文のほうへ吸い込まれないように抗う。
すると文が扇子を薙いだ頃には相手は、『追い風』を抗っている最中なので回避が出来ない。
いわば絶対命中のスペルなのである。
そして前述したようにこの扇子から繰り出される風は、かなりの威力を伴う。
これには中途半端な射程距離は無関係なぐらいだ。

話を戻そう。
要するにレティは絶対命中のスペルを避けたのだ。
だから文は驚いている。
しかし驚いている暇はなかった。
なおもこの空間には不気味の音が響いている。
しかしガラスが割れる音は止んだのか聞こえない。

(どうやら私のスペルであの音が反応するようですね)
おそらくこの勘は当たっているだろう。
なら最初から聞こえるこの音はなんなのか。
文はレティの周りを旋回しながら弾幕を放った。
やはり聞こえるのはあのガラスの割れる音。
そしてレティはやはり避けてしまっている。

流石に文もこの状況が耐え切れなくなり、自分でスペルを解除した。
そして新たなスペルカードを握る。
それは文の存在を具現するかのようなスペルカードであった。

「あら突風は止めたの?」
「ええ、どうやら貴方には当たりそうにもないので」

頭上にカードを掲げ宣言する。

「『無双風神』」
文は大きく翼を広げた。
まるで大地を闇で覆わんと如く、広々と。
そして一瞬であった。
目にも止まらない音速でレティめがけて駆けていった。

「!」
レティは安全だと思う方に『勘』で避けた。
どうやらレティにも目には止まっていないようだ。
徐々にレティにダメージが加算されてきた。
避けてはいても完全には避けれていないようだ。
顔も心なしか笑顔がなくなってきた。

いや、また笑顔になってきた。
うっすらと笑うその表情は背筋を凍らせるような、見ていて良い気分がしないようなものであった。
そして文の体に変化が現れ始めた。

(どういうこと!?まだ始めたばかりだというのに、体が動かない!?)
わずか、いや最初に比べかなりスピードが落ちてきている。
それは遠くで下から見ていた慧音にも分かった。


「どういうことだ、これは?」
慧音も驚き、何かレティが仕掛けたのだと考え始めた。

「怪しいといえば、先ほどの音だな」
文が駆ける度にガラスが割れる音が鳴り響く。
と同時に最初の音が聞こえない。
そこで慧音は自分の張ったスペルの擬似結界から抜け出した。

「あ、慧音さん?」
「大丈夫だ。少し様子を見てくるだけだ。阿求殿はその天狗の様子を見ていてください」
「分かりました、気をつけてくださいね」
阿求は心配そうに慧音を見送った。
そして二人の弾幕近くで音の正体を調べ始めた。

「ここら辺りから聞こえるが……うん?」
慧音は注意深く耳を澄ました。
よく聞いてみるとガラスが割れる音に重ねて小さい音ながら、最初の音が聞こえるではないか。

「一体何なのだ、この音は?」
疑問に思いながらよく耳を澄ましていると、何かちかっと光が反射するようなものが見えた。
それに手を伸ばしてみると、

「雪の結晶?」
慧音は一瞬、首をかしげると直ぐにはっとなって気づいた。

「まずい!これは…」
慧音は文のほうに目を向け、力一杯叫んだ。

「止まれえええぇぇ、文あああぁぁぁ!!!逃げろおおおぉぉぉ!!!」


文は聞こえていた。
慧音の声が聞こえていた。
だから言われた通り逃げようとした。
しかし不可能であった。

「くっ…………うっ…………」
文はその場で動けずにいた。
なんと文の体一面に氷が付いていたのだ。

少し前に自分の腕に氷が付いていることに気づいて、あわててレティとの距離を開けようとしたが手遅れであった。

「もう少し早く気づいていれば、大丈夫だったのにね?」
そこにはニコニコとしたレティの顔があった。

「もう少し観察したほうが良かったわね」
レティは文のあごを軽く持ち上げ、無理やり目と目を合わせた。
ナイフのような怜悧な目を覗かせている彼女に文は恐怖を覚え始めた。
いや、正確には不気味な音が鳴り響いているときには、既に彼女に対して恐怖を感じていた。

「…音の正体、分かったかしら?」
「…………」
「しゃべれるでしょ、口は凍っていないのだから」
「空間が、凍る音だったんですよね?」
「半分正解」
それでも答えを聞けて満足したのか、嬉しそうな顔を覗かせている。

「実は、この空間にある『あるもの』が凍っていた音なのよ」
「……水蒸気、ですか?」
「正解♪」
完全な回答を聞けて、先ほど以上に嬉しそうである。
まるで親が子供に出した問題の答えに満足したような表情である。

「貴方はそんな中を無謀にも縦横無尽に駆け回っていたわけ。まるで自殺のようね」
「…………」
「『無双風神』とは名前負けしてるわね」
何も言い返すことが出来ず、ただ睨むしか出来なかった。
そのことにレティは刺激されたのか、更に文を貶めていった。

「あなたのそのスペル、はっきり言って不完全ね。とてもじゃないけど天魔とは比べ物にならないわ」
「!天魔様をご存知なのですか?」
「ええ。元は天魔のものなんでしょ?」
「………はい」
「だったら返してあげなさい、貴方では役不足もいいところだわ。天魔が使ってこそ『無双風神』というのが成立するものよ」
「くっ………」
屈辱に歪んだ文の顔は見ていて、不憫に思えた。
それは誰しもそう感じであろう。
けれどこの妖怪は違う。
妖怪の山を、河童を、天狗を嫌うレティには愉悦の一言に尽きた。

「でも、楽しかったわ。他の天狗よりか、ね」
そういった途端、急に文に纏わりついていた氷の侵食が広がり始めた。

「大丈夫。呼吸は出来るようにしてあげる。それにここから落ちても雪が貴方を受け止めてくれるでしょう」
その言葉を最後に文は意識を失った。
空中静止が出来なくなった氷解はゆっくりと落下を始め、地面に迫ろうとしていた。



………
……




「で、貴方が邪魔をするというわけね」
レティが見下ろした先には、氷の鎧が無くなった文を抱えている慧音がいた。

「そうなるな」
「食べたのね」
「ああ」
何を、とは聞かなかった。

「少し待っていろ」
くるりと踵を返し、慧音は阿求の元へ戻っていった。
そういわれたレティはおとなしく待つことにした。

「慧音さん!」
「文を頼む」
「分かりました。けど…」
「大丈夫だ。何もかもな」
それを聞いて阿求はぽろぽろと涙がこぼれ始めた。
責任を感じ始めたのだ。
今回の件、阿求が言い出さなければ、妹紅や文はこんなことにはならなかったのだと。
そう思うと胸が苦しくなり、居ても経ってもいられずに悲しくなった。
自分が戦えれば…
そう思うが、所詮は『たられば』であった。

「阿求殿、貴方が悲しむ必要はない」
「えぐっ………ひっく…」
「これは私たちの総意の意志なのだ。思い出して欲しい。私たちが心から貴方に賛同したことを!」
「ぐすっ……………」
「だから貴方はこう言えば良いのだ『………』と」
「………」
阿求は俯いたまま微動だにしない。
慧音はそれを見て微笑み、離れていった。
その時、

「スペルを解除してください。そしてお願いです。『負けないで下さい』」
「!任せろ!」
阿求の力強い声に慧音は発奮し、力強く地面を蹴ってのうえに上った。

……………

「お話は済んだかしら?」
「十分にな」
「そ。それは何より」
お互い睨み合っては居なかった。
ただ、相手の目の奥の何かを覗きあっていた。

「前もっていっておくけど……」
「私では相手にならないと?」
「?!そうよ。全くもってね」
「自覚はしてるさ。妹紅のような不死や、文のような素早さみたいな特殊性はないな」
「じゃあ、どうしてくるのかしら?あの、蓬莱人のように友達が泣いたからという理由かしら?」
「そうだ」
「そ」
そっけなく答えたレティは少し肩をすくめた。
慧音は堂々とした構えを解かずに、まだ見ていた。

「…分かったわ。相手してあげる」
そう言ってレティは牽制程度の弾幕を放った。
瞬時に慧音は回避し、こちらも使い魔を召喚して弾幕を放った。

(計算ではあと二、三といったところかな)
慧音はレティのスペルカードの数を数えていた。
一人が持てるスペルカードには限界がある。
それは十枚である。
それ以上もつと体が持たずに最悪、寿命が全うするからだといわれている。
例えば、『大妖怪』に当てはまると認定した、八雲 紫、フランドール=スカーレットなども十枚までしかストックしてない。
唯一例外なのが、妹紅である。
彼女は最高で十一枚を持っている。
これは不死の能力が関係しているので、十一枚も使えるらしいが、それでも最後のはあまり使いたくないらしく、極力使わない。
少し脱線したがそこから逆算すると、

(今日だけで既存のスペルを三つ、知られていなかったスペルが四つ、もし妖怪の山を襲うときに一枚を使っていたとして、残り二つ)
慧音は戦いながらも計算していた。
けれど残り二つとしても必死なことは避けられない。
思い出していただきたい。
レティは文との戦闘でこんな事を言っていた。

『そうね、今日はそれが多いわね。というか残り全部ね』

即ち残り二つのスペルカードは未知のものと断定することが出来る。
厄介だと考えていた。
しかし負けるわけにはいかなかった。

「国符『三種の神器 玉』」
慧音の手によって生み出されたのは勾玉の形をした弾幕であった。
それを数枚重ね両肩に乗せた。
それはまるで砲筒のようである。

砲筒を模した勾玉から唸る音が聞こえる。
チカチカと勾玉の穴の先から何かが光っていた。

「いけぇぇぇええええ!」
言葉と同時に砲筒から光が発射された。
それに驚いたレティは防御の姿勢にはいる。




ズドン




重い音が辺り一面に聞こえ、空気も震えた。
下に居た阿求は耳と目をふさいで小さくなっていた。
撃たれたレティの周りは黒い煙で覆われていた。
これではどんな屈強な妖怪でもひとたまりもないのではないかという威力であった。

「いったいわね~」
しかし中の妖怪は少し服が破れただけで平然としていた。

「やってくれるじゃない、あのワーハク…」
タク、と続けたかったのだろうが途中で言葉を遮り、上を見上げた。
するとそこには剣を頭上に振り上げた慧音が直ぐ傍に居た。

「はっぁあ!」
気合一閃。
これまでだれもレティにまともなダメージを与える事が出来なかった。
しかし何も自分で特殊性がないといっていた慧音が、レティの妖怪の山の出来事から通して初めてまともなダメージを与える事が出来た。
レティは切り裂かれた左肩を押さえ、慧音を直視した。

「貴方、直ぐにあのスペルを解除したのね」
「ああ。あれではまともにダメージを与えることは出来ないことはわかっていた。だから煙幕程度に使わせてもらったのだ」
「その割には何枚も重ねていたじゃない?力をためるためでしょう?」
「そうだ。まぁ、それでもあれでダメージを与えることが出来れば、儲け程度としか考えていなかったがな」
慧音の手に握られているのは「国符『三種の神器 剣』」。
この剣が本命で、あくまで牽制のために先の勾玉が使われたのだ。
もったいない気もするがその分、効果はあったようだ。
 
「良い剣ね、それ」
「三種の神器だからな」
「私も真似ようかしら」
そう言ってレティは左肩を押さえていた右手をどかした。
そこには氷付けにされた肩が服からむき出しになっていた。
どうやらこうすることで無理やり止血したのだろう。
人間にはまねできない所業だ。

「真似る?」
「そ」
レティの右手には一枚のスペルカードが握られていた。
そしてそこに幾筋の風が渦巻いているのが見えた。

(冷気、いや寒気が集まっているのか?)
慧音は注意深く様子を見ていた。

「集氷『フロストランス』」
レティの右手の延長線上に青い、まるで晴れの日の空のように青いツララのような槍が生み出されていた。
ひゅんと軽く振り、慧音の心臓めがけて槍を突き出してきた。
慧音は慌てて払うが、続けざまに繰り出されるレティの攻撃に後退を余儀なくされた。
十回程打ち合い、お互いの動きが止まった。

「接近戦が出来たんだな?」
「ええ。嗜み程度だけど」
「これで嗜みか」
今までのレティのスペルは遠距離攻撃に適したものであった。
なので接近戦に持ち込めば勝機が見えてくると思った。
そういう理由もあって、直ぐに勾玉のスペルを解除したのである。
しかしこの妖怪は慧音の思惑通りに進んでくれないらしい。

「まいったな」
「あら、降参?」
「まさか。続行に決まってる」
そう言って慧音は一歩踏み込み、横からフルスイングをした。
レティは避けずに槍で応戦してくる。

共に武器での戦いは本職とはしてないが、なかなか見ごたえのある応酬である。
素人目から見ても、慧音の上下左右からの猛進やレティの隙を見つけての澄ました一撃などは手に汗を握らされる。
けれど逆に言えばそこから何も変化が訪れない。
そこで慧音は空中から地面に向かって急降下した。
レティも逃すまいと追いかける。
先に着いた慧音はレティの方に向き剣を地面に突き刺した。

「!」
レティは何が来るのかを察したのか、地面すれすれで急ブレーキをかけた。
すると本来ならそこに居るはずだった彼女の場所に剣が生えてきたのであった。
もう少し遅ければ串刺しになっていたであろう。

「ちっ」
「甘いわね」
今度はレティの番なのか槍を地面に刺し、土を抉る様に振りぬいた。
すると無数のツララの波が慧音に向かって直進してきた。
これには空中に飛ぶことで避けたが、

「だから甘いって言ってるでしょ!」
なんと慧音の足元に来たツララが巨大化し彼女を飲み込んでしまった。

「ぐっ!?」
身動きがとれず上手く剣も振るうことが出来ない。

「どうかしら、氷の棺の感想は?」
「冷たくて仕方ないな」
「そう。でもお似合いよ」
いつの間にか上空に飛び上がっていたレティはゆっくりと慧音に近づく。
そして槍で突き刺せるという距離まで近づいたところで、

「はぁっ!」
慧音は唯一の武器である剣をレティめがけて投げたのであった。
しかし狙い空しく、剣は上空へと飛んでいってしまった。

「あんな攻撃が当たるわけないでしょう?なめているのかしら?」
「当たると思ったんだがな」
「ふざけないことね」
レティは呆れたのか無機質な目で慧音を見下していた。
槍を構え、氷の棺から露出している右腕の方に突き出した。

「うぐっ!?」
「先ずは手癖の悪いその手からね」
「ふぅ………ふぅ…………ふっ、こんなところで良かったのか?」
「ええ。じっくりと楽しまないと面白くないでしょ?徐々に痛めつけてあげる。あ、でも殺さないから安心してね♪」
「そんな事言っていると、しっぺ返しが帰って来ても知らんぞ?」
「ご忠告ありがとう。でも貴方にはもう何も出来ないでしょ、しゃべることしか」
「そうだな……今はしゃべるだけだな」
レティは次の目標である、左足を穿とうとした。
そうあと少し、距離にして30センチメートル程度である。
ほんの少し腕を前に突き出すだけで、槍は青から赤に変わる事が出来た。
けれどそれは叶わなかった。
なぜなら逆にレティが右肩を穿たれたのであった。

「うぁあああ!?」
痛みが走りレティは呻いた。
彼女の右肩を穿ったもの、それは先ほど見当違いの方に投げられた「三種の神器 剣」であった。

「ど、どういうことなの?」
慧音を睨み、レティは聞いた。
ここで初めてレティは怒りの顔を見せたのであった。

「ほう。おまえでもそんな顔をするのだな」
「聞いているのは私のほうよ?答えなさい!」
「なに、簡単なことだ。さっき投げた剣が丁度お前のところに落ちてきたというだけだ」
「……狙っていたの?」
「当然。言っただろう『当たると思ったんだがな』ってね」
さもあらんと言わんように慧音は説明した。
気づかれずに、しかも上手く当てるのである。
こんなのは言って簡単に出来るわけがない。
レティは心の中で策士なやつだと思った。

「さて、ここから出してもらうぞ?」
「えっ?」
慧音を閉じ込めていた氷の棺が突然消えた。

「……ホント便利ね、貴方の能力」
「私もつくづくそう思うよ」
「嫌なやつ。今までの中でも指折りの厄介さよ、貴方は」
「そう言ってもらえると気分がいいもんだな。だが残念ながらもう歴史喰いは出来ないな」
「どうして?」
「これ以上喰うとお腹が冷えて仕方ない」
「ぷっ。なかなか面白いわね貴方。でもそんなこと言ってもいいの?」
「ああ、問題ない」
言うや慧音は一枚のスペルカードをレティに見せ付けるように取り出した。

「これで終わらせる予定だからな」
「そ。なら私も最後のスペルカード出してあげる」
レティの方も一枚のスペルカードを取り出した。

「歴史の重みに潰されるといい。冬の妖怪!」
「氷の世界で眠りなさい。ワーハクタク!」

「国体『三種の神器 郷』」
「冬幻郷『クリスタライズシルバー』」
慧音を中心に地面から人里が筍みたいに生えてきた。
もちろんそれは幻である。
それにしては規模が大きい。
よほど力をつぎ込んだのか、それは慧音の住んでいる人里の一回り大きい規模にまで拡大された。

対するレティは空中にのぼり両手を掲げ、氷を作り出した。
いや、氷といっても拳とかのような大きさではない。
有体に言えば、『家』と言えば良いのだろうか。
一般的に四人が暮らせそうなぐらいの大きさの氷を作り出したのである。

「さあ。いくわよ」
「来るのか?」
さっきまでのような氷のような冷たい笑顔であったり、子供に対する母親のような笑顔ではなく、向日葵と言う例えが相応しい楽しそうな笑顔であった。
慧音のほうも乗ってきたのか、理知的な、冷静な顔ではなく楽しそうな顔をしている。

勢いを溜め、投げ出された氷塊は人里めがけて飛んできた。
着地と同時に強烈な炸裂音がまわりに響いた。
ここが何もない雪原で良かったと思う。
そうでなければ騒音であったり、氷塊の破片による雨霰が周りに相当な被害をもたらしていたであろう。

「どう、私のスペルは?」
「ああ、たいしたものだ。お陰で里の十分の一が吹き飛んでしまったよ」
「そ。あれで十分の一ね」
レティは確認した後、また氷塊の作成を始めた。
今度は先ほどの大きさを二個、精製した。
右手を、続いて左手を振り下ろし人里を潰していく。
慧音のほうは人里を作ったまま、何も行動に移さない。

「どうして何もしないのかしら?」
「これはそういうスペルだからさ。ただお前のスペルを耐える。私の力が尽きるか、お前の力が尽きるか。どっちになるだろうな」
「ふふっ。そんなの決まっているじゃない」
また強烈な爆発と氷が砕ける音が辺りの静寂を壊す。

「貴方に決まっているわ」
「そう上手くはいかないさ。何せ歴史がそれを語っているのだからな」
「なら私が歴史を塗り替えてあげる」
また投げつけられた氷塊によって、既に元の人里の三分の一にまで削られていた。
慧音は片膝を着き、地面に手を着けることで集中し、再度地面から人里を生やした。
それでも最初に比べると、面積は狭い。
慧音の力もだいぶ落ちてきているようだ。
人里を維持するだけでも、息をあげているのだから生やすことなんて余計に疲れるのだろう。

本来、人里を作るとは、即ち歴史を作ることに繋がる。
それは『白沢』時にすることであって『人間』時にするものではない。
けれど慧音は最後の力を振り絞り、無理を可能にしていた。

(まだ…だ。負けるわけにはいかない)
負けないという信念が今の彼女を支えているのであった。
それに敬意を表したのか、レティは一度間をおき、慧音に話しかけた。

「ワーハクタク。貴方は本当に素晴らしい能力を持っているわ。だから最後のは強烈よ。しっかりと受け止めなさい」
「さて、それはどうかな」
「ふふっ、まだ何か考えがあるのかしら?」
「それはお前が攻撃してみれば分かることさ」
「わかったわ。なら……」
頭上に掲げたレティの両の手からはみるみると氷塊が精製されていった。
その大きさは最初の二、三倍は軽くあるだろう。
それを創る能力があるこの冬の妖怪はまさしく『大妖怪』に相応しかった。

「…潰してみれば分かることね!」
匙は投げられた。
質量の割にはゆっくりと迫ってきた事が慧音により恐怖を感じさせた。
そして邂逅。
人里が氷塊に侵食され、徐々に消えていく。
慧音はそれを耐えるだけであった。
また一つ、民家が失い、広場がなくなり、また民家が失う。
人里の守護者として擬似的な人里であれ、見ていて気分の良いものではなかった。
ゆっくりと確実に迫ってくる氷塊を見て慧音は目を瞑った。

「間に合わなかったか」
呟いた一言は誰に対して発せられたのだろうか。

レティから見て確実に潰されたと確信していた。
けれどなぜか楽観は出来なかった。
なので力はほぼ尽きてはいたが警戒だけは怠らなかった。

……………

レティは気づいてしまった。
警戒を怠っていなくて良かった。
と同時にこれはもう無理だと思った。
氷塊が徐々に蒸発していた。
寒空の中、水蒸気が凍ってもおかしくない気温だというのに全然凍ってくれない。

なぜなら、

「蓬莱『凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-』」
「風神『風神木の葉隠れ』」
片や凍りづけに、片や失神していたはずの妹紅と文がスペルカードを放っていたからである。

「大丈夫か、慧音!?」
「もう安心してください。私たちが相手をしますので」
「間に合ったか。とり合えず感謝する」
慧音は妹紅と文が目覚めるのを待っていた。
レティを攻撃するのならまだスペルカードはあったしこれ以上に攻撃に適していたものがあった。
けれどあえてこれを選択したのは『役割』のためである。
覚えているだろうか?
レティの調査のため、それぞれが役割を決めたとき

『それじゃ、もう一度確認するけど基本的には私が相手する。やばくなったら慧音、頼むよ』

その時から慧音はあくまでも妹紅を主体にしようと決めていたのだ。
そして、文の場合も

『私が出ます。そして私が倒してきます』

こう宣言していたのだ。
なら慧音が倒す必要はない。

あくまでも慧音はこの二人の復活のために時間を稼いでいたのに過ぎなかったのだ。

「さあて、文。あの氷のど真ん中をぶち抜くぞ!」
「任せてください!」
妹紅と文は呼吸を合わせ、タイミングを合わせ氷塊を消そうとしていた。

火克木
木は火を燃やすための材料となり、火を盛り立てる。
故に木は火に弱いと言う意味だ。
更に風は火を雄雄しく煽る。
二人はそれを考えこのスペルカードを選んだのであった。
そしてそれは予想通りの成果を挙げている。
徐々に氷塊の中心は薄くなり、突き破らんとしていた。

「相性が悪かったな、レティ」
聞こえるはずがないであろう、慧音が呟いた言葉は文の風に乗り、爆炎を巻き込んだ。
ついに中心を突き破り、その勢いのままレティに向かっていった。

「その通りね」
その一言を最後にレティは炎に包まれ、この弾幕ごっこは幕を閉じた。



………
……




「……ふぅ、やっと倒せたか」
「疲れましたね」
「とにかく、お疲れだったな」
三人が健闘をたたえながら笑っていた。
ちょうどそこへ、

「み、みなさ~ん……」
「うん?あ、阿求!?」
向こうからやってきた阿求に妹紅は驚いた。
降り積もった雪原の中を必死に歩いて向かってきたのだ。
しかも椛を抱えてである。

「へぶっ!?」
「うわっ……雪の中に突っ込んだよ」
「いや、あれは転んだんだ」
「それくらい分かってよ」
「待っててください、今行きますよ~」
そう言って文は阿求のもとへ駆けていった。
倒れている阿求を起こし、椛と阿求を抱え二人のところへ戻ってきた。
華奢な体の割には文は意外と力持ちである。

「はい、お待ちどう様」
「あ、ありがとうございます」
「大丈夫だったかい?」
「だ、大丈夫です。それより皆さんの方は如何ですか?」
「う~ん、私は凍傷に打ち身、擦り傷……」
「同じく凍傷に疲労後、右手が刺されたな」
「私は腕が切られて、2回死んだな」
「わ、わかりました。分かりましたから、もう言わなくて結構です!」
「何だ、聞いたのは阿求じゃないか?」
三人は阿求を見て笑い出した。
対する阿求の方は恥ずかしくなり、顔が真っ赤になり俯いてしまった。

「もう良いかしら?」
「あ、そう言えば…」
そこにはぼろぼろになったレティがこちらの様子を伺っていた。
ほっとかれていたことに別段気を悪くしていたわけではないが、そろそろ入りたかったのかもしれない。

「どうだったかしら、私の強さは?貴方たちの言う『大妖怪』に入りそうなのかしら?」
「あ、は、はい、おそらくは……けれどこの後、この四人でまた話し合いをしますので、それで正式に決定する予定です」
「そ。まあ、入らなかったらそれはそれで別にどうでも良いわ」
「そうなのですか?」
「ええ。私そういうのに興味がないからね」
穏やかな微笑を絶やさず、阿求に答えた。

「では、何故私たちの提案に乗ってくれたのですか?」
「そうね、それはそこに天狗が居たからよ」
「私ですか?」
突然レティに指名された文は驚いた。
先ほどとは違い、笑みはあるものの目だけが鋭くなっているレティに少し気圧されながらも尋ねてみた。

「どうして私が関係あるんですか?」
「言ったはずよ。私は妖怪の山が憎い。そこに居る妖怪が憎いってね。だから貴方を苛めるために話に乗った、それだけよ」
「………どうしてそこまで憎いのですか?」
ぴんと張り詰めた空気が寒空のために余計に痛く感じる。
いつまで続くのかと思っていると、この空気を作った当事者であるレティはふわりと浮き始め、この場から立ち去ろうとしていた。

「…天魔にでも聞いてみなさい。もっとも喋るかどうかは知らないけどね」
「……わかりました」
文の返事を聞き、彼女は立ち去っていった。
寒さだけを残していき、四人と今だ目が覚めない椛は阿求の家に戻ろうとしていた。
飛び立とうとしたその時、よく見知った人物がこちらに向かってきた。

「霊夢さん?」
「あんたたちだったのね」
この寒空の中、防寒具はマフラー一つの博麗 霊夢であった。
ぽすっと地面に着くや、

「とりあえずこの異変はあんたらで良いの?」
「異変?」
尋ねられた妹紅は首を傾げた。
周りを見渡すと人里にたくさんの氷が残されていた。
弾幕ごっこの残滓である。

「ああ、ああ。確かに言われたら異変だな、こりゃ」
「なるほどな、夢中になっていたから気づかなかったな」
「と言う事は私たちが異変を起こしたということになるんでしょうか?」
「それを私が聞いているの。で、話してもらうわよ。場合によっては、退治しなきゃいけないし」
めんどくさいけど、と本音を洩らしていたが一応臨戦モードに移っていた。
それを見て、あわてて阿求が説明しだした。

…………

「………と、言うわけなんです」
「なるほどね」
ここで起こったことに呆れたのか、霊夢はぽりぽりとこめかみの辺りをかいていた。

「とりあえず、まあ、退治はしないでおきましょ。めんどくさいしね」
「よかった。ありがとうございます」
とりあえず退治されることを逃れた、阿求たちはほっとしたが、

「で、この氷の山はどうするの?言っておくけど私は知らないわよ、どうなっても」
そう、まだ弾幕ごっこの処理が残っていたのであった。

「ああ……えっと、どうしよっか、慧音?」
「どうしましょう、慧音さん?」
「あはは………困りましたね、慧音さん?」
「うむ。困った」
すがるように三人は頼りになる知識人を見たが、当の本人は本当に困っているのか、首をかしげている。

「やっぱり何とかならない?」
「………やって出来ないことはない」
「本当ですか?」
可能性がありそうな発言をした慧音に文は喜んでいた。

「で、どうするんですか?」
「喰う」
「…………………………………へ?」
なんかすごい事が聞こえたので、文、妹紅、阿求は固まってしまった。
霊夢だけは気だるそうに事を見ていた。

「あの、本気………でしょうか?」
「本気だ」
「あのさ、慧音の冗談は時々分かんないんだよ。本気か冗談か。今回は冗談……だよね?」
「まあ、まかせろ」
そう言って、慧音は人里の方に歩みを進めた。
流石に拙いと思ったのか三人は引きとめようとする。

「ま、ま、待ってください。と、とりあえず落ち着きましょう!ね、ね?」
「そ、そうです。みんなで考えれば何か案は思いつくはずです」
「だからさ、慧音が喰うなんて早まるな!」
「?何を言っているんだお前たち?」
そこには純粋そうに、言っている意味が分からないと疑問に思っている慧音がいた。

「え、だって喰うって言ったんじゃ……?」
「確かに喰うとは言ったが、私が喰うとは言ってないぞ?」
「じゃあ、誰が?」
もしかして私たちか、と思いながら慧音の様子を見ていた。
慧音はまた地面に片膝を着き、手を着いて何かを唱えた。

すると人里にある家の壁や広場が大きくあけたではない。
何をあけたって?



「口」ですよ。



「うわっ………マジ…かよ」
「す、すごい…ですよね?」
「ええ、こ、これは記者生活の中で一番のスクープかもしれません」
三人は間近で家たちが氷を喰っていることにぽかんと見ていた。
霊夢だけがへぇ~、便利ね、とおもいながら見ていた。

…………

「取り合えず終了だな」
処理が終えた人里は満腹になったのか、徐々に薄くなり消えていった。

「これで元通りに戻ったわけだが。どうだ霊夢?」
「ん。確かに。じゃ、私は帰るわ」
そう言って霊夢は博麗神社へと戻っていった。
何しに来たのだろうか、彼女は。

「さて私たちも戻るとするか。うん、どうしたお前たち?」
「いや、あのなんて言えば良いか…」
「あの~これを使えば、昔起こった『幻想郷冬幻郷異変』の氷も処理できたのではないでしょうか?」
「それは無理な話だ。何せこれが出来るようになったのは、あの異変が終わったあとなのだからな。もしまたレティがあんなことしたら、という時のためにスペルの改良を思いついたのだ。今回役に立って良かったよ」
「…………」
三人は言葉が見つからず、ただ慧音を見ているしかなかった。
けれど…

(((どうしてそんな発想が出来るのだ!?)))
ただ考えていたことは同じだったようだ。
この知識人、一筋縄ではいかなさそうだ。



………
……

 


「ああ、やっと戻ってこれたぜ」
「そうだな。とりあえず疲れたな」
二人は思いのままに体を伸ばしていた。
するとふすまが開き、文と阿求が戻ってきた。

「お、あの天狗はどうだった?」
「はい、特に命の危険ははないそうです」
「今は別室で眠っていますよ」
「そうか、それは何よりだな」
ふう~、と盛大なため息を吐いて阿求たちも腰を落とした。

「では、改めまして。今回皆さんのお陰で良い調査が出来たことを心から感謝を述べたいと思います。本当にありがとうございました!」
ぺこりと礼儀正しくお辞儀した阿求に三人は照れながら、笑っていた。

「よせやい。照れるだろう阿求。当然のことをしたまでなんだからな」
「その通りだ。私たちは阿求殿の友達だ」
「だから、そんなに改まらないで下さい」
「…♪はい!」
さっきの弾幕ごっこ中、心配そうに泣き出していた阿求の顔が、そこにはなかったことに慧音はひとりほっとしていた。

「で、今回のレティなんだけど、もちろん『大妖怪』になるよな?」
「そうですね。まさか私たち三人相手に平然と戦っていましたからね」
「実際、危なかっただろうな。あのまま二人が来てくれなかったら私は氷の山に潰されていただろうな」
(((それはない!!!)))
口には出さないものの、さっきのあの光景を見る限りだとそう思えなかった。
余談ではあるが、家の主も含めて三人は阿求の家に入るとき、おっかなびっくりで入ったのであった。
もちろん慧音を先頭にして。

「ま、まあ、皆さんの意見は同じということで……」
いつの間にか阿求は仕訳表を取り出すと『大妖怪』の欄に『レティ=ホワイトロック』と書いた。

「…こういうことになりました!」
三人から拍手され阿求は照れながら、仕訳表を見せていた。

「とりあえず、終わりましたね」
「ああ、やっとだな」
「感無量ってやつだね」
しみじみと思いを呟き、阿求の方を見た。

「最初は私の我侭から始まったこの調査。色々な人から調査対象者の方の歴史を教えてもらい、意義深いものだったと思います。もし私一人であれば、ここまで込み入ったことは出来なかったと思います」
一度言葉を区切り、周りを見回した。

「本当に感謝の気持ちでいっぱいです。もうそれ以上の言葉は出ません!」
感極まったのか阿求は目にうっすらと涙を溜めていた。
慧音、妹紅、文は阿求に近づき、そっと呟いた。

「「「どういたしまして♪」」」
笑顔が映えるこの部屋では冬を忘れさすような温かさで溢れていた。






















おまけ

ふよふよと漂っていたレティは時々痛む体に呻くも、楽しそうにしていた。
道中、雪が舞い散る雪原の中、傘をさしている誰かが佇んでいるのを見つけた。
誰かと思っていると、顔を見てしかめた。
しかしそれは一瞬のこと。
すぐにいつもの穏やかな笑みになっていた。

「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
声をかけてきた彼女の手前でレティは止まった。
何かを見透かすように傘の主の目を見ていた。

「そんなに見つめられると照れますわ」
「そ」
何も動かない世界で、雪だけがしんしんと降っていた。

「どうだったかしら、久しぶりの本気は?」
「気分が良かったわ。貴方を見かけるまでは、ね」
「……妖怪の山で暴れたんですってね?」
「ええ、そうよ」
何か文句でもある、と言わんばかりの空気をまとっていた。
反論できないのか、考え中なのか傘の主は何も言わない。

「天魔が嘆いていたわ」
「そ。それはお気の毒」
「頼まれた私は冬眠途中で貴方を探したわ」
「ふ~ん」
その返答に気にくわなかったのか傘の主はレティの胸倉を掴んだ。

「何、その手?」
「…………………」
「離してもらえるかしら?これ以上引っ張られると服が破れるんだけど」
素直に聞き入れたのか、直ぐに手を離した。

「……もう、許してあげて頂戴」
「何を?」
「妖怪の山をよ」
その言葉を呟いた途端、パァンと言う乾いた音が雪原に響いた。
このときばかりは彼女たちを邪魔しないように雪も避けて降っていた。

「よく言えるわね、そんなセリフが」
「…………………」
「行くわね。貴方の顔なんて二度と見たくないからこの季節が好きなのに」
レティはまたふわふわと浮きながら立ち去ろうとしていた。

「じゃあね、紫」
「…………」
紫はこくりと頷いたがレティはそれを見ずに立ち去っていった。
痛む頬を押さえながら紫はその場に蹲った。



………
……





それは誰にでも辛さ、苦しさをもたらす季節。
そんな季節だからこそみんなが力を合わせて生き抜こうとしている。
ある家では談笑が絶えず、笑顔が絶えず周りを明るくしていた。
けれどあるところでは一人さびしく蹲るものもいた。
両極端な生活をもたらすのがこの季節なのかもしれない。
それは人間にも並の妖怪にも『大妖怪』にも須らくである。

大と並の境  FIN……
お世話になります。
アクアリウムです

今回で無事(?)自身初のシリーズ作品『大と並の境』を終えることができました。
ちらほらと感想をいただいたおかげで、なんとかここまでくることができました。
感謝!!!

取りあえず登場キャラについて、レティさんがかなり強くなりました。
自然の妖怪なのでこれくらいはありかなと思いましたが、なぜかS気が混ざってきました。
……良いのかな?

これからも色々な人に「なるほど」と思えるように努力していきますので、そのときは宜しく。

また調査隊四人あるいはレティさんを書きたいなと思うアクアリウムでした。
アクアリウム
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コメント



0.880簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
チルノの保護者が主流のレティさんが、怖くて強い『妖怪』だったのが新鮮でした。
優しいレティは素敵ですが、殺伐としたレティさんも素敵です。

あとやっぱりレティさんの獲物は槍ですよね!
10.90ずわいがに削除
……およ? これはなんだかまだ続きがありそうな……
いやまぁ何はともあれ、シリーズ完結お疲れ様です。

妹紅・文・慧音と、まさかの三人をまとめて窮地に追い込んだレティさんはマジやばいッスね。
ていうか完全に悪役だよwwwもはや一人で異変起こしちゃったレベルだよwwww
大妖怪と呼ばれるからには大妖怪と言うだけの大妖怪でなければなりませんのね。
23.60名前が無い程度の能力削除
戦いの最中に匙を投げたら負けになっちゃうよ
この場合投げられるのはのは賽ですね、よく見かける間違いなので気をつけましょう。
内容は良かったですが大事な場面でのこの間違いに一寸がっかりでした。