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こんな命蓮寺~ねずみんきゅ~ぴっと~ 第3章

2010/02/25 17:49:29
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 この物語は続き物です。
 こんな命蓮寺~ねずみんきゅ~ぴっと~第1章 及び 第2章 の続きになっています。
 これ単体では楽しめないはずです。ご了承ください。
 また、第1章及び第2章をお読みになった方々はすでにご存知のことと存じますが、この物語には毘沙門天が登場します。重ねてご了承ください。





 「それではナズーリン、行ってまいりますね」
 「ああ、行ってらっしゃい。頑張っておいで」

 その朝、星は毘沙門天の元へ行った。週二回の講習会である。
食事に誘う云々は言わない。一から十まで毘沙門天自身にやらせないと意味がないと思うからである。草食系男子には、やはりそれくらいの勇気が必要だ。
 まぁもっとも、ナズーリンはこの時確信していたのだ。楽しい食事だけをして帰ってくるだろうと。そして、自分はあの毘沙門天をダメ門天と呼ぶことになるだろうと。

 「やれやれ……世話の焼ける……」

 毎度溜息の尽きないナズーリンである。





 さてさて、朝食も済ませて2時間ほどたち、命蓮寺の住民はいつもの修業に励んでいた。
 並んで座禅組んで、その周りを御師匠が棒持って徘徊するアレだ。当然棒を持つのは白蓮なのだが、あのエクステンデット腕力で振るわれる棒の威力は、棒自身が耐えられず折れるほどに凄まじいのである。

 ズバシッ!
 「―――うっぷすッ!」

 ほら殴られた。そしてもんどり打っているに違いない。
 声から察するに、しばかれたのは封獣ぬえだ。命蓮寺メンバーの中では一番の新参者で、その正体を判らなくする程度の能力を生かした悪戯大好きの妖怪らしい妖怪である。天の邪鬼な娘だが、割に修行には熱心であり、命蓮寺の家族にもそれなりの愛着を持っているとナズーリンは見立てている。要するに、ある種のツンデレなのだ。

 因みに憶測で物を言っているのは、もちろんナズーリンがその場に居合わせていないことが原因である。修行にいそしむ家族面々をしり目に、ナズーリンは屋根の上で物思いにふけっていた。
 皆こんなナズーリンに対し口をそろえて不真面目と言った。あのぬえさえそう言った。白蓮には一度南無三されかけたこともあったが、そのたびナズーリンはこう返すことにしている。
 「修行も何も、私は毘沙門天直属の部下であって、今さら君に教えてもらう事なぞ何があるだろう?」
 そんな会話を十数回繰り返したら、白蓮と星以外は皆黙認の姿勢をとるようになった。白蓮は住職の責任として。星は主の責任として。他の子たちにはいよいよ呆れられたと思っている。元々監視役だったナズーリンには、このくらい距離があった方が分相応だとも思っている。


 考える事には事欠かなかった。水蜜の視線が痛いのもある。星の前で毘沙門天が今頃教鞭を振るっているだろうと言う事もある。そして何より、

 「恋か……恋ねぇ……」

 ここ数日ナズーリンを悩ますこの病気の様なものである。
 一輪はナズーリンを、恋などしない人と言った。賢しいナズーリンには、恋を題材に哲学するのがお似合いだと。しかし、後でそれがその場を収めるための出まかせであり、本当はナズーリンの恋の悩みを聞く心積もりだったと判った。
 水蜜はいまだにナズーリンを恋のライバルと思っている。流石につけ回して睨む事はなくなったが、居合わせた時の視線はいまだに冷たく、言葉にも棘が見え隠れする。
 あと、エロ本云々で絡んでくることもなくなった。

 自分は恋などしない人。
 確かに否定できない。自分はけしてドライな人ではないだろう。いや、毘沙門天やこの命蓮寺の面々と関わるまではそう思い込んでいた事もあったが、今現在ドライな人などと自称しようものなら鼻で笑われるか目を丸くされるか、日付を確認された揚句4月1日でなければ南無三されるだろう。罪状は当然「嘘をついた事」となる。
 自分が存外情に厚い女だった事には驚きの毎日だが、それと恋とは違うのだ。ナズーリンはそこそこ世話焼きだが、その分そこそこ人を観察する。無論元は監視役である。それは一種の職業病だ。だからこそ、人の悪い所もそこそこ見えてくる。

 例えば星。彼女はとにかく迂闊な娘である。物をなくしたり、蹴躓いたり、道路の端の雨水を流す溝に足突っ込んだり、角に頭ぶつけたり、何かやれば何かで失敗する。それが星だ。
 また、星は真面目と言うより頭が硬い。よくよく凝り固まる彼女との議論ほど無為に終わる物も珍しいとナズーリンは思う。と同時に、教理だなんだと自分を縛りつけ、なんとも息苦しい生活を営むあの姿は、はっきり言って目の毒だ。
 ついでに彼女は下戸である。般若湯を断固許さないあの星に酒を飲ますには苦労したが、そしてその後数日口をきいてくれなかったが、星はとんでもない下戸である。酔わせてみたらどうなるかと楽しみにしていたのだが、何のことはない、一杯目で気を失うのである。流石にあれは焦った。
 ともかく、星はそんなダメな子なのだ。友人や家族としては愛すべきだが、仕えるには面白い人だが、そんな星に恋などと……って、自分は何を考えているのだろう?

 「ですがナズさん、それだけ星の悪い所を知っていると言う事は、同時にいい所もたくさん知っていると言う事なのですよ?」

 そして聖、貴女は何を言っている?

 「って聖!? 貴女いつからそこにいた!?」
 「そうですね、自分は恋などしない人のくだりからです」
 「なん……だと……!?」
 「ええ、お気付きかは知りませんけど、全部口に出していらっしゃいましたよ? 申し訳ないと思いながら、盗み聞きさせてもらっちゃいました♪」

 恥ずかしいからその手のカミングアウトは止めてください後生です。そして、

 「くすくす、それにしてもそうですか。お相手が誰かと思ったら、まさか星とは」

 その迷惑な早合点も止めてください後生です。

 「と言うか、自分で言ってておかしなことにお気付きになりません? 主に性別的な意味で」
 「あら? 存外古いお考えをお持ちなのですねナズさん。ですが私は、恋愛に性別や年齢など関係ないと思います」

 平等主義ここに極まる。

 「そして血縁も関係ないっと。さては聖、貴女初恋は弟さんなんてオチじゃ……」
 「……」
 「……」

 そこで顔を赤らめるのは止めてください後生です。



 「ともかく、私がご主人に恋などと、そんなものあり得ませんよ!?」
 「くすくす、恥ずかしがらずともよろしいのに」
 「恥ずかしがってない! そもそも私の初恋の相手は男だ!」
 「あらどなた?」
 「毘沙門天様だよ! ……っ!?」

 ……南無三。

 「あら、毘沙門天様に恋を?」
 「……ええ、そうですよ。ハンサムだし、私みたいな妖怪ネズミにもお声をかけて下さるようないい人だし。だから部下になったんだし……」
 「情熱的なのですねぇ」
 「いや、あの美丈夫に一目惚れをしない女などいません。いるとしたら生粋のレズビアンくらいの物ですよ? ともすればレズビアンを異性愛に目覚めさせるかもしれないくらいでして…」
 「ベタ惚れですね……でも初恋? 今はもう恋心を抱いていないと言う事です?」
 「そりゃあ……いや、唯の憧れみたいなものですよ? アイドルの追っかけとか、絵本の勇者様に憧れるみたいな……つまりあれです、そんな恋だなんていう様なものでもなかったと言いますか……」

 元よりその想いを成就させる気があったかと言えば、当時からまったくなかった。毘沙門天は雲の上の人だったのだ。


 例えば星の様に、夫婦に憧れるような事など一度もなかったわけで。


 それに、もう数千年来の付き合いである。初め抱いた初々しい恋情などすっかり薄れ、今抱いているのは敬愛か、それとも親愛か、そんなところだ。

 「そして今は、星に想いを寄せていらっしゃる?」
 「だからなんでそうなるのかと……」
 「だって、思い返せばそんな気がしてくるんですもの。ナズさんはいつも星を気にかけていらっしゃいますし」
 「そりゃ何時しくじるか判ったもんじゃないですし」
 「いつも星を目で追っていらっしゃいますし」
 「そりゃ何所でドジ踏むか判ったもんじゃありませんし」
 「それにナズさん、ご自身でお気付きかは知れませんが、星を見るときとても優しい目をなさるんですよ?」
 「それはあれです。馬鹿な子ほど可愛いと言うじゃありませんか」
 「……」
 「……」
 「ナズさん、常々感じる事なのですが、強情な方なのですね」
 「あははははは、貴女に言われたくないな聖」

 なぜこの住職はこうも熱心に「星×ナズ」をプッシュしてくるのだろう? アレか? 百合が好きなのか? 平等主義なんじゃなくて、単に百合が好きだっただけか?

 「いえ、そうではないですよ? ただ、色恋の話はいつの時代も女の子の大好物なのです」

 きっと突っ込んではいけないんだろう。主に年齢とか。

 「って言うか、それは私の交友関係に首突っ込んで楽しんでるってことじゃ……」
 「あ、そうとも言いますね」
 「無礼を承知で、あえて言わせていただくのですがね聖、お前それでいいのか?」
 「いいのです。ナズさん、貴女は私にとっては毘沙門天様から遣わされた使者であり、志を同じくした友であり、同じ寺で過ごす家族なのですから、悩みがあるなら遠慮などせず話してほしいだけなのですよ?」

 友や家族と言ってもらえるのはうれしい。一輪もそうだし、あの水蜜も本当はそうなのだが、この命蓮寺の面々はそろってお人好しばかりである。ヤツらが妖怪だなんて事をときどき本気で忘れるナズーリン、大変ありがたい事とも思うのだが、

 「本当にそんなんじゃないですから。御気になさらずとも結構ですよ?」

 気を使うならばこそ、今は首を突っ込んでほしくないのだ。

 「……本当です?(ジト目」

 そして引いてくれないのもまた白蓮である。心底助け船が欲しい所、

 「あ~、ゲフン! 姐さん、少しよろしいですか?」

 助け舟ktkr!

 「一輪? どうかしました?」
 「姐さん、ここは切り口を変えてみましょう。ナズ? なぜ貴女は星への想いをそうも押し留めようとしているのです?」

 助け舟じゃなかった! しかもすでに色々と決めつけられてるっ!




 「ええっとですね……ご主人、つまり星が今毘沙門天様のところに居るのは御存じ?」
 「いや、それはもちろん存じ上げておりますけれど」

 結局白状することになった。いや、ナズーリン自体何を白状すればいいか判らないが、とりあえず疑いを晴らす根拠を提示することにした。
 何の疑いか? もちろん星×ナズについて云々。

 「ええと……その星が実は毘沙門天様に想いを寄せていらっしゃると聞いたら?」
 「サプライズですね」

 そう、サプライズ。
 師弟関係や上司と部下など、近しい上下関係が恋愛に繋がるなど、割と使い古された感のあるシチュエーションである。しかも、今回はなんと相手が神なのだ。
 ナズーリンはそれを知っている。つまり、もし仮に星に想いを寄せているとしても、それは横恋慕であると言う事で、賢しいナズーリンはそんな馬鹿げた勝ち目のない恋愛をしないだろうと言う認識に訴えるのである。これが根拠その1。

 「で、その毘沙門天様から、恋の悩みを相談されてるって聞いたらどう思います?」
 「すごいじゃないですかナズ! それで、どんな内容なんです!?」
 「えらい食いつきだね一輪……それで、その内容なんですが……」
 「「内容は!?」」

 固唾をのむ聖職者二人。ホントにお前らそれで良いのか? いや、悪くはないか。

 「ええ、口外はよして下さいよ? ええと、星と恋仲になるには、どうすればいいかなどと……」
 「「……」」

 あんな神だが、ナズーリンは毘沙門天を尊敬し、愛している。そんな毘沙門天から星への想いを相談されているのである。実は割と情に厚いナズーリンの事、その毘沙門天を裏切ってまで星を手に入れようなどと思うだろうか? これが根拠その2。

 「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
 「耳痛てぇ……」
 「し、失礼しました。え? ナズ!? それは本当!?」
 「いやね一輪、こんな馬鹿な嘘を君ならつくか?」
 「つきませんけど、え? つまり姐さん、これは?」
 「そう……ええとですね、これはつまり、二人……は?」
 「見事に両思いだね。お互い片思いですがね」

 つまり、二人の関係はすでに半ば完成しているのである。後は、想いを伝え合うだけで完結する話なのだ。そして、それを知って、それを支援する立場にあるのがナズーリンなのである。これが根拠その3。

 「「つまり貴女は、愛する人のために想いを断ち切ろうと……っ!」」

 なんでそうなる?

 「違いますよ。私は二人を応援する立場なのであってですね―――」
 「ああナズ……貴女はなんと……」
 「誠に深く……忠孝仁義である……っ!」
 「あの、御二人さん? 貴女方は一体何を―――」
 「ナズ……貴女の想い、よく判りました……意中の人が、初恋の人に恋をして……それを応援するなどと……なんと惨い仕打ちっ!」
 「お辛いでしょうナズさん……もうなにも訊きませんっ! 私の胸の中でお泣きなさいっ!」
 「……いや、まぁ話がここで終わるんだったら、他はどうでもいいよこの際……」

 なんだか二人の中では運命の三角関係みたいな構図が出来上がってしまっているようだが、この際そのままにして置くことにしよう。何やら訂正するのも面倒だし、放っておいてもそのうち毘沙門天と星がくっついたら意味の無い話となるのだ。

 「……ってことはナズさん、貴女バイセクシャルだったってことですか?」

 だから、この不名誉極まりない言いがかりだけは全力で否定しておくことにしよう。






 さて、昼食も済ませて2時間ほど経ち、参拝客がちらほらやって来る以外は、いつもの様に平和な午後である。ナズーリンはやることもなく、部屋でごろごろしていた。
 いつもこの時間帯は失せ物探しに奔走しているのだが、今日という日はその依頼主が出払っているのだ。
 因みに先ほどの2人は、何のことはない、ナズーリンを昼食に呼びに来ていたらしい。朝からずっと屋根にいたから、それほど長く物思いに没頭していたのかと驚くところである。先に呼びに行った白蓮がいつまでたっても帰ってこないものだから、一輪が呼びに向かって、そしてああなったのだ。
 「まさにミイラ取りがミイラになったね……」
 と呆れたようにぬえは言った。食事がすっかり冷めて申し訳ないが、言い得て妙である。



 「そろそろ良い時間かな?」

 懐から懐中時計を取り出し―――以前失せ物探しの折に、人間の里の道具屋で衝動買いした物だ―――時間を確認する。そろそろ毘沙門天の授業も終わり、星が帰路につく頃だ。
 否、今日は例外。毘沙門天が星を夕食に誘っている頃だろう。
 夕食までに時間があるが、その時間もお近づきになるいいチャンスだ。散歩などと銘打って、どこか景色の綺麗なところにでも連れて行けばいい。
 ……というのは1時間ほど前トイレ休憩の折にこっそり電話をかけてきたらしい毘沙門天にしてやったアドバイスである。
 全く、ギリギリまでヘタレである。あの1000年寺に通い続けた日々を思い出せばいいのだ。

 「やればできる人なんですから……って、公務手伝わせたりしてないだろうな……」

 星が提案しそうな時間のつぶし方である。もしくは、夕食まで勉強再開とか……
 ものすごく不安になってきた。ここは釘を刺す意味も込めて毘沙門天に連絡を入れて―――

 「あら、御帰りなさい星。……星? どうかしました?」

 一輪の声がする。何だって? 星?

 「ご、ご主人?」

 廊下に顔を出してみる。と、丁度通り過ぎる二人である。

 「星? どうしたの星!? 待って、何があったの? 星!?」
 「―――すみません」

 何があったと言うのだ? 終始うつむいたままの星は、ただいまも言わず部屋に閉じ籠ってしまったのだ。

 「一輪! ご主人が帰って来たのか!?」
 「あ、ナズ? ええ、つい今しがた。ですが、何があったんです? 帰って来たと思ったらあんな……」

 これは予想外。そのまま帰ってきたという事は、つまり食事にも誘えなかったという事かあのダメ神は? いや、ダメ門天は?

 「それに、あの子泣いて……」
 「―――っ!? それは本当に!?」
 「え? え、ええ、だから何があったかと……」

 これはいよいよ深刻である。まさかあのダメ門天、何か遣らかしてしまったんじゃなかろうな。いや、遣らかしてしまったから星が泣きながら帰ってきたと言うのか。

 あの馬鹿が世話の焼ける……

 「どうしましょう? 聖を呼んだ方がいいのかしら?」
 「いや、聖はいい。私が何とかしよう。一輪はすまないが」
 「……分かりました。星をお願いします」

 流石一輪、理解が早くて助かる。
 去っていく一輪を見送ったら、さて、どちらから片付けようか?

 「……とりあえず、ご主人からだな……」

 ついでに詳しい事情を聴くとしよう。ダメ門天への説教はその後からでも遅くはあるまい。





 「と言う事でご主人! 入っていいかい?」

 ……

 「ご主人! ごっ主じ~ん! 入ってもいいかい?」

 ……返事がない。ただの(ry

 「……OK、この際勝手に入るが、恨んでくれるな」
 「入ってこないでっ! 1人にしてくださいっ!!」
 「……あ~すまない、もう入ってきてしまったね」
 「1人に……してください……」

 返事がないから、不貞寝でも始めたかと思ったのだが、違ったらしい。
 座布団も敷かず座り込んで、何やら本当に泣いていた様子。

 「うん、単刀直入に訊こう……何があった?」
 「……」
 「……ご主人?」
 「……何でも、ありませんっ……」

 いや、ないわけがないだろう。

 「話してくれないのなら、聖あたりを呼ぶしかないがいいかい?」
 「なんでもないですっ!」
 「OK、呼んでこよう」
 「まってっ!」
 「……」
 「……」
 「……話してくれるね?」
 「……はいっ……」

 白蓮を引き合いに出せば、星も従うしかないだろう。聖に余計な心労を負わせるわけにはいかないと考えるに決まっているからだ。卑怯なようだが、こちらも手段を選ぶ暇はない。






 意外な話だが、毘沙門天は星を食事に誘ったらしい。その上時間つぶしに散歩(と銘打ったデート)の誘いもできたようだ。流石は毘沙門天、やる時はやる男である。
 しかし、問題は星の方にあった。デートの誘いを受けて、逃げるように帰ってきてしまったのだと言う。
 南無三。これはあまりに予想外だ。毘沙門天のヘタレ度合いばかりが目について、星の想いを完全に失念していた。

 逃げてきた理由は単純だった。星が真面目で信心深いからである。そして、毘沙門天をそれほど強く愛していたからだろう。
 毘沙門天は神で、星は妖怪だ。星は立場上、自らが妖怪である事を隠して生きてきた。おっちょこちょいなあの子である。ボロを出さないよう、いつもかなりの神経を使って生活をしている。だからこそ、自分が妖怪であるという自覚が、自分は神とは違うと言う自覚が人一倍強いのである。
 白蓮や毘沙門天本人がそれを聞けば、気にするなと言うだろう。それこそ某チャー研の魔王のように。妖怪と神の差など、人間の認識の差にすぎないのだと説くに決まっている。しかし、生真面目な星にはとても無視できる問題ではないのだ。それこそ、まさに某魔王の気にするなのセリフの様に。
 身分違いの恋。いや、星の立場で言えば禁断の恋か。届かないと思うからこそ、一層強く想ってしまう。そして、それが許されざる、恐れ多い劣情と断じるからこそ、ついにそれが耐えられなくなり、

 「貴方の元から逃げてしまったという訳だ。それがこの度の事の真相ですダメ門天様」

 通信機の向こうの毘沙門天は言葉もないらしい。
 星の話を聞いて、毘沙門天への説教に移る。マナーモードにしていた通信機を確認すると、着信履歴に毘沙門天の名が並んでいるのだから少し笑った。

 ナズーリンも星の口からこの話を聞いて、かける言葉が見つからなかった。馬鹿馬鹿しいと笑えばいいのか、一緒に泣いてやればいいのか、一発芸でもすればいいのか……しかし、そのすべてが恐らく無駄である事を、ナズーリンは知っていた。自分には星の涙を止める力がない事を知っていたのだ。

 「ええダメ門天様、重ね重ね無礼を承知で、あえて言わせていただくのですがね。

 ……何故引き止めなかった! 貴方は、本当に、馬鹿だなっ!!」

 そう、星の涙を止める事が出来るのは、毘沙門天しかいないのだ。あの1000年の日々も、今日この日も、何も変わらない。毘沙門天がしっかりしてくれなければ、星はあのままダメになってしまうのだ。

 「だのに何を呆けてっ! 貴方も判ってらっしゃるでしょうに! 星は、貴方をあんなにも慕っているのですよ!? なのにあの子は自分から壁作って、その中で勝手に苦しんでっ!!」

 あの日々もそうだった。星は昔からそんな子なのだ。裏切り者の烙印が、身分違いの劣情に代わっただけで、それを取り除いてやる事が、自分にはどうしてもできなくて、

 「その壁を壊してやれるのは、毘沙門天様、貴方しかいないんですよ!? 貴方だけなんだ! 私には、できない! 聖にも、一輪にも、船長にもぬえにも、雲山にだってできない! 貴方にしか……できないんですよっ!?」

 それが物凄く情けない。そして悔しい。涙が出る。ああ、そうだ。昔もこんな感じだったんだっけ。泣いている星を見ていられなくて、星には笑っていてほしくて、できる事は全部やった。全部やって、全部無駄で、泣きながら毘沙門天に助けを求めたんだ。
 そう、ちょうど、

 「お願いします……毘沙門天様っ……星を、星を助けてやってください! 私には、どうしようもないんです……もう、どうしようも、どうすればいいかも、判らないんですっ!」

 ちょうどこんな具合に。
 そしたら……


 すまないナズ。私が情けなかったな。判った。もう一度話をしてみよう。今度はしっかり捕まえて、もう星を逃がさないようにするよ。
 だからナズ……毘沙門天の名において、ここに命ずる。我がもとへ来るよう、直ちに寅丸星に伝えよ。


 「……畏まりました。直ちに」

 こうして期待に答えてくれた。



 星を説得して、毘沙門天の元へ送り出した。もちろん尻込みもしたし、寺中の皆が何事かと駆けつけるほど大泣きもしたが、それが毘沙門天の命令とあらば逆らう訳にもいかないのである。

 そしてその日、星は毘沙門天の元から帰ってこなかった。
 次の日も、そしてその次の日も。
 計三日間、星は帰ってこなかったのだ。







 「へぇ、聞き分けがなかったからキスを? しかもフレンチで? それ状況によっちゃ通報ですよ毘沙門天様? ……で? そりゃ受け入れるでしょうね……あ~ははは、御馳走様です」

 後日、恒例の定時報告のついでに、毘沙門天から事の顛末について聞き出してみた。
 

 つまり、こう言う事だ。とりあえず到着した星が逃げだした非礼を土下座して謝ろうとして、毘沙門天がそれを止める。
 呼び出した用事はそれではないと言ったところ、その真剣な眼差しから何か感じ取ったらしい星がまた逃げようとして、しかし毘沙門天は逃がさず、がっしり捕まえた後はそのまま抱すくめて、お互いに息がかかるくらいに顔を近づけてこう言った。

 ―――星、今まで言った事はなかったが、私はお前を愛している。

 そのまま求婚のセリフを口にしようとしたところで、星がこう言った。

 ―――ダメです! そんなのダメですっ!

 いやいやと首を振り、涙を流しながら、耳まで塞ぐ始末。

 ―――私は妖怪で、毘沙門天様は神で、そんなのんむぅ―――

 で、埒が明かないからキスをした。しかもしっかりフレンチキスで。星も弱弱しく抵抗してはいたのだが、口内に侵入してきた毘沙門天の舌が自分の舌を捕まえてしまったあたりで抵抗しなくなって、その後しばらくキスを堪能する。二人とも興奮しだして、息止めてするものだから、苦しくなって口を離してはまたキス、離してはまたキスの繰り返し。次第に星もえらく積極的になってきたところで、星が不意にこう切り出した。

 ―――私は、妖怪なんです……身分違いで……でも、私は、びしゃ様(注:プライベートの呼び名)をお慕いしております……もう、どうしたらいいか……判らない……

 ―――ならばよい。今は判らなくとも、それを導いてやるのが今の私の使命なのだ。

 で、またキス。
 そうしている内にいつの間にかベッドの上で、星を押し倒していて、むにゃらむにゃら……
 お前ら、夕食はどうした?


 なるほど、大体は帰って来た星に白状させた内容と一致している。ただ、星の証言の方は少々毘沙門天をカッコよく脚色し過ぎのきらいがある。まぁ、それはあれだ。愛ゆえにだ。

 「なにはともあれ、おめでとうございます。まぁ、一応星の懸念も一理あります。これから暫くは方々からいろいろな目を向けられることになるとは思いますが……なんですって? 星を神にする?」

 曰く、神とは人に神と慕われる者を言う。現人神というのも、神と慕われる人間である。
 自分が妖怪だから負い目があると星が言った。なら星が神になればいいのだと毘沙門天は言う。その為に、手を取り合って頑張っていくのだと。
 そう、こんな人だから、星の笑顔を導く事が出来るのだ。

 「毘沙門天様、星をどうぞ、末長くよろしくお願いいたします……はは、言われるまでもありませんでしたか? ……ええでは、また明日。お休みなさい」



 命蓮寺の皆も、おおよそ祝福ムードを漂わせていた。星本人から事の顛末を聞いたりしたのはナズーリンだけであるようだが、星自身の漂わせる雰囲気で大方察しはつくのである。
 ナズーリン自身もこの千年ずっと抱えてきた問題がハッピーエンドに幕を閉じて、肩の荷が下りた感じがあった。途中星が泣いてしまったり、自分自身も久々に泣く羽目にあったりとひと悶着あったが、全てに決着がついてよかったと……

 「ねぇ、同士?」
 「……? 船長?」

 思っていたのだが……

 「最近ね、星がいつもニコニコして、幸せそうだな~って思うの。でもね、なんか、その理由が思い当たらないのよ。三日くらいずっと帰ってこなかった事があるけど、それかな~とか思ったりしてね」

 やはりというか、事情を察する事の出来ないヤツがここに一人。
 そう、重大な問題が1つ残っている事を、ナズーリンは思い出してしまったのだ。


 「ねぇ同士……何か、知らない?」


 毎度溜息の尽きないナズーリンである。
 まさかのバイセクシャル認定。ついカっとなってやった。だが後悔はしていない。

 お疲れ様でした。そして、お付き合いいただき、ありがとうございました。
 8作目になります。高機動型ユボン3号でございます。

 もう8作目か……早い物ですね……

 前回の約束の通り、ぬえちゃんも登場させましたよ! ……やっぱもの足りない?


 平安時代、貴族の間の結婚は、通い婚だったと言います。要するに、夫が妻の家に通うってやつですね。その上で、結婚を成立させる際に3日間連続で通い続けると言う通過儀礼がありまして……
 星は毘沙門天の元に3日間泊りました。通ったわけでもないし、性別も逆となりましたが……要するにそう言う事です。


 さて、本文にもありますように、星と毘沙門天の恋の物語には1つの決着を見る事が出来ましたが、この物語はまだ終わっておりません。
 星を本当に幸せにするために、ナズーリンにはまだ、やるべき事が残されています。

 水蜜には悪いのだけれど……

 この物語も、あと1章だけ続きます。
 よろしければどうぞ、お付き合いください。

 それでは、できればまたお会いしましょう。


 追伸:ご指摘にありましたミスを修正いたしました。
    ありがとうございました。
高機動型ユボン3号
簡易評価

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コメント



0.880簡易評価
2.100ぺ・四潤削除
「そんなのんむぅ―――」

いやっhhhhhoooooooooooooooooooooooooo!!!!
飯食うのも忘れてむにゃらむにゃらって何のことだ!!!
いい気分になってたのに船長自重しろwww
8.100名前が無い程度の能力削除
星ちゃんとダメ門天さま、おめww
これでハッピーエンドかと思えば、何か厄介そうなのが一人残っていましたねww
17.100謳魚削除
ダメ門天返上!

寅さん、幸せにおなり……。

でだ、水蜜船長、君は一体何をしている?

まぁナズさんが可愛いから良いかな……!